『ヘタリア大帝国』
TURN24 バトルオブエイリス
ドクツ軍がエイリスに侵攻したと聞いてだ。シュウ皇帝は重慶にある己の玉座からこう中国に尋ねた。
「祖国子はこのことについてどう思う」
「エイリスは危ういあるよ」
すぐにこう答える中国だった。そこには中国妹もいる。
「負けなくともある」
「その損害は大きいか」
「大きな損害を被ることは間違いないある」
「そうか。朕としても」
中帝国の主としてだ。皇帝は言った。
「エイリスが太平洋にまでのさばっているのはよいとは思っていなかった」
「そうあるよ。エイリスは欧州の国ある」
中国妹も少し怒った感じになって述べる。
「太平洋は太平洋の国や人間のものある」
「妹子の言う通りだ」
皇帝は中国妹の言葉をよしとした。
「何故欧州の者達が太平洋に来るのだ」
「そもそも植民地自体が間違っているある」
中国妹は植民地についても不快感を見せた。
「あんなものはここでなくしてしまうべきあるよ」
「うむ、そうだな」
皇帝は中国妹の言葉をまたよしとした。
「ではこの戦いは見守るとしよう」
「それがいいと思うある」
「妥当あるよ」
中国兄妹はまた皇帝に述べた。
「それであるが。ガメリカから艦艇の援助が来たある」
「キャヌホーク提督からのアドバイスを受けているある」
「領土の奪還か?」
「いや、それはまだある」
「機を見て動いて欲しいとのことある」
これがキャヌホークのアドバイスだというのだ。
「とりあえず今は日本が怯む時を待つある」
「そうしたいあるが」
「ではそうするがいい」
皇帝はここでも二人の言葉をよしとした。
「朕は戦には疎い。ましてやリンファやランファもいない」
「だから僕達が戦うある」
「戦いのことは任せてくれるあるか」
「任せる。そなた達にな」
実際にそうするとだ。皇帝は二人に述べた。
「ではな。太平洋でも本格的な戦いになれば」
「その時にまた動くあるよ」
中国はこう皇帝に述べた。彼等もエイリスのことは醒めた目で見ていた。そうしていたのだ。
そして日本にも両国の決戦の報告が届いていた。それを聞いてだ。
韓国は威勢よく他の国々に言った。
「このままエイリスは崩壊なんだぜ!連合の一角が崩れるんだぜ!」
「兄さん、まだそれは決まった訳ではないニダ」
妹がその威勢のいい兄に述べる。
「エイリスも強いニダ。エイリスが勝つ可能性もあるニダよ」
「けれどドクツは押してるんだぜ」
韓国は妹にこう返す。
「それならこのまま押し切ることもできるんだぜ」
「そうなればいいけれどね」
それならばだとだ。今度は台湾が韓国に言う。
「戦争にはアクシデントは付き物よ」
「そうだよね。何か災害が起こるとかね」
台湾兄はその可能性を指摘した。
「いきなりドクツ本土にエアザウナが出て来るとかね」
「むっ、あの化け物がなんだぜ」
「うん、エアザウナ対策に戦力を向けないといけないかもね」
こう言うのだった。
「ひょっとしたらね」
「そうなったら確かに不味いわね」
台湾は兄のその指摘に頷いた。
「如何にドクツといえど」
「ドクツは今新たに二個艦隊を置いた的な?」
「そうみたいだけれど」
香港の兄妹はこのことを話した。
「アドルフ総統とゲッペルス宣伝相のそれぞれの直属艦隊」
「あの人達の」
「じゃあ戦力はさらに充実するんだぜ」
韓国はそれをドクツのさらなる勝利の要因だと指摘した。
「ドクツは勝つんだぜ」
「だといいのですがね」
「ええ、本当にね」
マカオ兄妹は韓国程楽観はしていなかった。少し神妙な感じも見せている。
「ドクツとエイリスの戦力比は五倍以上開いています」
「エイリスはやっぱり強いわ」
「戦いは数だからね」
台湾はこの事実を指摘した。
「それをどうするかなのよ、問題は」
「確かにドクツは今は優勢ニダ」
韓国妹もこのことは認めた。しかしだった。
「けれど。何時ひっくり返る事態が起こっても不思議ではないニダ」
「ううむ、一体どうなるんだぜ」
韓国は他の国々の言葉を聞いて流石に楽観の針をいささか中央に戻さざるを得なかった。
「読めなくなってきたんだぜ」
