『ヘタリア大帝国』




                  TURN126  グスタフライン

 シチリア、ナポリを無血で占領した枢軸軍は次はいよいよイタリンの首都ローマに向かっていた、そのローマにおいて。
 イタリン軍は相変わらずだ、呑気なままだ。
 今もシェスタをしている、わざわざベッドに入って寝ている。
 その彼等を見てもドクツ軍は何も言わない、彼等は彼等で動いていた。
「枢軸軍が来たならだな」
「うむ、そうだ」
「その時こそだ」
「決戦だ」
 こう話す、彼等だった。そしてドイツ妹とプロイセン妹もだった。
 二人は今は真剣な顔で司令室にいた、その中で机を向かい合って話すことはというと。
「なあ、あたし思うんだけれどな」
「あのことね」
「ああ、兄貴達も来るからな」
「オーストリアさんとハンガリーのお兄さんもね」
「だろ?つまりはな」
「総統閣下も来られるわね」
 レーティア=アドルフのことだ。二人にとって総統とは今も彼女なのだ。
「間違いなく」
「ああ、おられるみたいだよ」
 プロイセン妹は鋭い目で手振りを交えつつ相棒に話した。
「あの方もね」
「そしてグレシア宣伝相達も」
「皆いるよ」
 ドクツの誇った名将達がだというのだ。
「その皆が来るんだよ」
「そうなのね」
「なあ、あんた兄貴達と戦えるかい?」
 その鋭い目で自分の相棒に問う。
「総統さん達とな」
「それは」
 そう言われるとだった、ドイツ妹もだった。
 難しい顔になる、それでこう言うのだった。
「難しいわね」
「そうだね、とてもだね」
「兄さん達が帰って来るのを待っていたから」
「そうだろ?あの時からね」
 レーティアがベルリンを脱出した時からだ、二人はこの時を待って頑張ってきたのだ。その彼等が戻って来るならばなのだ。
「あたし達は待っていたからね」
「ええ、だからなのね」
「どうするんだい、それで」
 プロイセン妹は再び自身の相棒に問うた。
「あんたは」
「今は戦うしかないかしらね」
 ドイツ妹も真剣な目でプロイセン妹に答えた。
「今はね」
「今はだね」
「ええ、イタリンにいる間は」
 まだドクツでの戦いになっていない、それではまだ何かをするには時期尚早だというのだ。
 それでだ、ドイツ妹はこうプロイセン妹に言うのだった。
「戦いましょう」
「それしかないんだね」
「ええ、なら相棒はどう思ってるの?」
 ドイツ妹はプロイセン妹を相棒と呼んだうえで問い返した。
「このローマでの戦いについては」
「あたしも相棒と同じ考えだよ」
 これがプロイセン妹の返答だった、彼女もこう話すのだった。
「今はやるしかないね」
「アルプスの時ね」
「あそこだね」
「ええ、あの場所での決戦の時に」
 まさにその時にだというのだ。
「総統閣下も動かれると思うから」
「そうなるね、じゃあ今はね」
「ええ、このまま戦いましょう」
 そうしようというのだ。
「じゃあいいわね」
「本当は戦いたくないんだけれどね」
 このことも言うドイツ妹だった。
「それでも仕方ないね」
「そうよ、じゃあいいわね」
「戦うよ、今は」
「そうしましょう」
 二人は今は戦うことを決意した、そしてであった。
 二人は今は親しい者達と戦うことを選ぶしかなかった、グスタフラインのドクツ軍は緊張の中にあった、イタリン軍とは違い。
 イタリン軍は今も寝ている、後方から動こうともしない。しかし補給物資だけはドイツ軍に無償で提供していた。それでドクツ軍の物資は豊富にあった。
 特にワインと食料は豊富だった、その中からパスタを作りワインのコルクを開ける。そのうえで飲み食いをすると。
「美味いな」
「そうだな」
「イタリン軍はいつもこんなものを食ってるのか」
「デザートまであるぞ」
 ジェラートもあった、しかも質量共に見事だ。
「ううむ、毎食好きなだけ食べてか」
「そして戦えというのか」
「イタリン軍、凄いな」
「羨ましい限りだ」
「全くだ」
 驚く他なかった、ドクツ軍からしてみればだ。彼等は常に粗食だからだ。
「パンにしても柔らかいぞ」
「しかもこの白さと甘さは何だ」
 ドクツ軍は固い黒パンである。
「肉料理も豊富だな」
「ソーセージやベーコンだけじゃないのか」
 ドクツでは軍でなくともこういったものばかり食べる。
「ジャガイモが少ないことは残念だが」
「しかし凄い料理の種類と数だ」
「イタリン軍は補給はしっかりしていることは知っていたがな」
「これは確かに凄い」
「料理はいい」
「最高だ」
