『ヘタリア大帝国』




                    TURN130  プリンセス

「ジークハイル!」
「ハイルアドルフ!」
 ドクツの国民達は熱狂的に迎えていた、まさにドクツ国民の全てが一つになりそのうえで彼女を迎えていた。
 レーティアが中心にいて左右にドクツの要人と国家達が並んでいる、それにだった。
 列国の者達も揃っている、当然その中には東郷もいる。
 その彼がだ、宇垣に言うことは。
「かなりの規模ですね」
「うむ、そうだな」
 宇垣は東郷に対して確かな声で応えた。
「無事開くことが出来たしな」
「ですね、本当に」
「あのコアという連中が出て来た時はどうなるかと思った」
 宇垣も艦隊司令である、だから真剣に危惧したのだ。
「しかし何とかな」
「倒せました」
「こうして式典も開けた」
「まずはよしですね」
「しかしだ」
 ここでだ、二人に山下が言って来た。
「ヒムラー隊長のことだが」
「ああ、死んでいたらしいな」
「蜂の巣になって事切れていたらしいが」
「後で葬儀も行われる」
 ヒムラーのそれがだというのだ。
「あの御仁のものもな」
「そうか、それは何よりだ」
「隊長も浮かばれるだろう」
「しかし気になることもありました」
 山下はここで宇垣に怪訝な顔になり話した。
「隊長の経歴ですが」
「ドクツ軍士官学校中退だったな」
「そして親衛隊長として世に出るまでの間ですが」
 その時期にだ、どうしていたかというのだ。
「全くわかっていません」
「全くか」
「不思議な位です」
 わかっていないというのだ。
「その氏素性が」
「そのことは聞いているが」
「スカーレット提督を雇ってもいますし」
「傭兵という関係よ」
 そのスカーレットも話に入って来た。
「その頃は養鶏場のオーナーと聞いていたわ」
「養鶏場のオーナーが傭兵を艦隊単位で雇えたのか」
「そうでした」
 スカーレットは宇垣にも話した。
「その頃から不思議に思っていましたが」
「そうだな、どう考えてもな」
 養鶏場のオーナーが艦隊規模の傭兵を雇えるなぞとても思えないというのだ、しかもその養鶏場がである。
「その経営規模にもよるがな」
「普通の養鶏場とのことです」
 山下がまた話してきた。
「それも」
「そうか、それならな」
「余計にですね」
「資金の出処がわからない」
 とてもだというのだ。
「しかもヒムラー隊長は親衛隊も編成していたが」
「その組織を作り上げる資金も気になりますね」
 東郷もこのことについて話す。
「謎の多い人物だと言われていましたが」
「金の出処がわからぬ者は信用するな」
 ここで宇垣がその言葉を出した。
「その言葉に従えばな」
「ヒムラー隊長は」
「信用出来ない者だったのだろう」
 こう話すのだった。
「謎が多いだけではなくな」
「そうだったのですか」
「そうだったということになる、二心があったかもな」 
 宇垣はここでこうも言った。
「まさかと思うが」
「忠臣だったと聞いていましたが」
「そう思いたいがな」
 宇垣にしてもだ、この辺りはだった。
「しかし疑わざるを得ない」
「そうなりますか」
「うむ、しかしこれはドクツのことだからな」
「その調査もですね」
「ドクツが主な仕事になる」
「そうですか」
「うむ、我々の検索はこれ位にしてな」
「今はですね」
「この式典に参加していよう」
 こう話してそしてだった、彼等は。 
 実際に式典に参加した、式典はレーティアの国民を熱狂させる演説もあり欧州共同体の構想も話された、そしてだった。
 ドクツは再びレーティアを総統に戴き新たな一歩を踏み出すことになった、その朗報と共にであった。
 北欧、そしてソビエト方面のワープ航路が修復された、それによってだった。
「欧州への行き来が楽になったね」
「はい」
 ロシア兄妹が笑顔で話していた、ワープ航路の修復について。
「いいことだね」
「これでまた欧州に楽に行き来出来ますね」
「ソビエト方面からの補給も可能だしね」
「より戦いが楽になります」
「いや、戦後を考えるとずら」
