『ヘタリア大帝国』
TURN113 ソビエト占領
枢軸軍はカテーリングラードでの戦いにも勝利を収めた。
既にソビエト軍の戦力は殆ど残っていない、それでだった。
東郷はカテーリングラードを占領してすぐに全軍に命じた。
「それではだ」
「はい、それではですね」
「他の星域への占領に入ろう」
この段階に入ろうというのだ、こう秋山に述べる。
「いいな、それで」
「わかりました」
「さて、これでカテーリン書記長も諦めるか」
東郷はここでこうも言った。
「そうなるだろうかな」
「流石に自国の星域を全て占領されては諦めるしかないでしょう」
秋山は常識から言った。
「カテーリン書記長も」
「そう思う、ただだ」
「ただ、ですね」
「カテーリン書記長は今何処にいる」
このことをだ、東郷は首を傾げさせながら言った。
「所在はわかるか」
「ああ、残念だけれどね」
ハニートラップが出て来て東郷に話す。
「全然わからないから」
「そうか」
「カテーリングラード陥落の後何処に行ったのかわからないのよ」
「しかもミーリャ首相とゲーペ内相の所在もわからない」
ハニートラップと同じく諜報部出身のキャヌホークも報告する。
「ロシア兄妹もだよ」
「つまりソビエトの上層部が全員行方不明ですか」
秋山は二人の話を聞いてその顔を曇らせた。
「厄介ですね」
「他の国家の方の所在はどうなっているのでしょうか?」
このことは日本が問うた。
「あの方々は」
「それぞれの星域に入ってるわよ」
ハニートラップが日本に答える。
「そこの防衛にあたってるわ」
「そうですか」
「とりあえずウクライナとかベラルーシに艦隊を送るのよね」
「そのつもりだ」
このことには東郷が答える。
「カテーリン書記長がどの星域にいるかだがな」
「亡命したのでしょうか」
日本はこの可能性を考えた。
「ドクツかエイリスに」
「ああ、それはないよ」
キャヌホークが亡命の可能性を否定した。
「俺達もその可能性を考えてドクツやエイリスを調べたけれどな」
「それでもですか」
「亡命した痕跡はないね」
それも全くだというのだ。
「勿論イタリンにもね」
「ではカテーリン書記長達はソビエトにいますね」
日本はここでこの結論を出した。
「そうなりますね」
「そうだな、亡命していないとなるとな」
「それ以外はありません」
こう東郷にも話す。
「ですがどの星域にいるのか」
「とにかく他の星域を占領していく」
東郷のこの戦略方針は変わらなかった。
「如何にカテーリン書記長といえど姿を完全に消すことは出来ないからな」
「はい、それでは」
こうしてだった、、枢軸軍はソビエトの残った星域に戦える艦隊を送った、そうしてバルト三国やウクライナ、ベラルーシ達も捕虜にした、だがだった。
「いなかったな」
「はい」
日本は東郷に応えた。
「どの星域にも」
「ベラルーシさん以外はどの国も枢軸軍に加わってくれましたが」
「それでもです」
「カテーリン書記長はいなかったな」
「何処にもですね」
「ミーりゃ首相やゲーペ内相も」
無論だ、ロシア兄妹もだ。
「いませんでしたね」
「しかし亡命した形跡はない」
「ではソビエトにいますね」
「しかしソビエトの全ての星域は占領した」
「くまなく探しましたが」
占領した全ての星域の至る場所をだ、だがだった。
「一体何処に隠れておられるのか」
「もしかするとだ」
ここで東郷の目が光った、そのうえで日本にこう言った。
「俺達は一つ思い違いをしているのかも知れない」
「思い違いといいますと」
「そうだ、若しかするとだ」
どうかというのだ、東郷は日本に対して話す。
「ソビエトには宙図に載っていない星域があるのかもな」
「まさか」
「いや、ソビエトは秘密主義の国だ」
このことはよく知られている、ソビエトはそうした国なのだ。もと言えばカテーリンがそうした考えの持ち主なのだ。
「有り得る」
「そうだな、しかしだ」
「問題はその星域の場所ですね」
