『ヘタリア大帝国』




              TURN119  アフリカ侵攻

 ソビエトとの戦いと講和、そして北欧諸国を迎え入れた枢軸諸国は主力をマダガスカルに集結させていた、そこからだった。
 東郷は全提督に確かな声で告げた。
「それでは今からだ」
「いよいよなんだな」
「そうだ、アフリカ侵攻をはじめる」
 こう田中に告げる。
「それでいいな」
「スエズに南アフリカか」
「重点はスエズに置く」
 やはりここだった、エイリスの植民地統治の最重要拠点である。
「そこに戦力を多く向ける」
「全ては予定通りです」
 東郷の横にいる秋山も話す。
「スエズに向かう艦隊、南アフリカに向かう艦隊は」
「スエズには太平洋諸国の国家と提督が向かいますね」
 日本は秋山にこのことを確認した。
「そして南アフリカには欧州、ソビエトの方々が」
「そうです、予定通りです」
 やはりそうなるというのだ。
「南アフリカにはマリー王女とイギリスさんがおられます」
「あの二人か」
 フランスは特にイギリスの名前に反応を見せた。
「じゃあイギリスの相手は俺がするな」
「御願いします、南アフリカ方面の司令官はレーティア総統です」
「わかっている」
 そのレーティアが応える。
「それでは南アフリカ、ケニア、カメルーンと進むのだな」
「はい、出来ればアンドロメダまで」
 進んで欲しい、秋山はレーティアに返した。
「主力はスエズ、北アフリカを攻略していきます」
「どちらも注意しておいてくれ」
 そこで戦ってきたロンメルが言って来た。
「既に作戦会議で話しているが」
「砂嵐ですね」
「第八世代の兵器は防塵対策も整っている」
 防寒と共にだ、レーティアはそこまで考えて兵器開発に協力したのだ。
「しかしだ」
「それでもですね」
「あの砂嵐は尋常じゃない」
「スエズも北アフリカも」
「アラビアの比じゃない」
 そこまで強烈だというのだ、スエズや北アフリカの砂嵐は。
「本当に注意してくれ」
「視界やレーダーもですか」
「妨害される、第八世代の艦艇でもな」
「しかもどの星域も防御体制が尋常ではありません」
 ゾルゲもいた、ソビエトが枢軸国に参加したので彼もまたこの場にいるのだ。
「まさに要塞です」
「その要塞をどう攻略するかですね」
「明石大佐と共に潜入し宙図を手に入れていますが」
 それで既に提督達に渡している、だがそれでもだった。
「隙がありません」
「そうだな、これはな」 
 東郷は実際にその地図を見ながらまた言った。
「まさに難攻不落だ」
「多くの防御システムが配備されています」
 それこそマジノ線を遥かに凌駕する数と質のだ。
「しかも対潜ソナーまでありますか」
「はい」
 その通りだとだ、ゾルゲは秋山に答えた。
「全てを整えています」
「エイリスも後がない、当然のことだな」
 東郷はここではエイリスの側になって考えて言った。
「南アフリカの守りっもかなりだしな」
「この防衛ラインを突破するにはだ」
 レーティアがここで言った。
「確かに辛いがだ」
「それでもですか」
「人間が作ったものだ」 
 マンシュタインにこう返した。
「所詮はな」
「それでは」
「確かにどの星域の防御も堅固で攻略にあたっては損害は出る」
 このことは避けられないというのだ。
「しかしだ」
「それでもですな」
「そうだ、エイリス軍の防衛ラインには致命的な欠陥がある」
「ではそれは」
「多重ではない」
 レーティアが指摘したのはそこだった。
「一重だ、どれもな」
「あっ、そういえばそうですね」
 リディアもレーティアの言葉でこのことに気付いた。見ればソビエト軍の布陣は確かに堅固だがそれでもなのだ。
 防衛ラインは一重だ、二重三重ではない。
 リディアはその防衛ラインを見てだ、こう言った。
「ソビエト軍は何重にも敷きます」
「これより質の落ちるラインを何重もな」
「はい、防衛ラインは突破されるものですから」
 それでだとだ、リディアはコンドラチェンコに応えながら話した。
「何重にも敷いて敵の戦力を暫減していきます」
「エイリス軍は何で一重なんでしょうか」
 かえってだ、リディアはこのことを不思議に思った。
「何重にもしないんですか」
「いえ、これがエイリスの防衛ラインですが」
 ここでネルソンが答えた。