 とにかくイタリン軍の美食に驚嘆しながら舌鼓を打っていた。彼等はイタリンにいられることに幸運さえ感じていた。
 しかし戦争は続いている、枢軸軍はそのグスタフラインまであと一歩の距離にまで来ていた。
 そしてその防衛ラインを見てだ、東郷はモニターの日本妹に言った。
「堅固な陣だな」
「そうですね、宙形を利用して上下左右にまんべんなくですから」
「堅固だ」
 こう日本妹に話す。
「対潜対空設備も整っている」
「突破は難しいですね」
「普通にやればな」
「といいますと」
「これまでもそうだったがどれだけ堅固な防衛ラインでもだ」
「突破出来ないものはないですね」
「そんなものは有り得ない」
 何をどうしても絶対に陥落しない要塞も突破出来ない防衛ラインも存在しないというのだ。東郷はこのことを熟知しているのだ。
「「だからだ」
「今もですね」
「そうだ、グスタフラインも突破する」
 そうしてみせるというのだ。
「絶対にな」
「ではどうされますか?」
「ここはだ」
 東郷は言う。
「一点集中がいつもだが」
「変えますか」
「後方に回ろう」
「後方に、ですか」
「そうだ、敵のな」
 東郷は何でもないという顔で日本妹に述べる。
「そうする」
「ではここはどうされるのですか?」
「おや、問い返さないのか」
「いつもですから」
 もう日本妹も東郷のことがわかっている、それで彼の作戦についての話にも驚くことなくこう返したのである。
「長官の作戦は」
「そうだな、それではな」
「はい、お聞かせ下さい」
「グスタフラインの後方に回り込むにはだ」
 日本妹にメールで宙図を送りながら話す。
「普通にやっては無理だな」
「はい、とても」
「しかしやり方はある」
「といいますと」
「ここだ」
 グスタフラインの西側だった、そこはアステロイド帯、小惑星だけでなく宇宙潮流等もある場所だ。
「ここだ」
「あっ、そこなんだ」
 イタリアがそのポイントを見て声をあげた。
「そこから行くんだ」
「イタリアさんは気付いたみたいだな」
「そこ凄い難所なんだよ」
 そこを進むには、というのだ。
「大きな船じゃとても行けないからね」
「だから船は通らないな」
「うん、大きな船はね」
 そうしないというのだ。
「普通は無理だから」
「そう、普通はだ」
 東郷は思わせぶりな口調で話していく。
「ここは突破出来ない」
「しかしですね」
「普通ならだ」
 今度は日本妹に言う。
「それは出来ない」
「じゃあ普通じゃない方法でいくんだね」
「このアステロイド帯を一斉射撃で小惑星や難破船の残骸を潰してだ」
 ただのアステロイド帯ではなかった、その辺りには古今の多くの難破船も漂っているのだ。それも障害になっているのだ。
「そこを開けてだ」
「それでだね」
「そこから軍を向ける」
 そうするというのだ。
「それで行こう」
「地雷原撤去の時と同じなんだね」
 ロシアがここでこう東郷に言って来た。
「そうなんだね」
「その通り、それを応用してみる」
「成程ね、けれど穴を開けてもね」
 それでもだとだ、ここでイタリアが言う。
「穴はすぐに閉じるよ」
「他の小惑星等が来てだな」
「宇宙潮流があるからね」
 それに流されて集まって来るというのだ。
「そうなるよ」
「そうだな、しかし軍が通るまではだ」
「あっ、間が開いているね」
「その間に通り抜ける」
「成程、それでグスタフラインを後方から攻めるんだ」
「少なくとも軍は向ける」
 そうすることは間違いないというのだ。
「そうしよう」
「はい、それでは」
「すぐにそちらにも軍を向けてね」
「防衛ラインの後方に回ろうね」
 日本妹にイタリア、そしてロシアが応える。そうしてだった。
 すぐに枢軸軍の一部隊がそのポイントに向かい一斉射撃を浴びせる、それで道を開き。
 そこから防衛ラインの後方に向かう為にその道に入る、それを見てだった。
 ドクツ軍は冷静だった、彼等はこう言うだけだった。
「そちらにも兵を向けるか」
「そうだな、惑星ローマを狙っている様だが」
 枢軸軍のその動きを見ての考えである。
「ローマにも防衛体制は敷いている」
「そこに艦隊を送り守らせよう」
「それで済む話だ」
 こう判断して彼等は実際にローマに艦隊を送り守りを固めた、ドクツ軍は動揺していなかった。
 しかしイタリン軍は違っていた、枢軸軍がローマに来るのを見てだった。
 忽ちのうちに狼狽してだ、こう言い出したのである。
「な、何だブーーー!」
「枢軸軍が来るブーーー!」
「グスタフラインは万全じゃなかったブーーー!」
「大変だブーーー!」
