『ヘタリア大帝国』
TURN35 マレー侵攻の前に
田中はラバウルに向かっていた。共にいるのは。
アストロパンダに手長猿、それに猫に犬、〆羅だった。その彼等の艦隊を見て言うのだった。
「何かな」
「どうしたんだよ」
「何かあったの?」
「俺は動物と縁があるのかよ」
少し首を捻ってだ。彼は言うのだった。
「魚艦隊といいおめえ等といいな」
「嫌?」
「嫌なのかな僕達と一緒だと」
「嫌かっていうと違うからな」
そのことはしっかりと言う田中だった。
「魚だって好きだしおめえ等だってな」
「うん、田中さんが一番親しく付き合ってくれるからね」
「僕達だって田中さんのこと好きだよ」
動物達も言う。
「だからラバウルの戦いね」
「一緒に頑張ろうね」
「ああ、やってやるぜ」
田中はいつもの威勢で言った。
「ラバウル、陥落させてやるぜ」
「では行きましょう」
〆羅も言ってきた。
「いざ決戦の場に」
「ラバウルだけれどね」
台湾もいた。国家としてラバウルに来ているのは彼女だった。
「ガメリカ軍の名のある提督ではクリス=ハルゼー提督がいるから」
「ハルゼー提督ね。知ってるわ」
ハニートラップもいる。彼女も提督として立派な艦隊を率いている。
その彼女もだ。こう言うのだった。
「航空機戦の専門家よね」
「そう。空母を使った戦術を得意としてるわ」
「しかも占いにも秀でていて」
台湾はハルゼーのそのことも知っていた。ただ優秀なだけではないのだ。
「その結果によって戦術を決定もするわ」
「そのハルゼーがどう動くかね」
「へっ、どんな風に動いてもな」
どうするかとだ。田中はここでも威勢よく言う。
「俺が叩き潰してやるぜ」
「あんた馬鹿でしょ」
ハニートラップはモニターから醒めた目で田中を見て述べた。
「それも一直線な」
「おい、俺が馬鹿だっていうのかよ」
「相手を碌に理解せずに突っ込まない奴を馬鹿と言わずして何ていうのよ」
「突撃だよ。俺はいつもそうしてるんだよ」
「そのうち大怪我するわよ」
ハニートラップの目は呆れたものだった。
「艦隊全滅、戦死もね」
「俺がそうなるっていうのかよ」
「そうよ。そこまで馬鹿だとね」
「馬鹿馬鹿ってよく言ってくれるな」
田中が言うとだ。アストロコーギーとアストロ猫が言ってきた。
「そうだよ。田中さんは馬鹿じゃないよ」
「ただの馬鹿じゃないんだよ」
「馬鹿は馬鹿でも大馬鹿だよ」
「普通の馬鹿って思ってもらったら困るよ」
「おめえ等フォローしてんのか?」
田中はそのことすら疑問に思った。彼等の今の言葉には。
「思いきりけなしてるように聞こえるんだけれどな」
「フォローしてるつもりだけれど」
「そう聞こえない?」
「だって田中さんあの東郷さんから連合艦隊司令長官の座奪うっていうし」
「命令違反なんて常だしね」
「だからけなしてるだろ」
また言う田中だった。
「ったくよ。とにかく俺はいつも特攻なんだよ」
「日本軍もよくこんな馬鹿提督にしてるわね」
ハニートラップの呆れた口調は変わらない。その目も。
「けれど東郷は案外こいつ重用してない」
「うん、そうかもね」
「自分の席を奪うって公言してる人だけれどね」
今度は猿とパンダが言う。
「何か結構色々任務与えてるよ」
「今みたいにね」
「田中さんは確かに命令違反ばかりして暴走するけれど」
台湾はその言われっぱなしの田中をモニターから見て話す。
「伊達に士官学校で勉強してこの若さで提督になった訳じゃないから」
「おう、俺はやるぜ」
「けれど本当にそのうち大怪我するわね」
台湾はこうも見ていた。そうした意味ではハニートラップと同じだった。
「その時戦死しないといいけれど」
「この馬鹿いないといないで寂しそうね」
ハニートラップはこんなことも言った。
「そうした意味でややこしい奴ではあるわね」
「何で俺こんなに言われるんだよ」
「言いやすいから」
〆羅も言う。この彼女も。
「そうしたキャラクターだから」
「くそっ、まあとにかくラバウルも攻めるぜ」
田中は気を取り直して述べる。
「それでラバウルを攻略したら次はだよな」
「ニュージーランドよ」
そこを攻めるとだ。台湾が話す。
