『ヘタリア大帝国』




                   TURN129  コア

 枢軸軍は目の前に廃棄された戦艦を見ていた、周りには破壊され尽くした艦隊が漂っている。レーティアはそれを見て言うのだった。
「これはまさか」
「ええ、間違いないわね」
 グレシアがそのレーティアに応える。
「ヒムラーの戦艦と、そして」
「親衛隊だな、ベルリンに残っていた」
「それもヒムラーの直率艦隊よ」
「何があった」
 レーティアは怪訝な顔で言った。
「これは」
「戦闘があったことは間違いないな」
 ドイツも怪訝な顔である。
「親衛隊長の乗艦に破損はないがな」
「それ以外の艦艇がね」
「全て破壊されている」
 こうグレシアに話す。
「それを見ているとな」
「戦闘があったことは間違いないにしても」
「誰にやられたか、だよな」
 プロイセンはその目を鋭くさせている。
「これはな」
「まさかと思うが」
 マンシュタインはモニターに映る遠方を見た、そこには。
「あの艦隊か」
「機械の艦隊でしたね」
 ロンメルがマンシュタインに応える。
「確か」
「うむ、新たに開発していたというな」
「人造人間の」
「人造人間の叛乱?まさか」
 ドイツ妹は言ってすぐに自分の言葉を否定した。
「そんな小説みたいなことが」
「あるんじゃないの?」
 しかしプロイセン妹はドイツ妹のその言葉に言った。
「そのまさかが」
「では」
「ああ、その通りだよ」
 ここで枢軸軍の全艦艇のモニターに白銀の顔が現われた、邪悪な笑みを浮かべているその機械の顔が。
「俺達がやってやったんだよ」
「御前は」
「コア、キングコアだ。覚えておくんだな」
 レーティアにこう楽しげな声で返す。
「これから手前等をぶっ殺す奴の名前だよ」
「キングコア、自称だな」
 レーティアはその名前からすぐにそのことを察した。
「そうだな」
「へっ、察しがいいな」
 その通りだとだ、キングコアも答える。
「俺の名はリンカーン、イレブンナインともいうさ」
「イレブンナイン!?」
「まさか」
 その名に反応したのはダグラスとスカーレットだった、まずダグラスが言う。
「俺の映画の悪役のモデルかよ」
「何だ、イーグル=ダグラスもいるのかよ」
「ああ、今じゃガメリカの大統領だ」
 キングコアをサングラスの奥の鋭い目で見据えながら言い返した。
「目出度く当選したさ」
「そうかよ、手前の話は刑務所でも聞いてたぜ」
「生きてるとは思わなかったな」
 ダグラスはキングコア、リンカーンが死刑囚になっていると聞いていたのだ。犯した数えきれない程の犯罪行為により。
「電気椅子の世話にはなっていなかったのかよ」
「久しぶりね」
 今度はスカーレットがキングコアに告げた。
「どうしてここで会えたかわからねえれど」
「ああ、あの時の別嬪さんかよ」
 キングコアはスカーレットにも応える。
「あんたの乗った船はワープ装置を破壊してやったんだがな」
「生憎生き残ったわ」
 スカーレットはキングコアを見据えていた、そのうえでの言葉だ。
「船に積まれていた貴重品は全て貴方に盗まれたけれどね」
「いいものばかりだったぜ」
 キングコアは邪悪な笑みのままスカーレットに言葉を返す。
「宝石も金時計もな」
「貴金属を強盗するだけでなく乗員全てを殺そうとするなんて」
「盗んだ奴をぶっ殺すのが俺の流儀なんだよ」
 キングコアは平然として己の悪事を話す。
「だから当然だよ」
「それで私を殺そうともしたのね」
「しくじったがな」
 それでも襲ったことは認める。
「あんたをバラせなかったのは残念だったな」
「生憎ね、私も生き残ってね」
「今ここにいるのかよ」
「暫く海賊をしていたわ」
 ヒムラーやカテーリンと結びながらだ、レッドファランクスとして海賊行為をしていた時のこともキングコアに言う。
「そして今は日本軍にいるわ」
「成程な」
「色々聞きたいわね、どうして機械の身体なのかしら」
 スカーレットはキングコアにこのことを問うた。
「今の貴方は」
「そのことは私が」
