『ヘタリア大帝国』




               TURN141  石の謎

 間も無く十九隻の超艦艇達の建造が終わろうとしていた、その中で。
 日本は開発を進める平賀に対してこう尋ねた。
「艦載機の数もですね」
「尋常なものではない」
 日本達八国がそれぞれ乗る空母達の艦載機はというのだ。
「そして戦艦のビームやミサイルもだ」
「相当な威力ですね」
「一隻で大怪獣を倒すことを念頭に置いている」
 そうして開発、製造したものだというのだ。
「楽しみにしておいてくれ」
「わかりました」
「それでだが」
 平賀は久重の口から話していく。
「私は一つのことが気になっているのだが」
「といいますと」
「石だ」
「石!?」
「そうだ、石だ」
「石といいますと」
「カテーリン書記長の石だ」
 その石だというのだ。
「あの左手にあったな」
「そういえばあの石を見てでしたね」
 日本もここで思い出した、カテーリンの左手にあった赤い石はそれを見た者をカテーリンの言葉を信じさせる効果があったのだ。その為ソビエトはカテーリンの言葉に有無を言えぬ状況になり導かれたのである。
 そのことを思い出してだ、日本は平賀に応える。
「ソビエトは建国されましたし」
「そうだ、そして今はだ」
「石がないですね」
「その為カテーリン書記長は違ってきている」
「石に頼られずにご自身の言葉で語られていますね」
「その方がいいがな」
 石に頼るよりもだというのだ。
「あれは危険だった」
「元々カテーリン書記長はカリスマ性が備わっていますし」
「過剰なカリスマは言うならばだ」
 平賀は無表情だ、だが。
 その言葉久重の口から出す言葉に剣呑な色を含ませてそして言うのだった。
「女王蟻の様なものだ」
「女王蟻!?」
「気付いたか、祖国殿も」
「はい、それはまさしくラムダス達です」
「あのイモムシ達だ」
 まさにそれだとだ、平賀は日本に述べる。
「同じだな」
「そういえばソビエトもまた」
「カテーリン書記長という女王蟻に動かされるな」
「言い方は悪いですが」
「ラムダスに似ていた」
 それが当時のソビエトだった、カテーリンはまさに女王だった。
 平賀と日本はそのことに気付いた、そして実際に。
 柴神はこの時ロシアに問われていた、場にはカテーリンもいる。
 ロシアは少し怪訝な顔になりそのうえで柴神に問うたのだ。
「ところで書記長の赤い石だけれど」
「あのことか」
「うん、前に話してくれた様な気もするけれど」
「あの石はラムダスの女王の石だ」
「そうだったんだね」
「そうだ、何故女王は同族を手足の用に動かせるのか」
 そのことをだ、柴神は今話すのだった。
「それはあの石の力だ」
「そうなの、あの石は」
 カテーリンもここで言う。
「皆に見せたら皆私の言うことを聞いてくれたの」
「うん、不思議な石だったね」
「あの石があったから私はソビエトを建国出来たの」
「あの石は書記長さんが拾ったものだよね」
「道に落ちてたの、赤く光って綺麗だったから」
「最初はルビーだって思ったんだよね」
「うん、けれど違って」
 そうではなく、というのだ。
「見ただけで書記長さんの言葉に頷いてしまうね」
「そうした石だったな」
「それであの石はなんだ」
「今話した通りだ」
 イモムシの女王達の石だというのだ。
「おそらくチェリノブから出た石がグルジアまでワープ空間も通り漂い隕石となって落ちたのだ」
「何か可能性としては凄く低い話だよね」
「私もそう思う、女王の石の破片があの世界から出ること自体がな」
 ましてやだ、それがグルジアまで漂い隕石となって落ちて残っておりカテーリンが拾うということまで至ることはだ。
「有り得ないまでだ」
「しかしそうなってなんだ」
「私が使ってたの」
「書記長の手から離れて何よりだ」
 その石は柴神が砕き消し去った、そうして処分したのだ。
「あれは人間が備えるべきものではない」
「人が人を操る力はだね」
「それがラムダス達を怪物にしている」
「それじゃあ」
「あの種族も石もだ」
 そのどちらもだというのだ。
「滅ぼすか消すかしてだ」
「そしてだね」
「そうだ、我々は生き残るのだ」
