『ヘタリア大帝国』




                               TURN29  開戦前夜

 中国は重慶でシュウ皇帝の前で報告をしていた。その報告は。
「いよいよある」
「そうか。ガメリカと日本が遂にか」
「エイリスもある。ただソビエトは動かないある」
「あの国はそうだと思っていた」
 ソビエトに対してはだ。皇帝は素っ気無くこう答えた。
「どうせ我々の戦いの成り行きを高みの見物といっているのだろう」
「おそらくは」
 中国はその両手で明の字を作る中帝国の礼をしながら上司に話す。
「そうあるかと」
「ではよい。どうせこの戦争の後でだ」
「ソビエトと、あるな」
「あの国とはどのみち相容れない関係にある」
 中帝国の伝統だった。それは最早。
「北の国だからな。どの様なことを言ってもな」
「北の遊牧民族こそは我が国の宿敵ある」
 中国が国家として意識を持ってからだ。それは変わらないことだった。
「だからあるな」
「その通りだ。祖国子は朕よりわかっていると思うが」 
 長く生きているだけにだ。それでだというのだ。
「ロシアとも仲が悪かったな」
「原始の八国の中では一番ある」
 このことは中国も否定しない。そうだというのだ。
「あいつは油断ならない相手ある」
「朕も同じ考えだ。ロシアはな」
 皇帝は玉座に座りながら述べていく。
「危険だ。しかも共有主義なるものは絶対に国の中に入れるな」
「そうした意味でリンファの日本への投降は幸いだったあるな」
「有能な女だがな」
 皇帝は少しばかり微妙な顔になってこうも言った。
「共有主義だけは駄目だ」
「だからこの戦争の後は」
「日本にソビエトをぶつける考えはいい」
 皇帝としても中帝国としてもだというのだ。
「夷を以て夷を制すだ」
「そうするあるな」
「それでいこう。まずは日本とガメリカが戦争に入り」
 そしてだというのだ。
「日本がガメリカとの決戦で敗れた時にだ」
「我が国も反撃あるな」
「満州を含めた全ての領土を奪還するぞ」
「その為にも今は」
「戦力を蓄えておくのだ」
 戦力の回復、それに専念するというのだ。
「わかったな。そうするぞ」
「わかったある。では今はそれに徹するある」
「そうするのだ。最早リンファとランファはいない」
 中帝国の武の二枚看板はだというのだ。
「祖国子と妹子だけが頼りだ。頼むぞ」
「お任せあるよ」
 中国はまた両手で明の字を作って礼をした。彼等は時を待っていた。
 そしてそれはエイリスも同じだった。ドクツとの決戦を首の皮一枚で凌いだ彼等は壊滅状態になった戦力の回復に務めながらその時を待っていた。
 セーラはまだ腕や頭に包帯を巻いている。だがそれでも会議に出席していた。
 そのうえでだ。その会議の場でこう列席者達に述べた。
「間も無く我が国と日本帝国は戦争状態に入ります」
「そうか、いよいよか」
「日本とも開戦ですね」
 イギリス兄妹がセーラの言葉を聞いて呟く。
「欧州だけでなく太平洋ともか」
「我々は戦うことになりますか」
「我が国は植民地を守ります」
 これがエイリスの戦争目的だった。
「何としても。ですから開戦と共に」
「太平洋に艦隊を送るのですね」
「はい」
 その通りだとだ。セーラはネルソンの問いに答える。
「開戦して即座にです。ただ」
「今すぐには送れませんか」
「戦力の回復にもう少し時間がかかります」
 その為だ。送りたくとも送れないというのだ。
「艦隊のダメージが回復し次第」
「それからになりますか」
「送る艦隊と指揮官の人選はその時に行います」
 セーラはネルソンに答えながらだった。
 そのネルソンにロレンス、今会議に列席しているもう一人の騎士提督を見て述べた。
「ただ。貴方達のどちらかに行ってもらうことになります」
「わかりました。ではその時は」
「日本との決戦に赴きましょう」
「頼みます。日本は我が国から見れば小国ですが」
 だがそれでもだとだ。セーラは侮らない顔で述べていく。
「原始の八国の一つでありこれまで本土を死守してきています」
「正直な、あいつは強いぜ」
 イギリスもそのことは言う。見ればこの会議に参加しているのは彼と妹にセーラと騎士提督達、そして王族の面々だけだった。植民地の国々はいなかった。
 その彼がだ。こう言うのだった。
「ロシアにも勝ってるしな」
「そして中帝国にもですね、今現在」
「土壇場になったらすげえ底力を発揮するんだよ」
 それが日本だというのだ。
「俺は直接やり合ったことはないけれどな」
「はい、あの方は強いです」 
 妹もだ。冷静な顔でこう述べる。
「ですから油断はなりません」
「貴族達は違うみたいだよ」
「議会はそうは見ていないわね」
 マリーとエルザ、二人は貴族達のことを話した。
「あの人達は日本帝国との戦争に入ってもね」
「植民地の艦隊だけで充分と思ってるわね」
「無理です」
 即座にだった。セーラは否定した。
