『ヘタリア大帝国』




              TURN117  カテーリンの来日

 カテーリンはそのままソビエトの国家主席、そして共有党の書記長に留任した。これはソビエト人民の支持によるものだった。
 だがカテーリンは浮かない顔だった、その顔でやはり首相に留任したミーリャに言った。
「私でいいのかな、皆」
「国家主席と書記長に再任されたこと?」
「うん、皆投票してくれたけれど」
「だって。他に人いなかったし」
 本当にいなかった、誰も。
「皆がカテーリンちゃんを選んだからね」
「いいっていうのね」
「そうだよ、祖国さんもそう言ってたじゃない」
 ロシアもだというのだ。
「だからね。気にしないでね」
「このままでいればいいのね」
「そう、これまで通り皆の為に働いていこう」
「わかったわ。それじゃあね」
 カテーリンはミーリャの今の言葉には頷くことが出来た、だがだった。
 話はまだあった、今度の話はというと。
「それと来日のことだけれど」
「そのこと?」
「うん、決めたけれど」
 来日はするとだ、このことは決めたのだ。 
 だがそれでもだとだ、こう言うのだ。
「日本に行くとね」
「どんな国かわからないのね」
「だって日本だけじゃないから」
 行く国はだ、実はかなり大規模な外遊なのだ。
「資産主義の国を一杯行くじゃない」
「ガメリカにも中帝国にもね」
「東南アジアやオセアニアにも行って」
「アステカとインドカレーも行くわよ」
 つまり今の枢軸諸国を巡るのだ、まだ戦争中だが仕事を送ってもらいながらそのうえで巡っていくのである。
 そうして行くことを決めてもだ、カテーリンは不安な顔で言うのだ。
「どの国もはじめて行くから」
「大丈夫だよ、怖くないよ」
「怖くないの?」
「だって私や先生もいるし」
 ミーリャだけでなくゲーペもいるというのだ。
「それに祖国君と妹さんも一緒でしょ」
「うん」
「祖国君達は前から外国に行くことも多かったから」
 外交の必要からだ、ロシアも彼の妹も他国を訪問することが多かったのだ。 
 その二人もいるからだとだ、ミーリャはカテーリンに話す。
「何も心配いらないよ」
「そうなの、じゃあ」
「うん、安心してね」
「行けばいいのね」
「じゃあ訪問の時の制服をね」
「洗濯してね」
 カテーリンは自分のことは全て自分でしている、それで制服の洗濯もなのだ。
「アイロンかけてね」
「マントもそうしよう」
「ちゃんと綺麗にして行かないと」
 カテーリンはミーリャに話していく。
「お風呂にも入って」
「お風呂は外国にもあるわよ」
「サウナがあるの?」
「サウナだけじゃないみたいだよ」
 ミーリャはこのことを知っていた、だがカテーリンは知らなかった。
 それでだ、カテーリンはミーリャの今の言葉に目を丸くさせてそのうえで言った。
「そうだったの、サウナだけじゃないよ」
「お湯のお風呂やシャワーも多いよ」
「水風呂はないの?」
 サウナには付きものである、これは。
「そっちは」
「あるよ、国によるけれど」
「そうなの」
「色々なお料理もあるみたいだしね」
「贅沢なものは嫌よ」
 カテーリンは皆が同じものを食べないとそれを不平等と感じる娘だ、だから給食制度にしているのだ。
 それ故にだ、贅沢な一部の人間だけが食べるものはというのだ。
「私食べないから」
「あっ、御馳走は出してもらわなくていいってね」
「もう日本にはお話してるのね」
「ゲーペ先生が行く国の人達とお話してくれたから」
 彼女が手配してくれたというのだ。
「このことも大丈夫だよ」
「だったらいいけれど」
「行こうね、安心してね」
「ミーりゃちゃんが言うんなら」
 カテーリンも怖がることは止めた、そしてだった。
 カテーリンはソビエトの上層部と共に各国への訪問をはじめた、留守の間にも枢軸軍の修理とあらたな戦線への移動は行われておりその合間のことである。その留守はベラルーシとジューコフが預かることになった。
 二人は出発するカテーリンに敬礼をしてからこう言った。
「では留守の間は」
「お任せ下さい」
「軍も精鋭をインド洋方面に移しておきます」
「主席が戻られた時には」
 その時にはというのだ。
「アフリカでの戦いをはじめられます」
「その時にまた」
「御願いね、ソビエトのことも皆のことも」
 それに加えてだった。
「軍のこともね」
「わかっています、それでなのですが」
 ジューコフはカテーリンにこのことも話した。
「ドクツとの国境ですが」
「ワープ航路全部壊されたわよね」
「北欧には行けます」
 そこには、というのだ。
「ですがあの場所以外は」
「そうなのね」
「北欧奪還はアルビルダ王女のご要望もありまして」
 北欧連合の王女である彼女のだというのだ。
「すぐに取り掛かりますが」
「北欧からドクツには攻め入れないのね」
「エイリスにもです」
 この国にもだった。
「あの国もワープ航路を破壊してしまいました」
「それじゃあ北欧を解放するだけで」
「それだけになります」
 そこから攻め入ることは出来ないというのだ。
「どうしても」
「わかったわ、じゃあ枢軸諸国歴訪の後すぐにインド洋に行くから」
 カテーリンもそうするというのだ。
「北欧は御願いね」
「はい、わかりました」
 ジューコフはカテーリンの言葉に頷いた、そして今度はベラルーシがカテーリンに話した。
「アフリカ解放ですがあの場所はかなり暑いです」
「スノーさんのことね」
「あの方は南アフリカ方面に行ってもらうべきです」
 是非にだというのだ。
「他の星域は大丈夫ですが北アフリカに行かれれば恐らくは」
「どうなるの?」
「溶けてしまう様です、もっとも溶けた状態で冷蔵庫に入れると戻りますが」
 そうした意味でスノーは死なない、だがそれでもだった。
「戦えなくなりますので」