「トンガにはもう艦隊がいってるわ」
「南雲さん達だな」
「小澤さんとね」
この二人が軸として向かっているというのだ。
「私の兄さんと香港君の兄妹がね」
「向こうには五個艦隊なんだな」
「トンガにいる艦隊は少ないから」
だから五個だというのだ。
「そして主力はね」
「インドネシアなんだな」
「東郷さんに日本さん」
まずはこの二人だった。東郷が直接率いていた。
「マカオ君の兄妹に韓国の妹さんと」
「リンファとランファだよな」
「あとあの二人よ」
さらに言う台湾だった。
「キャシー=ブラッドレイとララー=マニイね」
「早速日本軍として戦うってのかよ」
「そうよ」
「あのマニラの女はともかくガメリカのあいつはな」
キャシーについてはどうかとだ。田中は言うのだった。
「よくすんなりといったな」
「結構暴れたしね」
「結構以上じゃねえだろ」
田中は顔を顰めさせて台湾に述べた。
「だってよ。艦橋でマシンガンぶっぱなしてたんだろ」
「それで大暴れだったのよ」
「それで何で結構なんだよ」
「まあとにかく捕虜になってね」
大騒ぎの結果だ。山下が艦橋に乗り込んでみね打ちで大人しくさせたのだ。キャシーの一瞬の隙を衝いてその首の後ろに入れてだ。
「東郷さんが説得してなのよ」
「あいつがかよ」
「日本さんも同席してね」
「祖国さんもっていうとおかしなことはしてねえんだな」
「ええ。そのことは間違いないわ」
「だといいんだけれどな」
東郷の派手な女性遍歴を知っている田中はそれを聞いてまずは安心した。
「で、その二人もなんだな」
「インドネシアに向かったわ。ラバウルとトンガ、それにインドネシアを占領したら」
「マレーかよ」
「私達の主力はニュージーランドに向かうわ」
ラバウルに向かっている台湾達の軍はというのだ。
「それでトンガ、インドネシアに向かっている軍はね」
「マレーなんだな」
「そうなるわ」
台湾は田中にこの戦略を話した。日本軍は今のところは彼等の当初の予想以上の速さで順調に進んでいた。
「いよいよ第一の戦略目標よ」
「あそこを占領できたら大きいですね」
〆羅はマレー占領がなった場合について述べた。
「東南アジアの殆どを占領したことになり」
「それにエイリスの東南アジア、オセアニアへのルートを遮断することになるわ」
この戦略的意義あった。マレー占領にはだ。
「四国占領にも弾みがつくわ」
「そうですね。マレー占領の如何ですね」
「マレーの次はベトナムを経てインドの緒星域になるわ」
戦略はマレー占領で終わりではなかった。さらにだったのだ。
「インド占領は東南アジア、オセアニアに今は分散して進撃している全軍を合わせたものになるわ」
「よし、俺はそこでも先陣だな」
「あっ、田中さんはラバウル占領と共にね」
だが、だった。台湾は威勢よく言う田中にここで言った。
「ラバウル及びマイクロネシアの防衛にあたることになってるわよ」
「おい、どっちもかなり離れてるぞ」
「田中さんの艦隊は普通の艦隊の倍の速さで移動できるから機動防衛艦隊としてね」
マイクロネシア、ラバウル双方の星域の防衛を担うことになるというのだ。
「それぞれ日本さんの妹さんと韓国、宇垣さんに柴神さん、山本さんと伊藤さんが三個艦隊ずつ配備されて」
それでハワイに隣接する二つの星域の防衛にあたるというのだ。
「田中さんは本土にいて攻撃される星域にその都度向かうことになるわ」
「予備戦力かよ」
「簡単に言えばね」
「けれど出番は多いんだよな」
「結果としてね」
そうなるというのだ。
「あとガメリカの案山子さんもインドネシアに向かうことになったわ」
「案山子?」
「ネクスン提督よ。あの自分で運がいいっていう」
「マイクロネシアで捕まった奴かよ」
「あの人もそちらに回されることになったから」
とにかく今はだった。日本軍は東南アジア、マイクロネシア方面に戦力を集中させていた。出来る限り多くの戦力を回し一気に攻略せんとしているのだ。
「デーニッツさんもいるから」
「インドネシア方面は十一個艦隊かよ」
「そうよ」
総勢でそれだけであった。
「今の所マニラは空になるわ。けれどね」
「後で治安の艦隊を送る必要があるわね」
