『ヘタリア大帝国』
TURN116 カテーリンの資質
カテーリンは覚悟を決めていた、そのうえでだった。
傍にいるミーシャとロシア兄妹に決死の顔で言った。
「何があってもね」
「うん、カテーリンちゃんがどうなってもなんだね」
「皆は私が守るから」
怪訝な顔のミーリャに答える。
「だから安心してね」
「けれど若しカテーリンちゃんに何かあったら」
「あっ、そのことは安心してね」
「私達がいます」
ロシア兄妹は心配する顔でカテーリンを気遣うミーリャにあえて微笑んで答えた。
「僕達が同志書記長には指一本触れさせないから」
「お任せ下さい」
「けれどもう私は」
「いいんだよ、だって書記長は僕の上司じゃない」
ロシアはカテーリンにも微笑んで答えた。
「だからね」
「安心していいの?」
「そう、それに向こうは領土と捕虜の返還を約束してるじゃない」
「私のこともよね」
「彼等は安全を約束するってね」
このことを約束しているからだというのだ。
「安心していいよ」
「信用出来るの?」
カテーリンは疑問に思う顔でロシアに問うた。
「私、今思うと」
「開戦の時だね」
「うん、資産主義だから。悪い子達だからって言って」
ロシアから先に約束、即ち条約を破ったというのだ。
「そのことがあるから」
「大丈夫だよ、今から来るのは日本君達だよね」
「ええ、そうよ。
「日本君は好きじゃないけれど約束は守るから」
「約束は破らないのね」
「量共捕虜も返してくれるよ」
まずこのことを安心していいというのだ。
「それに書記長もね」
「そうなの」
「行こう、今からね」
ロシアもカテーリンの傍に来た、彼の妹もまた。
二人はミーリャと共にカテーリンを護りそのうえで会談の場に赴いた、会談の場には日本兄妹の他に東郷と宇垣、山下がいた。
ここで山下はこちらが一人多いことに気付いて日本に言った。
「あの、こちらが一人多いので」
「だからですか」
「この交渉はそれぞれ同じ数で行った方がいいかと」
こう日本に言ったのである。
「そう思いますが」
「そうですね、ここは」
日本もだ、山下の話を受けて宇垣に顔を向けた。そのうえで日本側でこの場で最も立場のある宇垣に問うた。
「どうされますか」
「はい、それではです」
宇垣は日本の問いに真面目な顔で答えた。
「ゲーペ長官をお呼びしましょうか」
「あの方ですか」
「ソビエト側に来てもらいましょう」
そうしてはどうかというのだ。
「如何でしょうか」
「はい、それでは」
日本はそれを受けてだった、そうして。
ソビエト側にこう話したのだった。
「あの、そちらさえ宜しければ」
「ゲーペ長官をですか」
「今はイタリア君達のところにお客人としておられます」
その彼女をだというのだ。
「帰国に帰ってもらいますが」
「カテーリンちゃん、どうするの?」
ミーリャは日本の言葉を受けてカテーリンに問うた。
「先生に戻ってもらう?」
「それは」
「先生がいてくれたら」
それならとだ、ミーリャはカテーリンに話す。
「私としては便りになるけれど」
「ミーリャちゃんはそうなのね」
「うん、だからね」
それでだというのだ。
「戻ってもらう?」
「先生がいてくれたら」
カテーリンはソビエト側の代表達を見た、いつも自分の傍にいてくれている面々だ。しかし今はどうにも寂しい感じだ。
そこまで見てだ、カテーリンは暖かさを欲しくなって決めた。
「わかったわ」
「先生に戻ってもらうのね」
「うん、先生がいてくれたら嬉しいから」
傍にいる、それだけでだというのだ。
「私もね」
「それじゃあね」
「捕虜の方々の返還は講和条約で申し上げています」
ここで宇垣がカテーリンにこのことを告げた。
「長官はお客人ですのでそれ以前です」
「だからいいの?」
「はい、ソビエト側さえ宜しければ」
こうカテーリンに話す、そしてだった。
ゲーペはすぐに会談の場に呼ばれそのうえでカテーリンの前に出た、そのうえでカテーリンに対して敬礼をして言うのだった。
「書記長、申し訳ありませんでした」
「先生に謝るのは私だから」
カテーリンは俯いていた、彼女にしては珍しく。
そのうえで唇を噛んでだ、こう答えたのである。
「戻ってくれて有り難う」
「書記長・・・・・・」
「戻ってくれてすぐで悪いけれど」
カテーリンはゲーペにあらためて言った、ここでは顔を上げて。
「今講和会議だから」
「はい、それではですね」
「先生も入って、この会議に」
「書記長さえ宜しければ」
