『ヘタリア大帝国』




                          TURN27  人類統合組織ソビエト

 ロシアの家にだ。ソビエトを構成する国々が集っていた。
 広くがっしりとした構造で壁はかなり厚い。窓や扉は三重になっていて寒さへの対策も万全だ。
 暖房により暖かくなっている大きな部屋の中でだ。ロシアはリトアニアにこんなことを言っていた。
「この前の連合の皆との会議だけれどね」
「どうでした?あの会議は」
「うん。皆元気そうだったよ」
 闇のない子供っぽい笑顔で言うロシアだった。
「フランスさんも元気そうだったよ」
「ロシアさんとフランスさんは昔から仲がいいですからね」
「そうだよ。いい人だよ」
「では他の人達とは・・・・・・いえ何も」
 言った傍からだ。リトアニアは己の言葉を引っ込めた。
「何もないです」
「他の皆は。まあ元気だったよ」
 他の三人にはこう言うだけのロシアだった。
「そうだったよ」
「そうですか」
「後、席が一つ空いていたよ」
「席が一つですか」
「五人の筈なのに椅子は六つあったんだ」
「それはまたおかしなことですね」
 リトアニアもカナダのことは気付かない。それでロシアの言葉にも首を捻るのだった。
「誰かが間違えたんでしょうか」
「妹達は妹達で仲良くやってたしね」
 兄達とは違い妹達は和気藹々としている。連合では特に。
「本当に誰だったのかな」
「おかしな話もありますね、本当に」
「全くだよ。ところでリトアニアは今ここにいるけれど」
「はい、他の皆ですね」
「ラトビアや姉さん達はまだかな」
「もうすぐだと思いますが」
 このロシアの家に来るというのだ。
 だがここで窓の外を見てだ。リトアニアはこうロシアに話した。
「ただ。この雪ですから」
「遅れてるのかな」
「そうだと思います」
「寒いのって嫌だよね」
 寒さについてはだ。ロシアは暗い顔で述べた。
「ずっと僕の家って寒いけれど」
「雪の氷に」
「暖かいところで暮らしたいよ」
 いささか俯いての言葉だった。大柄な身体が今は少しだけ小さく見える。
「もっとね。キューバ君のお家みたいなところで」
「キューバですか。いいですね」
「だから本当はイタリア君達とも仲良くなりたいんだ」
 イタリアの気候のよさはロシアにおいても知られている。それもかなり。
「枢軸だけれどね」
「イタリア君達ですか。俺もあの二人は好きですけれど」
「けれどって?」
「ポーランドが。イタリア君と昔から凄く仲がいいんですよ」
 オーストリアの家にいた関係でだ。二人は付き合いがあったのだ。そしてその縁で二人は今も会うと笑顔で話をし合う程仲がいいのである。
「それがちょっと」
「そうなんだ。とにかく僕イタリア君達も嫌いじゃないから」
 あとはオーストリアもだ。ロシアの好き嫌いははっきりしている。
「皆一緒に同じお家で住めればいいのにね」
「ソビエトで、ですね」
「あっ、イギリス君いらないから」
 彼は嫌いなのだった。
「あと太平洋のあの三人も」
「日本さん達もですか」
「アメリカ君に中国君もね」
「あの、日本さんは枢軸ですが」
 それでもだとだ。リトアニアは少し苦笑いになってロシアに話した。
「イギリスさんもですが後のお二人は」
「連合だよね」
「ですからその」
「うん、まあ仕方ないね」
 何が仕方ないかというとだった。それは。
「けれど一時的なものだからね」
「ではこの戦争の後では」
「彼等と戦うことになるかな」
 ロシアはこの戦争の先を見ていた。そうした話をリトアニアとしているとだ。ロシアの家の重厚な、しかも三重になっている扉が開いた。そしてそこから。
 ラトビアにエストニア、ウクライナにベラルーシが入って来た。まずは軍服、ソビエトの赤い軍服を着ているとはいえ巨大なウクライナの胸が揺れた。
 そしてその胸を揺らしながらだ。彼女はこう他の国に言った。
「本当に凄い雪よね」
「はい、今日は特に凄いですね」
「スノーさん元気ですね」