 いきなり騒ぎだしたのだ、その枢軸軍を見て。
 それで降伏や脱走を言い出す者まで出る、彼等は混乱状態に陥った。
 後方が動揺しそれが前方にも伝わる、ドクツ軍はイタリン軍の混乱を見て顔を曇らせた。
「まずいな」
「ああ、補給に支障が出るぞ」
「ここはどうにかしないと」
「イタリン軍を落ち着かせないとな」 
 そのことにも気を取られてだった、イタリン軍を安堵させる為の人材も派遣されることになった、こうしてドクツ軍はその手を広めることになった。
 結果としてそれがグスタフライン全体の弱体化にもなった、しかし。
 東郷はもうそのラインには兵を向けていなかった、軍を一気にアステロイド帯に開けた道からローマ方面に向かわせる。
 そのうえでだ、こう言うのだった。
「別に防衛ラインは突破する必要はないさ」
「こうしてですね」
「そう、迂回出来るならすればいい」
 日本妹に述べる、その道を通過しながら。
「特に攻めるつもりもなく篭るだけならな」
「こうしてですね」
「まあアルプスはそうはいかないだろうがな」
 既に次のことも考えている彼だった。
「あそこはな」
「そうですね、あのラインは」
「しかしだ」
 このグスタフラインは、というのだ。
「それが出来るからな」
「今の様にですね」
「その通りだ、これには誰も気付かなかった様だがな」
「俺もだよ」
 ローマにずっといるイタリアもだった、このことには。
「まさかこんなやり方があるなんてね」
「アステロイド帯は迂回するだけが方法じゃない」
「一斉射撃による突破もだね」
「地雷原と同じだ」
 ロシアが気付いた通りだった、このことは。
「今回はそれが可能な程度だったからな」
「こうしたんだね」
「そういうことだ、それならだ」
「うん、一気にローマに進んで」
「そこから出てこちらに来るドクツ軍と戦う」
 防衛ラインに篭る彼等とはそうせずに、というのだ。
「そうしよう」
「わかったよ、それじゃあね」
「よし、それではだ」
 東郷はあらためて全軍に告げた。
「全軍ローマに行こう」
「了解です」
「それでは」
 皆応える、こうしてだった。
 全軍で惑星ローマの前に来た、ドクツ軍もグスタフラインが無視されたのを察してすぐにそちらに全軍を向けた。そうしてであった。
 両軍は正面から激突した、その時に。
 枢軸軍は全力攻撃を浴びせた、その攻撃力でだった。
 数でかなり劣るドクツ軍を退けんとする、だが。 
 ドイツ妹はすぐにだった、その艦載機での攻撃を見て。
「全軍散開」
「了解」
「わかりました」
 将兵達もすぐに応える、そうしてだった。
 ドクツ軍は散開し対空攻撃を行い艦載機に対する、彼等は艦載機を持っていないがそれでもそれで対したのだった。
 だが枢軸軍の攻撃も終わらない、次はビームだった。
 しかしそれもドクツ軍は散陣で対する、そして彼等の攻撃の番になると。
 即座に集結し攻撃して来る、まるで生き物の様に素早く的確な動きだった。ドイツはその動きを見て言った。
「あいつだな」
「ああ、そうだな」
 プロイセンがドイツのその言葉に応えた。
「御前の妹だな」
「そっちの妹もいるな」
「そうだな、二人で指揮してるな」 
 このことを見抜いたのだ、軍の動きから。
「相変わらずいい指揮だぜ」
「全くだ、腕は鈍っていないな」
「流石は俺達の妹だな」
 プロイセンは笑ってこうも言った。
「いい動きしてくれるぜ」
「全くだ」
「艦艇はどれも第七世代ってところか」
 艦艇の質も見られる。
「俺達程じゃないがな」
「かなり質がいいな」
「しかも将兵もな」
 そのドクツ軍の将兵はというと。
「変わってないな」
「動きがいい、あの頃と同じくな」
「嬉しくはあるんだけれどな」
 それでもだとだ、プロイセンはここではやれやれといった顔になってそのうえでこう言ったのだった。
「敵だからな、今は」
「そうだ、だからだ」
「戦うしかないな」
「不本意だがな」
「私もだ」
 レーティアもこう言う。
「彼等と戦うことはな」
「どうしてもですね」
「抵抗がある」
 こうエルミーに答えるのだった。
「彼等は愛する部下であり同胞だったからな」
「そうだ、こうしたことはままあるが」
「どうしても慣れないんだよな」
 ドイツもプロイセンも苦い顔であった。
「正直辛い」
「どうしたものだろうな」
「今は戦うしかない」
 レーティアも苦い顔だがそれでも意を決して言った。
「仕掛けるのはアルプスの時だ」
「ええ、その時ね」
 グレシアもレーティアのその言葉に応える。