「わかったわ、じゃあスノー提督は」
「南アフリカ方面で御願いします」
「そちらに行ってもらって」
 こうしてこの話は決まった、カテーリンは来日前にそういったことを決めた。そのうえでミーリャやロシア達と共にまずは日本に赴いた。
 日本に行くとだ、まずは小澤と南雲にある場所に案内された。そこはというと。
 千本の咲き誇る桜の下だった、カテーリンは満開の千本桜を見て目を見張って言った。
「これが桜なの」
「はい、そうです」
「どうですかね、桜は」
 小澤と南雲がそのカテーリンに問う。
「お菓子も用意していますので」
「花見としませんか?」
「お花見?」
 ソビエトしか知らないカテーリンは花見と言われても首を傾げさせる、そのうえでこう言った。
「それって」
「今私達がしていることです」
 小澤はいつもの口調でカテーリンに答えた。
「こうして桜を見て楽しむことです」
「今私達がしていることが」
「桜を見ながらお菓子にやお弁当を食べて」
 そしてだというのだ。
「お茶やお酒も飲みます」
「そういうものなの」
「あっ、お菓子もお弁当もあたしの手作りなんで」
 特別なものではない、カテーリンの考えを聞いてあえてそうしたのだ。
「贅沢なものじゃないですよ」
「お握りに卵焼きに野菜の佃煮です」
 小澤がそのメニューを話す。
「焼き魚もあります。どれも日本の普通のメニューです」
「その通りだよ」
 ロシアもカテーリンに話す、うっとりとした顔で満開の桜達を見ながらの言葉だ。
「どれも日本君のところの家庭のメニューだよ」
「祖国君知ってるの?」
「うん、知ってるよ」
 自分の祖国であるロシアの話を聞いてだ、それでだった。
 カテーリンも納得した、それで言うのだった。
「それじゃあね」
「うん、それじゃあね」
「御願いするわ」
 カテーリンはあらためて小澤達に述べた、そして。
 一行は桜の下に敷きものを敷いてそのうえで座ってお弁当を食べた、それにお茶も。そのうえで言うことは。
「美味しい・・・・・・」
「うん、そうだよね」
「日本ではいつもこんなのを食べてるよ」
「贅沢さの度合いじゃロシアと変わらないですよ」
 南雲が笑ってその美味しさに驚いているカテーリンに話した。
「卵はロシアにもありますね」
「誰でもお肉も卵も食べられる国でないと駄目よ」
 カテーリンの強い信念の一つだ、いつも誰もが餓えずそうしたものが食べられる社会でないと駄目だというのだ。
「だからね」
「そうですね、このお魚、鮭ですけれどね」
 鮭を焼いたものだ、それもだった。
「ソビエトで普通に食べてますよね」
「ええ、そうよ」
「野菜にしても」
 人参やそうしたものもだった。
「全部ソビエトと同じですから」
「皆が食べているもので」
「まあお米は違いますけれどね」
 ソビエトはパンやジャガイモだ、こうしてものだとだった。
「本当に全部一緒ですから」
「それでこれだけ美味しいの」
「南雲さんのお料理の腕もありますが」
 小澤はこのこともあるがと、カテーリンに話した。
「日本ではごく普通の食事です」
「お菓子もですか?」
 ミーりゃは饅頭を食べながら小澤に問うた。
「これも凄く美味しいですけれど」
「はい、そうです」
 その通りだとだ、小澤はミーリャにも答えた。
「お茶も。普通の玄米茶です」
「これで普通で」
「日本では春になるとこうして皆でお花見を楽しみます」
 それが日本だというのだ。
「如何でしょうか」
「ソビエトには向日葵があるけれど」
 それでもだとだ、カテーリンは桜を見ながらお握り、海苔に巻かれたそれを手に取りながら話をした。
「桜は」
「ないですね」
 ゲーペも卵焼きを食べながらカテーリンに話した。
「とても」
「うん、こうした楽しみ方もあるのね」
 カテーリンは桜を見ながら言った、今は桜と弁当等を楽しんだ。
 リニアモーターカーにも乗った、そこから見える外の景色もだった。
 寒い国にいたカテーリンにとっては新鮮なものだった、駅もそこにいる人達も彼女にとってはあまりにも新鮮だった。
 それでだ、カテーリンは隣の席にいるロシア妹に言った。
「あのね」
「はい、何でしょうか」
「日本って資産主義だよね」
「そうです、この国も」
「お花見の時もだったけれど」
 その時も周りに多くの日本人達がいた、皆庶民だ。
 そして駅でも街でもだ、彼等の顔は。
「笑顔よね」
「しかも作り話ではありませんね」
「皆凄く幸せそうだけれど」
 言うのはこのことだった。
「資産主義なのに」
「資産主義でもですね」
「資産主義の国って一部の人だけがいい目をしてそれで殆どの人が苦しんでいる社会だって思ってたけれど」
「違うというのですね」
「そうかも知れないかなって」
 カテーリンは日本の民衆達がいる街並みも見ながら言った。
「思いはじめてるけれど」
「それはプロパガンダではなくですね」
「それもわかるから」
 カテーリンも伊達に国家元首ではない、それを見抜く目はあるのだ。
「全部ありのままの日本なのね」
「おそらく。これから回っていくどの場所もどの国もです」
「ありのままよね」
「そうです」
「資産主義の国ばかりなのに」
 カテーリンが全否定しているだ、碌でもない国ばかりである筈がだった。
「こんなにいい国だったなんて」
「何故こうした国になったかですね」
「見ていかないと」
 カテーリンは考える目で言った。
「今の歴訪でね」
「はい、では次は」
「御所よね」
「この国の国家元首である帝のいる」
「君主だけれど」
 これもまたカテーリンが否定してきたものだ、君主もだ。
 その君主に会いに行く、このことについても言った。
「今はどうした人かね」
「お会いしたいですね」
「どんな人なのか。興味が出て来たから」 
 それ故にだというのだ。
「行くわ、会いに」
「では」