「そうなのですが」
「あれっ、そうなんですか?」
「はい、エイリス本土は重厚ではないので」
 そこがソビエトと大きく違う、ソビエト即ちロシアはあまりにも広い。だがエイリスはというのだ。
「防衛ラインは堅固なものをです」
「一重ですか」
「そう敷きます」
「成程、国土の関係なんですね」
「むしろ艦隊の戦力を使います」
「艦隊と防衛ラインを共に配置していますね」
 宙図を見ればその通りだった。
「それも綿密に」
「しかも艦隊が動きやすい様に」 
 ここがマジノ線と違っていた、マジノ線は完全に防衛衛星に頼っていた、だが今のエイリス軍の防衛ラインは。
「配備されていますね」
「はい、じゃあ」
「艦隊の機動力と防衛ラインの防御力双方を使って」
 そのうえでだというのだ。
「守ります」
「アシカ作戦の時もだったな」
 レーティアの目がここで光った。
「そういうことだな」
「そうなりますね」
 ネルソンもこのことを否定しなかった、そうだというのだ。
「エイリス軍ですから」
「ではだ、やり方がある」
 これまでの作戦会議でも一応は見つけていたことだがそれでもだ、レーティアはここで確かな声で言い切った。
「二つの備えを組み合わせているのならだ」
「まずはその一方をですね」
「倒す」
 そうするというのだ。
「ここはな」
「それで、ですか」
「艦隊を引き寄せて先に叩くという方法もあるが」
 これもレーティアが事前に言っていたことだ。
「しかしエイリス軍の提督達も愚かではない」
「ああ、あいつ色々と問題はあるが馬鹿じゃねえよ」
 このことはフランスも保障する。
「王女さんも騎士提督の人達もな」
「だからだ、誘い出すことは無理と思うことだ」
 それには絶対に乗らないというのだ。
「間違いなく防衛ラインと共に艦隊を置く」
「そうしていくな」
「だからだ」
 それでだというのだ。
「ここはそのままだ」
「正面突破ですか」
「戦力を一点に集中させ防衛ラインを突破する」
 その堅固だが一重のそこをだというのだ。
「突破してだ」
「そしてですね」
「防衛ラインは一方に向いている」
 即ち敵の方をだ、そうなっているからだというのだ。
「突破して反転すればどうということもない」
「そこで、ですか」
「後は敵艦隊を叩くだけだ、確かに損害は出るが」 
 それでもだというのだ。
「勝てる」
「それではですか」
「全軍今は損害を恐れるな」
 それに怯まず、レーティアは他の提督達に告げた。
「いいな」
「はい、それでは」
「全軍一点集中攻撃を以て攻める」
 東郷も告げた。
「焦らずに星域一つを徐々に攻めていくぞ」
「了解です、それでは」
 こうしてだった、枢軸軍はまずはスエズ、そして南アフリカに兵を向けた。太平洋とインド洋の諸国がスエズに、欧州とソビエトの諸国が南アフリカに向かった、だが。
 スペインとエスパーニャ、ローザはスエズに残った。スペインは国王夫婦と共にコーヒーを飲みながら言った。
「俺等は今は暇やな」
「うむ、エイリスとは不戦条約があるからな」
「私達はエイリスとの戦いには参加出来ないわ」
 それでだった、彼等は今回はだった。
「だからこのマダガスカルでね」
「留守番だな」
「そやな、ほな今は休んどくか」
 のどかにコーヒーを飲みながら言うスペインだった。
「性に合わへんけどな」
「また忙しくなる、その時までだな」
こうしてゆっくりするのはね」
「それもそやな、ほなイタリンやドクツとの戦いの時まで」
 それまではというのだった。
「休ませてもらうか」
「うむ、ではお昼はパエリアだ」
「ワインも出しましょう」
 こう話してそしてだった、伊勢志摩の面々は今は静かだった、だが南アフリカで早速戦いがはじまろうとしていた。  
 枢軸諸国はマリーとイギリスが守る南アフリカの防衛ラインの前に来た、パルプナは故郷に戻ってこう言った。
「何か、前よりも」
「堅固になっていますね」
「はい・・・・・・」
 そうだとだ、パルプナはネルソンに対して答えた。
「宙図で確かめたけど」
「目で見るのはまた違いますから」 
ここでこう答えたネスオンだった。
「ですから」
「これも当然のこと」
「はい、では臆することなくです」
 ネルソンは微笑んでパルプナに告げた。
「戦いに向かいましょう」