「エルミーさんは絶対にドクツが勝つって言うでしょうね」
台湾はこう読んでいた。
「それに宇垣さんもね」
「あの人は何時戻るのかな」
「もう少しだと思うけれど。数日中ね」
「じゃあもうすぐだね」
「あの人もドクツの勝ちだって言うでしょうね」
ドクツを訪問してすっかりレーティアに魅せられた彼ならばだというのだ。
「確かに勝算はあるから」
「少なくともこの戦いでエイリスはかなり衰える的な?」
香港もこのことは間違いないと言う。
「そうなる的な」
「そのことは間違いないでしょうね」
「ああ、やっぱり的な」
「けれどその前によ」
台湾は真面目な顔になってこうも言った。
「私達が生き残らないとね」
「そうニダ。エイリスも気になるニダがウリ達ニダ」
韓国妹も言う。とりあえず彼等も今はエイリスの戦いを見守るだけだった。
ドクツ軍は確かに押していた。その戦局を見てだ。レーティアはこう言った。
「よし、このままだ」
「このまま押すのね」
「そうだ、マンシュタインはそのままビーム攻撃を続けろ」
こうマンシュタインの艦隊に指示を出す。
「そしてロンメルはだ」
「いつも通りなのね」
「機動戦だ」
グレシア、今も傍らにいる彼女に言う。
「それを仕掛ける様に伝える」
「この遠距離攻撃と機動力ね」
「その二つを活かすことがだ」
「ドクツの戦い方よね」
「どちらが欠けても駄目だ」
そうした意味でだ。まさに両輪だというのだ。
「だからこそだ」
「マンシュタイン元帥とロンメル元帥は不可欠ね」
「並の相手ならどちらかだけでいい」
「けれどね」
「エイリスが相手なら別だ」
「エイリスはね。やっぱりね」
「強い。尋常な相手ではない」
晴れた目での言葉だった。理解している何よりの証だ。
「だからこそだ」
「そういうことね。だからこそよね」
「それに我々には今は潜水艦もある」
「ベートーベン提督が頑張ってくれてるわ」
「先生はやってくれる」
レーティアはかつて彼女の教師だった彼のことも認めていた。
「特に潜水艦の指揮はだ」
「見事よね」
「先生もまた天才なのだ」
そうだというのだ。天才は天才を理解していた。
「だからこそだ」
「そういうことね。ただね」
「ただ、か」
「戦局は確かに有利だけれど」
「敵の援軍が来たな」
「敵も必死ね」
戦局を表しているモニターに新たな敵軍が見えていた。
「十個艦隊も出て来たわね」
「想定していた。しかしだ」
「しかし?」
「敵の援軍はあれで終わりだ」
そのだ。十個艦隊でだというのだ。
「ならここは予備戦力を投入する」
「私達が出るのね」
「グレシアは実戦経験はなかったな」
「それでもね。軍のことも勉強したわよ」
口元に自分の右の人差し指を当てて答えるのだった。
「だからある程度ならね」
「やってくれるか」
「ええ。じゃあ行きましょう」
「ではな。私達も出撃しよう」
「そうしましょう。ただ予備戦力がないのは」
「問題だな。この戦いの後で対策を講じよう」
こう話しながらだ。レーティア達も出撃した。その彼女の出撃を見てだ。
ドクツ軍の士気がさらにあがった。将兵達が騒ぐ。
「総統が来られたぞ!」
「自ら前線に出て来られたぞ!」
「諸君、このまま攻めるのだ!」
そのレーティアが彼等に指示を出す。
「戦艦及び巡洋艦はこのままビーム攻撃を続けよ!」
「はっ!」
「わかりました!」
「高速機動艦隊は敵を撹乱し隙を見て攻撃を出せ!」
「了解です!」
「それでは!」
「そしてだ!」
さらにだとだ。レーティアは指示を出していく。
「敵の総旗艦ビクトリアを狙え!」
「セーラ=ブリテンのその旗艦を」
「狙うのですか」
「そうだ、敵将の首を取れ!」
レーティアはここではあえて古典的な表現を使ってみせた。
「あの艦だ、撃て!」
「目標ビクトリア!」
「あの艦を撃て!」
すぐにだ。ドクツ軍は最前線で自ら砲撃を行うビクトリアに照準を合わせた。そのうえでだ。
ビクトリアに無数のビームが襲い掛かる。何発かは外れた。
だが一撃が当たった。それを受けてだ。
ビクトリア、女王の旗艦が大きく揺らぐ。その艦橋で。
セーラも指揮官の席、玉座から離れそうになる。しかしだった。