「その時に仕掛ければね」
「祖国に攻め入らずに済む」
 だからだというのだ。
「今は戦うしかない」
「そういうことだな、今はな」
「やるしかないな」
 ドイツとプロイセンも頷くしかなかった、それでだった。
 彼等は今は戦った、その精鋭ドクツ軍と果敢に戦い続ける。
 その中でだ、エルミーは東郷に通信を入れた、その通信の内容はというと。
「長官、ドクツ軍ですから」
「ああ、潜水艦だな」
「この戦いでも展開しています」
「グスタフラインにも潜ませていたか」
「確かにあのラインは専守でしたが」
 攻めることは想定していなかった、枢軸軍を止める為の長城だったのだ。
「ですが潜水艦は用意していたでしょう」
「俺達が攻め寄せて来た時にだな」
「潜水艦での攻撃も行う予定だったでしょう」
「ドクツ軍の基本戦術だな」
「はい」
 まさにそれだというのだ、そのドクツ軍の潜水艦艦隊を率いてきた彼女が。
「そうです、ですから」
「ここはだな」
「警戒して下さい、彼等は既に私達の近くにいます」
 そうしてきているというのだ。
「そしてです」
「仕掛けて来るな」
「ミサイル攻撃が終わったならば」
 間もなくはじまるそれが終わった時にというのだ。
「来ます」
「ソナーに反応はあるか」
 東郷はここで将兵達に問うた。
「反応はどうだ」
「今のところはありません」
 大和の艦橋にいるソナー員が答えてきた、その耳にはソナーがある。
「何処にも」
「そうか」
「しかし、ですね」
「ああ、デーニッツ提督が言っている」
 だからだというのだ。
「間違いなく近くにいる」
「そして、ですね」
「来る」 
 絶対にだというのだ。
「だから頼むな」
「わかりました」
 ソナー員、各艦の彼等も必死に探す、そしてだった。
 エルミーの乗るファルケーゼのソナー員がこうエルミーに言った。
「司令、八時の方角です」
「そこからですね」
「はい、迫ってきています」
 そこからだというのだ。
「十個艦隊規模です」
「十個艦隊ですか」
 若しそれだけの艦隊に奇襲を受ければかなりのダメージを受ける、下手をすればそこから戦いの流れを変えられてしまう。
 それでだ、エルミーも眼鏡の奥の目を鋭くさせて述べた。
「ではすぐにです」
「はい、八時の方向にですね」
「向かいます、いいですね」
「わかりました、それでは」
「司令もそれで宜しいでしょうか」
「ああ、わかった」
 潜水艦艦隊を率いる田中もエルミーの言葉に頷いた、そしてだった。
 潜水艦艦隊はその八時の方向に向かう、そのうえで。
 ソナーに微かに反応のあるそこにだ、全艦で魚雷を放った。
 するとそこから派手な爆発が立て続けに起こった、ソナー員の報告通りそこにドクツ軍の潜水艦艦隊がいたのだ。
 それを見てだ、東郷も言った。
「これは大きいな」
「そうですね、敵の奇襲を防げました」
 秋山も胸を撫で下ろしつつ東郷に応える。
「幸いなことに」
「ああ、本当にな」
「それでだが」
 東郷はさらに言う。
「敵の潜水艦艦隊は防いだ」
「では、ですね」
「次は敵の主力艦隊だ」
 今目の前にいる彼等だというのだ。
「彼等を攻めるぞ」
「はい、わかりました」
「手強いがな」
「ここはどうされますか?」
「数はこちらが優勢だ」
 枢軸軍、特に日本軍では珍しいケースではある。彼等はいつも少数で多数を相手にしてきたからである。
「それならだ」
「数で、ですか」
「潜水艦艦隊も退けたからな」
 奇襲の心配もなくなった、それならというのだ。
「後はだ」
「数で押しますか」
「正面から攻める」
 具体的にはそうするというのだ。
「そうするとしよう」
「それでは」
 秋山も東郷の言葉に頷く、確かにドクツ軍、精鋭である彼等に下手な小細工よりも正攻法の方が効果があると思われた、それでだった。
 枢軸軍は全軍でドクツ軍に正面から向かった、そして。
 数と性能を頼みにした一斉射撃を続ける、相手が散陣で来ても押し切ることにした。
 ただひたすら攻撃を続ける、ドクツ軍はその攻撃の度に数を減らしていく、プロイセン妹はその自軍を見てドイツ妹に言った。
「まずいよ、これはね」
「そうね、数で押してきたわね」
「理に適ってるね」
「ええ、戦争は数よ」
 枢軸軍はおおむね戦場のそれぞれでは活かしていないことだ。その国力はおtもかくとして。
「これは正しいわ」
「そうだね、どうする?」
「損害が二割を超えたわ」
 ここで損害のことを言うドイツ妹だった。
「このままだとね」
「損害が増えるだけだね」