 それが柴神の考えだった、イモムシ達とは決して共存出来ないというのだ。
 そしてだ、今度はカテーリンが柴神に問うた。その問うこととは。
「それでヒムラー総統もなの?」
「彼の手には青い石があったな」
「あれも私と同じなの?」
「その様だな、あの男はベルリンにいたあのラムダスが持っていた石を備えたらしいが」
「どうして青になっていたのかしら」
「おそらく男があの石を着ければだ」
 考察する声と顔でだ、柴神はカテーリン達に話す。
「青くなるのだ」
「そうだったのね」
「ラムダスには女王しかいない為わからなかった」
 その青い石にはというのだ。
「男は王になり石は青くなるのだ」
「ううん、柴神様もそこまでは知らなかったんだ」
「私も連中の生態は全て知らない」
「だからそのこともなんだ」
「あの種族はメスが強い」
「そこも蟻みたいだね」
「そうだ、女王蟻を頂点とするな」
 まさにそうした世界だというのだ。
「普通のイモムシ達は兵隊蟻そのものだ」
「そう言われるとわかりやすいね」
 ロシアも納得する。
「そうなんだね」
「そうだ、それでだが」 
 柴神はここで話を変えた、その話はというと。
「もうそろそろ超艦艇達が完成するな」
「うん、いよいよだね」
「完成したら後は」
「出撃だけだ」
 こう二人に話すのだった。
「そして女王を倒すぞ」
「柴神様は艦載機部隊の指揮官でもあるんだよね」
「そうだ、そちらもやらせてもらう」
 枢軸軍でこれまでしてきた通りにだ、そうするというのだ。
「それでいいな」
「うん、じゃあね」
「それでもお願いね」
「そうさせてもらう、ではな」
 石の話から戦いの話になる、最後の決戦の時は今まさに迫ろうとしていた。そしてその最後の戦いについて。
 東郷は娘の真希に自宅でこう話した、表情は普段通りだ。
 しかし普段よりも真剣な声でだ、こう話すのだ。
「必ず帰ってくるからな」
「お父さんの最後の戦いだね」
「ああ、そしてその戦いでだ」
「この世界は平和になるんだね」
「その時は皆でお祝いをしよう」
 東郷はこう娘に話す。
「そしてだ」
「そして?」
「真希の結婚相手のことも考えておくか」
 こう言うのだった。
「帰って来たらな」
「真希のお婿さん?」
「そうだ、誰がいいかだな」
「あら、かなり先のことを言ってるのね」
 ここでスカーレットが二人のいる部屋に来た、そのうえで言うのだった。
「真希の結婚の話なんて」
「そうだがな、しかしだ」
「今度の戦いは、ね」
「日本どころか世界を賭けた戦いだ」
 それ故にだというのだ。
「どうなるかわからないからな」
「それでなの」
「この戦いが終わったら」
 東郷はスカーレットに顔を向けて彼女にも話す。
「考えるか」
「それでどの人がいいと思ってるの?」
「秋山はどうだ?」
 東郷が話に出した相手は彼だった。
「あいつは」
「あら、随分歳が離れてるわね」
「しかしあいつならな」
「真希を任せられるのね」
「ああ、あいつもまんざらではないみたいだしな」
「お互いの意見を聞いてなのね」
「そうして決めたい」
 相手を選ぶ際もだ、そのことは忘れないというのだ。
「それでどうだ?」
「いいと思うわ、後ね」
「後?」
「これは柴神様の提案だけれど」
 この前置きからだ、スカーレットは東郷に話した。その話はというと。
「真希も一緒にどうかって」
「あの力か」
「ええ、今度の戦いは本当に負けられないから」 
 それ故にだというのだ。
「真希もね」
「俺は真希を連れて行きたくないが」
 このことは東郷の本音だ、彼は娘を大事に思っているのでそれはどうしても避けたいのだ。だがそれでもだった。
「しかしか」
「ええ、真希の力があると」
「敵の攻撃を完全に防げる」
「それでなのよ」
「確かに真希の力はあると有り難い」 
 このこともまた事実だった、確かに真希を戦いに連れて行くことは好まないがだがそれでもなのだ。
「例え軍籍にない娘でもな」
「それじゃあ」
「そうするか」
 東郷は今度は真希を見ながら言った。
「真希も」
「それじゃあ真希に聞いてみましょう」
「いいか、真希」
 東郷は真希のその顔を見て娘に問うた。
「御前も来るか?」
「お父さん、お母さんと一緒に?」