彼女は踏み止まった。そのうえで周りに問うた。
「損害は!?」
「左舷に直撃です!」
「中破です!」
「中破ですか」
そう聞いてもだ。セーラは怯まなかった。そしてだ。
気付けば頭をぶつけていた。それで血が流れていたがそれでもだ。
周りにだ。こう命じたのだった。
「艦長、宜しいでしょうか」
「は、はい。何でしょうか」
「艦の応急処置を頼みます」
まずは艦長に命じた。ビクトリアのことを。
そしてそのうえでだ。こう言うのだった。
「まだです」
「まだ?」
「まだとは」
「ビクトリアはこのまま前線で戦います」
毅然とした言葉だった。
「この程度で。下がることはしません」
「ですが陛下も傷を受けておられます」
「それでもですか」
「私の傷の手当てもお願いします」
見れば右腕も負傷していた。しかしだった。
その目は死んではいない。むしろ負傷によりさらに毅然となっていた。
そして玉座に座ったままでだ。また言ったのだった。
「ビームは撃てますね」
「はい、大丈夫です」
「そちらの損害はありません」
「なら反撃です」
ビクトリア自らだ。攻撃を繰り出すというのだ。
「いいですね、そうするのです」
「ではビクトリアはこのままですか」
「前線に留まりますか」
「そうです。退いてはなりません」
後ろは見なかった。
「退けば終わりでは」
「ではこのまま」
「踏み止まり」
「そうです、戦います」
反撃、それを行うというのだ。
「そうします」
「わかりました。それでは」
「ビクトリアはこのまま踏み止まります」
「ここで一歩でも退けば」
どうなるか。セーラはよくわかっていた。前方と側方にはドクツ軍が展開している。
「そのままドクツ軍に押し切られてしまいます」
「だからこそですか」
「ここでは一歩も退かない」
「そうされるのですね」
「そうです。敵はレーティア=アドルフも自ら出撃しました」
それならば余計にだというのだ。
「私達は退いてはならないのです」
「ではこちらもですね」
「敵の旗艦を攻撃するのですね」
「あの艦艇ですね」
セーラは見た。そのレーティア=アドルフの旗艦を。それは巨大な戦艦だった。ドクツの艦のシルエットを見せている。
「そうです。ドクツを率いるのはあの少女だからこそ」
「あの女を倒せばドクツも倒れる」
「それ故に」
「はい、火力を集中させるのです!」
セーラはあらためて指示を出した。
「攻撃目標敵艦隊の旗艦ビスマルク!」
「了解!」
「わかりました!」
エイリスの将兵達はすぐにレーティアの旗艦ビスマルクに砲撃を向ける。しかしだった。
ビスマルクは無数のビームやミサイルを受けてもびくともしない。まるで何ともない様に。
そしてその攻撃でだ。エイリスの戦艦フッドを一撃で真っ二つにしてしまった。
「フッド轟沈です!」
「真っ二つです!」
「何っ!?あのフッドがかよ!」
イギリスはエイリス軍の悲鳴を聞き思わずそちらを見た。するとだった。
確かにフッド、エイリス軍の名鑑のうちの一隻が真っ二つになり炎の中に消えていっていた。イギリスはそれを見ながら呆然となっていた。
「おい、嘘だろ」
「いえ、嘘ではありません」
妹がだ。モニターに出て来て彼に言ってきた。
「フッドは今確かに」
「あの艦はエイリス軍の象徴だったんだぞ」
「ですがいささか旧式艦でした」
「だからかよ」
「はい、最新鋭の戦艦の相手ではありませんでした」
イギリス妹は己の感情を押し殺しながら兄に話す。
「仕方がありません」
「くそっ、それで乗組員は大丈夫なのかよ」
「今生存者の救助を行っています」
何とかだ。生き残った者はいるというのだ。
「ご安心下さい」
「そうか。できるだけ多く助かっていてくれよ」
「そしてお兄様」
イギリス妹はあらためて兄に言ってきた。
「宜しいでしょうか」
「ああ、戦局だな」
「フッドだけではありません。多くの艦艇が沈んでいっています」
それでだというのだ。
「戦局を立て直すべきです」
「ああ、俺は女王さんのところに行く」
イギリスは見た。セーラと彼女が直率する艦隊はドクツ軍の集中攻撃を受けていた。ビクトリアの被弾が増えていた。