ゲーペに異論はなかった、こうしてゲーペはソビエトに戻り早速だった。
交渉の場についた、まずは宇垣がソビエト側に言った。
「こちらの条件ですか」
「人民の皆には指一本触れたら駄目よ」
カテーリンが宇垣に返した最初の言葉はこれだった。
「いい?絶対によ」
「我々はソビエト領内で略奪暴行の類を行ったことはありません」
宇垣はそのカテーリンに真面目に返した。
「このことを以て信じて頂けるでしょうか」
「これからもなのね」
「はい、御願い出来るでしょうか」
こう言うのだった。
「それを根拠に」
「わかったわ、それじゃあ」
カテーリンも宇垣の言葉を受けた、その言葉を信じることにした。そのうえで今度はカテーリンから言ったのだった。
「中立条約を破ったことは」
「そのことですか」
「謝罪と」
そしてだとだ、ソビエト側の五人で少し話してから日本側に答えた。
「賠償金を払うということで」
「いえ、そのことは構いません」
宇垣はそれはいいとした。
「我がl国はその件について謝罪も賠償も求めません」
「えっ、そうなの!?」
「はい、そして領土と捕虜の返還も無条件です」
ソビエト側さえ認めればだというのだ。
「貴国さえ宜しければ」
「そしてです」
今度は東郷が言う、今は外交の場なので口調も物腰も礼儀正しい。
「戦犯やそうしたこともです」
「求めないのですか」
「はい、そうです」
こうゲーペに答える。
「軍事裁判を行う法律も権限も我々にはありませんし」
「では書記長のことも」
「興和の条件として提示したままです」
東郷はあっさりとゲーペに述べた。
「ご安心下さい」
「何か僕達に凄くいい条件での講和だね」
ロシアはここまでの流れを見て言った。
「そこまでなんて」
「そうですね、ここまでいい条件ですと」
どうかとだ、ロシア妹も言う。
「こう言っては何ですが裏があるのではと」
「思うよね」
「無論我々も条件があります」
日本妹がソビエト側に述べた。
「興和の条件として貴国には連合国から離脱してもらいます」
「そして枢軸国に参加して欲しいんだね」
「最低でも中立国になってもらいます」
こう言うのだった。
「是非共」
「そうなんだ、僕達は負けたし」
このことは厳然たる事実だ、ロシアは今はこのことから話した。
「それでこれ位いい条件だし」
「それならですね」
「うん、中立国でいる位でも悪いよ」
「私もそう思います」
ロシア兄妹はこう話す。
「バルト三国はもう独立したみたいだけれど」
「彼等は仕方ないとしまして」
「色々と思うところはあるけれどね」
「ロープと蜂蜜を用意したいところですが」
トランクス一枚にしてロープで縛ってそこで蜂蜜を塗って虫が多くいる場所に転がすのだ。ロシア妹の大好きなお仕置きのやり方である。
「ここはですね」
「うん、いい条件だね」
バルト三国のことはとりあえず置いておいてだった。そのうえでだった。
ロシアはカテーリンにだ、こう進言した。
「枢軸国に参加しよう」
「そうしてなの」
「うん、講和の条件としては申し分ないよ」
むしろ思いも寄らぬまでの最高の講和条件だというのだ。
「だからね」
「私もそう思います」
「私も」
ゲーペとミーリャもロシア兄妹の意見に賛成してカテーリンに述べた。
「ですからここは」
「枢軸国に参加することでいいと思うよ」
「枢軸国側に入ることはいいけれど」
それでもだとだ、カテーリンは彼女の懸念をここで話した。
「ただ、我が国は共有主義だから」
「太平洋経済圏にはですね」
「そちらには入ることは出来ないわ」
山下にきっぱりとした声で答えた。
「悪いけれど」
「ではその条件でいいです」
宇垣がカテーリンにそれでいいと述べた。
「御願いします」
「そうなの、それじゃあ」
「はい、では御願いします」
こう話してだった、そのうえで。
講和は何のトラブルもなく進んだ、こうしてソビエトは連合国から離脱し枢軸国に参加することになった。ただし太平洋経済圏には入らなかった。
量共捕虜も速やかにソビエトに返還された、亜空もソビエト軍に自動的に編入となった。
その亜空にだ、ウクライナが今の心境を尋ねたのだった。彼等は丁度モスクワに戻ったところであった。
「あの、今のお気持ちですが」
「複雑だな」
「そうなんですか」
「何と言っていいかわからない」
「そうですね、提督は暫くラーゲリにおられましたし」
「そこにいてもよかったが」
それでもだというのだ。
「講和の時の職長の言葉を聞いてだ」
「最初に皆のことを言ったからですね」
