『ヘタリア大帝国』




                        TURN38  獅子団

 四国に艦隊を進める太平洋軍のところに二個艦隊が合流してきた。そして東郷の旗艦長門に二人の白い軍服の者が来た。
 一人は鋭利な顔の青年であり日本海軍の白い軍服の上に黒いマントを羽織っている。そして頭には制帽があり腰には日本刀がある。
 もう一人は長い黒髪を幾段にもさせた女だった。楚々とした外見は柳と白菊を合わせた様だ。黒い澄んだ瞳は真面目なものであり桜色の頬には奇麗な微笑がある。全体的に穏やかだがそれでいて確かな芯が感じられる。白い軍服に膝までのスカートだ。
 この二人がだ。東郷に敬礼をしてからそれぞれ名乗った。
「平良英語和です」
「福原いずみです」
「ああ、宜しくな」
 東郷は生真面目な感じの二人に彼のフランクさで返した。
「海軍長官の東郷だ」
「はい、ではこれからは」
 平良がその東郷に応えて言う。
「再び日本に奉職させて頂きます」
「頼むな。それとだが」
 東郷は二人に早速この話をした。
「二人にそれぞれ軍事顧問の話も来ている」
「俺の顧問になって欲しいんだぜ」
 韓国がモニターに出てきて平良に言う。
「そうして欲しいんだぜ」
「韓国殿のですか」
「今度韓国軍も設立するんだぜ」
 国家には軍が必要だ。特にこうした時代には。
 それでだとだ。韓国は言うのである。
「その顧問、実質的に責任者になって欲しいんだぜ」
「ウリからもお願いするニダ」
 韓国妹は東郷の傍にいた。当然日本や他の国家、提督達もだ。
「平良さんなら安心して任せられるニダ」
「それは少し」
「駄目ニダか?」
「私の様な若輩に務まるかどうか」
 こうだ。謙遜して言うのである。
「ですからこのことは」
「引き受けてくれないニダか?」
「はい。私に韓国殿の顧問が務まるとは思えません」
 謙遜はそのままの言葉だった。
「ですから」
「いや、平良さんでないと駄目ニダ」
「その通りなんだぜ」
「どうか引き受けて欲しいニダ」
「本当に頼むんだぜ」
 二人は自分達に優しく公平な平良を人間としても好いていた。それでだ。
 何とか顧問になってもらおうとする。その彼等の言葉を聞いてだった。
 東郷がこう言ったのだった。
「後で正式に帝から辞令が下る」
「帝からですか」
「そうだ。これは福原提督もだが」
 彼女も見ながらだ。東郷は話す。
「帝から正式に韓国台湾両国への軍事顧問就任の辞令が下る」
「私もですか」
「ああ、そうだ」
 東郷は福原にも話した。
「だからだ。宜しく頼むな」
「わかりました。帝のお言葉ならば」
「喜んで受けさせて頂きます」
「では我々はこれからは軍事顧問としてもです」
「奉職致します」
「頼むな。諸君等にはこれから働いてもらわないといけない」 
 今の日本の状況ではこれは絶対のことだった。
「宜しくな。ただしな」
「ただし?」
「といいますと」
「これからエイリスの植民地の一つ四国を攻めるがな」
 東郷が言うのはこのことだった。
「あそこはかなり緩やかにしてもだ」
「植民地の良民を虐げる不埒なエイリスの貴族共ですか」
「気持ちはわかるが連中をみだりに成敗しないことだ」
 特にだ。平良を見ての言葉だ。
「理由はわかるな」
「反省しております」
 東郷も多くは言わず平良も多くは言わなかった。
「あの不始末。自責の念に耐えません」
「わかっていてくれればいい。貴族達はその都度憲兵達で何とかする」
「それは任せろ」
 山下もいた。山下は既にその手に剣を持っている。憲兵隊は陸軍の管轄なのだ。正義感が強いことで知られている連中だ。
「私の方で成敗しておく」
「あの、長官もです」
 秋山は少し困った顔でその山下に述べた。
「もう少しご自重を」
「私は常に己を律しているつもりだ」
「ですから。確かにエイリス貴族達は不埒ですが」
「成敗するのも道理だ」
「いきなり後ろから報復テロを受けることも考えられます」
「その様なものに私は屈しない」
 山下は平良以上に正義感が強く潔癖だった。それ故の言葉である。