 こうしてだった、カテーリンは今度は御所に入った。その門はというと。
 ロシア帝国の貴族の屋敷のものよりもずっとだった、そこは。
「これが宮殿の門なの?」
「そうみたいね」
 ミーリャも言う、カテーリンと共にその門を見て目を丸くさせていた。
「ここがね」
「何か、木で造られてるだけで」
「あまり大きくないしね」
「全然贅沢じゃないし」
「そうよね、確か日本の帝って凄く古くて日本も太平洋のリーダーなのに」
 その国家元首、君主である筈だ。しかしその彼等がだというのだ。
「とてもね」
「見えないけれど」
「ずっとこうなんだよ」
 ロシアが驚く二人に話した。
「御所はね。中もね」
「こんなに質素なの」
「強い風で吹き飛びそうだけれど」
「こういう場所だよ、中もね」
「質素なの?」
「こんな感じで」
「うん、靴を脱いで入ってね」
 御所の建物の中はそうだというのだ。
「行こうね」
「ではこちらに」
 ここの案内役は平良と福原だ、二人が宮中に案内した。
 カテーリン達は玄関で靴を脱ぎそのうえで宮中に入った、そしてその奥で帝の御前に出た、そこで最初にだった。
 カテーリンは立ったままだが帝に頭を下げた、そのうえで彼女に言った。
「御免なさい、工作員のことは」
「お気になさらずに」
「けれど私は」
「いいのです、戦争のことですから」
 それならばだというのだ。
「お互いに死力を尽くすものですから」
「だからなんですか」
「お顔を上げて下さい」
 帝は畳の部屋のその場所に座ったまま述べる。
「あらためてお話をしましょう」
「それじゃあ」
「では皆さんお座りになって下さい」
 帝からカテーリン達に言う。
「それでお話を」
「わかりました」
 カテーリンは帝の穏やかな言葉とそこにある度量に内心驚嘆しつつも応えた、そのうえでだった。
 帝と話をした、その話は講和のこととこれからの日本とソビエトとのことだった。
 その話が終わってからだ、カテーリンは用意されている宿舎に戻ってから言った。
「あの人が日本の帝なのね」
「うん、そうよね」
 ミーリャもカテーリンに応える。
「世襲じゃないって聞いてたけれど」
「君主でもね」 
 日本帝国の帝は柴神が選ぶ、そこが違うのだ。
「何か。君主っていっても」
「それぞれなのね」
「それにね」
 カテーリンは今も考える顔だ、その顔での言葉だった。
「君主っていっても責務があるのね」
「はい、そうです」
 カテーリンの今の言葉にはゲーペが答えた。
「世襲といいましても。エイリスがそうですが」
「やらないといけないことがあるのね」
「申し上げることが出来ませんでしたが」
 今まではそうだったというのだ。
「ですがそれもありまして」
「君主も好き勝手は出来ないのね」
「それでは務まりません」
 こうカテーリンに話す。
「到底です」
「そうなのね、それじゃあね」
「それではとは」
「オフランスのシャルロット王女とね」
 今度は彼女の名前を出した。
「お話したいけれど」
「あの方とですか」
「うん、出来るかな」
 怪訝な顔でゲーペに問うた。
「それは」
「出来ます。既に予定に入っています」
「そうなの、だったらいいけれど」
「同志書記長はこれから枢軸諸国を巡られます」
 そうしてだというのだ。
「そこで様々なものを御覧になられるでしょう」
「日本で見ているのと同じで」
「はい、そうです」
 そうだと答えるのだった、そして実際にだった。
 カテーリンはガメリカも中帝国も巡った、その時にだ。
 やはり様々な場所を案内され様々なものを見た、どちらも確かに貧富の差はあるが活気に満ちて雰囲気は明るかった。
 その明るいものを見てだ、カテーリンはまた言った。
「どっちも資産主義で貧富はあるけれど」
「どうだったかな」
「活気が凄いのね」
 こうロシアに答える、両国を巡って別の国に向かう途中の乗艦の中でのやり取りだ。
 カテーリンは窓から銀河を見ている、そうしながらロシアに話したのだ。
「ソビエトよりもずっと」
「そうだね、全く違うよね」
「どうやったらあれだけ活気に満ちるの?」
 カテーリンはこの場でも考える顔で言った。
「ソビエトじゃとても」
「資産主義だからかな」
 ロシアはこうカテーリンに答えた。
「だからじゃないかな」
「資産主義だから?」
「うん、資産主義は、僕も最近本を読みはじめたばかりだけれど」 
 その資産主義経済の本をだというのだ。
「競争があるからね」
「それで相手に勝とうと思ってなの」
「頑張るからね」
 頑張るとどうなるか、そのことだった。
「だから皆活気があるんだよ」
「けれど誰かが勝ったら」
 カテーリンはここでも共有主義的思考から言った。
「誰かが負けるよね」
「うん、そうなるね」
「負けた人はどうなるの?」
「他の場所で頑張るかね」
 若しくはだった。
「もう一度そこで頑張ってリベンジをするか」
「そうするの」
「そうするからね、資産主義は」
「だから活気はあるのね」
「そうみたいだよ、けれどね」
「けれどって?」
「書記長はやっぱり」
 ロシアはカテーリンの気持ちを慮ってこう言った。
「負けた人のことを考えるよね」
「うん、困らないかなって」
「そうだよね」
「頑張れる人はいいけれど」
 ソビエトでは運動会も全員一緒にゴールする、そうした競走というものを否定しているからそうなるのだ。
「そうじゃない人は」
「だから資産主義にも問題があるから」
 ロシアは本で読んだこのことをカテーリンに話した。
「そこは注意してね」
「そうしてなのね」
「共有主義に取り入れていけばね」
「それでいいのね」
「うん、そうだよ」
 ロシアはカテーリンに微笑んで告げた。
「その辺りはじっくりと考えてね」
「じゃあいいこと、凄いことをした人には」
 学校の中の様な考えでだ、カテーリンは呟いた。