「あそこで自分のことを言っていたらな」
その時はというのだ。
「私はソビエト軍に参加しなかった」
「そうですか」
「確かにまだ至らないところは多い」
この辺りはまだ子供だからだ、何だかんだでカテーリンはまだ子供なのだ。
だがそれでもだ、彼女はというのだ。
「しかしそれでもだ、まず人民を守ろうとするならだ」
「大丈夫ですね」
「しかも努力家だ、その書記長ならば」
「提督もソビエト軍に参加出来ますか」
「そうだ、では私も戦わせてもらおう」
「私もです。リトアニアちゃんみたいに独立しようかなっても思いましたけれど」
微笑んでだ、ウクライナは亜空に話した。
「止めました、カテーリンさん達と一緒にいます」
「そうしてくれるか、貴女も」
「一緒に頑張りましょう」
こう話してだった、そうしてだった。
ソビエトは忽ちのうちにかつての勢いを取り戻した、だがここでだった。
モスクワに戻ったカテーリンは複雑な顔でだ、こうミーリャに言った。
「実は日本側から申し出があったの」
「申し出?」
「申し出っていうと」
「うん、日本に来て欲しいっていうの」
「来日?」
「そう、ミーリャちゃん達と一緒にね」
来て欲しいというのだ、日本にだ。
「それであちらの帝さんとお話して欲しいっていうのよ」
「そのことがなの」
「そう、どうかなって思って」
「招待を受けようか受けまいか考えてるのね」
「帝は君主よ。それに日本は資産主義だから」
それでだというのだ。
「確かにもう敵じゃないけれど」
「行きたくないの?」
「そこまでは思っていないけれど」
だがそれでもだとだ、カテーリンはミーリャに難しい顔で述べるのだった。
「どうしようかしら」
「折角招待してもらったし行ってみたら?」
ミーリャはこうカテーリンに進言した。
「悪いことはないと思うわ」
「そうなの、それじゃあ」
「ええ、それとだけれど」
「それと?」
「うん、皆戦争前よりカテーリンちゃんを応援してくれてるよ」
ミーリャはカテーリンに彼女の人民の間での評判のことを話した。
「カテーリンちゃん講和会議の時にまず皆には手を出すなって言ったわよね」
「当たり前のことじゃないの?」
このことについてだ、カテーリンはミーリャに何を今更といった顔で返した。
「だって、私のお仕事は皆を守ることだから」
「けれどあそこでそう言えるってことは常にそう考えてるからだよね」
ミーリャはカテーリンににこりとして話した。
「カテーリンちゃん自身のことよりも」
「そのことが皆に認めてもらったの」
「ええ、そうよ」
その通りだというのだ。
「だから皆前よりもカテーリンちゃんを応援してるのよ」
「厳し過ぎないとか言ってないの?」
今はカテーリンも自覚出来た、自分のあまりもの厳しさと融通の効かなさをだ。
だから好かれていないと思っていたのだ、しかしそれがなのだ。
「そうは」
「ううん、まだそうした意見は多いみたいだけれどね」
「それでもなの」
「そう、皆カテーリンちゃんが自分のことよりも皆のことを考えてるから」
だからだというのだ。
「応援するんだよ」
「じゃあこれまで以上に皆の為に」
「うん、頑張ろう。いつも皆のことを考えてね」
ミーリャは微笑んでカテーリンに話した、そうしてだった。
カテーリンは来日を決意した、太平洋経済圏には入らないがそれでもこのことを確かに決めたのであった。
ソビエトが枢軸側と講和し彼等に参加したことは瞬く間に全人類に伝わった、無論これはエイリスでもである。
相変わらずの貴族ばかりの議会はともかくだ、王室と国家達はこの事態に暗い顔になっていた。
イギリスはその深刻な顔でだ、こうセーラ達に言った。
「すげえまずいな、今は」
「はい、ソビエトまで枢軸側に入るとなると」
それならだとだ、セーラもイギリスに応える。
「戦力がさらに強化されます」
「尋常なものじゃねえな」
「ドクツが参加してからの連合国はソビエトの軍事力はまさに主力でした」
彼等の中の主力だったというのだ。
「そのソビエト軍が枢軸側に加わったとなると」
「こっちの主力がなくなっただけじゃなくてな」
「さらに強大になってしまいました」
連合軍にとっては最悪の事態に他ならなかった、セーラの顔も憂いに満ちている。
「それに対して我々は」
「イタリンは置いておいてな」
イギリスはここでも彼等のことは戦力とは思っていない。
「ドクツがな」
「絶対に信用出来ないわよ、あの総統」
マリーはイギリスとセーラにこう断言した。