「何処にある、それは」
東郷は彼にしては珍しくいぶかしむ顔になった、そこがどうしてもわからないというのだ。
「一体な」
「その場所がわかっていない星域ですか」
「そうだ、それは何処にあるかだ」
「わからないですね、本当に」
「ここは慎重にワープ航路を調べよう」
これが東郷の出した解決案だった、正直これしかなかった。
「そうしよう」
「では暫くの間軍事行動はそれに専念しましょう」
「ああ、今のところはな」
こうして枢軸軍はソビエトのワープ航路を綿密に調べることをはじめた、だが彼等の動きはこれで完全に停止してしまった。
カテーリンの所在がわからなくなっていることは連合軍にも伝わっていた、エルザもその話をロンドンで聞いた。
そのうえでだ、イギリス兄妹とモンゴメリーにこう言うのだった。
「あの航路のことはね」
「そろそろと思ってたけれどな」
「女王にもお話しようと」
「あの航路は女王といえどもね」
前女王であるエルザの言葉だ、それだけに重みがあった。
「即位してすぐには知ることの出来ない程のものだから」
「ああ、俺達だけが知っているな」
「そうしたものですから」
イギリス兄妹も難しい顔で話す。
「しかしな、宙図に載っていない場所があるのかよ」
「まさかと思いますが」
「中央アジアや中南米はわかっていたわ」
そちらはだというのだ。
「ソープ帝国についてもね」
「しかしな、ソビエトにそんな場所があったのかよ」
「まさかとは思いましたが」
「いえ、それも有り得ることです」
モンゴメリーがイギリス達に話した。
「カテーリン書記長が我々の知らない星域に潜伏していることも」
「秘密の航路を伝ってね」
エルザがまた言った。
「それは有り得るわね」
「はい、そうです」
モンゴメリーはエルザにも話した。
「我々が知っていることは所詮は大海の中のスプーン一杯のものでしかありませんから」
「そうね、星域についてもね」
「我々が全ての星域を知っている訳ではありません」
こうエルザに話す。
「ですから」
「ましてソビエトはかなり秘密主義の国だしな」
イギリスは腕を組んで難しい顔で述べた。
「有り得るな」
「だとするとです」
イギリス妹も言う。
「ソビエトはそこに拠点を置いて反撃の機会を伺っているのでしょうか」
「あの宙図のことはもうすぐセーラちゃんにも話すわ」
そうするというのだ。
「あとマリーちゃんにもね」
「それでもだよな」
「ええ。今はカテーリン書記長の所在よ」
エルザは強い声で三人に言った。
「それを突き止めましょう」
「わかりました、それでは」
モンゴメリーが応える、そうしてだった。
エイリスもカテーリンの所在を探しだした、それはドクツもである。
ヒムラーはドイツ妹とプロイセン妹にだ、こう言った。
「書記長の所在がわからないけれどね」
「何としてもですね」
「突き止めるんだね」
「そう、絶対にね」
こう二人に話すのだった、己の執務用の机に座ったまま。
「さもないとこっちも仕掛けられないからね」
「暗殺かい?」
プロイセン妹はあえてこう尋ねた。
「カテーリン書記長をそうするのかい?」
「ははは、それはまだ決めていないけれどね」
ヒムラーは明るい笑い声で返すがその選択を否定はしなかった。
「まあ連合国は同床異夢だからね」
「いざという時に備えてですか」
「カテーリン書記長の所在は知っておくんだね」
「知ることは武器だよ」
それだけでだというのだ。
「だからね」
「カテーリン書記長の所在は常にですね」
「知っておくんだね」
「どうも各国の送る刺客を常にかわしてるらしいけれど」
尚ガメリカと中帝国は連合にいた頃から常に工作を仕掛けていた、同盟関係にあっても彼等は常に敵対関係にあったのだ。
「知らないよりずっといいよ」
「わかりました、では」
「調べておくよ」
「そうしてくれるかい?じゃあね」
こうしてだった、ドクツ側もカテーリン書記長の所在を探しだした、とにかく誰もがカテーリンの行方を調べていた。
