『ヘタリア大帝国』
TURN125 シチリア降下作戦
レーティアから話を聞いた東郷はムッチリーニ、そしてロマーノと話をすることにした。そのうえでシチリアとナポリのマフィアやカモラのことを問うた。
東郷はまずだ、ロマーノにマフィアのルーツについて尋ねた。
「オフランスへの抵抗組織だったと聞くが」
「ああ、あの話嘘だからな」
ロマーノは東郷の話を即座に否定した、違うというのだ。
「それはな」
「そうだったのか」
「確かにシチリアはオフランス領だったこともあるさ」
それは事実だというのだ。
「けれどな」
「それでもか」
「ああ、そうだよ」
それでもだというのだ、ロマーノは東郷にさらに話していく。
「実際はそんな花嫁が襲われたのがはじまりとかじゃなくてな」
「あれは伝説でか」
「実際は山賊だったんだよ」
ロマーノは眉を顰めさせて東郷に話した。
「連中はな」
「シチリアの山にいるか」
「それでオーストリアやスペインの上司のな」
「ハプスブルク家だったな」
「山賊共を警官にしたんだよ」
「それがマフィアのはじまりか」
「警官でも元々は山賊だったからな」
柄がいい筈がなかった、犯罪者に治安を任せるのは毒を以て毒を制すだ。だがその毒が強過ぎたというのだ。
「あの連中はな」
「それがやがてか」
「公の警察から離れてな」
「自警団みたいになってか」
「ああなったんだよ」
自警団は実は危険な組織だ、一見すると義侠心に満ちた正義の集団だが法に拠って成って動く者達ではない。法に拠らないならば容易に犯罪集団になるのだ。
だからマフィアもだ、やがてだというのだ。
「町を仕切ってやりたい放題やる様になってな」
「そこは日本のヤクザと違うな」
日本のヤクザは賭場やテキ屋がはじまりだ、確かに全く違っている。
「自警団か」
「最初から自警団だったのも多いさ」
「それが、か」
「ああなったんだよ」
「成程な、そのことはわかった」
東郷はロマーノの話に納得した顔で頷いた、そしてだった。
次はムッチリーニに顔を向けた、彼女に問うことは。
「統領さんは連中をかなり抑えたんだな」
「あっ、そうだったんですか?」
「かなりと聞いているが」
「ううん、皆に御願いしたんですけれど」
そのマフィアにだというのだ。
「実は」
「どうして抑えたのかを聞きたいが」
「とりあえずマフィアの自警団や清掃業は全部国家がしまして」
それで彼等の表の仕事を奪ってだというのだ。
「そこに組み込んでいったんです。昔のことはないことにしまして」
「そしてですか」
「はいそうなんです」
こう話すのだった。
「それと裏のお仕事も。売春は自由恋愛にしまして」
「それえなくしたか」
「厳しいとかえって増えるみたいですから」
所謂モグリの売春にはそうした傾向がある、表で厳しくすれば裏でかえって、となるのが世の常であるのだ。
「それでそこは緩やかにして」
「警察は厳しくしたか」
「はい、そうしました」
彼等を取り込んだ組織は、というのだ。
「清掃業も」
「港南両方か」
「お給料もちゃんと出して」
収入も確保したというのだ。
「ファンシズムに則った政策の中に入れたんです」
「成程な」
「そうしたら上手くいきました」
実はムッチリーニは政治力もある、ただ呑気なだけだ。
「それでなんです」
「では統領さんがイタリンに戻るとだな」
「マフィアにはそうしていくつもりです」
「よし、それで抑えられるな」
将来のことはだ、このことはよしとだった。
問題は今だ、イタリン軍の地上部隊の一端を担っている彼等については。
「今はどうするかだな」
「マフィアは強いぜ」
ロマーノは両手の手振りも入れて東郷に話した。
「あの連中はな」
「イタリンの正規軍よりもか」
「連中は本来は軍じゃないし利権がかかってるからな」
つまり飯の種を守ることがかかっているからというのだ。
「だからだよ」
「それでか」
「ああ、ゲリラ戦とかをやるからな」
「強いか」
「惑星攻略の時は気をつけてくれよ」
「対策はあるか」
「戦わないといいだろ」
ロマーノは東郷にあっさりとこう述べた。
「そうしたらな」
「戦わない、か」
「昔のことはどうでもいいって言ってな」
ムッチリーニのマフィア組み込み政策をそのまま踏襲して、というのだ。