「ソビエトとの戦いも途中で帰ったし」
「はい、あの総統を信頼することは危険です」
このことはイギリス妹も言う。
「日々の行動にも謎が多いです」
「そうよね、あの人得体が知れないのよね」
マリーもこのことを察して今話すのだ。
「だからね、絶対に信じられないわよ」
「実質戦力は我々だけですね」
ロレンスがここで言った。
「本土とアフリカの戦力だけでどう戦うかです」
「まず南アフリカ、スエズ、北アフリカの守りを固めましょう
モンゴメリーがセーラに進言した。
「そしていざという時は」
「いえ、それはまだよ」
エルザはモンゴメリーの言葉を今はここで止めた、
「まだだから」
「そうですか」
「ええ、そういうことでね」
「はい、わかりました」
こう話してだ、エルザはモンゴメリーを止めてからあらためてセーラに話した。
「ドクツは信頼しない、そしてね」
「そしてですね」
「オフランスだけれど」
問題はこの国だというのだ、不戦を貫いているだ。
「まだマジノ線に頼っているから」
「そうですね、一度破られているというのに」
「あの国はわかってないから」
「では今のうちに」
「そう、使者を送ってね」
それでだというのだ。
「あの国と軍事条約を結んで」
「無理にでもですね」
「そう、備えましょう」
「では私が行きます」
セーラは自分から申し出た。
「オフランス国王に直談判します」
「俺も行く、女王さん一人で行かせられないからな」
イギリスは自らボディーガードを申し出た。
「わかったな」
「あの、ですが」
「いいってことよ、女王さんを守るのは国家の仕事だからな」
気にすることはないというのだ。
「任せてくれよ」
「わかりました、では」
「すぐに行くかい?」
イギリスはセーラにあらためて問うた。
「オフランスに」
「そうですね、枢軸軍の勢いは尋常ではありません」
「それにドクツもな」
殆どだ、イギリスはドクツを敵とみなしていた。今の連合国間に信頼関係はない。
「勝っても絶対にその直後に牙剥いてくるからな」
「そうですね、あの国は」
「背中からくるからな」
そしてぶっすりとしてくるというのだ。
「オフランスとは今のうちにな」
「無理にでも軍事条約を結んで」
「備えにしような」
こう話すのだった、そしてだった。
ここで紅茶が来た、ティーセットもだ。セーラはいつも飲んでいるそれを口にしてからだ、今いる面々にこう言った。
「若しかするともう」
「もう?」
「もうとは?」
「エイリスの時代ではなくなっているのでしょうか」
沈んだ顔での言葉だった。
「最早」
「いえ、そう思うことは」
どうかとだ、ロレンスがセーラに諫言した。
「よくありません」
「そうですか」
「はい、よくありません」
こう言ったのである。
「エイリス以外に人類を導ける国はあるでしょうか」
「ありません」
到底だとだ、セーラも言う。
「ガメリカや中帝国に理念がありません」
「日本にもまた」
「はい、ありません」
こうきっぱりと答える、セーラはこう確信しているのだ。
「ソビエトには理念がありますが」
「あそこの理念はな」
イギリスはどうもといった顔でだ、セーラに述べた。
「共有主義はな」
「決して広めてはならないものです」
セーラも共有主義についてこう言い切った。
「そしてファンシズムも」
「あれもだな」
「ガメリカや中帝国はただ国力があり威を見せているだけです」
セーラは彼等のそうした面を見て言っていた。
「そして日本は歴史があるだけです」
「他にはねえか」
「彼等の資産主義にあるのはただの拝金主義だけです」
所謂ノブレス=オブリージュがないというのだ。セーラはそうした意味で大衆をあまり信じてはいなかった。
そしてだ、こうも言うのだった。
「そうした国々に世界を導けるのか」
「無理ですね」
イギリス妹はセーラと同じ考えだった。
「到底」
「そうです、そして共有主義は」
「あれファンシズムよね」
マリーは共有主義をファンシズムと同一視していた、それ故の今の言葉だ。
「どう見ても」
「そうですね、その実情はですね」
「カテーリン書記長が絶対だから」
マリーはカテーリンに注目して言っていた、彼女にだ。
「国家の全部があの書記長の下にあるのよね」
「そして政党は一つです」
共有党だけだ。
「あらゆる産業も軍も書記長の下にあります」
「それってそのままじゃない」
ファンシズムだというのだ。
「ファンシズムもアドルフ総統やベニス統領が全部やってたから」