 ここでだ、ルーマニアは二人を見ながら強張った顔でハンガリーに囁いた、その囁いた言葉はというと。
「ソビエト方面のルートは遮断したままでよかったずら」
「そうよね、ロシアさんが来るってことだから」
「まともにソビエトの影響を受けるずら」
「ソビエトは欧州共同体のライバルになるわよね」
「外敵ずら」
 ルーマニアはかなりダイレクトに言った。
「そうなるずらよ」
「そうなるわよね、やっぱり」
「欧州は大西洋の向こうに太平洋共同体も控えているずら」
「東西から挟み撃ちかしら」
「そうなる恐れがあるずら」 
 だからだというのだ。
「ソビエト方面はそのままでもよかったずら」
「北欧はともかくね」
「ただバルト三国は欧州共同体に入るらしいので」
 フィンランドがここでルーマニアとハンガリーにこのことを話してきた。
「その分は」
「力がつくずらな」
「そうなのね」
「はい、僕としてはエストニア君と一緒にいられることが」
「僕にとっても嬉しいです」
 エストニアが笑顔で出て来た、そのうえでの言葉だった。
「本当に」
「スーさんと一緒に楽しくやっていけそうです」
 フィンランドはエストニアと並びながら楽しく話す。
「いいお友達が出来ました」
「北欧に入りたいと思っています」
 エストニアはこうまで言う。
「是非共」
「んっ?別にいいっぺよ」
 その北欧の長男的立場のデンマークはエストニアの願いに快諾で応えた、気さくというよりも気兼ねがない。
「じゃあこれから六国っぺな」
「んだ、六国だ」
「そうなるべ」
 スウェーデンとノルウェーもそれでいいと応える。
「おめも入れて北欧連合王国だ」
「そうなるべ」
「僕もそれでいいから」 
 アイスランドも反対しなかった。
「アルビルダさんはどう言うかわからないけれど」
「私はいいぞ」
 アルビルダも快諾だった、少しも躊躇しなかった言葉だ。
「仲間が増えることはな」
「では宜しくお願いします」
「そういうことだな」
「あと俺は」
 リトアニアはポーランドと共にいた、そして言うことは。
「欧州共同体に入れてもらって」
「俺となん?」
「うん、また一緒にいない?」
「ええよ」
 ポーランドも全く迷うことなくリトアニアに答える。
「リトなら気兼ねなくいけるしーーー」
「少しは気兼ねして欲しいけれどね」
 このことはぽつりと言うリトアニアだった、だがそれでも二人も共にいるのだった。
 そしてだ、こうも言うのだった。
「けれどまたね」
「一緒にいるしーーー」
「やっぱり俺ポーランドと一緒にいたら落ち着くんだよね」
「俺もなんよ、リトがいるのとおらんのとで全然違うんよ」
 二人はお互いを見ながら話していく。
「だからね」
「また一緒にやるしーーー」 
 二人も元の鞘に戻る、バルト三国はそれぞれのパートナーを見つけていた。しかしそれは二国だけであり。 
 最後の一国ラトビアはというと寂しい顔でこう言うのだった。
「あの、僕は」
「御前は誰だ?」
「ラトビアです」
 その泣きそうな顔でアルビルダに応える。
「ですからどなたかお友達になって欲しいなって」
「けれどラトビアちゃんも欧州共同体に入るのよね」
 そのラトビアにハンガリーが問う。
「そうよね」
「それはそうですけれど」
「じゃあ問題ないと思うけれど」
「けれどエストニアとリトアニアもそれぞれパートナーを見つけて」
 自分だけはというのだ。
「僕にはいませんから」
「だからなのね」
「ハンガリーさんにはオーストリアさんがおられますよね」
「ええ、長いお付き合いもあってね」
「僕いないんですよ」
 やはり泣きそうな顔での言葉だった。
「ですから」
「ううん、それじゃあね」
「どうすればいいんでしょうか」
「ドイツさんなんかどう?」
 つまりドクツと同盟を結んではどうかというのだ。
「それならね」
「ドイツさんですか」
「頼りになるからね、面倒見もいいし」
 だからだというのだ。
「いいと思うけれど」
「そうですか、ドイツさんですか」
「そう、どうかしら」
「考えてみます」
 即答はしなかった、しかし検討はするというのだ。
「前向きに」