「何でロシアちゃんのお家ってこんなに寒いのかな」
 ウクライナはこのことがかえって不思議だった。それでラトビアとエストニアにも言ったのである。
「それに雪が多過ぎて動きにくいし」
「ですがそのお陰でソビエトの守りは凄いですね」
「他ならぬ雪の為に」
「そうなのよね。冬将軍って凄いよね」
 ウクライナはラトビアとエストニアの話にこうも言った。
「ソビエトも守ってるから」
「目のやり場には困ります」
 ラトビアは小さくなって述べた。
「それが問題ですね」
「姉さんと同じ」
 ベラルーシはここでぽつりと言ってきた。
「姉さんの胸が」
「私の胸?」
「大き過ぎるから」
「えっ、これ位普通だよ」
 しかし言った傍から大きく揺れるウクライナの胸だった。
「そうじゃないの?」
「違うから。けれどとにかく」
「うん、ロシアちゃんのところに行こう」
 こんな話を雪を払いながらしてだった。ウクライナ達はロシアの家に入りそのうえでロシアがいるその部屋に入った。そこでお茶を飲みながら話すのだった。
 まずリトアニアがだ。こう一同に話した。
「今日の予定ですけれど」
「確かカテーリンさんのですね」
「定期報告会でしたね」
 エストニアとラトビアがリトアニアに続く。
「それですよね」
「そうでしたね」
「うん、午後からね」
「遅れると大変ですね」
「あの報告会は」
「だからこのお茶を飲んだらね」
 リトアニアは同じバルト三国である彼等に話していく。
「すぐに向かおう」
「そうだね。それがいいね」
「この前遅れた書記の人どうなったんでしょうか」
「今シベリアにいるから」
 ソビエトの誇る究極の流刑地、そこにいるというのだ。
「そこで林業に就いているみたいだよ」
「そうなんだ。無事だといいけれど」
「本当にですね」
「だから俺達もね」
 リトアニアは二人に言っていく。
「遅れないようにしよう」
「じゃあ国家の能力使おうね」 
 ロシアは三国の話を鷹揚に聞いてから述べた。
「この国の中ならどこでもすぐに行き来できるからね。というかね」
「あっ、そういえば」
 ロシアが言ったところでだ。ウクライナははっとしてあることに気付いた。その気付いたこととは。
「ここに来るのも車じゃなくて瞬時に移動すればよかったわ」
「そうですね。俺も気付きませんでした」
「僕もちょっと」
「すいません、僕もです」
 バルト三国の面々もそれは同じだった。
「国家ですから車とか使わなくてもよかったんだ」
「ううん、どうして忘れたのか」
「何故でしょうか」
「そうだね。僕もその事情はわからないけれどね」
「ひょっとして」
 ラトビアはここで言わなくていいことを言った。
「僕達があまりロシアさんの家にすぐに行きたくないからでしょうか」
「それはどうしてなのかな」
「やっぱり。怖いですから」
 ラトビアはロシアに問われてもまだ言う。
「ロシアさんが」
「ふうん。どうして怖いのかな」
「ロシアさんだから・・・・・・ってうわーーーーーーっ!!」
「ラトビアアアアアアアーーーーーーーーーーっ!!!」
 エストニアも叫ぶ。ラトビアはロシアに捕まりアコーディオンの様に引き伸ばされていた。
 そんな中でだ。今度はベラルーシが言った。
「書記長だけれど」
「うん、カテーリンさんだね」
「あの人の今度の政策は」
 どういったものかとだ。ベラルーシはロシアに尋ねたのだ。
「お兄様は御存知?」
「まだ知らないよ」
「そうなの」
「どんな政策だろうね」
 ロシアは首を少し捻ったから言った。
「今カテーリンさんの傍にはミーシャちゃんと妹がいるけれどね」
「では妹さんからのお話は」
「特に何も聞いてないよ」
 妹からもだ。カテーリンの政策の話は聞いていないというのだ。
「全然ね」
「そうなの」
「うん。まあ行ってからかな」
 そのうえでわかることだというのだ。
「それからだね」
「そのことがわかったわ」
 ベラルーシは淡々とした口調で兄に言葉を返した。
「それじゃあまずは」
「お茶を飲んでからね」