「容赦なくだ。我が陸軍は下賎な輩は成敗する」
「ですから。そうした貴族達はその場で成敗するのではなくです」
「どうしろというのだ」
「裁判所に任せて下さい」
 これが秋山の言うことだった。
「司法にです。各国の裁判所にです」
「そうしろというのか」
「はい、皆さん独立されているのですから」
「ううむ。しかしだ」
「しかしでも何でもです。くれぐれもご自重下さい」
 秋山は中々納得しようとしない山下にさらに言う。ここで退けば平良もまたいらぬ成敗にかかることは必定だから必死だった。
「各国にお任せしてです」
「うん、それは任せてよ」
「私達も独立したんだから」
 インドネシアとマレーシアが秋山に助け舟を出した。これまではそれを出すタイミングを見計らっていたのである。
「とにかくね。日本さん達には迷惑をかけないから」
「安心してくれていいわ」
「とりあえず陸軍さんの憲兵さん達の助けは受けさせて貰うから」
「協力お願いね」
「そうか。貴方達がそう言われるのなら」
 いいとだ。山下も折れた。
「私はいい。陸軍もな」
「うん、それじゃあね」
「そういうことでね」
 とりあえずこのことはこれで終わった。だが、だった。
 山下jはここで東郷を見てだ。こう言ったのである。
「東郷、貴様に言いたいことがある」
「デートの申し出か?やっと利古理ちゃんもその気になってくれたか」
「馬鹿を言え。マレーでも遊んでいたそうだな」
「ああ、この前のことか」
「マレーシア殿が設立された軍の女性少尉だったそうだな」
「マレーに帰ったらまたデートをしようと思っている」
「全く。何時になったらその女癖はなおるのだ」
 東郷を睨んでだ。山下はさらに言う。
「貴様の様な者が海軍長官では我が国の示しがつかん」
「おやおや、いつもながら手厳しいな」
「貴様のそうした軽薄さが我が国の威信を損なうのだ」
「別に損なってはいないと思うがね」
「貴様が気付いていないだけだ。そもそも貴様はだ」
 山下は一方的に言っていくが東郷は軽くあしらっている感じだ。平良と福原の復帰は山下の小言で幕を下ろした。
 その山下を見た後でだ。インドネシア達はこっそりと日本に尋ねた。彼等はまだ長門の艦内に残っていて休憩室で話をしていた。
 その中でだ。マレーシアは日本が煎れたお茶を飲みながら彼に言うのだった。
「山下さんって東郷さん嫌いよね」
「はい、その通りです」
 日本も隠さなかった。このことを。
「それも大嫌いです」
「やっぱり東郷さんが女好きの遊び人だから?」
「それが第一ですがそれと共にです」
「まだあるのね」
「陸軍と海軍自体がそもそも」
「あっ、それはわかるたい」
 ニュージーランドが応えた。彼も茶を飲んでいる。
「日本さんのところの海軍さんと陸軍さんは仲が悪いたい」
「昔からなのです」 
 日本は困った顔で述べる、
「我が国は二軍編成ですが」
「陸軍と海軍の」
「普通の国では陸戦隊なり海兵隊になるのですが」
 つまり海軍の一部隊になるのだ。惑星占領や憲兵等の任務を請け負う部隊はだ。
「我が国は陸軍でして」
「同格的な?」
「はい、同格です」
 日本は香港にも答える。
「そうなっています」
「何故陸軍になったのですか?」
「かなり前の帝が定められました」
 日本はマカオにも話す。
「陸戦隊もまた一つの軍だと仰って」
「それでなのですか」
「そうです。陸軍ができました」
「成程。そうなのですか」
「最初はそうでもなかったのですが時代が経るにつれです」
 日本は困った顔で述べていく。
「ああして。仲が悪くなりました」
「特に今は凄いですね」
 トンガが見てもだった。その状況は。
「山下さんは生真面目な方ですから余計に」
「あと陸軍さんは食事も違いますね」
「はい、それも気になりますね」
 香港妹とマカオ妹はそのことを指摘した。
「陸軍さんは粗食ですね」
「白米と少しのおかずとお味噌汁だけですから」
「あれは昔からです」
 日本は陸軍の食事についても話した。
「陸軍さんは伝統的に武人としての意識が強く」
