『ヘタリア大帝国』




                          TURN18  ガメリカ共和国

 宇垣は今はガメリカ共和国の首都ワシントンの日本大使館にいた。しかしだった。
 彼は非常に浮かない顔をしていた。その顔で周りにいる外務省の者達にこう話していた。
「全く以てだな」
「はい、向こうの返事ですが」
「これは最早」
「こんなものを帝にお見せするとはな」
 憤懣やるかたない顔でだ。彼は外務省のスタッフに話す。
「これではだ」
「最早ガメリカとの戦いは避けられないですね」
「この要求では」
「そうなるだろうな。こんなものは飲めん」
 その要求についてだ。彼は言っていく。
「少なくともわしはだ」
「賛成できませんね」
「外相としましても」
「こんなものを飲んでは日本はガメリカの奴隷になる」
 宇垣は言った。忌々しい顔での断言だった。
「そして単独でだな」
「ソビエトと戦うことになりますね」
「あの国と」
「我々に泥沼の戦いで消耗せよと言っているのだ」
 ガメリカの真意をだ。彼は理解していた。だからこそ言うのだった。
「奴等が太平洋の利権を独占してな」
「そうですね。ただガメリカの大統領ですが」
「ヘンリー=ルース大統領ですが」 
 外務省の者達は彼の名前を出した。彼等が今いる国の国家元首をだ。
「ソビエト寄りの人物と聞いていますが」
「それでもソビエトを我が国にぶつけるというのですか」
「あの大統領だけで全てが決まるものではない」
 国家の政策の決定は国家元首の意向だけで決まるものではないのはガメリカも同じなのだ。そこにはさまざまな人物や勢力が関わるのだ。
 それでだ。宇垣は言うのだった。
「大統領がそうでもだ」
「国家や四人の長官達はですね」
「そうではないからこそ」
「この国は資本家の力が強い」
 宇垣は今度はアメリカの実情を話した。
「即ち財閥がな」
「特に四姉妹ですね」
「四人の長官達の実家が」
「資本家が共有主義を許す筈がない」
「そうですね。私有財産どころか貨幣経済さえ否定していますから」
「共有主義だけは許しません」
 ガメリカの国是に反するだけではなかった。共有主義は財閥の全否定である。だからこそ四姉妹もだ。共有主義のソビエトを許さないというのだ。
 そしてだ。ガメリカがソビエトを敵視する理由は他にもあった。それは。
「アラスカはソビエトの最前線だからな」
「かつてロシア時代はロシア領でしたし」
「その関係もありますね」
「彼等の祖国であるアメリカ自体もロシアとは仲が悪い」
 このこともあった。ガメリカとソビエトの対立の背景にはだ。
「ロシアは我が祖国殿や中国とも仲が悪いがな」
「原始の八国同士であってもですね」
「それでも」
「国家同士でも相性があるのだ」
 人間同士がそうである様にだ。国家同士でもそれがあるというのだ。
「ガメリカはソビエトを潰す為なら何でもする」
「だからこそ我々に足枷をしたうえでソビエトにぶつけるのですか」
「そう考えてもいるのですか」
「日本帝国もソビエトとは戦わなくてはならんだろう」
 宇垣は将来の展望をそう見ていた。
「どのみち降りかかる火の粉だ。払わねばな」
「しかしそれは手駒ではなくですね」
「しかも我が国の権益を守り足枷はつけさせない」
「そうしなければなりませんね」
「そうだ。ガメリカの思惑に乗るととんでもないことになる」
 あくまでも祖国への愛国心、そして国益を念頭に置いてだ。宇垣は言った。
「ここは断じてだ」
「彼等の要求をつっぱねますか」
「そうされるのですね」
「帝にはそう進言する」
 決意もしていた。そうすると。
「無論祖国殿にもだ」
「では後はお任せ下さい」
 日本妹がだ。宇垣の前に出て来た。大使館はその国の領土扱いなので国家ならば自由に行き来できるのだ。それも瞬時にできるのである。
 だから宇垣の前に出て来てだ。日本妹は言うのだった。
「宣戦布告等は私が行います」
「頼めますか」
「はい、そうしたことならば」
「済まぬな。祖国殿達には迷惑をかける」
「いえ、宇垣さんにはいつもお世話になっていますし」
 日本妹だけでなく彼女の兄にしてもだ。実は宇垣は嫌いではないのだ。むしろ彼の実直で生真面目で面倒見のいい性格をだ。彼等は好いているのだ。
 それ故にだ。日本妹は真剣な顔で宇垣に述べた。
「ですから必ずです」
「そうですか。それでは」
「お任せ下さい」
 こう宇垣に応える日本妹だった。彼等は覚悟を決めていた。
 だがホワイトハウス、そのガメリカの国家元首の官邸では違っていた。その大統領質むしるでだ。白い髪に太った広い額の顔を持つ浮かない顔の初老の男がだ。こんなことを言っていた。
 彼は今大統領の椅子にいる。そこで書類のサインをしながらだ。こう前にいる補佐官達に述べていた。
「正直なところ私はだ」
「はい、日本との戦争は構わなくともですね」
「ソビエトとは」
「あまり揉めたくはないのだがな」
 彼、フランク=ルーズはやはりソビエトには好意的だ。彼は補佐官達にその理由も話した。