「そのうえでカテーリンさんのところに行きましょう」
「それにしても変わったね」
 ロシアはベラルーシの話の後でこんなことも口に出した。
「僕達の国もね」
「そうですね。前はロシア帝国で」
 リトアニアが応える。その横ではラトビアが泣いていてエストニアが宥めている。
「貧富の差があって」
「今はお金自体がないからね」
「共有主義になってですね」
「皆平等になったからね」
「もう階級はないですからね」
 そうした社会になったというのだ。今は。
「本当に何かもが変わって」
「国の名前も変わって」
「人類統合組織ソビエトですね」
「いい名前だよね。それにね」
 ロシアは楽しげに言っていく。
「皆一緒なんだよ。お友達なんだよ」
「友達ですか」
「僕ね。ずっと友達がいなかったから」
 少し寂しげな笑みになってこんなことも言うのだった。
「だからね」
「ロシアさんには」
「フランス君は友達で。オーストリアさんもそうだけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「子供の頃はずっといなかったからね」
「じゃあ今のソビエトは」
「凄く嬉しいよ。だって国民の皆も他の国も皆平等なんだよ」 
 平等ならばだというのだ。
「友達になれるんだよ。凄くいいじゃない」
「確かに。共有主義は案外ロシアさん向きかも知れないですね」
 リトアニアは少し考えてからロシアに答えた。
「皆同じなら」
「インド君やキューバ君とも仲良くなりたいな」
 ロシアはにこりとして言う。自分の好みを。
「イタリア君達ともね」
「僕はフィンランドさんとでしょうか」
 エストニアも少し考えてから言った。
「あの人とはずっとお友達でいたいですね」
「俺はやっぱりポーランドかな」
 リトアニアは自分の相棒の話をした。
「また一緒になれたらいいな」
「あの、僕は」
 バルト三国で一人だけだ。ラトビアは泣きそうな顔になっている。
「僕はドイツさんが」
「えっ、あの人凄く怖いよ!?」
 リトアニアはドイツに対してはこう言うのだった。
「それに俺とポーランド前あの人の相棒の人とやり合ったことあるから」
「けれど僕今お友達シーランド君だけなんですよ」
 実に友達が少ないラトビアだった。
「もっと。お友達が欲しいです」
「私も。誰かいないかしら」
 ウクライナもラトビアと状況は変わらなかった。大きな胸を揺らしながら泣きそうな顔になっている。
「本当に。誰か」
「私はお兄様さえいれば」 
 ベラルーシは危険な光を放つ目でロシアを見ている。ロシアもそれを見て恐怖を感じている。
「誰もいらないから」
「まあね。皆仲良くできるよ」
 妹のことは置いておいてだ。こう締めくくるロシアだった。
「共有主義ならね」
「人類統合組織ソビエトはこれからですね」
「そうだよ。本当にこれから素晴しい国になるんだよ」
 ロシアは今度はラトビアに答えた。
「共有主義の下にね」
「けれどロシアさん怖いですから多分イタリア君達とはお友達になれないですよね」
 ラトビアはまたしてもにこりとして無意識に言わなくていいことを言ってしまった。
「イタリア君もロマーノ君もロシアさん怖がってますから」
「・・・・・・・・・」
 ロシアはラトビアのその言葉を受けて無表情でだ。
 今度はラトビアを担いでアルゼンチンバックブリーカーを仕掛ける。ラトビアの背骨が嫌な音を立てる。
「ぎゃああああああああああああ!!」
「ラトビアアアアアーーーーーーーーーッ!!」
 それを見てまた叫ぶエストニアだった。そんなやり取りの後でだ。
 ロシア達はカテーリンがいるクレムリン、かつてはロシア帝国の主ロマノフ家の宮殿だったその赤い巨大な宮殿に来た。見事な貴族風の装飾や芸術品で飾られている。
 彼等がその赤い宮殿に入るとだ。早速出迎えが来た。それは。
  黒がかった紫の長い髪、眼鏡の奥には鳶色の知的な輝きを放つ目を持っている。まるで学校の教師を思わせる知的な、だがそれでいて極めて冷徹な輝きを放つ美貌を見せている。
