『ヘタリア大帝国』
TURN133 隠された航路
エイリスの敗北が近いことはまともな者なら誰もがわかることだった、最早その劣勢はどうしようもないまでだった。
本国、唯一残った領土の軍は健在だ。だが軍は彼等だけで。
最早世界のほぼ全てが敵だった、これでは勝てる筈がなかった。
セーラもだ、覚悟を決めてこう言うのだった。
「ただ戦い」
「そしてですか」
「はい、誇りを見せます」
敗北を念頭に置いている言葉だった。
「何があろうとも」
「では我等も」
「最後まで」
将兵達も意を決している顔だ、皆敗北も死も覚悟していた。
だがここでだ、エリザとイギリス兄妹が彼女のところに来た、そのうえ玉座にいるセーラにこう言うのだった。
「セーラちゃん、じゃあね」
「もういい頃だからな」
「お話することがあります」
「?そういえば」
ここでだ、セーラは三人の言葉にふと眉を動かした。
そのうえでだ、こう言うのだった。
「以前から」
「ええ、その時が来たからね」
エリザが娘に応える。
「あのことを話すわ」
「私にですか」
「このことはね、女王であってもね」
「話せなかったのですか」
「女王になって暫くしてからね」
それからだったというのだ。
「話す決まりになってたのよ」
「先代の女王さんか俺達がな」
イギリスがまた話す。
「そういうことになってたんだよ」
「つまりそれだけ重要なことですか」
「エイリス、いえ世界全体に大きく関わることです」
今度はイギリス妹が話してきた。
「このことは」
「それだけにね」
エリザも何時になく真剣な顔だ、いつもの余裕のある軽さはない。
「セーラちゃんにもこれまでお話してなかったのよ」
「そろそろって思ってたんだよ」
イギリスもだ、いつも以上に真剣である。
「特に今はマジでやばいからな」
「このままだとエイリスは確実に負けるわ」
「だからな、話すな」
「エイリスの為にね」
イギリスとエリザでセーラに話す、今場にいるのは四人だけだからだ。
それでだ、イギリス妹が懐からあるものを出してきた。それは。
「宙図ですか」
「はい」
まさにそれだった、イギリス妹が出してきたのだ。
「ワープ航路を描いたものです」
「それですか」
「ただ、普通の宙図ではありません」
「?これは」
セーラはその開かれた宙図を見た、それはというと。
エイリスを中心として全世界の星域にそれぞれつながっている、まさにそうした宙図であった。これはセーラが今まで見たことのないものだった。
それを見てだ、セーラはいぶかしむ目でイギリスに問うた。
「祖国さん、これは一体」
「もう一つの世界宙図なんだよ」
「もう一つのですか」
「普通の宙図のワープ航路はそれぞれの星域でつながってるよな」
「はい」
「それは確かだよ、けれどな」
「まさかエイリスは」
「ああ、エイリスのこのロンドンはな」
「全ての星域とですか」
「つながってたんだよ」
「エイリスが最初にワープ航路を発見したことは知ってるわよね」
エリザがここでセーラに話す。
「それがエイリスを発展させ世界の盟主にしたわね」
「はい、そのことは」
「その時にこのことも発見したのよ」
ワープ航路自体の発見と共にだというのだ。
「エイリスは実は世界の全ての星域とつながっていることをね」
「このロンドンは」
「中南米や中央アジア、アフリカともね」
「全ての星域とですか」
「ひょっとしたらだけれどな」
ここでイギリスはセーラにこうした話をした。
「俺達国家は自国領なら何処でも行けるよな」
「はい、大使館であっても」
「そうだろ?経済圏でもな」
「その能力もですか」
「このことと関係あるのかもな」
ロンドンが全ての星域とつながっていることとだというのだ。
「ひょっとしてな」
「そうした理由があったのですか」
「人間は瞬間移動は出来ないさ」
ただし国家である彼等と一緒ならそれは可能だ。
「けれど国家は自国領なら出来る理由はな」
「そこにあったのですか」
「そうかも知れないな」
こうセーラに話すのだった。
「ひょっとしたらだけれどな」
「そうですか」
「それで話を戻すな」
イギリスは実際にそうした、ワープ航路の話にだ。
「このワープ航路、ロンドン中心のものがあるからな」
