『ヘタリア大帝国』




                       TURN39  怪獣姫

 太平洋軍jは四国星域に着いた。その彼等の前にいる艦隊は。
「二十個艦隊です」
「そうか。流石にオセアニア最大の植民地だけはあるな」
 東郷はモニターからの小澤の報告を聞きながら述べた。
「それに変わった動物もいるな」
「カモノハシですね」
「あの動物も使いたいな」
 魚の様にだというのだ。
「できればな」
「マーライオン使えますか」
 小澤はその無表情で問うた。
「そっちのがっかりするものは」
「ああ、中々いいな」
 東郷は余裕の笑みで小澤に返した。
「ビームも協力だしな」
「それは何よりです」
「もう暫くは魚やそうしたものを使っていく」
 そうするというのだ。
「そしてマーライオンやカモノハシもな」
「使いますか」
「優れた艦艇ができるのはまだ先だ」
 そして普通に配備できる状況もだというのだ。
「その頃には新しい旗艦も配備されるそうだがな」
「新しい旗艦ですか」
「名前だけはもう決まっている」
「三笠とかですね」
「いや、大和だ」
 この名前をだ。東郷は小澤に述べた。
「平賀長官がつけた。既にな」
「あの長官のつけた名前ですか」
「大和は祖国さんの名前でもあるな」
「そうですね。大和は国のまほろば」
「その名前をつけるということはな」
「長官も自信があるんですね」
「そういうことだろう。それではな」
 東郷はまた言った。
「楽しみに待っていよう」
「そうしますか」
「とりあえずは作戦を遂行していく」
 今回の四国占領作戦についても述べた。
「オセアニアを全て独立させれば次は」
「ベトナムに」
「東南アジアも全て解放してな」 
 そしてだというのだ。
「次はインドだ」
「カレーですね」
 小澤はカレーの話も出した。
「カレー食べ放題ですね」
「そうだ。カレーを好きなだけ食べられる」
「実は私カレーが好きで」
 表情は相変わらずないがだ。それでもだった。
 小澤は声をうきうきとした感じにさせてだ。こう言うのだった。
「インド解放は楽しみで仕方がありません」
「カレーは毎日金曜日に食べるがな」
「毎日毎食カレーでもいいです」
 そこまで好きだというのだ。
「カレーパンにカレーうどんもです」
「本当に好きなんだな」
「カレー自体もチキンカレーにポークカレー」
 それにだった。
「シーフードカレーに野菜カレーも好きです」
「あの大阪の御飯と最初から混ぜているカレーはどうだ?」
「上に卵を置いているあれですね」
「そうだ。上からソースをかけて食べるな」
 そのカレーはだ。どうかというのだ。
「そのカレーはどうだ?」
「それも大好きです」
「本当にカレーならなんでもなんだな」
「カレーは銀河です」
 小澤はモニターからもわかる妙なオーラを放ちながら述べた。
「それを食べに行きましょう」
「そうだな。そうした意味でもな」
「この戦い勝ちましょう」
「ここでもベトナムでもな」
 日本軍の最大の目標はやはりインドだった。インド解放が今の最大の目標だった。エイリス細大の植民地を解放することを目指してだ。四国も攻めるのだった。
 その四国の植民地艦隊の配備と編成を見てだ。東郷は言った。
「ビームのみの編成の艦隊が多いな」
「はい、確かに」
 秋山が東郷のその言葉に頷く。
「しかも一箇所に集まっています」
「あそこには海亀を持っている南雲提督の艦隊とだ」
 ここでも南雲だった。
「それにエルミーの潜水艦艦隊だ」
「その二個艦隊だけを向けますか」
「エイリス軍に潜水艦は発見できない」
 東郷は確信を以て言い切った。
「そうした技術はない」
「それ故にですね」
「あの戦域は二個艦隊でいい」
「そしてですね」
「他の艦隊は全て敵の主力に向ける」
 そうするというのだ。
「ではいいな」