「それでなのですか」
「ああしてですか」
「はい、武人は贅沢をしてはならないと」
 それでだというのだ。
「そのうえでなのです」
「だからああしてですか」
「異様に質素なのね」
 インドネシアとマレーシアは日本の話を聞いて納得した。
「確かに美徳だけれど」
「悪いことではないわね」
「そしてです」
 さらにだとだ。日本は話す。
「海軍さんの食事は贅沢だと批判されます」
「あれ位普通ですよ」
 こう言ったのは台湾だった。
「どう見ても。というか日本の平均的な食事ですよ」
「それはそうなのですが」
 それでもだとだ。話す日本だった。
「陸軍さんは贅沢がお嫌いなので」
「それでなのですか」
「はい、そうです」
「私は陸軍の方にはいつもよくしてもらってますが」
 台湾にとってはいいことにだ。しかしなのだ。
 彼女から見ても日本帝国の陸軍と海軍の仲の悪さはどうしても無視できずにだ。困った顔で言うのだった。
「どうにかしたいですね」
「というか山下さんが一方的に怒ってるから」
「それが一番問題ニダ」
 台湾兄と韓国妹が言う。
「それを何とかすれば違いますよ」
「あの人さえ静かになれば双方の対立もかなりましになるニダ」
「そうですね。実は対立の激化は最近ですし」
 以前からそうだったが最近は特に酷いというのだ。
「山下さんがもう少し東郷さんと打ち解けられれば」
「凄く無理ある的な?」
 香港はすぐにこう言った。
「あの二人。というか山下さんが東郷さんと仲良くするというのは」
「はい、私も考えられません」
 日本自身もだ。難しい顔で述べる。
「そうしたことは」
「東郷さんは何とも思ってないんですよね」
 台湾兄はこのことを指摘する。
「本当に。むしろ好いているといいますか」
「あの方は卑しい人間や邪な人間を嫌われます」
 日本は東郷のこの本質を把握していた。
「そうした意味では山下さんと同じですが」
「遊び人ですからね」
「逆に山下さんは遊ばれることはしません」
「修行に学問ばかりですね」
「元々。あの方は代々軍人の家系でして」 
 日本は山下のことをだ。他の国家達にさらに話した。
「厳格に育てられ。祖父の方は陸軍元帥でした」
「ああ、それでなんですね」
「ああして余計に生真面目なんですね」
「そうです。家柄で軍人、長官になったと思われない様に」
「人一倍努力され生真面目に生きておられる」
「そうなのね」
 インドネシアとマレーシアもわかった。そのことがだ。
「それでああいう性格になられたんですか」
「周囲の見方を覆そうと」
「士官学校でも成績は常に完璧でした」
 このこともだ。日本は話した。
「抜群の秀才でした」
「そして努力家だったのですね」
「はい、そうです」 
 マカオの想像通りだった。
「常に凄い努力をされていました」
「そして軍人になり」
「陸軍長官にまで」
「帝が選ばれました」
 今の帝がだとだ。日本は香港妹とマカオ妹にも話す。
「帝はその資質と気質を御覧になられて選ばれましたが」
「それでもたいな」
 ニュージーランドにもわかった。その辺りは。
「家柄だけで長官になったと」
「とにかく山下家は名門なのです」
 軍人の家系だとだ。日本は話す。
「陸軍の歴史と共にあるのです」
「そしてそれ故にたいな」
「そうです。代々優れた軍人の方を出しておられますが」
「それがかえって嫉妬を浴びて」
「ましてや女性ですから」
 このことも要因だった。
「とかく反感を受けやすいのです」
「そしてそれが余計に山下さんを焦らせてますね」
 トンガもわかった。この辺りの事情は。
「本当に難しい話ですね」
「本当にどうしたものか」
 困った顔でだ。日本はまた言った。
「山下さんのお心にもう少しゆとりができてです」
「そうしてですね」
「東郷さんとも打ち解けて貰えればいいのですが」
 こう台湾にも話す。
「何とかしたいですね」
「戦局にも影響しかねないですしね」
「本当に困ったことです」
 日本は難しい顔で台湾達に話した。日本の困っていることの一つだった。そうしてその中で、なのだった。