「褒めるとかご褒美とか」
「そういうのでいいんじゃないかな」
「そうなのね。じゃあね」
「それじゃあって?」
「帰ったら政策として出してみるから」
 資産主義の考えも入れたその政策をだというのだ。
「農業や工業でね」
「そうするといいと思うよ」
 ガメリカ、中帝国ではこうしたことに気付いた、そしてさらにだった。
 東南アジアやオセアニアも巡った、そこはというと。
「自然をあんなに大切にするのね」
「凄かったね」
 今度はお茶をジャムを舐めつつ飲みながら話す、一行は今回は休憩の時間で紅茶とお菓子を楽しんでいる。その中でのやり取りだ。
「四国の総督さんもね」
「うん、あんなに自然を大切にされて」
「大怪獣もね」
 一行はこちらも見た。
「凄かったよね」
「大怪獣自体も凄かったけれど」
 それに加えてだというのだ。
「自然と一緒にいて」
「開発も大事だけれどね」
「うん、環境もなのね」
「大事なのね」
 二人はこのことにも気付いたのだ。
「綺麗な場所をそのままにしておくことも」
「そのことも政策に入れるの?」
「うん、入れるわ」
 こうミーリャに答える。
「さもないと大変なことになりそうだから」
「そうだね、じゃあね」
「環境保護の政策もするから」
 東南アジアやオセアニア、特に四国で学んだことだった。だが中南米では。カテーリンはハニーにむっとした顔でこう言ったのだった。
「あの、いい?」
「何だホーーーー」
「この国って変なゲームばかり出てるけれど」
「どれでも好きなのを持って行っていいホーーーー」
「持っていかないわよ、むしろね」
「何が言いたいホ?」
「あんないやらしいゲームばかり作って売って」
 それがだというのだ。
「絶対に駄目よ、許さないから」
「許さない!?どういうことだホ!」
「そのままよ、いやらしいゲームは絶対駄目よ」
 生真面目で潔癖症のカテーリンらしい言葉だ。
「だからこういうゲームを作ってやるのも止めるべきよ」
「そんなの絶対に無理だホ!」
 ハニーは目を怒らせてカテーリンに反論した、場所はアステカのピラミッドの上だ。そこをハニーに案内してもらいながら口論になったのだ。
「エロゲはアステカの文化であり重要な産業だホ!それを作ることもしないことも絶対に出来ないホ!」
「駄目よ、絶対に駄目!」
 カテーリンも言い返す。
「こんなゲームは駄目!風紀に関わるわ!」
「御前に言われたくないホ!」
「どうしてよ!」
「アステカはアステカ、ソビエトはソビエトだホーーーー!」
 目を怒らせてこう主張する。
「だから絶対に駄目だホ!」
「駄目よ!」
「駄目だホ!」
 お互いにムキになって言い合う、だがだった。
 のぞみがだ、ここで両者に言った。
「あの、このことも」
「このことも?」
「のぞみ、どうしたホ?」
「文化の違いですから」
 だからだというのだ。
「そう考えて意固地になることも」
「ないの?」
「そうだホ?」
「むしろそうして喧嘩になる方が問題ではないでしょうか」 
 気弱な感じだがだ、のぞみは二人に言うのだった。
「お互いを認めないことの方が」
「いやらしいゲームをしてても?」
「それを止めることもホ?」
「はい、資産主義と共有主義の違いも」
 それもまた然りだというのだ。
「お互いに認めて」
「そうしてなの」
「付き合っていくべきホ」
「はい、そう思うんですが」
 のぞみはこう二人に話した。
「どうでしょうか」
「ううん、そうしたら喧嘩もしないし」
「別に同盟国と喧嘩する必要はないホ」
 二人ものぞみの考えを受けてそれぞれ言った。
「それじゃあ」
「ここはホ」
「アステカはアステカで」
「ソビエトはソビエトだホ」
「そう考えればいいのね」
「そういうことだホ」
「私はそう考えるんですが」
 二人の強烈な個性に押されながらもだ、のぞみは答えた。
「どうでしょうか」
「そうね、じゃあね」
「喧嘩は止めるんだホ」 
 二人も愚かではない、のぞみの言葉を受けてだった。
 お互いに手を差し出して握手をしてから再び話した。
「御免なさい、おかしなこと言って}
「こっちも怒り過ぎたホ」
「アステカはアステカよね」
「ソビエトにはソビエトのゲームがあるホ」
「そうしてことを考えていかないと」
「こうした喧嘩になってしまうホ」
 二人で話す、そのうえで和解をしたのだった。
 そしてアステカの一国だったキューバではだ、マリンブルーのビーチと綺麗なスカイブルーの空を見て笑顔で言うのだった。
「ここ凄いよね」
「うん、最高だよね」
 カテーリンは黒のスクール水着姿だ、その姿でビーチでくつろいでいるロシアに言ったのだ。
「キューバって」
「こんな綺麗な場所があるなんて」
「書記長さんはキューバが気に入ったんだ」
「もう大好きよ」
 満面の笑顔で言う。
「海もお空も綺麗で」
「ジュースも美味しいよ」
 白いスクール水着のミーリャは大きなグラスの中のトロピカルドリンクをストローで飲みながらカテーリンに言って来た。
「それも凄くね」
「あっ、そのジュースって」
「うん、オレンジとかパイナップルのね」
「それのジュースなの」
「バナナも入ってるよ」
 どれもロシアにないものばかりだ。
「凄く美味しいから、カテーリンちゃんもどう?」
「うん、じゃあ」
 カテーリンもミーリャの言葉に頷いてそのジュースを飲んでみた。ミーりゃの飲んでいるそのトロピカルドリンクを別々のストローで同時に。
 そうして飲んでからだ、こう言った。
「凄い、ミーりゃちゃんの言う通りよ」
「美味しいよね」
「うん、凄く」
 満面の笑みでの言葉だった。
「これがキューバの味なの」
「ああ、そこにおったんやな」
 そのキューバが来た、右手を挙げて気さくな調子で言ってくる。
「どやろ、俺の作ったジュースは」
「うん、凄く美味しいから」
「最高ですよ」