「そうだ、戦いに来るか」
 こう娘に問うのだった。
「そうするか」
「うん、それじゃあ」
 真希は静かに頷いてだった、そのうえでこう父に答えた。これで決まった。
 別世界に向かうメンバーも決まっていく、平良はその彼等を見ながら韓国にいささか残念な顔で語った。
「実は私も」
「行きたかったんだぜ?」
「はい、人類の総てを賭けた戦いなら」
「武人としてなんだぜ」
「その通りです」
 それ故にだというのだ。
「そう思っていましたが」
「ですが超艦艇の数は決まっています」
 福原がその平良に言う。
「ですからそれは」
「仕方ない、それは私もわかっているつもりだ」
「それでは」
「見送る」
 これが平良の今の決断だった。
「そうする」
「それでは」
「長官も祖国殿も必ず戻って来られる」
 それならというのだ。
「迎えの宴の用意をしておこう」
「ではお酒にご馳走にですね」
「色々と用意をしておこう」
「お寿司は欠かせませんね」
 福原はにこりと笑って日本伝統のこの料理の名前を出した。
「やはり」
「そうだな、寿司は絶対にだな」
「これがありませんと宴ではないですね」
「寿司は最高の料理の一つだ」
 平良も寿司が大好物だ、だから福原のその言葉に身を乗り出さんばかりになって応えて言うのである。
「それではな」
「職人の方もお呼びしまして」
「最高の寿司を用意してもらおう」
 まずは寿司だった、そして。
 それに加えてだった、今度は韓国が言うのだった。
「じゃあ焼肉も用意するんだぜ」
「韓国殿の大好物のそれもですね」
「あと冷麺もなんだぜ」
 これもだというのだ。
「勿論キムチも欠かせないんだぜ」
「韓国殿はまずはキムチですね」
「あれがないと何も食えないんだぜ」
 韓国の場合はそうだ、彼は何につけてもキムチがはじまりなのだ。
「だからなんだぜ」
「それでは」
「それと酒はマッコリなんだぜ」 
 韓国の好きな酒の一つだ、彼の地酒でもある。
「あれにするんだぜ」
「マッコリですか、あれは確かにいいですね」
 平良もよく飲む酒だ、韓国の軍事顧問になってから彼と共に飲むことが多くなったのでそれでいつも飲んでいるのだ。
「それでは」
「あれもなんだぜ」
「では私も」
 福原もここで言う。
「台湾さんと一緒に」
「台湾さんも料理上手ですから」
 福原は台湾の軍事顧問だ、それで彼女の名前を出したのだ。
「点心系を作ってもらって」
「何かと贅沢な宴になりそうだな」
「はい、楽しみですね」
「とにかく宴の用意だ」
 東郷達が帰って来た時の祝勝のだ。
「そうしよう」
「各国の料理を山程」
「では我々もだホーーー」
 ケツアルハニーも出て来た、彼が言うには。
「シャラスコとビンガを用意するんだホーーー」
「シェラスコ、あれですね」
「そうだホーーー、牛肉を串刺しにして焼いたものだホーーー」
 それだとだ、ケツアルハニーは福原に話す。
「最高に美味いんだホーーー」
「あとビンガはサトウキビのお酒でしたね」
「凄く強い酒だホーーー」
 それを飲もうというのだ。
「皆にたらふく食って飲んでもらうんだホーーー」
「それはいいのですが」
 ここで平良は首を傾げさせてケツアルハニーに尋ねた。
「ハニワ族の方々はどの様にして食べたものを消化されているのでしょうか」
「?何か気になるんだホーーー?」
「実は以前から」
 ハニワ族の身体の構造が気になっていたのだ、平良にしても。
「どうなっているのか」
「ちゃんと内蔵等があるんだホーーー」
「そうなのですか」
「だから問題ないホーーー」
「だといいのですが」
 ハニワ族は割れてすぐに元通りになる、他の種族と比べてかなり変わった体質である。
「不思議と言えば不思議です」
「といってもあいつ等は大嫌いだホーーー」
 ケツアルハニーはここでは目を怒らせて言った。
「イモムシ達はお断りだホーーー」
「ケツアルハニーさん達も食べられてしまいますか」
「そうなるんだホーーー」
 そうなるというのだ。
「あいつ等の言葉にふらりとなるからそうに違いないホーーー」
「ハニワ族もですか」
 平良はこのことにも首を傾げさせた。
「そうなりますか」
「そうだホーーー」