「しかも後方からの補給が滞っているわ」
 それを担当するイタリン軍はまだ混乱状態にある、それでだった。
 ドイツ妹も決断を下した、自身の相棒にそれを述べた。
「まだアルプスもあるから」
「そこまでだね」
「ええ、予定とは違うけれど」
 グスタフラインを使って枢軸軍に消耗を強いるつもりだったのだ、だがそれはそのグスタフラインを迂回され直接戦闘となってしまい思ったよりダメージを与えられなかった。それは不本意だったのしてもというのだ。
「ここはね」
「撤退だね」
「ええ、そうしましょう」
 こう言ったのである。
「今はね」
「わかったよ、それじゃあね」
「ああ、全軍な」
「イタリン軍のことだけれど」
「ちょっと伝えるか」
 二人は彼等のことも忘れていなかった、それでだった。
 撤退を決定し早速その中に入るうえでこう彼等に問うた。
「私達は今からアルプスに撤退するけれど」
「あんた達はどうするんだい?」
 こう彼等に問うたのである。
「一緒に来るのなら総統にお話するわ」
「まだ一緒に戦うかい」
「いや、その申し出は有り難いけれどね」
「あたし達はもう決めてるからね」
 二人の問いにイタリア妹とロマーノ妹が答える。四人でモニター越しに話す。
「枢軸軍に降伏するよ」
「そうさせてもらうね」
「そう、わかったわ」
「それじゃあね」
 ドイツ妹とプロイセン妹も二人の言葉に応えた、そしてこう言うのだった。
「これで暫くお別れね」
「また会おうな」
「ああ、それでその時はね」
「一緒に飲もうね」
 イタリア妹とロマーノ妹は二人に笑って返した、四人の仲は素直にいいのだ。
 それで笑顔で言葉を交えさせて今は別れた、そうして。
 ドクツ軍はローマから撤退し後にはイタリン軍だけが残った、イタリア妹は早速枢軸軍二通信を入れた。
 モニターに自分の兄を認めてだ、イタリア妹はまずは彼に明るく言った。
「兄貴元気そうだね」
「うん、そっちもね」
 イタリアも妹に笑顔で返す。
「元気そうで何よりだよ」
「こっちは何もなかったよ」
 平和だったというのだ。
「無事にね」
「そう、それはよかったよ」
「ただ、どうやらね」
「どうやら?」
「今の統領さんの姿が見えないんだよ」
 そうなったというのだ。
「今さっき惑星ローマの方から連絡があったけれどね」
「亡命したのかな、スイスにでも」
「そうみたいだね、まあそれはいいとしてね」
 ぴえとろのことはこれで終わった、スイスの予想通りだった。
「統領さんも帰って来たね」
「うん、一緒だよ」
「じゃあ丁度いいよ、あたし達降伏するから」
 実にあっさりとした降伏の言葉だった。
「手続き宜しくね」
「じゃあ明日から俺達と一緒だね」
「枢軸軍に入るよ」
 そうするというのだ。
「そうさせてもらうよ」
「うん、じゃあこっちの長官さんと会ってね」
 それで正式に手続きをしようとだ、イタリアは妹に言った。
「そうしてね」
「わかったよ、それじゃあね」
 イタリア妹も笑顔で応える、こうしてだった。
 イタリンは完全に枢軸諸国に加わった、戻ったと言うべきであろうか。
 降伏等の手続きもあっさりと終わった、イタリン軍も無傷なまま枢軸軍に加わった、だがそのイタリン軍はというと。
 秋山は難しい顔になり東郷に話した、その彼等のことを。
「悪い人達ではないのですが」
「むしろ善人ばかりだな」
「陽気で人懐っこく無邪気です」
 ポルコ族のいいところだ、こうしたところが。
「ですが戦いには」
「ははは、そうだな」
 東郷もわかっているという口調で返す。
「あの人達はな」
「シェスタは欠かしませんし」
「いつもパスタやピザが必要だな」
「ワインもです」
 酒もだというのだ。
「そしてジェラートがなければ動かないです」
「戦争になればだな」
「凄い勢いで、です」
 逃げるというのだ。それも泣きながら。
「困った人達です」
「そうだな、しかしだ」
「はい、私も彼等は嫌いではありません」
 どうにも憎めないというのだ。
「ですから」
「それでだな」
「彼等については戦力としては考えなくとも」
「同盟国としてはだな」
「親しくしていくべきです、これからも」
 愛すべき彼等と、だというのである。
「そう思いますがどうでしょうか」
「俺も同意見だ」
 東郷も温かい笑みで応える。
「イタリンとはこれからもな」
「はい、枢軸諸国に戻ってくれましたし」
「仲良くやっていこう」
「そうしよう」
 こう話してだった、イタリンについては至って友好的な交流を深めていくことになった。それで何の問題もなかった。
