『ヘタリア大帝国』
TURN127 アルプス要塞
枢軸軍はいよいよだった、ドクツ軍が立て篭るアルプス要塞に向かおうとしていた。だがこの要塞こそはだった。
「まさに難攻不落です」
「この戦力で攻撃を仕掛けてもか」
「攻略出来るかどうか」
秋山は険しい顔で東郷にこう話した。
「確実とは言えません」
「そうか」
「攻略できる可能性は四十パーセントです」
今の枢軸軍の主力を全て投入してもだというのだ。
「全戦力の殆どを向けると確実ですが」
「損害は馬鹿にならないな」
「ドクツ軍は後方に予備戦力があります」
まだ、だ。それがあるからだというのだ。
「その予備戦力、具体的にはどんなものかまだ不明ですが」
「それが来てだな」
「負けはせずとも」
「戦線は膠着状態になるな」
「そこでエイリス軍が来れば」
ドクツの同盟国である彼等がだというのだ。
「敗れる可能性もあるな」
「はい、そうした意味でもアルプスはです」
「下手に攻められないな」
「正念場かと」
そのアルプス攻略もだというのだ。
「ドクツ軍の新型兵器に精鋭艦隊、堅固な防衛ライン、大怪獣と」
「揃っているしな」
「兵器で気になるものは」
それはというと。
「ドーラ砲と艦載機でしょうか」
「その艦載機だが」
ここでレーティアが言って来た。
「私も設計図は描いていたがな」
「あの円盤だな」
「そうだ、あれはまさに秘密兵器だった」
こう自身の祖国にも話す。
「空母の艦載機としてな」
「しかしよ、あれは切り札でな」
プロイセンもここで話す。
「そうそう多くは開発出来ない筈だろ、数は」
「その通りだ、配備しているとしてもな」
「確認出来たのは数機だ」
「多くて十機です」
諜報部の明石とゾルゲが影の様に出て来て報告する。
「それだけの数しか確認出来ていない」
「おそらくそれ以上はいません」
「そうだろうな」
レーティアも二人の話を聞いてそれで納得した。
「あれだけの兵器の開発はな」
「困難だからな」
「数ある筈はねえよな」
「しかし動けば誰にも止められない」
レーティアはドイツとプロイセンに応える形で言い切った。
「あれはまさに光だ、光の動きは止められない」
「一旦動けばな」
「それであとは攻撃されるだけだよな」
「普通の艦載機では捕捉出来ない」
同じ艦載機でもだというのだ。
「絶対にな」
「第八世代の艦載機でもですね」
「あれはそれどころではない」
切り札と言うだけはあるというのだ、開発者自身が。
「何世代、いや十世代は上の兵器だ」
「逆に言えばどうやったらそんなのが開発出来たんだよ」
フランスはその話を聞いて唖然となってこう言った。
「十世代も先の兵器なんてな」
「私も閃いた、稀にある閃きだった」
人類の歴史においても最高の天才とさえ言われるレーティアでさえ、というのだ。
「その結果だ」
「出来たものかよ」
「そうだ、それだけにだ」
「とんでもねえ兵器なんだな」
「あれはな、そしてドーラ砲だが」
今度はこの兵器の話になる。
「あれもだ」
「移動力はあまりないのよ」
グレシアもここで一同に話した。
「艦の形じゃなくて列車砲、地上にあった兵器みたいな形でね」
「固定砲台と思っていい」
レーティアは一同にわかりやすい様に説明した。
「移動力を犠牲にしてそのうえでだ」
「砲の威力を強くしたのですか」
「そうだ、それだけにだ」
秋山にも応えて話す。
「その一撃は相当なものだ」
「そして防衛ラインですが」
オーストリアも話す、彼はアルプスを自分の領土に持っているだけによく知っているのである。その武衛ラインはというと。
「アルプスはただでさえかなり険しいですが」
「これも私が考えたものだ」
今度もレーティアが出て来る。
「そのアルプスと艦隊の運用を考えて私が設計、開発した兵器を配備させてあるな」
「その通りです」
またゾルゲが出て来て話す。
「ガメリカのUSJやゲイツランドにあった様な防衛兵器が多くあります」
「性能はそれ以上だ」
さらにだというのだ。
「一撃で艦隊を消し飛ばす位のものばかりだ」
「しかも大怪獣もいますよね」
のぞみはレーティアにこのことを問うた。
「そうですよね」
「サラマンダーだな」
「はい、それが」
こう明石に応えて言うのぞみだった。