「その艦隊の配備も進んでいるわ」
台湾は〆羅にこのことも話した。
「ちゃんとね。二個艦隊ね」
「二個艦隊?提督は駄目なんだよ」
二個艦隊と聞いてだ。田中は首を捻りながら台湾に問うた。
「今日本にそんだけも提督いるのかよ」
「いるじゃない。ちゃんと」
「だからそれどいつとどいつなんだよ」
「やっと復帰できたのよ」
日本妹はこう話した。
「あの人達がね」
「って平良少将か?」
「そう。中将に昇進したわ」
復帰しただけでなくだ。昇進もしていた。
「一個艦隊を率いるだけの階級になったのよ」
「あの人が復帰したのかよ」
「怪我の回復が中々進まなかったけれど」
だがそれがだというのだ。
「何とかね。回復したのよ」
「そうか。やっとなんだな」
「そう。まずはマニラの治安維持と回復に向かうことになるわ」
「あの人が戻るのか。大きいな」
「それと福原いづみさん」
台湾は彼女の話になるとさらに笑顔になっていた。
「あの人も戻ってくれるのよ」
「ああ、あの士官学校でも抜群の成績だったっていう」
ここで言ってきたのは何故かハニートラップだった。
「中帝国でも有名よ。日本帝国軍でも屈指の才媛よね」
「台湾に赴任してきて凄かったのよ」
台湾のいづみへの評価ははしゃいでさえいた。
「けれど少し身体を壊してね」
「病気かよ」
「そうなの。けれど病から回復して」
それでだ。復帰したというのだ。
「提督になったのよ」
「とりあえずマニラの治安も回復させて」
一気に日本帝国軍の主力が入って一月の間に治安はかなり回復したがそれでもだというのだ。
「そのうえで後方も安定させてね」
「進むのね」
「そう。じゃあ私達も進みましょう」
ハニートラップに話しながらだった。台湾達はラバウルに入った。ラバウルに入るとすぐにそこに展開するガメリカ軍と対峙した。その指揮にあたるのは。
クリスだった。クリスは己の乗艦エセックスの艦橋の司令の席でこう言った。
「こんなことははじめてよ」
「はじめて?」
「といいますと」
「ええ。幾ら占ってもね」
彼女が得意とする占い、それを使ってもだとだ。周りにいる彼女の幕僚達に話すのである。
「この戦争の結果は出ないわ。ただね」
「ただ、ですか」
「この戦争はガメリカにとっても非常に大きな戦争になるわね」
このことは間違いないというのだ。
「それだけは言えるわ」
「そうですね。勝って日本を懲らしめる」
「その為の戦争ですから」
「そうね」
クリスはあえて語らなかった。ガメリカが実は日本にエイリスの植民地を全て掌握させそこから日本を倒しエイリスの植民地を個々に独立させ彼等を加えた太平洋経済圏を築こうと考えていることを。これはガメリカの国家達と最高幹部達は知っていた。
だが察しの悪い者は気付いていなかったし察しのいい者はあえて語らない。だから彼女もそうしたのだ。
そのうえでだ。クリスはまた言った。
「敵艦隊は思ったより多いわね」
「はい、確かに」
「八個艦隊ですね」
「数は私達の方が多いにしても」
倍はあった。十六個艦隊だ。
だがそれでもだとだ。ハルゼーは言うのだった。
日本軍の動きは速く瞬く間にガメリカ軍の前まで来た。クリスが艦載機を出す前に。
日本軍の艦載機が動いた。いや、それは。
「魚ね」
「日本軍が得意とする魚戦術ですね」
「これがあの」
「艦載機じゃなくて小魚ね」
それを放ってきたのだ。動きが速かった理由は。
クリスが率いるのは空母だけだった。あとは巡洋艦だ。それに対してだ。
日本軍はまずは集中的に叩いてきたのだ。小魚がある艦隊には索敵能力の高い魚や駆逐艦、旧式とはいってもそれが共にあった。
それで先に察知してだ。攻めてきたのだ。
動きが先んじるのは大きかった。それでだった。
クリスの艦隊をはじめ空母艦隊は次々と攻撃を受ける。当然エセックスもだ。
エセックスは甲板を破壊され艦載機を出せなくなった。それを見てクリスは言った。
「戦闘不能になったわね」
「はい、空母は甲板を破壊されれば終わりです」
「もう艦載機は出せません」
「では司令、ここはどうされますか」
「一体」
「空母は何隻残っているかしら」
クリスは幕僚達にラバウル全体の戦力のことを尋ねた。