「了解です。それでは」
「さて。敵の主力もな」
 見れば植民地艦隊らしく旧式の艦艇が多い。その艦艇で編成されている艦隊を見てそのうえで言うのだった。
「やはり古いな」
「そうですね。本来は叛乱鎮圧用の艦隊ですから」
「侵攻に備えての艦隊ではない」
「だから編成も大したことはないのでしょう」
「そうだな。しかしだ」
「はい、敵はもうベトナムに入っています」
 エイリスの正規軍、彼等はだというのだ。
「ここで勝利を収めてもです」
「エイリス軍は侮れない」
「そう思います」
 秋山は鋭利な目で東郷に答える。
「では今から」
「攻めるとするか」
「はい、そうしましょう」
 こう話してだ。そのビームのみの編成の艦隊達には南雲とエルミーだけを回して主力は総督が率いる敵の主力に向けた。そうしてだった。
 その敵の主力に対してだ。太平洋軍はまずだった。
 動かなかった。エイリス軍を率いる総督はそれを見て首を捻った。
「あれ。攻めて来ないね」
「そうでごわすな」
「もうすぐにでも来ると思ったけれど」
「どういうつもりでごわすか?」
 オーストラリアも自分の乗艦の艦橋で首を捻っていた。
「攻めてこないでごわすか」
「どうなのかな。ただ」
 見ればだ。まずはだった。
 カモノハシ達は太平洋軍の攻撃を受けていた。東郷はそちらにも艦隊を向けていたのだ。
「戦闘ははじまっているね」
「そうでごわす。とりあえずカモノハシは」
「うん、いいね」
 総督はそちらの戦闘には関心を向けなかった。
「じゃあこのままね」
「敵が動かないのならこちらからでごわすな」
「いや、待とうよ」
 総督は攻めようというオーストラリアにこう返した。
「今はね」
「こちらからは攻めないでごわすか」
「うん。僕達は攻める必要はないから」
「守ればいいからでごわすな」
「勝つ必要はないんだ」
 守りきればいい。それだけだというのだ。
「だからそうしよう」
「わかったでごわす。それなら」
「うん、そういうことでね」
 こうした話をしてだ。総督は己が率いる艦隊を動かそうとしなかった。だがその間にだ。
 カモノハシ達は太平洋軍に捕らえられ別の戦域では。
 南雲は敵のビームが弾かれるのを見ながらだ。艦橋にいる部下達にこう言っていた。
「敵の攻撃が効かないっていうのはね」
「はい、やはりいいものですね」
「気分がいいですね」
「そうだね。いい感じだよ」
 こう言うのだった。
「だからね。このままね」
「はい、攻撃は我々が一手に引き受けて」
「そうしてですね」
「こっちは落ち着いて敵の艦隊を潰していくよ」
 見れば敵の艦隊は自分達の攻撃が無効化されているので焦りだしていた。そしてだった。
 陣形もその焦りのあまり乱れていた。その敵にだ。
 南雲は落ち着いて攻撃を繰り出す。ビーム、それにミサイルをだ。
 それで敵を倒していく。それに加えて。
 エルミーは潜るその中で部下達に告げた。
「今からです」
「はい、攻撃ですね」
「そうされますね」
「そうします。あの艦隊を攻撃をします」
 敵艦隊のうちの一つを見ての言葉だった。エルミーはその艦隊を潜望鏡から見ていた。その上での言葉だった。
「魚雷発射用意」
「魚雷発射用意」
 命令が復唱される。既に魚雷は装填されている。
 エルミーは自分で照準を合わせる。そのうえで。
 その艦隊を見ながらだ。潜望鏡にあるボタンを押したのだった。
 他の潜水艦達からも魚雷が放たれる。魚雷は敵艦隊に向けて一直線に進みそのうえで。
 炸裂し次々と炎に変えていく。敵艦隊が一個エルミーの手により崩壊した。
 太平洋軍は二つの戦域で順調に戦っていた。しかし。
 主力はまだ動こうとしない。エイリス軍の将兵達はその彼等を見ていぶかしみだした。
「どういうつもりだ?」
「何を考えているんだ、奴等は」