 カテーリンとミーリャはキューバの問いに同時に答えた。
「これだとね」
「幾らでも飲めます」
「それは嬉しいな。それじゃあ今度は食べてくれるか?」
 キューバは二人の言葉にさらに明るい顔になってこうも言って来た。
「アイスもあるで」
「キューバさんのアイスもなの」
「いただいていいんですね?」
「遠慮することないで、どんどん食べてくれや」
 やはり気さくな笑顔で返すキューバだった。
「そやったらな」
「うん、じゃあ次はね」
「アイスも御願いします」 
 二人は今度はキューバの作ったアイスを食べた、その味はというと。
「こんなアイスロシアにはね」
「うん、ないよね」
「アイスはあってもこんなに美味しいアイスなんて」
「私食べたことないよ」
「どうしてこんなに美味しいのかしら」
「ちょっとわからないよね」
 二人はキューバのアイスからこのことにも気付いた。
「何かね」
「凄く違うよね」
「まあ暑い場所で食べてるし」
 アイスはそうした場所で食べるのが美味い、尚日本は冬のコタツの中でアイスを食べるという桃源郷も見出している。
「それに素材も調理法も考えてるしな」
「作り方もなの」
「それもなんですか」
「どうやったら美味いアイスが出来るか」
 今以上に、というのだ。
「ただ作るんやなくてな」
「作るだけじゃないの」
「それで食べるだけでもないんですね」
「そや、俺はそう考えてな」
 そうしてだというのだ。
「作ってるんやけどな、そのアイスもジュースも」
「努力しないと、こうしたことも」
「それでこそやと思うで。ほな次はな」
 キューバは海を見た、そのうえでカテーリンに言うことは。
「泳ぐか?皆で」
「うん、それじゃあ」
「うちの海は最高やで。中に入るとめっちゃ気持ちええからな」
「一緒にね」
「泳ごうな。泳ぎも教えるで」
 実はカテーリンはまだ浮き輪を持っている、その彼女にだった。
 キューバは丁寧に泳ぎを教えた、カテーリン達はキューバも楽しんだ。
 今度はインドカレーだった、そこに行くと様々な宗教があった、カテーリンはまずインドカレーのその暑さに参ってしまった。
「暑いわね」
「そうですね」
 ゲーペが応える、二人共目をくるくるとさせて参っている。
「この暑さはね」
「正直参りますね」
「これがインドカレーの暑さなの」
「かなり辛いです」
「そうした人にはたい」
 その二人にインドが微笑んで言って来た。
「カレーがあるたい」
「本場インドのカレーね」
「かなり辛いけれどいいかな」
「う、うん」
 怯みそうになったがそれは何とか隠した、そしてだった。
 何とか強がってだ、カテーリンはインドに返した。
「何でも食べないとよくないし私辛いのも平気だから」
「そう、それじゃあね」
「そのカレーをいただくわ」
 インドに対してはっきりと答えた。
「是非ね」
「わかったたい、すぐに持って来るたい」
 こうしてインドのカレーが持って来られた、だがカテーリンはそのカレーを見て目を丸くさせてしまった。
 そのうえでだ、今座っているテーブルの右隣にいるロシア妹にこう問うたのだった。
「チキンカレーだけれど」
「はい、インドカレーですから」
「インドカレーだからなの」
「インドカレーっていうと」
 ここでカテーリンも気付いた、その気付いたことはというと。
「ヒンズー教よね」
「はい、その他にもです」
 ロシア妹もカテーリンに応えて話す。
「ジャイナ教やイスラム教もあります」
「色々な宗教があって」
「それぞれの戒律があります」
 それ故にだというのだ。
「牛肉や豚肉を食べられない宗教が多いので」
「だからこのカレーもなの」
「はい、チキンカレーです」
 そうなっているというのだ。
「もっと言えば野菜カレーも多いです」
「菜食主義なの」
「インドカレーではそうした方も多いです」
 宗教的な理由であることはここで話している通りだ。
「そうなのです」
「ううん、ソビエトだとそういうことは」
 共有主義を最高としていて宗教、キリスト教をあまり重視していない。それでだった。
「考えてないけれど」
「あらゆる宗教のことを考えることもですね」
「大事なのね」
 カレーでもこのことがわかるというのだ。
「そうなのね」
「その様ですね」
 こうした話をしてそのチキンカレーを食べてみた、すると。
 予想外の辛さだった、カテーリンの顔は忽ちのうちに真っ赤になった。
「な、何これ!?」
「かなり辛いですね」
「こんなに辛いのははじめてだけれど」
 これまでメキシコ料理は食べている、韓国料理は食べていないが。
 メキシコ料理もタバスコのせいで辛かった、だが今食べているカレーの辛さには遠く及ばなかったのである。
 それでカテーリンは汗も滝の様に流した、そして言うことは。
「こ、これはかなり」
「無理ですか?」
「大丈夫だから」
 その意志の強さを出してロシア妹に答える。
「これ位はね」
「そうですか」
「気にしないで」
 ロシア妹にこうも言う。
「これ位大丈夫だから」
「ではですね」
「最後まで食べるわ、絶対に残さないから」
 カテーリンは食べ物を残すことは大嫌いだ、それでこう答えたのだ。
 それで何とか食べてだ、汗だくの真っ赤な顔で言ったのだった。
「これでいいわね」
「お見事です」
「有り難う、ただね」
「ただといいますと?」
「さっきまであんなに暑かったのに」
 それがだというのだ。
「今は凄く涼しいわ」
「暑い時には暑くて辛いものがいいたい」
 ここでインドがカテーリンに言った。
「それがいいたい」
「冷たくて甘いものじゃないの?」
「それもいいたいが」
 健康の為にはというのだ。
「僕はそちらを食べているたい」
「そうなの」
「そうたい、それで満足してくれたたいか?」
「うん、美味しかったから」
 そうした意味でも合格だったというのだ。
