『ヘタリア大帝国』




               TURN123  モンゴメリーの決意

 モンゴメリーはベトナムからマレーの虎に入った、そこにはマレーシアとインドネシアがいた。二人はまず案内役の日本にこう言った。
「あの、まずはです」
「バリに案内しようと思っていますが」
 こう日本に提案したのだ。
「そう思っていますが」
「どうでしょうか」
「いいですね」
 日本もバリ行きに賛成した。
「それでは」
「はい、それでは」
「今から」
 二人も応えてだ、そうしてだった。
 モンゴメリーは今度はバリに案内された、そこで鮮やかなバロンダンスを観た。仮面と衣装を身に着けた踊り子達が二つに分かれて踊っている。
 そのバロンとランダのダンス全体を観てだ、モンゴメリーは言った。
「ただ見事なだけでなく」
「他にもですね」
「素晴らしいものがあるというのですね」
「はい、このバリにも観光客達が多いですが」
 バロンダンスを観ている彼等である。
「彼等もまた」
「様々な国から来ていまして」
 インドネシアが応える。
「そしてです」
「皆同じなのですね」
「インドネシアも独立国でして」
「来ている彼等もですね」
「はい、皆です」
 独立国から来ているというのだ、同じ立場の。
「貴族もいません」
「そうですね」
「それで観光産業もです」
 ベトナムと同じく、というのだ。
「栄えています」
「素晴らしいものですね」
「勿論他の産業もです」
「発展しています」
 インドネシアだけでなくマレーシアもモンゴメリーに語る。
「豊富な資源を利用しまして」
「農業も日本さん達から新しい技術を導入しました」
「工業も軌道に乗っています」
「生産量は植民地時代の倍以上になっています」
「全く違うのですね」
 このこともわかったモンゴメリーだった、マレーも一変していた。
 そしてラスシャサに会ってもだ。かつてはエリリスに敵愾心を剥き出しにしていた彼女も。
 明るい笑顔で軍の訓練を行っていた、マレー軍の動きはキビキビとしていた。
 その動きもまた、だった。モンゴメリーが刮目するものだった。
「いや、動きが違うます」
「これまでとはだな」
 そのラスシャサがモンゴメリーに応える。
「違うな」
「かつての彼等には覇気がなかったですが」
 無気力だったのだ、植民地の頃の彼等は。
「それがここまで見事な動きを見せるとは」
「マレー軍になったからだ」
 彼等の国の軍にだというのだ。
「そうなったからだ」
「それでなのですね」
「植民地軍は所詮使われる立場、エイリス軍から観ればあくまで補助戦力であり手駒だな」
「はい、確かに」
「しかし今は違う」
 独立した今現在はというのだ。
「祖国を守る軍でありだ」
「そしてですか」
「使われる立場ではない、だからだ」
「誇りがある故に」
「私達は変わった」
 ラスシャサもその青い目で前を見つつ語る。
「祖国さんと共に何処までも行く」
「独立国の軍として」
「そういうことだ、好きなだけ観るといい」
 マレー軍、つまり自分達をだというのだ。
「我々をな」
「はい、それでは」
 こう話してだった、そうして。
 モンゴメリーはマレー軍も観た、彼等はエイリス軍と同じ様に誇りがあり鍛えられた軍だった。近代国家の軍がそこにはあった。
 モンゴメリーはそれを観てから今度は四国に入った、そこでは。
 エイリスから来た者達と現地民達が共に暮らしていた、このことはかつての四国と同じだ。だがそれ以上に。
 和楽があった、やはり誰もが平等だった。大怪獣も植民地であった頃よりも穏やかに見えた。
 ラグビーもだ、それも。
「現地民も参加していますね」
「その通りでごわす」
 オーストララリアはラガーマンの格好だった、 ニュージーランドもだ。そのうえでモンゴメリーに話すのだ。
「こっちではラグビーは誰もがプレイ出来るでごわす」
「そういうことばい」
 ニュージーランドも言って来る、そのラグビーの服で。
「エイリスではラグビーは貴族がやるものでごわしたな」
「けれどこっちじゃそういうのはないばい」
「階級がないからでごわす」
「現地の人でも遊べるばい」
「かつては違いましたが」
 モンゴメリーは四国においても植民地時代の頃を思い出して語った。
「現地に来た貴族だけが楽しんでいました」
「もうエイリスではないからでごわす」
 だからだとだ、オーストラリアはモンゴメリーに答えた。