「ここで攻めて来ないのか」
「まだ来ないというのか」
「それなら」
 彼等は次第に攻めようと思いだした。だが、だった。
 総督は攻撃命令を出さない。彼は動かなかった。
 そのうえでだ。彼はこう言うのだった。
「動かないでいればいいからね。我慢していれば正規軍がベトナムからマレーに入るから」
 例え独立されていてもだ。そうしてだというのだ。
「太平洋軍を破ってくれるよ。僕達はここで待っていればいいんだ」
「ネルソン提督が彼等を倒してくれるのをですか」
「それをですか」
「うん。待っていればいいんだ」
 総督は落ち着いた声で言う。
「このままね」
「そうですか。では我々はこのまま」
「守りますか」
「そうしますか」
 エイリス軍の将兵達は総督の言葉に頷きだ。そしてだった。
 ここは守るのだった。戦局は主な戦域では睨み合いになっていた。
 その状況を見てだ。福原が東郷に言ってきた。
「このまま戦局が長引けばです」
「ベトナムから敵の主力が来るな」
「はい、そうなれば厄介ですが」
「心配しなくていい。そろそろだ」
「そろそろ?」
「今ハワイ方面は落ち着いている」
 それでだというのだ。ここで。
「それでちょっと動かしておいた」
「ハワイ方面からですか」
「ハワイ、正確に言えばラバウルからだ」
 その星域からだというのだ。
「動かしておいた。もうすぐ来る」
「ラバウルからこの四国までですと」 
 どれだけかかるかとだ。福原は言った。
「二月ですがしかし先月動いた艦隊は」
「ははは、例外はあるものさ」
「例外?」
「こうした時にはおあつらえ向きの奴がいる」
「それは一体」
「だからそろそろだ。来るぞ」
 東郷は余裕のある笑みで福原にまた言った。
「その時だ。攻めるのはな」
「そうですか」
 福原は首を傾げさせていた。彼女のその前でだ。
 エイリス軍は守りを固め続けていた。その彼等が急に浮き足立った。
「!?あれは」
「敵の後方に突如として軍が出て来たな」
 平良もその状況を見て言う。
「あれは田中提督の艦隊か」
「田中提督ですか」
「そうだ。あの編成は間違いない」
 平良は自軍の艦隊の編成を全て頭の中に入れていた。そのうえでの言葉だった。
「そういえば彼の艦隊はだ」
「そうでしたね。通常の艦隊の倍の速さの進軍速度でしたね」
 田中の用兵は迅速だ。それ故だった。
「その田中提督をこちらに向かわせたのですか」
「その様だな」
「私達だけで攻めるのではなかったのですか」
「戦力の全てを使って攻める」
 平良は戦争の常識の一つから話した。
「そういうことだな」
「そうですか。では」
「さて。田中提督は今敵軍を猛攻している」
 実際にそうしていた。田中はエイリス軍を後方から攻めていた。それはかなり激しい攻撃だった。その攻撃を受けてだった。
 エイリス軍は急に浮き足だった。総督もだ。
 急に後方に出て来た敵軍の攻撃を見てだ。こう言ったのである。
「まさかラバウルから!?」
「遠いでごわすよ」
「そうだね。すぐに来られる筈ないのに」
「けれど来ているでごわす」
 オーストラリアも狼狽を見せながら総督に話す。
「どうするでごわすか」
「後方に出て来た敵艦隊に艦隊を向けよう」
 すぐにだ。総督はこう判断を下した。
「そしてそのうえで」
「守り抜くでごわすな」
「そうしよう。このままね」
「ネルソンさんが来るまで」
 こうしてだった。総督は守る姿勢を崩そうとしなかった。田中の艦隊に迎撃戦力を向けた。だがここで陣形が崩れた
 東郷はそれを見逃さなかった。それでだった。
「今だ。全軍総攻撃に移る」
「今ですね」
「そうだ。今だ」
 そうするとだ。秋山にも言ったのである。
「今攻める」
「では今より」
「各艦隊はそれぞれの場所から突撃する」
 これが東郷の指示だった。
「全軍突撃だ」
「了解!」
「では!」