「今は」
「五隻、いえ今四隻になりました」
「全て甲板を攻撃されました」
空母は飛行甲板さえ攻撃すれば艦載機を出せなくなる。艦載機を出せない空母なぞただの浮かぶ箱でしかない。つまり今ラバウルで動くガメリカ軍の空母は四隻だ。
クリスはその四隻から艦載機を出させた。だが。
四隻では数が足りなかった。折角出した艦載機は日本軍の小魚に囲まれて撃墜される。そして。
ビーム戦に移った。だがラバウルのガメリカ軍の主力は空母でありビーム攻撃は弱かった。
ビームとビームがぶつかり合う。数がここでもものを言った。
日本軍のビームはガメリカ軍のビームを押し切りガメリカ軍に襲い掛かった。そうして。
ガメリカ軍はまたしてもダメージを受けた。ミサイルを搭載している艦艇や駆逐艦が攻撃を受ける。次の攻撃がこれで封じられてしまった。
こうなっては日本軍の攻めるままだった。彼等は得意の鉄鋼弾攻撃にも入った。
「よし、やるぜ!」
「はい!」
「提督、行きやしようぜ!」
田中の部下達が上官に威勢よく応える。
「俺達の出番ですね!」
「それなら!」
「ああ、敵艦隊に殴り込め!」
そしてだというのだ。
「それで手当たり次第に叩き潰すぞ!」
「合点です!」
「それじゃあ!」
指揮する上官の影響を受けてだった。彼等も威勢がいい。その威勢と共に。
田中が率いる艦隊、〆羅のそれも敵軍に接近し至近距離で鉄鋼弾を放つ。それで能力を失った空母や少ない戦艦を攻撃する。そうしてだった。
日本軍は瞬く間に倍の戦力があるガメリカ軍の三割を倒した。残った七割もダメージを受けているものが多い。その状況を見てだ。
クリスは決断を下した。その決断は。
「撤退よ」
「撤退ですか」
「そうしますか」
「ええ。既に基地の戦力は撤退させているわ」
日本軍のマニラ侵攻の報告を受けると共にだ。そうしたのだ。
「後はね。私達だけよ」
「それが予定通りですしね」
「それならですね」
「ええ、撤退よ」
クリスはまたこの言葉を出した。
「ならいいわね」
「わかりました。それでは」
「我々もこれで」
ガメリカ軍はこれ以上の戦闘は無意味としてあっさりと撤退した。クリスは日本軍の二度目の攻撃前に軍を退かせた。その彼等を見てだ。
田中は追撃に入ろうとする。だがその彼にだ。
台湾がだ。すぐにこう言ってきた。
「待って。今はね」
「何だよ。追うなってのかよ」
「陸軍をラバウルやガダルカナルに降下させましょう」
その方が先だというのだ。
「それに艦隊も傷ついたものがあるし」
「じゃあ今は占領に専念しろってのかよ」
「その方がいいわ」
こう田中に言うのだった。
「それに今追撃を仕掛けてもね」
「不都合があるのかよ」
「レーダーに反応よ」
ハニートラップはここでも目を顰めさせて田中に言う。
「ハワイ方面からガメリカ艦隊が来てるわ」
「撤退の援護ね」
その彼等がどういった目的で来たのかをだ。台湾はすぐに察した。
「それが来たわね」
「何!?じゃあ今はかよ」
「下手に追いかけたら痛いしっぺ返しを受けるわよ」
ハニートラップは元々は提督ではないがこうしたことは容易に察することができた。そのうえでの言葉だった。
「だから。今は我慢しなさい」
「ちっ、仕方ねえな」
「戦艦と駆逐艦の艦隊ね。だとすると」
台湾はそのハワイ方面から来た艦隊の編成を見て述べた。
「朽木=イザベラ提督ね」
「あの日系人のかよ」
「そうよ。何でもかなり攻撃的な提督らしいから」
士官学校でのことからの言葉だ。
「戦艦や駆逐艦を使っての鉄鋼攻撃の専門家らしいから」
「迂闊に攻められないね」
コーギーが言う。
「じゃあ今はね」
「ええ。向こうもラバウルに下手に来ないでしょうし」
それならというのだ。
「今はソロモン占領に専念しましょう」
「よし、それじゃあ今はね」
「陸軍を出して」
手長猿とパンダが台湾の言葉に応える。そうしてだった。
星域占領に陸軍が出されて占領が行われる。こうしてラバウルは占領された。
だがそれで終わりではなかった。田中は予定通りマイクロネシア、ラバウル双方の防衛にあたることになった。さしあたってはラバウルに治安回復の目的もあり駐留することになった。