「それで、でごわす」
「だからですか」
「おいどんはこれでいいと思うでごわす」
「おいもばい」
 独立してそうなったからだというのだ。
「スポーツに貴族も何もないでごわす」
「誰もがしていいものばい」
「だからモンゴメリーさんもどうでごわすか」
「今から遊ぶばい?」
「いえ、私はもう引退しています」
 モンゴメリーもラグビーをしていた、だがもう年齢でだというのだ。
「若手の中に入っては」
「辛いでごわすか」
「それでばい?」
「シニアはシニアでしたいものです」
 ラグビーは激しい、だからだというのだ。
「そう考えています」
「では今度シニアリーグを紹介するでごわす」
「そこでプレイしたいのならばい」
 こう笑顔で話す二人だった、その目の前では。
 ネルソンが華麗なトライを決めていた、ニュージーランドチームに参加してオーストラリアチームの巨大な選手達を華麗にかわしてだった。
 見事なトライを決めた、そしてであった。
 そのネルソンを見てだ、マリーは言った。
「ネルソン楽しんでるわね」
「そうですね、相変わらずの華麗さですね」
 その横でトンガが応える。
「あの方は体格は普通ですが」
「というかラガーマンとしては小柄よね」
「はい、ですが」
 スピードとフットワーク、その二つを駆使してなのだ。
「あの様にプレイされていますね」
「ああいうラグビーもあるのよね」
「そうですね」
 彼はもう枢軸諸国の中に入っていた、そのうえでラグビーを楽しんでいた。モンゴメリーはそのスポーツも観たのである。
 そしてトンガの砂浜に行くと。
 総督、それにトルカがいた。とはいっても彼等は遊んでいなかった。
 ラフな格好海にいる怪獣達を観て研究していた、モンゴメリーはその総督に問うた。
「あの怪獣は」
「はい、草食の大人しい怪獣です」
「では危害はですか」
「加えてきません」
 それはないというのだ。
「ご安心下さい」
「それでは」
「怪獣といっても色々でして」
「肉食のものもいればですね」
「草食のものもいます」
 今目の前にいる様なものもいるというのだ。その怪獣は十五メートルはある巨大なウミガメだ、アーケロンをさらに巨大にしたものだ。
 外見は恐ろしい、だがだというのだ。
「怪獣は外見じゃわからないんですよ」
「そう」
 トルカもここでモンゴメリーに言ってきた。
「トルカ達そのことを知っている」
「僕はいつもトルカや現地の人達に教えてもらっています」
「怪獣のことをですか?」
「他のこともです」
 言うまでもなく総督は政治家であり軍人でもある、今ではオーストラリアの国家元首であり今の様にトンガに来ることも多い。
 その彼がだ、こう言うのだ。
「政治についても」
「現地民の意見を聞いてですか」
「そのうえで政策を決めています」
 それが今の彼だというのだ。
「そうしています」
「成程、そうですか」
「それでなんですけれど」
 総督はモンゴメリーにさらに話す。
「オーストラリアでも普通選挙を導入しました」
「エイリスの様に」
「いえ、貴族はいないので上下両院です」
「ガメリカの様にされたのですか」
「はい、そうです」
 ここでも階級が否定されていた、エイリスとは違い。
「現地民も含めて」
「誰もが平等な立場としてですか」
「議会も国家元首もです」
 選挙によって選ばれる様になったというのだ。
「そうなりました」
「では貴方も」
「はい、選ばれました」
 その普通選挙でだというのだ。
「そのうえで今の役職にあります」
「左様ですか」
「トルカも皆もこの国のことをよく知っています」
 先住民だからだ、それこそ細かいところまで知っているというのだ。
「彼等にはいつも教えてもらっています」
「そうでしたか」
「本当に助けてもらっています」
 微笑んでだ、総督は話す。
「有り難いことです」
「そうなのですね」
「いや、若し彼等がいてくれなかったら」
「貴方も政治が出来ないと」
「トルカは部族の姫であり僕の頼りになるパートナーです」
「総督さんはいつもトルカ達の為に頑張ってくれてるから」
 トルカもここで話す。
「だからなの」
「いつも意見を聞いてそれを取り入れています」
「植民地の頃とは違いますね」
 エイリス本国の政策に従うだけだった、当時は。
 しかし今は違っていた、四国の国々も太平洋経済圏の中で独自の道を歩いていた。植民地だった頃とは違い。