 豊満な胸に見事な腰とくびれた腹を持つ身体を赤のソビエトの軍服と黒い膝までのスカート、黒いストッキングで覆っている。その手には赤く分厚いソビエトで常に読まれている赤本がある。ソビエトの恐怖の象徴である秘密警察長官ミール=ゲーペだ。
 その彼女がロシア達の前に来てだ。ソビエトの敬礼をしてからロシア達に言った。
「諸君、よく来てくれた」
「うん、間に合ったかな」
「充分だ。だが」
 ここでだ。ゲーペは泣いていてエストニアに慰められているラトビアを見てこう言うのだった。
「ラトビア君はまたか」
「うう、またじゃないです」
「祖国君におかしなことは言わないことだ」
 こう言ってラトビアを注意するのだった。
「さもないと何時か再起不能になるぞ」
「自分でもそう思います」
「我等の祖国君の力は全ての国の中で第一だ」
 とにかく力の強さは凄いロシアだった。
「体力、生命力、回復力もそうだがな」
「あれっ、僕ってそんなにタフかな」
「この三つがあればあらゆることがどうとでもなる」
 ゲーぺはそのロシアに対して断言した。
「そして共有主義だが」
「いい考えだよね」
「工作は続けている」
 ゲーペは冷徹な響きの声で言った。
「各国にな」
「ポスターは貼ってるんですね」
 ウクライナがゲーペに問うた。
「それは」
「無論だ。あの素晴しいポスターを常に各国に貼っていっている」
「階級も貧富の差もない。そして差別もない」
「移民を募集している。そのポスターをな」
「実際今かなりの人が移民してきていますね」
 ウクライナも言う。
「このソビエトに」
「実にいいことだ。世界は間も無く共有主義で統一される」
 ゲーペは教師の様な口調で断言した。
「そして真の意味で素晴しい世界になるのだ」
「そうだよね。じゃあ今から」
「カテーリン主席の定期報告だ」
「僕達もいつもの場所で参列だね」
「案内させてもらう」
 ゲーペは自分からこう申し出た。
「会場にな」
「場所わかってるけれど?」
「いいのだ。私からの好意と思っていてくれ」
 ゲーペはこう言うだけだった。表情を変えずにだ。
「何しろソビエトを構成してくれる国家達だからな」
「妹はどうしてるかな」
「カテーリン主席、ミーシャ首相と同席している」
 ロシア妹はそこにいるというのだ。
「妹君も参列してくれる。安心してくれ」
「いや、心配はしていないけれどね」
 生真面目で冷徹な感じのゲーペとやり取りをしてそのうえでだった。ロシア達は赤い宮殿の中を進んでいく。見れば装飾はあってもそれは多くが取り払われ質素な感じになっている。 
 そして廊下の壁には小学校のそれを思わせる様なポスターにスローガンを掲げた言葉にだ。希望に燃える人民達が描かれた絵画等が飾られている。他には廊下は走らない、手洗いを忘れない、挨拶をしっかりといった標語が書かれている。そうしたものを見てだ。ベラルーシはこう言った。
「いつも思いますが」
「どうしたのだ、ベラルーシ君」
「はい、本当に二年前と変わりましたねクレムリンも」
「贅沢はあってはならない」
 ゲーペはベラルーシにも教師の様な態度だった。
「決してだ。だからだ」
「それ故にですね」
「貴族的な芸術品や贅沢な装飾は除去した」
 そうしたというのだ。
「そしてそのうえでだ」
「こうしたポスターや標語に代えましたね」
「皆正しくあるべきなのだ」
 さながら学校の様にだというのだ。見れば壁にはいじめ厳禁といったものや皆と友達になろうといった本当に小学校そのものの標語もある。
「誰かが誰かを差別する様な社会は」
「存在してはいけませんね」
「我が国は確かに今エイリスと同盟を結んでいる」
 だが、だというのだ。
「あの忌まわしい植民地主義も貴族達もだ」
「存在してはいけませんね」
「太平洋の資産主義国家達を更正させてからだ」
 ガメリカや中帝国のことであることは言うまでもない。そして日本もその中に入っている。