 ここでドロシーが出て来て一同に話してきた。
「お話します」
「ドロシーが?」
「どうしてドクツにあの計画が渡ったかわからないけれど」
「うん、そうだな」
 アメリカもここで言う。
「カナダに場所を借りて研究していたんだが」
「機械の軍、人造人間の軍を」
 ドロシーは話す。
「その軍を計画していたの」
「それでかなり開発していたんだがな」
「犯罪者、死刑囚の脳を人造人間の脳に使うことも案にあったわ」
「僕達は流石にそれは、って思ったんだけれど」
 ドクツでは実行に移されていたのだ。
「まさかこうしてな」
「ドクツで見るなんて」
 ドロシーも想定していなかった、このことは。
 そしてだ、夕霧を見て言うのだった。
「夕霧の様に人工知能を搭載しようかという考えに傾いていたわ」
「私みたいに、ですか」
「それがいいだろうということで」
「死刑囚は犯罪者だからね、使うととんでもないことになりかねないだろ?」
 アメリカ妹も言う、
「それでそうしようかっていう時にね」
「枢軸軍にカナダを占領されて」
 計画が消えた、ドロシーは話す。
「計画のデータは全て破棄した筈なのに」
「ヒムラーが密かに入手していたんでしょうね」
 キャロルがここで口をへの字にさせて述べた。
「それで今あいつ等があたし達の目の前にいるのよ」
「何時の間に」
 ドロシーも総力を挙げて秘匿にしていた、それを何故ヒムラーが知っていて破棄していた情報を手に入れたのか、そこが疑問だった。
「そんなことが」
「親衛隊はね、桁外れの情報収集能力があったのよ」
 グレシアがいぶかしむドロシーにこのことを話した。
「それこそ各国の国家元首のプライベートの些細なことまでね」
「知っていたの」
「ヒムラーは情報収集の天才でした」
 彼と士官学校で同期だったロンメルの話だ。
「そのことについては誰も足元にも及びませんでした」
「秘密警察の才能もあったと」
「はい」
 その通りだとだ、ロンメルはそのソビエト秘密警察の長官であるゲーペにも答えた。
「相当な」
「だからですか」
「そうしたことも出来たのでしょう」
 ドロシーの計画を入手することもだというのだ。
「ヒムラーなら」
「そうなのね、けれど」
 ドロシーはキングコアを観ながら言う、今度はそうするのだ。
「このコアは」
「どんなのなの?」
「一体の情報が全体に瞬時に行き渡り艦艇とも一つになれるの」
 こうクーに話す。
「だから艦艇の操縦もかなりのもので」
「一度情報を知れば」
「ええ、全体に伝わるから」
「すぐに全体のレベルがあがるのね」
「そうよ」
 その通りだとだ、クーに答える。
「それがコアよ」
「何だよそれじゃあ最強の軍になるじゃねえか」
 学習能力が高いうえに即座に全体に伝わる、キャシーはそのことを聞いてコアの恐ろしさを瞬時に理解した。
「洒落になってねえな」
「しかもコア用の艦艇には自己修復能力もかなりのものを入れているから」
「攻撃を受けてもすぐに回復するのね」
「回復不可能なまでのダメージを与えないと」
 ハンナにも答える。
「そうなるわ」
「見たところ艦艇は第六世代ね」
 クリスはコアの艦艇を見ていた。
「そしてドクツの装備、それが百個艦隊ね」
「そんなところだね、戦力的には勝てるけれど」
 キャヌホークはそのクリスに応えた。
「完全撃破しかないとなるとね」
「ハードルが高いな」
 ドワイトがキャヌホークに合わせる。
「そうなるな」
「それとだ」
 東郷も言う、彼もまたコアの軍勢を見ている。そこに見ているものはというと。
「サラマンダーもいる」
「げっ、あいつまで」
「何時の間にベルリンまで」
 皆ここで大怪獣にも気付いた。
「しかも何か後ろにまだ大怪獣もいるから」
「これは」
「この戦力で手前等を皆殺しにしてやるぜ」
 ここでまたキングコアが言って来た、実に楽しげに。
「そうしてやるからな、そしてな」
「後はディナーの時間です」
「救済だな」
「!?この二人まさか」
 ハンナはモニターに出て来た二体のコアの言葉を聞いて瞬時に察した。