その彼にだ。台湾が話す。
「ここには伊藤さんと韓国と山本さんが向かってるから」
「そうなのかよ」
「私達は一月駐留して治安回復を兼ねた休憩の後でね」
ダメージを受けた艦隊は既に日本本国に向かうことが決定している。
「ニュージーランドに向かうから」
「あそこも攻略するんだよな」
「ええ、そうよ」
その為以外の何者でもなかった。
「後は宜しくね」
「ああ。来た敵は片っ端から叩き潰すぜ」
「怪我はしないでね」
台湾は血気にはやる田中を注意した。
「あんたも大切な提督なんだからね」
「へっ、俺がそう簡単にやられるかよ」
「そう思ってるのが一番危ないのよ」
台湾は咎める顔も見せた。
「全く。あんたは本当に無鉄砲なんだから」
「とにかくね。後は任せたからね」
ハニートラップの艦隊もダメージを受けていない。それで彼女もニュージーランドに向かうことになっていた。ソロモンからすぐにニュージーランドに入ろうとなっていた。
トンガはだ。すぐにだった。
駐留しているエイリス軍の僅かな植民地艦隊は一蹴された。小澤は無血入城を果たしたトンガにおいてだ。トンガ自身にこんなことを言われた。
「あの艦隊をあっという間になんだ」
「どうということはなかったです」
小澤はいつもの無表情で淡々とトンガに答える。
「無傷でやっつけちゃいました」
「ううん、凄いね」
「旧式艦ばかりで数も少なかったですから」
二個艦隊しかなかったのだ。トンガには。
「どうということは」
「そうなんだ。けれど僕はね」
「はい。日本帝国に占領されました」
そうなったことをだ。小澤はトンガに告げる。
「とりあえずですが」
「日本に協力して欲しいっていうんだね」
「そうして頂いて宜しいでしょうか」
「うん、いいよ」
トンガは微笑んで小澤に答えた。
「じゃあそういうことでね」
「ではお願いします」
「これでトンガの治安は大丈夫だね」
南雲はトンガが日本への協力を快諾したのを見て明るく述べた。国家が入るとその星系の治安は無条件で最高のものとなる。国家の協力は大きいのだ。
「何の憂いもなくマレーや四国に迎えるね」
「そうだね。けれどね」
トンガはここで南雲と小澤にこう釘を刺した。
「僕はエイリス軍が来たら彼等に降るからね」
「そしてエイリスに復帰するというのですね」
「それがルールだから悪く思わないでね」
「はい。そのことは承知しています」
小澤はこのことも淡々とトンガに答える。
「ですから御気遣いなく」
「そういうことでね。とにかくね」
「はい。では今のところは」
「日本に協力するってことでね」
「お願いします」
こうしてトンガはあっさりと日本に協力することになった。そしてだった。
インドネシアもだった。そこには日本軍の主力が向かっていた。その主力を率いる東郷にだ。
日本がだ。己の乗艦からモニターを通じて尋ねていた。
「インドネシアからすぐにですね」
「ああ、いよいよマレーの虎だ」
そこに入るとだ。東郷も答える。
「敵の東南アジア方面の主力が展開している」
「他の東南アジア、オセアニアのエイリス軍の数は少ないですが」
しかも装備も旧式だ。実際のところ大した相手ではなかった。
「ですがマレーはですね」
「装備もよければ数も充実している」
東郷は言う。
「最初の正念場になる」
「ですね。だからこそ」
「インドネシアは資源が多く人口も多ければ広い」
だが、だというのだ。
「駐留している艦隊は他の植民地と同じだ」
「ですから大した戦力ではないですが」
「しかしインドネシアからマレーに入る」
それならばだというのだ。
「戦力は必要だ」
「しかも無傷で入らないといけないですね」
「ラバウルを占領した軍はニュージーランドに向かってもらう」
これも東郷と秋山が立てた戦略であるのは言うまでもない。
「あそこも大したことはないがな」
「五個艦隊で向かっているそうです」
田中が残り猿とパンダの艦隊がダメージを受けたので一時日本本土に戻ることになっていた。倍の相手に対して二個艦隊程度、しかも全滅でなく済んでいるのは上出来だった。
「そしてその五個艦隊なら」
「ニュージーランド占領も容易い筈だ」