「共有主義はだ。全て肯定はできないがだ」
「頷ける部分もある」
「そうだと仰るのですね」
「そうだ。だからだ」
 その共有主義を掲げるだ。ソビエトともだというのだ。
「あまり衝突すべきではないと思うが」
「ですが祖国さんもですし」
「四姉妹の方々も」
「そうだ。大統領であってもな」
 国家元首、そうであってもだというのだ。
「全てを決定できない」
「それが政治ですね」
「それが現実ですね」
「そんなことは就任前からわかっていたがな」
 ルースは眉を曇らせて部下達に述べる。
「だが。しかしな」
「我が政権は四姉妹の援助を全面的に受けています」
「そして何よりもです」
「主要な長官は全て四姉妹の出身者だ」
 これがルース政権の特徴だった。ガメリカの歴代政権の中でも財閥の影響がとりわけ強いのだ。
 そしてそれ故にだった。今もなのだ。
「彼女達の意向を無視できない」
「その後ろにいる財閥の意向も」
「全てですね」
「そうだ。ではそろそろだな」
 ルースは部屋の壁にある時計を見た。近代的なシンプルかつ機能的な時計だ。
 その時計の時間を見てだ。彼は言った。
「祖国殿達と四長官が来るな」
「はい、間も無くです」
「会議室に向かいましょう」
「そうするとしよう」
 こうした話をしてだ。そのうえでだ。
 ルースはホワイトハウスの会議室に入った。するとそこにだ。
 まずアメリカとアメリカ妹がいた。二人はルースの顔を見ると自分達の席から立ち上がってそのうえで右手を振ってこう言ってきた。
「待っていたぞプレジデント」
「元気そうで何よりだわ」
「うむ、君達もだな」
 その二人の言葉を受けてだ。ルースは浮かない顔のままで応えた。
 部屋は円卓が中央に置かれ白い壁と紅の絨毯がある。そしてそこにいるのはルースとアメリカ達だけではなかった。他には四人いた。
 まずはハンナだ。彼女が着席している。その他にも。
 白い楚々とした顔立ちに優しい赤の目、眉は細く儚げである。栗色の柔らかく長い腰までの髪を持っており華奢な身体をダークパープルのドレスで覆っている。
 青緑の理知的な輝きを放つ目に薄紫のやや癖のある伸ばされた髪、学者を思わせる丸眼鏡をかけた顔には微かなあどけなさがある。機械の移動式の椅子に座りモニターを前にしている。紫と白、青の上着に白の短いスカートという格好だ。
 見事なブロンドの髪をツインテールにしておりそれが腰まである。元気のよさそうな細く白い顔に勝気そうな細い眉と青の強い輝きを放つ目をしている。ガメリカ軍の青い軍服を着ておりその腰にはホルスターがある。やけに短いスカートにタイツがガメリカ軍の正規の軍服とは違っている。
 クー=ロスチャ、ドロシー=ノイマン、キャロル=キリングだ。ガメリカ共和国の四人の主要閣僚が揃っていた。ハンナが国務長官、クーが財務長官、ドロシーがエネルギー長官、そしてキャロルが国防長官である。ルース政権はこの四人の存在がかなり大きい。
 その四人の中からだ。ハンナが自分の祖国を見てこう言った。
「祖国さん、はしゃぐことはないわ」
「おや、それはどうしてなんだ?」
「いつもの会議だからよ」
 普段のものだからだ。特にだというのだ。
「それに貴方達昨日もプレジデントに会ったでしょう」
「それはその通りだぞ」
「昨日もちゃんと会ってるけれどね」 
 アメリカもアメリカ妹もそうだとだ。ハンナに返す。
「しかしそれでもやっぱりな」
「プレジデントには挨拶しないとね」
「そうしたことはいいけれどね」
 ハンナも自分の祖国達には強く言わない。しかしだ。
 大統領であるルースにはだ。こう言うのだった。
「ではプレジデント」
「うむ、会議だな」
「着席して」 
 上司だがだ。そこには部下としての態度はなかった。
「会議をはじめましょう」
「わかった。それではな」
 ルースも半ば命令に従う感じで己の席に着いた。それを受けてだ。
 ハンナがだ。列席者に対して述べたのだった。
「日本帝国とのことだけれど」
「やっぱり一旦はなの?」
「そうよ。叩いておくわ」
 ハンナはおずおずとした感じで言ってきたクーに素っ気無く返す。その席への座り方もかなり驕慢な感じだ。
「あの要求を飲めばそれでよし」
「中帝国に全ての占領地を返還させて」
「海外の権益を放棄してね」
「そしてガメリカの軍を日本国内に駐留させるのね」
「関税自主権の放棄もね」
 それだけの要求をだ。ガメリカは日本に突きつけたというのだ。
「そうしたわ。この要求はね」
「日本が飲む筈はないわ」
 モニターを見ながらだ。ドロシーは無表情で答えた。
「絶対に」
「そう。私達が日本は中帝国、太平洋の権益を手に入れる為に邪魔なのよ」
 ハンナはガメリカの国家戦略を述べていく。
「だからこそ一旦叩いてね」
「そうしてよね」
 今度はキャロルが明るい感じで言ってきた。
「できれば。日本にオセアニアや東南アジアも占領してもらうのね」
「エイリスの植民地を全てね」
「そしてそこにあたし達が進んで」