「これを使えば」
セーラの目が光った、聡明な彼女だからすぐに察せたことだった。
「あらゆる星域に艦隊を送れますね」
「その通りです」
イギリス妹も確かな顔で応える。
「いざという時は」
「では」
「そうよ、何故エイリスが今まで世界の盟主でいられたか」
エリザが話す。
「この切り札があるからよ」
「そうでしたか」
「ああ、実際にこれを使ったこともあったんだよ」
イギリスも話す。
「それでエイリスは危機を脱してきたんだ」
「では今は」
「ああ、使う時だ」
まさにだ、今こそだというのだ。
「枢軸諸国の全星域に艦隊を送るぜ」
「それで後方を攪乱してですか」
「後方からの予備戦力の移動と補給を滞らせる」
そうして戦うというのだ。
「こうしていけばいいさ」
「わかりました、それでは」
「オフランスにいる連中だけならロンドンにいる戦力でも戦える」
守り抜けるというのだ。
「だからな」
「このワープロ航路を使って」
「勝つぜ」
絶対にだというのだ。
「負けないんじゃなくてな」
「この航路はね、本当に知っている人間は少ないのよ」
エリザが話してきた、今は。
「わかるわよね、全ての星域に行けるということはね」
「全ての星域からですね」
「そうよ、攻められるということよ」
このことは表裏一体だった、攻めることが出来るということは攻められるということでもあるからである。厳然たる事実だ。
「だからこそ今までセーラちゃんにも話していなかったのよ」
「そうでしたか」
「若しもよ、このことをソビエトが知れば」
「カテーリン書記長がですか」
「わかるわよね」
「はい、すぐにロンドンに艦隊を送ってきて」
しかも大艦隊をだ、ことの他貴族を嫌っている彼女ならばその彼等の巣窟であるロンドンに艦隊を贈らない筈がない。
「そしてですね」
「そうよ、ドクツも危険だけれどね」
「若しそのソビエトとドクツが手を結んで」
このことは空想ではなかった共通の敵がいるのなら。
「ロンドンに両国の全戦力が来れば」
「これをガメリカと中帝国、日本にしてもいいわよ」
つまり太平洋経済圏だ、三国共開戦前からエイリスの植民地統治を否定していた。ガメリカと中帝国はエイリスと同じ連合国だがそれでもだった。
「ロンドンに戦力が来てね」
「攻めてくれば」
「そうなれば」
「大変なことになるわよね」
それ故にだというのだ。
「本当にこの航路のことは極秘だったのよ」
「極秘中のですね」
「エイリスの切り札にしてね」
最大の弱点だというのだ。
「これからもこのことはね」
「俺達だけの秘密だからな」
「次の女王陛下にもおいそれとお話出来ません」
イギリスとイギリス妹もセーラに話す。
「使う時もこうしたどうしようもない時だけだよ」
「普通の状況では」
「これまでの様な苦境ではですか」
「ああ、植民地が全部なくなったけれどな」
「それでもでした」
出さなかった、そこまで重要な切り札だったというのだ。
そしてそこまでの切り札をだ、、今使うというのだ。
「じゃあいいな」
「今から枢軸諸国の各星域に艦隊を送ります」
イギリス兄妹はあらためてセーラに話した。
「機械で自動操縦の旧式艦隊をな」
「随時送ります」
「送る艦隊に人は乗せられませんね」
このこともだ、セーラは察することが出来て言った。
「やはり」
「ああ、本当にこれは知られたらいけないからな」
「私達以外には」
送った将兵が捕虜になればそこから航路がばれてしまう、だから言えないというのだ。
「本当に内緒にするからな」
「お願いします」
「若し公になれば」
その時はどうするか、この場合についてはエリザが話した。
「この航路を全て破壊してね」
「使えなくするのですね」
「そうよ、それで防ぐから」
他国からのロンドンへの侵攻をというのだ。
「わかったわね」
「はい、では」
「人工知能の旧式艦艇を枢軸諸国の各星域に送って」
そしてだった。
「敵の後方を攪乱、補給を妨害してね」
「まあ向こうは各星域にもちゃんと艦隊がいて尚且つ数も質もいいさ」
イギリスも話す。
「だから確実に撃退されてもな」
「艦隊で攻めること自体に意味があります」
イギリス妹が指摘することは。