 太平洋軍は東郷の言葉に応えてだ。そのうえでだった。
 全軍で浮き足立ったエイリス軍に向かう。その総攻撃でだ。
 エイリス軍は総崩れになった。その自軍を見てだった。
 総督は難しい顔になりだ。こうオーストラリアに言った。
「もうこうなったらね」
「負けでごわすな」
「うん、してやられたよ」
 オーストラリアに対してまた言う。
「これはね」
「それでどうするでごわすか?」
「これ以上の戦闘は無駄な損害を出すだけだから」 
 それでだというのだ。
「降伏するよ」
「そうするでごわすな」
「君達は太平洋経済圏に入るといいよ」
 総督はオーストラリアに微笑んでこのことを勧めた。
「是非ね。そうするといいよ」
「総督さんはどうするでごわすか?」
「ううんと。どうしようかな」
 自分のことはだ。今一つわからないという感じだった。
「実際ね。ちょっとね」
「決めかねているでごわすか」
「うん、そうなんだ」
 このことをだ。総督はオーストラリアに話した。
「とりあえず連合国の軍人の人達はここを退去して本国に帰るということでね」
「日本とは中立条約を結んでいるソビエト経由でごわすな」
「うん、そこからになるね」
「エイリス軍は捕虜になるでごわすな」
「そうだね。ここでは直接戦闘になったし」
 それでだとだ。総督は述べた。
「仕方ないね。僕が指揮官として交渉にあたるよ」
「わかったでごわす」
「その時に捕虜になるよ」
 このことはもう絶対だった。指揮官としてだ。
「まあそれからだね。どうするか決めるよ」
「そうでごわすか」
「じゃあ。君達は元気でやってね」
 総督はオーストラリアに微笑を向けたうえで述べた。
「アボリ人の人達もね」
「怪獣姫もでごわすな」
「うん。あの人もね」
「わかったでごわす。伝えておくでごわす」
「じゃあまた。機会があればまた会おう」
「その機会がすぐだといいでごわすな」
「そうだね。そう願うよ」
 こうした話をしてだった。二人は今は別れた。総督はすぐに長門に降伏の要請を打診し東郷もそれを受けた。そうしてだった。
 両者は長門の士官室で会談の場を持った。降伏の話自体はすぐに終わった。
 それからすぐにだ。東郷から総督に言ってきたのだった。
「それで貴方のこれからだが」
「僕のですか?」
「そう。貴方は怪獣学の権威だと聞いている」
「いえ、権威とかそれは」
「違うと」
「ただ怪獣が好きなだけです」
 それに過ぎないとだ。総督は東郷に微笑んでこう答えた。
「それだけです」
「それならそれでだが」
「それでとは?」
「貴方を太平洋軍にスカウトしたい」
 エイリスの言葉も交えてだ。東郷は総督に話した。
「知っていると思うが我が国は大怪獣に悩まされ続けている」
「富嶽ですね」
「そうだ。それに貴方の政治家としての資質と人柄についても聞いている」
 こうしたことも見てだ。東郷は総督に話していくのだった。
「それもあってだ」
「僕を太平洋経済圏に」
「提督として加わって欲しい」
 こう言うのだった。
「頼めるだろうか」
「怪獣のことを研究していいんですね」
「是非そうしてもらいたい。提督としての仕事もあるが」
「提督としてもですね」
「残念ながら太平洋軍は今人手不足だ」
 このことは少し苦笑いになって言う東郷だった。
「だからだ。そちらも頼めるだろうか」
「そのことは。お願いがあるのですが」
「お願い?」
「はい、怪獣の研究を続けながらでもいいのですね」
 確認の問いだった。東郷に対しての。
「そうさせてもらっていいんですね」
「是非共。今言った条件のままだ」
 東郷は微笑んで総督に答えた。
「では。頼めるだろうか」
「はい、それでは」
 総督は微笑んでいる東郷に微笑みで応えた。こうしてだった。
 総督は太平洋軍に入ることになった。それを受けてだった。