「有り難う」
「そう言ってもらって何よりたい」
 インドも微笑んで応える、カテーリンはそこからマダガスカルにも赴きシャルロットにも会った、そして話すことはというと。
「シャルロットさんはお姫様だけれど」
「とはいっても四女ですが」
 王家としての順位は低いものだというのだ。
「しかも祖国さん達にいつも助けてもらっていますし」
「偉くないっていうのね」
「どうして私が偉いのでしょうか」
「けれど王族だから」
「王族だからといって偉いかといいますと」
 それは、というのだ。
「また違うと思います」
「じゃあどうしたら偉いの?」
「そうですね、立場ではなく」
「その人なの?」
「はい、人格だと思います」
 それが重要ではないかというのだ。
「私はそう思います」
「人格で決まるの、人間は」
「しかもそうした人は」
 人格者になるとどうなつかというと。
「自分で自分を偉いとは言いませんから」
「それはわかるわ。自分で偉いと思ってる人なんてね」
「大したことはありませんね」
「ええ、下らない人よ」
 所詮その程度の人間でしかないというのだ、自分で自分を偉いと言ったり思っていたりしている人間というのは。
「つまり人は人格で決まって」
「そうした人は自分から言いません」
「そういうことね。じゃあシャルロットさんは」
「私が、ですか」
「偉い人ね、だって凄くいい人だから」
 それ故にだというのだ。
「偉ぶったりしないし」
「だからですか」
「私はそう思うわ。それでね」
 カテーリンはシャルロットにさらに話した。
「これからだけれど」
「はい、今からですね」
「シャルロットさんはビルメさんと」
「ああ、そうだよ」
 場にはビルメもいた、その彼女もカテーリンに言って来たのだ。
「書記長さんを招待してね」
「それで、よね」
「温泉に案内しようって思ってるんだよ」
「書記長さんは綺麗好きと聞いていますので」
「お風呂は毎日入ってるわ」
 実際にそうしている、尚ソビエトでは毎日の入浴も義務付けている。
「だって一日でも入らないと汚いから」
「はい、ですから温泉を用意しておきました」
「一緒に入ろうね」
「温泉はマダガスカルにもあったのね」
 カテーリンはこのことも知った、この暑い熱帯の星域でもだ。
「じゃあお誘いに甘えて」
「ソビエトじゃサウナだったよね」
「ええ、そうよ」
 カテーリンはビルメの問いにも答えた。
「思いきり汗をかいてそれからね」
「水風呂に入るんだったね」
「そう、勿論身体も洗うわよ」
「あっちも中々面白そうだね、それじゃあね」
「うん、じゃあ今は皆で温泉に」
「うん、入ろう」
 こう話してそしてだった。
 ソビエトの一行はシャルロット、ビルメと一緒に温泉を楽しんだ。しかし一行の中で黒一点のロシアはというと。
 フランスと二人でサウナに入っていた、そこでこう言うのだった。
「ねえ、僕達って今回さ」
「ああ、そうだよな」
 フランスはロシアの横にいる、サウナの席で腰にタオルを巻いてそれぞれ座っている。
「除け者だよな」
「僕ここに来るまで普通だったんだけれど」
「温泉になるとは」
「混浴じゃないからね」
「俺是非混浴にしようって王女さんに言ったんだよ」 
 それもかなり強く言った、フランスらしく。
「それで王女さんは頷きかけたんだけれどな」
「どうして駄目になったの?」
「妹がな、反対してな」
 それでだというのだ。
「俺は今回の接待役から外されたんだよ」
「そうだったんだ」
「御前と一緒にいるだけでいいって言われてな」
「厳しいね、フランス君の妹さんは」
「ああ、厳しいよ」
 実際にそうだというのだ。
「もうかなりな」
「そうみたいだね、まあその話は置いておいてね」
「ああ、サウナだよな」
「まずはこうしてたっぷりと汗をかいてね」
 ロシアは微笑んでフランスに話していく。
「汗を一旦流してからね」
「水風呂に入ってだよな」
「それで身体を冷やして」
 そしてだというのだ。
「またサウナに入る、これを繰り返してね」
「身体の中の悪いものを出すんだよな」
「そうだよ、勿論後で身体も洗うし」
 これも忘れない。
「身体に凄くいいんだよ」
「それは知ってるさ、それにな」
「あっ、お酒もだよね」
「二日酔いもこれでなくなるからな」
「身体にはよくないけれどね」
「一番悪いのは飲みたてて入るのだよな」
 泥酔してサウナに入る、これはもう自殺行為だ。
「せめて二日酔いでないとな」
「下手したら死ぬからね」
「国家でもよくないからな」
 だからだった。
「サウナにも気をつけないとな」
「そうだよ、僕もそこは気をつけてるから」
「ウォッカもな」
 ロシアといえばウォッカだ、カテーリンもウォッカを飲むことについては人民に対して一切言わない程だ。
「強いからな」
「だから飲んですぐには入らないんだ」
「飲む前に入るんだよな」
「うん、そうしてるよ」
 これがロシアの酒の飲み方、風呂の入り方である。
「フランス君もだよね」
「ああ、もっともバロックとかロココの時はな」
「お風呂、入らなかったよねえ」
「何年に一回入ればよかったな」
 それが当時のオフランスだった。
「それこそ蚤やら何やらが出てな」
「そう、うちの書記長さんそういうのが大嫌いだから」
「人民は毎日一回はか」
「絶対に風呂に入るって決まってるんだ」 
 勿論サウナだ、そこで身体を綺麗にするのだ。
「そうなってるよ」
「だよな、やっぱり清潔じゃないとな」
「それで今もなの?何年に一回とかなのかな」
 入浴がだというのだ。
「どうなのかな」
「ああ、今は毎日入ってるよ」
「だったらいいけれどね」
「シャワーの時が多いけれどな」
 この辺りはフランスだ、日本では湯舟になる。
「綺麗にしてるさ」
「今の時代じゃね、やっぱり」