 日本軍は四国に向かう。その四国ではだ。
 連合軍の軍人達が集まって話をしていた。その南の海を見ながら。
「海は奇麗だな」
「ああ、それにのどかだよ」
「何の憂いもないって感じだな」
「平和だよ」
 彼等はのどかに羊のバーベキューを食べながら話す。
「そうだよな。世界は戦争だらけなのにな」
「本当に平和だよ」
「ここだけはそうだよな」
「すぐ傍に日本軍が来ていてもな」
「今太平洋軍だけれどな」
 名前への突っ込みも入った。しかしだ。
 青、黄色。緑、赤、それに紺の五カ国の彼等は本当にのどかに日々を過ごしていた。そしてこう言い合うのだった。
「なあ、それでな」
「ああ、あの大怪獣な」
「あいつだな」
「そうだよ。あれどうなんだよ」
 怪獣の話になる。見ればだ。
 連合国の軍人達はバーベキューとビールを楽しみながらパソコンのモニターを観ていた。観ればそこには銀河が映っていた。
 そしてだ。そこには蟻、それも尻の部分が巨大な惑星になっている大怪獣がいた。その大怪獣を見て言うのだった。
「この星はこの大怪獣の一部だからな」
「ああ、凄い話だよ」
「俺達この怪獣と一緒に暮らしてるんだよな」
「こんなことあるんだな」
「有り得ないだろ」
 それぞれ言い合う。普段は同盟を組んでいてもその関係は微妙な彼等だがここでは談笑に興じている。
「しかも大人しいしな」
「いや、そうでもないぞ」
 エイリスの軍人がここで言う。
「我が国が最初にここに攻めた時な」
「ああ、大怪獣に艦隊壊滅させられたんだったな」
「そうなったんだな」
「それでだよ。原住民と交渉してな」
 それでだとだ。エイリスの軍人は同盟国の彼等に話した。
「それでな」
「植民地にしたんだな」
「そのうえで」
「共存共栄することにしたんだよ」
 エイリスにしては珍しくだ。その道を選んだのだ。
「で、今こうしてるんだよ」
「のどかに暮らしてるんだな」
「そういうことだな」
「ああ。家族も連れて来てな」
 そのうえでだというのだ。
「今ここにいるさ」
「まあここは豊かだしな」
「快適だし資源も多い」
「他の星もいい星ばかりだしな」
「最高の場所だよ」
 他の国の軍人達も話す。
「ずっとここにいたいな」
「ああ、そうだよな」
「このままのどかに楽しく過ごしてな」
「生きていきたいぜ」
「一応レポートは書いてな」
 ここでだ。エイリスの軍人がまた言った。
「大怪獣の調査に関するな」
「ああ、一応それで来てるしな」
「調査ってことで派遣されてるしな」
「じゃあ仕事するか」
「酒入ってるけれどな」
 それでもだとだ。彼等は話してだった。
 やはり飲んでいく。そしてだった。
 一応レポートも書きはする。しかしのどかなままである。それでだ。
 ソビエトの軍人がだ。ビールを片手に言うのだった。
「で、オーストラリアさん何処だよ」
「ああ、オーストラリアさんか」
「そうだよ。何処にいるんだよ今」
 こうだ。エイリスの軍人に尋ねたのである。
「さっきまで海でサーフィンやってたけれどな」
「鮫に食われたんじゃないのか?」
 オフランスの軍人はシニカルな笑みでこう返した。
「この星の海は鮫が多いからな」
「馬鹿言え、国家は鮫とかじゃ死なねえよ」
 エイリスの軍人がそれを否定する。
「というかあの人はもう総督のところに行ったよ」
「総督のか」
「あそこにか」
「そうだよ。そこに行ったよ」
 そうだというのだ。
「残念だったな」
「折角一緒に食べようと思ってたのにな」
「それは残念だな」
 ガメリカの軍人と中帝国の軍人は飲み食いを続けながら述べた。
「折角来たるべき太平洋経済圏の友人に挨拶をしようと思ったのにな」
「我々の仲間になるな」
「おい、さらっと何言ってるんだ」
 エイリスの軍人は繭を顰めさせて二国の軍人達に言い返した。
「四国はこれからもずっとエイリスの植民地だからな」
「じゃあ太平洋軍に勝てるんだな」
「あの日本に」
「当たり前だろ。日本の進撃はここで終わりだよ」
 エイリスの軍人だけはこう言う。