 オーストラリアは総督を交えて東郷と日本にだ。このことを話したのだった。
「それで、でごわすが」
「はい、何でしょうか」
 日本がその彼に応える。
「これからのことでしょうか」
「いや、怪獣のことでごわす」
 言うのはこのことだった。
「この四国の大怪獣でごわすか」
「あの蜜アリに似た」
「名前はそっちにはややこしいでごわすな」
「申し訳ありませんが一度聞いただけでは」
 覚えにくいとだ。日本も言う。
「何はともあれその大怪獣がですね」
「そうでごわす。そのことでごわす」
「実は興味があることがある」 
 東郷がオーストラリアに言ってきた。
「あの大怪獣と共にいる怪獣姫だったか」
「知っていたでごわすか」
「怪獣は操れるのか?」
「ううん。他にもアフリカにもそういう話があるでごわすが」
「しかし操れることはか」
「間違いないでごわすよ」
「そうなのか。それならだ」
 どうかとだ。東郷は言った。
「その怪獣姫と話がしたいがいいだろうか」
「いいでごわすよ」
 異論なくだ。オーストラリアは快諾した。そしてだった。
 総督もだ。こう言ったのだった。
「じゃあ案内するね。四国にね」
「頼む。では行こう」
「それで富嶽のこともわかればいいのですが」
 日本にとってはかなり切実な話だった。
「ではその為にも」
「ああ、行こう」
 東郷は日本にも応えてだ。そのうえでだった。
 彼等は四国、その大怪獣が腹にしているその星に入った。そこは海が多い快適な星だった。そこに入ってだった。
 白い髪に眠りから醒めた様な緑の目、白い半裸の身体のあちこち、顔に至るまで赤い刺青を入れた見事な肢体の女が総督とオーストラリアに紹介された。女はその白い波がかった長い髪を触りながら東郷達に名乗った。
「トルカ」
「怪獣姫だったな」
「そう。怪獣と一緒に生きているの」
 その通りだとだ。トルカも東郷に答える。
「私もまた」
「そうか。ではだ」
「では?」
「君はどうしてあの大怪獣を統制しているんだ?」
「統制はしていないわ」
 トルカは抑揚のない、浮世離れした口調で答えていく。
「話を聞いているだけ」
「怪獣の話をか」
「そう。それで怪獣と話をしているだけだから」
「君は怪獣の言葉がわかるのか」
「言葉ではわからなくても」
 だが、だ。それでもだというのだ。
「頭の中で話をしているの」
「つまり心でか」
「そう。その中で」
 彼女は大怪獣と話をしているというのだ。
「そうしているの」
「そうなのか。それで怪獣を宥めているのか」
「あの子はいい子」
 トルカは怪獣、四国と共にいる大怪獣についてこう述べた。
「何もされないと怒らない。人間も他の動物達も大好き」
「では人間との共存もいいのか」
「共存?」
「一緒に暮らすということだ」 
 東郷はトルカが共存という言葉には首を捻ったので簡単に話した。
「それもいいのだな」
「いい。あの子は皆が大好きだから」
「それでなのか」
「食べるものは宇宙の塵で充分」
 銀河に無限に漂っているだ。それでだというのだ。
「ただここにずっといたい。それだけ」
「暴れるつもりはないんだな」
「何もされないと」
 かつてエイリス軍がここに来て不用意に攻撃した時の反撃のことだった。怪獣が暴れたのは記録、アボリ人の伝承も含めてそれはこの時だけだった。
「何もしないから」
「そういう怪獣もいるんだな」
「怪獣といってもそれぞれ」
 富嶽やエアザウナの様な大怪獣だけではないとだ。トルカは話した。
「あの子は大人しい」
「そうなのか。それでだが」
「それで?」
「あの怪獣はどうして生まれたんだ?」
 東郷は怪獣のルーツについてもトルカに尋ねた。
「そのことはわかるだろうか」
「それはわからない」
 トルカは表情を変えない。そのままのやはり何か別の世界を見ている顔での言葉だった。