「各国を独立させるわ」
 ハンナがこう言うとだ。アメリカがこう言ってきた。
「そうだ、植民地なんてよくないぞ」
「そうよ。エイリスの植民地なんてね」
「イギリスは昔僕も植民地にしていたからな」
「そんなことは否定するわ」
 絶対にだというのだ。ハンナもだ。
「そして独立させてね」
「彼等とも経済圏を築くんだな」
「そうするわ。ましてやね」
「そうだ、今の日本はおかしいぞ」
 さらに言うアメリカだった。右手の人差し指で何かを指差しながらだ。
「軍隊を持ち過ぎだ。それに韓国や台湾を植民地にしているぞ」
「あれね。台湾はともかくとしてね」
 キャロルは砕けた感じで話していく。
「韓国を併合した経緯は読めば読む程滅茶苦茶だけれどね」
「同情はしないわ」
 ドロシーはあの併合に対しても無表情だった。
「運が悪かったと思うけれど」
「とにかくだ。韓国と台湾を解放する為にもだ」
 アメリカはだ。どうするかというのだ。
「日本を懲らしめるぞ」
「そうそう。別に日本を潰すんじゃないのよ」
 キャロルはアメリカに続いて述べる。
「韓国と台湾を独立させてね」
「そしてソビエトと戦ってもらうわ」
 日本の意志なぞ一切無視してだ。ハンナがまた言う。
「私達は太平洋経済圏を築きそのうえで繁栄するのよ」
「太平洋経済圏にエイリスは除外するのね」
「当然よ。太平洋はガメリカのものになる運命だから」
 ハンナはクーにも言う。
「エイリスのものではないわ」
「そうね。だからこそ日本に攻めさせて」
「ガメリカとしても戦うことも考えたけれど」
「エイリスとは同盟を結んじゃったからね」
 キャロルは第一次大戦の頃からの同盟について言及した。
「仕方ないのよね。そこは」
「ええ。手を切るというのもね」
 それもどうかとだ。ハンナは言っていく。
「祖国さんとしてもね」
「約束を破るのはよくないぞ」
 アメリカはハンナにはっきりと言い切った。
「僕もイギリスは間違っていると思うがそれでもだ」
「そうなのよ。まだ同盟の期間は続いているから」
「そこが厄介なのよね」
 アメリカ妹もハンナに応えてきた。
「エイリスの植民地は全部独立させたいけれどね」
「私達からは何もできないのよ」
「それで日本に攻めさせてね」
「そうよ。一旦エイリスを追い出してもらうわ」
 そしてだというのだ。
「それから。軍備を整えてね」
「大体一年よ」
 キャロルが時間のことを言ってきた。
「一年あればね」
「軍備が完全に整うのね」
「ええ、キリング家の軍需産業を総動員すればね」
「わかったわ。ではまずは日本に攻めさせて」
 そしてだ。そのうえでだというのだ。
「一年経てば反撃に転じるわ」
「オセアニア、東南アジアを解放して」
「日本本土に攻め込むわ」
 そこまで考えていた。ガメリカも国家戦略を立てているのだ。
「まあ。インドまでは興味がないけれどね」
「そうよね。ガメリカはあくまで太平洋経済圏を築くことが目的だから」
 クーは経済の観点から述べる。財務長官らしく。
「中帝国をパートナーにして」
「あの皇帝は少しばかり問題があるわよね」
 ハンナはシュウ皇帝には疑問を持っていた。
「どうも。我儘っていうか」
「そのうち共和制になってもらうわ」
 ハンナは中帝国の国家システムについても既に考えていた。
「そして日本はね」
「滅ぼさないというのだね」 
 ようやくだ。ルースが口を開いてきた。この会議ではじめてだった。
「そしてそのうえで」
「日本は太平洋経済圏のナンバースリーになってもらうわ」
 これだけ言えばだ。ハンナの中でも日本の扱いは悪くなかった。
 だがそれでもだ。ハンナはこうも言うのだった。
「そして絶対にソビエトと戦ってもらってあの国の南下と共有主義の楯になってもらうわ」
「要するに厄介なことは全部押し付けるのね」
「ええ。ただしね」
 ハンナはキャロルを見た。今発言した彼女をだ。
 そのうえでだ。キャロルを忠告する様に見てだ。そして言ったのである。
「貴女みたいに反感は持っていないつもりよ」
「あたしみたいに?」
「お姉様のこと、忘れてないわね」
「当たり前よ。姉さんがああなったのは日本人のせいよ」
 不機嫌を露わにさせてだ。キャロルはハンナに返した。
「あの東郷とかいう女たらし、今日本帝国の海軍長官よね」
「そうなっているわ」
「あいつが姉さんをたぶらかして日本に連れて行って」
「そして航海中の事故でね」
「ああなったから。日本を好きな筈がないわ」
「けれど日本は日本で使えるわ」 
 ハンナは日本を駒として見ているのだった。完全に。
「ソビエトへの剣であり楯よ」
「ソビエトだけは許せないからね」
 アメリカ妹はここでこう発言した。
「ロシアもあいつの妹もね」
「嫌いよね、妹ちゃんも」
「大嫌いよ。馬が合わないのよ」
「そうそう。共有主義だってね」
 キャロルは機嫌をなおしてアメリカ妹と話す。友達同士の様に。
「あんなの入ってきたら大変よ」
「その通りよね」