「協力を要請すればいいさ」
「成程な、政治か」
「ああ、そうだよ」
ロマーノは戦争は苦手だ、だがだ。
こうした交渉は得意だ、それで今話すのだった、
「連中は利権だけしか見てないからな」
「それでだな」
「後はまた組み込めばいいさ」
ふァシズムの政策にだというのだ。
「わかったな」
「わかった、それじゃあな」
「よし、では後はな」
「後は?」
「何かあるの?」
「利古里ちゃん達だな」
陸軍を率いる彼女の名前が最初に出た。
「それに平良提督といづみちゃんか」
「真面目な人達かよ」
「あの人達ならよね」
ムッチリーニも言う、彼等はマフィアにはどうするかというと。
「すぐにマフィアを征伐とか言うわね」
「エイリスの植民地でも色々やったからな」
ロマーノはその現場も見ていた、どうしていたかというと。
「威張っていたエイリス貴族を手討ちにしようとかな」
「だからマフィアもだ」
彼等に対しだもだというのだ、山下達は。
「すぐに強硬論を言うだろう」
「それで実行に移すよな」
「あの人達は」
「利古里ちゃん達は俺が抑える」
そうした過激な行動は東郷が抑えるというのだ。
「ここは強硬策よりも柔軟にいこう」
「あんた大抵そっちだな」
ロマーノは東郷に言った。
「融和策とかだよな」
「ああ、戦わずに済むのならそっちの方がいい」
東郷は基本的にこうした考えだ、それで今もこう言うのだ。
「マフィアに対してもな」
「そうだな、その方がいいな」
「そういうことでいこう」
「わかったぜ、じゃあ今度はシチリアか」
「妹さん達お元気かな」
ムッチリーニはここでイタリア妹達のことを思い出した。
「あの娘達も」
「ああ、元気みたいだぜ」
ロマーノがそのムッチリーニに答える。
「今もな」
「そうなの、ならいいわ」
「イタリンに戻ったらあいつ等も仲間になるんだな」
「ああ、そうなる」
その通りだとだ、東郷が二人に話す。
「ロマーノさんの妹さん達もな」
「ずっと寂しかったのよ、妹さん達がいないと」
ムッチリーニは再会の時を楽しみにしながら話していく。
「どうもね」
「そうだよな、俺もあいつ等がいないとな」
ロマーノもこのことについて話す。
「どうにもな」
「そうよね、やっぱり皆がいないとね」
「寂しいな」
「でしょ?だから早くイタリンに戻りたいわ」
「だよな、まあヴェネツィアーノとかはどうでもいいけれどな」
弟についてはこうだった、だがそれでもだ。
ロマーノも妹達との再会と祖国への帰還は楽しみにしていた。シチリア侵攻前夜はこうした雰囲気も中にあった。
枢軸軍は一月で全艦隊を修理してだった、そのうえで。
スエズから北アフリカを経由してシチリアに向かう、その中で。
ロシアは何処かうきうきとしながらこうカテーリンに話した。
「ねえ、シチリアってね」
「暖かくて景色がいいのよね」
「うん、そうらしいよ」
二人はマフィアのことはどうでもよかった、イタリンの景色のことに興味があるだけだった。
「それに食べ物も凄く美味しくて」
「オレンジがみずみずしいのよね」
「そうらしいね」
「どんな国なのかしら、一体」
カテーリンはイタリン自体に憧れを見せていた。
「本当に楽しみだわ」
「僕もだよ」
ロシアも期待している顔であった。
「スパゲティもピザも本場だから」
「違うのよね、他の国で食べるのと」
「そうみたいだよ」
「戦争が終わったら」
カテーリンはここでそれからのことも考えて話した。
「イタリンとは仲良くなってね」
「それでだね」
「人民の皆もイタリンに旅行出来る様にしよう」
「それ凄くいいことだね」
「キューバもだけれど」
カテーリンにとってはこの国も憧れだった、とにかく暖かい場所が好きなのだ。
「観光旅行でね」
「皆を楽しませてあげようね」
「そうしないと」
カテーリンは皆のことを考えて話していく。
「戦争が終わったらね」
「じゃあ早く終わらせる為にも」
「そう、イタリンに入るから」
そうして戦いを終わらせるというのだ、カテーリンもまた戦争のこととそれが終わってからのことを考えていた。
そしてシチリアに着いた、敵はイタリン軍だけだった。その彼等を見てプロイセンは少し拍子抜けした様に言った。