「エイリスとは全面戦争に入る」
「そして貴族も植民地も」
「全て共有主義の下に更正する」
 ゲーペは眼鏡の奥の鳶色の瞳を輝かせながら言っていく。
「正しい人類の世界の為に」
「カテーリンさんが仰る様に」
「主席はいつも正しいのだ」
 ゲーペはエストニアにも答える。
「何もかもがな」
「うん。そうだよね」
 ロシアが最もだった。共有主義に賛成していた。
 だからこそにこにことしてだ。こう言うのだった。
「じゃあ皆でカテーリンさんのところに行こうね」
「そうしよう。皆でな」
 ゲーペは笑わなかったがそれでもだ。自分の祖国には親しみを見せていた。その親しみの中で彼等をその定期報告会の会場に案内した。そこに来ると壇上、教壇があるそこに一人の少女がいてもう一人が傍に控えている。
 白い雪を思わせるいささか癖があり跳ねた感じの白い髪に青い宝石を思わせる瞳を持っている。まだ幼いが数年後は美貌を誇ることになるだろう、そんな顔を持った少女だ。
 紫の厚い生地の所々に白い毛皮が制服、小学生のそれの上にマントを羽織り首にはリボンがある。黒い蠍の模様が入った裏が紅のマントを羽織っている。人類統合組織ソビエトの主席カテーリンである。
 そのカテーリンの傍らに立つ少女は金髪の波がかった髪をツインテールにしている。その量はかなりのものだ。やはり青い目に白い肌の色を持っている。カテーリンが生真面目な表情なのに対してこちらはあどけないままの顔だ。だがやはり数年後には美貌を誇ることを思わせる顔立ちだ。
 制服はやはり生地が厚く白い毛皮が見えるがこちらはやや淡い赤紫色だ。黒いマントの裏地もその色だ。カテーリンの親友にしてソビエトの首相であるミーシャだ。
 どちらもまだ本当に子供だ。ランドセルを背負う年齢だ。だがこの二人が今ソビエトを指導しているのだ。
 ロシアのところに彼の妹が来てだ。こう言うのだった。
「ようこそ、お兄様」
「カテーリンさんお元気そうだね」
「はい、今朝も朝御飯をたっぷりと召し上がられました」
「ミーシャさんと?」
「ミーシャさんと私とです」
 三人でだ。朝食を採ったというのだ。
「パンとボルシチと少しのお肉を」
「ふうん。いつも通りの朝食だね」
「カテーリンさんは贅沢がお嫌いですので」
 だからだ。粗食だというのだ。
「ですから」
「いいことだよね。一人が贅沢をするとね」
「その分他の人が迷惑しますから」
 だからだというのだ。
「贅沢はよくありません」
「その通りだね」
「共有主義では皆同じものを食べます」
 特に昼はだ。そうしているのだ。
「そうして食べ物でも差別はありません」
「そうあるべきだよ、皆」
「ましてや地位や財産で自分達だけお腹一杯いいものを食べるのは」
「酷いことだからね」
「カテーリン主席は私達にそう教えてくれています」 
 実際にそれを行動に移しているのがカテーリンなのだ。今彼等の目の前にいる。
「共有主義こそが人類を幸せにします」
「そうなるよね。じゃあね」
「はい、今から主席のお話を聞きましょう」
 こうした話をしてからだ。彼等はカテーリン、ミーシャの後ろに整列した。そこにはゲーペもいる。
 その彼等を後ろにしてからだ。カテーリンはこう己の前、まさに体育館での生徒集会で集っている生徒達の様に整然と整列しているソビエトの軍服の彼等に言ったのだった。
「気をつけ!礼!」
 この言葉と共に彼等は気をつけをして頭を下げる。その彼等にカテーリンは今度はこう告げた。
「休むな!」
 気をつけのままだ。その姿勢にさせてだ。
 カテーリンはその彼等に今度はこう言った。
「これから人類統合組織ソビエトの定期集会をはじめます。まずはです」
 カテーリンは高くきびきびとした声で言っていく。正面を見て。
「今期の人民の風紀ですが」
「はい!」
 赤い服の中から一人の女が手を挙げた。男女と違う列にそれぞれ分けられている。
「同志カテーリン、報告して宜しいでしょうか」
「許します、同志カテジンスキー」
