『ヘタリア大帝国』




                   TURN111  二つの切り札

 ジューコフは戦後カテーリンをどうするか、そのことに関する日本つまり枢軸側の決定を東郷と山下から聞いた、そのうええで確かな顔で答えた、その返事はというと。
「わかった、それでは」
「枢軸に来てくれるか」
「そうして頂けるか」
「同志カテーリン書記長はソビエトに必要な方なのだ」
 ジューコフは彼女への敬意も見せて語る。
「確かに子供故の問題点もあるがな」
「政治力はある、か」
「それに統率力も」
「あの石については私も気付いていた」
 この辺りは流石だった、伊達にソビエトきっての名将ではない。
「あの石を見ると誰もが同志書記長の言葉に従ってしまう」
「しかしあの石を抜いてもか」
「カテーリン書記長はソビエトに必要か」
「共有主義はともかくとしてだ」
 このイデオロギーの是非はここでは一旦置かれて話す。
「あの方はロシアという国を正しく導いてくれるのだ」
「そう思うとレーティアさんに匹敵するな」
 東郷はここでカテーリンとレーティアを比較して話した。
「あの娘も」
「天才ではないがだ」
 だが、だというのだ。
「あれだけの努力家はいないだろう」
「それがカテーリン書記長か」
「生真面目で純粋だ」
「それが問題でもあるがか」
「必ず今以上に成長されロシアをよりよくしてくれる」
「そういえば誰もあの娘を批判しないな」
 山下はジューコフの話からこのことに気付いた。
「ソビエトの者は」
「ソビエトと人民のことを誰よりも心から考えておられるからだ」
「誰もがそれを知っているからか」
「だからだ、問題はあってもだ」
 それでもだというのだ。
「我々は同志書記長を必要としているのだ」
「若し我々があの娘を処罰すると決めていれば」
「その時私は頷かなかった」
 ジューコフは山下にも答えた。
「決してな」
「そうか」
「だが君達の国家元首は約束してくれた」
 無論まだ口約束でこれから彼自身が帝の前まで言って書類でやりとりをする、しかしそれでもだというのだ。
「それならだ」
「ではこれから御所に行き」
「正式に話をしよう」
 二人も頷きそうしてだった。
 ジューコフは御所で正式に約束を交わしそのうえで枢軸軍に加わった。枢軸軍はまた一人優れた人材を手に入れた。
 枢軸軍はモスクワから今度はロシア平原に駒を進めようとしていた、その準備は既に完全に整っていた。
 今まさにロシア平原に向けて出港しようという時にだった、ここで。
 侵攻前の偵察から戻って来たのぞみが東郷にこのことを話した。
「やはりどちらもいました」
「大怪獣と冬将軍がか」
「はい、どちらも」
 ロシア平原にいるというのだ。
「そしてソビエト軍の大軍とドクツの精鋭艦隊も」
「そうか」
「イタリン軍も」
 東郷はイタリン軍には何も言わなかった、聞いただけだった。
 のぞみも特に驚かずこう言うのだった。
「ソビエト軍の大軍とドクツ軍の精鋭も驚異ですが」
「冬将軍と大怪獣だな」
「ニガヨモギは恐ろしい存在だ」
 マンシュタインがここで話す。
「我々もその攻撃で一瞬で壊滅した」
「それで東部戦線は戦局が一変した」
 ドイツもマンシュタインと共に話す。
「総統がおられなかったせいもありだ」
「ああ、あいつをどうにかしないとな」
 プロイセンも一同に話す。
「どうにもならないぜ」
「そして冬将軍スノーだが」
 彼女についてはベートーベンが話す。
「彼女の冷気は各鑑にある防寒設備で何とかなるがだ」
「問題はあるか、まだ」
「吹雪はどうしようもない」