「日本帝国は強いです。植民地艦隊ではとても」
「僕もそう思うんだけれどね」
 マリーは難しい顔になって姉に話した。
「あの人達はそう思っていないから」
「というか根拠なくエイリスが最強だと思ってるのよ」
 エルザはいささかシニカルに述べた。
「最近ガメリカに押されてる状況なのにね」
「ですか。ここはです」
 どうかとだ。セーラは真面目な顔で話していく。
「貴族達は無視してです」
「精鋭を送りますか」
「そして然るべき数の艦隊を」
 こうネルソンにも答える。
「そうします」
「それでいいかと」
「今暫くドクツは攻めて来ないでしょう。今の間にです」
 戦力を回復させて。そしてだというのだ。
「日本とも戦いましょう」
「できれば早いうちに終わらせたいな」
 イギリスは真剣に自分の望みを言った。
「さもないとな。この状況が続くとな」
「国力を消耗するばかりです」
 妹も言う。
「長期戦は避けたいです」
「全くだ。そうも言っていられないかも知れないけれどな」
「できれば、ですね」
「本来ならガメリカや中帝国と共同して日本帝国を一気に倒したいのですが」
 セーラは沈痛な顔になって述べた。
「しかしそれは」
「あの連中はむしろ敵だからな」
 イギリスは苦い顔になっていた。
「俺達が一旦太平洋から追い出されるのを待ってるんだよ」
「その通りです。彼等にとって植民地はです」
 どういったものかということもだ。セーラはここで言った。
「唾棄すべきもの。搾取の対象に他ならないのですから」
「独立させてそうしてな」
「彼等の考える太平洋経済圏に組み込もうとしています」
「だからあいつ等の協力は仰げないんだよ」 
 イギリスはこのことを言った。
「絶対にな。太平洋では俺達だけで戦うしかないんだよ」
「そうです。ですから我が国は然るべき戦力を送らなければなりません」
「俺も行くぜ」
「私もです」
 イギリス兄妹も名乗りを挙げる。
「何とか植民地は守るからな」
「日本帝国にも勝ちましょう」
「では今日の会議はこれで終わりです」
 セーラは静かに述べた。
「後はそれぞれの職務に戻って下さい」
「はい、それでは」
 騎士提督達が頷きそうしてだった。彼等は解散した。エイリスもまた日本帝国との開戦の時を待っていた。
 オフランスは何とかマダガスカルで命脈を保っていた。だが。
 マダガスカルの暑さにだ。フランスはたまりかねた顔になっていた。
 そしてその顔でだ。こう妹達にぼやいていた。
「流れ流れて仮寝の星にってな」
「流れ着いたというのですね」
「ああ、全くだぜ」 
 そのダークブルーの軍服の暑さもあってそれにも苦しみながらだ。フランスは妹に話していた。
「どうなんだろうな。本当に」
「仕方ないけれどね」 
 フランス妹の他にセーシェルもいた。その彼女が言ってきた。
「負けたから」
「随分あっさりと言ってくれるな」
「だって事実だから」
 セーシェルはあっけらかんとさえなってフランスに話す。
「フランスさんドクツに負けたからね」
「まあな。それでここまで流れ着いてな」
「じゃあここで頑張るしかないよ」
「だよな。しかしここはな」
「ここは?」
「人間以外の種族がいるからな」
 見ればその熱帯の海岸にだ。オフランスの軍人達の他にだ。
 アライグマが二本足で立っている様な外見、尻尾まである種族が薄着で歩いている。その彼等を見ての話にもなった。
「確かあの連中は元からここにいるんだよな」
「はい、そうです」
 その通りだとだ。フランス妹が兄に答える。
「パルコ族といいます」
「ガメリカのところのアライグマみたいだな」
「そうですね。確かにそっくりですね」
「まあ。仲よくやってるよな」
「私とは仲いいよ」  
 セーシェルが答えてきた。
「だから安心していいよ」
「御前とはかよ」
「うん、だって私の国の人達だからね」
「セーシェルとマダガスカルの原住民なんだな」
「そうだよ。面白いでしょ」
「まあな。それにしてもマダガスカルっていってもな」
 どうだったかというのだ。これまでのフランスの対応は。
「これといって意識もしてこなかったな」
「植民地ではありましたが」
「何ていうかな」 
 どうだったかとだ。フランスは妹に話す。腕を組み微妙な顔になっての言葉だった。
「バカンスの土地位しか思ってなかったな」
「はい、確かに」
「セーシェルと一緒でな」
「しかし今はですね」
「ああ、俺達にはもうこことセーシェルしかないからな」
 ドクツとの戦いでの敗戦で本土を失いだ。その結果だった。
「だから仕方ないな」
「そうなりますね」
「ここで頑張るか。本土が戻るまでな」
「エイリスが奪還してくれるでしょうか」
「それかガメリカがな。けれどそれもな」
 また難しい顔になってだ。フランスは溜息を出した。
「自分の力できないってのがな」
「そのことですか」
「ああ、残念っていうかな」
「情けないですか」
「俺結構弱いって思われるよな」
「はい」 