 カテーリンは彼女の名を呼びそれを許した。
「それはどうなっていますか」
「はい、人民は皆道に落ちているゴミを拾っています」
「ペットの犬や猫のうんこはどうしていますか」
「散歩の際常にビニールに包んで処理しています」
「そのまま帰っている者はいませんね」
「見つけ次第処罰しています」
「私の言った通りその場に三時間立たせていますね」
 カテーリンは女に問うた。
「そうしていますね」
「はい、そうしています」
「それは何よりです。では次は農業です」
「はい!」
 今度は若い男が右手を挙げてきた。
「同志カテーリン、発表しても宜しいでしょうか」
「同志マレンコフ、発表を許します」
「それでは」
 カテーリンのその言葉を受けて若い男も言う。
「ウクライナでの小麦の生産目標は達成しました」
「ではベラルーシのジャガイモはどうですか?」
「それも達成しました」
「リトアニアの牛乳は」
「それは」
 リトアニアの牛乳の話になるとだ。男は気まずそうに口ごもった。だがカテーリンはその彼に対して間髪を入れず容赦のない感じでまた問うた。
「達成したのですか。していないのですか」
「九十八パーセントの達成です」
「二パーセント足りませんね」
「・・・・・・はい」
 男は俯いて答えた。
「申し訳ありません」
「達成できなければそれだけ人民に牛乳や乳製品が不足します」
 カテーリンは厳しい口調でこう言った。
「その責任は重いです」
「・・・・・・・・・」
「同志マレンコフは三ヶ月御昼御飯抜きです」 
 それがカテーリンが彼に課した刑罰だった。
「人民の牛乳を確保できなかったことを反省しなさい」
「わかりました」
「このことに関する他の担当者も同じです」
 誰もがだというのだ。
「三ヶ月御昼御飯は抜きです」
 やはりこう言うのだった。
「ソビエトは皆のものです。皆が幸せになる国です」
 カテーリンは確信と共に言い切る。
「その中で目的が達成できないことは駄目です。そんな人は罰を受けなくてはいけないです」
 カテーリンだけが言っていく。
「そして今度は軍艦の建造ですが」
「はい!」
 また誰かが手を挙げる。こうしたやり取りが二時間程度続けられた。
 これがソビエトの定期報告集会だった。それが終わってからだ。
 カテーリンは一旦会場を下がった。そしてそこでミーシャ、ゲーペを交えてだ。ロシア達と共にクレムリンの一室においてお茶を飲むのだった。
 その部屋にも様々なスローガンや標語が書かれたポスター等が飾られている。その部屋の中でだ。カテーリンはいささかぷりぷりとした顔でロシア達に言った。
「あんなこと駄目なんだから」
「牛乳のこと?」
「そうよ。二パーセントもないとそれだけ皆牛乳が飲めなくなるのよ」
 だからだ。駄目だとミーシャに答えたのだ。
「だから三ヶ月お昼抜きよ」
「ううん。それが正しいのかな」
「皆が困ることしたら駄目なの」
 カテーリンは学級委員みたいな口調だった。
「誰でもね。そんなことしたら駄目よ」
「そういうことなのね。そういえばね」
「そういえばってどうしたの?」
「日本帝国と中立条約結んだじゃない」
 少し前にソビエトがしたことをだ。ミーシャはカテーリンに話した。
「そうしたよね」
「それがどうかしたの?」
「カテーリンちゃん日本も更正するつもりよね」
「当たり前よ。日本だけじゃなくて太平洋全部よ」
 カテーリンはむっとした顔のままミーシャに返す。
「特にガメリカと中帝国ね」
「資産主義だからね」
「一人だけいい目したら駄目なんだから」
 こう生真面目な口調で頬を膨らませて言うのだった。
「だから。日本だって」
「更正するのね」
「今は喧嘩してなくても日本は悪い国なんだから」
 カテーリンから見ればそうだった。
「悪い子はお仕置きするの。絶対にね」
「じゃあね。日本とは何時かは」
「戦争するから」
 最初から中立条約を守るつもりはなかった。カテーリンは条約を破ることがどういったことかということはまだ気付いていない。日本を『悪い子』と思っているからだ。