「後方も戦場にする、聖域でなくすことにより」
「彼等を圧迫しますか」
「これだけで全く違います」
各星域に艦隊を常に置き補給物資も回さねばならない、必然的にパリに集結している主力艦隊を全力でバックアップ出来なくなるのだ。
だからだ、それでフルに使ってだというのだ。
「そして主力艦隊と」
「正面からですね」
「全力で戦い破りましょう」
イギリス妹は強い声でセーラに告げた。
「是非共」
「わかりました、それでは」
「これより作戦開始です」
「セーラちゃん、このことはロレンス君にも話すわよ」
エリザは信頼する彼の名前も出した。
「いいわね」
「そうですね、ロレンスにも話しましょう」
「そしてね」
「私達でエイリスの危機を」
セーラは言った、そしてだった。
今いる己の座、即ち玉座から立ち上がった。その上で今自身の前にいる母と祖国達に宣言したのだった。
「今より反撃作戦を開始します」
「その作戦名は?」
「クイーン=ビクトリア」
エイリス最盛期の女王だ、誇り高き祖先の名をその作戦に冠させるというのだ。
「この名とします」
「あの人の名前かよ」
「敵の後方を絶え間なく攻め攪乱させそのうえで敵主力艦隊を破り」
「そしてだよな」
「枢軸諸国を破り彼等に城下の盟約を誓わせます」
そのうえでエイリスをあらためて世界盟主の座に据えさせるというのだ。
「今からその作戦を開始します」
「それじゃあね」
「今からな」
エリザとイギリスが応える、こうしてだった。
エイリス軍、上層部の僅かな者達だけが知るこの作戦を発動させた。枢軸諸国の星域、つまり世界各地にエイリスの艦隊が現われた。
彼等は確かに今の枢軸諸国の艦隊の敵ではなかった、第一世代第二代の艦艇では最悪でも第六世代の艦艇で編成されている艦隊の相手にはならない。
だがそれでも後方が攻撃されている、それが為に枢軸諸国はロンドン侵攻に戦力を集中させられなかった、このことについてだ。
ガメリカ国務長官のハンナがだ、眉を曇らせてダグラスとアメリカに話すのだった。
「ワシントンにも出て来るから」
「ガメリカの戦力や物資もか」
「オフランスに充分に送られないんだな」
「ええ、何時出て来るかわからない相手に備えないといけないから」
だからだというのだ。
「送られることは送られるけれど」
「それでもかよ」
「充分にはなんだな」
「何処も同じよ」
それはガメリカだけではないというのだ。
「このパリまで送られないわ」
「じゃあエイリスとの戦いはどうなるんだ?」
ダグラスはサングラスをかけている顔を顰めさせてハンナに問うた。
「世界各地から何とかそれぞれ充分でないにしてもね」
「送るものは送ってるからか」
「戦力は維持出来るし攻撃も出来るわ」
「しかし想定通りじゃないんだな」
「当初の予定では枢軸諸国の全戦力でロンドンを一気に攻略するつもりだったけれど」
その戦力を維持出来ないというのだ。
「このままじゃね」
「出来ないのか」
「攻めても五分と五分ね」
ハンナはアメリカにも話す、完全な戦力は整わないというのだ。
「どうもね」
「参ったぞ、膠着状態になるのか」
「ええ、そういうことよ」
「くっ、ここまできてそれはないぞ」
「下手をすれば反撃を受けるわ」
この危険もあるとだ、ハンナは話した。
「エイリス軍の戦い方次第ではね」
「まずいね、それは」
アメリカ妹が出て来た、そのうえでハンナに応えて言うのだった。
「向こうはまだ名将が揃ってるからね」
「ええ、セーラ女王にね」
「先代の女王さんにロレンスさんもいるよ」
「イギリスと妹さんもだぞ」
アメリカはこの二人の名前を出す。
「皆確かな采配をするからな」
「そうよ、楽観出来なくなってきたわ」
再び現実を話すハンナだった。
「だからね」
「ったくよ、嫌な状況になってきたな」
ダグラスはハンナの話を聞いて忌々しげに述べた。
「あと一歩だってのにな」
「私もそう思うわ、けれどね」
それでもだとだ、ハンナはここで一同に話した。
「戦力は今も圧倒しているから」
「ここは下手に攻めない方がいいね」
アメリカ妹がハンナに応えて言った。
「そうした方がいいね」
「そうよ、今度の作戦会議でそのことを提案するわ」