 妹はここでさらっとだが確かにだ。兄に容赦のない言葉を告げた。
「確かにそう思われてますね」
「だよな。やっぱりな」
「負けることが多いですからね」
「前の戦争でもやられっぱなしだったしな」
 第一次宇宙大戦の時の話だ。
「俺な。ドクツ帝国ができる前もな」
「プロイセンさんに一撃でしたね」
「トータルで言うとな」
 敗戦の方が多い。実はフランスはそうだった。
「どうしたものだよ。本当に」
「そして今回もですね」
「何とかマダガスカルだけは守らないとな。セーシェルとな」
 切実になっていた。それもかなり。
「ここに日本なりドクツなりが来てもな」
「はい、それではですね」
「何とか守り抜こうね」
「さて、それじゃあな」
 妹達と話してだ。そのうえでだった。
 フランスはここで話を変えてきた。その話はというと。
「摂政殿下になってたよな、今は」
「はい、代王です」
「そうなってるよ」
「あの人に会って来るな」
 こう言いだしたのだった。
「今うちにはあの人しかいないからな」
「そうですね。王族の方でオフランスに残っているのは」
「あの人だけだよ」
「他の人は全員ドクツの捕虜になって軟禁させらてるからな」
 身の安全は保障されている、だがだったのだ。
「あの人がたまたまセーシェルのところにいてよかったぜ」
「はい。全くです」
「運がよかったね」
「とはいってもな」
 フランスはまたぼやいた。ここで再び。
「あの人は悪い人じゃないんだけれどな」
「政治や軍事のことはですね」
「何も知らなかったからね」
「ああ。今俺がどっちも教えてるよ」
 国家としてだ。そうしているというのだ。
「飲み込みは早いけれどそれでもな」
「はじめに何も知らなかったというのは」
「そのことはまずいよね」
「結構以上にな」
 フランスは首を傾げさせながら話す。
「不安なんだよな」
「あの方はおっとりとされていますし」
「戦争にも不向きだよね」
「ああ、本当に大丈夫かよ」
 こんなことを言いながらだった。フランスはその自分の今の上司のところに向かった。
 そこには白い欧州のドレスと帽子、それにパラソルで着飾った青い髪の女性がいた。
 青い髪は長くさらりとしている。髪と同じ色の目は楚々としており白い肌はきめ細かい。鼻立ちはよく細長い顔は極めて整っている。全体的に無邪気でおっとりとした感じだ。
 その彼女がオフランス軍の軍人達と共にいた。その彼女のところに来てだ。
 フランスは陽気な顔になってだ。こう告げたのだった。
「よお、元気かい?」
「あっ、祖国さん」
「どうだい、調子は」
「はい、私は元気です」
 スカートの両側をそれぞれ摘まんでだ。美女は彼に礼をしてきた。
「祖国さんもですね」
「ああ、俺はいつもと同じだぜ」
 フランスは右目をウィンクさせてこの美女シャルロット=バルトネーに答えた。オフランス王国先王の第四王女に生まれている。おっとりと育てられた箱入り娘だ。 
 しかし今は摂政としてフランスに軍事や政治の教育を受けている。筋はいいがまだまだ素人である。
 その彼女にだ。フランスはこう言ったのだった。
「もうすぐ勉強の時間だけれどな」
「はい、今日は法学でしたね」
「ちゃんと予習復習はしてるよな」
「私なりに」
 そうしているとだ。シャルロットは微笑んで答える。
「努力しているつもりです」
「ならいいがな。じゃあな」
「はい、今からお願いします」
「それじゃあな」
 こう話してだ。フランスはシャルロットと共に彼女の部屋に入る。だが。
 ここで軍人達がだ。こう自分達の祖国に言ってきた。
「ところで祖国殿」
「一つお話したいことがあるのですが」
「んっ、何だよ」
「はい、どうも近頃です」
「原住民の者達が」
「何だよ、パルコ族がどうかしたのかよ」
 フランスは彼等の言葉から政治、しかも厄介なものを感じ取った。そうしてだ。
 そのうえでだ。こう言ったのだった。
「独立とかか?その話なら戦争の後で協力してくれるんならな」
「それですが」
「確約はしてくれるのかと」
「別に約束を破るつもりなんてないからさ」
 フランスは少しうんざりとした顔で述べた。
「だってな。こっちだってな」
「はい、マダガスカルにセーシェルを領有していてもです」
「最早観光地でしかありませんから」
「それなら独立してもらって友好関係であった方がいいからな」
 フランスにとって植民地とはもうそういうものに過ぎなかった。今では。
「イギリスみたいに植民地にも頼ってないことはな」
「彼等に言っておきましょうか」
「我々から」
「いや、俺から言うさ」
 フランス自身でだ。そうするというのだ。
「だからあんた達は自分達の職務をちゃんとやってくれ」
「了解です」
「それでは」
「ああ。まあ暫くはここにドクツも日本帝国も来ないさ」
 その点は安心していいというのだ。
「だから今のうちにな」
「戦力を回復させましょう」
「せめてマダガスカルとセーシェルを防衛出来るだけの戦力を整えなければ」