「アルプスに来ていると」
「あれがまだ生きているなんて思わなかったべさ」
ノルウェーがぽつりと呟く。
「とっくの昔に死んだと思っていただ」
「そう、サラマンダーはあくまで伝説の存在」
ノルウェーの弟のアイスランドも言う。
「いたかどうかもわからなかった」
「氷河の中にいたんだっぺ?」
北欧の国々の中で長男的立場のデンマークもだ、サラマンダーについては存在を疑っていたのである。
だがサラマンダーは実際にいた、それで言うのである。
「流石に信じられないっぺよ」
「んだ、けどいる」
スウェーデンも言う。
「それで俺達の前にいるだ」
「サラマンダーとも戦わないといけないんですね」
フィンランドはこの現実を見据えて言った。
「どうするかですね」
「言うまでもなくその大怪獣も艦隊、防衛兵器、アルプスと共にある」
レーティアもまたこの現実を指摘する。
「ただそこにあるだけではない」
「ニガヨモギはただ使っていただけだったからな」
そのニガヨモギを監督していたコンドラチェンコの言葉だ。
「全く違うか」
「若しニガヨモギを艦隊と一緒に連動させて運用していたら凄いことになったよね」
ロシアもそのことを話す。
「そうだよね」
「はい、あの時にそうしていれば」
コンドラチェンコはロシアには敬語で話した。
「勝てたかも知れませんね」
「あはは、そうだよね」
「そうならなくてよかったです」
日本はその話を聞いてこう呟いた。
「あそこで負けていたなら戦局に影響が出ていました」
「ああ、そうなってたね」
「本当によかったです」
日本はしみじみと話した、それと共に大怪獣の恐ろしさも実感していた。そのニガヨモギにしろエアザウナにしても尋常な相手ではなかったからだ。
そしてそのサラマンダーがだ、今だというのだ。
「あれもあるとなるとな」
「何処から手をつければいいかわからないよね」
イタリアはすっかり弱った顔になっている。
「攻略出来るかな」
「いや、攻略する必要はない」
レーティアは言った、この言葉を。
「前から言っている通りだ」
「レーティアさんが出てなんだ」
「そうだ、私は故国を逃げた」
このことは今も悔恨としてある、だがだというのだ。
「その故国に戻っても彼等が私を受け入れてくれるかどうかわからない」
「大丈夫よ、皆貴女が戻ってくれるなら」
グレシアはそのレーティアの小さな肩に後ろから手を添えて優しい声で言った。
「迎えてくれるわ」
「そうだといいがな」
「心配することはないわ」
レーティアにこうも言うグレシアだった。
「貴女なら皆ね」
「ではか」
「ええ、前に出てね」
そうしてだというのだ。
「皆に宣言して、いいわね」
「わかった、それならだ」
レーティアもグレシアの言葉に頷く、そうして。
枢軸軍はアルプスのすぐ前まで来た、その軍勢はアルプスにおいて陣頭指揮を執るヒムラーも観ていた。彼はその司令部から悠然として言った。
「彼等がどれだけ強くともね」
「あの数ならですね」
「このアルプス要塞は」
「攻略出来ないさ」
絶対にだとだ、ヒムラーは断言した。
「それこそ枢軸軍の全軍でもないとね。いや」
「それでもですね」
「それだけの数でも」
「無理だろうね」
アルプス要塞攻略は、というのだ。
「この要塞だけはね」
「では我々は今から」
「守り」
「うん、勝とう」
ヒムラーは勝利も確信していた、そうしてだった。
枢軸軍が来ても落ち着いていた、これから戦闘が起こると考えていたからこそ。
しかしその枢軸軍から放送が来た、その放送はというと。
「諸君!」
「諸君!?」
ヒムラーはその声に眉をぴくりと動かした。
「今諸君と言ったこの声は」
「あの、総統今の声は」
「まさか」
今司令部の周りにいる表の側近達が一斉に言ってきた。
「私の耳が間違えているのでしょうか」
「確かに」
「いや、そんな筈がない」
ヒムラーも狼狽しだしていた、そのうえでの言葉だ。
「あの娘、いやあの方は確かに」
「そうですね、最早」
「ベルリン陥落の時に」
自害した、その筈なのだ。
「それでどうしてあのお声が」
「聞こえてきたのでしょうか」
「私の声を覚えているか!」
また声が言ってきた。
「この声を!」
「間違い、あの声は」
「あの方のお声だ」