「マッキンリーとトルーマン?」
「あれっ、わかったのですか?」
「察しがいいな」
 これが彼等の返事だった。
「これは勘のいいディナーです、脳が美味しそうです」
「こうした娘こそ救済せねばな」
「ではこの戦闘の後でこの娘のミートローフを食べ」
「生贄にした後でだ」
 コア達は平然と、しかも楽しげにおぞましいことを話していくう。
「ベルリンに降り楽しんだ後で」
「全世界に向かおう」
「ああ、俺達が人間共を支配してやるんだよ」
 キングコアも邪悪な笑みの声で応える。
「そして破壊、略奪、殺戮のパーティーだよ」
「楽しみですボス!」
「それこそ私の待っていた時」
「では今から」
「それをはじめるとしよう」
「じゃあ行くぜ」
 キングコアはここで宣言をした、その宣言はというと。
「どいつもこいつも嬲り殺しにしてやるぜ」
 こう言って枢軸軍にコアの軍が向けられる、サラマンダーと共に。ハンナはその彼等を観ながら陣を整える枢軸軍の提督達に言った。
「あのマッキンリーとトルーマンだけれど」
「ええ、知ってるわよ」
 キャロルがこれ以上はないまでの嫌悪感を出してハンナに答えた。
「食人鬼にカルトの教祖じゃない」
「そうよ、マッキンリーはまず自分の家族を殺して食べてね」
 最初はマッキンリー、緑のマシンからの話だった。
「それから人を次々と殺して食べていったのよ」
「それは完全に狂っているホーーー!」
「何だそりゃ滅茶苦茶じゃねかよ!」
 ケツアルハニーとランスはハンナの今の言葉に血相を変えた。
「人を食うなんて有り得ないホーーー!」
「そんなキチガイが今度の俺達の相手か!」
「それも十人や二十人ではないわ」
 ハンナはさらに言う。
「何百人とね」
「おい、そりゃ何なんだよ」
 さしものランスも唖然とした顔で言う。
「完全なキチガイだな」
「そしてトルーマンの率いていた教団だけれど」
 語るハンナの顔も蒼白だ、言葉も何とか冷静さを保っている感じだ。
「殺人、それも惨殺を魂の救済としてね」
「また何百人とですか」
「ええ、殺したわ」
 ハンナは今度はのぞみに話した。
「キングコア、リンカーンは強盗殺人よ。その犯罪件数はわかっているだけで千件近いわ。何千人と殺しているわ」
「全員サイコ野郎かよ」
 田中はここまで聞いて忌々しげに言い捨てた。
「それが俺達の今度の相手か」
「しかも身体は機械であり情報を収集してるって」
 ハニートラップもうんざりとしきった顔である。
「これまでで一番タチの悪い相手じゃない」
「けどここで俺達が負けたら洒落にならんで」
 スペインがここで言う。
「俺達は皆殺しでベルリンは凶悪犯ちゅうかガイキチのもんや」
「じゃあ勝つしかないんだ」
「それしかないで、イタちゃん」
 スペインはこうイタリアに答えた。
「残念やけど」
「白旗出しても駄目かな」
「そんな相手だと思えるあるか?」
 中国は泣きそうなイタリアに突っ込みを入れた。
「絶対に無理あるぞ」
「やっぱりそうなんだ」
「今回は戦うしかないある」
 イタリアもだというのだ。
「覚悟して戦うある」
「わかったよ、それじゃあね」
 イタリアもがっかりとしているがそれでもだった、何とか頷いて。
 彼等は布陣を整えた、その彼等にコアの軍勢が迫っていた。しかしそのコアの布陣はというと。
 秋山がだ、自身の隣にいる東郷にこう言った。
「司令、これは」
「ああ、素人だな」
「そういえば彼等は死刑囚でしたね」
「人造人間の身体に死刑囚の脳を移植させたな」
「そうでしたね」
「軍人はいない」
「だからですか」
 見れば布陣にもなっていない、ただ無造作に向かってきているだけだ。
 それを見て秋山は言い東郷も応えているのだ。
「では」
「全軍まずはだ」
 東郷はここで言う。
「敵の攻撃を受ける」
「そうしてですね」
「そのまま中央は下がりだ」
「左右はそのままで、ですね」
「敵の攻撃を受けるふりをして囲め」
「カンネーだね」
 イタリア妹がモニターから東郷に問うた。
「それでいくんだね」
「そうだ、まさにな」