「その為にはな」
 どうかというのだった。
「あの連中の力も欲しいからな」
「正直我等だけではどうにもなりません」
「戦力が少な過ぎます」
「そうなんだよな。ったく連合国っていってもな」
 どうかとだ。フランスはぼやきもした。
「俺だけボロクソだな」
「まあそれは言わないということで」
「それでお願いします」
「言っても仕方ないしな」
「では、ですね」
「今からシャルロット様と」
 こう話してだ。そのうえでだった。
 フランスはシャルロットに政治や軍事を教えるのだった。確かに彼女はまだまだ疎い。
 しかしそれでも努力して学び飲み込みもよかった。フランスもこのことは満足していた。
 勉強の時間が終わり夕方になる。その時にだった。
 フランスとシャルロットの前にこの星域の原住民達がいた。そのアライグマそっくりの面々がだ。
 彼等はフランスとシャルロットに頭を下げてだ。こう言ってきた。
「こんばんは、祖国さんに摂政さん」
「元気そうだね」
「ああ、まあな」
 フランスが彼等に鷹揚に返す。
「ただ俺はあんた達の祖国じゃなくてな」
「セーシェルさんだね」
「あの人がだっていうんだね」
「どっちかっていうとそうだろ」
 彼等はセーシェルにもいる。元々そこからマダガスカルに来ているのだ。
「俺じゃなくてな
「確かに。そうだけれどね」
「まあセーシェルさんも祖国ってことでさ」
「フランスさんも祖国ってことで」
「それでいいんじゃないか?」
「そうなるか。けどこの戦争の後はな」
 どうなるかをだ。フランスは彼等にも話した。
「マダガスカルは独立ってことでね」
「約束したからね」
 パルコ族の中で赤茶色の毛のでかい女が出て来た。
「それでいいね」
「ああ、俺にしてもな」
 それでいいというのだった。フランスも。
「約束は守る主義だからな」
「それじゃあそういうことでね」
「あの」
 ここでだ。シャルロットがおずおずと言ってきた。
「そちらのパルコ族の方は」
「ああ、この人がかい」
「そうさ。今の俺の上司だよ」
 摂政になるからだ。そうなるというのだ。
「シャルロット=バルトネーさんだよ」
「そうかい。シャルロットさんだね」
「たまたまセーシェルのところにバカンスに来ててな」
 それでドクツに捕まらずに済んだのだ。
「まあ俺達がここまで逃げた時にな」
「上司になってもらったんだね」
「そういうことだよ。悪い人じゃないからな」
「確かにね」
 パルコ族の女、ビルメから見てもだった。
 シャルロットは悪人には見えなかった。だがそれと共にだ。
 彼女の世間知らずなところも見抜いた。それでそっと同胞達に囁くのだった。
「前の王様よりずっとましだけれどね」
「ええ、そうですね」
「頼りないですね」
「筋はいいみたいですけれどね」
「世間知らずですよね」
 パルコ族の面々もこう言うのだった。そのシャルロットを見て。
「大丈夫ですかね」
「結構やばいんじゃ」
「美人だけじゃ今は戦えませんから」
「まあ祖国さんはちゃんと家庭教師をしてるみたいですから」
「さまにはなりますかね」
「ああ、そこひそひそ話はなしでな」
 フランスが彼等に注意した。
「とりあえずこの戦争が終わったらあんた達も独立だよ」
「セーシェルさんもですよね」
「あの人も」
「ああ。仲良くやってくれよ」
 フランスはこう彼等に話す。その横でだった。
 シャルロットはビルメの前に来てだ。こう笑顔で言うのだった。
「ふかふかですね」
「ふかふか?」
「はい、毛が」
 ビルメの見事な毛並みを見ての言葉だ。
「それに手も。お言葉ですが可愛いですね」
「あたしはもう可愛いって言われる歳じゃないよ」
「あっ、すいません」
 ビルメに言われてだ。シャルロットは恐縮で応えた。
「私ったらつい」
「いいけれどね。とにかくあんたがだね」
「はい、今現在のオフランス王国の国家元首を務めさせて頂いています」
 言いながらだ。シャルロットはスカートの両端を摘まみあげた。
 そのうえで貴族の淑女の一礼をした。そしてこう言うのだった。
「シャルロット=バルトネーです。宜しくお願いします」
「こちらこそね。ビルメだよ」
「ビルメさんですか」
「一応フランスさんのところの国民になるよ」
「セーシェルさんのところから来られたのですね」
「まあね。あたし達の種族のルーツはそこにあるよ」
 ビルメからもこのことを話す。
「まあそういうことでね」
「はい、こちらこそ」
「しかし。この祖国さんからねえ」
 ビルメはフランスを横目で見てこんなことを言った。
「こんな娘が上司として出て来るとはね」
「そうですよね。凄い違和感ですよね」
「俺達の祖国さんって変態だから」
「この島でもしょっちゅう裸になるし」
「男の裸なんて見たくもないのに」
「迷惑なんだよね」
「だから俺はこの戦争では言われる役かよ」
 フランスはうんざりとした顔になりパルコ族の面々に言い返した。
「ったくよ。損な役回りだよな」