「私も一度聞いたけれどあの子も覚えていない話」
「そうなのか」
「気付けばここにいて私達と一緒に暮らしていた」
 人間達とだ。そうしているというのだ。
「ずっとそうしていた」
「そうなのか。怪獣も覚えていないのか」
「そう。他に話すことは」
「いや、これでいい」
 充分だとだ。東郷は答えた。
「済まないな。色々聞いてしまった」
「いい。それで私はこれからは」
「ここにいて怪獣と共にいてくれ」
 彼女の仕事をだ。そのまま続けてくれというのだ。
「怪獣姫としてな」
「わかったわ。それじゃあ」
「かなりのことがわかったな」
 少しの話でもだとだ。東郷は言った。
「そうか。怪獣といってもそれぞれだな」
「そして意思の疎通ができますね」
「そのことはわかったな」
「ええ、確かに」
 日本は東郷とこうした話をした。しかしここでだった。
 トルカはだ。東郷と日本にこうも言うのだった。
「怪獣との話はした後で疲れるから」
「?そうなのか」
「疲労を感じられるのですか」
「そう。その時は」
 こうした話もするのだった。
「私はその後はしっかり寝ている」
「トルカは怪獣との話の後は一日は絶対に寝ているでごわす」
 オーストラリアもこう二人に話す。
「歴代の怪獣姫もそうしているでごわす」
「調べたところだとね」
 総督も話してきた。ここでだ。
「あまり休んでいない怪獣姫は短命なんだよね」
「怪獣との話はそれだけ消耗するということか」
「そうだね。普通の怪獣ならそれ程でもないみたいだけれど」
 それでもだとだ。総督は東郷に話していく。
「大怪獣ともなるとね」
「消耗が激しいか」
「そうみたいだよ」
「そうなのか。怪獣の大きさによって消耗も違うか」
「大怪獣は惑星単位だしね」
 普通の怪獣はとてもそこまではいかない。大怪獣達は特別だった。そして日本はここでこのことにも気付いたのだった。
「そういえば帝も」
「そうだな。富嶽を鎮められた後はな」
「かなりお疲れですから」
「大怪獣との意志の疎通は気力体力の消耗が激しいか」
「その様ですね」
 二人はこのことからだ。大怪獣との意志の疎通の困難さを感じ取ったのだった。
 それでだ。東郷はこう決断したのだった。
「この大怪獣には今後何があろうとも攻撃を加えない」
「それがいいでごわすよ」
 オーストラリアもこう応える。
「友好的な大怪獣でごわすからな」
「そうだな。しかも攻撃すればだ」
「この四国が危ないでごわすよ」
「そうだ。だからだ」
「それでいいと思うでごわす」
「人類と共存共栄できる大怪獣か」
 東郷はこのことをあらためて知ったのだった。そうしてだ。
 納得した顔になってだ。こんなことも言った。
「できれば。そうした怪獣ばかりになって欲しいな」
「うん、僕もそう思うよ」
 総督も東郷のその言葉に頷く。こうした話をしてだった。
 太平洋軍は四国の大怪獣に対しては一切手出しをしないことになった。彼とは共存共栄を目指すことになった。
 四国の話はこれで終わりオーストラリアと総督は太平洋軍に加わった。そのうえでだ。
 マレーの虎から次の攻略目標ベトナムに向かうことになった。だが。
 マレーとベトナムの境目を巡回していたマレーシアの艦隊がだ。突如として攻撃を受けたのである。
「左舷から敵です!」
「エイリス軍ね!」
「はい、騎士提督の旗艦が見えます!」
 モニターに白い流線型の戦艦が映った。それは。
「ヴィクトリーですね」
「ヴィクトリー。つまりは」
「はい、遂に来ましたね」
「ネルソン提督、来たのね」
 マレーシアも彼のことは知っていた。しかもだった。
 彼だけではなかった。そのヴィクトリーの横にいる戦艦は。
「戦艦イギリスです」
「イギリスさんね」
 国家の乗艦はその名前がそのまま使われているのだ。
「一緒に来ているとは聞いていたけれど」