「本当に不思議ですね」
「人間だからだホーーー」
 それ故にだというのだ。
「そうなるホーーー」
「そういうことですね」
「人間は全部あいつ等の餌だホーーー」
 ケツアルハニーはこのことも目を怒らせて話した。
「だからだホーーー」
「わかりました、それでは」
「とにかくこちらが出すのはシェラスコとビンガだホーーー」
「シェラスコもいいものですね」
 平良はシェラスコについても既に知っている、ブラジルの名物料理だからだ。
「豪快に食べられます」
「それが売りだホーーー」
 こうした話もするのだった、そして。
 そうした話をしながらだった、彼等は宴の用意も進めるのだった。
 ランスもだった、宴の用意をしている。だが彼は微妙な顔でこう言うのだった。
「しかしな」
「どうしたのですか?」
 シィルがそのランスに問う。
「不満そうですが」
「不満っていうかな、俺は向こうの世界に行かないんだな」
 彼が言うのはこのことについてだった。
「そうなんだな」
「そのことですか」
「ああ、そうなんだな」
「ゲストですから」
 シィルはあえて身も蓋もない言葉でランスに答えた。
「ですから」
「ああ、だからか」
「はい、そうです」
 それでだというのだ。
「そのことは我慢して下さい」
「ゲストなら仕方ないか」
「主役の見せ場を奪うことは出来ません」
 この決まりがあるからだというのだ、所謂暗黙の了解というものだ。
「そういうことなので」
「じゃあ今は迎えの準備をするだけか」
「そうしましょう」
「女の子と遊ぶか?」
 ランスは自分の趣味を出した。
「そうするか」
「それもです」
「駄目か?」
「はい、お茶を飲む位ならいいですが」
「そうか、それじゃあハニートラップでも誘うか」
「あの人をですか」
「暇ならな」
「暇じゃないわよ」
 ここでそのハニーが傍を通りがかった、するとすぐにこうランスに返してきたのだった。
「生憎だけれどね」
「そっちも準備で忙しいんだな」
「そうよ」
 だからだというのだ。
「あんたとお茶も飲めないわ」
「それは残念だな」
「というかあんたも忙しいんじゃないの?」
「今は戦いがないからな」 
 それでだとだ、ランスはハニーに答える。
「暇だ」
「あんた料理とか出来ないのね」
「そうしたことはいつもシィルがしている」
 シィルはランスの奴隷でもある、だからである。
「俺はしない」
「今時お料理しない男ってのも駄目だけれど」
 ハニーはむっとした顔になってランスに返した。
「あの田中副長官だって出来るわよ」
「ああ、あいつ寿司とか握れるからな」
「和食だけしか出来ないけれど和食なら職人並よ」
 言うまでもなく和食のだ。
「実家が魚屋さんだしね」
「それでか」
「そうよ、だからよ」
「魚に慣れてるんだな」
「お寿司にお刺身に天麩羅にね」
 どれも和食だ、それに。
「お蕎麦とかおうどんも凄いわよ」
「そっちでも食えそうだな」
「そこまでいってるわね、実際に」
「それで俺はっていうんだな」
「お料理も身に着けてみたら?」
 ハニーはそのじとっとさせた目でまた田中に言った。
「本当にね」
「じゃあ缶詰を空けるか」
「まさかそれでお料理をしたって言うつもり?」
「トーストを焼くかインスタントラーメンを作るか」
「どれもお料理じゃないわよ」
 ハニーの目はじとっとしたままだ、目でこいつ何言ってるのと言っている。そうした目である。
「あんた絶望的にそっちの才能ないのね」
「保存食あるからいいだろ」
「よくないわよ」
 それもだというのだ。
「というか何処がいいのよ」
「俺の世界じゃいいんだよ」
「ああ、あんたRPGの世界から来てるからね」
「女の子が一杯いてな」
「で、酒池肉林なのね」
「そうした世界だからな」
 保存食とシィルの料理でもだというのだ。
「いいんだよ」
「まああんたの世界はそれでいいでしょうけれど」
「こっちの世界はっていうんだな」
「そうよ、また違う世界だから」
「男も料理をしないといけないか」
「本当にシィルさんに頼りきりじゃね」
 駄目だというのだ。
「こっちの祖国さんだってお料理凄いから」
「ああ、中国さん確かに料理上手だよな」
「プロ裸足よ」