ハンナは一同にこうも話した。
「そういうことでね」
「俺の性に合わないがそれがいいな」
苦い顔で応えたダグラスだった、だが何はともあれ。
今はそれが妥当だった、枢軸軍はロンドンと目と鼻の先にあるパリに集結したまま今は防戦に務めるのだった。
この状況にだ、リンファは仕方ないといった顔でランファと彼女の祖国達に対して話すのだった。
「今の状況では」
「ええ、敵がいつもあちこちに出るからね」
「そこに戦力と物資を回さないといけなくなったある」
「だから下手に攻められないあるよ」
そのランファと中国兄妹が応える。
「全く、これで最後なのに」
「おかしなことになったある」
「変な展開あるよ」
三人で溜息をつく、しかしここで。
ランファはすぐに気を取り直してこう一同に話した。
「いや、それでもね」
「それでもあるか」
「何かあるあるか?」
「うん、折角パリにいるからね」
だからだというのだ。
「パリを楽しまない?」
「観光地を回ってあるか」
「オフランスの料理も食べるあるな」
「そう、そうしない?」
こう一同に提案するのだった。
「折角だからね」
「あの、ランファ私達は」
真面目なリンファは曇った顔でランファに応えた。
「戦争をしているから」
「遊ぶなっていうの?」
「真面目にね」
そうでなければというのだ。
「だからそんなことは」
「いいじゃない、少し位なら」
享楽的なランファは真面目なリンファにあっさりと返す。
「息抜きも必要でしょ」
「だからなのね」
「そう、観光地を回ってね」
「美味しいものを食べるのね」
「オフランス料理は祖国さん達のお料理に匹敵するから」
「うん、確かにここの料理は凄いある」
「私達が食べてもそう思うある」
中国兄妹もオフランス料理についてはこう言う。
「伊達に誇りにしている訳ではないあるよ」
「美味しいある」
「だからね、ここは楽しもう」
どうせ積極的に攻撃を仕掛けられない、それならばその間にだというのだ。
「そうしよう」
「そうね、確かに戦うだけを考えていたら息が詰まるから」
リンファもランファの話には見出すものを認めていた、それでだった。
中国一行はパリを楽しむことにした、それは他の面々も同じだった。
戦争は今のところ膠着状態だった、後方も攻撃を受けているが星域単位では時折出て来た敵艦隊に迎撃艦隊を送って倒すだけだった、そうした状況だった。
しかしこちらから攻めることが出来なくなっていたのは事実だ、オフランス戦までとはうって変わって妙な穏やかな状況になっていた。
その中でだ、イタリアはフランスと共にいる中でこう話すのだった。
「何か今の状況ってさ」
「しっくりいかないか?」
「うん、戦争なんか早く終わってね」
それでだというのだ。
「楽しく遊びたいよね」
「可愛い女の子とかよ」
「うん、エイリスにも行ってね」
今現在の戦争相手のところに行ってもだというのだ。
「可愛い女の子と遊びたいよね」
「そういえば御前のところの映画って絶対に戦争になったらな」
「うん、その国に入ったらだよね」
「そこの女の子と仲良くなるよな」
「そうしないとね」
どうしてもだとだ、イタリアは言う。
「気が済まないんだよね」
「そうだよな」
「フランス兄ちゃんのところの女の子ともね」
「いや、それはなかっただろ」
「あれっ、そうだったかな」
「御前この戦いのはじまりの時に俺のところに攻めて来てあっさり撃退されただろ」
「俺覚えてないけれど」
「ちゃんと覚えてろ、今やってる戦争だろ」
そのはじめの頃の戦争だ、その戦争だからだというのだ。
「負けてボロボロの俺にタコ殴りにされただろうが」
「あっ、思い出した」
ここでだ、イタリアははっとした顔になって言った。
「兄ちゃん物凄く強かったよ」
「本当によ、火事場泥棒みたいに来やがってな」
「というかそれで負けられたのですか」
この場には日本の提督達もいる、小澤がここで言うのだった。
「イタリアさん、ある意味凄いです」
「いや、だから兄ちゃん強かったんだよ」
「そうでしょうか」
「本当だよ、鬼の様だったんだよ」
「単にイタリアさんが弱かっただけじゃないのかい?」
南雲はいささか引いた苦笑いでイタリアに問うた。