 そのイタリンからいよいよアルプスに向かうことになる、だが今はだった。
 艦隊の修理にかかるのだった、幸いローマには修理工場もありそこでローマ戦でのダメージを癒すことが出来た。
 だがローマは堅固だ、守るヒムラーの側もそれはわかっていた。
 それで自らアルプスに入りこう豪語するのだった。
「このアルプスは何をしても陥ちないさ」
「あの枢軸軍でもですね」
「そうですね」
「そう、例えどれだけの軍勢が来てもね」
 それでもだというのだ。
「陥ちないよ」
「ですね、それでは」
「我々はまずはここで守り」
「そしてそのうえで」
「機を見てですね」
「反撃に転じるよ」
 これがヒムラーの戦略だった、まずは難攻不落のアルプスで枢軸軍の主力を消耗させてそしてであるのだ。
「それで枢軸軍を破り」
「それからですね」
「枢軸軍を軍門に降し」
 その勢力を手に入れてだというのだ。
「後は最早衰えきったエイリスを叩けばね」
「それで、ですね」
「我がドイツの覇業が成りますね」
「前総統の悲願も達成されるよ」
 レーティアの名前も出す、とはいってもこれは彼女の名前を出して自分のドクツ国民への人気取りと大義名分の看板としたのだ。
「これでね」
「はい、それでは」
「我等も」
「そう、頼むよ」
 こうも言うヒムラーだった、表の部下達なので彼は今はレーティアの後を忠実に添う後継者として振舞っていた。
 だが、だった。裏になると。
 要塞内に用意させた総統の個室においてだ、怪しい者達にこう話したのだった。
「絶対に有り得ないことにしても」
「アルプスが陥落してもですね」
「その時も」
「この要塞にはドクツ軍の精鋭と新兵器と要塞ラインとサラマンダーがあるんだ」
 その四つの切り札がある、というのだ。アルプスの堅固さに加えて。
「陥落はしないよ」
「はい、ですが予備としてね」
「彼等がいますね」
「コアにヴァージニアがね」 
 その彼等がだというのだ。
「若し陥落しなくても反撃の際は彼等を前面に出して攻めるよ」
「ですね、そして」
「枢軸諸国もまた」
「ドーラ教を布教しよう」
 布教と言えば聞こえがいい、だが実際はだった。
「信仰しない者はね」
「はい、粛清ですね」
「そうしますね」
「勿論だよ、全てはドーラ様の為に」
 軽い笑顔で述べる。
「そうあるべきだからね」
「はい、では」
「これからは」
 こう話してそしてであった、ヒムラーは表とは違う顔を見せていた。表情は全く変わらないにしても。
 そのうえでこうも言うのだった。
「まさかレーティア総統も俺がドーラの信者だったとは気付かなかったみたいだね」
「はい、あの娘もですね」
「そのことには」
「宣伝相は俺を嫌っていたけれどね」
 グレシアについても言う。
「彼女は俺が怪しいと思っていたよ」
「ドーラ教には気付いておらずとも」
「それでもでしたね」
「マンシュタイン元帥もかな」
 今度は彼の名前も出す。
「流石にエルは俺を信じたかったみたいだけれどね」
「そういえば教皇はロンメル元帥とは士官学校で同期でしたね」
「ご親友でしたね」
「いい奴ではあるよ」
 一応友とは言うのだった、だがだった。
「けれど彼はドーラ教徒ではないからね」
「そして信仰することもなさそうですね」
「あの方は」
「そう、だからね」
 まるでものを捨てるか捨てないかを決める様にだ、ヒムラーは何でもないといった調子で述べていく。
「その時はね」
「あの方もですね」
「粛清ですね」
「苦しまない様にしてあげるよ、確か北アフリカにいるけれど」
 ヒムラーも知らなかった、彼が救出され枢軸軍にいることを。
「信仰を拒めば」
「では毒を用意しておきます」
「その時に備えて」
「頼むよ、その時はね」
 裏の側近達に言う。
「もっとも死なせる者は多くなるだろうかな」
「粛清は合理的にですね」
「しかも速やかに」
「ドーラ様を信じないならばね」
「その者は全て、ですね」
「粛清ですね」
「そうするからね」
 だからだった、粛清は速やかにしなければならないというのだ。
「コアにしてもいいね」
「あの機械の兵達に」
「そうもしていきますか」
「そのことも検討しよう、あとコアとヴァージニアだけれど」
 この二つの存在のことをまた話した。
「何時でもね」
「はい、出せる様にですね」
「準備を」
「それも頼むよ」
 このことも言ったのだった。
「本当に何時でもね」
「そして彼等を使い」
「敵を」
「捕虜は必要ないよ」
 一切、というのだ。