「このままだとマジでやばいからな」
「では私は側面のロンメル元帥の艦隊にあたります」
「いや、御前はマリーさんのところに行ってくれ」
「殿下のですか」
「そっちもやばいからな」
見ればマリーが受け持っている戦場も危うかった。ドクツ軍の激しい攻撃を受けていた。
「あっちを頼む」
「わかりました。それでは」
「では祖国殿」
「我等もまた」
ネルソンとロレンスが言ってきた。
「それぞれの戦局を受け持ちます」
「何としても守り抜きますので」
「頼むぜ。持ちこたえてくれよ」
イギリスは切実な顔でモニターの二人にも言った。
「植民地の連中も前面から来るドクツ軍にあたらせてくれ」
「私も前線に出るわね」
エルザも出て来た。イギリスの旗艦のモニターに。
「セーラちゃんだけに危ない目は遭わせないわ」
「悪いな、引退したってのにな」
「何言ってるのよ。王族は生涯現役よ」
セーラとは違い明るく砕けた感じでだ。エルザはイギリスに話す。
「だからいざという時はね」
「今みたいな時はか」
「そう、戦うのよ」
それがエイリス王室の義務だというのだ。
「だから当然のことよ」
「そうか。そうだよな」
イギリスはエルザの言葉にだ。考える顔から納得する顔になって答えた。
「じゃあ頼むな」
「祖国さんはセーラちゃんのところに行ってくれるのね」
「あのままだとやばいからな。放っておけるかよ」
イギリスは強い顔になってエルザに答える。
「じゃあ行って来るな」
「私もマリーさんのところに向かいます」
イギリス妹もエルザに述べてだ。そうしてだった。
彼等はそれぞれの場所に赴いた。イギリスが己が率いる艦隊と共にセーラの場所に来るとだ。その艦隊は今にも壊滅しそうになっていた。
ビクトリアの損傷も酷い。イギリスはすぐにそのビクトリアに通信を入れた。
「女王さん、大丈夫か!?」
「祖国さんですか?」
そのセーラがモニターに出て来た。しかしだった。
モニターの画質は悪くしかもセーラ自身があちこちに傷を負っていた。包帯に血が滲み天敵さえ打っている。イギリスはその彼女の姿を見て思わずこう言った。
「そこまでして何になるんだよ!」
「エイリスの為です」
セーラは負傷していても目が死んでいなかった。懸命な顔で答えたのだった。
「その為にも。私は」
「それはいいけれどな」
「よいのですよね」
「頼れ!皆いるんだぞ!」
イギリスもだ。必死の顔だった。
「女王さんには俺だっている!妹だっている!」
「貴方達が」
「お袋さんや妹さんもいるだろ!騎士提督の連中だってな!」
その彼等がいるからだというのだ。
「頼れ!何でも一人で背負い込むな!」
「ですが私は女王で」
「女王さんでもだよ!俺達がいるんだ!」
こう言いながらだ。イギリスは自分の艦隊をセーラの艦隊の前に置いた。そしてだ。
果敢に攻撃を加えドクツ軍に対する。セーラの楯になったのだ。
「いいな!そこまでなるんじゃねえ!」
「祖国さん・・・・・・」
「で、どうするんだよこれから」
イギリスはその必死になっている顔でセーラに問うた。
「敵はまだまだ攻撃を仕掛けてきてるぜ」
「敵は突撃に移ろうとしています」
セーラは負傷しながらも戦場全体を見ていた。見ればだ。
ドクツ軍は今まさに突撃しようとしてきていた。前方に艦隊が集結してきていた。
「ですからここは各艦隊ごとに方陣を組み」
「互いに連携しながらだな」
「守ります。側面か後方から敵の機動部隊が来るでしょうが」
その彼等への対抗の為でもあるというのだ。
「ここは方陣を組み互いに連携して」
「ああ、凌ぐか」
「数では尚も話が軍の方が優勢です」
その数が頼りだった。今のエイリス軍にとっては。
「ですから。守り抜きましょう」
「わかった。それじゃあな」
こうしてだ。エイリス軍は素早く陣を組み替えた。艦隊ごとの方陣になりだ。
連携し合いながらドクツ軍に向かう。そのドクツ軍がだ、
レーティアの指示の下突撃を仕掛けてきた。そしてだった。
方陣の一つ一つに襲い掛かる。だがそのエイリス軍は。
ロレンスとネルソンがだ。声を枯らして指示を出していた。