「不潔だと女の子にも相手にされないからな」
 フランスは彼らしく言った、そして。
 フランスはサウナで汗を流しながらだ、ロシアにこうも言った。
「じゃあ一旦水風呂に入ってな」
「身体を冷やしてね」
「またサウナに入って」
「そうするか」 
 こう話してだった、そのうえで。
 二人でサウナを楽しんだ、そしてその後は。
 フランスは自分の料理をロシアに振舞った、振舞ったのは彼に対してだけだった。
 それでだ、ロシアはフランスにここでも言った。
「書記長さん達はね」
「ああ、妹と王女さんが応対してるよ」
「そうだよね、男は男でね」
「セーシェルも向こうに言ってるんだよな」 
 フランスは寂しい顔で言う、ロシアの向かい側の席に座ってそのうえで自分自身が作った料理を食べて言うのだった。
「で、男二人はな」
「今こうしてるんだね」
「向こうは魚介類のバーベキューだよ」
 カテーリンの好みで贅沢ではない、それでもだった。
 男二人はそこにはいない、それで言うのだった。
「何か俺お父さんになった気分だよ」
「お兄さんじゃなくてだね」
 フランスは普段自分をお兄さんと言っている、しかし今はだった。
「娘は全員向こうで遊んでてな」
「僕達はここでだね」
「ああ、そうだよ」
 父親の様にだというのだ。
「寂しくな」
「まあこれも務めかな」
「そうなんだろうね、国家としてのね」
「王女さんは最初は俺がいないとな」
 何も出来なかった、かつての彼女は。だが今はというと。
「それがな、こもうな」
「立派に一人立ちしたんだね」
「そうだよ、嬉しいけれどな」
 それでいてだというのだ。
「寂しいものだってな」
「今わかったんだね」
「ああ、そっちはどうだよ」
「僕もね。どうもね」
 フランスの料理を食べながらだ、ロシアはフランスに答えた。
「今はね」
「これまで何度もあったけれどな」
「一緒にいて頼りにしてもらっていた子が一人立ちしてね」
「一人でやっていくようになるのを見るのってな」
「嬉しいけれど」
「寂しいな」
 実際にだった、フランスは同じ笑みになっていた。そのうえでだ、フランスはロシアが自分と同じ笑みになっているのも見た。
 それでだ、こうも言った。
「まあ今日は寂しい者同士でな」
「うん、一緒にね」
「食うか、それでな」
「飲もうね」
「ワインだけれどいいよな」
「勿論だよ、僕ワインも大好きだから」
 いいとだ、ロシアはそのフランスに微笑みで返した。
「今日は一緒にね」
「ああ、飲むか」
「そして食べようね」
「何ならまだオムレツとか作るからな」 
 フランスが特に得意とする料理だ、特に朝はよく食べる。
「楽しんでくれよ」
「そうさせてもらうね。そうそう」
「?何かあるのか?」
「今思い出したことだけれど」
「何だよ、その思い出したことって」
「うん、ゲーペ長官って実はね」
 彼女はだ、どうかというと。
「お酒が過ぎると脱ぐから」
「おい、それってやばいだろ」
「あれっ、ここで見に行きたいとか言うと思ったけれど」
「素面ならそうだったんだけれどな」
 今は飲んでいる、それでだった。
「もうかなり飲んでるからな」
「だからなんだ」
「下手に動けないんだよ、けれど脱ぐんだな」
「相当飲まないとそうならないけれどね」
 だがそれでもだというのだ。
「脱ぐこともあるから」
「じゃあここは王女さん達に連絡するか」
 言いながら携帯を取り出す。
「既に脱いでないといいな」
「時間的にまだそこまで飲んでないと思うから。それにこっちも僕の妹や書記長さん達もいるから」
「大丈夫か」
「一人か二人で飲んでるとついつい飲み過ぎるんだ」
 それがゲーペだというのだ。
「まあ今は大丈夫かな」
「皆で飲んでるとか」
「そこだと先生役に徹するからね」
「じゃあメールするまでもないか」
「多分ね。けれど長官もね」
「前はもっときつい感じだったよな」
 フランスはソビエトが連合にいた頃のゲーペの話をした。
「厳しいっていうか」
「戻ったね、かつての先生に」
「元々はああした人だったのか」
「本当は優しい人なんだ」
 ロシアは微笑んでゲーペの実際の性格を話した。
「いい先生なんだよ」
「本当はそうなんだな」
「そう、降伏まではあの石の影響もあって厳しい感じだったけれど」
「戻ったのか」
「そうだよ。ただあの石は」
 ロシアは石のことも話した、カテーリンの手にあった石だ。
「何だったんだろうね」
「あれな、本当にわからないよな」
「書記長さんもたまたま拾って何かわからないって言ってるし」
「しかもな、気付いたか?」
「柴神さんだよね」
「あの人、まあ人って言うけれどな」
 ここでは便宜上こう表現した。
「何かあの石を見て凄く嫌そうな顔してたな」
「それで砕けた石を回収して何処かに持って行って」
「何か知ってるみたいだな」
「みたいだね、よくわからないけれど」
「あの石のことを知ってるみたいだな」
 フランスはこのことを察してロシアに言った。
「それでも俺達が聞いてもな」
「絶対に話してくれないと思うよ」
「だよな、やっぱり」
「うん、謎があるにしてもね」
 二人はあの石のことも話した、しかしそうした話はここで終わってだった。
 マダガスカルまで回ったカテーリンはソビエトに戻るとすぐにこれまでの政策を大幅に変更した、共有主義は共有主義だが。
「情報を公開してですか」
「ええ、それにね」
 ゲーペに対して話す、その政策について。
「個人の財産と貨幣もね」
「復活ですか」
「ただ、貧富の差がない様に累進課税と相続税は高くして」
「消費税ですね」
「高級品には高くかけるわ」
 それで貧富の差が出来ることを事前に防ぐというのだ。
「それと複数政党制も導入して」
「宗教者の権利の保障もですね」
「そう、それと給食の献立の種類も増やして」
 そちらも改革していくというのだ。