「敵は殺すだけでいいよ」
「コアはそうした発想はありませんので」
「何しろ犯罪者ですので」
「そうだね。ならいいよ」
 ヒムラーも安心した、その話を聞いて。
「存分に暴れてもらってね」
「ドクツの世界征服ですね」
「それを成し遂げましょう」
「さて、まずはアルプスだね」
 最初はここでの防衛戦だった。
「彼等が来たらね」
「盛大に迎えましょう」
「是非共」
 裏の側近達も自信満々であった、負けるとは露程に思っていない。
「数は彼等の方が上ですが」
「そして艦艇の質も」
「それはもう問題にならないね」
 ヒムラーはまさに余裕綽綽といったものだった。
「まあ数とそれを支える国力は向こうが圧倒的だけれどね」
「それでもですね」
「どれだけの数が来ても」
「このアルプス要塞は」
「全く、ですね」
「そう、難攻不落だよ」
 それこそマジノ線なぞ比較にならない位だというのだ、だからこそどれだけの数と質で来ても問題ないというのだ。
 それでだ、ヒムラーはまた言った。
「それじゃあね」
「反撃の用意もしておいて」
「待ち受けましょう」
「そういうことでね、さて」
 ここでヒムラーは話を変えた、今度の話題はというと。
「お昼だしね」
「今日は何を召し上がられますか?」
「お昼は」
「ワインは欠かせないよ」
 ヒムラーがまず話に出すのはこれだった。
「それとパスタかな」
「前総統もお好きでしたね」
「あれですね」
「実は俺も菜食は嫌いじゃないんだよ」
 意外とだ、ヒムラーにもそうしたところがあるのだ。それで今もパスタを食べるというのだ。
「後はパンと」
「ポテトサラダですね」
「そしてメインディッシュも」
「そうするよ、いつも通り楽しませてもらおうかな」
 何処かホストめいた仕草で言うのだった、ヒムラーは今も余裕に満ちていた。
 そのヒムラーが待つアルプス要塞攻略という大仕事を前にしている枢軸軍だが彼等も緊張の中にあった、だが。
 レーティアはその彼等にこう演説するのだった。
「案ずるな、諸君」
「総統がいれば、じゃな」
 防衛艦隊司令官を務めている山本が応える、彼は今も現役としているのだ。
「あの要塞もじゃな」
「そうだ、一兵も失うことなくだ」
 こう言うレーティアだった、自信に満ちた口調で。
「あの要塞を攻略しベルリンまで迎える」
「それは心強い言葉じゃのう」
「私が言うべきかどうか迷ったが」
 だがそれでもだというのだ。
「やはり私が出るべきであり、だ」
「そしてじゃな」
「ドクツに戻るべきなのだ」
 そうすべきというのだ、レーティアは。
「そして再びドクツの為に働くべきなのだ」
「そうよ、ドクツはレーティアが立ち直らせて導いたのよ」
 だからこそだというのだ。
「それならね」
「そうだな、だがこれからのドクツはな」
 レーティアは失敗に学ぶ、バルバロッサでの失敗とそこからの崩壊のことを忘れたことは一時もなかった。
 それでだ、今はこう言うのだった。
「信じれる者達に任せることは任せたい」
「ええ、任せてね」
「我等は総統の手足です」
「何なりと仰って下さい」
 グレシアに続いてマンシュタイン、ロンメルの二人の元帥も名乗りを挙げてきた。
「総統には全ドクツ国民がいます」
「総統だけではありませんよ」
「そうだな、私は全てを抱え込み過ぎていた」
 これまでのドクツはレーティアが抱えている赤子と言っていいものだった、だから抱えているレーティアが倒れた時に崩壊下のだ。
 しかしこれからのドクツはどうあるべきか、レーティアはそのことがもうわかっていたのだ。
「だからこれからはだ」
「私達で出来ることはするからね」
「本当に何でも申し上げて下さい」
「及ばずながらも」
 トリエステとベートーベンも名乗りを挙げてきた。
「ですからこれからは」
「我等もこれまで以上に」
「やれやれ、これは手強いですね」
「全くだな」
 ネルソンとモンゴメリーは団結するドクツの面々を見て苦笑いで述べた。
「戦後のドクツも手強そうですね」
「欧州の盟主の座に座られかねないな」
「エイリスもうかうかしていられません」
「我々も気を引き締めないとな」
「この戦争の後は我々はもう武力に訴えることはしない」
 レーティアはこうも言った、つまり世界征服という野望も既に捨てているというのだ。
「世界を手に入れてもドクツには負担が大きい、それに世界は一つの鍋にあるのではなく一つの皿で別々にあるべきだ」
「つまりシチューよりサラダであるべきだな」
「そうだ」
 ドイツ、自身の祖国にそうだと答えた。