「あれっ、ドクツ軍はいねえのかよ」
「ローマ星域で防衛ラインを敷いているらしいな」
ドイツがそのプロイセンにモニターから話す。
「どうやらな」
「ああ、そういえばグスタフラインとか建築してたな」
「それでだ」
シチリアにはいないというのだ。
「ヒムラー総統も戦力は集中させたいらいい」
「そういうことか」
「だからここにいるのはイタリン軍だけだ」
そしてだった。
「ナポリもな」
「そうか、じゃあな」
プロイセンはドイツの話を聞いてそのうえでこうユーリに言った。
「なあ、ここはな」
「私達にですね」
「ああ、ちょっとイタリン軍に話してくれるか?」
目の前にいる彼等にだというのだ。
「そうしてくれるか?」
「はい、わかりました」
「降伏してくれたらいいからな」
戦わずに済むというよりはプロイセンとしてはイタリンとは戦いたくなかったのだ。理由は彼がイタリンが好きだからだ。
「そうしてくれるか」
「俺もそうしてもらいたい」
ドイツもユーリに頼むのだった。
「是非な」
「それでは」
ユーリはドクツにも応えた、そしてだった。
自分からイタリン軍にモニターから放送をかけた、その場でこう言ったのである。
「諸君、私のことは覚えていてくれるか」
「あっ、首相」
「お元気でしたか」
黒ビキニの提督達がユーリの姿を認めて声をあげた。
「枢軸に行かれたそうですが」
「お久しぶりです」
「統領もご一緒だ」
「皆久しぶり〜〜〜〜」
ムッチリーニもモニターに出て来た、ユーリよりもずっと能天気な態度で。
「元気だった?」
「はい、この通り」
「今も楽しくやっています」
「統領さん達がいないことが寂しかったですけれど」
「元気でしたよ」
「そうなの、よかったわ」
ムッチリーニは彼女達の話を聞いてにこにことなる。敵味方の会話とは思えないまでに和やかなムードであった。
そのムードの中でだ、ムッチリーニは言った。
「それでだけれどね」
「今私達は敵味方ですから」
「戦わないといけないですね」
「それ止めにしない?」
これがムッチリーニの言葉だった。
「もうね」
「この戦いをですか?」
「もう」
「そう、だって同じイタリン人が戦うのってよくないじゃない」
のどかだが鋭い一言だった。
「だからね」
「そうですね、そのことは」
「その通りですね」
黒ビキニの提督達も頷く、そしてポルコ族の面々も。
それぞれ顔を見合わせてだ、こう話し合った。
「うん、戦争は嫌だブーーー」
「戦って死にたくないブーーー」
「それよりもパスタ食べてワイン飲んでいたいブーーー」
「シェスタしたいブーーー」
これが彼等の考えだった、勿論提督達もだ。
誰も戦いたくなかった、それでだった。
「じゃあいいわね」
「そうよね、戦って死ぬなんて意味ないから」
「統領さんに首相も戻ってくれたし」
「それなら」
彼女達にも戦意はなかった、それでだった。
シチリアのイタリン軍の考えは決まった、皆枢軸軍に対してこう言うのだった。
「じゃあ投降します」
「身の安全は宜しく御願いしますね」
「ああ、約束する」
東郷がイタリン軍に応えた、こうしてだった。
シチリアのイタリン軍はあっさりと降伏した、銀河では一戦も交えず地上部隊の主力もであった。だがマフィア達は。
頑強に抵抗しようとする、それを聞いた山下がこう主張した。
「ならよい、すぐに降下してだ」
「はい、全員処刑ですね」
福原もにこりと笑って言う。
「マフィアです、容赦せずに」
「あの様な不埒者達を許してはならん」
山下は既にその手に刀をかけている、完全に本気だ。
「では今より陸軍が降下する」
「私も参ります」
福原も申し出て来た。
「そしてマフィアなどという不逞の輩共を片っ端から成敗する」
「一人も逃さないのでご安心下さい」
「本当にこの二人は予想通りだね」
南雲は二人の言葉を聞いてある意味で感心した、それ以上に呆れているが。
「だからまっすぐばかりじゃなくてね」
「ここは私に任せてくれる?」
ムッチリーニが笑顔で出て来た。
「ちゃんとやり方があるから」
「統領にですか」
「お考えがあるのですか」
「うん、だから任せてくれる?」
強硬派の二人に対して言う。
「ここはね」
「イタリンの統領であられた方が仰るのなら」
「そうですよね」