「まあイタリンはそれが結構やばかったけれどな」
イギリスはイタリンのそのかなり緩んだ感じについても述べた。
「イタリン以外にはな」
「ただ、あの国はね」
「まああれがよさだからな」
イギリスはマリーに述べた。
「ああいうところがいいんだよ」
「うん、僕もイタリン好きだよ」
「悪い奴等じゃないんだよな、だからあの統領さんも軟禁程度でな」
「逃げられちゃったね、イタちゃん達と一緒に」
「まあいいけれどな」
本当にどうでもいい感じだ。
「俺にしてもな」
「はい、私もです」
ここでまた言うセーラだった。
「イタリンについては構わないと思います」
「ベニスさんはいいんだな」
「特にいいと思います、イタリンについても」
この国もだというのだ。
「特に何もしません」
「まあな、ファンシズムはどうかって思うがな」
「うん、共有主義はね」
マリーはここに話を戻した。
「資産主義も君主制も否定しているからね」
「エイリスとしては認められないのよ」
エルザがここで言った。
「絶対にね」
「そうです、そしてファンシズムも」
セーラも共有主義とファンシズムは同一と見ている、そのうえでドクツやイタリンについて言及した。
「議会を否定しそしてエイリスの君主制の理念を否定しています」
「だからファンシズムも認められないのよ」
エルザがここでまた言うがセーラとはまた違う表情だ。
「一人の人間が全てを管轄する、議会もね」
「議会も必要です」
「しかもドクツはエイリスの世界統治を公然と否定してきたわ」
このこともまた問題だった。
「認められないわよね」
「君主は受け継がれます、しかし独裁者は受け継がれません」
イギリス妹が鋭く指摘した。
「世界を統治する権威、その他のものも」
「ファンシズムは一代限りだけからな」
イギリスもファンシズムの問題点は見抜いていた。実際にレーティア、彼女がいなくなったドクツはだというのだ。
「今の総統さんもやり手だがな」
「ヒムラー総統ですね」
「さっき話したけれど信用できねえ、怪しいな」
イギリスはロレンスにも話した。
「カリスマはねえよな」
「君主は代々権威を受け継ぎます」
モンゴメリーも言う。
「そして理念も」
「ああ、世界を統治するっていうな」
「我々は高貴なる者の騎士道精神によって世界の者を導いているのです」
モンゴメリーも植民地の実態は知っていて常にそれを正さんとしている、だが今はあえてエイリスの表の看板を出して話すのだった。
「大衆のみでそれは出来ません」
「大衆は大衆ってことになりますか」
「そして独裁者もです」
こうした意味で大衆と独裁者は同じだというのだ。
「世界を治められません」
「太平洋経済圏とは何なのでしょうか」
ロレンスは今現在の枢軸諸国の中心であるこの経済圏について問うた。
「一体」
「あれな、どの国も平等で共存共栄と経済的発展を目指すってな」
イギリスがそのロレンスに述べる。
「ガメリカと中帝国が連合にいた頃から堂々と言ってたな」
「はい、あの経済圏です」
つまり両国は連合にいた頃から堂々とエイリスの植民地統治を否定していたのだ、同じ連合国でありながら。
「あれはどうなのか」
「だから理念がないんでしょ」
今度はマリーが言った。
「中心には日本がいるけれどね」
「日本にあるのは歴史だけだからな」
イギリスがまた言った。
「帝がいるけれどな」
「柴神様とね」
「あそこが参加国全てが平等で共存共栄を言ったんだよな」
「はい、そうです」
イギリス妹は兄の言葉に答えた。
「その通りです」
「それどうなんだろうな」
首を傾げさせての言葉だった。
「日本が主導しててもな」
「盟主じゃないからな」
「日本には武士道がありますが」
イギリス妹は日本の軍人の倫理観について述べた。
「あれもありますが」
「あれはノブレス=オブリージュか?」
「また違うものです、武士とはです」
それは何かというと。
「元々農民から出ています」
「そうだったな」
「騎士とはまた違うものです」
「貴族じゃないからな」
到底だというのだ。
「主導する人間がいないんだよな、強くな」
「共存共栄は確かに理想ですが」
「理想に過ぎないな」
「理想は所詮理想です」
「やはり強く主導する国が必要なんだよ」
日本はあえて盟主ではなく主導する国が必要なのだ。
「エイリスがな」
「我々こそがですね」
「エイリスしかないだろ、これまで人類社会を導いてきたんだぞ」
イギリスにはこの自負があった、彼にしてもエイリスの様々な問題点を知ってはいるがそれ以上にこの自負があった。