「そうしたらいいかも知れないわ、欧州も戦後が本当に大変でしょうし」
 大戦からの復興、それがだというのだ。
「だからね」
「そうですよね、大変なのはこれからですよね」
「ええ、それもかなりね」
 ハンガリーは真剣な顔でラトビアに話した。
「だからね」
「誰かと仲良くして」
「そしてやっていかないとね」
 大変だというのだ、ハンガリーもそのことはわかっていた。
 そのうえでこれからのことを考えるのだった、本当に欧州は前途多難であった。
 しかしその多難な前途もだ、まずはだった。ハンガリーはそのことについても話した。「
「戦争を終わらせないとね」
「エイリスとオフランスはまだですか?」
「ああ、戦うっちゅうとるわ」
 ベルギーがリトアニアに話す。
「総統さんの復帰に驚いてるけどな」
「そうですか、やっぱり」
「そや、最後まで戦うってな」
 こう言っているというのだ。
「まあオフランスは攻めるつもりはないけどな」
「あそこは相変わらずや」
 オランダは憮然とした顔で述べた。
「一国平和主義のままや」
「ほんまあそこは相変わらずやな」
 ベルギーもそのことを聞いて呆れる。
「一回やられて懲りへんねんな」
「やるしかない」
 オランダはこう結論を出した。
「オフランスもエイリスもな」
「ではだ」
 ここでだ、こう言うドイツだった。
「パリだな」
「マジノ線まだあるんだよな」
「あのままな」
 ドイツはプロイセンの問いにも答える。
「存在している」
「すげえな、まだあのままあるのかよ」
「もう一度あそこを攻めることになる」
「また潰してやるか、今度は別のやり方でな」
「エイリス軍もいるがな」 
 それでもだ、彼等は再びマジノ線を突破しようと決意していた。オフランスでの戦いがまたはじまろうとしていた。 
 そのオフランスに向かわんとする彼等にドロシーが言って来た、その言葉とは。
「ヴァージニアのことだけれど」
「あれか」
 平賀が久重の口から応える。
「何かあったのか」
「キングコアは完全に破壊されていたわ」
 まずは彼のことから話す。
「けれどもう一人のコアは」
「プリンセスとかいったな」
 ヴァージニア内のやり取りは皆聞いていた、平賀もこのことから問うた。
「あの少女だな」
「ええ、キングコアと行動を共にしていた」
 彼が人間の時にだ。
「言うならパートナーの」
「その少女の記憶は残っていたのか」
「生きていたわ」
 プリンセスは、というのだ。
「身体はあちこち破損しているけれど」
「それでもか」
「ええ、もうすぐその行動を完全に終了させるけれど」
 致命傷ではあったというのだ、もう助からないまでの。
「けれどまだね」
「話は聞けるか」
「本人も話したいって言ってるわ」
 そのプリンセス自身もだというのだ。
「自分達のことをね、死ぬ前に自分達のことを聞いて欲しいって」
「遺言ね」
 スカーレットはドロシーの言葉からこう察した。
「それでなのね」
「多分」
 そうだろうとだ、ドロシーも見ていた。
「人は誰かに自分のことを憶えて欲しいものだから」
「無意識にそう思うわね」
「それで」
 プリンセスもそう思ってだというのだ。
「私達に」
「わかったわ、ではね」
「是非お聞きしたいと思っています」
 ここで帝も言った、日本帝国国家元首即ち太平洋経済圏の盟主である彼女もまた。
「彼女のお話を」
「では」
 ドロシーも帝の話を受けてそうしてだった、プリンセスを一同のところに連れて来たのだった。
 見れば機械の身体の各部が破損している、右目は吹き飛んでなくなっておりそこから機械が見える。各部がショートしており車椅子の上にいるがそれもやっとという感じだ。誰がどう見ても活動の終了が近いことは明白だ。
 その彼女がだ、一同に自分達のことを話すのだった。
「まず私は」
「名前は何というのだ?」
「プリンセス」
 その右目を虚ろにさせているがそれでも平賀に答えた。
「本当の名前はわからないわ」
「そうか」
「親はいないわ」
 孤児だったというのだ。
「気付いたら孤児院にいてそこで育てられていたわ」
「そこでプリンセスと名付けられたのか」