 そのうえでだ。カテーリンはさらにだった。
 今度はロシア達にだ。こう言ったのである。
「あの、祖国さん」
「何かな」
「服に埃がついてるから」
 一つ埃がついてるのを見て言ったのだ。
「それ取らないと駄目よ」
「そうだね。それじゃあね」
「埃はガムテープで取るの」
 こう言ってロシアにそのガムテープを出すのだった。
「これでね」
「そうだったね。払ったらね」
「床に落ちるだけだから。床が汚れるでしょ」
「うん、じゃあね」
「床は奇麗にしないと駄目なの」
 カテーリンはロシア、自分の祖国に対しても厳しい。
「皆すぐに違反するから。廊下だって走るし」
「まだ走る人いるんですか?」
「いるの。走ったら危ないのに」 
 今度は妹に言うカテーリンだった。
「急いでいても走ったら駄目。何で皆守らないのよ」
「ううん、皆それぞれ事情があるんじゃないですか?」
 ラトビアはカテーリンにも余計なことを言った。紅茶を飲みながら。
「ですから」
「それじゃあ駄目なの。それにラトビアさん」
「えっ、何ですか?」
「ものを飲んだり食べたりしてる時は肘をつかないの」
 ラトビアにはこのことを注意したのである。
「マナー悪いでしょ」
「あっ、すいません」
「罰としてその場で二時間バケツ持って立つの」
 相手が国家でもペナルティを課すことを忘れない、それがカテーリンだ。
「今からね」
「わかりました・・・・・・」
 ラトビアはカテーリンの言葉に頷いて応えてだった。そのうえでだ。
 悲しい顔で立ち上がりゲーペが出してきた水を入れた二つのバケツをそれぞれの手に持って立つ。ラトビアにそうしてからだった。カテーリンはまた言った。
「これからも決まり作らないと駄目なんだから」
「はい、わかりました」
 ゲーペは冷静にカテーリンの言葉に頷く。
 そのうえで赤本を開いてだ。こう言ったのである。
「では明日の主席の発表で言いましょう」
「そうするわ。何で皆決まり守らないのよ」
「誰もが決まりを守るとですね」
「いい国になるの。共有主義は素晴しいんだから」
 カテーリンはここでふとだ。自分の右手の甲を左手で擦った。その甲には赤い石がある。そして言う言葉は。
「皆が幸せになる考えなんだから」
「だからカテーリンちゃんは皆の前に出たんだよね」
「そうよ。皇帝なんかいなくて皆平等な国がいいからよ」 
 三年前だ。カテーリンはただミーシャとゲーペを連れて皆の前に立ち訴えたのだ。するとだ。
 誰もが彼女の言葉に賛同し忽ちのうちに立ち上がり。一年で全ロシアを自分の考えで統一して皇帝を追い出したのだ。こうしてソビエトを築いたのだ。
 そうして今ソビエトの国家主席兼共有党書記長になっている。その彼女が言うのだった。
「だから私皆に言ったの」
「で、今よね」
「皆まだ何もわかってないから」
 腕を組み頬を膨らまさせてだ。カテーリンはまた言った。
「皆決まりを守ってちゃんとしないと駄目なの」
「その通りだよね」
 ロシアも紅茶を飲みながらカテーリンの言葉に頷く。
「そうしたら皆幸せになれるよ」
「私の言葉に最初に頷いてくれたの祖国さんだったね」
「そうだったかな。あの時カテーリンさん僕達の前に三人だけで出て来たじゃない」
 ミーシャとゲーペ、二人を連れてだ。
「その時は何かなって思ったけれどね」
「共有主義聞いてくれて有り難うね、最初に」
「いい考えだと思うよ。けれど」
 ここでだ。ロシアはそのカテーリンを見てこんなことを言ったのだった。
「カテーリンさんのご両親は」
「死んだこと?」
「残念だったね」
「悲しいけれどいいの。もう」
 何とか強がってだ。カテーリンはロシアに答えた。
「病気だから仕方ないから」
「そうよね。私もね」
 ミーシャもだ。暗い顔になって述べた。
「あの時の病で」
「酷い伝染病だった」
 ゲーペもだ。苦々しい顔になっていた。冷徹なその顔にそうしたものが出ていた。
「今の医学でもどうにもならなかった」