「そうならない為には勝つことだね」
 ビルメは今の自分の祖国にも何の容赦もなかった。
「いいね。勝つんだよ」
「ああ。じゃあ協力してくれな」
「できるだけのことはするよ。それじゃあね」
 こうした話をする一行だった。そして。
 話が一段落したところでだ。シャルロットがまた言ってきたのだった。
「ところで今夜ですけれど」
「今夜?」
「今夜っていうと?」
「はい。皆さんで舞踏会なぞはどうでしょうか」
 無邪気な感じでだ。フランスとパルコ族の面々にこう提案したのである。
「お互いの親睦を深める為にも」
「舞踏会だって?」
 シャルロットの今の言葉にはだった。ビルメも少しきょとんとなった。
 それでいささか戸惑いながらだ。こう彼女に問うたのだった。
「あんた。あたし達と舞踏会かい?」
「オフランスの文化もここで根付くと思いますし」
「オフランスねえ」
「はい。どうでしょうか、悪い提案ではないと思いますが」
「そうだね」 
 ビルメは即答を避けた。その代わりにだった。
 また横目を使った。フランスをちらりと見てこう尋ねたのだった。
「どう思うんだい?」
「ちょっとな。この展開はな」
「祖国さんも予想してなかったみたいだね」
「知ってると思うがオフランス系の国民の中にはあんた達と折り合いの悪いのもいるからな」
「ああ、そうだね」
「だからな。舞踏会っていってもな」
「今までそんなのに出たことなかったよ」
 ビルメにとっては縁のないことだった。それも全く。
「だからこんな話を振られてもね」
「困るっていうんだな」
「その通りだよ」
 こうフランスに囁くのだった。
「意外過ぎる展開だよ」
「俺もだよ。けれどな」
「祖国さんは賛成なんだね」
「確かに悪いアイディアじゃないな」
 シャルロットが自分で言う様にだ。そうだというのだ。
「じゃあいいか。舞踏会やるか」
「そうだね。ただね」
「ん?ドレスなら貸すぜ」
「違うよ。セーシェルさんはいいとしてね」
 ビルメは今度はフランス自身に対して言うのだった。
「祖国さん、あんたまた裸にならないだろうね」
「おい、言うのはそれかよ」
「あんた何かあったら絶対に裸になって暴れるからね」
 何度も前科があった。それがフランスだ。
「エイプリルフールとかクリスマスの度に無茶苦茶やってるだろ」
「よく知ってるな」
「祖国のことだからね」
 だから知らない筈がないというのだ。
「全く。困った祖国さんだよ」
「だから俺本当にぼろくそだな」
「言われる様なことするからだよ。けれどね」
「舞踏会自体はいいんだな」
「誘われたら乗るのが礼儀だよ」
 だからいいとだ。ビルメも誘いに乗ることにした。
 こうしてシャルロットの提案でオフランスの面々とパルコ族の共同の舞踏会が行われた。だがフランスは裸になりそうになったところで妹とセーシェル、ビルメに括られて動けなくなった。オフランスの面々はこんな感じだった。
 ガメリカでは四姉妹達がアメリカ妹にこう話していた。いつもの定例会議ではなく昼食を一緒に食べた後の憩いの時間を使ってだった。
 ハンナはコーヒーカップを片手にアメリカ妹に言った。
「これで全て手は打ったわ」
「後は日本が宣戦布告してくるだけだね」
「ええ。まずはハワイまで戦線は縮小することになるわ」
 そのことも既に織り込み済みだというのだ。
「そして最低でもベトナムまでは彼等が『解放』してくれるわ」
「あの辺りの国が全部エイリスから独立するんだね」
「それからよ。日本帝国の戦力が限界に達したところで」
 まさにだ。その時にだというのだ。
「反撃に出て一気に潰すわ」
「で、後は日本はソビエトとの一騎打ちよ」 
 キャロルは実に勝手に日本の戦略を決めていた。
「精々殺し合ってもらえばいいわね」
「ええ。ガメリカの最大の敵は共有主義だから」
 クーもここで言う。
「日本とは戦いになってもそれでも」
「完全に叩くことはしないわ」
 ハンナは頭の中でこれからの戦略を描いていた。ガメリカの戦略を。
「まあ日本が余力を残した状況で降伏させてね」
「それでそのうえで」
「ソビエトとの最前線を受け持ってもらうわ」
 ハンナはクーにも述べた。
「そしてその間に私達は」
「独立した東南アジアやオセアニアの連中も入れてだね」
「ええ。中帝国と組んで太平洋経済圏を作るわ」
 ハンナはまたアメリカ妹に話した。
「そういうことでいいわね」
「いいよ。まあ日本には恨みはないけれどね」
「あたしはあるけれどね」
 キャロルはむっとした顔でアメリカ妹にこう言った。
「あの東郷にはね」
「そうね。お陰でね」
 ハンナもキャロルの今の言葉には微妙な顔になる。
 そしてそのうえでだ。こう言うのだった。
「あの人がいなくなったから」
「そうよ。あの長官には思い知らせてやるんだからな」
 キャロルはいささか子供じみた感じになっていた。
「本当にね。どうしてやろうかしら」
「まあ引っぱたく位でいいんじゃない?」