 アラビアにも入った、ここでは。
 ゴローンはゲーム三昧だった、そしてハルマはその兄にこう言っていた。
「兄さん、モンゴメリー提督が来てるのよ」
「ああ、そうか」
 全く動じずにパソコンでゲームに興ずるばかりの彼だった。
「それで提督は?」
「今ここにいるわ?」
「じゃあ隣でな」
 彼のそこでだというのだ。
「観てもらうか」
「兄さんのゲームを?」
「ああ、丁度いいところなんだよ」
 観れば画面の女の子が脱いでいる、いよいよという場面だ。
 ゴローンはそこに集中している、そのうえで妹に言うのだった。
「いいな」
「あのね、エイリスの騎士提督さんなのよ」
「それがどうした」
 本当にどうでもいいというゴローンだった、彼にはゲームよりもそちらの方が大事ということが明らかであった。
 それでだ、ハルマは呆れた顔でこうモンゴメリーに話した。
「すいません、こんな兄で」
「いやいや、構いません」
 モンゴメリーは微笑んでハルマに答えた。
「ただ、このゲームですが」
「日本さんのところのゲームです」
 そこのゲームだったというのだ。
「兄さんの大好きな」
「女の子が裸になっていますが」
 そしてそうした声が聞こえてきていた。
「どういったゲームでしょうか」
「ギャルゲーといいまして」
「ギャルゲー、ですか」
「アステカでも造られていてあの国ではかなりの産業です」
 そうなっているというのだ。
「そして日本でもです」
「かなり多く造られているのですね」
「兄さんが病み付きになる位に」
 ハルマは呆れた顔でまた兄を観た、観れば。
 彼はいよいよゲームに熱中していた、部屋の中はゲームだけでなく同人誌やアニメ雑誌、それにポスターで一杯だった。キャラクターの抱き枕もある。
 そうしたグッズに満ちた山も観てだ、モンゴメリーはハルマに話した。
「これも全てですか」
「日本帝国のアニメです」
「そしてゴローン提督はですか」
「はい、こうしてです」
 出撃していない時はというのだ。
「ゲームに漫画にアニメとヲタク趣味で」
「面白い趣味ですね」
「そうですか?かなり困ってますけれど」
「別に悪い趣味ではないと思いますが」
「誰かに迷惑もかけないですし給料分での出費内ですが」
「では問題ないのでは」
「引き篭っているだけですし」 
 そうした意味では問題ないというのだ、こう話してだった。
 モンゴメリーは画面を観てだ、笑顔でいたのだった。
 そのうえでこうも言った。
「これも日本との貿易、そして交流ですね」
「あっ、そうなりますね」
「アラビアまでが太平洋経済圏に入っているのですか」
「太平洋都中南米、それにインド洋ですね」 
 太平洋経済圏はそこまでの規模だとだ、ハルマも把握していた。
「アラビアは太平洋経済圏には入っていませんが」
「そうですか」
「アラビアはアラビアで」
 ハルマはこうモンゴメリーに話していく。
「独自の経済圏を築いていこうと考えています」
「スエズ、そしてソープ帝国ですか」
 モンゴメリーも伊達に北アフリカ方面で戦ってきた訳ではない、こうした宙理のことは把握している。そこにある文化や経済のこともだ。
「その枠組みで、ですか」
「はい、そうです」
「確かにその方がいいですね」
 モンゴメリーはハルマの言葉を聞きながら同意して頷いた。
「太平洋経済圏は太平洋が軸ですから」
「中南米やインドは入ってもですね」
「中南米も太平洋に面しています」
 メキシコやペルー、チリがだ。ブラジルやアルゼンチン、キューバ等は違うが同じアステカ帝国の中にあったから入られるというのだ。
「そしてインドも」
「東南アジアとの関係があるので」
 この辺りは同じエイリスの植民地だったからだ、だが同じエイリスの植民地同士でもアラビアは、というのだ。
「ですがアラビアは」
「イスラムでしかインドカレーよりスエズとの関係が深いので」
「そうなりますね」
「南アフリカ等はどうなるかわからないです」
 解放され独立したばかりのこちらは、というのだ。
「ですがアラビアやスエズは」
「独自の経済圏ですね」
「ソビエトもその様です」
 共有主義でありまたかつてロシア帝国だったこちらは、というと。
「一つの経済圏として」
「動いていきますか」
「その様です」
「どちらにしても最早植民地の時代ではありませんね」
 モンゴメリーも確信していた、以前からであるが今はより確かにだ。
「そうですね」