「総統だ!総統のお声だ!」
「レーティア様のお声だ!」
遂にだ、この名前が出て来た。
「レーティア=アドルフ総統だ!」
「あの方が生きておられたんだ!」
「まさか、奇跡だ!」
「こんなことがあるのか!」
「私は生きている!エルミー=デーニッツ提督と日本帝国の東郷毅長官、そして日本殿達にベルリン陥落間際に救出されていたのだ!」
「何と!」
レーティアのこの言葉にだ、ドクツ軍は騒然となった。
「そうだったのか!」
「そして今まで枢軸軍におられたのか!」
「そういえば枢軸軍の艦艇の質が急によくなったが」
「国力の伸張も格段に上がった」
「全ては総統のお力だったのか!」
「あの方がおられたからこそ!」
「私は戻って来た!見るのだ!」
銀河に映像が映し出された、そこに。
あの黒い軍服と帽子のレーティアが立っている、その左右にはグレシア、そしてエルミーがいる。
マンシュタインとロンメルもだ、しかも。
「おお、祖国殿!」
「プロイセン殿もおられる!」
「オーストリア殿にハンガリー殿の兄上も!」
「皆おられるぞ!」
「皆、聞いてくれ」
ドイツもだ、彼の国民達に言う。
「俺達はレーティア=アドルフ総統と共に枢軸軍にいた」
「総統さんを助けてもらった、だからな」
そしてプロイセンもまた。
「総統さんを助ける為に一緒にいたんだよ」
「妹達を祖国に残した上でな」
「はい、そうです」
「兄貴達の言う通りだよ」
ドイツ妹とプロイセン妹もここでドクツ軍の将兵達に言う。
「私達はお兄様達が戻って来られるまで留守番をしていました」
「これまで兄貴達が病気だって言って出てこなかったのはいなかったからなんだよ」
「総統と共におられたから」
「だからでしたか」
「それで今こうしてドクツに戻って来られたのですか」
「そうでしたか」
ドクツ軍の将兵達も納得した、今起こっていることに。
そしてだ、さらにだった。
レーティアはその姿を銀河に映し出しそのうえで言った。
「諸君!ドクツは枢軸か連合か!」
「そ、それは」
「そのことは」
「私は降伏していない!そして我々を虐げていたエイリスとオフランスのことを忘れてはいない!今もだ!」
「では、ですか」
「我々は」
「そうだ、ドクツは連合ではなく枢軸だ!」
今彼女がいる方だというのだ。
「そうあるべきなのだ!」
「ではですね!」
「今から総統は!」
「ここに宣言する!私は諸君等が望むのなら」
この前置きからだ、レーティアは彼女が愛する国民達に言った。
「もう一度ドクツ第三帝国の総統に戻り」
「そして枢軸に戻りですね」
「この身内同士の戦いを」
「我々は一つだ、身内で戦うものではない」
こうトリエステとベートーベンに話す、彼等も共にいるのだ。
「だからだ、諸君!私はこのアルプスそしてドクツと枢軸諸国との戦いが終わることをここに宣言する!」
「そしてですね!」
「我々は!」
「枢軸の一国としてエイリスと戦う」
ドクツの宿敵であるその国とだというのだ。
「わかっただろうか!さあ諸君は私を選んでくれるかどうかだ!」
「ジークハイル!」
「ハイルアドルフ!」
返答はなかった、その代わりに。
ドクツの将兵達から一斉にこの声があがった、そしてだった。
それは全軍に一瞬にして拡がった、皆直立不動で右手を掲げてこの言葉を叫んでいく。
ヒムラーが直率親衛隊員達もだ、彼等が護るべきレーティアだからこそ。
尋常でない声で叫ぶ、それは司令部もだった。
「総統万歳!」
「総統が生きておられた!」
「そしてドクツに戻ってこられる!」
「何と素晴らしいことだ!」
「ヒムラー、今まで申し訳なかった」
レーティアは司令部にいるヒムラーにも言った。
「私のいない間よくドクツを守ってくれた」
「は、はい」
ヒムラーは最早愕然として言葉がなくなっていた、呆然自失となっている。
だがそれでもだ、何とかレーティアに応えたのである。
「総統が生きておられて何よりです」
「では私は今からベルリンに戻る」
「そうしてですね」
「御前は副総統だ、これまで通り頼む」
レーティアはヒムラーの素顔を知らない、それで信頼する部下として言ったのである。
「ではな」
「わかりました、では」
ヒムラーは蒼白になりながらも何とか応えていく、そしてだった。