 アメリカ妹はそんなキャロルの横に来てだった。
 むくれている彼女の肩をぽんぽんと叩いてだ。笑ってこう言った。
「きついことはなしだよ」
「わかってるわよ。あたしも処刑とかはしないから」
「だといいよ。とにかくもうすぐだね」
「そう。開戦」
 ここでようやくだった。ドロシーが口を開いた。
「我が国は日本帝国との戦いに入るわ」
「主な戦場は太平洋よ」
 ハンナは悠然と座りそこから言った。
「妹さんにも頑張ってもらうことになるわ」
「任せてよ。兄貴と一緒に日本を倒してやるさ」
 アメリカ妹は右目をウィンクさせてハンナに応えた。
「そして太平洋経済圏だね」
「ええ。ガメリカのものを大規模に売るわ」
 これがガメリカの狙いだった。彼等はあくまでビジネスを考えていたのだ。
「けれどその前にね。植民地と中帝国と衝突する日本帝国を何とかしないといけないから」
「戦争をするってことだね」
「そういうことよ。あくまでこれは政治よ」
 ハンナは戦争を政治の一手段と割り切っていた。
「プレジデントも軍の増強にサインをしているわ。後は開戦だけよ」
「できるだけ日本とは早いうちに講和したいけれど」
 クーは少し弱気な感じで述べた。
「こちらの準備が完全に整ってからハワイからあの国の本土まで攻めるべきね」
「一戦で海軍は叩きのめすわよ」
 キャロルは胸を張ってだ。そうすると言い切った。
「連中の海軍はね。それでよね」
「植民地の独立は既成事実にするわ」
 またハンナが言った。四姉妹の話し合いはやはり彼女が軸になる。
「エイリスには飲ませるわ」
「だからエイリスには積極的に援助をしない」
 ドロシーは淡々として述べた。
「力が残っていれば植民地の奪還に動くし私達の言うことを聞かないから」
「精々ドクツと潰しあってもらうわ」
 ハンナも冷淡なまでにクールに言う。
「もうあの国の時代は終わらせるわ」
「というかね。植民地自体がナンセンスよ」
 キャロルは植民地自体を否定していた。
「他の国から搾取して成り立つ経済とかね」
「その通りよ。キャロルが正しいわ」
 ハンナはキャロルのその言葉をよしとしていた。この辺り彼女もガメリカ人だ。
「オセアニアに東南アジアまではね。太平洋だから」
「あたし達の中に入らないとね」
「フィリピンさんと一緒に私達の仲間になってもらうわ」
 ハンナはフィリピンの名前も出した。
「その為にもエイリスには弱まってもらうわ」
「エイリスも災難だね。この戦争でボロボロになるんだね」
 とはいってもだ。アメリカ妹の顔は明るく笑っている。
「それでかなり弱くなるね」
「私達の主な目的の一つはそれだから当然よ」
 ハンナはここでもクールだった。やはり冷淡なまでに。
「エイリスの植民地を私達の経済圏に組み込むことだから」
「けれど直接戦争はできない」
 ドロシーはこの事実を指摘した。
「同盟国だから。一応」
「同盟国っていうならソビエトもだけれどね」
 キャロルの顔がここでまた曇る。
「まあ向こうも一時的なものだって割り切ってるけれど」
「私達の最大の敵はソビエト」
 またドロシーが言った。
「日本でもエイリスでもない」
「正直カテーリンは何とかならないかしら」
 ハンナは顔はそのままだが声を曇らせてきた。
「共有主義になったらガメリカは終わりよ」
「ったく、ロシアの兄妹は前からいけ好かない奴等だったけれどね」
 アメリカ妹も自分の席で腕を組んで困った顔を見せる。
「今は余計にね」
「ええ。最早放ってはおけないわ」
 ハンナのその青い目が光った。
「日本を尖兵にしてね」
「あの国とは全面戦争しかないから」 
 四姉妹の中で最も温厚なクーもソビエトに対しては覚悟を決めていた。
「だから」
「日本との戦争の次が本番よ。いいわね」
 ハンナは他の姉妹の面々とアメリカ妹にこう告げた。
「ソビエトは絶対に潰すわよ」
「ああ、腕が鳴るよ」
 来たるべき戦争に向けだ。実際にアメリカ妹はその指をボキボキと鳴らしていた。ガメリカもまた戦争を待っていた。戦争は刻一刻と近付いていた。
 カテーリンはミーシャとロシアに自分の執務室の机、学校の生徒の机そのままの席からだ。こう言っていた。二人はカテーリンの前に立っている。
「軍の増強よ。絶対にドクツは来るから」
「うん。ゲーペ先生もそう言ってたしね」
「あの国とは戦いになるね」
「とにかく勝てる為に何でもしないといけないから」
 カテーリンは書類にサインをしながら二人に話していく。
「艦艇も増やして。軍人も予備役を現役に戻して」
「けれど定年の人はどうするの?」
「その人達は老人ホームだから」
 このことは変わらないとだ。カテーリンはミーシャにすぐに返した。
「そういうことでね」
「うん。じゃあね」
「ジューコフさんがいる間に戦争が終わればいいね」
 ロシアはわりかし切実な感じでカテーリンに話した。
「ドクツとの戦争は」
「ドクツだけじゃないから」