「プーちゃんは違う考えだけれど」
「あれっ、プーちゃんって誰よ」
「プレジデントのことよ」
 他ならない彼女の上司であるだ。ルースのことだというのだ。
「プレジデントだから。どう、この呼び方」
「あっ、いいじゃない」
 アメリカ妹もだ。キャロルのその呼び方に笑顔で応える。
「じゃあプーちゃんね、これから」
「そう、それでいいわね」
「それは駄目よ」
 悪ノリする二人にだ。クーがおずおずと言ってきた。
「仮にも大統領ともあろう人に」
「ううん、じゃあミスターでミっちゃんとか」
「そういうのも駄目かな」
「駄目よ。ちゃんとプレジデントかミスターて呼ばないと」
「何だ、結構いい呼び名だって思ったのに」
「残念ね」
「キャロルも駄目だけれど妹さんも気をつけてね」 
 クーはアメリカ妹に対しても注意する。
「二人共最近調子に乗り過ぎよ」
「ははは、まあいいじゃないか」
 その二人を庇う形でだ。アメリカが参戦してきた。
「明るく砕けた感じがガメリカだからな」
「祖国さんも。ちょっと砕け過ぎよ」
「私もそう思う」
 クーの側にはドロシーがついた。
「祖国さんの悪い癖」
「そうかな。自分では長所と思っているんだけれどな」
「長所が短所だから」
 クーはアメリカもだ。気弱そうに見ながら言う。
「だから気をつけて」
「仕方ないな。じゃあ少し身を慎むか」
「お詫びにピザ注文するね」
 キャロルは自分の携帯を取り出してそのうえでメールで注文をはじめた。
「ミスターも何かいる?」
「いや、私はいい」
 ルースはとにかく喋れないが今回は言えた。
「君達で好きにしてくれ」
「それじゃあそうするに。あたし牡蠣のピザね」
「僕はベーコンとトマトだ」
「あたしソーセージね」 
 アメリカの兄妹がキャロルに言う。
「じゃあピザを食べながら楽しくだ」
「会議をしましょう」
「ガメリカの会議はこれでいいのよ」
 ハンナは余裕の態度のままのべる。
「むしろ堅苦しいのはね」
「僕はそんなの嫌いだぞ」 
 アメリカはそのハンナにも言った。
「砕けた雰囲気でいいんだよ」
「自由の国らしく、ね」
「その通りだ。ハンナ、君はどうするんだ?」
「ピザのことかしら」
「そうだ。どうするんだ?」
「そうね。祖国さんも食べているし」
 アメリカがそのピザのメニューを見ながら言うハンナだった。
「私も注文させてもらうわ」
「よし、じゃあ何を注文するんだ?」
「スモークドサーモンね」
 そのピザだというのだ。
「それにさせてもらうわ」
「わかったぞ。では注文するぞ」
「私はアンチョビー」
 さりげなくドロシーも注文してきた。
「頼むわ、祖国氏」
「わかった、ではドロシーのものも注文するぞ」
「いつも思うけれど兄貴って面倒見いいよね」
「ははは、国民の為なら一肌でも二肌でも脱ぐぞ」
 アメリカは携帯片手に満面の笑みで妹に返す。
「だから今も注文するぞ」
「そうするのね」
「そうだ。しかし本当にミスターはいいのか?」
 アメリカはルースにも顔を向けて問うた。
「今ならまだ頼めるぞ」
「いや、私はいい」
 疎外された中でだ。ルースはアメリカに答える。
「本当にな」
「わかった。では僕達だけで食べよう」
「ミスターも遠慮することないのにね」
「だからキャロルは砕け過ぎよ」 
 クーはおどおどとした態度でそのキャロルを注意する。
「上司の人にも祖国の人にも」
「ははは、僕は一向に構わないぞ」
「祖国さんも。そうしてフランク過ぎるから」
「クー、君の分も頼んでおくぞ」
 アメリカはクーにもさりげなく気配りをした。そうした話をしたうえでだ。
 彼等は届いたピザを食べながら会議をはじめた。ルースはその中でぽつんとしている。
 だが会議は続きだ。議長役であるハンナが一同に話す。
「今回は定例の若草会議でもあるけれど」
「そうそう、ガメリカの国家戦略を決めるね」
「その会議だね」
 キャロルとアメリカ妹がハンナのその言葉に応える。
「まあ。さっきまでであらかた話しちゃった感じがするけれど」
「あらためて話すね」
「若草会議はガメリカ建国から祖国さん達を交えて行われているけれど」 
 ハンナは若草会議の歴史についても話した。
「今回もね。そのことは守っているわ」
「そうだ。僕達と若草会は本当に建国からの付き合いだからな」
「何代も前からのね」
 アメリカだけでなくアメリカ妹も話す。
「この会議には親しみがあるぞ」
「あたし達はこの会議で何もかも決めてるからね」
「そう。そして今回の若草会議での議題は」
 ハンナは自分の祖国達に応えながら話していく。
「太平洋のことはもういいわ」
「あらかた話しちゃったからね」
 キャロルが楽しげに笑いピザをセットになっていたコーラで流し込みながら応えた。
「もうね」
「そう。だから太平洋のことではなくてね」
「経済?」
「エネルギー。若しくは科学かしら」
 クーとドロシーがそれぞれ言うとだ。ハンナはこう答えた。
「経済よ。失業率はかなり改善されたわね」
「ニューディール政策のお陰だぞ」