「シスターに」
 そうだったというのだ。
「そして」
「そしてか」
「私は孤児院を出たその日に目の前で爆発を見たわ」
「爆発?」
「リンカーン、イレブンナインの仕事の現場だったの」
 その時の爆発だったというのだ。
「彼が宝石店を狙って店員をマシンガンで皆殺しにして貴金属を持てるだけ奪って最後に店を爆弾で破壊したの」
「その時の爆発か」
「そう」
 今にも落ちそうな首を頷かせて答える。
「そうしてその時に逃げる彼と正面から会って」
「殺されなかったな、よく」
 その話を聞いてこう言ったダグラスだった。
「そこで」
「彼は私の目を見て言ったわ」
「何て言ったの?」
 今度はコアイが問う。
「あいつは」
「私には心がない、人形の様と」
 孤児院で常に一人だった、それで心を閉ざしてしまったのだ。
「それで私なら自分のパートナーになれると言って」
「それでなの」
「そう、私をその場で連れて行って」
 そしてだというのだ。
「一緒に暮らして仕事をする様になったの」
「じゃああんたもかよ」
 田中はプリンセスを睨んで問うた。
「殺人や強盗をしていたのかよ」
「私は囮、子供を見れば誰も安心するから」
 彼女をまず見せてだというのだ。
「そこで彼は後ろから行って仕事をしていたの」
「じゃああんたは」
「囮」
 人形と言ってもいい、見せるそれだけに過ぎなかったというのだ。
「そして彼の身の回りの世話をしていたわ」
「それだけかよ」
「夜はいつも離れて寝ていて」
 愛人ではなかったというのだ。
「そうしていたわ」
「それでか」
「ええ」
 田中に応える形でさらに話していく。
「私は彼といつも一緒にいて」
「捕まったんだな」
「共犯ということで、彼は死刑判決を受けて」
 その犯した数々の凶悪犯罪を考えれば当然のことだ、しかし自分では何もしていないことがわかった彼女は共犯といえど。
「私は終身刑になって」
「刑務所にいたんだな」
「そのままずっといる予定だったけれど」
 ここでだ、ドクツに攫われ機械の身体にされたというのだ。
「ドクツでコアになって」
「どうやってヴァージニアに入ったの?」
 このことはクリオネが問うた。
「それは」
「私はコアになった直後に施設から脱走したの」
 このことも誰もが知っている。
「そしてそこから一旦街に出てそこで親切な老夫婦に出会って」
「それでお世話になったのね」
「そう、そして」
 それにだというのだ。
「キングコアの動きを、頭に直接聞いて」
「後はコア全体に及ぶ学習能力を使ったのね」
「港に行ってシャトルを操ったわ」
 これもコアの学習能力から来るものだ、港のこともシャトルを動かすことも全てだ。
 そのうえでヴァージニアに行った、そしてだったのだ。
「あの人を止めたわ。もう悪いことをさせたくなかったから」
「その老夫婦が君に善悪を教えたんだな」
 ロンメルはこのことを察した、プリンセスの話から。
「そうなんだな」
「ええ」
 その通りだとだ、プリンセスも答えた。
「孤児院ではただそこにいるだけで」
「そうしたことは教わらなかったのか」
「私は。いるだけだったから」
 孤児院にだ、それでだったというのだ。
「全く」
「そしてキングコアには」
 このことはもう言うまでもなかった、彼程の凶悪犯が人の道なぞは。
「そういうことね」
「それで私は夫婦に。機械の身体でも受け入れてもらって」
「それでだったのね」
「そう、育ててもらって」 
 そこで知ったというのだ。
「一ヶ月の短い間だったけれど」
「その老夫婦が救ったのね」
 南雲はここまで聞いて感慨を込めて呟いた。
「あんたも、あいつも世界も」
「そうなるわ」
「けれど何であいつを止めようと思ったんだい?」
 南雲はプリンセスにこのことを問うた。
「それはどうしてなんだい?」
「そのことね」
「ああ、それはどうしてなんだい?」
「彼は確かに悪いことをしてきた」
 このことは否定しなかった、プリンセスも。
「けれど一緒にいた。だから」
「それでかい」
「友達だったから」
 そうだったことがわかったからだというのだ、老夫婦との生活の中で。