「やるね、あれをするなんて」
「あれなら確実に勝てる」
 コアの軍勢にだというのだ。
「だからいいな」
「わかったよ、それじゃあね」
「中央は堅固な艦艇を配する」
 それでコアが乗るドクツ軍艦艇の強力なビームを防ぐというのだ。
「バリアを持った艦もな」
「そして左右にはだね」
「そうだ、機動力のある艦艇だ」
 東郷は今度はロマーノ妹に答えた。
「左右、そして後ろを囲む」
「そういうことだね」
「それでいく、いいな」
 こう話して実際にだった、枢軸軍はまずはコアの軍勢を受けた。コア達は彼等の中央が退くのを見て叫んだ。
「よし、いけるぜ!」
「このままやってやるか!」
「攻めろ、皆殺しだ!」
「それからベルリンでやりたい放題だ!」
「おう、全員やってやれ!」
 コアも己の乗艦から楽しげに言う。
「このまま攻めろ、いいな」
「はい、キングコア!」
「そうします!」
「ああ、そうしろ!」
 キングコアも気付いていなかった、そうしてだった。
 彼はそのまま攻めさせる、枢軸軍はただ退くだけだ。
 コアの軍勢にはサラマンダーもいる、だが機械の怪獣は後ろに置いたままだ。トルーマンはキングコアにその理由を問うた。
「キングコア、ヴァージニアですが」
「後ろに置いてる理由だな」
「はい、それはどうしてですか?」
「保険だよ」
 キングコアはにやりとして答えた。
「それでだよ」
「保険ですか」
「何につけてもいざって時の備えが必要だろ」
「確かに」
「だからな、あれは置いておいてな」
「若し何かあった時にですか」
「切り札として使うんだよ」
 だから今は置いているというのだ。
「そうしてるんだよ」
「そうでしたか」
「じゃあいいな」
「はい、それでは」
「まあその心配もないだろうけれどな」
 キングコアはコアの能力に酔っていた、これなら何でも出来ると思っていた。それで勝利を確信していたのだ。
 それでだ、この戦いでの勝利を確信していた。目の前の枢軸軍人間達の軍はただひたすら逃げている様にしか見えていなかった。
 だから攻め続けた、そして。
 枢軸軍の陣が半月型になっていた、東郷は自軍がその形になったところで全軍に告げた。
「ではいよいよだ」
「はい、敵の後方にですね」
「艦隊を送る」
 そうして完全に包囲するというのだ。
「そうしてだ」
「全軍総攻撃ですね」
「そうだ、そしてサラマンダーはだ」
 秋山に己の作戦を話していく。
「潜水艦艦隊を使おう」
「ああ、任せろ」
 潜水艦艦隊司令の田中も応える。
「仕留めてやるからな」
「大怪獣を仕留めた後だが」
「敵の艦隊だな」
「そちらも頼む」
「一撃で仕留めてやるからな」
「自己修復能力の強い艦らしいからな」
 確実に修復不可能のダメージを与えるというのだ。
「横と後ろから攻める」
「艦艇の装甲が弱い部分から」
「ああ、攻める」
 まさにそうするというのだ。
「それで行くぞ」
「では今から」
「反撃に移る」
 全軍でだ、こう言ってだった。
 枢軸軍は即座に敵の後方に艦隊をやって完全包囲下に置いた、その瞬間に。 
 総攻撃に移った、艦載機にビーム、ミサイル鉄鋼弾による総攻撃を浴びせたのだ。
 それまで波に 乗って攻めていたコア達は忽ちのうちの反撃の中に入った。正面からだけでなく横と後ろからも攻撃を受けて。
 彼等は次々に艦を撃沈されていった、修復不可能な彼等の自己修復能力を以てしてもそれを防ぐことは出来なかった。
 包囲され破壊されていく、その中で。
 まずはマッキンリーがだ、炎と爆発の中でキングコアに言った。
「ボ、ボス!」
「終わりかよ、手前は」
「はい、船が沈み私も」
 見れば全身に激しいダメージを受けている、火花が飛び散り爆発が起こっている。身体も満足に動かなくなっている。
「もうディナーを楽しむことも」
「けっ、ザマあねえな」
「ま、まさかこれで終わるとは」
 死、それを恐る言葉だった。
「もう一度脳味噌を、チーズの様なあの味を楽しみたかった」
「地獄で思い出すんだな」
 キングコアはマッキンリーにこう冷淡に言うだけだった。