「怯むな!退いてはならない!」
「方陣が崩れてもすぐに別の方陣に合流するのだ!」
「孤立するな!守り抜け!」
「陣を組み連携し合うのだ!」
彼等も方陣の中にいて自ら攻撃を出し守っている。ビームやミサイルで槍襖を作る感じになっている。
その方陣の一つ一つをだ。セーラはビクトリアに乗りエイリスと共に駆け回っていた。
「方陣の距離はそのままです!ドクツ軍が来れば挟み撃ちにするのです!」
「いいか!敵は絶対に崩れる!最後まで諦めるな!」
二人も必死だった。イギリスはセーラを護りながら戦場を駆け回っていた。
だがレーティアはそのエイリス軍の方陣を見てだ。こう指示を出した。
「各個撃破だ」
「方陣の一つ一つをですな」
「そうするのだな」
マンシュタインとドイツがその言葉を聞いてモニターから述べた。
「そして敵を少しずつ削っていく」
「そうした作戦か」
「艦隊ごとの方陣ならその方陣を崩す」
それだけだというのだ。
「それだけのことだ。林檎の皮を剥く様に崩していくぞ」
「そうですな。突撃を仕掛けるのは中断しましょう」
マンシュタインもレーティアのその言葉に頷く。
「このまま突撃を仕掛ければ損害が多いです」
「戦いはこれで終わりではないのだ」
エイリスとの戦い、それでドクツの戦いは終わりではなかった。レーティアは彼女の国家戦略全体から考えてそのうえで言ったのである。
「だからだ。いいな」
「では方陣の一つ一つに集中攻撃を浴びせましょう」
ドイツ妹もモニターからレーティアに応える。
「それでは」
「このまま勝てる」
レーティアは勝利を確信していた。
「エイリス帝国は今ここで終わる」
ドクツ軍はエイリス軍の方陣に攻撃を浴びせていった。そうしてだった。
彼女の読み通り方陣は次々に崩されていっていた。
ドクツ軍は長射程と機動力を活かしてそのうえでだ。方陣の一つ一つに集中攻撃を仕掛けていたのだ。無数のビームとミサイル、それに鉄鋼弾の攻撃を受け。
エイリス軍の方陣を組み合わせた陣形が崩れていった。そして。
それはそのまま戦線の崩壊になろうとしていた。ドクツ軍は勝利を掴もうとしていた。
だがここでだ。レーティアのところにだ。
ある報告が入った。それは。
「総統大変です!イタリンが!」
「イタリンがどうした!?」
「首都ローマにエイリス軍の攻撃を受けようとしています!」
「馬鹿な、北アフリカはどうなった!」
「エイリス軍に北アフリカを奪還されました!」
「何っ!?」
これにはだ。レーティアも唖然となった。まさかエイリス軍がそこまで攻めるとは思っていなかったのだ。そしてイタリンがそこまで負けるとはだ。
「それは誤報ではないのか」
「今ベニス閣下から通信が入っていますが」
「通してくれ、すぐにだ」
レーティアはまずは情報を知りたかった。それもムッチリーニ自身から。
それで彼女の通信を聞くことにした。するとすぐにだった。
「レーティアちゃん、助けて!」
「ドイツ、助けてよ!」
レーティアだけでなくイタリアも出て来た。イタリアはもう泣き叫んでいる。
「エイリス軍すっごく強いの!私の国の軍じゃ全然勝てないの!」
「モンゴメリー提督強過ぎるよ!何とかして!」
「あの数はイタリン軍の方が圧倒的だったのでは」
「御前の軍もそれなりの装備だった筈だが」
レーティアだけでなくドイツも唖然となっていた。
「それでローマまで、ですか」
「攻められそうなのか」
「このままじゃロマーノちゃん取られちゃうのよ!ロマーノちゃん助けてあげて!」
「俺もなんだよ!北イタリアも危ないんだよ!」
「妹さん達で何とか持ちこたえているけれど」
「何でエイリス軍ってあんなに強いの!?」
「・・・・・・どうしますか」
ドイツは呆れ果てながらもレーティアに問うた。
「ここは」
「イタリンを奪われればドクツ本土を脅かされる」
レーティアは冷静に戦局を分析して述べた。
「そしてこのままでは実際にだ」
「イタリン本土がですね」
「瞬く間に占領される」
これが現実だった。レーティアはここでも完璧に分析していた。
「ロマーノ、北イタリアは共に瞬時に占領されるだろう」