 冷気による性能低下はなくともだというのだ。
「視界やレーダー、ソナーに影響が出る」
「敵艦隊への狙いは定めにくいか」
「そこが問題になる」
 こう東郷に話すのだった。
「ここはな」
「まずは冬将軍をどうにかすることか」
 東郷は腕を組んで述べた。
「さもないと狙いが定められずそれだけ戦局が不利になる」
「その方がいいな」
 ドイツがその東郷に述べる。
「そしてそれからだ」
「ニガヨモギだな」
「そうした方がいい」
「ですがニガヨモギの傍にです」
 ここでのぞみが再び偵察で見てきたものを話す。
「コンドラチェンコ提督が自ら率いる艦隊を置いていまして」
「露払いを担当しているか」
「それが問題かと」
「そうか、あの提督がいるか」
「ニガヨモギだけでもかなり厄介ですが」
 それに加えてだというのだ。
「あの提督もいますので」
「わかった、ニガヨモギとコンドラチェンコ提督に向かう艦隊を決める」
 東郷は落ち着いた声で述べた。
「それもな」
「侵攻の時に」
「冬将軍を何とかする艦隊もだ」
 彼女についてもだった。
「真っ先に向ける」
「では今から」
「向かうのですね」
「策は出来た」
 東郷は一同に言った、そうしてだった。
 枢軸軍の主力はロシア平原に向かって出撃した、その彼等の中で。
 その中でイタリアとロマーノががちがちと歯を鳴らして身体を震えさせていた。
 そのうえでだ、二人はこう言うのだった。
「うう、今日はとりわけ寒いね」
「ああ、そうだな」
「もっとストーブきかそうよストーブ」
「これで最大限だよ」
 ロマーノはこう弟に言う。
「これでもな」
「そうなんだ」
「ああ、イタリン軍の基準だとな」
 南欧の彼等のだというのだ。
「これで限界だよ」
「コートも着るブーーー」
「あとロシアさんから貰ったウォッカ飲むブーーー」
 ポルコ族の面々が二人にそういったものを差し出す。
「さもないと寝てしまうブーーー」
「寝たら終わりブーーー」
「ああ、そうだな」
「それじゃあね」
「あと温かい食べ物作ったブーーー」
「皆で食べるブーーー」
 ポルコ族の面々は料理も出してきた、イタリンの料理の中でも温かいものをである。
「とにかく今は温まるブーーー」
「祖国さん達もそうするブーーー」
「そうだね、寒いと食べないと」
「飲んでコートも来てな」
 二人も彼等に応える、そうして温まりながらだ。
 二人はここでだ、彼女についても話すのだった。
「この寒さはスノーさんだけれど」
「あの人の力ってのは凄いな」
「只でさえ寒いソビエトがこんなに寒くなるなんて」
「有り得ないぞこの野郎」
 寒さを凌ぎながらの会話である。
「けれどこれなら」
「ああ、あの連中でもな」
「ソビエト軍も凍らない?」
「くそっ、やっぱり艦の暖房もっときかせるぞ」
 ここでロマーノはこう言った。
「イタリン軍の基準じゃなくてこの艦の基準でな」
「もうそうじゃないと駄目だよね」
「ああ、寒いにも程度があるんだよ」
「幸い防寒設備はあるから」
 第八世代の艦艇の長所だ、どの艦にも防寒と防塵の設備があるのだ。
「それじゃあね」
「もっと利かせろ、キューバみたいに暑くしろ」
「わかったブーーー」
「もうこれは耐えられないブーーー」 
 ポルコ族の面々も自分達の祖国達に応える、彼等は何とか寒さを凌ごうと悪戦苦闘していた。そして対する連合軍はというと。
 ソビエト軍の兵士が水筒の中のウォッカを飲みながら同僚に言っていた。
「船の暖房効かせてるよな」
「ああ、ちゃんとな」
「それでこれかよ」
「そうだよ、この寒さだよ」
 同僚もウォッカを飲みながら応える。