「それじゃああばよ」
「キングコア・・・・・・」
「くっ、最早」
 マッキンリーがモニターを白く焼く爆発の中に消えたのと入れ替わりにトルーマンが出て来た、彼もだった。
「私もです」
「何だ?首だけかよ」
「はい」
 見ればトルーマンの身体はない、何処かに吹き飛ばされたらしい。その首もあちこち壊れショートしている。右目も吹き飛び横に転がっている。
 そのトルーマンの首がだ、キングコアに言うのだ。
「私も救済されました」
「へっ、最後は手前かよ」
「そうなってしまいました」
「よかったな」
「より多くの者を救済出来なかったですが」
 そのことが残念だというのだ。
「しかしこれで」
「ああ、さっさとくたばれ」
 キングコアはトルーマンにもこの調子だった。
「そうしな」
「では」
 トルーマンの首は爆発し画面自体が白くショートした、そして。
 キングコアにだ、直接この報告が来た。
「サラマンダーが」
「どうなったんだ?」
「今倒されました」
 来たのはこの報告だった。
「敵の潜水艦艦隊によって」
「潜水艦?あの消える船だな」
「はい、それによって」
 倒されたというのだ。
「そうなりました」
「あれもやられたのかよ」
「そして軍全体の損害も」
 報告するコアは更に話す。
「八割を超えました」
「多いな」
「どうされますか、ここは」
「おい、後ろから逃げるぞ」
 敵陣を突破してだというのだ。
「いいな」
「そうされますか」
「ああ、こういう時の為に置いておいたんだよ」
「ヴァージニアをですね」
「ああ、あれはサラマンダーより遥かに強いからな」
 相変わらずの邪悪な笑みのままでの言葉だった。
「あれさえあればな」
「形勢逆転ですね」
「残った奴等だけで戦うぜ」
 そうするとだ、こう話してだった。
 キングコアは一旦その場から離れることにした、しかし枢軸軍の包囲は堅固だ。おいそれと突破出来るものではなかった。
 しかしそれでもだ、彼は言うのだった。
「おい、残ってる奴等全員でな」
「どうしろと」
「ここは」
「後ろの敵に突っ込め」
 そうしろというのだ。
「俺の楯になれ、いいな」
「し、しかしそれでは」
「むざむざ」
「いいんだよ、俺さえ生きられればな」
 それで構わないというのだ。
「わかったら行け、いいな」
「キングコア・・・・・・」
「ああん?俺は手前等の王だろ」
 キングコアは強制力を行使した、他のコア達に自身のそれを使ったのだ。
「じゃあいいな」
「わかりました」
「それでは」
「ああ、行け」
 死にに、というのだ。
「わかったな」
「はい」
 皆頷くしかなかった、そうしてだった。
 コア達は枢軸軍の包囲を突破にかかった、だが枢軸軍はその彼等に攻撃を浴びせる。コアの艦艇は次々と破壊されていく。
 しかしそれで何とかだった、キングコアの乗艦だけは突破出来た、それでそのまま後方に向かうのだった。
 キングコアのその動きを見てだ、東郷は言った。
「あの戦艦一隻だけになったがな」
「あれこそがですね」
「ああ、キングコアの乗艦だな」
 それに他ならないと秋山に話す。
「間違いなくな」
「では追いますか」
「当然だ、そしてだ」
 何としてもだというのだ。
「沈める」
「残るコアはあの中にいるだけですし」
「連中だけは放置出来ない」
 東郷の声は何時になく強い。
「若し逃せばな」
「凶悪犯、しかも生身の肉体よりもさらに強い身体を持つ輩を世に放つことになります」
「そうした犯罪者はいる」
 東郷はそれもまた世界だということがわかっていた、それで今秋山に対して何時になく険しい顔で言うのだ。
「そしてそうした奴はな」
「放っておいてはなりませんね」
「だから」
 それ故にだというのだ。
「ここで仕留める」
「わかりました」
「しかしだ」
 ここで東郷はこうも言った、あくまで逃れようとするキングコアの乗艦を全軍で追いながら。
「見たところ逃げるというよりも」
「ええ、そうね」
 スカーレットが大和のモニターに出て来て応える。
「むしろね」
「あの機械の大怪獣に向かっているな」