「そうなればですね」
「エイリス戦どころではない」
レーティアは苦い顔で述べた。
「だからここはだ」
「エイリスを一気に占領すればいいんじゃないかい?」
プロイセン妹がモニターに出て来てこうレーティアに言ってきた。
「そうすればどうだい?」
「そうですね。ロンドンを占領してそこから一気にいけるのではないですか?」
ハンガリーもこうレーティアに言う。
「ではこのまま」
「いや、エイリス人はしぶとい」
嫌になる程わかっていたレーティアだった。このことも。
「ロンドンを陥落させて終わらない可能性もある」
「スコットランドや植民地がありますね」
オーストリアはそうした星域のことを述べた。
「ですからここは」
「仕方がない。軍を割く」
レーティアは苦肉の策を出した。止むを得なく。
それでだ。こうロンメル達に命じたのだった。
「ロンメル元帥にプロイセン君、プロイセンの妹君もだ」
「はい、今からですね」
「イタちゃん達への援軍に行くんだな」
「すぐに向かってくれ」
高速機動部隊でだ。即座に救うというのだ。
「わかったな。それではだ」
「了解です。それでは」
「すぐに行かせてもらうぜ」
「ここでイタリンを失う訳にはいかない」
そうするしかないことだった。
「だからこそだ」
「じゃあ行って来るね」
プロイセン妹が応えてだ。すぐにだった。
ロンメル達三個の高速機動部隊が戦場を離脱してイタリン方面に向かった。こうしてイタリンは救われようとしていた。だがそれによってだった。
ドクツ軍の戦力が減った。その結果攻勢が弱まった。それを見てだ。
ロレンスがだ。すぐにセーラとイギリスに言ってきた。
「好機かと思いますが」
「そうですね。敵の戦力が減りました」
「何か向こうで言い合ってたみたいだな」
「ドクツ軍はぎりぎりの戦力で戦っていました」
その三個艦隊分がだ。彼等の圧倒的な攻勢の分だったというのだ。
「それがなくなった今は」
「はい、攻勢が弱まっています」
「それにだな」
ドクツ軍の攻勢が弱まったことでエイリス軍は崩壊直前だった戦局が持ち堪えられていた。それを見てセーラとイギリスは言うのだった。
「我が軍にも余裕が出てきましたね」
「僅かにしてもな」
「こちらも攻勢に出ましょう」
これがロレンスの献策だった。
「あの戦力のドクツ軍なら対抗できます」
「わかりました。それでは」
「方陣から一気に攻めるか」
セーラとイギリスが言い。こうしてだった。
エイリス軍はまた陣を組み替えた。そうしてだった。
彼等は即座に攻勢に移った。これまで側面から攻撃を仕掛けて撹乱していた高速機動部隊がいなくなていたことも大きかった。前面にいるドクツ軍にだ。
数を頼りに一気に攻撃する。それを受けてだ。
ドクツ軍は流石に押されてきていた。それを見てだ。
レーティアもだ。苦い顔で言った。
「我が軍もな」
「高速機動部隊もないとね」
「圧倒的な強さを発揮できないのだ」
こうグレシアに言うのだった。彼女は自分の軍の弱点を既にわかっていた。
「数をそれでカバーしてきたからな」
「そうね。このままだとね」
「まずいな」
珍しくだ。苦い顔で言うレーティアだった。
「潜水艦も使っているが」
「数が足りないわね」
「エルミーがいない」
彼女は日本に送った。だからだった。
「高速機動部隊も今送ったからな」
「どうしたものかしら、ここは」
「何とか持ち堪えるしかない」
今度はレーティアがこう言う番だった。
「そうする」
「わかったわ。ただ」
「陣形に綻びが生じてきたな」
ドクツ軍にだ。それがだった。
「そして数では最初から劣勢だ」
「まずいわね、本当に」
レーティアもグレシアも危惧を感じていたその時だ。セーラは自ら前線に立ちそのうえで戦っていた。そして彼女のその姿を見てだ。
エイリス軍の士気がさらにあがっていた。勝機が見えてきたこともそれをあげていた。
「女王陛下と共に!」
「勝利を!」
こう叫びながらビームを、ミサイルを放つ。
そして何よりも航空機を。エルザはその航空機の動きを見ながらイギリス妹に言った。
「ドクツ軍は航空母艦を持っていないのね」