「冬将軍の寒さだよ」
「本当に凄いな、この寒さは」
「寒いだけじゃないだろ」
「ああ、モニターもな」
 見れば視界はかなり酷いものになっていた、銀河に吹雪が吹き荒れていた。
「これじゃあ敵もな」
「狙い撃ち出来ないな」
「その為にスノーさんに来てもらったけれどな」
「この吹雪で敵の攻撃を妨害して」
「それでこっちはニガヨモギとパイプオルガンでまとめて潰すからな」 
 そうした作戦だったからだった。
「あえて出撃してもらったから」
「ここはな」
 こう話すのだった、それぞれウォッカを飲みながら。
「じゃあここは頑張ってもらうか」
「そうだよな」
 こう話しながら枢軸軍を待ち受けていた、今彼等は干戈を交えようとしていた。
 その中でだ、東郷はハニーとのぞみに言っていた。
「あんた達は潜水艦艦隊と共にニガヨモギとコンドラチェンコ提督の方に向かってだ」
「そしてだホーーー」
「私達はコンドラチェンコ提督の艦隊を攻撃してですね」
「まずは彼を倒してくれ」
 そうしてくれというのだ。
「そしてそれからだ」
「ニガヨモギの攻撃を引きつけるホーーー」
「そうしますね」
「ああ、そうしてくれ」
 こう二人に言うのだった。
「まずはな」
「それでニガヨモギの攻撃が全軍に至るのを防ぎますね」
「あの攻撃が全軍に来たら終わりだ」
 その判断からのことだった。
「だからだ」
「わかったホーーー、挑発は任せるホーーー」
 ハニーはこう東郷に話した。
「そういうのは得意だホーーー」
「ハニーさん達の艦のバリアならニガヨモギの攻撃を受けても大丈夫だ」
 それだけ強力なバリアだというのだ。
「だからニガヨモギを引きつけることは君達に任せる」
「わかったホーーー」
「それでは」
「そしてだ、潜水艦艦隊でだ」
 続いて彼等でだというのだ。
「ニガヨモギを集中攻撃してくれ」
「ああ、わかったぜ」
 潜水艦を率いる田中が応える。
「そっちは任せろ」
「宜しくな、さて」
 ニガヨモギのことを決めてからだった、東郷は吹雪の中連合軍がいる場所を見た。
 そのうえでだ、彼はこう言うのだった。
「ソビエト軍のやり方でいこう」
「相手のですか」
「それでいきますか」
「ああ、パイプオルガンだ」
 それを仕掛けるというのだ。
「それをやる」
「今は照準を定められないからか」
「そうだ」
 その通りだとだ、東郷はダグラスの問いに答えた。
「敵の場所は今はおおよそしかわからないからな」
「そのおおよその場所にパイプオルガンを仕掛けてですか」
「それでまずはスノー提督を倒す」
 今度は秋山に答える。
「そしてこの吹雪を消してだ」
「それからですね」
「ニガヨモギだ」
 そのニガヨモギへの攻撃もまずスノーをどうかしてからだというのだ。
「そうする、いいな」
「わかりました」
「それではだ」
 東郷はその言葉を続けていく。
「まずは主力でパイプオルガンだ」
「今からですね」
「攻撃用意」
 そのスノーの艦隊がある場所にというのだ。
「それにかかる、ただ」
「ただとは」
「艦載機は発艦させてもだ」
 それでもだというのだ。
「すぐには攻撃をしない」
「吹雪が消えてからですか」
「消えると共に連合軍の主力に攻撃を浴びせろ」
「そうされますか」
「そうだ、まずはだ」
 スノーをどうかしてからだというのだ、何もかも。
「そうするぞ、いいな」
「了解です」
 秋山が頷きそうしてだった。
 まずは艦載機が吹雪の中次々と発艦しスノーのいる場所にビームがセットされる。そして。
 吹雪を無数のビームが切り裂く、白い嵐を光の矢が打ち消していく。
 銀河の闇も切り裂きそうしてだった。 