「娯楽もね」
「大幅な規制の緩和ですか」
「どうもこれまでのソビエトの政策は厳し過ぎたみたいだから」
 諸国を巡って実感したことだった、カテーリンは過去の自分の政策を省みて眉を曇らせて語る。
「だからね」
「これからはですか」
「そう、共有主義はそのままだけれど」
「情報公開に様々な大幅な緩和に」
「言論の自由もね」
 それもだった。
「いいから」
「企業の経営もですか」
「うん、それもね」
 経済もだ、その政策を大幅に緩和させるというのだ。
「変えていくから」
「本当に何もかもをですね」
「共有主義は皆を幸せにする思想よ」
 このことは認識を変えない、カテーリンの譲れないところだ。
 しかしそれと共にだった、反省もして政策を変換させるというのだ。
「厳しいだけじゃそうならないから」
「それで各国との貿易もですか」
「していくわ、これからはね」
 つまりこれまでの鎖国的政策も変えるというのだ。
「そうしていくから。どうかな」
「いいと思います」
 ゲーペは微笑んでカテーリンに答えた。
「それでは」
「うん、この政策はね」
「ペレストロイカですね」
 そうなるというのだ、ゲーペはカテーリンに答えた。
「我が国にとって」
「うん、じゃあこのペレストロイカでね」
「ソビエトを本当の意味で皆が幸せになれる国にしましょう」
「秘密警察も役割を変えるから」
 ゲーペが統括する彼等についてもだった。
「もう人民の皆を監視するんじゃなくてね」
「普通の警察としてですね」
「統合していくから、御願いね」
「はい、わかりました」
 元々ゲーペは内相でもあり警察も統括している、だからこの決定にもよく理解したうえで頷いた。
「それではそちらも」
「ゾルゲ大佐にも伝えて」
 これまで日本の捕虜となっていたが戻って来た彼にもだというのだ。
「これからは普通の軍人としてね」
「活躍してもらうのですね」
「そうしてもらってね。それじゃあ」
「はい、それでは」
「ソビエトの政策は変えるから」
 ペレストロイカ、それを行ってだというのだ。
「そうするから」
「では」
「それじゃあ早速だけれど」
 カテーリンは話が一段落ついたところでゲーペにこうも言った、壁の時計を見ると丁度おやつの時間だった。
「先生は何を食べるの?」
「はい、ではケーキを」
「ガメリカのケーキ貰ってるけれど」
「いえ、あれはどうも」
 ゲーペはカテーリンの今の誘いには少し苦笑いになって返した。
「食べるには抵抗を感じます」
「色が、なのね」
「あの青やオレンジは合成着色料です」
 自然では有り得ない色だというのだ。
「ですから」
「身体に悪そうだから」
「遠慮させてもらいます」
「ううん、じゃあね」
 それではと応えてだ、カテーリンは今度はこのケーキを出した。
「オーストリアさんのケーキでいい?」
「ザッハトルテですね」
「それとコーヒーでね」
 この組み合わせでどうかというのだ。
「どうかしら」
「はい、それでは」
 ゲーペはこちらには笑顔で応えた。
「共に」
「ガメリカのケーキは私が食べるから」
「同志書記長がですか」
「だって折角の頂きものだから」
 それでだというのだ。
「残したら駄目だから」
「それで、ですか」
「それにケーキだから」
 食べる理由はこれもあった。
「大好きだから」
「しかしそれでは」
「いいの、先生はザッハトルテを選んだから」
「選んだからですか」
「選べる社会でもないとね」
 カテーリンは微笑んでこうも言った。
「決められるだけじゃなくて」
「選ぶこともですか。これからは」
「必要だと思うから、じゃあね」
「ではケーキを」
「先生はコーヒーよね」
「ウィンナーを。自分で淹れます」
「じゃあ私もそれにしようかしら」
「同志書記長もですか」
「うん、飲むわ」
 これまでカテーリンは紅茶派だった、それ以外は飲もうとはしなかった。
 しかし今はだ、コーヒーをだというのだ。
「それじゃあ私もね」
「御自身で、ですね」
「何でも自分でしないと」
 カテーリンのそうしたところは変わっていない、そのうえでの言葉だ。
「だから」
「それでは」
「インスタントコーヒーを淹れるから」
「日本のですね」
「そう、それにするから」
「これからはそうしたものも」
「はい、貿易で手に入れていきましょう」
 こう話すのだった。
「それでは」
「共有主義は確かに素晴らしいけれど完璧じゃないから」
 このこともだ、カテーリンはこの度の歴訪でよくわかった。
「常に改善していくから」
「そしてソビエトをですね」
「今よりもずっと皆が笑顔でいられる国家にするわ」
 カテーリンは強い決意と共に言った、ソビエトは他ならぬ彼女の手によってこれまで以上に素晴らしい国になり進化を続けていくこととなった。


TURN117   完


                           2013・6・14



石が持ち主に何らかの影響を与えていたからなのか。
美姫 「かなり柔軟な考え方が出来るようになってきたわね」
だな。まあ、石がなくなったからだけじゃないだろうが。
美姫 「元々純粋で良い子だったのは間違いないわよね」
枢軸の色んな国を見て回って、それを活かそうとしているしな。
美姫 「だからこそ、国民も再び彼女を選んだんでしょうね」
これからどう変わっていくのかも楽しみな所だけれど。
美姫 「状況的にそのんびりしてばかりもいられないわね」
だな。残すは二国とは言え、簡単にいかないのは間違いないだろうしな。
美姫 「これからの枢軸軍の進み方が楽しみね」
次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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