「そのことは間違いないですね」
「ではエイリスも」
 植民地のないエイリスはどうなるのか、このことは火を見るより明らかだった。
「世界帝国ではなく」
「エイリスが世界帝国か」
 ゴローンが応えてきた、ゲームの女の子の声を聴きながら。
「もうそれはな」
「終わったというのですね」
「というかそっちの中身何とかしたらどうだ?」
「貴族達をですね」
「そうだよ、あまり言いたくはないがな」 
 それでもだとだ、ゴローンは言うのだった。彼は元々こうしたことは言わない性質だがあえて言ったのである。
「エイリスはな」
「貴族達の腐敗がですね」
「まずいだろ」
「この戦争の中でも彼等は変わっていません」
 モンゴメリーも痛感していることだった、それも強く。
「自分のことしか考えずに」
「利権ばかり貪ってるよな」
「植民地からの」
「植民地の富とかはどうなってるんだ?」
「かなりの割合で貴族達の懐に」
 エイリスの国庫ではなく、というのだ。
「そのことはかねてより批判されてきた通りです」
「じゃあ意味ないだろ」
 ゴローンはゲームをしながらモンゴメリーに語っていく。
「植民地があってもな」
「ではエイリスはこれからは」
「植民地なくてもやっていけるだろ」
「我が国を甘く見てはいませんね」
「いないからこう言うんだよ」
 ゴローンも決して愚かではない、確かにゲームやアニメ三昧であるが。
 それでも見るものは見て考えることは考えているのだ、それでこう言うのだ。
「欧州の中の一国としてな」
「はい、充分にやっていけます」
「そもそも一国が世界を導くとかな」
「無理があるというのですね」
「そんなこと日本さんも考えてないよ」
 それも全く、というのだ。日本はあくまで枢軸の盟主的立場であり話し合いで決める主義だ。世界を導く等とは考えていない。
 では日本は何を考えているかというと。
「戦争が終わったら太平洋経済圏の一国だな」
「主要国ではあってもですね」
「日本さんとアメリカさんと中国さんとな」
「そしてインド殿ですね」
「他の国家さん達もいてな」
 だが主な顔触れはこの四国になるというのだ。
「それでやっていくつもりだろうな」
「あくまで一つの経済圏の合議ですね」
「そんなところだよ、とてもな」
「一つの国が世界を導くことは」
「無理なんだよ」
 こうモンゴメリーに語る。
「とてもな」
「そうですか」
「これまでもエイリスは無理してただろ」
「かなりの力を使ってきました」
 世界の盟主として他国に言うことを聞かせることにだ。その為かなりの規模の軍も持っていたのだ。
「先の世界大戦といい」
「ガメリカとか中帝国とか言うこと聞かなかっただろ」
 そしてソビエトもだ、かつてのロシア帝国にしても。
「苦労してたよな」
「そしてその苦労はですね」
「いらない苦労だったんだよ」
 ゴローンはこう言ってしまった、エイリスのこれまでの世界政策について。
「世界の盟主なんていらないしな」
「それにこだわり力を使うことも」
「意味がないんだよ」
「むしろそこから利権が生じ」
「貴族達だけが太るからな」
「だからですね」
「ああ、俺はそう思うんだよ」
 モンゴメリーに言い切ったゴローンだった。
「一介のヲタク魔法使いの意見だよ」
「ヲタク、ですか」
「そうだよ、聞いてくれたら有り難いけれどな」
 だが、だというのだ。
「少なくともエイリスはもう世界帝国であることは諦めるべきだな」
「そして貴族達を」
「何とかした方がいいな」
「うん、僕もそう思うよ」
 ここでマリーがこうモンゴメリーに言った。
「正直今のエイリスはね」
「貴族達の腐敗こそがですね」
「一番問題だよ」
「陛下もエルザ様もそのことは御存知ですが」
「姉様って頑固だからね」
 このことがセーラの問題点である、意志が強いがその裏返しとしてどうにも頑固なのだ。
「貴族達の腐敗を何とかしたいけれど」
「エイリスが世界帝国であることが」
「そのことは絶対だと思っておられるのよ」
「私もそう思います」
 ネルソンも言って来た。
「エイリスは世界帝国であるよりも」
「欧州の一国であるべきか」
「太平洋は太平洋です」
 そしてアラビアはアラビア、アフリカはアフリカだというのだ。
「彼等のことは彼等に任せるべきです」
「そうあるべきか」
「植民地は貴族達を太らせるだけです」
「それよりも独立した彼等との交易がか」