 伊達に中国そのものではない、このことは当然のことだ。
「あの人も男だけれど」
「料理がいいか」
「あとイタリアさんもね」
「料理上手の国も多いな」
「というか国家が普通に皆と一緒にいるってないでしょ」
 ハニートラップはこうも言う。
「そうでしょ」
「言ってしまえばそうだけれどな」
「この世界独特だから」
「本当にな、しかし料理上手なのはいいことだな」
「だからあんたもお料理勉強したら?」
「それでもな」
 まだ言うランスだった、今は浮かない顔になっている。
「俺にはシィルがいるんだよ」
「それでお料理しないのね」
「悪いかよ」
「お料理出来る男ってポイント高いのよ」
 まだこう言うハニートラップだった。
「女の子もね」
「そう言うあんたもかよ」
「勿論よ、自信あるわよ」
 ハニートラップはこのことは笑って述べる。
「いいもの作るから」
「じゃあ戦いが終わって元の世界に帰るまでにな」
「ええ、ご馳走するからね」
「待つか、東郷さん達を」
 ランスは自分も行きたい気持ちを抑えて言う。
「昼寝でもしながらな」
「結局そこに落ち着くのね」
 これがランスだった、そうして。
 彼もシィルも今は休む、その中で。
 最後の戦いへの準備は今終わろうとしていた、レーティアが出撃が決まっている面々を集めて強い声で言った。
「遂にだ」
「完成したのね」
「明日だ」
 こうキャロルに答える。
「完成し次第だったな」
「ああ、総員乗り込んでだ」
 東郷がレーティアに答える。
「出撃だ」
「よし、それではだ」
「もう艦名は決めている」
 東郷は肝心のその話もした。
「レーティアさんの船はヒンデンブルグだ」
「それがドクツの艦の名か」
「ドイツさんはドイッチュランドだ」
「わかった」
 ドイツも頷いて応える。
「超空母ドイッチュランドか」
「それでいいな」
「グラーフ=ツェッペリンだと思ったが」
「どうも不吉な気がしてな」
 それでだというのだ。
「止めた」
「そうか」
「しかしヒンデンブルグか」
 レーティアはこの艦艇の名前についても言う。
「前大統領の名だが」
「それでいいと思うがどうだ?」
「いい大統領だった、しかしだ」
「老いていたっていうんだな」
「うむ、一次大戦の英雄だったが」
 ドクツを支えた名将だった、しかし大統領になった時の彼は老いていた。それが為大統領としてはだったのだ。
「ドクツを救いきれなかった」
「しかし若い頃を考えだ」
「あの方の名にしたのだな」
「そういうことだ」
「成程な、わかった」 
 レーティアもそれでいいとした、まずはドクツだった。
 そして次はだ、この国だった。
「オフランスだが」
「我が国ですか」
「シャルロットさんはリシュリューだ」
 それが彼女が乗る超艦艇の名前だった。
「この名にした」
「オフランスの名宰相ですね」
「ああ、三銃士にも出ているな」
「ダルタニャン物語では悪役ですが」
 三銃士はこのダルタニャン物語の中の一節にあたる。実はかなり長い話なのだ。
「しかし実際は」
「いい宰相だったぜ」
 リシュリューのことを知るフランスが言う。
「オフランスに尽くしてくれたよ」
「あの人の名前ならいいと思ってな」
 だからだというのだ。
「そうさせてもらったが」
「では」
 シャルロットは微笑んで東郷に応えた。
「喜んで」
「これで決まりだな、さて」
「次は俺だな」
 フランスが東郷に応える。
「その名前は何だ?」
「フランスだ」
 そのままの名前だった。
「それでいいか」
「ああ、俺そのものだな」
 フランスは気取った笑顔で東郷に応えた。
「いい名前だな」
「これで決まりだな」
「ああ、喜んで受けさせてもらうな」
 これでオフランスも決まった、しかし国家はまだある。
 東郷はイタリアも見た、今はロマーノもいる。
「実は空母建造に余裕が出来てだ」
「俺もだな」
「そうだ、ロマーノさんにも来てもらいたいが」
「俺は戦いは嫌なんだよこの野郎」
 ロマーノはまずはむっとした顔で東郷に返した。
「それでもかよ」
「そこを頼みたいが」
「世界がかかってるなら仕方ないだろ」
 これがロマーノの返答だった。
「じゃあ乗らせてもらうからな」