 それから先もあるとだ。カテーリンは厳しい、子供の顔をそうさせて言った。
「太平洋よ。何あそこ」
「あそこはとんでもない国ばかりだよね」
「日本もガメリカも中もよ」 
 カテーリンは自然にその顔をぷりぷりとさせてきていた。そのうえでの言葉だった。
「あの三国は絶対に許せないから」
「だから次はなのね」
「そう。懲らしめるから」
 ドクツとの戦争で終わりではないというのだ。
「ドクツに勝ったらあの三国をやっつけるからね」
「うん。そうだね」
「僕もそれでいいと思うよ」
 ミーシャとロシアもカテーリンの意見には反対しなかった。
「共有主義を広めないと駄目だからね」
「是非共そうしよう」
「そう。共有主義に反対するなんて許せないから」
 カテーリンはだからだと述べていく。
「帝とか資本家とか全部更正よ」
「そうだね。そうしよう」
「日本君達も全員ソビエトに入れようね」
 ロシアの笑みがだった。ここでだ。
 何か威圧感のある暗いものになった。その笑顔でこう言うのだった。
「あの三人とはこれまで色々あったけれど。家族だよね」
「祖国君が教育してあげてね」
 カテーリンは真面目な顔でロシアに告げた。
「期待してるんだからね」
「そうしてね。それじゃあね」
「うん、じゃあね」
 カテーリンはロシアにこう話した。そしてだった。 
 ミーシャにはだ。こう言うのだった。
「ミーシャちゃん、何か聞いた話だけれど」
「どうしたの?」
「ニガヨモギだけれど」
「あの大怪獣?」
「あれ、コントロールできるって本当なの?」
 かなり興味深そうにだった。カテーリンはミーシャに尋ねていた。
「四国じゃ大怪獣と人が一緒に暮らしてるそうだし」
「ああ、あのことね」
「うん。四国に送っている諜報員から連絡があったけれど」
「それいけそうだよ」
 あっさりとだ。ミーシャはこうカテーリンに答えた。
「巫女を使えばね」
「あそこの原住民の巫女を?」
「そう。あの娘の力を使えばね」
「じゃああいつの出番なの?」
 カテーリンはミーシャの話を聞いているうちに憮然とした顔になった。
 そしてそのうえでだ。こう言うのだった。
「あいつのあのクローン技術で」
「あれなら髪の毛一本あればクローンが造られるからね」
「それはわかってるけれど」
 だがそれでもだとだ。カテーリンはその憮然となった顔でミーシャにこう話した。
「私あいつ嫌い」
「じゃあニガヨモギはそのまま?」
「それは駄目。あの力とスノーさんの力があれば」
 どうかというのだ。
「ドクツ軍に勝てるから」
「じゃあ答え出てるじゃない」
「それでもあいつと会うのは嫌なの」
 カテーリンは今は頬を膨らませてきている。その頬が赤くなっている。
「あいつ変態だから嫌いなの」
「じゃあ僕が一緒に行って会おうよ」
 ロシアはカテーリンをそっと庇ってきた。
「そうしよう。それでどうかな」
「祖国君が?」
「うん、だったら安心できると思うから」
「そうね。それじゃあ」
 カテーリンもだった。彼のその言葉に頷く。
 ようやく落ち着いた顔になりだ。こう言った。
「じゃあ一緒に来てね。あいつのところに」
「うん、それじゃあね」
「祖国君がいてくれたら」
 どうかというのだ。カテーリンも。
「安心できるから」
「そう言ってくれるんだ」
「だって。私の祖国だから」
 だから安心できるというのだ。カテーリンにしても。
「安心できない筈ないじゃない」
「そう言ってもらえると僕も嬉しいよ」
「それじゃあね」
 ここでだ。カテーリンはミーシャとそのロシアに言った。
「四国からクローンを手に入れて」
「うん、それでね」
「ニガヨモギも使える様にしようね」
 ソビエトは彼等の切り札を手に入れようとしていた。彼等も手を打っていた。
 開戦の時が迫ろうとしているその中でだ。アメリカはというと。
 ハルゼーと共にカナダを訪問していた。だが、だった。
 アメリカは首を捻りながらだ。こうハルゼーに言うのだった。
「カナダとは付き合いが深い筈なんだがな」
「祖国さんが幼い頃からの関係でしたね」
「そうだぞ。だがな」
「印象は薄いですか」
「そうなんだ。どういった奴だったかな」
 付き合いの長いアメリカでもだ。カナダについてはこうだった。
「覚えてないな」
「実は私も」
「そうか。君もか」
「カナダと言われましても」
 ハルゼーは微妙な顔になりそのうえでアメリカに答える。
「どうも」
「何故こんなに影が薄いんだ?」
「華がないからだと思います」
 ハルゼはー的確だが残酷な事実を指摘した。
「それ故にですね」
「そうか。カナダは華がないのか」
「その辺りは祖国さんや長官とは違いますね」
「ダグラスか。彼は華があるな」
 これはアメリカから見てもだった。誰に映画スターではなかった。
「それもかなりな」
「そうですね。国家も目立てなければ」
「意味がないか」
「そう思います」
「そうか。国家もだな」
 アメリカはハルゼーのその話に心から納得した。そうした話をしながらだった。