「わかりました」
 こう話した二人だった、そして。 
 司令官のレーティアがだ、一同に強い声で告げた。
「それでは今よりだ」
「はい、総攻撃ですね」
「敵の一点を」
「まずはそうする」
 こうマンシュタインとロンメルに答える。
「わかったな」
「はい、それでは」
「今より」
「損害は恐るな」 
 それで怯まず前進し攻撃をしろというのだ。
「この戦力ならばあの防衛ラインでもだ」
「一点を集中して攻撃すれば」
「突破出来る」
 それが可能だからだというのだ。
「穴さえ開ければだ」
「そこから突破出来ますね」
「その通りだ、一重の防衛ラインは突破すれば終わりだ」
 こう考えると精神的にも楽だった、何重もの防衛ラインを突破するよりは。
「全力で行く、いいな」
「了解です」
 エルミーがレーティアの言葉に応える、そして。
 彼等はレーティアの言葉通り全速力で戦力を集中させて突撃を開始した、マリーはそれを見てイギリスに言った。
「じゃあ祖国さん、今からね」
「ああ、連中を倒そうな」
 イギリスはモニターを通してマリーに答えた。
「丁度おあつらえ向きに」戦力を集中させてるからな」
「狙い目だね」
「ああ、防衛ラインと艦隊の戦力を同時に向けてな」
 そしてだというのだ。
「一気に攻撃してだ」
「倒そうね」
「普通防衛ラインに近付くには散開するんだがな」
「まさか集中させるなんてね」
「何考えてんだ、奴等は」
 イギリスは首を傾げさせもした。
「ここで一気に叩かれれば連中も困るだろうにな」
「そうだね、そこがわからないけれどね」
「それならな」
 イギリスは内心焦っていた、マリーも。
 エイリスは負けが込んでいる、アフリカ以外の植民地を失い連合の中での立場も危うくなっている、しかもソビエト軍も敵になっている。
 それでは焦るのも当然だ、そしてその焦りが彼等から普段の冷静さを失わせていた。
 それでだ、今二人は敵の考えをあまり読まず集中攻撃を選んだのだった。
「やってやろうな」
「そうだね、じゃあね」
「おい皆いいな」
 イギリスは全将兵に告げた。
「敵の戦力を叩くぞ」
「はい、集結して突撃してくる敵を」
「今からですね」
「そうするからな」
 イギリスは自ら乗艦を前に出して攻撃にかかった、それでだった。 
 エイリス軍は艦隊も防衛ラインも枢軸軍に集中攻撃を浴びせる、ダメージは受けていた。
 だがそれでもだった、そのダメージをものともせずだった。 
枢軸軍は突撃を続ける、むしろその突撃によって。
「どうだ、集中していても全速で進めばな」
「狙いが定まらないからな」
「ダメージは抑えられるな」
 ドイツとプロイセンが応える。
「しかもエイリス軍は広範囲攻撃はしない」
「だから余計にいいな」
「そうだ、ダメージは確かに受けているがだ」
 エイリス軍も攻めてきている、それではだった。
「こうして進めばだ」
「かえってダメージは少なく済む」
「それでか」
「間も無く攻撃射程に入る」 
 防衛ラインを射程に入れるというのだ。
「艦載機のな」
「まずは艦載機で攻め」
「次だよな」
「次はビームだ」
 すぐにその攻撃に移ってだというのだ。
「ミサイルも鉄鋼弾も全て一点に攻める」
「鉄鋼弾まで進めればな」
「突破出来るよな」
「間違いなくな、あの防衛ラインといえどもだ」
 枢軸軍の攻撃力で何度も攻めればだというのだ。
「間違いなく穴が開く、そうすればだ」
「そこに入り」
「そうすれば最早防衛ラインは気にしなくていい」
 攻撃方向が向いていないからだ。
「後はエイリス艦隊だけだ」
「ではこのまま」
「攻撃を開始する」
 こうエルミーに告げた、そうして。
 枢軸軍はダメージを受けながらも彼等の攻撃に入った、まずは艦載機の集中攻撃を浴びせてだった。
 ビーム、ミサイルと放つ。防空体制やバリアを備えていても。
 枢軸軍の攻撃力で集中攻撃を浴びせてはだった、如何にその防衛システムでもだった。
 穴が開こうとしていた、それを見てイギリスははっとした顔で言った。
「そうか、奴等あえてダメージを受けてな」
「それでなのね」
「ああ、防衛ラインの突破を狙ってるんだよ」
 まさにそうしてだというのだ。
「ここで 抜けられるとな」
「まずいよね」
「防衛ラインは突破されたら終わりだよ」