カテーリンはある場所にいた、そこにおいてだった。
ミーリャにだ、曇った顔で言うのだった。
「クローン兵士はまだ揃わないの?」
「もうちょっとよ」
密室だ、ミーリャはその中でカテーリンに話した。
「もうちょっとだけあればね」
「揃うのね」
「艦艇もね。だからもう少し我慢してね」
「早ければ早い方がいいのよ」
カテーリンは眉を顰めさせてこう言った。
「戦ってるんだから」
「それでその戦力でよね」
「そう、モスクワを奪還してね」
そうしてだというのだ。
「それかね」
「ソビエト全土の奪還ね」
「何としてもそうするから」
カテーリンはその強い意志で言う。
「絶対にね」
「そうしようね。ただね」
「ただって?」
「ゲーペ先生がカテーリンちゃんに提案があるらしいの」
「先生が?」
カテーリンはミーリャの今の話にきょとんとした顔になった、その顔は年相応の子供らしい顔であった。
「どんな提案なの?」
「聞いてみる?」
「うん、何かしら」
カテーリンも提案を聞くことにした。
「それじゃあね」
「今から先生とお話しようね」
「わかったわ」
カテーリンはミーリャの言葉に素直に頷いた、そうしてだった。
ゲーペの前に来た、ゲーペはソビエト式敬礼の後でカテーリンに言った。彼女の周りにはロシア兄妹もいる。
「同志書記長、提案があります」
「何かしら」
「枢軸国とのことですが」
事務的な感じの声で語る。
「彼等は講和も考えている様です」
「私達と?」
「はい」
その通りだというのだ。
「そしてその際領土の返還もするそうです」
「そういえばです」
ここでロシア妹も言う。
「彼等はガメリカ、中帝国との講和の際も」
「占領した領土全部返還してるね」
ミーリャも言う、カテーリンの横から。
「捕虜もね」
「そのうえで太平洋経済圏に加えています」
ゲーペはまた話した。
「そうしています」
「だからどうするっていうの?」
「同志書記長、、最早勝敗は決しています」
ゲーペはカテーリンに対して言った。
「枢軸国と講和しましょう」
「それで太平洋経済圏に入れっていうの?」
「そこまでは考えていません」
ゲーペはカテーリンの問いにきっぱりと返した。
「我々は共有主義です、資産主義である彼等とは相入れません」
「そうよね」
「ですが最早これ以上の戦闘は何の意味もありません」
これがゲーペの言いたいことだった。
「ですから」
「枢軸国と講和するの?」
「領土は返還されます、捕虜もまた」
ガメリカや中帝国の様にだというのだ。
「ですから今はです」
「駄目よ」
ゲーペの提案をだ、カテーリンは強い声で否定した。
そして眉を顰めさせてだ、こうも言うのだった。
「そんなの絶対に駄目よ」
「何故でしょうか」
「講和したら負けたって認めることじゃない」
だからだというのだ。
「共有主義が、共有主義が負ける筈がないのよ」
「ですが最早」
「負けないの!」
ゲーペにだ、さらに強く言った。
「何があっても!」
「ではまだですか」
「ドクツ相手にも勝ったのよ、今もよ」
カテーリンの意固地さが出ていた、あくまでこう言うのだ。
「幾ら辛くても頑張るの、皆幸せになる為に」
「では」
「徹底抗戦よ、戦力が整い次第モスクワに攻め込むから」
その戦略も言うのだった。
「だから講和なんて絶対にしないから」
「ですが同志書記長」
「もう言わないで!もういいから!」
カテーリンは感情を爆発させた、そしてだった。
さらに意固地になってだ、ゲーペに対して叫んだ。
「同志長官、貴女を解任します!」
「えっ、解任って」
「ゲーペ長官をですか」
これまでこの場では殆ど発言しなかったロシア兄妹もカテーリンの今の言葉には驚いて問い返したのだった。
「まさかと思うけれど」
「そうされるのですか」
「党から除名、内相と秘密警察長官も解任よ」
カテーリンはさらに言っていく。
「それに軍からも除隊、国外追放よ!」
「あの、そこまですることは」
「ないのでは」