 アメリカが明るく応える。
「世界恐慌で一時はどうなるかと思ったけれど何とかなったぞ」
「それはプレジデントのお陰ね」
 アメリカ妹は右目をウィンクさせたうえでルースに顔を向ける。だがルースは相変わらず議長の席で蹲っている。小さくなってさえいる。
 そして今は一言も発しない。だがそれでもアメリカ妹は言うのだった。
「感謝してるからね」
「ガメリカは競争社会でもあるわ」
 ハンナは今度はこう言った。
「無能な人物は上に登れないわ」
「つまりあれよね」
 キャロルはここでも明るい。しかも邪気もない。
「ミッちゃん、おっとミスターも有能ってことよね」
「だからこそ私達も支持しているのよ」
 ハンナもルースの能力はそれなりに認めていた。
「さもなければ祖国さん達が困るから」
「ははは、僕の為か」
「当然よガメリカ人はガメリカの為に働くものよ」
 それは当然としてだ。ハンナは言い切った。
「それができない人間は不要よ」
「その通り。民主党は元々リベラルな政党だけれど」
 ドロシーも話に加わってくる。
「私達四姉妹も支持する理由は」
「プレジデントの経済政策及び農業政策がガメリカを復活させるものだからよ」
「正直なところ。先の大統領フーバーさんの政策は頼りなかったから」
 クーは穏やかな物腰だがシビアにだ。前大統領であったフーバーの政策を一蹴した。
「だから財界としても支持できなくて」
「私達は共和党支持から民主党支持になったのよ」
 ハンナはクー以上にシビアに言い切った。
「そしてフーバー前大統領は孤立主義的政策だったけれど」
「プレジデントは太平洋主義を掲げてますから」
 クーはそのルースを前にして述べる。
「ですから私達としてもです」
「支持しているのよ。モンロー主義は何か」
 今のガメリカの国是になっているモンロー主義についてもだ。ハンナは言及した。
「それは欧州諸国の太平洋への介入を排除してね」
「ガメリカが太平洋の盟主となる太平洋経済圏を築き上げる」
「それがモンロー主義だから」
 クーとドロシーもだ。モンロー主義について言ったのだった。
「孤立主義的政策は四姉妹としても不本意だから」
「前任者には落選してもらった」
「そういうことよ。太平洋経済圏の確立は目前よ」
 ハンナの言葉は冷徹なままだがそれでも核心を衝いていた。
「その為には日本に攻めさせて一旦エイリスを排除して」
「そして植民地を解放だ!」
 アメリカが右手を拳にして叫ぶ。
「首輪なんかなくすんだ!」
「その通りよ。やるわよ」
 ハンナにしてもだ。植民地についてはアメリカと同じ考えだ。それで言うのだった。
「ガメリカは植民地に反対し各国を独立させたうえで」
「太平洋経済圏を確立するぞ」
「そうするわ。私達の主な戦場は太平洋よ」
「大西洋はどうするのさ」
 アメリカ妹はガメリカのもう一つの戦域予想地域についてハンナに尋ねた。
「エイリスはマジでやばい感じだけれど」
「援助はするわ」
 それはだとだ。ハンナは素っ気無い感じでアメリカ妹の問いに答えた。
「一応はね。けれどね」
「積極的にはしないって感じだね」
「エイリスがドクツに負けてもらっては困るわ」
「けれどなんだね」
「エイリスの力がそのままだと太平洋の植民地を手放さないから」
 だからだというのだ。
「日本に植民地を奪われて本土もぼろぼろになってね」
「それで太平洋から撤退する程度には、ってことだね」
「ええ。ダメージを受けてもらうわ」
 これがハンナの考えだった。
「そうなってもらうわ」
「よし、ではだ」 
 アメリカがまた威勢よく言う。
「開戦準備だな。一年か」
「任せて。一年あれば充分よ」
 キャロルがすかさずアメリカに応える。
「日本をあっという間に蹴散らしてやるから」
「そして韓国と台湾も独立だな」
 アメリカはピザを食べながら明るく話す。無論ルース以外の他の参加者も食べている。
「太平洋経済圏は目の前だ」
「はい。本当に今失業率も株価も安定していますので」
 クーはニューディール政策の成果を見て話した。
「開戦で特需があればさらにいいかと」
「ただ。戦争での特需はたかが知れているわ」
 ハンナは戦争そのものについては然程重視してはいなかった。何でもないといった態度にそれが出ている。
「軍需産業は設備や技術への投資に予算がかかるけれど実入りは少ないから」
「市場が限られてるのよね」 
 キャロルが肩を竦めさせてこう述べた。
「キリング財閥としても普通の船とかあと飛行機の方がずっと売れてるのよ」
「軍需産業よりも他の産業」
 ドロシーも淡々と言う。
「そちらに力を入れるべき」
「ドロシーの言う通りよ。資産主義は共有主義ともファンシズムとも違うわ」
 国家システムも経済体制もだ。何もかもが違うというのだ。
「戦争が起こればビジネスができないからね」
「ええ。だからガメリカは市場、経済圏を求めても」
「無益な戦争はしないわ」
 クーに応えながらだ。ハンナはドクツやソビエトのやり方も否定した。