「何とかな」
「どうかね。まあ頑張れよ」
「俺達は日本が占領したら大使館経由で本国に戻るけれどな」
 ガメリカと中帝国はエイリスにはあくまで冷淡だった。
「あんた達は捕虜になるけれど頑張れよ」
「応援はするからな」
「御前等本当に同盟国か?」
 エイリスの軍人は最早この時点で疑問であることを突っ込んだ。
「全然助けたりしないな」
「何言ってんだ、遠慮してんだぞ」
「そうなんだぞ」
 彼等は彼等でこう返す。
「世界の大英帝国にな」
「余計な邪魔をしないようにな」
「そうは思えないがな」
 実際は彼等がエイリスの没落を心より望んでいるのは明らかだからだ。それで突っ込みを入れるのだた。
「まあいい。ここで俺達の鮮やかな勝利を見ておいてくれ」
「騎士道に基いてか」
「そうだ。日本の武士でもな」 
 どうかとだ。エイリスの軍人は今度はソビエトの軍人に述べた。
「正面から戦って勝つからな」
「じゃあ見せてもらうな」
 他の国の軍人達は他人の顔で見守っていた。しかしそれでも和気藹々とはしていた。四国は平和なままだった。
 その平和な中でだ。痩せた皺だらけの老人がだ。固太りで全体的に四角い感じの眼鏡の青年、ライトブルーの髪はエイリスの貴族の髪型で服もそれの彼とオーストラリアに話していた。
「ではか」
「うん、太平洋軍が来てもね」
 それでもだとだ。青年、この四国の総督は親しみのある声で老人、四国原住民の長老に対して穏やかに述べた。
「この星は非武装宣言をしてね」
「守って下さるのか」
「非武装宣言をすればね」
 それでどうなるかとだ。総督は話す。
「太平洋軍は攻めてこないからね」
「そうしてくれるかのう」
「日本帝国は決して野蛮な国じゃないから」
 総督はこのことを偏見なく見抜いていた。
「だからね。安心していいよ」
「だといいがのう」
「うん。ただしね」
「ただしとは?」
「まあ絶対にないと思うけれど」
 こう前置きしての言葉だった。
「太平洋軍が攻めてきたらね」
「その時はか」
「大怪獣にやられるだけだから」
 それでだというのだ。
「気にしなくていいよ。それと他の連合国の軍人だけれど」
「ガメリカ、中帝国、ソビエト、オフランスの」
「もう一国なかったかな」
 総督はここで首を捻った。
「ええと。何か一国あったよね確か」
「何処だったかのう」
「ほら、一国あったと思うけれど」
「わしは知らんぞ」
 長老は最初から頭の中に入れていない返答だった。
「連合の主要国は五国じゃろう」
「六国じゃなかったかな」
「五国じゃぞ」
 長老はあくまでこう言う。
「間違いないぞ」
「席は六つあるっていうし」
「飾りじゃろう」
「何か一国。見慣れない軍服の軍人もいるしね」
 見れば四国には五国以外の軍服の者達もいた。しかしだ。
 その彼等を見てもだ。長老は言うのだった。
「何処かの亡命国ではないかのう」
「シャイアンとかかな」
「きっとそうじゃ」
 こう言うだけだった。長老は。
「五国で間違いないぞ」
「僕の勘違いだったかな」
「うむ、そう思う」
「それかイギリスさんの妹さんかな」
 総督は彼女かも知れないとも考えた。
「そうなのかな」
「そうじゃろう。まあとにかくじゃ」
「そうそう。太平洋軍が攻めてきたら伝えるから」
「この星、大怪獣は攻撃するなとか」
「僕が艦隊を率いて出撃するけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「万が一があったらね」
「その時はか」
「日本に下ればいいから」
 こう長老に話のだった。 
 そしてだ。次に共にいるオーストラリアにも述べた。
「君もね。その時はね」
「独立でごわすな」
「君が選べばいいから」
 彼にもこう言うのだった。
「その時はね」
「総督さんはどうするでごわすか?」
「僕?」
「そうでごわす。どうするでごわすか?」
「僕はね」
 総督は微笑んでだ。こうオーストラリアに答えた。
「このまま怪獣達、大怪獣達をね」
「学んでいきたいでごわすな」