「エイリスを富ませます」
 その効果もあるというのだ。
「それも正しくです」
「そうだな、だが」
「まだお考えはですね」
「決まっていない」
 ネルソン達の様にエイリスの為にあえて枢軸と戦うかどうかは、というのだ。それはまだだというのである。
「それはな」
「では、です」
 ネルソンはモンゴメリーのその言葉を聞いてこう言った。
「今度はインドカレーに行きますか」
「あの国にか」
「はい、エイリス最大の植民地だった」
 女王陛下の宝石箱とまで言われ実質的にエイリスの植民地統治及び世界政策の柱であったこの国にだというのだ。
「あの国に行かれますか」
「そうだな、それではな」
「では」
 こうして一行は次はインドカレーに向かうことにした、そして。 
 ゴローンはそのことを決めた彼等に顔を向けた、ゲームをそのままにして。
「あそこに行くのならやっぱりな」
「何かありますか」
「カレー食うといいさ」
 インドカレーの象徴と言っていいその料理をだというのだ。
「あれをな」
「カレーはよく食べていますが」
 モンゴメリーはこうゴローンに答えた。
「今のカレーはまた違うのですな」
「そうだよ、まずそれを食ってみるんだな」
「はい、それでは」
 モンゴメリーはゴローンのその提案に素直に頷いた、そしてだった。
 インドカレーに行き実際にそのカレーを食べてみた、そのカレーはというと。
 まずだ、モンゴメリーはそのカレー自体を見てこう言った。
「チキンカレー、それにライスですか」
「そうたい」
 インドが微笑みで答えてきた。
「エイリスでは主食はパンたいな」
「パンにつけて食べるものです」
「そうたいな、シチューの様に」
「ライスで食べることは知っていましたが」
「チキンカレーもたいな」
「ヒンズー教だからですね」
 ヒンズー教徒は絶対に牛を食べない、この宗教では牛は神聖な神獣だからだ。
「牛は決して」
「それでチキンカレーたい」
「ライスの、そして」
 まだあった、このカレーには。
「スプーンではなくですね」
「手で食べるたい」
 見れば一行のどの席にもスプーンはない、事前に手を洗うボールがあるがそれ以外には何もなかった。無論箸の日本の席にもだ。
「かつての欧州と同じたい」
「ははは、そうですね」 
 インドの今の話にだ、モンゴメリーは笑って応えた。
「かつては欧州も手でした」
「フォークやナイフを使っていなかったたいな」
「スプーンはありましたが」
 スープに使うだけだ、もっと言えば皿もなくパンをそれに使っていた。
「そうでしたね、我々と同じですね」
「じゃあ指で食べるたいな」
「はい」
 そうするとだ、微笑んで答えたモンゴメリーだった。
「そうして」
「一緒に食べるたい」
 インドカレーの本来のカレーをだというのだ。そしてそのカレーを指で食べてこう言ったモンゴメリーだった。
「美味しいですね」
「そうたいな」
「これが本来のカレーですか」
「インドカレーのカレーたい」
「ライスとここまで合うとは」
「本来は米、それもインディカ米に合うものたい」
 インドカレーの米はインディカ米だ、大抵の国がこの米で日本等少数の国がジャポニカ米なのだ。
「だからたい」
「ここまで美味しいのですね」
「それでチキンカレーたい」
 宗教的な理由でだ。
「そうなるたい」
「ですか」
「じゃあどんどん食べるたい」
 笑顔で言うインドだった、モンゴメリーもそれに応え。
 そのカレーをさらに食べた、まずはカレーからだった。
 町や村を見る、やはりインドカレーでももう威張り散らし搾取するだけのエイリス貴族はいない。そしてインド人達が自分達の国、自分達の為に働いていた。
 その彼等を見てだ、モンゴメリーは案内役のインドカレー首相クリオネに言った。
「インドは発展していますね」
「そうなのよ、これがね」
 クリオネはモンゴメリーに笑顔で答える、そして言うことは。
「一年の経済成長率がね」
「どれ位ですか?」
「二桁よ、二桁」
「それが凄いですね」
「十四パーセントね」
 それだけだというのだ。
「太平洋の平均が十一パーセントでね」
「それ以上ですか」
「凄いでしょ、これからはインドカレーの時代よ」
「かつてはその富を搾取されるだけでしたが」
「その搾取されていた富がね」
 どうなっているかというのだ、今は。
「インドカレーの中で回ってね」
「発展に投資されて」
「そう、富が富を産んでね」