 スノー艦隊がいる場所を集中的に撃つ、それを受けてだった。 
 そこにいたソビエト軍の艦艇は次々と沈んでいった、悲鳴が戦場に木霊する。
「なっ、まさか!」
「これはパイプオルガンか!」
「枢軸軍が我々の攻撃を使ってきたのか!」
「照準を定めずに!」
「まさか!」
「これは」
 スノーも言う、その次々と来るビームの中で。
「私を狙って」
「提督を狙ってですか」
「ここはあえて」
「狙いを定められないのなら」
 それならだと、スノーは言う。
「定めないといい」
「我々の様に」
「そうすれば」
「そう、簡単なこと」
 こう淡々と言うのだった。
「枢軸軍はそうしてきただけね」
「ある意味合理的ですね」
「そうしてくるとは」
「そうね、ただ」
「ただ?」
「ただとは」
「回避運動に入っているけれど」
 だがそれでもだというのだ。
「この状況では」
「かわしきれませんか」
「これだけの攻撃ですと」
「ええ、敵はまず私だけを狙ってきているわ」
 連合軍の大軍の中で彼女だけをというのだ。
「だから今は」
「どうされますか、それでは」
「避けられないのならば」
「総員退避よ」
 回避ではなくそれしかないというのだ、そして。
 スノーは将兵達を退艦させ自身も脱出艇に乗った、そうしてすぐに惑星に入り難を逃れたのだった。
 これで吹雪が消えた、それと共に。
 艦載機達ははっきりと見える様になった連合軍に殺到した、そのうえで次々と攻撃を浴びせ撃破していく、だがそれでもだった。
 コンドラチェンコは冷静だった、そのうえで将兵達に言うのだった。
「心配することはないからな」
「スノー提督がおられなくなってもですね」
「まだ、ですね」
「そうだ、ニガヨモギがある」
 これがあるというのだ。
「だから安心してくれ」
「では今からですか」
「ニガヨモギで攻撃をですか」
「そうだ、それでいく」
 そうするというのだ。
「ここはな」
「では、ですか」
「今から」
「ニガヨモギで焼き払う」
 その恐ろしいまでの光でだというのだ。
「そうするからな、いいな」
「ええ」
 トルカが応える。
「わかったわ」
「今から俺が攻撃目標を伝える」
「それに従って」
「敵を焼き払え」
 コンドラチェンコはモニターに移る敵軍を見据えながらトルカ、クローンである彼女に対して伝えるのだった。
「わかったな」
「ええ」
 オリジナルと同じ返答だった、そして。
 コンドラチェンコは彼女に攻撃目標を伝えようとする、だがここで。
 彼の旗艦にだ、ハニーとのぞみが声をかけた。
「よし、今だホーーー!」
「攻撃開始です!」
「援護します」
 エルミーもファルケナーゼからビームを放つ、この潜水艦はビームも使えるのだ。
 それを出してコンドラチェンコの旗艦キエフを狙う、ニガヨモギのことに集中していたコンドラチェンコはこの攻撃に思わず声をあげた。
「ちっ、隙をつかれたな!」
「司令、ここはどうされますか!」
「一体!」
「艦長、回避させてくれ!」
 これが彼の命令だった。
「いいな、ここは!」
「わかりました!」
「俺はニガヨモギの指揮に専念する」
 それでだというのだ。
「艦のことは任せる」
「了解です」
「やってくれるな、向こうも」
 コンドラチェンコは晴れた銀河の中に浮かぶニガヨモギの巨体を見ながら呻いた。
「相変わらず次から次に」
「全くですね」
 艦長も応える。
「スノー提督もやられましたし」
「だからだな」
「だからとは」
「俺達はこれまでやられてきたんだろうな」
 モスクワまで奪われロシア平原でもだというのだ。
「馬鹿じゃない、本当に」