「その通りですね」
「マレーの虎にはいい修理工場もある」
だからこそエイリスの東南アジア、オセアニアにおける最大の軍事拠点にもなっているのだ。
あそこを占領すればベトナム、インドへの重要な足掛かりになる」
「そして四国も占領すれば」
「もう後顧の憂いはない」
完全にだ。東南アジア、オセアニアは日本のものになるというのだ。
「心おきなくインドまで迎える」
「エイリス最大の植民地に」
「エイリスですが」
秋山が東郷の横から述べる。
「東南アジア、オセアニアを失おうともです」
「そうだ。まだインドがあればな」
「その国力は保てます」
「インドの全ての星域を合わせた国力は東南アジア、オセアニア全土を凌駕する」
そこまでだ。インドは豊かだというのだ。
「そのインドがある限りはな」
「エイリスは倒れませんね」
「アフリカだけでもまだドクツと戦えるだけの国力がある国だ」
それにまだインドがあればだというのだ。
「尋常なものではないからな」
「では。欧州で戦う友邦ドクツの為にも」
「インドは攻略しなくてはならない」
そしてその足掛かりにだ。マレーの虎は絶対に必要というのだ。
「これまでは前哨戦だ。この方面での決戦はマレーだ」
「はい、ではその為にも」
「インドネシアを占領するぞ」
「わかりました」
秋山は東郷の言葉に頷く。日本もまた。
日本軍の主力はインドネシアに入った。インドネシアの植民地艦隊は四個艦隊だ。だがやはりどれも旧式でだ。東郷は彼等を発見するとすぐにだった。
全軍にこう告げた。その命令は。
「全軍包囲だ」
「包囲殲滅ですね」
「いや、包囲したうえでまずは降伏勧告を行う」
こう秋山に話す。
「それからだ。相手の返答次第でだ」
「攻撃ですか」
「そうする。ではいいな」
「わかりました。それでは」
こうしてだ。インドネシアが直接率いる艦隊を含めた植民地艦隊四つが包囲されてだ。東郷による降伏勧告が行われた。この勧告を受けて。
インドネシアにだ。植民地艦隊の将兵達が問うた。
「どうしますか。包囲されましたよ」
「もう逃げ場はありません」
「敵の艦隊は十個です」
エルミーの艦隊は見えていない。だから十個に見えるのだ。
「我々の二倍以上です」
「これでは」
「そうだね。これではね」
インドネシアもだ。己の乗艦の艦橋で難しい顔になっていた。
その顔でだ。こう言ったのである。
「もう戦闘にならないね」
「はい、ではどうされますか」
「ここは」
「降伏勧告を受けるよ」
これがインドネシアの決断だった。
「というかそれしかないね」
「はい、それではですね」
「今から」
「僕が交渉するよ」
インドネシアはこう言ってだった。東郷からの降伏勧告を受けた。インドネシアも無傷で、しかも一戦も交えずして日本に占領された。
東郷は日本と共にインドネシアに降り立った。そのうえでインドネシア本人と話をした。彼はあっけらかんとして東郷と日本にこう話した。
「僕としてはね。エイリスにも思い入れはないし」
「だからだな」
「私達にもですね」
「協力させてもらうよ。ただしね」
それでもだとだ。インドネシアはここでこう述べた。
「国民には悪いことをしないでね」
「はい、それは当然です」
日本が確かな顔でそのことを保証した。
「何があろうとも」
「だといいよ。じゃあこれから宜しくね」
「こちらこそ」
日本とインドネシアは握手をした。二国の関係には問題がなかった。インドネシアを占領した日本軍はいよいよマレーの虎に向かおうとしていた。
その日本軍の前にある者が来た。それは誰かというと。
タイだった。彼は微笑んで集結している日本軍の前に来た。インドネシアだけでなくトンガ、そしてマニラからも艦隊が集められようとしていた。マニラ侵攻からまだ二月程しか経っていない。
その彼等のところにタイが来てだ。微笑んでこう言ってきたのだ。
「東郷さんと日本さんはおられますか」
「あれっ、貴方は確か」
「タイさんですよね」
「はい、そうです」
微笑みのままだ。タイは日本軍の将兵達に答える。
その彼の前にだ。来た提督はララーとキャシーだった。
二人は怪訝な顔になってだ。こうタイに述べた。