それでだ、こう言うのだった。
「それが他の国に出来るか、いやまあな」
「祖国さん、これね」
イギリスも言いながら気付いた、そしてエルザはその彼にそっとケーキを差し出した。
「美味しいわよ」
「ああ、悪いな」
「とにかく今後さらに厳しい戦いになるから」
エルザは今いる面々にあらためて言った。
「気を引き締めていきましょう」
「そうですね、では」
イギリス妹もエルザの真意を見抜いて応えた。
「今は英気を養い」
「お茶の後で作戦会議に入りましょう」
エルザはこの場をこれで収めた、そしてだった。
お茶の時と同じ顔触れで作戦会議に入った、ここでも飲むのはお茶だ。
そのミルクティーを飲みながらだ、ロレンスが言った。
「ソビエトを制圧した枢軸国ですが」
「今後どういった作戦行動に出るかですね」
セーラがロレンスに応える、会議の主賓の席から。
「彼等が」
「はい、そのままソビエト領からドクツ領に入ることが最も可能性が高いです」
「ではそこからオフランス、エイリス本土にですね」
「来ると思いますが」
だが、だった。ロレンスはここで一同にこのことを話した。
「ただヒムラー総統はドクツの勢力圏とソビエトの勢力圏の境に兵を置き」
「防衛ラインではないな」
モンゴメリーはロレンスの口調からすぐに察した。
「ワープ航路をか」
「破壊しソビエト側からの侵攻を防ぐ様です」
「枢軸諸国はドクツ軍と比べて数は圧倒的です」
会議の参謀役を務めるイギリス妹がこのことを指摘した。
「そしてソビエト領からドクツの勢力圏に雪崩込まれますと」
「ドクツは防げないな」
イギリスもその目を鋭くさせて言った。
「幾らあの国の兵器と将兵の質が凄くてもな」
「数は力です」
イギリス妹は言い切った、このことを。
「そして枢軸諸国の兵器と将兵の質も相当なものです」
「圧倒的多数の数で広い戦線から雪崩れ込まれるか」
「そうなればドクツは敗れます」
当然の帰結としてそうなるというのだ。
「それを防ぐ為にです」
「今のうちにワープ航路を破壊してなのね」
マリーも言う。
「ドクツから見て東側からの侵攻を防いで」
「これは未確認情報ですが」
ロレンスは再び一同に話した。
「どうやらドクツはイタリンとの国境、ドクツ本土の入口アルプスにかなり強固な防衛ラインを建設している様です」
「アルプス要塞かしら」
エルザはロレンスの話を聞いてすぐに言った。
「それをかしら」
「しかも新型の潜水艦、戦艦を多く建造しています」
ロレンスはこのことも話した。
「それで枢軸軍を防ぐつもりの様です。またイタリンにも前哨基地としてグスタフ=ラインを設けています」
「ああ、ローマ星域の」
「はい、その入口に」
これも築いているというのだ。
「そしてそれで、です」
「枢軸軍を防ぐつもりね」
「絶対の防衛ラインで枢軸軍を消耗させて」
そのうえでだというのだ。
「反撃に転ずる考えかと」
「そう上手にいくかしら」
「ヒムラー総統の考えでは」
「そうなのね」
マリーはロレンスの言葉に首を傾げさせた。
「まだ隠し球があるのかしらね」
「要塞ラインと新型兵器以外にですね」
「うん、そうした根拠があるからね」
「強気だというのですね」
「そう、あの総統さんもね」
こうロレンスに話すのだった。
「少なくとも数は向こうが圧倒的だからね」
「その彼等に強気でいられるからですね」
「まあその辺りは見極める必要があるかな」
マリーは悪戯っぽい顔で鋭く主張した。
「ドクツが何をするかね」
「そうですね、ただ」
ここでだ、セーラはこの会議の場ではじめて口を開いた。
「問題は」
「ドクツがソビエトからの航路を破壊するからな」
イギリスがセーラに応えて合わせた。
「そこでだな」
「はい、そうすれば枢軸軍は攻撃進路を変えてです」
「アフリカに来るな」
「我々の最後の植民地達に」
「若しアフリカの植民地まで失えば」
どうなるか、このことはモンゴメリーが話す。
「我々はその力の殆どを失います」
「植民地で成り立ってるからな、うちは」
イギリスも苦い顔で述べる。
「だからアフリカはな」
「失う訳にはいきません」
モンゴメリーは自身の祖国にも答えた。
「ですからここは何としても」
「守り抜かないとな、アフリカをな」
「それが絶対です」
「それでjはです」
セーラはここまで聞いて決断を下した。
「「枢軸軍がインド洋方面に主力を向けるまでの間に」
「それまでによね」
「はい、今のうちにです」