「あの大怪獣は一体」
「ヴァージニア」
 ここでまたドロシーが答えてきた。
「ノイマングループが祖国防衛の為の切り札として大怪獣達を研究して計画していた機械の大怪獣」
「それもヒムラーにデータを盗まれていたか」
「おそらく」
 こうレーティアに答える、ここでも。
「そうされていた」
「そうか、あれもか」
「あくまで計画書、設計図の段階で開発には手もつけていなかったのに」
 ドロシーは言う、ヴァージニアの開発はコア以上に進んでいなかったのだ。
「それを製造するなんて」
「ドクツの科学力は凄いわね」
 キャロルは皮肉混じりに感嘆の言葉を出した。
「これは戦後はとんでもない国になるわね」
「ええ。そしてヴァージニアは」
 ドロシーはさらに話す。
「通常の大怪獣以上の力を出すから」
「弱点はあるのかしら」
「ないわ」
 スカーレットにこう答える。
「攻撃でダメージは受けるけれど」
「バリアや防空装備は」
「そうしたものはないわ」
 幸いだ、そうした攻撃は普通に効果があるというのだ。
「ただ耐久力と攻撃力が違うだけで」
「その耐久力はどれ位ですか?」
 エルミーはドロシーにそのことを問うた。
「通常の大怪獣以上とのことですが」
「ニガヨモギの十倍」
 そこまでだというのだ。
「そして宇宙横綱と同じだけの攻撃力」
「まさに怪物だな、そりゃ」
 田中も話を聞いてこう言うしかなかった。
「よくそんなの再現できたなドクツも」
「私も驚いているわ」
 とはいってもドロシーの言葉はいつも通り淡々としている。
「ドクツ、凄い国ね」
「褒めている場合ではない、問題はどうするかだ」
 レーティアは冷静にヴァージニアを倒す方法を考えておりそのうえでドロシーに問うた。
「ここはだ」
「通常の攻撃は効くわ」
「しかしだな」
「ええ、耐久力と攻撃力がそうだから」
 通常の大怪獣など比較にならないというのだ。
「おいそれとは倒せないわ」
「しかし倒すしかない」
 東郷は冷静にこう述べた。
「あの大怪獣も放ってはおけないからな」
「司令、それでなのですが」
 日本が大和のモニターに現れて東郷に話す。
「キングコアの乗艦ですが」
「?そういえば」
「そのヴァージニアに一直線に向かっています」
 見ればその通りだった、キングコアの乗艦は ヴァージニアの方に向かっていた。ただ逃げているのではなかった。
 ここでだ、ドロシーが再び言った。
「まさか」
「まさか?どうしたんだい?」
「キングコアはヴァージニアと接続して」
「ヴァージニアを動かすつもりなのか」
「機械と機械なら接続出来るわ」
 アメリカにこのことを話す。
「だから」
「そうしてヴァージニアを自分で動かすのか」
「ヴァージニアは完全な機械でコンピューターによる遠隔操作で動かす予定だったわ」
 その操縦方法もここで話される。
「けれどね」
「機械と機械ならなんだな」
「ええ、一体化出来るから」
 それでキングコア自身が動かせるというのだ。
「凶悪犯が動かすとなると」
「まずいあるな」
「そうあるよ」
 中国と中国妹はドロシーの話を聞いてこの例えを出した。
「暴君が龍になった様なものある」
「これは洒落にならないあるよ」
「今から全速力で追うよ」
 コアイは持ち前の機動力でキングコアの乗艦をそうすると言った。
「コアイがやるから」
「いえ、もう間に合いません」
 しかし秋山はこう言ってコアイを止めた、そうするしかなかった。
「あの艦の速さでは」
「じゃあ」
「キングコアはヴァージニアと一体化します」
 間違いなくそうなるとだ、秋山は苦い顔で述べた。
「凶悪犯、前科千犯の頭脳を持つ機械の大怪獣の誕生です」
「最悪の状況ですね」
 平良が言う。
「これは」
「全艦隊散開だ」
 東郷はこの窮地でも冷静に述べた。
「そして四方八方からだ」
「はい、攻撃開始ですね」
「そうしろ」
 こう話す、そしてだった。
 枢軸軍はヴァージニアの周りに展開にかかった。最早どれだけの損害を出しても大怪獣を倒すしかなかったからだ。