レーティアにだ、こう言った。
「ベルリンにある軍を武装解除してきます」
「そうしてくれるか」
「どうぞアルプスにお入り下さい」
アルプスは明け渡す、それしかないことはすぐにわかった。ヒムラーの政治的直感は今も健在だったのだ。
「是非共」
「うむ、ではな」
「それでは私は」
そそくさとした感じでだ、ヒムラーは言う。
「先にベルリンに向かいますので」
「武装解除だな」
「ではベルリンで」
「また会おう」
このやり取りはごく普通のものだった、ヒムラーは司令部を後にした。その彼に表の側近達が満面の笑顔で言ってくる。
「副総統、よかったですね」
「総統が戻ってこられます」
「副総統の今までの苦労も報われますね」
「ドクツを守ってきたことが」
「うん、そうだね」
何とか表の顔を保ってだ、ヒムラーも応える。
「それじゃあね」
「はい、それではですね」
「ベルリンに行かれますね」
「君達は総統をお迎えするんだ」
こう彼等に告げるのだった。
「いいね」
「はい、わかりました」
「それでは」
「うん、それじゃあね」
ヒムラーは彼等に応対してそうしてだった、そのうえで。
司令部をすぐに去る、ベルリンに向かう船の中で裏の部下達に言う。その顔は信じられないといったものだった。
「一体どういうことなんだ?」
「はい、我々もです」
「この事態は想定していませんでした」
「まさかレーティア=アドルフ総統が生きているとは」
「想像もしていませんでした」
「俺もだ、生きているなんて」
今も信じられないという顔のヒムラーだった、船の中でもそうである。
「こんなことは」
「法皇、それでどうされますか」
「この状況は」
「もうドクツは完全にあの娘のものに戻りました」
「一体どうすればいいのでしょうか」
「これからは」
「いや、諦めないさ」
ヒムラーは歯噛みしながらもだ、こう言うのだった。
「ここまできたんだからね」
「では、ですね」
「ベルリンに戻ると」
「サラマンダーはあるよな」
「はい、移動させています」
「ベルリンに」
レーティアが戻って来た混乱の中でだ、これだけはそうしたのだ。
「今こちらに戻って来ています」
「そうしていますので」
「そうか、それとあの機械の軍勢とサラマンダーと」
そしてだった。
「ヴァージニアだったね」
「あれも使ってですね」
「何としても」
「戦ってそして勝つ」
絶対にだというのだ、ヒムラーもここで退く訳にはいかなかった。
それでだ、裏の側近である彼等に言うのだ。
「ドーラ様の為にも」
「わかりました、それでは」
「ドーラ教団も」
「軍を出すよ」
そして戦うというのだ。
「折角ここまできたんだからね」
「はい、それでは」
「今より」
こうしてだった、ヒムラーは本性を出しそのうえでベルリンに戻るのだった。しかしその本性は限られた者しか見ていなかった。
レーティアが入ったアルプスはまさにお祭り騒ぎだった、ドクツ軍の将兵達は満面の笑顔でレーティア達を迎えていた。
その中でだ、こう言うのだ。
「総統、よくぞ戻って下さいました!」
「生きておられて何よりです!」
「まさかこうして再びお会い出来るとは」
「夢にも思いませんでした」
「済まない、私は諸君等を永遠の繁栄に導くつもりだった」
だがレーティアは迎える彼等に苦い顔で言うのだった。
「しかし肝心な時に倒れてしまい」
「独ソ戦ですか」
「その時ですか」
「そうだ、君達を敗北に追いやってしまった」
全ては自分の責任だというのだ。
「まことに申し訳ない」
「いえ、総統それは違います」
提督の一人がここでレーティアに言う。
「全ては我々が至らないからです」
「そうです、我々があまりに総統に頼り過ぎていました」
「全てはその我々の責です」
「ですからこれからは」
「及ばずながら我々も」
こう言うのだった、そして。
グレシアもだ、レーティアに笑顔で言うのだった。
「わかったわね、それじゃあね」
「これからもか」
「ドクツの為にね」
彼女が何よりも愛するその国以上にだというのだ。
「頑張ってね」
「彼等が私を支持してくれているなら」
「支持しない筈がないじゃない、貴女は全てを賭けてドクツの為に働いてきているのよ」
それ故にだというのだ。