「あの二国はいずれは何とかしたいわね」
「少なくともソビエトには日本帝国をぶつければいいから」
 ドロシーにしてもだ。日本帝国は駒として利用するつもりだった。
「精々頑張ってもらえばいいから」
「潰さないだけましよ」
 ハンナは日本帝国については何処までも冷徹であり上から目線だった。
「それに太平洋経済圏での第三位の地位も用意してあげるんだから」
「お寿司かお握りだか知らないけれどそれ食べて精々ソビエトと噛み合ってもらうわよ」
 キャロルはとりわけだった。日本帝国への反感を見せている。コーラをストローを使って飲みながらだ。忌々しげな視線を向けている。
 そしてだ。また言うのだった。
「その前に一発ひっぱたかせてもらうけれどね」
「だからキャロルは私情を抑えて」
 クーはまたキャロルを注意した。
「さもないと大変なことになるから」
「別にいいじゃない。日本みたいな小さな国のことは」
「だから感情的になれば見えるものも見えなくなるから」
「何よ、あたしがそうなるっていうの?」
「そうならない為にも」
 クーはピザを食べる手を止めてキャロルに真剣に話す。手振りまで交えて。
「気をつけて。私が言いたいのはそういうこと」
「そうね。クーの言う通りね」
 ハンナは冷静な顔でクーの側に立って述べた。
「キャロルは少し落ち着きなさい」
「何よ、ハンナまで」
「日本と戦っても絶対に勝てるわ」
 ハンナはガメリカと日本帝国の国力差から見ていた。十分の一の経済規模、国力しかない相手に負ける筈がないというのである。その冷徹な視点からの分析だ。
「けれど。感情的になればね」
「負けるっていうの?」
「おかしな隙ができて無駄な損害を出すわ」
 やはりハンナは負けるとは思っていない。だがそれでもだというのだ。
「それはあってはならないわ」
「損害は最低限っていうのね」
「その通りよ」 
 まさにそれだというのだ。
「マニラやミクロネシアでも攻められてもね」
「犠牲は最低限に抑えないといけないわ」
 ハンナに続いてドロシーも言う。
「だからこそ。感情的にはならずに」
「そうして的確に進めていくべきよ」
「だからなのね」
 キャロルはハンナとドロシーに言われてだ。そのうえでだった。
 憮然とした顔になりながらだ。ある人物の名前を出した。その人物とは。
「イーグル=ダグラスを太平洋艦隊司令長官に推したのね」
「ええ、そうよ」
 推したのはハンナだった。四姉妹の長女役である彼女がだ。
「彼なら日本帝国軍が来ても犠牲を最低限に抑えてくれるわ」
「ぶん殴られても紙一重で避けてくれるっていうのね」
「そうよ。だから彼を推したのよ」
「あんな若い司令長官はじめてだけれどね」 
 キャロルはそのイーグル=ダグラスについてだ。不満そうに述べていく。
 コーラの入った紙コップは既に傍に置かれている。そのうえで憮然とした顔で姉妹達と祖国達に話していくのだった。
「随分と抜擢ね」
「優秀な人材はどんな経歴であろうと実力に相応しい地位と名誉が得られる」
 ハンナは再び淡々としてこのことを話す。
「それがガメリカの筈だけれど」
「それはそうだけれどね」
「なら文句はないわね」
 キャロルに目を向けてだ。ハンナは彼女に問うた。
「任命を決定したのは国防長官である貴女だし」
「ええ、じゃあそれでいいわ」
「では後はことが実際に起こって進むだけよ」
 ハンナは淡々とした口調で述べた。そのうえでだ。
 あらためて場を見回してだ。こう一同に告げた。
「では今日の会議は終わりよ」
「よし、じゃあピザを食べ終えて解散だ」
「コーラもちゃんと飲んでね」
 アメリカ兄妹はここでも明るい。その明るさのまま四姉妹に話す。
「じゃあ僕は今からマニラに行って来るからな」
「お願いね、祖国ちゃん」
「ははは、任せてくれキャロル」
 アメリカとキャロルのやり取りはここでも砕けている。
「マニラでそのイーグル=ダグラスとも話してくるぞ」
「気をつけて下さいね」
 クーはそっと祖国を気遣う。
「フィリピンさんや大王さんも緊張しておられるでしょうし」
「任せてくれ。ちゃんとわかってるぞ」
「だといいのですけれど」
「ではこれで終わりね」
 ドロシーはモニターにある言葉を打ち込みながらぽつりと言う。
「また次の定例会議で会いましょう」
「そうしようね・・・・・・あれっ?」
 ここでだ。ふとだった。アメリカ妹はあることに気付いた。いや、思い出したのだった。
 それでルース、今も議長席にいる彼に顔を向けてだ。こう言うのだった。
「そうそう、プレジデントもそれでいいよね」
「構わない。そういうことでね」
「じゃあね。会議終わったし」
「マニラだ。マニラに行くぞ!」
 アメリカが最後に背伸びをしてから叫んでだ。会議は終わった。結局ルースが何かを言うことはなかった。あくまで四姉妹と祖国達だけの話だった。
 だがそれが終わってからだ。ルースは己の席に戻ってからだ。こうぼやくのだった。
「私もニューディール政策には自信があるし太平洋主義も主張しているがね」