 マリーに言わずともだった、これは自明の理だ。
「後は艦隊しか戦力がないからな」
「艦隊だけだとね」
「負けるからな」
 こうなるのだった、それではだった。
「まずいな、これは」
「あの、ここはね」
 マリーは咄嗟に解決案を出した、それはというと。
「あの敵の突破しようっていうポイントにね」
「艦隊を向けてか」
「うん、そこに艦隊を入れてね」
 そしてだというのだ。
「守ろう、そうしよう」
「そうだな、それがいいな」
 イギリスもマリーの提案に頷いた、そしてだった。
 エイリス軍は枢軸軍が攻めるその穴に艦隊を集中させた、当然そこからも攻撃を浴びせてくる。それを見てリトアニアが言う。
「そうしてくるんだ、向こうも」
「まずいですよ、このままでは突破出来ないですよ」
 エストニアも言う。
「ああして防がれては」
「まさかこのまま」
 ラトビアは泣きそうな顔で悲観の予測を述べた。
「防がれるんじゃ」
「そうなったらまずいよ」
「勢いを止められれば」
 そうなれば的になり集中攻撃を浴びる、それでは終わりだった。
「負けるよ」
「終わります」
「大丈夫ですか?ここは」
「止まったらそこで終わりだよ」 
 ロシアがバルト三国に言って来た。
「だから止まったら後ろから撃たれるかもね」
「は、はい。わかりました」
「そういうことですか」
「じゃあ止まらないでね」
 ロシアはにこりと笑ってバルト三国の面々に告げた。
「そういうことでね」
「はい、それでは」
「このまま進みます」
「止まらないです」
「督戦隊は置かないが止まるな」
 レーティアもこのことを言う。
「絶対にだ」
「じゃあ艦隊が来てもですね」
「予定は変えない」
 ウクライナにもすぐに答える。
「全軍このままだ」
「わかりました、速度を緩めずに」
「総攻撃だ」
 それを続けるというのだ。
「言った筈だ、この戦いでは損害を恐れない」
「そうしてですね」
「攻める、やはり一点集中突破だ」
 それに専念するというのだ。
「わかったな」
「わかりました」
 こう全軍に告げてだった、レーティアは進撃速度も攻撃の勢いも緩めさせなかった、そしてだった。
 エイリス艦隊にも正面から進む、左右の斜めから防衛ラインの攻撃も受けるが。
 それも気にせず攻撃を仕掛ける、それを見てマリーは言った。
「これはね」
「ああ、まるで特攻だな」
「あれって日本軍だよね」
 日本軍の専売特許だというのだ。
「今目の前の枢軸軍って欧州の国ばかりだけれど」
「日本軍はいないな」
 イギリスは敵艦隊の艦艇の色を見ていた、赤に黒、オレンジに紺とソビエトにドクツ、イタリン、オフランスの色だった。
「それでもな」
「特攻めいてるね」
「まさかあの連中自爆してでもやる気か?」
 イギリスはその可能性を考えた。
「そうしてくる気か?」
「おいおい、そんな筈ないだろ」
 ここでフランスがイギリスの前にモニターから言って来た。
「俺は死ぬつもりなんかねえぜ」
「出たな負けっぱなし」
 イギリスはそのフランスに減らず口から返した。
「久し振りに会ったな」
「ああ、御前も元気そうだな」
 お互いに嫌なものを見合った顔で話す。
「相当やられてるってのにな」
「人のこと言えるのかよ」
 イギリスは目を顰めさせてフランスに返す。
「マジノ戦からずっと負けてただろ」
「それはそっちもだろ」
「一回ドクツに勝ってるからなこっちは」
「殆どソビエトのお陰だろうが、この戦争での勝率どれだけだよ」
「最後に勝ってればいいんだよ」
「じゃあ最後も負けて有終の美を飾るんだな」
 こんな言い合いになる、だがだった。
 フランスは何処か親しげにだ、イギリスにこうも言った。
「この戦争が終わったらな」
「うちに来るっていうんだな」
「紅茶飲ませてくれよ」
 悪戯っぽく笑ってイギリスに言うのだった。
「宜しくな」
「ったくよ、何だかんだでいつも来るな」
「御前もだろ、それは」
「ああ、気が向いたら来い」
 イギリスもこうフランスに返す。
「紅茶位何時でも飲ませてやるよ」
「こっちも料理位何時でも振舞ってやるからな」
 フランスはこちらだった。
「最高級のオフランス料理をな」
「そこで最高級って言うのかよ」
「駄目か?」
「何かそこが引っ掛かるんだよ、いつも」