「こう言ったら悪いけれどさ」
「何かその割に随分はっきりと言ってない?」
「そうとしか言えないからね」
だからだと返す南雲だった。
「ちょっとね」
「ううん、俺なんでいつもこう言われるんだろ」
「というか火事場泥棒みたいに攻め込むのは駄目だろ」
田中はこのことを指摘した。
「そりゃフランスさんも怒るだろ」
「しかもそれで返り討ちに遭うとは」
平良も呆れ顔で言う。
「イタリア殿、あまりでは」
「ううん、反省してるよ」
「しかしそれがイタリアさんらしいですね」
福原はそのイタリアを見て優しい微笑みだった。
「妙に愛嬌があるといいますか」
「ああ、こいつそんな奴だけれどな」
攻められたフランス自身もこう言う。
「妙に愛嬌があってな」
「憎めない」
「そうなんだね」
「そうなんだよ」
実際にそうだとだ、フランスは日本の提督達に話す。
「お馬鹿で弱いにも程があるんだけれどな」
「そういえばフランス殿はイギリス殿やドイツ殿、オーストリア殿には色々言われますが」
秋山もいる、その彼の指摘だ。
「イタリア殿には」
「何か言いにくいんだよ」
フランスも秋山に返して言う。
「不思議とな」
「その様ですね」
「悪い奴じゃないしな、愛嬌もあってな」
右手の人差し指でイタリアを指差しつつ日本の提督達に話す。
「長い付き合いもあるしな」
「だからですか」
「ああ、俺こいつ嫌いじゃないんだよ」
このことも話すフランスだった。
「結構面倒も見てきたっていうかな」
「そうなんだ、兄ちゃんにも色々とね」
「イタリアさんは放っておけませんから」
小澤が言う。
「見ているだけで」
「だろ?仕方がない奴なんだけれどな」
弱い、しかもいい加減だ。確かに仕方がないと言えば仕方がない。
だが、だ。それでもなのだ。
「悪い奴じゃないからな」
「それでフランスさんはイタリアちゃんの悪口はあまり言わないのね」
「結構弱いとかお馬鹿とか言うけれどな」
だが、というのだ。
「愛嬌があるからな」
「というか攻めて返り討ちっていうのがな」
田中はあくまでそのことを言う。
「イタリアさんらしいけれどな」
「うう、だからそれは」
「まあいいか」
田中もこれで終わらせることにした、相手がイタリアだからだ。
「イタリアさんだしな」
「というかあまりいじめないで欲しいな」
「安心しろよ、俺は強い奴と戦うけれどな」
だが、なのだ。田中は。
「いじめとかは大嫌いなんだよ」
「そもそも武人が弱者を虐げてどうするのか」
平良もこのことについては田中と同じだ、毅然として言う。
「その様な輩は切って捨てるべきである」
「それは極端じゃないかな」
「極端ではありません」
平良らしくだ、イタリアにもぴしゃりと返す。
「そうした不逞の輩は武人として許してはならないのです」
「だからなんだ」
「植民地のエイリス貴族達も」
「斬るんだ」
「実際は一人も斬ってはいませんが」
だが刀は抜いている。
「弱者を虐げ悦に入る輩や私腹を肥やす輩は許せませぬ」
「何かそれ言うとな」
フランスは耳が痛い感じだった、平良の今の言葉に。
「俺もな」
「そういえばフランス殿もかつては」
「ああ、植民地持ってたからな」
マダガスカル、そしてセーシェルがそれだ。
「イギリスのことは言えないんだよ」
「もう植民地の時代ではありません」
小澤がぽつりと述べる。
「経済圏の時代です」
「経済圏なあ」
「俺達も作るからね」
フランスもイタリアもここでお互いの顔を見て述べた。
「ドクツが中心か」
「やっぱり凄いものになるよね」
「ローマ帝国みたいなものか?」
「祖父ちゃんみたいな?」
「北欧も東欧も入るからあの時以上か」
かつて欧州そのものと言ってよかったローマ帝国以上だというのだ、これから出来る欧州経済圏の規模は。
「相当なものだよ」
「そうなるんだ」
「それでも太平洋には足元にも及ばないがな」
その規模において、というのだ。
「欧州の再建もあるからな」
「本当に大変なのはこれからなんだね」
「絶対にな」
フランスは腕を組み微妙な顔でイタリアに述べた。
「戦後だよ、本番は」
「ううん、戦争に勝ってハッピーエンドとはいかないね」