「確かタイさんって中立国だったけれど」
「何かあったのかよ」
「あっ、貴女達のことは聞いています」
タイは二人の元連合軍の提督達に対して述べた。
「日本軍に入られたのですね」
「スカウトされてね」
「あたしは。まあそれがルールだしね」
捕虜になりたくなければ敵軍に入る、この世界でのルールに従ってだ。キャシーは日本軍に加わったのだ。
「それで今は日本軍にいるのよ」
「そういうことだよ」
二人もこうタイに話す。
「で、それでだけれど」
「長官と日本さんに用があるって?」
「はい、そうです」
穏やかに微笑んだままだ。また言うタイだった。
「それでどちらにおられますか」
「うん。長門にいるよ」
「日本さんも今確かそこだよ」
長門の艦橋は日本海軍の総司令部になっている。それでなのだ。
「じゃあ今から案内する?」
「そうしようかい?」
「お願いします」
タイは微笑んで二人の好意を受けた。そうしてだった。
タイは東郷、そして日本の下に向かうのだった。これがまた世界を大きく動かすことになる。
日本はまさに破竹の進撃だった。そのことについてだ。
ドイツはレーティアの前でだ。こう述べていた。
「今のところ日本帝国軍は順調だ」
「そうだな。まさにな」
「このままいけばマレーも手に入れられるとのことだが」
「そこまではいけるだろう」
レーティアは淡々としてドイツに答える。
「マレーまではな。そして四国まではな」
「しかしだ」
「そうだ、しかしだ」
そこまでだという意味だった。レーティアの今の言葉は。
「そこで終わりだ」
「進撃は止まるか」
「戦力、いや国力がない」
日本の弱点もだ。レーティアは把握していた。そのうえでの言葉だ。
「インドまで行けるかというと」
「危ういか」
「その為にエルミーを向かわせたが」
だがそれでもだというのだ。
「果たしてな。潜水艦を使いこなせるか」
「それにかかっているか」
「使いこなせてもやはりインドやアラビアまでは攻められるが」
だが、だというのだ。
「ハワイ、ガメリカとの戦いではだ」
「敗れるか」
「間違いなくな。ハワイは難攻不落だ」
ガメリカ軍の太平洋における最大の軍事拠点だ。艦隊が多いだけではない。
防衛兵器も多い。だからだった。
「日本軍がどれだけ頑張ろうともだ」
「無理か」
「そこで敗れる」
レーティアはそのことを確実視していた。
「後は雪崩を打って敗れていく」
「そして終わりか」
「そうなる。だから我々としてはだ」
ドクツとしてどうするのか。レーティアは本題に入った。
「日本がガメリカに敗れる前に為すべきことをしておこう」
「バルバロッサ作戦か」
「日本の降伏までにソビエトを倒す」
レーティアは言い切った。
「そして東欧とユーラシアの大部分を領有してだ」
「次に再びか」
「アシカ作戦だ。エイリスを倒す」
「あの国を倒しそして」
「ソビエトとエイリスを倒しその全ての星域を領有すれば世界の半分になる」
それだけのものがあった。その両国を倒せば。
「おそらく日本はガメリカに降伏させられればだ」
「どうなる。あの国は」
「我々への尖兵になる」
ガメリカとしてはソビエトのそれにするつもりだが相手が違うだけだった。
「その際。これまでの友邦と戦うことは気が引けるが」
「そうなれば仕方がないか」
「倒すだけだ。わかったな」
「わかった」
確かな声でだ。ドイツも頷いた。
そのうえで今度は彼からレーティアにこう述べた。
「ではバルバロッサ作戦の用意だな」
「一気にモスクワまで攻める」
ロシア平原からだというのだ。
「モスクワを陥落させればそれで終わりだ」
「後は勢いに乗り」
「ウラルもチェリノブイリも陥落させていく」
まさに勢いに乗ってだった。
「その為に防寒用意もしているからな」
「有り難い。フィンランドから聞いたが」
「ソビエトの寒さは当初私が考えていた以上だったな」
「あの国は冬将軍で勝ってきた国だ」
しかもその冬将軍は具体的に身体としてある。
「防寒対策は欠かせない」
「それを考えると北欧での戦いはいい経験になった」
「あの辺りもかなりの寒さだたっただけに」
「そうだな。ではだ」
「このままバルバロッサ作戦の準備を進めていく」