「類稀なるその才能でね」
「だからか」
「そうよ、貴女だからね」
まさにだ、レーティアだからこそだというのだ。
「皆支持するわ」
「ならばか」
「これからも頑張ってね」
微笑みそのうえでレーティアに告げた。
「ドクツの為に」
「うむ、わかった」
レーティアはグレシアの言葉に確かな顔で頷いた、そうして。
周りを囲むドクツの将兵達に対して高らかに告げた、その言葉は。
「諸君、ではだ!」
「はい、今よりドクツ第三帝国復活ですね!」
「これより!」
「そうだ、しかしだ」
「しかし?」
「しかしとは」
「もうドクツは世界征服を狙わない」
このこともまただ、レーティアは言うのだ。
「決してな」
「えっ、世界を統一されないのですか?」
「総統の下に」
「それをされないのですか」
「何故ですか、それは」
「世界には様々な国があり文明、文化、民族がある」
レーティアは澄み渡った声で驚く彼等に告げた。
「そしてその全てを一つにすることは出来ない」
「総統でもですか」
「そのことは無理ですか」
「いや、私に不可能はない」
レーティアならば世界を一つにし治められる、その自信はある。
だが、だ。それはだというのだ。
「しかし私の後に治められ続ける者はいない」
「だからですか」
「それはですか」
「既に太平洋ではそれぞれの国に分れ一つの経済圏を構成している」
巨大なそれをだというのだ。
「そのことも見ているとだ」
「世界を一つにすることよりも」
「各国に分かれてですか」
「そのうえで経済圏を築くべきだ」
それがいいというのだ。
「私はそう考えている、だからだ」
「?うち等かいな」
「何か用か?」
ベルギーとオランダがここでレーティアの視線に気付いた、そのうえでの言葉だ。彼等ドクツが占領した国々は独立して連合諸国に入っていたがその立場は実質的にドクツの属国の様なものであったのだ。
その彼等にだ、レーティアはこう言ったのだ。
「全ての国が平等であった方がいい」
「ほなうち等は同じかいな」
「同じ立場か」
「そうだ、これからはな」
これがレーティアの今の考えだった。
「そうあるべきだ」
「信じられない」
ギリシアがぽつりと言った。
「属国じゃなくて同盟国か」
「これからはな」
「そしてそれぞれの国でやっていくのか」
「その通りだ」
「本当に信じられない」
ギリシアの言葉はいつも通りのんびりとしたものだがそれでも確かな声で話す。
「そんなことになるなんて」
「そうだろうな、これまでのことを考えるとな」
「俺は総統は嫌いじゃない」
また言うギリシアだった。
「だから総統の下で一緒にいてもよかった」
「そうだったのか」
「けれど独立出来るのなら」
それなら、というのだ。
「俺はそれでやっていきたい」
「欧州は一つの経済圏であるべきだ」
これからの欧州のこともだ、レーティアは語った。
「それが私が至った結論だ」
「欧州経済圏ですね」
今度はブルガリアが言って来た。
「そうですね」
「そうだ、この戦争の後でそれを築きだ」
そしてだというのだ。
「我々は生きるべきだ」
「そこには俺も入るんだよな」
「俺もやな」
「無論だ」
レーティアはフランスやスペインにも答えた。
「欧州、西欧も東欧も入れたな」
「全ての国がかよ」
「一つの経済圏に入るんかいな」
「エイリスもだ」
今も戦っているその国もだというのだ。
「欧州経済圏に入る」
「おいおい、でかいのぶちあげてるな」
フランスはそう聞いて思わず言った、エイリスと聞いて条件反射的に反発を覚えたがそれでも言ったのである。
「欧州全体かよ」
「その通りだ」
「俺達もだっぺな」
デンマークもレーティアに問う。
「北欧も入るっぺな」
「当然だ、北欧連合もだ」
やはり欧州経済圏に入るというのだ。
「そうあるべきだ」
「凄いっぺな、それはまた」
「しかしそれでも太平洋と比べるとだ」
彼等の経済圏と比較すればだというのだ、壮大と言われている欧州経済圏にしても。
「小さなものだ」
「それはそうずらな」
ルーマニアも言う、欧州と太平洋では人口も経済規模もお話にならないまでに違うからだ。太平洋が圧倒的だ。
「向こうは大きいずら」
「しかしそれでもだ」
「欧州もまた経済圏を築くべきですか」