どうするかとだ、セーラは今度はエルザに答えた。
「ソビエトの治安は回復していますし」
「枢軸軍のダメージが回復すれば」
その時にだというのだ。
「来るわよ、すぐに」
「彼等はまずスエズと南アフリカに来ます」
セーラは枢軸軍の進路についても言った。
「ですから今のうちにです」
「はい、防衛ラインを再構築しましょう」
ロレンスがセーラに応えた。
「彼等が来る前に」
「まずスエズには」
セーラは考える顔になり言葉を出していく。
「モンゴメリー提督」
「はい」
「そして妹さんに行ってもらいます」
「わかりました」
「スエズにはエジプトさんもおられますので」
セーラは会議にいない彼のことにも言及した、今は普通の作戦会議ではないので植民地の国々は呼んでいないのだ。
「共にお願いします」
「それでは」
「そしてお母様も」
「私もなのね」
「スエズはエイリスの植民地統治の重要拠点です、失う訳にはいきません」
それ故にだというのだ。
「お母様も一時行かれて」
「防衛ラインの建設にあたるのね」
「御願いします、そして南アフリカは」
そちらはというと。
「マリーがこれまで通り入り」
「うん、防衛ラインの建設を進めていくね」
「祖国さんにも行ってもらいたいです」
「わかったぜ、近くにカメルーンもいるしな」
今エイリスに残っている数少ない植民地の国の一つだ。
「一緒に連中を迎え撃つな」
「御願いします」
こう自身の祖国に対して述べる。
「南アフリカを奪われれば後は」
「ケニアやカメルーンも取られるな」
「一気にアンドロメダまで攻められます」
そこまでだというのだ。
「幸いエスパーニャ王国との中立条約があるのであの国から枢軸国は来ないですが」
「スペインさんちゃんと約束守ってくれてるからね」
エルザは伊勢志摩の国家である彼のことを言った。
「国王さん夫妻もね」
「それが救いです、エスパーニャ王国は枢軸側ですが我が国とは不戦条約を結んでいます」
それでスペイン達はエイリスとの戦いには参加しないのだ。これは伊勢志摩方面からのエイリス軍の侵攻の恐れを消しておきたい枢軸側の思惑もあった。
「ですから伊勢志摩には警戒の部隊だけを置き」
「主力はスエズと南アフリカにね」
「置きます、そして」
「そのうえでね」
「私はロレンスと共に本土の防衛ラインをさらに強化します」
最後の護り、それをだというのだ。
「例え彼等がここに来ても」
「私もすぐに行くからね」
エルザはセーラを気遣って彼女に声をかけた。
「それまで無理はしないでね」
「出来れば議会の貴族達にも協力してもらいたいですが」
正規軍以外にだというのだ。
「軍への入隊と軍事費の提供を」
「それやるか?連中が」
イギリスは難しい顔になり首を捻ってセーラに問うた。
「果たして」
「いえ、それは」
どうかとだ、セーラも曇った顔で返した。
「かなり疑問です」
「だよな、自分達の権利を守ることには必死なんだがな」
「強権を発動して出てもらって出してもらう?」
マリーも困った感じの顔で言う。
「そうしないと正直辛いでしょ」
「それはそうなのですが」
「無理にしたらなのね」
「彼等はこの状況でも反乱を起こしかねません」
イギリス妹も曇った顔になりマリーに話す。
「ですからそれはとても」
「完全に内憂外患だね」
「もう少し貴族の方々がこの戦争に協力的で清潔ならば」
それならばだったというのだ。
「楽なのですが」
「難しいところよね、そこが」
「本来は女王命令として議会、そして貴族制度への根本からの改革を行うつもりでした」
それはもう法案まで完全に整え貴族達の反発には正規軍で沈黙させるつもりだった、だがそれがだったのだ。
「しかしこの戦争で」
「そっちに力がいってるからな」
「それが貴族達をそのままにしています」
セーラはここでも曇った顔で話した。
「戦後になります」
「ったくよ、この戦争はエイリスにとって疫病神だな」
イギリスは苦りきった顔でこう言った。
「インド洋までの植民地は失うし太平洋の連中はでかい顔をするし」
「ドクツも復活して大きくなったりね」
マリーも言う。
「何か散々だよね」
「何とか挽回しないとな」
イギリスはこうも言った。
「アジアの植民地も取り戻してな」
「その為にはアフリカで踏ん張ってね」
「勝とうな、最後は」
「はい、では勝利の為に」
セーラが一同に言った。
「御願いします」
「了解」
一同はセーラのその言葉に応えた、エイリスは最後の植民地達を守る為にアフリカに軍を集結させ防衛ラインを敷きだした、そしてその頃。