 今はカナダ原住民のコロニーを見回っていた。そこは森の多い場所だった。
 その中にいてだ。彼はハルゼーにこう言った。
「カナダには森が多いな」
「ですね。そしてこのコロニーにです」
「ドロシーが研究所を置いているぞ」
「カナダさんに認めてもらいました」
「認めてもらったのかい?」
「気付けばカナダさんはサインをしていたそうです」
 ドロシーも気付かなかったのだ。カナダの存在に。
「ノイマン嬢から見てもカナダさんの影は薄い様です」
「やれやれだな。しかしカナダも連合国の一員らしいぞ」
「えっ、そうだったのですか?」
 そう言われてだ。ハルゼーはというと。
 彼女が滅多に見せない心から驚いた顔でだ。こうアメリカに問い返した。
「カナダさんは連合国だったのですか」
「そうだったらしいぞ。僕も会議で一度も見ていなかったがな」
「私も初耳です」
 ガメリカ軍の提督でさえ知らなかった。軍の高官でさえも。
「カナダさんは連合国だったのですか」
「ううん、ひょっとして誰も知らなかったのか」
「私も知らないですし」
 それにだった。
「おそらくは長官、いえ四長官はおろかプレジデントも」
「そうか。カナダはそこまで影が薄いのか」
「そもそもカナダさんは今ここに来られているのですか?」
 アメリカとハルゼーは今はネイティブ達のコロニーの中にいてそのネイティブ達と握手をしている。だがそれでもだったのである。
「そもそも」
「あれっ、そういえばいないぞ」
 いるのはネイティブ達だけだった。今親睦で握手をしている。
「何処に行ったんだろうな」
「おかしいですね。国家ならすぐに気付くのですか」
「全く。何処に行ったんだ」
「さて。それではですね」
 ハルゼーはここで言う。彼女のことを。
「私はこの親睦の訪問の後で任地に戻ります」
「ミクロネシアにだったな」
「はい、戻ります」
 そうするというのだ。
「日本軍に備えてすぐに」
「そうか。僕もハワイに行くからな」
「お互いに頑張りましょう」
「そうしよう」
 こうした話を二人でしながらだ。アメリカはハルゼーと共にカナダを探した。だが。
 ドロシーの研究所は見た。しかしだった。
 カナダの姿は全く見えない。何処にもいなかった。ハルぜーは本気でアメリカにこう尋ねた。
「あの、カナダさんは本当に」
「ここにはいなかったのか?」
「そうかも知れないですね。そういえば」
「君はカナダに会ったことがあったかな」
「いえ、あったかも知れませんが」
 それでもだというのだった。
「覚えていません」
「じゃあどんな顔か知らなかったのか」
「はい、知りません」
 もっと言えば覚えていなかった。
「どういった国だったのでしょうか」
「僕によく似た顔だぞ」
「それなら目立つ筈ですが」
 アメリカが目立つことはハルゼーはわかっていた。それならだというのだ。
 しかしそれでもだった。カナダが誰かはわからなかった。
 その中でハルゼーはドロシーの研究所を遠くから見る。それでアメリカに密かに囁いた。
「祖国さんはあの研究所に入られたことは」
「あるぞ。サイボーグの研究所だ」
「サイボーグですか」
「そうだ。軍にサイボーグやアンドロイドを導入する計画があるのは君も知っているな」
「はい、そのことは」
「ドロシーはそれを研究しているんだ」
「成程。そうだったのですか」
 ハルぜーもアメリカも、そしてドロシー本人もだった。この時点ではこう考えていた。
 だがこのことが恐ろしい存在を生み出すことは彼等は知らなかった。そしてそれがガメリカでだけ起こるとは限らないということもだ。
 彼等はそのまま親睦の交流を終えてそれぞれの任地に戻った。その彼等が去った後で。
 カナダはうきうきとしながらクマ二郎さんに尋ねていた。
「ハルゼー提督ってどんな人なのかな。会うのが楽しみだよ」
「誰?」
「君の飼い主のカナダだよクマ一さん」 
 彼だけは穏やかだった。尚彼が連合国の一員だと知っているのは連合の五人だけだ。だがその彼等もカナダに会っていることには気付いていないのだった。


TURN29   完


                         2012・6・6



各国が着々と動き出しているな。
美姫 「そうね。あちこちで準備が進められているわね」
だよな。しかし、軒並み敵として認識されているな、日本帝国は。
美姫 「今回、出番のなかった日本帝国はどう動いているのかしらね」
流石に一斉に攻撃されたりはないとは思うけれど。
美姫 「絶対とはいかないものね。どう攻めて守るかが重要ね」
最後の最後で不穏な事も出てきたしな。
美姫 「本当にどうなるのかしら」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね」



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