二人もイタリン統領であるムッチリーニの言葉ならだった、そのうえで。
ここは彼女に任せることにした、かくして。
陸上部隊も実にあっさりと降伏したイタリン軍はそのままにして早速マフィア対策が為された。その前非を問わずに。
国家の統治に組み込むのだった、法律の世界に。
これはムッツリーニの政策だった、それによってだった。
マフィアはムッチリーニが統領だった頃の様にその勢力をかなり弱めた。山下はそれを見て目を丸くさせてこう言った。
「何と、こうしたやり方があったのか」
「驚きですね」
福原もこう言う。
「このことは」
「そうだな、ヤクザ者は成敗するのではなく」
「ああしって組み込むやり方もあるのですね」
「一見馬鹿げているがかなり効果がある様だ」
「その様ですね」
「いえ、統領さんのあの政策ですが」
台湾が二人に話す。特に自分の軍事顧問である福原に対して。
「私が以前受けていた政策ですよ」
「あっ、そうだったのですか」
「はい、児玉さんに」
日露戦争の時の参謀だ、台湾で総督をしていたこともあったのだ。
「当時私のところは日本さんの統治に抵抗するゲリラといいますか山賊の様なものが多かったのですが」
「その彼等にか」
「児玉閣下がですか」
「そうだったんです」
過去は問わないので投降しろと勧めて、だというのだ。
「土木作業等に従事させたのです」
「土木作業は普通にヤクザ者が関わっていたからな」
山下はその話を聞いて言う、作業員の斡旋もまたヤクザ者の仕事だったのだ。
「それでか」
「要するにそのゲリラがマフィアで」
台湾のかなりの部分を仕切っていたというのだ、そのマフィアと同じく。
「統領さんの政策は児玉さんと同じです」
「そうだったのか」
「はい、山下さんはそのことは」
「気付かなかった、私の不勉強だ」
「私もです」
山下も福原も己の不明を素直に認める。
「閣下はそうしたこともされていたのだな」
「その台湾統治の見事さは聞いていましたが」
「ああした勢力は下手に弾圧するよりも」
強硬策よりも、というのだ。
「法律の世界に取り込んでいく方が効果的な場合もあります」
「そうなのだな」
「意外と」
「そうです、まあどうしようもない時もありますが」
山下の様に強硬策でいかねばならない場合も確かにあるというのだ、だが台湾やこのシチリアの様な場合もあるというのだ。
「そうしたこともご了承下さい」
「そうだな、どうも私はな」
山下は自省の言葉をここで述べた。
「正攻法しかないな」
「私もです」
福原も言う、自省の言葉を。
「どうにも」
「まっすぐだけではないな」
「特に政治はですね」
「わかっているつもりだったが」
「まだまだですね」
「統領さんは一見するとただお気楽なだけの方ですが」
それもかなりだ、確かにムッチリーニは能天気でありこのことはユーリも困っている程である。
だがそれでもなのだ。
「わかっておられますね」
「政治を、だな」
「どうすべきかを」
「政治はただインフラや教育を充実させるだけでなく」
日本が韓国や台湾でしたことだ、これがこの二国を大きく発展させた。
「犯罪組織への対策も重要ですが」
「それが、だな」
「ああした柔軟な対策もですね」
「時として効果があります」
笑顔で話す台湾だった、何はともあれシチリアのマフィア対策はムッチリーニが見事にしてみせた。そしてそれはナポリでも同じだった。
ナポリでも無血入城だった、イタリン軍自体はあっさりとムッチリーニの説得に応じカモラもだった。
ムッチリーニの政策通り組み込まれていった、そうしてだった。
枢軸軍は何なくイタリンの南部を掌握した、残るはローマだけとなった。ロマーノの場所は完璧に掌握した。
だがこのことにロマーノはあまり嬉しそうな顔をしない、不機嫌な顔でこう言うのだった。
「面白くないぞこの野郎」
「えっ、どうしてなの兄ちゃん」
イタリアがそのロマーノに驚いた顔で問う。
「折角兄ちゃんの場所が戻ったのに」
「可愛い娘が寄って来ないぞ」
ロマーノが不満に思っているのはこのことだった。
「何でだよ、俺が戻って来たのにな」
「だって東郷さんのところに行ってるから」
「全員かよ」
「全員じゃないけれど」
結構な数の女の子が、というのだ。