「よし、それじゃあな」
「それで艦艇の名前はどうなるの?」
 ムッチリーニが東郷にこのことを問うた。
「私達の艦は」
「まずムッチリーニさんはジェリオ=チェーザレだ」
「あっ、いい名前ね」
「イタリンの英雄だが」
「策謀家でもあったわね」
「かなり癖のある御仁だったがな」
 英雄rと言うよりも梟雄と言うべき人物だ、謀略とりわけ暗殺を得意としていた。カンタレラという毒をとりわけよく使った。
「それでどうだろうか」
「いいわ」
 ムッチリーニは微笑んで応える。
「それじゃあね」
「それで俺はどうなるの?」
「名前どうなるんだこの野郎」
 イタリアとロマーノも東郷に尋ねてきた。
「俺達は超空母だけれど」
「どんな名前なんだよ」
「イタリアさんはヴェネチアーノだ」
 まずは彼からだった。
「そしてロマーノさんはロマーノだ」
「俺達の名前そのままなんだ」
「捻りがないぞ」
「それじゃあ他の名前でもいい」
 東郷はこの辺りはイタリア達に任せてもいいと答える。
「いい名前をつけてくれ」
「ううん、まあそれでいいかな」
「実は反対するつもりもないしな」
 二人は腕を組んで少し考える顔で東郷に答える。
「それでいいよ」
「俺もだよ」
「そうか、それじゃあな」
「うん、それでいいよ」
「俺達の名前のままでな」
 こうしてイタリンも決まった、まずは欧州組だった。 
 そして欧州組の最後の一国、その国はというと。
 エイリスだった、東郷はセーラとイギリスを見て言う。
「セーラさんは一つしかなかった」
「クイーン=エリザベスですね」
 彼女の乗艦の名前だ、通常戦艦の時からの。
「あの名をですか」
「それしか思いつかなかった」
「わかりました」
 セーラは東郷の言葉に微笑んで応えた。
「それではその名前で」
「いいんだな」
「私もそれ以外にはないと思います」
 クイーン=エリザベス、その他にはというのだ。
「ですから」
「よし、女王さんもこれで決まりだ」
「それでは」
 こうしてセーラも決まった、その次は。
 イギリスだった、彼の空母の名は。
「イングランドだ」
「俺の本名だな」
「イギリスさんは元々イングランドだからな」
「ああ、兄さん達と一緒になって今の名前に変えたんだよ」
 イギリスは不敵な感じの笑顔で東郷に応える。
「イギリスにな」
「ユナイテッド=キングダムだな」
 イギリスは本来の名をイングランドといった。兄にスコットランド、アイルランド、ウェールズの三人がいるのだ。なお兄弟仲は最悪である。
「しかしそれだとな」
「兄さん達と揉めるからか」
「イギリスさんも揉めたくないだろう」
「生憎いつも揉めてるぜ」
 イギリスはこのことは顔を少し右斜め下にしてシニカルかつ暗い笑顔で話した。
「どうしたものだよ」
「だからだ、ここはな」
「俺だけの名前にしたんだな」
「そうさせてもらった」
「ならそれでいいぜ」
 イギリスは顔を元に戻して応えた。
「イングランドでな」
「ではな」
 こうして欧州組は全て決まった、五国目はというと。
 ソビエトだった、まずはカテーリンだが。
「タイフーンでいいだろうか」
「台風?」
「潜水艦でそうした名前にしていたな」
「うん、そうだけれど」
「それでいいと思ったが」
「あの潜水艦の名前は私がつけたの」
 そうしたとだ、カテーリンも答える。
「お気に入りの名前だけれど」
「そうだったのか」
「だからね」
 それでだとだ、カテーリンは言葉を選びながら東郷に話す。
「その名前でいいわ」
「よし、じゃあな」
 こうしてカテーリンの超戦艦の名前も決まった、続いてはロシアだった。
 ロシアにもだ、東郷はこう話した。
「ロシアさんの超空母はルーシーだ」
「うん、わかったよ」
 ロシアはにこりと笑って東郷に応える、
「それじゃあね」
「それでいいか」
「僕の最初の名前だったね」
「ルーシーがロシアになったんだったな」
「そうなんだ、だからね」
 それでだとだ、ロシアは温厚な笑顔のまま話していく。
「その名前でいいよ」
「そういうことだな」
「これで決まりだね」
 こうしてロシアも決まった、次はいよいよ太平洋の三国だった。
 リンファとランファ、中帝国の両翼に対してはというと。