「ハッピーエンドだけなら世の中は楽だろ」
「これ以上はないまでにね」
「映画はハッピーエンドでもバッドエンドでも終わりがあるけれどな」
尚フランスのホラー映画は大抵バッドエンドであることで定評がある。
「実際はな」
「そうでもないよね」
「ああ、むしろな」
その結末からだというのだ。
「そういうものだからな」
「だよね」
「まあ、わかってない奴等もいるさ」
欧州経済圏の設立と戦後復興の困難さがだというのだ、その彼等はというと。
「他ならぬエイリスの貴族連中はな」
「彼等は本当に愚かですね」
福原は微笑んでいるが言葉には銃がある。
「やはり一度額に穴を」
「だから福原さん何でそう物騒なんだよ」
「腐敗した無能な特権階級なぞ不要ですから」
だからだとだ、福原はその微笑みでフランスに言う。
「それが為です」
「いや、それでも極端だろ」
「悪を成敗することについてですか」
「あんたも武道やってるよな」
「はい」
柔剣道の有段者だ、とりわけ合気道は十段で合気柔術も免許皆伝である。
「少々ですが」
「免許皆伝は少々じゃないと思うがね」
フランスもこのことを指摘する。
「まあ武道をやってるのならな」
「その武道で、ですか」
「ちょっと懲らしめる位でいいだろ」
あくまで穏健に、というのっだ。
「そう思うけれどな」
「そうですか」
「それ言ったら俺の国だってまずいんだよ」
オフランスの貴族達もだというのだ。
「植民地持ってたからな」
「けれどマダガスカルはエイリスの植民地みたいなことはなかったね」
南雲がフランスにこのことを言って来た。
「結構ほったらかしなところがあったよね」
「ああ、半分存在を忘れたっていうかな」
フランスも首を少し左に捻って述べる。
「そんな感じだったからな」
「搾取とかはしなかったんだね」
「最近の王様もそうしたことが嫌いじゃなかったんだよ」
フランスはさらに言う。
「それに知識人が人道主義に平等主義、まんま共有主義だけれどな」
「植民地統治に反対していたんだね」
「ああ、それでなんだよ」
だからだというのだ。
「マダガスカルはああだったんだよ」
「そういうことだったんだね」
「そうさ、まあ植民地がなくてもな」
今のフランスはというと。
「充分やっていけるしな」
「で、フランスさん欧州じゃどんな感じになるんだよ」
「二番手か三番手じゃねえのか?」
田中には少し考えてから述べた。
「一番はもう言うまでもねえからな」
「エイリスと争うんだな」
「ああ、それで四番目がな」
ここでフランスはイタリアを見て言った。
「五番目はスペインか」
「そんな感じか」
「まあそっちとはまた違うさ」
日米中三国が軸となる太平洋とは、というのだ。
「俺達は俺達だよ」
「そういうことか、まあ頑張れよ」
「そっちもな、さて」
話が一段落したところでだ、こう言うフランスだった。
「これからお茶にするか」
「あっ、じゃあ俺タルト出すよ」
イタリアはすぐにこのスイーツを話に出した。
「それとカプチーノでね」
「いいな、やっぱり御前と一緒にいるとな」
フランスはそのイタリアに笑って返した。
「楽しくやれるな」
「うん、じゃあ日本の皆と一緒にね」
「しかし。タルトとは」
ここで平良はタルトと聞いて言うのだった、その言うこととは。
「素晴らしいですね」
「山下さんなら非常に贅沢だと仰っています」
小澤は陸軍の質素さから述べる。
「あの方は本当に贅沢がお嫌いですから」
「えっ、タルトって日本でも映うに売ってない?」
「そうなのですが」
だが、だというのだ。山下の場合は。
「あの方は本当に贅沢を嫌われていますので」
「そういえばあの人いつも玄米とお味噌汁とちょっとしたおかずだけだよね」
「陸軍自体が」
「だよね、よくあんな生活出来るよね」
「ドクツ軍も凄いがな」
フランスは眉を少し顰めさせて彼等の名前を出した。
「あそこも黒パンとジャガイモとザワークラフトとソーセージだからな」
「あとアイスバインとビールにね」
「他これといってないからな」
それがドクツ軍だ。
「最初見てこんなのだけで大丈夫かって思ったぜ」
「俺もだよ」
これは栄養からの言葉ではない、味覚やそれを楽しむという面においての話だ。