「そう思う様に言ってるからな」
「相変わらずだな、その辺りは」
「御前と同じだよ」
 こうお互いに話すのだった、そうして。
 二人は正面からぶつかった、そしてそのことは。 
 軍全体でだった、枢軸軍と連合軍は正面からぶつかった、その中でレーティアは冷静に指示を出していた。
「臆することはない」
「はい、このままですね」
「そうだ、正面から攻めていけ」
 そうしろというのだ。
「火力ではこちらの方が上だ」
「そして艦艇の防御力も」
「艦艇の質では優っている」
 レーティアはエルミーに言う、第八世代の艦艇はやはり強い。
「数は向こうの方が上だが」
「それでもですね」
「そうだ、艦艇の質で上回り」
 そしてだというのだ。
「提督の質もだ」
「我々の方が上ですね」
「勝てる」
 間違いなくだというのだ。
「このまま攻める、いいな」
「了解です」
「ついて来い、エルミー」
 今度はエルミーの直接告げた。
「この南アフリカでも勝利を収めるぞ」
「ジークハイル」
 エルミーはこの言葉でレーティアに応えた。
「この戦場でも。そして」
「そしてか」
「これからも」
 まさに生涯に渡ってだというのだ。
「私は貴女と共に」
「頼むぞ、どうやら私の次は」
「総統の?」
「いや、それはまだ言わないでおこう」
 言おうとしたが途中で止めたのだった。
「その時はまだだ」
「そうですか」
「全軍このまま攻撃だ」
 それを続けるというのだ。
「戦いは数だ、だが数が全てではない」 
「艦艇、そして将兵の質もですね」
「将の将もだ」
 レーティア、彼女自身に他ならない。
「このことをここでも証明する、では全軍このまま攻撃を続けるぞ」
「艦載機発進!」
 グレシアが命じた。
「いい、敵艦隊も一気に押し切るわよ!」
「はい!」
 こうしてだった、枢軸軍は正面に来たエイリス軍にもそのまま総攻撃を浴びせた、その総攻撃によってだった。
 数で勝るエイリス軍を押す、艦載機、ビームと続いてだった。 
 エイリス軍はその数を大きく減らした、それを見てだった。
 イギリスはマリーにだ、モニターから言った。
「次の鉄鋼弾攻撃もな」
「それも受けるとだよね」
「ああ、まずいぜ」
 それで戦局を決められるというのだ。
「艦隊が壊滅するからな」
「そうだね、最初に空母やられたから」
 艦載機でそうされたのだ。
「それに戦艦もね」
「向こうの戦艦にやられてな」
 エイリス軍の主戦力二つがそうなったというのだ。
「こっちは鉄鋼弾はな」
「あまりないからね」
「一方的にやられるだけだからな」
 水雷駆逐艦や潜水艦は弱いのだ、空母と戦艦に戦力を集中させているエイリス軍の特徴であり欠点でもある。
 それでだ、鉄鋼弾攻撃も受けるとだというのだ。
「負けるぜ」
「そうなるのね」
「ああ、まずいぜ」
「じゃあここは」
 マリーは逡巡してからだ、イギリスにこの決断を問うた。
「散開する?それで鉄鋼弾を退ける?」
「ああ、そうだな」
 イギリスもマリーのその決断を聞いて言った。
「さもないと鉄鋼弾を一方的に受けてな」
「本当に戦局決められるよね」
「避けないとな、けれどな」
「ここで陣形を散開したら」
「ああ、まずいぜ」
 こう言うのだった。
「あっという間に突破されるぜ」
「そうしたらやっぱり」
「終わりだよ」
 防衛ラインを突破されればやはり一緒だ、それで戦局が決定してしまうのだ。
 どちらの判断を下しても危うい、だがそれでもだった。
 イギリスも覚悟を決めてだ、こうマリーに言った。
「ここはな」
「どうすればいいの?」
「ああ、衛星達の中に入ってな」
 そうしてだというのだ。
「守るぜ」
「そうするのね」
「ああ、こうなったらそれしかない」
 散開しても突破される、そして集中したままでも鉄鋼弾攻撃で同じことになる、それではこれしかなかった。
「あくまで防衛ラインに篭ってな」
「消耗戦ね」
「それをやるしかないな」
「うん、じゃあ」
「防衛ラインを敷いてそれを楯にしてな」
 艦隊を剣として戦っていた、それをだというのだ。
「もうここは一つになってな」
「やるしかないのね」
「敵を消耗させてそれでやるしかねえ」
 イギリスはフランスが直接率いる艦隊と応酬を続けながら言う。
「じゃあな」
「うん、戦うよ」
 こう言ってそしてだった。 