「どうされますか、ここは」
「こちらは一個艦隊、相手は二個艦隊よ」
 このことをだ。マレーシアは言うのだった。
「しかも騎士提督にイギリスさんもとなるとね」
「勝てませんね」
「ええ、とても無理よ」
 マレーシアは冷静にだ。戦局を見極めて述べた。
「だからここはね」
「はい、そうですね」
「撤退よ」 
 すぐにだ。マレーシアはこの決断を下したのだった。
「戦っても勝てるものではないわ」
「では」
 こうしてだった。マレーシアはすぐに撤退にかかった。その時に機雷を撒くことを忘れなかった。その機雷を見てだ。
 イギリスはモニターからネルソンに対して言った。
「機雷撒かれたけれどどうする?」
「追撃ですか」
「ああ、マレーシアの奴は撤退したけれどな」
「これ以上私達に追われない為にですね」
「追撃するか?それでも」
 イギリスはあらためてネルソンに尋ねた。
「そうするか?」
「いえ、止めておきましょう」 
 ネルソンは気品と知性に満ちた微笑みでイギリスにこう答えた。
「マレーは最早敵地ですし」
「だからか」
「はい、敵の援軍が来る可能性があります」
「そうだな。下手に追うと危ないな」
「ですから。ここはです」
「これで帰るか」
「そうしましょう」
 これがネルソンの言葉だった。
「ここは」
「わかった。それじゃあな」
「マレーシアもあれではすぐに艦隊を修理しますし」
 マレーの虎には修理工場もある。それでだった。
「太平洋軍は全軍でベトナムに来るでしょう」
「決戦の場はここか」
「はい、そうなるかと」
「よし、それじゃあな」
 それならだとだ。イギリスは楽しげな笑みを浮かべてこう言ったのだった。
「日本を退けるか」
「今の時点で東南アジア、オセアニアの殆どを喪失しています」
「ああ、それも永遠にな」
 イギリスはネルソンの今の言葉には苦々しい顔で述べた。
「何処も独立してそれをな」
「ガメリカと中帝国に即座に承認されていますからね」
「あいつ等、同盟国の癖に遠慮しねえな」
「仕方ありません。同盟を結んでいるからといって利害が一致しているとは限りません」
「あいつ等な。同盟を結んでいてもな」
 どうかとだ。イギリスは己の乗艦の艦橋において苦々しげな顔で述べた。
「敵だからな」
「はい、彼等もまた太平洋経済圏の設立を謳っていますから」
「その為にはエイリスが邪魔だからな」
「植民地そのものが」
「だからな。あの手この手っていうかな」
「日本が殖民地を占領すればです」
 そしてそこを独立させれば即座にだというのだ。
「独立を承認しますから」
「何かな。それだとな」
「日本と彼等は共犯だというのですね」
「そうなってるよな。実際にな」
「それが太平洋での戦争の実態ですね」
 そうした意味でドクツとエイリスの全面戦争である欧州やアフリカとは戦争の性格が違っているのだった。
「生きるか死ぬかではなく」
「俺達を追い出す戦争だよな」
「そしてその太平洋経済圏の主導権争いです」
「日本とあいつ等のか」
「それが太平洋での戦争です。そして」
「俺達にとってはだよな」
「東南アジアやオセアニアの殆どを既に失ってはいます」
 残っているのはベトナムだけだ。そうなってしまっているのだ。
「つまり。太平洋及びインド洋での我々の戦いは」
「国力を守る為の戦いだな」
「そうなっています。植民地を守る為の戦いです」
「で、日本にしろあいつ等にしろだよな」
「ひいてはソビエトもですね」
 同じ連合国でも利害は本当に一致していなかった。その三国はだ。
 それぞれの理由でエイリスの植民地を独立させようとしていた。そうした意味で彼等と日本の利害は一致しているのだ。
「彼等はエイリスの植民地を全て解放させたいのです」
「そんなことされたらな」
「我が国は国力の殆どを失ってしまいます」