「インドカレーを発展させているのですね」
「そうなのよ、まあ私の経済政策も功を奏してね」
「尚私がフォローしています」
「僕もです」
 サフランとアグニもいて言うのだった。
「クリオネさんは詰めが甘いので」
「そこは僕達がしています」
「そこでそう言わないの、というかそれじゃあ私が抜けてるみたいじゃない」
「実際抜けてるところありますから」
「そこが問題なんですよ」
「くっ、何でこの子達いつもこうなのかしら」
 クリオネが苦し紛れの感じで言うとここでまた言う二人だった、どう見てもこの二人の方が強い。
「インドカレーの為にあえてです」
「言わせてもらってるんですよ」
「ですからです」
「ちゃんとして下さいね」
「全く、とにかくね」
「インドカレーも発展していますか」
「そう、独立してから全く別の国になったわ」
 独立前からインドカレーにいるクリオネの言葉だ。
「もう植民地に戻れっていてもね」
「無理ですね」
「有り得ないわね、またエイリス軍が来てもね」
「皆受け入れないですから」
「僕達戦いますよ」
 サフランとアグニもこう言う。
「そのことはご了承下さい」
「エイリスがどう思ってるかはわからないですけれど」
「そうですか」
「はい、そのことはです」
「ご存知になって下さい」
 二人はモンゴメリーにも言った。
「インドカレーはもう植民地ではありません」
「独立国家です」
「そうですね」
 モンゴメリーも二人のその言葉に頷く、そして。
 クリオネ達との話の後でだ、マリーとネルソンを前にしてそのうえで日本に対してこう言った。
「決めました」
「それでは」
「はい、私も今より枢軸軍に参加します」
 そうするというのだ。
「これからは」
「そうですか、では」
「あらためて御願いします」
 気品のある微笑みでだ、モンゴメリーは日本に言う。
「エイリスの為に戦います」
「うん、それじゃあね」
「宜しく御願いします」
 マリーとネルソンもモンゴメリーを受け入れる、こうしてだった。
 モンゴメリーは乗艦オークそして将兵達と共に枢軸諸国に加わった。こうしてまた一人の名将が枢軸軍の将となった。
 枢軸軍はいよいよエイリスのアフリカにおける最後の植民地であるアンドロメダに駒を進めることになった、その前に。
 ふとだ、ムッチリーニがこんなことを言った。
「まずはアンドロメダなのね」
「はい、そうですが」
 そのムッチリーニにユーリが答える。
「統領としては先にですね」
「イタリンかなって思ってたけれどね」
「最初の頃はですね」
「うん、それでイタリンからアンドロメダかなって思ってたけれど」
「それですが」 
 どうかとだ、こう言うユーリだった。
「イタリンを攻めればドクツ軍が来ますので」
「だからなのね」
「そうです、ドクツ軍を相手にするよりもです」
「先になのね」
「エイリス軍を掃討したいので」
 こう判断してだというのだ。
「まずはアンドロメダです」
「そうね、考えてみればね」
「その方が戦略的に妥当ですね」
「うん、そうね」
「イタリンはそれからです」
 アンドロメダを攻略してからだというのだ。
「シチリアからナポリ」
「そしてローマね」
「そうなります」
「シチリアねえ」
 シチリアと聞いて、ムッチリーニはこうも言った。
「あそこも懐かしいわね」
「そうですね、もう少しでイタリンに帰ることが出来ます」
 このことについては素直に喜びを見せるユーリだった、そうした話をしながら。
 イタリン軍もまたアンドロメダに向かうのだった、だがイタリアとロマーノはというと。
 アンドロメダに攻める前もだ、泣きそうな顔でこんなことを言っていた。
「イギリスも妹さんも今度こそ本気だよね」
「当たり前だろこの野郎」
 ロマーノは自分と同じ顔で言うイタリアに返した。
「それこそな」
「最後の植民地だから」
「最後の最後まで戦うに決まってるだろ」
「ううん、じゃあ俺達は」
「間違っても逃げるな」
 そのイタリアにドイツが困った顔で釘を刺してきた。
「いいな」
「えっ、俺達も?」
「戦えっていうのかよ」
「そうだ、全く二人共相変わらずだな」
 やれやれといった顔も見せて言うドイツだった。
「そこで逃げるつもりか」
「だってイギリス強いんだもん」
「それも妹までいるじゃねえか」
「必死になった相手ってただでさえ滅茶苦茶強いのに」
「何でそんなのと戦うんだよ」