「それでもですか?」
「先程の会議では」
「やはりな。この国では大統領の権限は思ったより小さい」
 大統領に就任してからだ。しみじみと思い知っていることだった。
「私は座っているだけでもだ」
「あの方々でお話が進みますか」
「常にな。やはり四姉妹と祖国さん達の存在が大きい」
 それがだ。ガメリカの実情だというのだ。
「確かに階級なぞなく選挙が行われ民主的な議会が存在しているがだ」
「どうしてもですか」
「そうだ。祖国氏達の存在がな」
「仕方ないといえばないですがね」
 補佐官の一人がこうルースに述べた。
「そのことも」
「わかっている。だがだ」
「プレジデントとしてはですか」
「もう少し手腕を発揮したいものだ」
「難しいところですね、その辺りは」
「うむ。だが賽は投げられようとしている」
 ルースは補佐官にこうも述べた。
「あとは開戦だけだ」
「ではいよいよ」
「開戦の時の演説の文章の作成だ」
 これはルースの仕事だった。大統領である彼の。
「それに取り掛かる。後で草稿を読んでくれ」
「わかりました。それでは」
 補佐官は一礼して応える。こうした話をしてだった。
 ルースも彼の仕事に取り掛かる。しかし彼の影は薄いままだった。
 彼の存在が薄くとも話は進む。ガメリカもまただった。
 アメリカはその中でだ。妹とこんな話もしていた。
「日系人?」
「そう、うちの国にも日本帝国からの移民がいるよね」
「そうだな。それなりにいたな」
「最近日系人への反発があるんだけれどね」
 国民の間でだ。それが起こっているというのだ。
「兄貴はそれに対してどうするんだい?」
「悪いことは許さないぞ」
 アメリカは真面目な顔で妹に返す。
「差別をする様な奴は大嫌いだ」
「じゃあ日系人はだね」
「おかしなことがあれば僕が許さないからな」
 やや一方的なところが見られるとはいえだ。アメリカはそうしたことは許さないと言い切る。
「それは何処で起こってるんだい?」
「USJとかでね」
「あそこか」
「ああ。あそこに日系人が多いからね」
「わかったぞ。ではマニラに行く前にあそこに行く」
 アメリカの動きは速かった。すぐにそこに行くというのだ。
「それでいいな」
「あたしも行くよ。正直あたしもね」
「御前もそうしたことは嫌いだったな」
「ガメリカは平等の国だからね」
 笑みを浮かべてだ。アメリカ妹は自分の兄にこう返した。
「それは当然だろ?」
「その通りさ。じゃあすぐにUSJに行こう」
「それとカナダにも声をかけるかい?」
「カナダにもだね」
「カナダの西にも日系人が多いからな」
 だからだ。カナダにも声をかけると言うアメリカだった。
「そうしよう」
「わかったよ。それじゃあね」
 二人でそうした話をしてだ。兄妹でそのUSJに向かった。そこでは知事、星域の行政責任者が険しい顔をしてだ。部下達にこんなことを言っていた。
「若し何かあればだ」
「はい、その時はですね」
「ジャップ達をですね」
「隔離しろ」
 そうしろとだ。知事は部下達に言っていた。
「そしてそのうえでだ」
「荒れ地の収容所に送りますか」
「そちらに」
「そうだ。そこに送って隔離しろ」
 知事は険しい顔で話していく。
「わかったな。手配は整えろ」
「それではですね」
「今から」
「戦争は間も無くだ」
 その知事からしてもだ。開戦は必至のものだった。
「だからこそだ。いいな」
「ジャップはジャップですね」
「戦争になれば何をしてくるかわかりませんえん」
「それなら」
 部下達も知事の言葉に頷こうとしていた。だがここでだ。
 アメリカとその妹が知事の執務室、彼等が話しているそこに入りだ。こう言うのだった。
「待て!僕の国民を収容所に入れるな!」
「そんなことは許さないからね!」
 怒った声でだ。彼等は知事達に抗議する。
「犯罪者以外にはそんなことはさせないからな!」
「例え戦争になる相手の国から来た人間でもね!」
「し、しかしです」
「ジャップはジャップですが」
 知事達は部屋に飛び込んできた自分達の祖国に戸惑いながらもだ。それでもだった。
 こう主張する。テロ等が予想されるからだと言ってだ。
「開戦になれば何をしてくるかわかりません」
「ですから」
「そんなことは起こらない!」
 アメリカは断言した。強い目で右手を拳にして己の顔の前で振って。
「僕の国民がそんなことをするものか!」
「だからですか」
「祖国さんは彼等を」
「若し彼等を信じないのなら僕を信じないことだ!」
 祖国であるだ。彼をだというのだ。
「そうなることだ!僕を信じないのか!」
「い、いえそれは」
「そんなことはありません」
 知事達もそう言われるとだ。こう返す他なかった。
「私達もガメリカ人です」
「それならば」
「そうだな。ガメリカ市民なら僕を信じてくれるな」
「当然です、祖国さんを信じない人はいません」
「その国の人間なら」
「そうだな。彼等も僕の国民なんだ」
 アメリカは今度は腕を組んでそのうえで言い切る。