「ドクツはドクツ、他国は他国だ」
「それがこれからの世界か」
「欧州は欧州で一つの経済圏になるべきだが」
 このことは太平洋と同じだというのだ。
「しかしそれは一つの国だけで成り立っているものではない」
「俺達全員でか」
「そうだ、ドクツもオフランスもありだ」
 レーティアはフランスにも答えた。
「エイリスもイタリンもだ」
「そうだよな、幸か不幸か植民地もなくなったからな」
 フランスはこのことについても言及した。
「だったらな」
「うむ、欧州は欧州で一つの経済圏でやっていこう」
「各国が合わさってな」
「そうあるべきだ」
 レーティアが見出した新たな秩序はこれだった、ドクツが世界を統一し彼女が全てを治めるのではなくどの国も共存していくことだった。
 そのことを言ってからだ、さらに言うのだった。
「ではだ」
「その欧州経済圏を築く為にもですね」
「ドクツに戻る」
 自身の今の祖国にだというのだ。
「あの国にな」
「はい、それじゃあ」
「今から」
 こう話してそしてだった、全軍でアルプスに攻め入る用意に入っていた。防衛艦隊司令の山本以外の全ての主だった提督が参加する大規模な作戦だった。
 その中にはギガマクロもいる、東郷はとてつもない量のパスタを豪快に食べる彼にこう問うた。
「酋長の調子はどうだ?」
「この通りだ」」
 今度はワインをボトルごとラッパ飲みしての言葉だ。
「飯も酒も美味いわ」
「絶好調だな」
「ああ、そうだ」
 その通りだというのだ。
「アルプスでの戦いもやらせてもらう」
「頼むな、もっともな」
「アルプスではか」
「戦いにはならないな」
 レーティアの言う通りになる、東郷もそう読んでいた。
「多分だがな」
「ふむ、そうか」
「ドクツ軍と戦うことはない」
 レーティアの国の軍とはというのだ。
「一戦も交えずにだ」
「終わらせられるか」
「ドクツ軍が降伏すればその周辺の国も戦う理由がなくなる」
 今もど靴の衛星国となっている東欧や西欧の諸国もだというのだ。
「後はオフランスとエイリスだけだ」
「早いのう、そこまでいっておるか」
「ああ、戦いは最後の正念場のうちの一つだ」
 一つがドクツ戦、そしてもう一つがエイリス戦だというのだ。
「両方に勝つさ」
「勝って終わらせるか」
「この戦いは勝ってこそだ」
 政治的にだ、勝たねばならないというのだ。
「それで日本も何とかなる」
「長かったのう、わしと御主が一緒になってからも」
「そうだな、それで酋長は戦後はどうするんだ?」
「ハワイはガメリカ領のままだ」
 このことは変わらないというのだ。
「だがミクロネシアやソロモンつまりトンガはな」
「酋長が国家元首に戻るんだな」
「うむ、そうなる」
 二つの星域の酋長になるというのだ。
「戦後はな」
「そうか、ガメリカも植民地を放棄したからな」
「今もそうなっているが正式にはな」
「戦後だな」
「全てはな」 
 そうなるというのだ。
「だからわしも勝ってからだ」
「そういうことだな、酋長の方もな」
「うむ、ではアルプスだな」
「ああ、行こうな」
 東郷はギガマクロの向かいの席に座った、そのうえで言うことは。
「今食べているパスタはペスカトーレか」
「うむ、やはり本場は美味いな」
 シーフードのパスタだ、海に生きている彼らしかった。
「幾らでも食べられる」
「そうか、じゃあ俺もな」
「あんたもペスカトーレか」
「それをもらうな」
「唐辛子や大蒜もきいていて美味いぞ」
「そこがイタリンだな」
 東郷も本場のパスタに満足していた、やはりイタリンのパスタは違っていた。
「じゃあそれをな」
「うむ、一緒に食おうな」
 ギガマクロは豪快な笑顔で応える、そして。
 東郷もまたそのペスカトーレとワインを頼んだ、それで彼もその美味さを心から堪能し今は英気を養うのだった。


TURN126   完


                            2013・7・18



グスタフラインを迂回するという作戦。
美姫 「予想外だったけれど、効果は確かに大きいわね」
だな。ローマを落とせばそれで終わりだからな。
美姫 「当然、相手の抵抗もそれなりにあったけれど」
消耗せずに相対できたのは大きいかったな。
美姫 「で、例によってヒムラーは色々と画策しているみたいね」
どこまで上手くいくのだろうな。
美姫 「気になる次回は……」
この後すぐ!



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