「あんなのじゃね」
「普通無理だろ」
「けれど日本陸軍ってそれ以上だから」
「何処の修道院なんだよ」
「一応食べ放題なんだがね」
南雲は少し苦笑いでこのことを話した。
「あそこは」
「いや、飯と味噌汁だけだろ実質」
おかずは漬物と魚が少々だ。
「有り得ないからな」
「牛乳もです」
福原は飲み物も出した。
「お茶と」
「牛乳は飲むと身体がでかくなるからだよな」
「そうです」
「まあ日本人の体格もよくなったがな」
昔はかなり小さかった、しかし牛乳等動物性タンパク質を多く採る様になりそれで体格が向上したのである。
「しかし、そっちの陸軍さんは凄いな」
「質素さがですね」
「ああ、本当に凄いよ」
福原に感嘆と驚愕、何よりも呆れの言葉で応えたのだった。
「それでも山下さんは強いな」
「美人で背も高いし胸も大きいよね」
イタリアは山下の外見を言う。
「髪の毛もしっとりつやつやで脚も綺麗でね」
「あれは牛乳のお陰かね」
「そう思うと牛乳って凄いよね」
「そうだよな」
こう二人で話すイタリアとフランスだった。
「俺達はずっと飲んでるから気付かなかったのかね」
「そうかも知れないね」
「あの人は日々鍛えてもいるからな」
田中はこのことも話した。
「武芸十八般の達人だぜ」
「しかもあの人文も凄いよね」
「ああ、書道に茶道、華道に絵画にってな」
とにかく全般に秀でているのが山下だ、そうした意味でもまさに文武両道の真の武人なのが彼女である。
「つまりは」
「内面も磨いてるからなんだね」
イタリアもここまで聞いて納得した。
「あんなに綺麗なんだ」
「けれどな、あれだよな」
フランスは今度はこんなことを言った。
「若し胸とかお尻に触ったらな」
「死にますよ」
福原はあっさりとそうした場合の未来を話した。
「その場で」
「あの刀でばっさり、だよな」
「日本でも屈指の剣の達人です」
それこそ鎌ィ足も気も飛ばせる位だ、そうした超人的な能力まで備えている域に達しているの。
「一瞬です」
「国家だから大丈夫だよ」
「大怪我は免れませんよ」
若し山下にセクハラをしたなら、というのだ。
「死ななくても」
「怖いな、おい」
「じゃあデートに誘ったら?」
イタリアは彼のやり方から問うた。
「それだったら別に斬られないよね」
「絶対に断られますよ」
イタリアには小澤が答える、そのぼそりとした口調で。
「堅物ですから」
「あっ、やっぱりそうなんだ」
「あの方の堅物さもまた日本屈指です」
「ううん、折角の美人なのに勿体ないなあ」
「美人と評判ですが近寄り難いので」
だからだというのだ。
「声をかける方はいません」
「というかどんな奴があの人と結婚出来るんだよ」
フランスはこの疑問についてあえて問うた。
「要塞みたいな人だろ」
「あの方に釣り合う方が」
「武芸十八般の達人でしかも下手な文化人より文にも秀でている人にかよ」
「はい、そうした方なら」
「いねえだろ」
一言でだ、フランスは言い切った。
「そんな超人は」
「うん、いないよね」
イタリアもフランスに応えて言う。
「まずね」
「タイプは違うがレーティアさんと同じ位レベルが高いぜ」
レーティアはまさに万能の天才だ、それに対して山下は常に努力を怠らない秀才タイプだ。だがそれでもなのだ。
「いねえだろうな、そんな相手」
「若しくはあれかい?」
南雲はイタリアを見てから言った。
「もうどうしようもない困ったちゃんかね」
「ああ、こいつみたいなのか」
フランスも南雲の目に気付いてイタリアを見てから述べた。
「弱くてお馬鹿でかよ」
「鍛えずにはいられない相手とかね」
「えっ、俺鍛えられるの嫌だよ」
イタリアも気付いて怯える顔で応える。
「武芸も学問も」
「しかもあの人厳しいしな」
「そうだよ、絶対嫌だよ」
「実際あの長官さんは厳しいよ」
南雲もこのことは否定しない、山下の清廉潔白な厳格さは海軍の間でも恐怖の様なものとして知られているのだ。
それでだ、こう言うのだ。
「鍛えることについては鬼だよ」
「鬼なんだ」
「ああ、スパルタだよ」
まさにそれだ、山下は。
「陸軍さんの軍規軍律と訓練の激しさは見てるね」
「ああ、士官学校も見たよ」