「そう考えているけれどね」
「じゃあ日本に一緒に降伏するでごわすか?」
「どうしようかな」
 首を傾げさせてだ。総督はオーストラリアに答える。
「その辺りは」
「そうしたらよいのではないかのう」
「おいどんもそう思うでごわす」
 長老とオーストラリアはそれぞれ話す。
「あんたなら問題ないじゃろ」
「というかいて欲しいでごわす」
「そう言ってくれるんだ。けれど本当にね」
 どうするかはだ。総督はまだわかりかねていた。
 それでだ。こう言うのだった。
「どうするかはね」
「わからないか」
「今はでごわすか」
「うん、怪獣は見ていきたいけれど」 
 実はそういうことのマニアであるのだ。この総督は。
「日本は敵だしね。敵に自分から降るのは」
「まあそこはな」
「考えてよくべきでごわすな」
 こうした話をしてだった。彼等はというと。
 総督にできれば残ってくれるように話した。そうしてだった。
 総督はあらためて二人にだ。こんなことを言った。
「何か僕って変わってるかな」
「あんたがか」
「そうだというでごわすか」
「よくそう言われるけれどね」
「まあそうじゃな」
「変わっているといえばそうでごわすな」 
 長老もオーストラリアもそのことは否定しなかった。
 しかしだ。同時にこうも言うのだった。
「けれど変わっているといってもそれぞれじゃ」
「いい場合と悪い場合があるでごわすからな」
「あんたはいい意味で変わっておるぞ」
「おいどんもそう思うでごわす」
「そうなんだ」
 総督は二人の言葉を聞いてまずはほっとした顔になった。そのうえで述べたのだった。
「だといいけれどね」
「暴力的でも傲慢でもないしのう」
「搾取もしないでごわす」
「圧政や虐政もせん」
「現地の実情を理解してくれているでごわす」
 政治家としてはだ。彼はそれなり以上に優秀だった。
 それでだ。こう言うのだった。
「だからじゃ。いい意味でじゃ」
「変わっているでごわすよ」
「だといいけれどね」
 総督は二人の言葉を聞いてまずは安心した。
 そしてだ。二人にあらためてこう話すのだった。
「実は僕は元々学者の家なんだよね」
「ふむ。そうじゃったか」
「そういえばそんな感じでごわすな」
「そうなんだ。歴史学者とか哲学者がいてね」
 祖先にだ。代々いたというのだ。
「僕は生物学者でね」
「それで怪獣に興味があるでごわすか」
「怪獣っていいよね」
 総督は学者というよりかはマニアの顔で話す。
「格好いいからね」
「危害を及ぼすでごわすが」
「それもあるけれど。それでも」
「それでもでごわすか」
「怪獣の力を人類の為に有効的に使う方法とかね」
 それも話すのだった。
「そういうのも考えてるけれど」
「例えばこの四国のじゃな」
「うん、あれもね」
 どうかというのだ。
「ガワタスカル=ビゥもね」
「あれは特別でごわすよ」
 この大怪獣についてはだ。オーストラリアが述べる。
「あくまで」
「そうだよね。人間が制御しているから」
「他にはないでごわすよ」
「いや、あるかも知れないよ」
「あるでごわすか?」
「今オーストラリアさんと話してて思い出したけれど」
 その思い出した話とは何か。総督はこのことも話した。
「日本帝国の帝だけれど」
「ああ、聞いたことがあるでごわす」
 すぐにだった。オーストラリアは答えた。
「何でも富嶽という大怪獣を操っているでごわすな」
「そう聞いてるけれどね」
「そのうえで富嶽を日本に来る都度退散させているというでごわすが」
「エイリスの日本大使館にいた友達から聞いたけれど」
 貴族独自の交流からだ。総督は聞いていた。
「何でも日本じゃね」
「富嶽が来てもでごわすな」
「退散させているらしいね」
「凄い話でごわすな」
「思い出してから言うけれど興味があるね」
 マニアの顔に学者の顔も入れてだ。総督は述べた。
「だから。どうしようかな」
「考えてみるでごわすか」
「どうかなあってね」
「おいどんとしては一緒にいたいでごわす」
 オーストラリアは彼の望みも総督に述べた。
「考えて欲しいでごわす」