「そうですね。開発も製造も行っていない様です」
「レーティア=アドルフは空母は好きではないのかしら」
「そうかも知れませんね」
イギリス妹も言う。
「むしろ。ビームやミサイルに重点を見て」
「航空機にはなのね」
「ではないでしょうか」
「誰にも嗜好があるからね」
「彼女の場合はですか」
「そうかも知れないわね」
空母、ひいては航空機を使わないというのだ。
「けれどそれならそれでね」
「はい、こちらは航空機を使えばいいですね」
「そうしましょう」
こうイギリス妹と話してだ。エルザは航空母艦から航空機をここぞとばかりに放った。それで空からの攻撃手段も護りもないドクツ軍を攻めた。
それでドクツ軍はさらに損害を受けた。それを見てだ。
ロレンスは己の乗艦、騎士提督のその専用艦からだ。こう言った。
「今だ、全艦私に続け!」
「突撃ですか」
「今こそ」
「敵陣を一気に切り裂く!」
その為にだ。突撃を行うというのだ。
「そして戦局を決める。わかったな」
「了解です、それでは!」
「今ここで!」
「エクスカリバー発動!」
ロレンスはその腰にある剣を抜いた。そしてだ。
その剣を前に突き出し今高らかに叫んだ。
「エイリスに勝利を!」
ロレンスの艦隊が綻びを出しはじめ航空機の攻撃でダメージを受けていたドクツ軍に斬り込んだ。そして一気にドクツ軍のその陣を突破した。
それを見てだ。セーラも負傷しながらも玉座から立ち上がり言った。
「全軍総攻撃!今こそ好機です!」
「ああ、行くか!」
イギリスが最初に応えそのうえでだ。
エイリス軍はロレンスの突撃で穴ができたドクツ軍を一気に攻めた。しかしだ。
ドクツ軍はそれでも陣形を守っていた。彼等もしぶとかった。
だがここでだ。レーティアは言うのだった。
「これ以上の戦闘は無理だ」
「撤退するの?」
「そうだ。無念だがな」
実際に苦々しい顔でだ。レーティアがグレシアに答えた。
「海驢作戦は一時中止だ。撤退する」
「そう。それじゃあね」
「無念だ。だが仕方がない」
苦渋に満ちた顔だがそれでもだった。
レーティアはこの判断を下した。そうしてだった。
ドクツ軍は撤退に入る。その後詰はマンシュタインだった。
その彼の旗艦アドルフ号を見てだ。イギリス妹がセーラに言った。
「陛下、ここは」
「追撃はですね」
「敵の殿軍はマンシュタイン元帥です」
「あのドクツの灰色の熊ですね」
「下手に追撃を仕掛ければ無駄に損害を受けます。それにです」
それに加えてだった。今のエイリス軍は。
「損害が大き過ぎます。追撃を仕掛けるにもです」
「無理がありますね」
「はい、ここは追撃はしない方がいいです」
イギリス妹は参謀的にセーラに述べた。
「そうしましょう」
「それでは」
こう話してだった。エイリス軍は追撃は行わなかった。だが、だった。
彼等は勝った。勝利の声が全軍に木霊した。
「勝った、勝ったんだ」
「俺達は勝ったんだ」
「エイリスを守り抜いたぞ」
「陛下、我々は勝ちました」
エクスカリバーを発動させて決定的な勝利を呼び込んだロレンスがセーラに言ってきた。
「国を守り抜きました」
「そうですね」
セーラはほっとした顔になっていた。その顔でロレンスに述べたのである。
「私達は。勝ちました」
「確かに損害は多かったです。ですが」
勝ったと。ロレンスは笑顔でセーラに述べた。全軍の喜びの声が凱歌だった。
そしてその凱歌の中でセーラは微笑み。そのうえでだった。
玉座に崩れ落ちそうになる。しかしその彼女を。
イギリスは素早くそこまで瞬時に移った。エイリスの艦艇の中も領土になる為それが可能だった。
彼はセーラを後ろから抱き抱えてだ。こう言うのだった。
「ったくよ。こんな頑張り屋の上司なんてはじめてだぜ」
「全くですね」
その横にだ。妹も来ていた。兄に続いて妹もセーラの身体を抱き抱えていた。
そのうえでだ。妹は兄に言った。
「少し休んでもらいましょう」
「そうだな。女王さんはよく頑張ってくれたよ」
「頑張り過ぎです」
珍しくだ。イギリス妹は苦笑いになっていた。
普段はすましているその顔をそうさせてだ。兄に言うのだった。