「だから」
「止めたんだね」
「そうでしたか」
「そう」
 その通りだとだ、プリンセスは南雲と小澤に答える。
「それで一緒だったの」
「成程ね、わかったよ」
「だからヴァージニアの中に」
「もう彼は」
 キングコア、彼はというと。
「一生起きることがないから。私も」
「眠るか」
「今から」
 そうするとだ、柴神にも答える。実際にその機械の身体は徐々にショートが激しくなり言葉もたどたどしくなってきている。
 その中でだ、プリンセスは枢軸軍の将兵達に言うのだ。
「さようなら」
「もう起きることのない様にな」
 東郷がその彼女に話す。
「安らかにな」
「有り難う」
 顔にも言葉にも表情はない、だが。
 プリンセスは東郷に礼を言った、そしてだった。
 目を閉じそのまま動かなくなった、こうしてプリンセスはキングコアと共に永遠の眠りについたのであった。
 プリンセスはすぐに墓場に運ばれた、そしてその中に埋葬された。埋葬されたのは身体ではなく脳だった。
 ドロシーはこのことについてだ、こう言うのだった。
「身体は機械だったから」
「そのまま埋葬してもだな」
「そう、永遠にそのままだから」
 だからだとだ、東郷はドロシーに話す。
「機械は解体して廃棄処分にして」
「脳だけをか」
「埋葬したわ」
「成程な、それで今あの娘はか」
「静かに眠っているわ」
 彼女の願い通りにだというのだ。
「彼と共に」
「キングコアとか」
「二人並んで埋葬されているわ」
 プリンセスとキングコア、二人でだというのだ。
「彼の脳も奇跡的に残っていて」
「ヴァージニアの爆発の中でか」
「キングコアの上半身は残骸の中に漂っていたわ」
 ヴァージニア、その中にだというのだ。
「それで脳を見つけたから」
「わかった、それでか」
「二人一緒よ、確かに許されないことをしてきた彼等だけれど」
「死んだからな」
「こうしてね」
 埋葬されたというのだ、ドロシーは淡々として話したのだった。
 枢軸軍はあらためてオフランスに向かうことになった、後はそのオフランスとエイリスだけだった。フランスは自国に戻ることについてこうシャルロットに問うた。
「どう思うよ」
「オフランスに戻ることですね」
「あくまで勝てばの話だけれどな」
 戻るにはまず勝たねばならない、しかしフランスは今は戻ること即ち勝利を前提としてシャルロットに話すのである。
「戻ったらどうする?」
「どうと言われましてね」
 シャルロットはフランスの問いに首を少し左に傾げさせた、そのうえでこう答える。
「確かに嬉しいですが」
「パリに戻れたらな」
「私の生まれ育った場所ですから」
「けれどか」
「戻って何をするかといいますと」
「まああんたはな」
 フランスもそのシャルロットに言う。
「はい、私は」
「戻っても国王にはならないよな」
「叔父様がおられますよね」
「ああ、ルイ八十一世さんがな」
 現国王である彼がというのだ、尚八十世は隠居している。
「健在だしな」
「だからですね」
「何か俺達が枢軸にいること自体成り行きでな」
 実際にそれで今枢軸にいる。
「なし崩しって感じだからな」
「叔父様もですか」
「いいって感じでな」
 彼等のこともこれで済ませているというのだ。
「戦後も別にな」
「私達に処罰はですな」
「ないからな」
 特にだ、これといってだというのだ。
「そもそも自分の祖国を処罰もないだろ」
「はい、言われてみれば」
「そういうことだからな」
 フランスは微笑と共にシャルロットに話す。
「勝っても王様はそのままでな」
「私達は祖国に戻ってですね」
「やっぱりそのままだよ、ただな」
 ここでフランスは腕を組み微妙な感じの顔になった、そのうえでの言葉は。
「もう一国平和主義はな」
「それはですか」
「止めないとな」
 この考えについてはだ、フランスは否定して言うのだった。
「何にもなってないからな」
「自分達だけがよければという考えですね」
「ああ、そのことがわかったよ」
 視線を横にやり微妙な感じの顔になって話す。
「今度の戦争でな」
「それでは」
「それは止めるさ」