ロシア兄妹は戸惑いながらカテーリンを止めようとした。
「長官は僕達の柱だから」
「長官がおられないと」
「もう決めたのよ」
ここでも意固地さを出すカテーリンだった、その顔はむっとしている。
「すぐに出て行って」
「わかりました」
ゲーペもカテーリンの言葉を受けた、表情を変えずに。
「それでは」
「そして見てるの、共有主義が勝つところを」
それは絶対にだというのだ。
「共有主義は負けないから!どんな相手でも絶対に勝つのよ!」
「ご武運を祈ります」
ゲーペは今もソビエトの敬礼で応えた、こうしてカテーリンは懐刀を自ら放り出してしまった。
だがそれでも止まらなかった、すぐにロリコフ=バイラーのところに自ら行って言うのだった。
ピンクの長い髪を後ろで束ねた痩せた何処か変質者的な外見は変わっていない、カテーリンはその彼に言うのだった。
「いい?今以上にね」
「クローン人間の増殖をですか」
「そう、急がせて」
こうロリコフに言うのだ。
「いいわね」
「ではいよいよですね」
「モスクワを取り戻すから」
ソビエトの首都をだというのだ。
「だから急いで」
「わかりました、それじゃあ」
「共有主義は絶対に負けないから」
それは絶対にだというのだ、ここでも。
「だからよ」
「カテーリンさんは頑張りますね」
「皆頑張らないと駄目なの」
何処か生徒会長めいた言葉だった。
「私だって」
「書記長もまたですね」
「皆が頑張って皆が幸せになるの」
こうも言うカテーリンだった。
「だからよ」
「はい、それじゃあ」
「クローンの戦力で一気に領土を全部取り戻して」
そのうえでだというのだ。
「枢軸国もやっつけるのよ」
「お言葉のままに」
「ただ、同志ロリコフって」
ここでだ、カテーリンは話題を変えた。
ロリコフを見てだ、こう言ったのだ。
「共有主義はいいの?」
「私はカテーリンさんさえいればいいんですよ」
「ロリっていうの?」
「純粋に見て楽しんでいるのです」
まさに純粋なロリータコンプレックスの持ち主の言葉だった。
「それだけです」
「気持ち悪いわね、何か」
「そうした気の強いところもです」
好きだというのだ。
「大好きなのです」
「近寄らないで、近寄ると廊下に立たせるから」
「ははは、見ているだけなのでご安心を」
とはいっても本能的に全然安心出来なかった、カテーリンにしては。
だがここまで話してだ、カテーリンはだった。
クローンの増殖をとにかく急がせた、そうして。
反撃の機会を待っていた、彼女はまだ諦めていなかった。
一方国外追放となったゲーペはロシア兄妹の見送りを受けて港にいた、今から一人乗り用の小型艇に乗り込むところだ。
その彼女にだ、ロシアが問うた。
「これからどうするの?」
「これからですか」
「うん、どうするのかな」
「考えていません」
ゲーペは普段とは違い穏やかな声でロシアに答えた。
「これといって」
「そうなんだ」
「故郷に帰ろうとは考えていますが」
こう考えてはた。
「カフカス星域に」
「グルジアになんだ」
カフカスにある惑星の一つだ、ゲーペだけでなくカテーリンやミーリャもその星の出身だ。
「そこに帰るんだね」
「とはいっても国外追放でしたね」
言った後で気付いてだ、ゲーペは寂しい笑顔で言った。
「では故郷に戻ることも」
「それではです」
今度はロシア妹が言って来た。
「ほかの国に亡命されてはどうでしょうか」
「亡命ですか」
「長官が望まれる国に」
「しかしそれは」
どうかとだ、ゲーペはロシア妹に曇った顔で返した。
「裏切りでは」
「気にしなくていいよ」
ロシアはそのゲーペに微笑んで述べた。
「そうしたことはね」
「そうなのですか」
「僕達は長官に幸せに過ごして欲しいから」
「そう思っているだけなので」
「他の国で何かをして生きていてくれたら」
「それでいいです」
「では」
二人の言葉を受けてだ、また応えたゲーペだった。
「気の向くままに」
「うん、じゃあね」