 キングコアはヴァージニアに接近すると乗艦からシャトルを出してヴァージニアの頭部に来た、ヴァージニアはまだ稼働していない。
 しかし彼はヴァージニアの脳内に自ら入った、そして全身にコードをつないで言うのだった。
「よし、やるか!」
「ではキングコア」
「今より」
「ああ、手前等はな」
 己の乗艦に残る部下達に応える、そしてだった。
 まず彼等にビームを放った、戦艦はその一撃で消え去った。
「もう洋済みだ、消えな」
「手前自分の部下を!」
「ああ!?もういらねえ駒を始末しただけだろうが」
 怒る田中に笑って返す。
「それがどうしたってんだ?」
「仲間じゃねえのか」
「仲間!?知らねえ言葉だな」
 自分の部下を仲間と考える田中にヴァージニアの口から返す。
「そんな言葉はな」
「くっ、この腐れ外道!」
「ずっとそう言われてきたな」
 こう言われても平然としたままだった。
「今更な」
「どうやら手前だけは生かしちゃいけねえみたいだな」
「じゃあ来いよ、どいつもこいつもぶっ殺してやるからな」
 相変わらず邪悪な笑みで返すコアだった、ヴァージニアの中でその顔になっているのだ。
「今からな」
「言われずともな」
 東郷もキングコアの狂気には嫌悪を感じている、しかし彼は冷静さを保ったままたそのうえで彼に返した。
「ここを貴様の墓場にしてやる」
「来やがれ、皆殺しだぜ」
 キングコアはヴァージニアの攻撃を開始させようとしていた、だが。
 ここでだ、その動きが。
「!?」
「あれっ、妙だね」
「そうですね」
 ここでだ、南雲と小澤が話した。
「ヴァージニアが動かないね」
「これは一体」
「何だ!?どうしたんだ!?」
 ヴァージニアの中のキングコアも言う。
「動かねえぞ、どうしたんだ?」
「ボス」 
 ここでだ、そのヴァージニアの中からだった。
 少女の声がしてきた、少女の声はキングコアに対して話す。
「もうこれ以上は」
「その声はまさか」
「そう、私」
「プリンセス、手前もいたのかよ」
「機械の身体になったけれど」
「逃げたって聞いたがな」
「そう、ベルリンにいて優しい老夫婦に拾われて育てられていたの」
 それが機械になってからの彼女だったというのだ。
「けれど」
「何で今ここにいるんだ?」
「ボスを助けたいと思った、けれど」
 だがそれでもだというのだ。
「お爺さん達の言葉を思い出して。悪いことはもう」
「しねえっていうのかよ」
「止めたい、だから」
「馬鹿言え、殺人と強盗は最高のゲームだ、止められるかよ」
「もうそれも終わりにしよう」
 まだ言う少女、プリンセスだった。
「これで」
「おい、ヴァージニアの中にいるんだよな!」
「そう」
「じゃあ動かせ!これから連中を皆殺しにするんだからな!」
「だからそれはもう」
 プリンセスの声は言っていく。
「止めよう」
「だからそんなことが出来るか!俺は!」
「司令」
 秋山は今の動きを止めているヴァージニアを見てすぐにだった、東郷に告げた。
「大怪獣は動きを止めています」
「そうだな、今だな」
「総攻撃です」
 全軍でだというのだ。
「そうしましょう」
「よし、それならな」
 こうして枢軸軍は即座にヴァージニアへの総攻撃を開始した。全ての攻撃が機械の大怪獣に炸裂した。
 それを受けてだ、さしものヴァージニアもだった。
 揺らぐ、キングコアはその中で叫ぶ。
「おい、プリンセス!」
「だからもうそれは」
「動かせ!さもないと!」
 こう話して必死に動かそうとする、だがヴァージニアは動かない。
 それでだ、遂にだった。
 ヴァージニアの各部から火があがる、ショートも起こる、その間も枢軸軍の激しい攻撃が絶え間なく続いて。
 爆発も起こる、プリンセスの声はその中で言うのだった。
「ボス、ずっと」
「ずっと!?何だ!」
「私が一緒にいるから」
 こう彼に言うのだ。
「一人じゃないから」
「手前、まさか」
「ずっとボスと一緒だったから」
 だからだというのだ。
「これからも」
「死んでからもかよ」
「そう、一緒だから」
 こう穏やかな声で言うのだ。