「それも戦争だ、だが安心しろ」
 ドイツは呆れた顔のまま二人に言う。
「俺がいる」
「俺もな」
 厳しい顔のドイツの横からプロイセンがひょっこりと出て来た、その表情は相棒と違いかなり明るいものだ。
「ちゃんとフォローするから安心してくれよ」
「あっ、助けてくれるんだドイツ達が」
「仕方のない奴等だ」
「イタちゃん達を放っておく筈ないだろ」
 少し聞くだけだと正反対だが同じことを言う二人だった。
「行くぞ、共にな」
「後ろと横は任せてくれよ」
「いらぬお世話だよこの野郎共」
 イタリアは明るい顔になったがロマーノは相変わらずだった。
「俺は戦いたくないんだよ」
「まあそう言うなってな」 
 プロイセンはロマーノにも好意的だ、ドイツと違うのはその好意的なものを表に出していることだ。
 それでだ、こう言うのである。
「イタちゃん達にはいつも俺達がいるんだからな」
「イタリア達は放ってはおけません」
 オーストリアも出て来た、そのうえでこう言うのだった。
「どうにも」
「そうだ、イタリア君達は何としても助ける」
 レーティアもだった、彼もまた言うのだった。
「ドクツの大切な友人だからな」
「レーティアもイタちゃん達に優しいわよね」
「イタリンの料理も気候も歴史も大好きだ」
 完全にドクツ人の好みなのだ、レーティアはオーストリア生まれだがそれでもなのだ。
「そして芸術もな」
「人もよね」
「嫌いなところがない」
 レーティアは本音を語り続ける。
「どうにもな」
「そうなのよね、ドクツにとってイタリンはね」
「いつも仲良くしたい」
「そうした相手だからね」
「祖国君達も同じだ」
 ドイツもプロイセンもだというのだ、当然オーストリアも。
「共にいたいからな」
「そういうことね」
「私は統領も好きだ」
 ムッチリーニもだというのだ。
「あの方のご気質がな」
「多分統領さんもそうよ」
 ムッチリーニもレーティアのことが好きだというのだ。
「貴女のことが好きよ」
「それは嬉しいな」
「やっぱりドクツにはイタリンが必要で」
「イタリンにはドクツがか」
「神聖ローマ帝国ね」
 かつて存在したこの国の名前も出た。
「だからね」
「今では別々でもな」
「一緒だった時期あるからね」
「ローマ帝国がそうだ」
 古のこの国もだというのだ。
「やはり一緒だったな、我々は」
「あの頃はドクツとイタリンだけでなくオフランスとエイリスもね」
 一緒だったというのだ。
「そうだったわね」
「そうだな、しかしローマ以前の歴史はというと」
 歴史の話になってきていた、それも古代の。
「ローマが出来た以前はだ」
「よくわかっていないわね」
「原始の八国はいた」
 レーティア達の祖国ドイツにイタリア、イギリス、フランス、ロシアに日本とアメリカ中国だ。この八国は最初からいた。アメリカは長い間アメリカ大陸でネイティブ達と共にいたのだ。
 イギリスはローマがなくなってから女王を戴いた、欧州以外の国々はそれぞれで生きていた。だが、なのだ。
「それ以前はだ」
「まだどういった世界だったのかわからないわね」
「人の起源もな」
 それもだった。
「今一つわかっていないな」
「そうね、まだまだね」
「古代のことはあまり知られていない」
 尚レーティアは歴史学の権威でもある。
「そのことはな」
「そうね、どうにもね」
「調べていくか。そういえばだ」
「今度はどうしたの?」
「暗黒宙域のことにも興味があるな」
 ケニアの奥のそこのことにも言及したレーティアだった。
「あの場所もな」
「そうね、あそこは全くわかっていないからね」
「調べてみたい」 
 実際にその中に入ってだ、レーティアはフィールドワークも重視している。学者でもあるからこそそうなのだ。
「是非な」
「じゃあこの戦いの後で」
「私自ら探検隊を率いて行ってみるか」
「それもいいかもね」
「マウマウと話をするか」
 その暗黒宙域に出入りしている彼女とだというのだ。
「そうしてみるか」
「そうね、それもいいかもね」
「アフリカ文化への研究にもなる」
 この狙いもあった、レーティアはここでも学者の顔を見せる。
「是非な」
「じゃあアンドロメダ戦の後にでも?」
「そうしてみるか」
 こうした話もしながらだった、レーティアもまたアンドロメダ戦の準備にかかっていた。エイリス最後の植民地で双方の意地をかけた戦いがはじまろうとしていた。