ドイツは確かな声でレーティアに述べた。
「全ては予定通りだな」
「順調だ」
レーティアはドイツの言葉に満足している面持ちで答えた。
「全ては私の計画のままだ」
そう進んでいると言ってだ。レーティアも彼女の仕事にかかる。だがだった。
その仕事はかなりの量だった。それを一人でやっていた。まさにドクツの全てのことを彼女一人が決裁していた。書類だけでもかなりのものだった。
そのことについてだ。ドイツ妹がふとグレシアに尋ねた。
「総統閣下ですが」
「レーティアがどうかしたの?」
「はい。仕事が多過ぎるのでは」
少し心配になっている顔でだ。こう言ったのである。
「朝早くから深夜まで働いておられますね」
「そうね。レーティアは真面目な娘だから」
「その事務処理能力もかなりのものですね」
「その方面でも天才なのよ」
グレシアは微笑んでドイツ妹に答える。
「あの娘はね」
「はい。ですが」
「それでも仕事が多過ぎるっていうのね」
「あれではまるで始皇帝です」
中帝国の最初の皇帝の名前が出た。
「歴史書にありましたが」
「ああ、始皇帝ね」
「宣伝相も御存知ですね」
「勿論よ。教科書に絶対に出て来る人だから」
軽い、彼女らしい調子でだ。グレシアはドイツ妹に答える。
「凄い量の仕事をしていたらしいわね」
「始皇帝は過労で死んだという説があります」
ドイツ妹はその顔に出ている心配の度合いをさらに強くさせていた。
「ですから」
「確かにね。レーティアは連日連夜かなり働いているわね」
「コンサートのこともありますし」
「アイドルは分刻みのスケジュールだけれど」
しかもレーティアは只のアイドルではない。今や人類社会を席巻するドクツの総統なのだ。
それだけにだ。その仕事の量はというと。
「あの娘はまた特別だからね」
「少し休んで頂いた方がいいのでは」
「そうね」
その通りだとだ。グレシアもドイツ妹の言葉を受けた。そうしてだった。
こうだ。ドイツ妹に対して述べた。
「レーティアは仕事の量を減らさない娘だけれど」
「それでもですね」
「休憩時間、特に睡眠時間を増やすようにするわ」
「スケジュールの調整ですね」
「そうしましょう。レーティアあってのドクツだから」
「はい、そうですね」
ドクツはまさにそうだった。レーティア一人が動かしていた。そうした意味で究極の独裁国家なのだ。言うならばソビエトと同じなのだ。
「少しでも休んで頂いて」
「あと食事ね」
「総統は菜食主義者ですね」
「ええ。お肉もお魚も口にしないわ」
「ではどうされますか」
「料理の献立なら任せて」
グレシアは確かな顔で微笑んでドイツ妹に答えた。
「そういうことも得意だから」
「宣伝相はお料理ができたのですか」
「女よ。それも独身の」
「だからですか」
「お料理をしないではいられないのよ」
スーパー等で買って済ませることもできるがそれでは栄養が偏り尚且つ高くつく。グレシアは元々百貨店の店員、市井の人間なのでそうした経済感覚なのだ。
「だからよ」
「わかりました。ではそれも」
「とにかく。勤勉な娘だから」
グレシアはここでは少し溜息を出した。
「ちょっと油断したらね」
「働き過ぎになりますね」
「ええ。そこが問題ね」
こんな話をしてだ。レーティアの体調管理についても考えられてきていた。だがバルバロッサ作戦、ドクツの命運を賭けた戦いの前にそうも言ってはいられなかった。レーティアは働き続け休息の時はグレシア達が考えている様には取れなかった。
ドクツは確かに邁進していた。しかしその邁進の柱の軋みは誰も気付かなかった。しかしその軋みは確実に表に出る時を待っていた。
TURN35 完
2012・6・19
日本、今の所は順調に勢力を広げているな。
美姫 「そうね。このまま行く事が出来ればいいけれどね」
流石にここからは難しくなりそうだな。
美姫 「同盟国のドクツの方も順調そうだけれど」
こちらはレーティアが崩れると危ないからな。
美姫 「グレシアが気を使ってはいるけれど」
果たしてどうなるか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。