「うん、それじゃあね」
「ではじゃ」
 今度は長老が言ってきた。
「総督さんは今日はまだ仕事があるかのう」
「いや、もう終わったよ」
 総督はすぐに長老に答えた。
「事務処理だけだったからね。今日は」
「そうか。それではじゃ」
「今から一緒にかな」
「トルカも呼ぶ。飯でもどうじゃ」
「じゃあ僕の官邸でどうかな」
「いや、それは有り難いのじゃが」
 どうかとだ。すぐに答える長老だった。
「エイリスの料理じゃな」
「うん、そうだよ」
「遠慮させてもらう」
 エイリス料理は嫌だとだ。長老はあっさりと答えた。
「わし等の口には合わぬ」
「皆そう言うんだよね。本国の料理は嫌だって」
「正直に言ってよいか」
「うん、どうぞ」
「まずい」
 長老は率直に述べた。
「食べられたものではない」
「そうなんだよね。皆言うんだよね」
 総督は首を傾げさせていささか残念そうな顔で述べる。エイリス生まれの貴族としては残念な話である。
「エイリスの料理は駄目だってね」
「連合軍の兵隊さん達もじゃな」
「うん、本当に皆言うから」
 こう述べる総督だった。
「どうしたものかな」
「そういうものは食べなければよい」
「率直だね」
「しかしその通りじゃな」
「それはその通りだけれどね」
 口に合わなければ食べなければいい、それで済むことだった。長老が総督に言うことはそうしたことだった。
 そうはっきり言われてだ。総督も言うのだった。
「それじゃあ御飯は」
「わしのところに来るのじゃ」
 今度は友好的に言う長老だった。
「祖国さんもおるしのう」
「オーストラリアさんもだね」
「そうでごわすよ」
 そのオーストラリアが明るい顔で総督に応えてきた。
「おいどんが腕によりをかけて作るでごわすよ」
「それでよいかのう」
 長老は自分の祖国の言葉を受けてから総督にあらためて問うた。
「四国料理を一緒にな」
「うん、いいよ」
 総督はにこりと笑って長老の言葉に頷いた。
「それじゃあね」
「では一緒に食おうぞ」
「何か悪いね」
「悪くはない。平和に落ち着いて暮らす」
 今度はこう言う長老だった。
「あんたはそれが好きじゃからのう」
「戦いはね。あまり好きじゃないよ」
「しかし軍を率いはするのじゃな」
「うん、総督だからね」
 総督はその地域の統治全体を統括する。その中には軍事も入っているのだ。総督の権限は大きいのだ。
「そうするよ」
「ならばか」
「そうなんだ。だから太平洋軍が来たら出撃してね」
 そうしてだというのだ。
「戦うよ」
「そうするのじゃな」
「何度も言うけれどアボリ人達には迷惑はかけないから」
 それはくれぐれもというのだ。
「安心してね」
「済まんのう、気を使ってもらって」
「総督だから当然のことだよ」 
 彼等を戦争に巻き込まない。それもだというのだ。
「だからこのことは気にしなくていいよ」
「左様か」
「じゃあオーストラリアさんもね」
「トルカちゃんも呼んで、でごわすな」
「羊料理だよね」
「それとジャガイモでごわす」
 オーストラリアはにこりと笑って答える。
「それもあるでごわすよ」
「皆で一緒にね」
「食べるでごわすよ」
 こうした話をしてでだった。
「四人で」
「ううん。そういえばトルカってね」
 総督はその姫のことを長老とオーストラリアに言った。
「前から思ってたけれど」
「どうしたのじゃ?」
「気力とか体力とか消耗してるのかな」
 こう言ったのである。
「時々疲れてる感じがするけれど」
「うむ。大怪獣だけでなく怪獣はじゃ」
「やっぱり疲れてるんだ」
「怪獣は人とは違う」
 長老が言うのはこのことだった。
「それを操るとなるとな」
「気力や体力を使うんだね」
「怪獣姫は代々そうした特別な力を持っている」
「それ故に」
「そうじゃ。しかしじゃ」
「無理をするとなんだね」
「それはわかるな」
「うん。それはね」 
 総督もよくわかることだった。このことは。
「わかるよ。じゃあ大怪獣はできるだけ刺激しないで」
「そうすればトルカも消耗しないで済む」