「彼等のことはよくわかる。だから安心するんだ」
「はい、わかりました」
「それなら」
「彼等のことは僕に任せてくれ」 
 アメリカは責任を持ちだ。彼等を守護するということでもあった。
「彼等も僕の国民なんだ。なら僕が保障することだ」
「あたしもいるからね」
 アメリカ妹も言う。そうしたのだ。
「あんた達が気にする必要はないよ」
「今一番怖いのは偏見だ」 
 アメリカはこうもだ。知事達に告げた。
「そのことが一番怖いからな」
「そうですね」 
 落ち着きを取り戻した知事がだ。アメリカに述べた。
「では。彼等のことは」
「僕がいる。安心するんだ」
 アメリカはこう言ってだ。自分達の国民を守ったのだった。このことはすぐに四姉妹のところにも伝わった。キャロルはその話を聞いてだ。四姉妹の三人にテレビ電話からこう話した。
「こうしたところが祖国ちゃんのいいところね」
「そうね。正直なところね」
「日系人の問題は憂慮することだったわ」
 ハンナとドロシーもこのことについて話した。
「下手に収容所に入れれば」
「今はよくてもね」
 キャロルは顔を顰めさせて述べた。
「後々ね。厄介なことになってたわね」
「そう。我が国が掲げているものの一つに人権と平等があるから」
 それ故にだと。ドロシーは淡々として述べる。
「そのことから。深刻な問題になっていたわ」
「けれど。UFJの暴走は私達でも抑えきれなくなっていたから」
 クーはUFJの事情に言及した。
「私達でも。どうにかできないものもあるから」
「万能の人間なんていないわ」
 ハンナはきっぱりと言い切った。
「人間の力には限りがあるものよ」
「例え四姉妹であっても」
「ええ。それは祖国さんも同じだけれどね」 
 彼女達が等しく愛情を向けているアメリカも同じだというのだ。それは。
「万能で。何もかもをできる存在はいないわ」
「けれど今回は」
「本当に祖国さんしかできなかったからね」
 キャロルはその眉を少し顰めさせて言った。
「ファインプレーだったわ。政治的にもね」
「キャロルも政治的な判断ができるようになったわね」
「当たり前でしょ。これでも国防長官よ」
 少し怒った様な表情を見せてだ。キャロルはハンナの挑発めいた言葉に反論した。
「だからね。今回は本当にね」
「祖国さんのファインプレーね」
「そう思うわ。けれど日系人への偏見は残るわよ」
 キャロルはこの感情について指摘した。
「あたしも。収容所は反対だけれど日本人は嫌いよ」
「わかってるわ。既に考えはあるわ」
「考えって?」
「日系人への偏見と日系人達のそれに対する反発を利用するわ」
 その二つをだ。同時にだというのだ。
「日系人達に軍への志願を勧めてみたらどうかしら」
「国防省としてなのね」
「そうよ。どうかしらこれは」
「悪くないわね。丁度日系人の軍人にいい娘がいるし」
「そう、いるの」
「朽木=イザベラっていうの。負けん気の強い娘よ」
「ではその娘を提督に抜擢したらどうかしら」
 ハンナはキャロルにこう勧めた。四姉妹同士ではあるが管轄が違うのでアドバイスになるのだ。
「そうしたらどうかしら」
「そうね。あの娘を提督に抜擢してなのね」
「その下に日系人の志願兵を置くのよ」
「悪くないわね。じゃあイザベラに話しておくわ」
 キャロルは明るい顔になって言った。
「丁度あの娘今マニラにいるし。祖国ちゃんとも会えるわね」
「だからキャロル、祖国さんをちゃん付けで呼ぶのは」
「いいじゃない。あたし自分の国大好きだから」
 クーに言われてもだ。キャロルは自分の国への砕けた態度を変えない。
「祖国ちゃんの為なら一肌も二肌も脱ぐわよ」
「私も。やってみる」
 ドロシーはキャロルの話が終わったところでぽつりと述べた。
「祖国さんの為に考えていることがあるから」
「科学やエネルギーのことは任せるわ」
 ハンナはそのドロシーに言った。
「そうしてね」
「わかったわ」
「じゃあそういうことでね」
 話が全部終わったと見てだ。キャロルが明るく述べる。
「電話での会議はこれで終わりね」
「ええ。ではそれぞれの仕事に戻って」
 最後にハンナが三人に告げて話を終えた。四姉妹は自分達の祖国の行動に感謝していた。そして彼により一層の愛情を感じるのだった。


TURN18   完


                          2012・4・13



おお、大統領への対応が結構ましに。
美姫 「大統領自身も祖国が居るからか、落ち着いているわね」
だな。そうなると内部からの崩壊は難しいかな。
美姫 「うーん、どうかしらね。どちらにせよ、日本は結構、厳しい状況よね」
周りを囲まれているというのもあるしな。下手すれば、それこそ二方どころか多方面への侵攻になるぞ。
美姫 「どうやって進めていくのか、楽しみね」
だな。次回も待ってます。
美姫 「待ってますね〜」



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