 エイリス軍は枢軸軍の鉄鋼弾が来る前に防衛ラインの陣地の中に入った、そして防衛ラインの中から枢軸軍に攻撃を浴びせるのだった。
 だがその攻撃を受けてもだ、レーティアは言った。
「それではだ」
「このまま突破ですね」
「そうだ、そうする」
 こうオーストリアに答える。
「ここはな」
「はい、わかりました」
「そしてだ」
 レーティアはさらに言った。
「防衛ラインに入った敵艦隊を突破の後反転してだ」
「攻撃しますね」
「そうして戦う、わかったな」
「では」
 こう話してそしてだった。 
 レーティアは防衛ラインに入ったエイリス軍を一旦無視してだった、そのうえで。
 防衛ラインに穴を開けて突破した、そしてだった。
 即座に反転し防衛ラインに篭もり抵抗を続けるエイリス軍に攻撃を仕掛けた、この時枢軸軍は英リス艦隊も防衛衛星も共に攻撃した。
 そうして損害も恐れない攻撃の中で遂にだった、シャルロットの乗艦リシュリューから放った主砲の一撃がマリーの乗艦マリーポッポを撃った、それでだった。
「えっ、中破!?」
「はい、稼働率がかなり落ちました」
「動きがかなり鈍ります」
 そうなっているとだ、部下達が報告する。
「これ以上の戦闘ですが」
「かなり無理があります」
「そうなのね、けれど」
「おい、今からそっちに行くからな」
 モニターにイギリスが出て来て言って来た。
「待っていてくれよ」
「御免、これはね」
「おい、諦めるのかよ」
「もう船が動かないから」
 だからだとだ、マリーはあえて微笑んで己の祖国に述べた。
「だから僕はね」
「わかった、じゃあすぐに投降するんだ」
 その方がマリーにとって安全だと判断してだ、イギリスは彼女に告げた。
「わかったな」
「うん、じゃあね」
「枢軸軍は確かに敵だがな」
 だがそれでもだというのだ。
「捕虜の身の安全は保障してくれるからな」
「フランスさんもいるからだね」
「日本もそんな奴じゃねえ」
 捕虜に危害を加える様な国ではないというのだ、枢軸軍の盟主的な立場にいる彼がまずそうだというのだ。
「だからここはな」
「うん、じゃあね」
「けれどな、王女さんがやられてな」
 それにだった、イギリスは戦局全体を見て言った。
「しかもこの損害じゃな」
「艦隊随分やられたね」
「防衛ラインもズタズタだな、確かに敵に与えた損害は大きいけれどな」
 だがそれでもだった。
「もうこれ以上の戦闘はな」
「それじゃあもう」
「撤退だな」
 それしかない、イギリスはこの決断も下した。
「残った戦力は俺がケニアに撤退させる、王女さんはな」
「戦えない人をまとめてだね」
「投降してくれ、いいな」
「それじゃあね」
「絶対に取り戻すからな」
 マリーも南アフリカもだというのだ。
「それまで待っていてくれよ」
「再会の時までね」
「お互い元気でな」
 こう言葉を交えさせてだった、そうして。
 イギリスは残った戦力をまとめてケニアまで撤退した、その残った戦力は僅かだった。
 マリーは撤退する力もない戦力を連れて枢軸軍に打診した、その打診を受けてだ。 
 フランスがだ、こうレーティアに問うた。
「どうするんだい?」
「決まっている、それじゃあな」
「ああ、投降を受け入れるんだな」
「彼等は捕虜だ、そしてだ」
 それでだというのだ。
「この星域を占領しよう」
「ああ、そうするか」
「我々は勝った」
 このことは間違いないというのだ。
「捕虜の身の安全は保障する」
「いつも通りだな」
「その後のことは長官に任せよう」
「そういうことだな、しかしな」
 フランスは今の枢軸軍の艦隊を見た、そして言うことは。
「今回は随分やられたな」
「そうだな、かなりな」
「一旦マダガスカルに戻ってな」
「損害を受けた艦隊は修理させる」
「そうするしかないな」
「出来ればケニアやカメルーンに攻め込みたいが」
 だがそれはだった。
「しかしこの損害ではな」
「今は無理だ」
 ドイツも言う。
「艦隊を修理させよう」
「そうするべきだな」
「それからだ」
 ドイツは確かな声でレーティアに告げた、レーティアもそれに従いだった。
 南アフリカを占領した枢軸軍は今はマダガスカルにダメージを受けた艦隊を戻しそこで修理を行わせた、そして残った艦隊で今は南アフリカの防衛と治安回復に務めた。 