「欧州の一国に落ちるじゃねえか」
 そうなってしまうことは火を見るまでもなかった。
「ったくよ。あいつ等欧州には全然援軍を送って来ないしな」
「ドクツとの戦争による消耗も狙ってますね」
「殆ど敵じゃねえか」
「はい、そうした意味では明らかに」
「俺達で頑張るしかないか」
「ベトナムで彼等を抑えないとです」
「インドまで来るな」
 エイリス最大の植民地のだ。そこにだというのだ。
「若しもだ。インドの星域を全部失ったらな」
「はい、我々の植民地はアフリカだけになります」
「それにアラビアだよな」
「そうなってはです」
「俺達の国力は激減だよ」
 植民地に頼っているエイリスにとってはまさに死活問題であるのだ。
「今の時点でかなりやばいしな」
「その通りです」
「ベトナムもかなりの国力があるからな」
「失う訳にはいきません」
「頭が痛いぜ」
 イギリスは実際に頭痛も感じていた。今の彼の国の置かれた状況にだ。
「本当に何とかならねえかな」
「何とかしなければなりませんね」
「ベトナム防衛だな」
「そこで日本帝国を倒しましょう」
「決戦になるな、本当に」 
 イギリスの目が鋭くなってきていた。
「勝つぜ。絶対にな」
「先陣は私が務めます」
 決戦の際はそうさせて欲しいとだ。ネルソンはイギリスに述べた。
「それで宜しいですね」
「頼むな。あんたの艦隊はな」
「ビームバリアがあります」
「あの連中のビームは聞かないからな」
 それでだとだ。イギリスも言うのだった。
「まずそうやって連中の攻撃を防いで」
「私が彼等に斬り込み」
「俺も続くな」
 二人でこう話すのだった。
「そうするな」
「はい、では」
「俺は日本のことは知ってるけれどな」
 原始の八人同士としてだ。それは知っているのだ。
「強いからな」
「そうですね。そしてあの海軍長官も」
「決して馬鹿にできる奴じゃない」
 イギリスは東郷についても述べた。
「あっという間に東南アジア、オセアニアを併合したんだ」
「それは運だけで出来るものではありません」
「実力は確かだな。まあ運がいいのは間違いないな」
「運と実力が合わされば」
 それによってどういった反応が出るかもだ。イギリスはこれまで国家として生きてきた経験からわかっていた。
「とんでもない強さになるからな」
「それがあの長官ですね。そう」
 微笑の中で目を鋭くさせてだ。東郷は言った。
「私の好敵手に相応しいですね」
「俺もな。日本と戦えるのはな」
 イギリスもだった。腕を組んで楽しそうな顔を見せた。
「楽しみだな」
「そういえば祖国殿は日本と直接戦われたことは」
「ああ、今までなかった」
 このことをだ。イギリスはネルソンに話した。
「フランスの奴とは幾らでもあるけれどな」
「そうですね。あの方とは」
「一体どれだけ戦ったかな」
 イギリスもわからない位だった。
「けれど日本とはな」
「本当にはじめてになりますね」
「さて、ベトナムで防ぐか」
「そうしましょう。これ以上の敗北は我々の衰退に直結します」
 エイリスにとっても国家の存亡がかかっていた。それだけにだった。
 エイリス軍はベトナムにおいて太平洋軍を迎え撃たんとしていた。日英の第一の決戦が幕を開けようとしていた。


TURN39   完


                           2012・7・14



四国は無事に制圧完了と。
美姫 「いよいよエイリスと本格的な戦闘に入るわね」
次はベトナムかな。
美姫 「今の所、他国は動いていないみたいだしね」
ここからは厳しい戦いになるだろうな。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。



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