「また会いましょう」
彼等は笑顔で分かれた、ゲーペは小型艇に乗り込み。
そのうえで何処に行くかを考えた、しかし。
エンジンの調子が急に悪くなった、それでだった。
「これでは。遠くに行くことはとても」
無理だった、それである場所に向かうのだった。
スカーレットは今モスクワのパトロールにあたっていた、そうしてモスクワの治安を改善させていたのだ。
その彼女にだ、共にパトロールにあたっているアメリカ妹が言って来た。
「小型艇が一隻来てるよ」
「小型艇が?」
「ああ、何か南から来たんだよ」
「南、なのね」
その話を聞いてだ、スカーレットはいぶかしんで言った。
「東か西ではなく」
「ああ、南だよ」
「おかしいわね、モスクワの南から来るなんて」
それはだとだ、スカーレットは考える顔で述べた。
「ワープ航路がないのに」
「そうだね、あたしもそう思うけれどね」
「その小型艇が来てるのね」
「エンジン不良になってね」
それでだというのだ。
「モスクワに一時寄港したいっていうんだよ」
「そうなのね、それじゃあね」
「それでいいよな」
「一般市民が困っている時に助けるのは軍人の務めね」
「ああ、国家にとってもね」
アメリカ妹は国家としてから言った。
「だからだね」
「そうよ。じゃあその小型艇のところには私が行くわ」
「頼んだよ、じゃあな」
こうしてスカーレットがその小型艇のところに向かった、だがここでだった。
その小型艇からの通信を受けてだ、さしものスカーレットも驚いて艦橋にいる部下達に対してこう言った。
「まさかこの人とはね」
「はい、夢にも思いませんでした」
「私もです」
部下達も皆驚いている顔で応える。
「ゲーペ長官だとは」
「カテーリン書記長の懐刀が乗っていたとは」
「まさかあの人とは」
「信じられません」
「詳しい話は港で聞いてね」
そしてだというのだ。
「それからね」
「とりあえずはですね」
「まずは」
「ええ、ゲーペ長官を港に案内して」
そしてだというのだ。
「困っていることは確かだから」
「はい、わかりました」
「それでは」
こうしてだった、ゲーペは港に案内された。間違いなく彼女だった。
彼女が来たことに驚いているのは秋山も同じだ、有り得ないといった顔で東郷に対して言う。
「あの、ゲーペ長官のことですが」
「俺も話は聞いた」
そうだとだ、東郷も返す。
「ソビエトでの役職や階級を全て解任されてだな」
「国外追放されたとのことです」
「信じられない話だ、だが」
それでもだとだ、東郷は秋山に言った。
「一度ゲーペ長官から直接話を聞くか」
「そうされますか」
「長官は今何処にいる」
「まだ港におられます」
そこにだというのだ。
「そこで小型艇を修理してもらっています」
「そうか、では修理をしている間にだ」
話の場を設けようというのだ。
「そうしよう」
「それでは」
こうして東郷はゲーペと会うことにした、そのうえでだった。
楽しげにだ、秋山にこうも言うのだった。
「ところでゲーペ長官だが」
「何でしょうか」
「前から思っていたがな」
映像を見てだというのだ。
「美人だな」
「またそういうことを仰るのですか」
「美人に興味を持っては駄目か」
「駄目とは言いませんが」
秋山はその東郷に困った感じの顔で返す。
「ですがそれでもです」
「ははは、いつも言っていることだな」
「どうしてそう女性に関しては」
このことは相変わらずだった、とにかく東郷のそうしたところは。
「全く」
「美人に興味を持つことは男として当然のことだ」
「長官の場合は度が過ぎています」
「それ位でいいんだがな」
「よくありません」
二人のやり取りは平行線だった、しかしここで部屋にイタリアが入って来て東郷にこんなことを言ったのだった。
「長官さん、ゲーペ長官が来たんだよね」
「ああ、そうだ」
「俺ちょっと会いに行っていいかな」
彼もこう言うのだった。
「前から映像とか見ていて凄く綺麗な人だって思ってたんだよね」