 一国平和主義はというのだ。
「もうな」
「ではこれからのオフランスは」
「総統さんの言う欧州経済圏に入るさ」
 まずはそうするというのだ。
「それで欧州の中のな」
「防衛機構の中にもですね」
「入るからな」
「では集団防衛ですか」
「集団自衛っていうのか?」
 この言葉も出すフランスだった。
「それだな」
「そうですか、それでは」
「ああ、とにかく一国平和主義は終わりだよ」
「放棄ですね」
「王様にもそれを認めてもらうさ」
「祖国殿が仰ってですか」
「そこは俺が絶対に説得する」
 フランスはシャルロットに確かな声で話す。
「任せてくれよ」
「はい、それでは」
「本当にオフランスはこの戦争では散々だったな」
 今度はやれやれといった苦笑いで言うフランスだった。
「滅茶苦茶な金を注ぎ込んだマジノ線は突破されて負けて」
「マダガスカルでも」
「それで俺達は枢軸軍に入る始末だからな」
「いいところがない、ですか」
「そんな感じだよな」
 その苦笑いでの言葉である。
「本当にどうしたものだよ」
「やはりそれは一国平和主義故ですか」
「現実的じゃないからな」
 フランスも負けてわかったことだ、このことは。
「これからは欧州はかなり弱まってな」
「そうしてその中で、ですね」
「ああ、やっていくことになるよ」
「欧州は欧州で」
「そうさ、もう欧州が世界の中心である時代が終わるんだよ」
 フランスにとっては残念なことだ、しかしそれはもう避けられないというのだ。それだけこの戦争で欧州が受けたダメージと太平洋諸国の発展が大きいのだ。
「けれど欧州は続くからな」
「それでめげてはいけませんね」
「何、落ちたらまた上がればいいんだよ」
「前向きですね」
「雨の後は晴れるだろ」
 自分の国の諺である、悪いことの後にはいいことがある。
「どん底から下はないだろ」
「後は上がるだけですね」
「そうだよ、追い抜かされたら追い抜けばいいんだよ」
「それだけですか」
「とはいっても総統さんが中心だけれどな」
 レーティア、ドクツの総統である彼女がだというのだ。
「そこがどうも、だけれどな」
「それでもあの人が応酬を導いてですか」
「絶対に復興させてな」
「発展させてくれますか」
「ドクツを復活させた人だからな」
 一次大戦の後経済も倫理も破綻し絶望の底にあったドクツをだというのだ。
「だからな、欧州だってな」
「必ず、ですね」
「確かに向こうはでかいよ」
 太平洋経済圏、彼等のことである。
「もう嫌になるまでな、けれどな」
「それでもですか」
「あの人がいるからな」
 フランスも認めていた、レーティアの力量は。
「絶対にいけるさ」
「欧州は再びですね」
「蘇るさ、何度でもな」
「祖国殿、今のお言葉は」
 シャルロットはフランスの今の何度でも、という言葉に微笑んで突っ込みを入れた。その言葉はというと。
「日本さんのアニメでしたね」
「ああ、そういえばそうだったな」
 フランスも言われて気付く、それで笑って返した。
「天空のな」
「いいアニメでしたね」
「本当にな、面白かったな」
「また観たいですね」
「ブルーレイ買うか」
 こんなことも言うフランスだった。
「そうするか」
「いいですね、それでは」
「ああ、今度な」
「日本さんのお店で」
 買おうと話す、そうした話もした二人だった。
 その二人のところにだ、ビルメがフランス妹と共に来てこう言って来た。
「ああ、そこにいたんだね」
「あっ、ビルメさん」
「お茶の時間だよ」
 こうシャルロット達に言って来たのだった。
「一緒にどうだい?」
「そうですね、それでは」
「コーヒーで宜しいですね」
 フランス妹は一同にこれを勧めた。
「お菓子も用意していますので」
「お菓子は何だい?」
「はい、私が作ったクレープです」
 それだというのだ。
「どうでしょうか」
「いいね、それじゃあね」
 ビルメはフランス妹の言葉に明るい顔で応えた、そうしてだった。
 四人で卓を囲んでコーヒーとクレープを楽しみだした、フランスはその場でこんなことも言うのだった。
「しかしあれだよな」
「あれ?」