フランスは日本帝国陸軍士官学校の話をした、言うまでもなく日本帝国陸軍の士官を育成する機関である。
「朝から晩まで息を抜く暇がねえな」
「あれがなんだよ」
「陸軍なんだな」
「そうなんだよ」
南雲はこうフランスとイタリアに話す。
「海軍も相当だがね」
「陸軍はそれ以上なんだな」
「あの長官さんになってから余計にね」
厳しくなったというのだ。
「だからちょっとでも駄目駄目だとね」
「鬼の様に鍛えなおされるか」
「そうだよ」
まさにそうなるというのだ。
「凄いところなんだよ」
「じゃあやっぱりあの長官さんとはな」
釣り合う人間はいない、フランスは思った。
「誰も無理か」
「難易度は相当高いです」
小澤はこうも言う。
「攻略不可能でしょうか」
「俺には無理だな」
「俺も、かなり」
フランスは肩を竦めさせイタリアは怯えている。
「あれだけになるとな」
「難し過ぎるよ」
「では私は」
「ああ、小澤さんか」
「小澤さんならね」
山下と比べて、というのだ。
「かなり掴みどころがないけれどな」
「普通に声かけられるかな」
「では今度デートをしましょう」
小澤から誘いをかけてきた、やはりぽつりとした口調であるが。
「どちらでも構いませんが」
「じゃあ映画館行かない?」
イタリアがその小澤に言う。
「そうする?」
「はい、それでは」
「それで映画の後はパスタかピザを食べてね」
「ワインと一緒にですね」
「うん、デザートはジェラートでね」
この組み合わせは欠かせない、イタリン料理では。
「勿論メインディッシュも入れてね」
「ではご一緒に」
「うん、ただ俺喧嘩とかは大嫌いだから」
デートを盛り上げる為に付きものの悪役が出てもだというのだ。
「そういうのが出たら一緒に逃げようね」
「ご安心下さい、その時が私がいますから」
「南雲さんが?」
「これでも武道の心得があります」
伊達に軍人ではない、それでだというのだ。
「極限流空手免許皆伝です」
「えっ、空手やってるんだ」
「はい、覇王至高拳と龍虎乱舞も使えます」
免許皆伝だから使えるというのだ。
「暴漢の十人位は」
「うわ、そんなに強いんだ」
「勿論気も出せます」
そしてそれを投げたり拳や足に込められるというのだ。
「普通に戦えますので」
「というか日本軍の提督強過ぎるだろ」
フランスはこのことに唖然とさえしている。
「化物かよ」
「鍛えてますから」
小澤は何処かの音?戦士の様なことも言った。
「流石に鬼そのものにはなれませんが」
「いや、その鈴か何かあればなれるだろ」
「なれないです」
流石にそれは、というのだ。
「勿論魔化魅も倒せません」
「そこは普通なんだな」
「何はともあれイタリアさんとデートですね」
小澤の顔に黒いものは宿った、表情自体はそのままだがその黒いものを出してそのうえでこうも言うのだった。
「色々と楽しみです、うふふ」
「待って、そこでどうして笑うの?」
「イタリアさんに禁断の世界を教えて差し上げましょう」
「禁断の世界って何!?」
「攻めと受け、まさに禁断の桃源郷」
小澤の好きな世界だった、その桃源郷とは。
「男同士の真の愛、女同士もいいですね」
「ちょっと、小澤さん大丈夫!?」
イタリアは小澤の趣味に気付いてぞっとした感じの顔で突っ込みを入れた。
「ちゃんとしたデートで済むよね!」
「はい、同人誌のお店に行くだけで」
「いや、だからどういった同人誌!」
「理想郷がそこに映し出された」
まさにそうした世界だと話す小澤だった、こうした話の中で今は時を過ごす彼等だった。しかし戦いはまだ続きエイリス軍の思わぬ攻撃の中でもそのことは変わらないのだった。
TURN133 完
2013・8・18
最後の抵抗とばかりに秘密航路を持ち出してきたか。
美姫 「しかも、これがまた厄介よね」
だな。いきなり後方に敵部隊が出現するんじゃ、常に後方を警戒しないといけないし。
美姫 「とは言え、このままの状況が続くと士気にも関わりそうよね」
東郷はこれからどう動くんだろか。
美姫 「無事にロンドンまで侵攻できるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」