「だからね」
「くそっ、流石にあの長官には負けるか」
「兄ちゃんにもすぐ来ると思うよ」
シチリア、ナポリの女の子達がだというのだ。
「ちゃんとね」
「来ないだろうがよ」
「あっ、言ってる側から」
そんな話をしているとだった、周りから女の子達が来た。
「あっ、祖国ちゃんお帰り」
「戻ってきたのね」
「イタリアちゃんも一緒じゃない」
「どう?ここは」
「やっぱり祖国はいいものよね」
こう言って二人を囲む、そのうえで二人にこうも言うのだった。
「どう?今からご馳走作るけれど」
「とっておきのワインも出すわよ」
「さあさあ、遠慮しないで」
「折角戻って来たんだからね」
「ほら、ちゃんと来てくれたじゃない」
イタリアは女の子達に囲まれながら兄に述べた。
「歓迎してくれてるし」
「来るのが遅いんだよ」
今度はこう言うロマーノだった、やはり面白くなさそうな顔だ。
「何でだよ」
「いやあ、準備に手間取ってね」
「料理に時間かかったのよ」
「それでなのよ」
「御免ね」
「そうかよ」
ロマーノも美女達の言葉に一応納得した、そうしてだった。
二人は母国の美女達の歓待を受けた、そのうえで彼女達の料理に美酒を楽しむ。ロマーノも心では満足した。
枢軸軍はナポリに集結してそこからローマに向かうことになった、そのローマにあるものは。
「グスタフラインですね」
「ああ、あれだね」
南雲が小澤の言葉に応える。
「ドクツ軍がローマに置いたね」
「あれをどう突破するかですね」
「ローマを攻略するにはね」
「そしてグスタフラインを突破しても」
「アルプスに相当な要塞があるらしいね」
南雲の目が鋭くなる、そのうえでの言葉だった。
「しかもドクツの最新鋭兵器がこれでもかって集まっていて」
「それと兵ですね」
小澤は淡々と述べていく。
「機械の兵もいるとか」
「サイボーグかい?」
「詳しいことはわかりませんが」
「何かいるんだね」
「どうやら」
「何かドクツはわからないことが多いね」
南雲から見てもだ、今のドクツは謎に満ちていた。それで二人がここでゾルゲを呼んだ、ゾルゲは呼ばれるとすぐに二人の前に現れた。
だが、だった。その彼もドクツのことについては。
「我々も入り込めないのです」
「ドクツにはですか」
「そうなんだね」
「是非入りたいと考えています」
敵国への情報収集、それを忘れてはならないからだ。
「ですがそれでも」
「中々ですか」
「入られないんだね」
「明石大佐の方もです」
彼にしてもだというのだ、日本が誇る諜報員の。
「入り込めない様です」
「何か凄い国ですね」
その話を聞いてだった、小澤は素直に賞賛の言葉を述べた。
「今のドクツは」
「まさに鋼の守りです」
それで諜報員も寄せ付けないというのだ。
「我々も鉄のカーテンと呼ばれていましたが」
「ドクツは、ですね」
「はい、鋼です」
鉄よりも堅固なそれだというのだ。
「どうにも入り込めないです」
「そうですか」
「それは参ったね」
南雲もこの状況には難色を示すしかなかった。
「敵のことがわからないってのはね」
「軍の数はかなり少ない様です」
このことはわかっているというのだ。
「どうやら」
「元々ドクツ軍は少数精鋭で」
「しかし問題はですね」
「その兵器の質だね」
「そこがよくわかりません」
今ドクツ軍がどういった兵器を使っているか、だというのだ。このことが全くわかっていないというのである。
「要塞の状況等も」
「ドイツさん達はこっそり戻れないのかね」
南雲はこうも言った。
「そういうことは」
「ドクツ大使館は閉鎖されていますよ」
このことを話したのはゾルゲだった。
「交戦状態になり国交も途絶えていますから」
「そうでしたね」
小澤も言われてこのことに気付く。
「それでは」
「はい、ドイツさん達も今のドクツには入られません」
祖国である彼等もだというのだ。
「そのことは」
「スイスやリヒテンシュタインから入られないからね」
南雲はここでこの中立国達の名前を出した。
「特にスイスはね」
「スイスに入ることは自殺行為です」
ゾルゲですら、であった。それは。
「私も一度スイスから入るルートを考えましたが」
「無理なんだね」
「とても」
そうだというのだ。