「ブロック経済でなくな」
ハンガリーにこの言葉を言う、ブロック経済は世界恐慌の時エイリスやオフランスが設けそれで自国の経済圏だけで守ったものだ、しかしそれは自分達を守るだけで他国を排除したものだった。
その排除された国の中にはドクツもあった、それが為に第一次大戦とその賠償金で致命的なダメージを受けていたドクツはまさに死ぬところだったのだ。
そこにレーティアが現れなければどうなっていたか、それで言うのだ。
「あれは忌々しいものだからな」
「では開かれた経済圏ですね」
「その通りだ、それを考えている」
「欧州全体を入れた」
「それが私が考えているものだ」
ハンガリーにもこう話す。
「欧州においてな」
「では最早軍もですか」
「動かされることはないのですか」
「そうだ、もう他国を手中に収めることはしない」
決してだというのだ、それは。
「ドクツはドクツでやっていく」
「欧州の中において、ですね」
「そうしていく。ではいいな」
エルミーにも話す、これがレーティアが至った考えである。
このことを話してだ、そうしてだった。
レーティアはまたしても高々にだ、こう周囲に宣言した。
「ではベルリンに戻ろう」
「はい、総統官邸に」
「総統がおられるべき場所に」
「そこで正式に総統復帰を宣言する」
まさにその時にだというのだ。
「そうするとしよう」
「はい、それでは」
「我々も共に」
将兵達も応える、レーティアは欧州に新たな秩序も宣言したのだった。そのうえでベルリンに戻るというのである。
それは東郷達も見ていた、東郷はそのうえでこう日本に言うのだった。
「戦争の後だが」
「はい、欧州はですね」
「総統さんを軸として、各国は対等だが」
「ドクツを中心とした巨大な経済圏となりますね」
「ああ、そうなる」
「そして太平洋経済圏とですね」
即ち彼等とだというのだ。
「競うことになりますね」
「そうなる、間違いなくな」
「世界は二分されますか」
「そう思っていい、世界の新秩序だ」
「太平洋と欧州ですか」
「しかしそこにあるものは対立よりも競走だ」
この二つは違う、東郷はこのこともわかっていてそのうえで日本に対して話すのである。
「お互いにな」
「平和を前提としてですね」
「そうなる、とはいってもソビエトもいればな」
「アラブやアフリカもありますね」
「完全に二つじゃない」
その辺りの細かいところはまた別だというのだ。
「それでもだ」
「世界はその秩序の下に動くか」
「そうなっていく、とはいっても太平洋も中では色々とあるだろう」
日本が盟主的立場だがガメリカや中帝国も強い、しかもその他の国々もそれぞれ発言力があり国力もあるのだ。
だからだ、東郷もこう話すのだ。
「中をまとめそのうえでやっていかないといけないからな」
「戦争にはならなくとも大変なことは変わりませんね」
「そうなる、そのことはわかっていてくれ」
「わかりました」
日本は東郷ノ言葉に確かな顔で頷いた、そのことはわかるというのだ。
そのうえで戦後のことも考えていた、そうして。
今彼等はベルリンを目指そうとしていた。アルプスからそこに至ろうとしていた。だが。
ここでだ、不意にだった。
秋山と日本妹が来てだ、二人にこう言ってきた。
「あの、サラマンダーですが」
「ベルリンに移動させられています」
「あの大怪獣が?」
「またそれはどうして」
「はい、どうやらヒムラー副総統がです」
「移動させられています」
二人はこう話した。
「どういうお考えかわかりませんが」
「そうされています」
「もう軍事の指揮権は総統さんにあるがな」
ドクツ総統、即ち国家元首である彼女にだ。国家元首が軍の最高司令官であることは常識のことである。
「当然サラマンダーもな」
「ベルリンにある予備兵力と一緒にでしょうか」
日本妹はヒムラーの言っていたことから東郷に話した。
「総統にお返しする為に」
「そうだろうか、まさかな」
「まさかとは?」
「クーデターは、ないか」
東郷はいぶかしむ顔でこの可能性を指摘した。
「それは」
「クーデターですか」
「そうだ、総統さんに対するな」
「それはないのでは?」
いぶかしむ顔でだ、こう答えた日本妹だった。
「予備戦力といいましてもアンドロイドの様なものらしいが」