 だがその頃枢軸諸国がアンドロメダの次の戦略目標としているイタリンはというと。
 ドクツ軍の将兵達は防衛ラインを必死に施設していた、だが。
 イタリン軍は違っていた、ポルコ族の面々は呑気にシェスタを楽しんでいた。その前に美味しい食事とワインを忘れていない。
 酒に酔ったついでに幸せそうに寝ている彼等を見てだ、ドクツ軍の将兵達はやれやれといった顔で話していた。
「全くなあ」
「緊張感の欠片もないな」
「暢気にも程度がある」
「どうしたものだ」
「相変わらずだな」
 こう言うのだった、昼寝をする彼等を見て。
 しかし悪い気はしない、指揮官であるプロイセン妹も笑ってこんなことを言う。
「イタリンはこうでないとね」
「イタリンらしくないですね」
「本当に」
「寝たいのなら寝かせておいてな」
 これで済ませるのだった。
「あたし達だけで防衛ラインを敷こうな」
「はい、わかりました」
「それでは」
 これで話を終わらせるのだった、そしてプロイセン妹と共にいるドイツ妹もやれやれといった顔でありながら自軍の将兵達にこう告げていた。
「私達だけでやっていくわ」
「イタリン軍はですね」
「あのままですね」
「ええ、寝かせておいてね」
 兄以上に優しかった、ドイツ妹は。
「そうしておきましょう」
「そうですね。折角気持ちよさそうに寝てますし」
「起こすのも悪いですね」
「逆に真面目に働くイタリン軍というのも怖いですし」
「あれでいいですね」
「じゃあそういうことで」
 本当にのどかだった、イタリア妹とロマーノ妹にしても。
 ムッチリーニ達はいないがそれでも自分達の家でパスタやピザ、ワインを楽しみながらこんなことを話していた。
「もうすぐ兄貴達が戻って来るね」
「ああ、そうみたいだね」
 ロマーノ妹はイタリア妹の言葉に昼食のワインを飲みながら応える。
「統領さん達も」
「ユーリさんも元気そうだよ」
 そうだとだ、こう返すイタリア妹だった。
「活躍してるってね」
「ああ、それはよかったね」
「何かあたし達連合国でもあまり変わらないね」
「そうだね」
 鞍替えしてもあまり変わっていないのは確かだった。
「普通にね、だから統領さん達もね」
「戻ってくればね」 
 それでだというのだ。
「終わりだね」
「統領さんに返り咲きだよ」
 極めてあっさりとそうなるというのだ、実際ムッチリーニ達は軟禁されていても別にどうでもいいという扱いだった。
「それでね」
「そうだね、けれど戻ってきたら」
「その時はだね」
「帰還祝いのパーティーしようね」
「兄貴達についてもね」
 こうした話を明るくするだけだった、しかものどかに。
 イタリンは至って平和だった、まるで戦争なぞ起こってはいない様に。ただイタリアやムッチリーニ達の帰還は待たれていた。
 それでだ、イタリア妹はロマーノ妹にこんなことも言った。
「ジェラートだけれどね」
「とっておきのを出すんだね」
「そう考えてるけれどどうかな」
 赤ワインと共にデザートのジェラートを食べながら問うた言葉だ。
「それで」
「いいんじゃないの?それで」
 ロマーノ妹は特に反対することなくイタリア妹の言葉に応えた。見ればロマーノ妹もジェラートを食べている。どちらもバニラだ。
「兄貴達も帰って来るしね」
「そうだね、それじゃあね」
「ただ、かなりの数が来るみたいだから」
 このイタリンにだ。
「用意する量は多くなるよ」
「ああ、そうだね」
 イタリア妹はロマーノ妹のその言葉にも応えた。
「それはね」
「それでもいいよな」
「悪い筈ないじゃないよ、皆戻って来てまた楽しくやれるんだからさ」
 その祝いなら、というのだ。
「出さないとな」
「そうだね、じゃあね」
「その時が楽しみだよ」
「全くだね」
 こうしたことを話すイタリン妹とロマーノ妹だった、二人もまたこれからのことを考えていた、その内容は呑気なものであるが。


TURN123   完


                            2013・7・11



モンゴメリーも元植民地の現状を見て決意したみたいだな。
美姫 「まあ、明らかに貴族連中は腐敗していたしね」
まあな、でも、これで新たな戦力が枢軸軍には加わったな。
美姫 「この勢いでアンドロメダも落としたいわね」
だな。さて、次回はどうなるのか。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る