「どうしたんだい、祖国さん」
「いや、またイギリスの奴と会うことになるけれどな」
 戦場でだ、間違いなくそうなるというのだ。
「あいつの料理は相変わらずなんだろうな」
「期待する方が駄目だろ」
 ビルメはフランス妹の淹れたコーヒーを飲みながら素っ気なく返した。
「あの人の料理は」
「あんたも知ってるんだな」
「一回マダガスカルにあの人が来たんだよ」
「ああ、そういえばそんなこともあったよな」
 戦争前の話だ、まだ世界は平和だった。
「それでその時にかよ」
「ご馳走になったんだけれどね」
 だがそれがだというのだ。
「いや、凄かったね」
「まずかったんだな」
「今まで食ったものの中でダントツだったね」
 ビルメはアライグマの顔でかなり辛辣な事実を述べた。
「いや、あんなまずい料理はないよ」
「そうか、あんたから見てもなんだな」
「ポルコ族の連中も泣いてただろ」
 イタリンの主要民族の彼等もだったというのだ。
「エイリス軍の捕虜になって死にそうだったって」
「あいつポルコ族は結構好きなんだよ」
 イギリスはイタリンには悪意はない、セーラにしてもかなり優しい。しかし悪意も敵意もないがそれでもだったのだ。
「それでもな」
「ポルコ族の連中もグルメだからね」
「パスタとピザとワインだからな」 
 トマトにオリーブ、オレンジにアボガド、チーズ、ガーリックだ。イタリンはこれに食後のジェラートがないと動けない。
 しかしだ、エイリスはというと。
「あの連中はくそまずいオートミールと乾パンだけだからな」
「ああ、携帯食も凄かったね」
「俺はあんなの出さねえからな」
 間違ってもだというのだ。
「絶対にな」
「だろうね、フランスさんもね」
「少なくともセーシェルにもそんなまずいの食わせてねえだろ」
「ああ、それはないね」
「やっぱりあいつの料理は誰が食ってもまずいんだな」
「正直最悪だね」
 また言うビルメだった。
「どうしようもないね、本当に」
「それで欧州経済圏が出来たらな」
「やっぱりイギリスさんも入るんだろ」
「絶対にな」
 そうなることは自明の理である、エイリスもまた欧州の一国でありレーティアは欧州全土をその経済圏の対象にしているからだ。
 それでだ、エイリスもなのだ。
「入るさ」
「そうなるね、じゃあね」
「あいつのまずい飯か」
「食うことになるよ」
 やはりそうなるというのだ。
「時々でもね」
「覚悟しておきましょう、そのことは」
 フランス妹も今は深刻な顔である、そのうえでの言葉だ。
「私はあちらの妹さんとは懇意ですが」
「そういえば御前等仲いいよな」
「はい、昔から」
「俺達は嫌煙の仲だけれどな」
 兄達の関係はかなり悪い、これも昔からだ。しかし妹達はというと。
「長年いがみ合ってきたのにな」
「お互いに知っていますので」
「だからかよ」
「はい、そうです」
 フランス妹は兄にこう答える。
「お兄様とはそこが違いますね」
「ひょっとして世界ってのは女の子中心の方がいいのかね」 
 ここでこうも思うフランスだった。
「どうなのかね、そこは」
「そのことについては」
 フランス妹は兄に微妙な顔で応えた。
「はっきりとは申し上げられないですね」
「一概には言えねえか?」
「そういうものかと」
 こう兄に話す妹だった。
「どうしても」
「そうか、そういうものなんだな」
「世の中はどちらも存在してこそですね」
「ああ、どっちもいねえと何もならねえな」
 それこそどちらが欠けてもだ、世界は成り立たない。これは自明の理である。
「本当にな」
「ですから」
「言えねえか」
「はい、そうかと」
「それもそうか、女の子中心でもな」
「悪いところもあります」
 フランス妹は女の立場から話す。
「そういうものなので」
「そうだな、じゃあな」
「それではですね」
「ああ、とりあえずコーヒーとクレープの後はな」
 どうするかとだ、フランスは三人に話した。
「進撃準備だな」
「それですね」
「それをしような」
 こう話しそしてだった、彼等は三時の後も仕事をするのだった。
 オフランスへの進撃用意は整っていた、そしてその彼等に対して。