「御自身を。もう少し大切にして欲しいですね」
「全くだ。とにかくだ」
「女王陛下にはお休みになって頂いて」
「祝勝会の準備をしようか」
「じゃあ姉様がお休みの間は私に任せて」
マリーがモニターから二人に言ってきた。
「パーティーの準備するね」
「ああ、悪いけれど頼むな」
「まだ戦いは続きますけれど」
「よし、それじゃあな」
「今は」
二人は笑みでマリーに言った。そしてだ。
ロレンスも笑みを浮かべて己の乗艦にいた。その彼にだ。
モニターからモンゴメリーがこう言ってきたのだった。
「我が国は救われた様だな」
「モンゴメリー殿、その通りです」
ロレンスはその知的かつ穏やかな笑みでモンゴメリーに答えた。
「御聞き下さい、この喚声を」
「聞こえている。皆本当によくやってくれた」
「北アフリカのお話は聞きました」
ネルソンもロレンスの乗艦のモニターに出て来た。そのうえでモンゴメリーに言った。
「イタリン軍をイタリン本土まで追いやったのですね」
「本気でイタリン本土まで侵攻するつもりだがね」
モンゴメリーも知的な笑みでネルソンに返す。
「だがこちらにもドクツ軍が来るみたいだね」
「はい、既にイタリン本土にドクツ軍が向かっています」
「では今度はドクツ軍と戦おうか」
「一旦スエズに拠点を移してくれるかしら」
エルザもモニターに出て来てモンゴメリーに告げた。
「北アフリカから戻ってね」
「そうですね。やはりあの場所は軍事拠点として最適です」
「ええ。だからね」
「わかりました。ドクツ軍が来た今無理はできません」
モンゴメリーもエルザに答える。
「では一旦スエズに戻ります」
「そうしてね」
「では私はこれで」
モンゴメリーはエルザとロレンス達に微笑んで述べた。
「また御会いしましょう」
「またね」
二人は親しげに話し今は別れた。そうしてだった。
エルザもビクトリアに入った。そしてベッドの中で眠っている娘を見て言うのだった。
「本当にね。セーラちゃんは昔からね」
「頑張り過ぎるんだよな」
「何でも倒れられるまで為されます」
「そう。努力するのはよくてもね」
母としてだ。その娘の寝顔を見て言う。
「無茶するから」
「心根が奇麗過ぎるんだよ」
イギリスは困った様な笑みを浮かべて述べた。
「俺こんな奇麗な心根の上司は持ったことはなかったな」
「あら、じゃあ私は心根が汚いのかしら」
「いや、そうじゃないけれどな」
「確かにね。私はセーラちゃん程生真面目じゃないからね」
エルザもわかっていた。そのうえでの言葉だった。
「お気楽なところがあるからね」
「かえってその方が安心できる時もあります」
イギリス妹はそのエルザに述べた。共にセーラの寝顔を見ながら。
「セーラ様は。このままでは何時折れるか心配で」
「いつもはらはらしながら見てるんだよ」
イギリスもだ。セーラを心から心配していた。
見れば彼女は満身創痍だ。その彼女を見ての言葉だ。
「これだけ傷おってな。痛くない筈ないんだよ」
「それなのに前線に立たれますから」
「確かに女王としての責任はあるけれどな」
「無理をし過ぎです」
「そうなのよ。けれど今はね」
エルザも娘を心配する顔で見ながら述べる。
「ゆっくりと休んでもらいましょう」
「ああ、とりあえずは勝ったからな」
「今は」
イギリス兄妹も今は笑顔だった。そうしてだ。
戦いを終え休んでいるセーラのその寝顔を見ていた。その寝顔は少女そのものの何の曇りもない清らかなものだった。女王としての気品と共にそれが彼女にはあった。
TURN24 完
2012・5・12
エイリスとドクツの勝負は、エイリスの勝ちか。
美姫 「イタリンがもう少し粘っていれば、どうなっていたのかは分からないけれどね」
だな。だが、この結果でエイリス軍の士気は上がっただろうしな。
美姫 「この勢いのまま来る可能性もあるわね」
ドクツがどう対応していくのかだな。
美姫 「どうなっていくのか楽しみね」
だな。次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」