「スイスに入ることは出来ます」
「工作員としてはだね」
「身分を偽って。ですが」
それでもだというのだ、例え潜入しても。
「スイスさんがいます、とてもドクツまで入るまでには」
「見つかってだね」
「追い返されます」
そうなってしまうというのだ。
「ましてや軍の通過なぞ」
「ああ、スイスに軍で入るのか?止めておけよ」
ここでフランスが来た、それでそれを止めるのだった。
「絶対にな」
「スイスさんはそこまで強いんですね」
「国民全部が軍隊だからな」
文字通りいざとなれば国民皆兵になる、そうした国だからだというのだ。
「絶対に入るなよ、宙形も滅茶苦茶険しいからな」
「噂には聞いてるけれどね」
「あそこは攻めるには最悪だよ」
まさにそうだというのだ、フランスは実際に怖いものを語る顔である。
「少しでも自分に不利益そうだと頼んでも引き受けないしな」
「シビアなのですね」
「相当な」
フランスはそのスイスについて話していく。
「だから厄介なんだよ」
「じゃあスイスのことはもう忘れてね」
南雲もあっさりと考えを切り替えた、それならばどうしてもだった。
「どうするかだね」
「ソープ帝国からギリシアに向かうことは」
小澤はこちらのルートを出した。
「そちらは」
「そちらもかなり堅固な防衛ラインを敷いている様です」
ゾルゲはこちらも駄目だと話す。
「そして東欧は相変わらずです」
「ワープ航路の修復も遅れてるな」
フランスはぼやく様に述べた。
「あの総統さんもやってくれたよ」
「全くです、あちらからの潜入ルートも使えないですし」
ゾルゲもこのことには不満な顔で述べる。
「全く以て困ったことです」
「だから今回はアルプスから攻めるしかないんだよ」
ドクツを攻めるにはだ、フランスもぼやく感じで 述べた。
「多分相当堅固だろうけれどな」
「やるしかないね」
「ああ、気合入れて攻めような」
アルプスにはだ、どうしてもだった。
いよいよはじまるドクツ軍との戦いは苦戦が予想された、しかしそれでも彼等にとっては戦うしかなかった。
それでだった、ローマについてもだったのだ。
枢軸軍の主力全軍でローマに向かう準備を整えていた、そしてそのローマでも。
ドクツ軍が防衛ラインを構築し終えていた、ドイツ妹はその防衛ラインにいながらプロ伊勢にもうとに対して言った。
「防衛ラインは出来たわね」
「ああ、グスタフラインはね」
「これで一応は、だけれど」
「この防衛ラインは破られること前提だからね」
枢軸軍は止められないというのだ、このグスタフラインでは。
「本番は次だよ」
「アルプスね」
「そこだよ、あそこに立てこもるよ」
「新兵器もあるから」
ドイツ妹はその防衛ラインのことも話した。
「まさに難攻不落ね」
「サラマンダーもいるからね」
「コアはどうなのかしら」
ドイツ妹はふと言った。
「あの兵隊は」
「あれかい?」
「ええ、あれよ」
「あの連中は総統さんがまだ動かさないって言ってるよ」
プロイセン妹はかなり嫌そうな顔でドイツ妹に話した。
「まだだってね」
「予備兵力なのね」
「そうするみたいだね、けれどね」
「ええ、コアはね」
「使いたくないね」
プロイセン妹はあからさまに嫌そうな顔だった、今も。
「出来ればね」
「そうね、犯罪者の頭脳を機械に移して戦うのは」
「頭脳は洗脳してるらしいけれどね」
「何か。いい感じはしないわね」
「あからさまに不吉だよ」
だから二人共嫌っているのだ、それを顔に完全に出して話すプロイセン妹だった。
「だからね」
「出来れば、ね」
「使いたくないね」
これがプロイセン妹の偽らざる考えだ。無論ドイツ妹もである。
「本当にね」
「そうね。けれど総統は」
「随分あの連中を気に入ってるね」
「大丈夫なのかしら」
「不吉なものを感じるのはあたしだけかい?」
「いえ、私もよ」
ドイツ妹もだった、それでこう言ったのである。
「どうもね」
「そうだろ、犯罪者の脳味噌なんて使うものじゃないんだよ」
「それもガメリカから持って来た三つの頭脳は」
「あの三つだね」
「ガメリカでかなりの凶悪犯の頭脳だったらしいわね」
「噂によるとあれだろ?カルト信者にカリバニストにね」
「それと連続強盗殺人犯だったわね」