「そうか、イタリアさんもそう思っていたんだな」
「そうだよ、じゃあさ」
「それじゃあだな」
「一緒に会いに行こう、ゲーペ長官にね」
また言うイタリアだった。
「兄ちゃんはもう行ってるかも知れないけれど」
「ははは、ロマーノさんはそうかもな」
「だから俺達も行こうね」
こう話してだった、東郷は意気揚々とイタリアと共にゲーペのところに赴いた。そして実際にゲーペを見て言った。
「いや、この目で見ると余計にな」
「美人だよね」
イタリアも言う。
「学校の先生みたいでな」
「知的な感じでね」
「あの、まさかと思いますが」
ゲーペはその東郷を見て言った。
「東郷毅長官でしょうか」
「そうだが」
「噂では相当な切れ者とのことですが」
「女好きだとは聞いていなかったのか」
「聞いていました」
無論そのこともだというのだ。
「ですがまずはその話題からとは」
「好きだからな」
だからだと返す東郷だった。
「レディー相手にはいつもだ」
「こうした話題からですか」
「そうなんだ、長官さんはね」
イタリアはゲーペに陽気に話す。
「いつもこうだよ」
「そうですか」
「それでだが」
東郷は自分からゲーペに問うた。
「ソビエトでの全ての役職を解任されたと聞いたが」
「はい、そうです」
その通りだとだ、ゲーペは素直に答えた。
「そして軍の階級も」
「それもだな」
「そのうえで国外追放となりました」
このことは自分から言った。
「そして今です」
「モスクワまで来たのか」
「亡命先を探しているのですが」
「それならうちはどうかな」
イタリアがゲーペに提案する。
「日本帝国とかだとゲーペさんも亡命出来ないのね」
「流石に先日まで激しく干戈を交えていた相手とは」
それはとてもだというのだ。
「感情的に」
「まして何処も資産主義だしね」
「はい、ですから」
「だからね、うちはどうかな」
イタリンはというのだ。
「うちだとファンシズムだしね」
「共和王国ですし」
かなり奇妙な政治システムだがイタリンではそうなっているのだ。
「しかもイタリンは私も」
「嫌いじゃないよね」
「むしろかなり」
好きだというのだ。
「イタリンはいい国ですね、暖かくて」
「あっ、そのこともなんだ」
「イタリンは素晴らしい国です」
そうだともいうのだ。
「パスタやピザといった美味しいものもあります」
「ソビエトではパスタ食べないんだ」
「給食で出ますが」
食べることは食べる、だがそれでもだというのだ。
「しかし」
「それでもなんだ」
「イタリンの料理は、一度ムッチリーニ統領との会談の時に訪問しましたが」
「あっ、その時俺いなかったね」
それでゲーペと会ったのは初対面だったのだ。
「そうだったね」
「そうでしたね、イタリアさんはおられませんでしたね」
「丁度その時ドクツに行ってたんだよね」
「それで、でしたね」
「兄ちゃんや妹達とは会ったね」
「はい」
その通りだとだ、こう答えるゲーペだった。
「統領とはお会い出来ました」
「そうそう、それでイタリン料理をだね」
「御馳走して頂けました」
「美味しいよね、うちのお料理」
「はい、とても」
ゲーペは微かに笑ってこうも言う。
「イタリンは本当にいい国ですね」
「じゃあこっちに亡命ってことでね」
「そうさせて頂ければ」
「うちは何か今の連合国から大目に見てもらってるみたいだし」
「実はカテーリン書記長もです」
あのカテーリンにしてもだというのだ、生真面目に過ぎる彼女でもだ。
「イタリンはお好きで同盟を結べて喜んでおられます」
「あの人もうちが好きなんだ」
「そうです、ですからパスタやチーズも給食に取り入れられています」
そうだというのだ。
「ワインも」
「ソビエトでもうちって人気あるんだ」
「暖かいですし」
このことも大きな理由だった、ソビエトがイタリンを好きな。
「では今はですね」
「うん、宜しくね」
こうしてゲーペの亡命先は決定した、だがここで。