「リンファさんは定演でだ」
「はい」
「ランファさんは鎮遠だ」
「懐かしい名前ね」
 リンファもランファもそれぞれ応える。
「まさかその名前が復活するとは」
「少し予想外だったけれど」
「しかしいい名前だからな」 
 東郷は二人に話す。
「これにさせてもらったのだが」
「ではそれで」
「いいよ」
 二人は微笑んで東郷に答える。
「別世界に入りそしてラムダス達を倒しましょう」
「そうしようね」
「そういうことでな、あと中国さんは」
 中国も見てだ、東郷は話した。
「中華だ」
「その名前あるか」
「超空母中華、それでいいか」
「いいあるぞ」
 中国も反論することなく東郷に答える。
「空母の運用には不安が残るあるが」
「それは安心してくれ、中国さんなら出来る」
 東郷はそのことには安心していた、それは中帝国が枢軸に加わってから空母を使ってきているからである。
「大丈夫だ」
「わかったある、それでは」
「中国さんの超空母はその名前でな」
「宜しく頼むある」
 こうして中帝国の超艦艇達の名前も決まった、そしていよいよだった。
 ガメリカだ、まずはダグラスに言う東郷だった。
「ワシントンだ」
「首都の名前だな」
「そうだ、プレジデントが乗る艦だからな」
 それでその名前を選んだというのだ。
「それならだ」
「ああ、それでか」
「いい名前だと思うが」
「それ以上はないまでだな」
 これがダグラスの返事だった、笑顔で言うのだった。
「気に入ったぜ」
「よし、決まりだな」
「それであたしね」 
 ダグラスと入れ替わりになる形でキャロルが出て来た、その彼女の乗艦の名はというと。
「どういった名前かしら」
「エンタープライズだ」
 東郷が出した名前はガメリカ軍伝統の艦名だった。
「これでどうだ」
「あたしがガメリカ軍の象徴に乗るのね」
「国防長官なら相応しい名前だと思うが」
「誇らしいわね」
 キャロルもまんざらではない、それが顔に出ている。
「それじゃあね」
「ああ、頼むな」
 東郷はキャロルに応えさらにだった。
 アメリカにも顔を向けてだ、こう言った。
「アメリカさんの超空母はアメリカだ」
「僕そのものだな」
「それでどうだ?」
「よし、それでいいぞ」
 アメリカは明るい声で東郷に応える。
「絶対に沈みそうもないいい名前だ」
「ヒーローの活躍を期待している」
「ははは、任せてくれ」
 アメリカはいつもの調子で東郷に返す。ヒーローという言葉が彼を余計にそうさせる。
「やってやるからな」
「これでガメリカさんも決まりだ」
 そしていよいよ最後だった、その最後は。
「日本帝国だが」
「ええ、いよいよね」
「私達ですね」
 スカーレットと日本が東郷の言葉に応える。
「私達の乗艦の名前ね」
「一体どういった名前なのか」
 二人も緊張している、そしてその名前はというと。
「まずスカーレットは長門だ」
「長門ね」
「そうだ、超戦艦長門だ」
 それがスカーレットの乗る超戦艦の名前だった。
「それでいいな」
「いいわ、連合艦隊の副将ね」
 今は山本無限が乗っているその艦の名前だ、今の日本海軍では東郷の乗る総旗艦大和に次ぐ艦艇である。
「喜んで受けるわ」
「性能は段違いに違う」
 東郷と山本がこれまで乗っている長門とは、というのだ。
「そのことも楽しみにしておいてくれ」
「それではね」
「そして祖国さんの空母は」
 日本の乗る超空母、その名は。
「日本だ」
「はい」
 日本は東郷のその言葉に応えた、すぐに。
「それでは」
「その名前でいいだろうか」
「私もスカーレットさんと同じです」
「この名前でいいか」
「私自身の名前ですから」
 微笑みそのうえで東郷に答える。
「嬉しい限りです」
「それではな」
「その艦に乗り込む向かわせてもらいます」
 最後の戦い、それにだというのだ。
「喜んで」
「それではな」
「では最後はですね」
 日本は東郷に今度は彼から応えた。
「長官の乗られる艦ですね」
「そうだ、その名前はだ」
 いよいよだった、東郷はその名を述べた。その名前はというと。
「大和だ」
「その名前ですか」
「そうだ、俺が乗っているその艦の名前をそのまま受け継ぐ名前だ」