 エイリス軍も続々とオフランスに入っていた、イギリスはその自軍を見つつ自身の妹に対して目を顰めさせて言った。
「なあ、今俺達やばいよな」
「はい、かなり」
 妹の方もそのことは否定しない、出来なかった。
「このオフランスで敗れますと」
「もうロンドンまですぐだからな」
「アシカ作戦の再現です」
 あのエイリスが決死で戦った戦いのだというのだ、この時は攻めるドクツ軍の戦力は数は不十分でエイリス軍も多くの植民地軍があった、だが今は。
「こちらに数はなく彼等の数は圧倒的です」
「装備もな」
「敗北する可能性はかなり高いです」
「切り札はまだあるけれどな」
「それでもです」
 まさに後がない、だが。
 エイリスの誇る軍人達はいる、しかしなのだ。
「貴族の連中はな」
「全く来ていませんね」
「資金も出さないしな」
「これまで通り戦争に一切協力しようとしません」
「何処まで自分達のことしか考えてねえんだ」
 イギリスはあからさまに不満の言葉を漏らした。
「エリザさんは予備戦力で本国に残ってるけれどな」
「セーラ様とロレンス提督が来られています」
 国家元首、そして最後の騎士提督がだというのだ。しかし貴族である彼等はというのだ。
「平民の人達も必死だというのに」
「本当に癌だからな」
「全くですね」
「くそっ、この戦争がなければな」
 イギリスもセーラと同じことを言う、彼女以上に忌々しげに。
「連中をどうにかしていたのにな」
「戦後そうしなければ」
「ああ、どうしようもなくなるからな」
 どうしてもだというのだ。
「只でさえエイリスには植民地がなくなったからな」
「その全ての植民地が」
「エイリス本土だけになったんだ」
 イギリスはこのことを忌々しげに言う。
「植民地についても連中は」
「どうもとんでもないことを言っています」
「あれだろ、枢軸の連中に」
「即時無条件降伏と」
 それに加えてだった。
「植民地の全てを即座に返還せよと」
「連中が今望む筈ねえだろ」
「しかも多額の賠償金まで」
「出来る筈ねえだろ」
 イギリスは忌々しげに言った、今回も。
「馬鹿か、あの連中は」
「何も見えていないのでしょう」
 イギリス妹も苛立たしげに述べた。
「自分達のこと以外は」
「だろうな、じゃあな」
「はい、では」
「連中はもう無視してな」
 そしてだというのだ。
「俺達だけでやるか」
「それしかないですから」
「それで戦争の後でな」
 全てはその後だった、エイリスもまた。
「連中をどうにかしてやろうな」
「この戦争に一切協力しなかったことへの責任追求ですね」
「そうしてやるか」
「必ず」
「で、オフランスだけれどフランスの奴はいねえんだよこれが」
 イギリスは話題を換えてきた、今度の話題はフランスについてだった。
「嫌な奴がいないのは残念だな」
「残念ですか」
「敵でいるにしても、オフランスにあいつがいないのは」
「寂しいですか」
「しっくりこないだろ、どうも」
「私は妹さんがおられないことが」
 イギリス妹は彼女について言う。
「寂しいですね」
「だよな、どうしても」
 何だかんだでお互いについての理解はある双方だった、その彼等が今敵味方に別れて戦おうとしていた。


TURN130   完


                              2013・8・12



ドクツでの処理も大方終わりって所か。
美姫 「ヒムラーの背後関係が不明のままみたいだけれどね」
ドーラ教の事はまだ出てきていないみたいだな。
美姫 「今後の調査でどうなるかね」
だな。まあ、今は残るエイリス戦に集中って所か。
美姫 「そうね。にしても、こちらは貴族連中が相変わらずみたいね」
だな。これは枢軸が勝ったとしても、その後処理が面倒そうだな。
美姫 「どうなるかしらね」
気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」



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