「怖がらないで」
「おい、俺が死ぬのを怖がるっていうのかよ」
 キングコアの言葉に余裕が戻った。あちこちから火の手があがる狭い機械の部屋の中でプリンセスに対して話す。
「馬鹿言え」
「それじゃあ」
「人間は皆どうせ一回は死ぬんだよ」
 こうプリンセスに言うのだ。
「だからな」
「それじゃあ」
「俺は道連れは作らない主義だがな」
「一緒にいていい?」
「好きにしな」
 こうプリンセスに告げる。
「わかったな」
「ええ、じゃあ」
「へっ、色々悪いことをしたがな」
 最早脱出も出来ない、爆発もショートも止まらない。
 その中でだ、キングコアはここでは澄んだ声で言った。
「最後はこんなのかよ」
「嫌なの?」
「いや、どうせ俺は死刑だって思ってた」
 犯罪者だ、その覚悟はしていたというのだ。
「それか軍か警察に蜂の巣にされるかな」
「今みたいに」
「それでも穏やかに死ねるなんて思わなかったさ」
 そんなことは想定さえしてなかったというのだ。
「だからな、妙な気持ちだよ」
「そうなの」
「地獄に行くか」
 達観した声だった、今度の声は。
「そうするか」
「ええ、二人で」
 何かがキングコアを包む様に見えた、そして。
 キングコアは爆発の中に消えた、ヴァージニアもまた。
 派手な爆発を起こしてその中に消えた、惑星がそうなった様な大爆発を起こし完全に消え去ったのだった。
 コア達との戦いは終わった、だが。
 東郷はドロシーにだ、すぐにこう言われた。
「データは全てね」
「あらためてだな」
「ええ、消すわ」
 完全にだ、そうするというのだ。
「残してはならないものだから」
「そうだな、コアのデータもヴァージニアのデータも」
「どれもこの世にあってはならないもの」
 開発者のドロシー自体の言葉だ。
「だからもう」
「そうだな、世界にはあってはならないデータもある」
「そう、だから」
 それ故にだというのだ。
「全て今度こそ完全に消し去るわ」
「そうしてくれ、じゃあ今はな」
 東郷はあらためて全軍に告げる、その言葉は。
「ベルリンに入ろう」
「そこでだな」
「ああ、式典だ」
 ドイツに話す、レーティアの総統復帰式典を行うというのだ。
「それでいいな」
「わかった、ではな」
 ドイツも東郷に応える、こうしてだった。
 枢軸国はあらためて予定通りベルリンに入ることになった。それで忙しくなるのが山下であった。
 彼女はすぐにだ、東郷に対して言った。
「では我々はだ」
「陸軍さんはか」
「うむ、事前に降下してだ」
 そのうえでだというのだ。
「警護の用意を進める」
「じゃあそちらは頼むな」
「任せるのだ、しかしだ」
「ああ、思いも寄らない戦争だったな」
「機械の兵か」
 横を見る目になってだ、山下は述べた。
「好きにはなれないな」
「戦うなら生身の人間か」
「最低でもそれは守るべきことかも知れないな」
「確かにな、俺もそんな気がするな」
「人は造り上げてはいけないものもある」
 こうも言う山下だった。
「そのこともわかった気がする」
「そう思うと今の戦いはな」
「ああ、色々と教訓があるな」
「そうした戦いだったな」
 こう話す二人だった、かくして。
 レーティアの復帰式典の準備が勧められる、英雄は自らがいるべき場所に戻ろうとしていた。恐怖の戦いの後で。


TURN129   完


                            2013・8・9



キングコアもどうにか倒す事ができたか。
美姫 「プリンセスがいなかったら、ヴァージニアによる被害が相当出ていたわよね」
だろうな。本当にヒムラーもとんでもない秘密兵器を用意していたもんだ。
美姫 「ともあれ、コアの脅威もこれで去っていよいよレーティアが復帰ね」
もう何事もなく済めば良いがな。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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