 それが東郷の乗艦の名前だというのだ。
「これしか思い浮かばなかった」
「では」
「この名前でいく」
 東郷は確かな声で言い切った、こうしてだった。
 全ての乗艦の名前が決まった、人類の精鋭達はそれぞれの艦に乗り込み明日出撃することになった、そして。
 田中とエルミーは平賀の研究室でその研究室の主である平賀と会っていた、東郷達の最後の会議の時に。
 平賀は久重の口から二人にこう告げた。
「完成は三日後だ」
「明日には間に合わなかった」
「開発が遅れていたからですね」
「そうだ、しかしだ」
 開発は遅れた、だがそれでもだというのだ。
「性能は折り紙つきだ」
「そこまで凄い潜水艦か」
「まさに超潜水艦なのですね」
「そうだ、十一席の超戦艦に九隻の超空母」
「そして二隻の超潜水艦か」
「かなりのものですね」
「期待してもらって結構だ」
 平賀は言葉に確かな自信も見せて言う。
「ラムダス達にも勝てる、だが」
「だが?」
「だがといいますと」
「もう一隻出来そうなのだ」
「何だよ、まだ出来るのかよ」
「それだけ資源があるのですか」
「うむ、潜水艦ならな」
 製造が駆逐艦と対して変わらず資源を使わない潜水艦ならというのだ。
「出来る」
「一隻かよ」
「もう一隻の超潜水艦が出来ますか」
「そうだ、だが問題は誰が乗るかだ」
 平賀が懸念しているのはこのことだった。
「一体な」
「それならミーリャさんはどうでしょうか」
 ここでエルミーが名前を出したのは彼女だった。
「あの娘は」
「彼女か」
「はい、どうでしょうか」
「そうだな、カテーリン書記長と共にいると絶大な力を発揮するしな」
「潜水艦を指揮することも出来ますし」
 これは適性による、ミーリャはそのおっとりとした性格故に潜水艦に乗っていても不安にならないからである。
「ですから」
「そうだな」
 平賀も頷く、そしてだった。
 田中とエルミーにだ、こう言った。
「ではミーリャ首相をだ」
「ここにだな」
「お呼びしてですね」
「話したい、しかしだ」
 ここでだ、平賀は二人にこう釘を刺した。
「このことはだ」
「ああ、秘密だな」
「誰にも言ってはなりませんね」
「決してな」
 こう釘を刺すのだった。
「この話は秘密にしておきたい」
「そうだよな、俺達の参加は」
「サプライズですから」
「敵を欺くにはまず見方からだ」
 平賀はそこに悪戯っ娘めいたものも見せて言う。
「だからだ、いいな」
「ああ、わかったぜ」
「それでは」
 こうしてだった、三人で話を決めて。
 ミーリャも呼ぶことにした、人類の運命を賭けた戦いへの出撃を明日に控えた中で。
 その呼ばれたミーリャもだ、平賀の話を聞いて強い声で答えた。
「うん、それじゃあね」
「乗ってくれるか」
「乗組員の人達もいるのよね」
「ああ、任せとけよ」
 そのことは田中が答えた。
「潜水艦のクルーはこっちで用意出来るからな」
「それじゃあ」
「後は首相さんがどうするかだよ」
 ソビエト首相であるミーリャがだというのだ。
「後はな」
「カテーリンちゃんを助けられるのならね」
 ミーリャはこのことから答えた。
「私もね」
「行ってくれるか」
「うん、皆を助けに行くから」
 こう答えるのだった。
「田中さん達と一緒にね」
「では行きましょう」 
 エルミーはミーリャのその両手を己の両手で握って言った。
「私達で」
「うん、それじゃあね」
 ミーリャも行くことが決まった、最後の戦いに思わぬ助っ人が来ることも決まろうとしていた。


TURN141   完


                            2013・10・6



完成した超艦艇全てに名が付けられたな。
美姫 「同時にそれに乗艦する者たちも正式に決定したわね」
だな。後は出撃するだけだが。
美姫 「やぱり田中たちも密かに出撃できる状態になったわね」
とは言え、完成にはもう少し時間が掛かるみたいだがな。
美姫 「今度こそ本当に最後の戦いね」
果たして無事に帰ってこれるのか。
美姫 「次回も楽しみにしてますね」
待っています。



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