「そうだね。じゃあ太平洋軍に事前に言っておくのは」
「いいことじゃ。トルカにとってもな」
「僕はね。仕方ない時もそれはあるけれど」
 ここでは政治家として話す総督だった。総督故にだ。
「出来る限りね。犠牲は出したくないから」
「それでトルカもじゃな」
「トルカさんにも言うよ。出来るだけ苦労はさせないようにするから」
「済まんのう。何かと気を使ってもらって」
「いや、僕もそうしたことは好きじゃないからね」
 だからだとだ。総督も返事を返す。
「そうしているからね」
「そうか。ではじゃ」
「おいどんの料理を食べるでごわすよ」
 四人でだとだ。こうした話をしながらだった。
 四国では大怪獣を巡っても様々な話が行われていた。そしてその話は四国に向かう東郷達の耳にも入っていた。
 日本がモニターからだ。長門の艦橋にいる東郷に話した。
「先程四国から使者が来たそうですね」
「ああ。抗戦はするがな」
 それでもだとだ。東郷は日本に話す。
「それでも四国の星には攻撃しないで欲しいとのことだ」
「戦闘はあくまで艦隊での戦闘だけですか」
「それで勝敗がつけば終わらせたいそうだ」
「では私達が勝てば」
「降伏するということだな」
「そうですか。それが四国側の考えですか」
「それならだ」
 東郷はここであらためてモニターの日本に話した。
「それを受けようと思う」
「そうされますか」
「俺も無駄な血を流さないで済むのならそれでいい」
 東郷は決して好戦的ではない。戦わずに済むのならそれでいいのだ。
 それでだ。四国側の申し出を受けるというのである。
「受ける」
「わかりました。それでは」
「祖国さんもそれでいいな」
「私も。艦隊戦で終わるのなら」
 それならばだというのだ。
「いいです」
「降下しても徹底抗戦してくる場合もあるからな」
「はい、ですから」
「いいことだ。特にな」
「特に?」
「四国側は大怪獣には手出ししないで欲しいと言っていた」
「ああ、あの蟻の様な大怪獣ですね」 
 それがどういった大怪獣かもだ。日本は知っていた。
「あれにはですか」
「惑星と一緒になっているからな。下手に攻撃をすればだ」
「惑星と。その中にいる人達にもですね」
「被害が及ぶからな。それでだな」
「はい、ではあの大怪獣にも」
「一切攻撃を加えない」
 実際にそうするとだ。東郷は言い切った。
「大怪獣とはいえ大人しいし人類と共生ができている」
「それならですね」
「こちらから手を出すこともない」 
 大怪獣についてもだ。そうだというのだ。
「それで行こう」
「戦闘は艦隊戦だけで」
「とはいっても大怪獣と共生しているのか」
 このことにはだ。東郷は興味を覚えてこう言うのだった。
「どういったものか。この目で見てみたいな」
「そうですね。我が国は古来より富嶽に悩まされています」
 それ故にだった。
「一度調べてみたいですね」
「富嶽がああして大人しくなるのなら有り難いことだ」
 東郷の言葉は切実なものだった。
「是非共な。そういうことはな」
「研究して真相を究明し」
「取り入れられるのなら取り入れたい」
「はい、是非共」
 こうした話もしたのだった。そのうえでだ。
 太平洋軍は四国に向かっていた。オセアニアにおけるエイリスの最後の植民地においても戦闘が行われようとしていた。


TURN38   完


                            2012・7・12



今回は開戦前って感じかな。
美姫 「そうね。平良と福原が復帰して加わって、戦力的には少し上がったかしら」
陸軍というか、利古理との関係は変化なしみたいだけれどな。
美姫 「こちらは追々、東郷が何とかするんじゃないかしら」
どうなるかな。ともあれ、いよいよ四国との開戦か。
美姫 「果たしてどうなるかしらね」
次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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