 その中でだ、祖国に戻ったパルプナは悲しい顔で共にいるネルソンに言った。
「南アフリカはこれまで」
「はい、その統治はですね」
「私達は別々にされていて」
「ここは特に人種隔離政策が酷かったですね」
「私も、色々と」
 ネルソンに悲しい顔で言う。
「そうなっていたから」
「私も祖国殿も何とかしようとしていましたが」
 イギリスも植民地は必要としても人種隔離政策までは必要と認めていなかった、それで彼は王族や騎士提督達と共にそうした政策を廃止しようとしていた。
 だが彼等は普段は本国にいる、植民地には中々目が届かなかったのだ。
「申し訳ありません」
「ネルソンさんが謝ることは」
「いえ、私達は知っていました」 
 無念の顔でだ、ネルソンはパルプナに答えた。
「そして何も出来ませんでした」
「だからなの」
「はい、貴女達に何も出来なかったので」 
 同じだというのだ、南アフリカの総督達と。
「そのことを考えますと」
「考えると」
「エイリスの植民地統治は」
 それはだというのだ。
「あってはならないものですね」
「そうだよ、これまであえて言わなかったけれどね」
 ビルメが来て言って来た、植民地の原住民である彼女がだ。
「植民地統治ってのは原住民にとっては迷惑なんだよ」
「そのことはわかっていたつもりですが」
「頭ではね」
「はい」
 その通りだというのだ。
「どうも」
「あんたは素晴らしい人だよ」
 ビルメはネルソンのその高潔な人格はわかっていた。
「イギリスさんにしてもね」
「はい、祖国殿は非常に立派な方です」
「うちのフランスさんもシャルロットさんもね」
 ビルメも彼等のことはわかっていた、だがだった。
「植民地ってのは結局上からの統治なんだよ」
「現地のことを考慮しない」
「だからあたし達も下に置かれてね」
「提供するだけの存在ですね」
「そうだよ、だからあたしは独立したかったし」
 それでだというのだ。
「こっちの祖国さんにも言ってたんだよ」
「セーシェルさんにも」
「支配されるってのはいいものじゃないんだよ」
 こう達観した顔で言うのだった。
「若しあんたが支配される立場になったらわかるよ」
「そうですね、その時に」
 ネルソンも苦い顔で応える。
「私達にしても」
「この娘みたいな娘をこれ以上生み出さない為には」
 パルプナを見ての言葉だ。
「植民地自体をね」
「なくしていくべきですね」
「実際に東南アジアやインドカレーは変わっただろ」
「はい」
「その国の人間が政治をする国になってね」
 独立してだ、そうなってだというのだ。
「変わっただろ」
「確かに」
「支配されている人間でも政治が出来るんだよ」
 これまでエイリスでは考えられていなかったことだ、エイリスはその彼等を正しく導く為に植民地を治めていると考えていたのだ。
 だが、だ、それがなのだ。
「実際はね」
「そうなのですね、そのことも」
「あんたもわからなかったね」
「この戦争まで。確かに現地のエイリス人達には問題がありましたが」
 だがそれでもだった、ネルソン程の人物でも。
「我々は彼等を正しく導けると思っていました」
「けれど違ったね」
「はい、我々は彼等を支配していただけでした」
 これが実体だった、植民地の。
「それだけでした」
「そうなんだよ、植民地はね」
「だからこそ欧州以外で否定されてきたのですね」
「ガメリカも植民地あがりだしね」
 これはカナダもだ。
「中帝国も華僑から植民地の話も聞いていたしね」
「華僑は東南アジアに多いですから」
「日本も知っていたしね、特にカテーリンさんはね」
「そうよ、植民地なんて絶対に駄目だから」
 今度はカテーリンが出て来た、そしてやや怒った顔でネルソンに言うのだった。
「同じ人間でしょ、同じ人間だからね」
「植民地統治はですね」
「私は絶対に許さないから」
 これがカテーリンの考えだった。
「ソビエトはそんなのは絶対に持たないし許さないの」
「植民地統治が間違っているからこそ」
「そう、植民地は許さないから」
 絶対にだというのだ。
「ソビエトはね」
「ではエイリスは」
「まあね、このままアフリカまで失えば一緒だけれどね」
 それでもだというのだ。
「植民地を全部手放してね」
「そのうえで」