ドイツ妹も噂だが聞いていた、このことを。
「そのどれもが」
「碌なのじゃないよ」
最早言うまでもなく、だった。
「そんな連中の脳味噌なんて使えるかよ」
「そうよね、普通に考えたら」
「あの総統さんはどう考えてるかわからないけれどね」
「それと。他には」
「機械の大怪獣も開発してるんだったね」
「カナダにあったデータをそのまま使って」
ノイマン研究所、ドロシーがそこで色々と開発研究していた場所だ。それもそこで見つけたものだというのだ。
「そうだったわね」
「そっちも何か不吉な気配がするんだよ」
プロイセン妹は顔をさらに曇らせて話す。
「どうもね」
「この戦争大変なことになるかしら」
「そうならないといいね」
「ええ、本当に」
こんなことを話す二人だった、とにかく今はだった。
不吉なことを感じながらも枢軸軍をグスタフラインで迎え撃たんとしていた、そのグスタフラインにいるのはドクツ軍だけだった。
イタリン軍は後方にいる、その指揮はイタリア妹とロマーノ妹が執っているが二人はイタリン軍にこんなことを言っていた。
「いいかい?ドクツ軍が負けてね」
「それで逃げたらね」
その時はというのだ。
「即効で枢軸軍に降伏するよ」
「戦わないからね」
「じゃあ枢軸軍に入るブーーー?」
ポルコ族の一人がこう二人に問うた。
「そうするブーーー?」
「ああ、そうだよ」
「本当にそうするからね」
二人もこうそのポルコ族に答える。
「統領さんも戻ってきてるしね」
「そうするよ」
「わかったブーーー」
ポルコ族は二人のその言葉に納得して頷いた。
「それじゃあブーーー」
「皆もいいね」
「あたし達はドクツ軍が逃げたらすぐに降伏するよ」
「それで後は枢軸軍に入るからね」
「それでいいね」
「了解ブーーー」
誰も反対しない、イタリン軍のその方針は既に決まっていた。そして今の統領であるぴえとろもだった。
中立国のスイスにだ、モニターでこんなことを必死に言っていた。
「頼む、ここはな」
「亡命であるか」
「それをさせてくれるか」
「いいである」
スイスはあっさりとぴえとろに答えた。
「ではその時にまた我輩を呼ぶである」
「済まない、それではな」
「しかし御主は誰も何もしないと思うである」
スイスはモニターからぴえとろを見ながら言った。
「いてもいなくても同じだからである」
「何っ、わしは無視されているのか」
「そう思うのである」
「何と、そうだったのか」
「ベニス統領の方が人気があるのである」
「くそっ、皆可愛い娘の方がいいのか」
「当然と言えば当然ある」
スイスは淡々と容赦のない言葉を浴びせてくる、これがスイスであるう。
「しかもあの統領さんは政治家としても中々である」
「だからわしはか」
「統領さんがローマに戻れば最初からいなかったことにされるのである。というか今も半分そう思われているのである」
「では亡命しても意味がないではないか」
無視されているならだ、身の安全が保障されるどころではないからだ。
「何ということだ」
「それでどうするであるか」
スイスはあらためてぴえとろに問うた。
「今回は」
「やはり亡命させてもらう」
スイスにだ、そうさせてもらうというのだ。
「頼む」
「わかったである」
スイスはぴえとろのその言葉に頷いて返した。
「ではいざという時はである」
「有り難い、それでは」
「しかし欧州もこれではである」
スイスは戦乱の続く欧州のこともここで言った。
「戦乱とそのダメージが酷くなる一方である」
「ううむ、それは」
ぺえとろも自覚していた、何しろイタリンもこの戦争で戦場になるのは二度目だからだ。
「どの国も国力をかなり消耗しているな」
「太平洋も戦場になったであるが」
「ダメージはそれ程ではないな」
「欧州のダメージは深刻である」
何とか中立を保っているスイスから見てもである。
「この戦争の後は大変である」
「復興がだな」
「そうである、最早世界の中心ではいられないである」
そこまでダメージを受けてしまっているというのだ。
「どうしてもである」
「そうか、最早欧州はか」
「特にエイリスが深刻である」
植民地を全て失ったこの国が、というのだ。
「おそらくもう立ち直れないである」
「滅びるのか?あの国が」