「ドクツ正規軍とは戦力的に比較にならないか」
「そう思います、とても」
「あの副総統さんはかなりの曲者っぽいがな」
東郷は直感的にヒムラーの怪しさを察していた、だがその彼にしても流石にヒムラーの素顔のことまでは気付かない。
それでだ、こう言うのだった。
「権力への野心はあってもな」
「常人がレーティア総統にとって代わることは無理ですね」
「そんなことは誰でもわかることだ」
レーティアを見ただけでだというのだ。
「とても無理だ」
「ではやはり」
「そうだろうな、確かにサラマンダーは危険だがな」
それを使うとはとても思えないというのだ。
「特に気にしなくていいだろう」
「そうですか」
「ああ、俺達もベルリンに向かおう」
特に不安に思うことなくだ、ヒムラーは話した。
「それじゃあな」
「はい、わかりました」
今度は秋山が応える、そうしてだった。
枢軸軍の主力はドクツ軍そして欧州各国軍と共にベルリンに向かうことになった。そこでレーティアの正式な総統復帰の式典に参加する為にだ。
彼等は意気揚々としてベルリンに向かっていた、だがそのベルリンでは。
慌てふためいて戻ったヒムラーが彼の真の部下達にだ、こう命じていた。
「いいか、すぐにだ」
「はい、あの者達を動かしてですね」
「そうしてですね」
「それにサラマンダーとな」
この大怪獣にだというのだ。
「ヴァージニアも使うぞ」
「そうしてですね」
「枢軸軍をですね」
「ここで諦めてどうするんだ」
ヒムラーも必死だ、それは彼が今まで見せたことのない顔だ。
そしてその顔でだ、腹心達に言うのだ、
「これからだからな」
「そうですね、それは」
「まだ我々には切り札があります」
腹心達も応える、彼等は明らかにドクツの人間として動いてはいなかった。
他の勢力に属している顔でだ、こう言うのだ。
「では彼等を動かし」
「そのうえで」
「そうだよ、ドーラ様の為にね」
彼等が崇拝するその相手の為にだというのだ。
「諦めずに」
「はい、それでは」
「何としても」
彼等も応えそうしてだった、ベルリンで何かをしようとしていた。
そのことは誰も知らない、それは明石やゾルゲでさえもだ。彼等もまたベルリンについてはそのことは知らなかった。
実際にゾルゲはベルリンに向かう途中においてカテーリンとロシアにこう報告していた。
「ベルリンには不穏な動きはありません」
「それじゃあ普通に行ってもなのね」
「問題ないんだね」
「はい、ご安心下さい」
こう確かな声で報告するのである。
「念の為警護は私が務めます」
「大佐、お願いします」
カテーリンもゾルゲの報告に安心して応える。
「それでは」
「はい、お任せ下さい」
「じゃあ今からです」
「うん、給食だね」
ロシアがカテーリンに応える。
「それだよね」
「一緒に食べよう」
ゾルゲに対しても言う。
「今日は揚げパンにボルシチだしね」
「お野菜もお肉もたっぷり入ったね」
「そう、皆で食べよう」
また言うカテーリンだった。
「そうしようね」
「有り難きお言葉、それでは」
「そんな畏まらなくていいから」
カテーリンはゾルゲにこうも告げた。
「だって私達は同志じゃない」
「だからですね」
「そう、一緒なのよ」
平等だというのだ。
「そんなに畏まらなくていいのよ」
「わかりました、それでは」
こうした話をしてそしてだった、彼等は一緒に給食を食べることになった。今は昼の給食である、そのボルシチや揚げパン、他の料理も食べながらだ。
カテーリンはゾルゲにだ、こう言うのだった。
「それで欧州経済圏だけれど」
「そのことですね」
「ソビエトはどうすべきだと思うの?」
ゾルゲにボルシチのスープを飲みながら尋ねる。
「大佐は」
「私は欧州に加わるよりは」
「ソビエトはソビエトのままでいるべきなの?」
「はい、そう思います」
そうあるべきだというのだ、ゾルゲは。
「経済圏も違いますし」
「そのこともあってなの」
「ただ。ドクツやイタリンは」
この二国についてだ、ゾルゲはこう話した。
「経済システムは我々のものとほぼ同じです」
「ファンシズムね」
「ファンシズムとは一国社会主義に他なりません」
「共有主義よね」
「はい、まさに」
それになるとだ、ゾルゲは話すのである。