「あれ、うぽぽ菌じゃなかったね」
 ロシアはこの災害のことも言った。
「あれも酷いけれどね」
「あれはうぽぽ菌ではない」
 また別のものだとだ。ゲーペはロシアに述べた。
「より悪質な伝染病だった」
「本当に酷い病気でした」
 ロシア妹も言う。
「あれは何だったのでしょうか」
「今も真相を究明中だ」
 調べているとだ。ゲーペはロシア兄妹に話した。
「あれは何だったのかな」
「チェリノブイリから来たね」
 ロシアはまた言った。
「それで僕の国全土に広まったんだったね」
「チェリノブイリにはブラックホールがありますけれど」
 リトアニアも首を捻っていた。彼のところにも被害が及んだのだ。
「あれとどう関係が」
「全ては調査中だ。だが」
 それでもだと。ゲーペはまた彼女らしくないことを言った。
「真相がわかるかどうかというと」
「無理かな」
「難しいだろう」
 ゲーペはその顔でロシアに述べた。
「残念だがな」
「そうなんだ」
「それでだが」
 ゲーペは話題を変えてきた。安い大量生産用のカップの中にある紅茶を飲みながら。
「日本についてだが」
「うん、日本君との条約はやっぱり」
「そのうち破棄するべきだと思う」
「そうだよ。そのつもりなんだから」
 カテーリンも言ってきた。その幼い顔を顰めさせて。
「日本は資産主義で皇室なんてあるのよ。おまけに幼女好きの人が一杯いるじゃない」
「幼女好きっていうと」
 ラトビアがまた言う。
「ロリコフさんですよね」
「ラトビア君今日一日御飯抜き」
「えっ、何でですか!?」
 まだ立たされているがそこに加えてそれだった。
「何で僕御飯まで抜きなんですか!?」
「あいつの名前は出さないでって言ってるでしょ」
 だからだとだ。カテーリンは顔を顰めさせて言うのだった。
「だからよ。君御飯抜きよ」
「うう、僕何か不幸ばかり続くんだけれど」
「そんなこと言うからよ」
 カテーリンはむっとした顔でそのラトビアに言い返す。
「全く。何であんな変態が天才科学者なのよ」
「けれど凄い人だよ」
 ミーシャはそのロリコフをフォローした。
「ソビエトの為っていうかカテーリンちゃんの為に働いてくれてるじゃない」
「それでもよ。私変態嫌いなの」
 自分がどう見られているかわかっているからこその言葉だった。
「というか不潔な男女交際も駄目よ」
「不純な?」
「男女交際も清潔によ。ソビエトは皆が家族なのよ」
 だから家族制度を廃止したのだ。カテーリンは人民全員を家族としているのだ。
「そんなことも絶対に許さないんだから」
「そうです。そうあるべきです」
 ゲーペはカテーリンのその主張に全面的に賛成の意思を見せた。
「全ては共有主義の下に」
「世界は幸せになるんだから」
 カテーリンはあくまで純粋に考えていた。そしてその純粋なままでだ。
 紅茶を飲みながらまたロシアに言ったのである。
「祖国君、そろそろ時間だから」
「うん、赤本の朗読だね」
「皆で読もう。共有主義の素晴しさを勉強しよう」 
 こう言ってだ。ソビエトの中の国家達と共に赤本を出してそれを読むのだった。ソビエトはまさに共有主義とカテーリンが全てを動かしていた。そうした国だった。


TURN27   完


                        2012・5・19



カテーリンの下での統一国家。
美姫 「国家であるロシアがどんな人物かと思ったけれど」
考え方なんかがカテーリンに近い感じだな。
美姫 「だから、カテーリンの政策にも特に何も言わないのね」
しかし、やっぱりというか日本に対してはいずれ攻め込む気みたいだな。
美姫 「みたいね。それがどれぐらいになるか、って所が問題ね」
どうなっていくのだろうか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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