「いや、欧州の一国として生き残るである」
そうなるとはいうのだ。
「しかしである」
「世界の盟主ではなくなるのか」
「オフランスは言うまでもないである」
戦争の中で完全に埋没してしまっている、一応連合国にいるがその存在感はイタリンよりも下になってしまっているのだ。
「ソビエトは最早欧州から離れてしまっているである」
「うむ、完全に一つの世界になっているな」
「東欧も北欧も戦場になったである」
「北欧は然程でもないが」
「東欧の荒廃も酷いである」
「その荒廃から立ち直ることはか」
「それは出来るである」
だが、というのだ。問題はそれからだというのだ。
「しかし荒廃から成ったとしても」
「欧州は最早なのか」
「世界の一地域である」
それに過ぎなくなるというのだ。
「ドクツもおそらくは、である」
「まさか、あの国は」
「では貴殿はヒムラー総統をどう思うであるか」
スイスはぴえとろのその目を見据えて問うた。
「あの御仁はである」
「今の総統か」
「そうである、どう思うであるが」
「それなり以上の能力はある」
ぴえとろもそこは見抜いていた、確かにヒムラーは政治家、戦略家としては一級と言っていい。だが、 なのだ。
「しかしだ」
「それでもであるな」
「カリスマには乏しい」
「外見はいいであるがな」
「何処か信用出来ない」
「あの総統は何時裏切るかわからないであるな」
「ああした人物は何をするかわからない」
また言うぴえとろだった。
「実は自分のことしか考えていないだろう」
「あの御仁は信用出来ないである」
また言うスイスだった。
「そこも前総統と違うである」
「レーティア=アドルフ総統は信用出来た、部下を盟友としてみなしそして絶対に裏技なかった」
「そうであったな」
スイスもレーティアがまだ生きているとは思っていない、それでなのだ。
「あの方は凄過ぎたである」
「カリスマもあった」
ヒムラーにはなかったそれもだというのだ。
「そしてだ」
「その能力もまた」
「まさに万能の天才だったである」
ただ一級でしかないヒムラーとはそこが違うというのだ、尚ヒムラーは人気取りの政策も多く行いそれで支持を保ってもいる。
「今の総統とはそもそもが比較にならないである」
「では今のドクツもか」
「敗れるである」
そうなるというのだ、最後は。
「そして結局欧州は敗れるである」
「そして世界の中心から降りることになるのか」
「先の戦争と合わせて傷を負い過ぎたである」
スイスも欧州の一国だ、このことには苦い顔で述べる。
「最早避けられないである」
「残念だな」
「これからの中心は太平洋である」
そこになるというのだ、今の枢軸諸国の中枢である。
「吾輩はそう見ているである」
「悲しい話だな」
ぴえとろが見てもだった、このことは。
「欧州の衰退か」
「しかし貴殿にはもう関係のないことである」
スイスは腕を組んだままだ、そのうえでまた話す彼だった。
「亡命するであるからな」
「しかし欧州から離れはしない」
「そうであるか」
「わしは欧州で生まれ育ったのだ、最早欧州から去ることは出来ない」
イタリンから去ることは出来てもだというのだ。
「それでもだ」
「そうであるか」
「だから貴国に亡命させてもらう、わしも最低限のことはわきまえているつもりだ」
「わかったである、ではいざという時は門を開けておくである」
「それではな」
ぴえとろは亡命の準備を進めていた、今の統領である彼はそうしていた。その中でグスタフラインでの攻防がはじまろうとしていた。
TURN125 完
2013・7・16
シチリアの方はどうにか統治に関しても問題なさそうだな。
美姫 「そうね。でも、予想以上にドクツの防衛は頑丈みたいね」
明石大佐さえも潜り込めないぐらいだしな。
美姫 「それでも止まる訳にはいかないけれどね」
ぴえとろの亡命計画なんかも出てきてたけれど。
美姫 「やっぱり注目すべきはグスタフラインね」
枢軸がエイリス相手にしている間も、黙々と築き上げてきただけあって。
美姫 「ここもまた簡単に行きそうもない感じよね」
さて、どうなるか。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。