「欧州の一国としてやり直すべきだね」
 ビルメから見たエイリスのこれからのあり方だ。
「まあ欧州の中で充分大国だからね」
「しかし最早ですね」
「ああ、世界帝国であることはね」
 それはもう、というのだ。
「ないね」
「そうですか」
「それはこの戦争で終わりだよ」
 間違いなくだ、そうなるというのだ。
「あんたならもうわかるだろ」
「はい、最早エイリスは勝てません」
「例え勝ってもね」
「植民地を維持する力はありません」
「エイリスが世界帝国である時代は終わるよ」
「そして植民地もまた」
「もうこうした娘は生み出したらいけないしね」
 ビルメはまたパルプナを見て言う。
「あんた達だけでやっていくんだね」
「そうあるべきですね、エイリスは」
「ああ、まああたしは個人的にシャルロットさんは好きだから」
 だからだというのだ。
「一緒にいるけれどね」
「友好関係にはあってもですね」
「それでも独立はしたからね」
 今フランス達はマダガスカルに居候している様なものだ、オフランス本国に帰るまでそこにいるだけである。
「友達ではあるよ」
「そうなりますか」
「ああ、これからはエイリスもね」
「わかりました、それでは」
 ネルソンはここまで話して全てを理解した、そしてだった。
 パルプナにだ、こう言ったのだった。
「それでは」
「これからはお友達として」
「これまでも貴女と私はそうだったと思いますが」
 それでもだというのだ。
「宜しく御願いします」
「私も」
 パルプナもネルソンに顔を向けて応える。
「ネルソンさんもモンゴメリーさんも嫌いじゃないから」
「だからですか」
「よかったら」
 ネルソンさえ、というのだ。
「これからも」
「はい、お友達として」
「宜しく」
 御願いするというのだ。
「そうしてくれたら」
「人に。人種が違うからといって」
 ネルソンもわかったことだった。
「優劣はありませんね」
「そうよ」
 カテーリンはこうネルソンに返した。
「誰も同じよ」
「そうした意味で共有主義もですか」
 正しい、ネルソンはこのこともわかった。
「そうなのですね」
「とにかくね、もう植民地はね」
 ビルメもネルソンに再び言う。
「終わらせないとね」
「そうですね、本当に」
「じゃあ南アフリカ戦の傷が癒えたらね」
「ケニア、そしてカメルーンですね」
 二つの星域を同時に攻めるのだった、次は。
「それからは」
「アンドロメダは少し厳しい?」
 カテーリンは首を傾げさせながらこう言った。
「やっぱり」
「アンドロメダは地中海の出入り口ですから」
 だからだとだ、ネルソンはカテーリンに答えた。
「エイリス軍は常に防衛体制を整えてきています」
「そうよね、じゃあ」
「ケニアとカメルーンは問題ありません」
 この二つの星域についてはだ、ネルソンはこう述べた。
「どちらも攻めるにやすく守るに難く」
「楽に攻められるのね」
「祖国殿もアンドロメダに退かれています」
 そうしてそこで指揮にあたっているというのだ。
「ケニア、カメルーンはまずは放棄されている様です」
「そうですか」
「はい、ですから」
 それでだというのだ。
「アンドロメダでの戦いを念頭に置いて兵を進めていきましょう」
「そういうことだね。じゃあね」
 ビルメも応える、こう話してだった。
 南アフリカから攻める枢軸軍はまずは南アフリカを攻略した、そのうえでこれからの戦略を進めていくのだった。


TURN119   完


                              2013・6・19



戦力も増えたという事もあり、今回はニ面侵攻だな。
美姫 「まずは南アフリカサイドね」
ああ。スエズの方が拠点としては重点を置かれているが、ここでマリーを捕虜にしたのは大きいな。
美姫 「相手の士気に影響するでしょうしね」
まずはこれでレーティアたちの方は一段落だな。
美姫 「勿論、まだ攻め続けないといけないけれどね」
まあな。次回はスエズ方面の話になるのか、こちらの続きになるのか。
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます。



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