ヒムラーは何とか踏み止まろうとするエイリスとは違い余裕綽々だった、それで表の部下達にこう言った。
「さて、東部の航路はね」
「はい、全てですね」
「今すぐにですね」
「破壊しておくこと」
こう命じた。
「それでいいね」
「わかりました、それでは」
「命じておきます」
「ただ、北欧はもういいよ」
そこはだというのだ。
「あそこはね」
「北欧はですか」
「放棄されるのですか」
「そう、フィンランドとエストニアの航路じゃなくてね」
そこではなく、というのだ。
「ドイツ本土とデンマークのね」
「その航路をですね」
「破壊しますか」
「そう、北欧はもう用がないから」
何故用がなくなったかは言わない、ぼかした。
「枢軸国に渡しておくよ。人口も少ないしね」
「では、ですか」
「ギリシアやポッポーランド、ハンガリー、ルーマニアとドビエトの国境の航路をですね」
「ブルガリアもだよ」
東部の全ての航路をだというのだ。
「破壊してね」
「枢軸国をアフリカに向かわせますか」
「そしてエイリスの最後の植民地達も」
「植民地のないエイリスは最早敵じゃない」
ドクツにとってもだ、エイリスの没落は歓迎すべきことだ。だが今は同盟国であるので枢軸国にそうしてもらうというのだ。
「アフリカまでいってもらってね」
「そして、ですね」
「我々のところに来たところで」
「枢軸軍を迎え撃ち」
「そうして」
「敵の主力を叩くんだ」
ヒムラーは不敵な笑みで言った。
「そこから反撃だよ」
「そして枢軸諸国をドクツだけで倒し」
「その後は」
「世界はドクツのものだよ」
もっと言えばヒムラーの、そして彼が信仰する神のものだが彼はこのことはあえて言葉には出さなかった。
「そうなるよ」
「そうですね、それでは」
「まずはアルプス要塞をですね」
「一応前哨基地としてグスタフラインも固めておくよ」
イタリンのそこもだというのだ。
「まあ時間稼ぎ程度だね」
「イタリン軍ですが」
参謀の一人がヒムラーに彼等のことを話す。
「相変わらずです」
「相変わらずだね」
「はい、相変わらずです」
これだけで充分通じた。
「相変わらず戦争には向いていません」
「まあそうだろうね」
「若し枢軸軍が来れば」
その時どうなるかというと。
「すぐに泣いて逃げ出すでしょう」
「やれやれ、困るね」
ヒムラーは笑って言うがこれだけだった、彼にしてもイタリンについてはこれで済ませてしまった。
「そこが愛嬌があるんだけれどね」
「嫌いにはなりませんが」
「戦力としてはね」
「はい、なりません」
そこが問題だというのだ。
「まあそこは割り切りまして」
「そのうえでだね」
「戦いを進めていきましょう」
そうしていくべきだというのだ。
「我々の戦いを」
「アルプスにはあの新兵器を重点的に置くよ」
「要塞と共にですね」
「あれをですね」
「そう、それにね」
まだあった、置くものは。
「あの大怪獣も置くか」
「サラマンダーもですか」
「あれも」
「大怪獣があれば完璧だよ」
「ですが総統、枢軸軍はこれまで何度か大怪獣と戦っていますが」
別の参謀がヒムラーに話す。
「その都度、ニガヨモギにしてましても」
「倒しているっていうんだね」
「はい、それを考えますとサラマンダーでも」
「安心は出来ないよ」
このことはヒムラーもわかっていた、そのうえでの言葉だ。
「絶対にね」
「それでは」
「大丈夫だよ、周りに新型兵器置くから」
だからだというのだ、安心していいというのだ。
「潜水艦もね」
「それに要塞もですね」
「あらゆるものを」
「それに若しアルプスを破られても」
まだった、ヒムラーの切り札は。
「カードは二つもあるからね」
「あの機械の兵達と怪獣ですか」
「次は」
「最後に勝つのは我々だよ」
絶対の自信と共に言い切った、そしてだった。
ヒムラーはアルプスの護りを固めさせていった、そのうえで来たる枢軸軍との戦いの時に備えていた。勝利を確信して。
TURN116 完
2013・6・12
ソビエトも枢軸軍へと参加したな。
美姫 「これで一気に戦力が増えたわね」
ああ。流石にエイリスは警戒しているが。
美姫 「ドクツは自分達の勝利に妙に自信を持っているわね」
まだ何か手を隠し持っているのかもな。
美姫 「気になる所よね」
そんな気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」