東郷はさらにだ、ゲーペにこのことも問うた。
「君は南から来たな」
「そのことですか」
「そうだ、モスクワへの航路はウラル、そしてだ」
「ロシア平原ですね」
「その二つの方面からしかない」
これを方面で言うと。
「東西だ」
「その通りです」
「しかし君は南から来た」
答えたゲーペにさらに問う。
「これはモスクワに南からも行き来出来るということだ」
「!?まさか」
その話を聞いてだ、東郷の傍にいた日本の顔がはっとなった。
そのうえでだ、彼は東郷に顔を向けて問うた。
「ソビエトにはま我々の知らない星域が」
「実在したということだな」
「そういうことですね」
「若しかすると、と思ってはいた」
東郷が最初に察したことだ、だが彼にしても確証はなかったのだ。
しかしゲーペが彼等が今いるモスクワに南から来たことからだ、このことを確信してそのうえで言うのだった。
「だがこれで間違いない」
「そういえばです」
今度は秋山が言う。
「トルカ姫のクローン、それに」
「あの娘達だな」
「はい、リョウコ=バイラー提督とウナギ=バイラー提督もです」
秋山は二人の話もした。
「そして特殊工作員達も」
「人造人間だからな」
「クローンや人造人間はだ」
津波もいる、ここでも久重の口から話す。
「どちらも特別の研究施設が必要だ」
「その通りだな」
「私は最初それはモスクワにあると思っていた」
自分達が今いるソビエトの首都星域にだというのだ。
「ソビエトはかなり強力な中央集権国家だからな」
「そう考えるのが普通だな」
「しかしだ」
だが、だというのだ。
「そんな施設はこのモスクワの何処にもなかった」
「研究者達もな」
「当然施設だけでも何も生まれない」
「人も必要か」
「科学は人が造り上げていくものだ」
そうだというのだ。
「人がいなくては科学は成り立たない」
「それはあらゆることについても言えることですね」
日本は津波のその言葉に問うた。
「そうですね」
「その通りだ、そのことはな」
「では」
「ソビエトのどの星域にもそうした施設はなく研究者もいなかった」
津波はさらに言った。
「トルカ姫が動かすニガヨギギの指揮にあたっていたコンドラチェンコ提督ですら彼等が何処にいるのか知らなかった」
「コンドラチェンコ提督はあのトルカ姫がクローンだったことは御存知でした」
日本がこのことを指摘した。
「そのことは、ですが」
「それでもだったな」
「はい、あのトルカ姫が何処で生み出されたか」
そしてだったのだ。、
「研究者は誰で何処にいるのかも」
「全く知らなかった」
「ジューコフ元帥ですら」
ソビエト軍きっての名将であり国防大臣であった彼ですらだ。
「御存知ではなかったです」
「知っているとすれば」
津波は自然にだ、ゲーペに顔をやった。
そのうえでだ、こうも言ったのだった。
「貴女しかいないな」
「それは」
「話してもらいたいのだが」
こう久重の口から言う。
「それは出来るだろうか」
「それは」
「そもそもソビエトには謎が多過ぎます」
ここで秋山も言う。
「ゲーペ長官はもうソビエトの方ではありませんし」
「だからですか」
「お話して頂けますか?」
秋山は一同を代表してゲーペに問うた。
「今から」
「お話しない訳にはいかない様ですね」
ゲーペは場の雰囲気からこのことを察した、そしてだった。
腹を括った顔になりだ、口を開きだした。そこから話されることは驚くべきことだった。
TURN113 完
2013・6・5
追い詰められたカテーリンがゲーペを解任してしまったな。
美姫 「ミーリャと共に懐刀だったのにね」
だな。しかも、解任しただけでなく国外追放にしてしまったお蔭で。
美姫 「隠れていた星域の場所も露見しそうよね」
一応、そこそこの戦力は揃いつつあるみたいだけれど、果たして今の現状で凌げるか。
美姫 「逆に東郷たちにとってはチャンスとも言えるわね」
ああ。果たしてどうなるのか。
美姫 「次回も待ってますね〜」
ではでは。