「ですから欧州も資産主義ばかりとは言えません」
「そこが太平洋と違うわね」
「資産主義と共有主義はやなり全く違います」
全くだ、そこが違うというのである。
「ですからドクツやイタリンがあっても共有主義の我々が欧州経済圏に入ることには無理があるでしょう」
「そして太平洋にもなのね」
「そう思います、ですからソビエトは」
「ソビエトでやっていくべきなのね」
「そう思います、第三勢力ですね」
そうなるというのだ、ソビエトは。
「それはそれで戦略があります」
「バランサーだね」
ここでこう言ったのはロシアだった。
「つまりは」
「そうです、バランサーです」
まさにそれだというのだ、ゾルゲはロシアにもこう話した。
「ソビエトはそうあるべきです」
「何か凄い違和感があるけれど」
ロシアは首を傾げつつゾルゲに応えた。
「それもいいかな」
「そうです、ですから」
「うん、そうだね」
こう話してそしてだった、彼等はこれからのことを考えていた。そうしてだった。
彼等も彼等の戦略を考えていた。それは第三勢力であった。
昼の給食の後でだ、カテーリンの知恵袋であるゲーペもこうカテーリンに話していた。
「やはりソビエトは太平洋にも欧州にも加わらずに」
「第三勢力としてなの」
「はい、そのうえで動いていくべきです」
こう話すのである。
「絶対に」
「そうなのね、じゃあ」
「ソビエトは共有主義です」
ゲーペもまたこのことを話すのだった。
「資産主義の中に入ることは難しいですし、それに」
「それになの」
「資産主義だけが思想ではないですし」
「共有主義もあっていいわよね」
「そうです、我々の政策はかなり穏やかにもなっています」
枢軸諸国との戦争を経てソビエト、カテーリンも学んだのだ。自分達がかなり意固地になっていたことにだ。
それで政策もかなり緩和した、しかし共有主義は守っているというのだ。
「しかし一国そうした国があってもいいですから」
「そううよね、私もそう思うから」
「このままいきましょう」
是非にだと話してだ、そしてだった。
ソビエトは第三勢力として生きることにした、戦後はそうするつもりだった。
しかしそれは全て戦争が終わってからだ、しかし彼等は戦争はもうエイリスとだけしかもエイリス本土だけで行われると考えていた。
実際にだ、宇垣も山下にこう話していた。
「さて、ベルリンの後はだ」
「オフランスに入りですね」
「あの国とは外交交渉で充分だろう」
楽観と言えば楽観だ、彼も戦いはすぐに終わると思っていた。
「そしてエイリスもだ」
「ロンドンを攻略すれば」
「後は講話だ」
それで全てが終わるというのだ。
「この長い戦争もこれで終わりだ」
「そうですね、長い戦争でしたが」
山下も感慨を込めて言う。
「ようやく」
「長官にも苦労をかけたな」
「いえ、そのことはお気になさらず」
公のことだ、だからだというのだ。
「その様に」
「そう言ってくれるか」
「ベルリンでは陸軍は動く必要はありませんね」
「レーティア=アドルフ総統や他の要人達の警護に就いてもらうがな」
占領作戦はないというのだ。
「今回はない」
「わかりました、では警護を」
「式典には長官にも出てもらう」
日本帝国陸軍長官である彼女にもだというのだ。
「頼むぞ」
「では礼装の用意も」
「わしも出る」
これは当然だった、日本帝国外相である彼もまた。
「そして帝もな」
「来られますね」
「かなりの式典になる、だがだ」
「警護はお任せ下さい」
この話も整いそうしてだった、戦争以外のことも考えられていき進められていく、戦争も政治の中であるが故に。
TURN127 完
2013・8・5
難攻不落のアルプス要塞かと思いきや。
美姫 「当然というか何と言うか、レーティアの一声であっさりと武装解除ね」
それだけ彼女の貢献は大きく、国民もまた彼女を望んでいるという表れだろうな。
美姫 「ヒムラーにとっては予想外も良い所だったでしょうけれどね」
だな。でも、それで諦めない所は凄いがな。
美姫 「ベルリンで何か画策しているみたいね」
上手く事を運べるかどうか。
美姫 「一体どうなるのかしらね」
次回が楽しみです。
美姫 「次回も待ってますね〜」
待ってます。