「むしろかなりですね」
「頭がいいな」
 今は酒を飲まずに言うのだった。
「尋常じゃないまでにな」
「そうですね」
「ニガヨモギを何とかしないといけないけれどな」
「?司令」
 艦長はここでソナーを観た、するとだった。
 ソナーに反応があった、その瞬間に。
 無数の魚雷が出て来た、その魚雷達がニガヨモギを撃った。
 ニガヨモギはまだ戦場にいる、だがそれでもだった。
「かなりのダメージですね」
「ああ、潜水艦か」
「しかもニガヨモギいえ怪獣姫の注意がです」
 見ればハニーとのぞみの艦隊がニガヨモギの前に展開してその関心を引いていた、これでは敵全体への攻撃どころではなかった。
 それを見てだ、コンドラチェンコはさらに苦い顔で述べた。
「まずいな、これは」
「はい、そうですね」
 エストニアがモニターから応える。
「あのお姫様は軍人じゃないからな」
「戦争の専門家でないから」
「ああした露骨な挑発も見抜けない」
 このことが問題だった。
「折角敵軍全体を攻撃しようと思ったがな」
「これではですね」
「無理だ」
 コンドラチェンコは苦い顔でエストニアに答えた。
「まずいな、スノー提督もいなくなったしな」
「今主力が敵の艦載機でかなりのダメージを受けています」
「ああ、わかっている」
 戦局もモニターに出ていた、枢軸軍の艦載機はここでも暴れ回っていたのだ。
「こっちもヘリがあるがな」
「ヘリの運用にはまだ」
 慣れていなかった、今の時点も。
「通常の艦載機より操縦も難しいですから」
「だからだな」
 コンドラチェンコも機動部隊の専門家ではない、彼はミサイル部隊出身だ。
「迎撃をしようにも」
「難しいです」
「そうだろうな、ここはな」
「それでもですね」
「ヘリを展開させてだ」 
 それに加えてだった。
「潜水艦も使え」
「そちらもですね」
「ドクツ軍にも要請してくれ」
 彼等にもだというのだ。
「潜水艦を使ってな」
「そのうえで、ですね」
「迎撃だ、ニガヨモギはもうあまり期待しない方がいい」
 敵全体を狙う切り札としては、というのだ。
「俺もそっちの指揮に専念したいがな」
「こっちは僕が引き受けるよ」
 今度はロシアがモニターに出て来てそのうえでコンドラチェンコに言って来た。
「だから司令は今はね」
「ニガヨモギにっていうんだな」
「うん、そうしてくれるかな」
「わかった」
 コンドラチェンコもロシアの提案に頷く、そしてだった。
 彼等は今は役割を分担した、コンドラチェンコはニガヨモギに専念し主力艦隊はロシアが指揮を執ることになった。
 このことが決まったのは速かった、だが。  
 そのタイムラグがあった、そしてその間にだった。
 枢軸軍はさらに攻めていた、特にニガヨモギを。
 ニガヨモギはコンドラチェンコの指揮下に戻り枢軸軍全軍への攻撃に入ろうとしていた、しかしその大怪獣に。
 枢軸軍潜水艦艦隊は集中攻撃を浴びせる、艦隊ごとの攻撃ならニガヨモギの体力なら何の問題もなかった。 
 だが何個艦隊もそうしてくる、その数はというと。
「六個はあるな」
「敵の潜水艦艦隊はですね」
「ああ、はっきりとはわからないがな」
 コンドラチェンコは敵の攻撃を調べながらラトビアに言う。尚これまでの田中、エルミー、〆羅、ベートーベンに加えてリディアとカナダも潜水艦担当になっている。
「それ位はな」
「枢軸軍の割合では多くはないですが」
 枢軸軍はおおむね戦艦か大型空母を主力としている、潜水艦の割合は少ない。
 だがそれでもだった、数は少ないが。
「一個艦隊ごとの能力が高いですね」
「隠密性が高くな」
 それにだった。
「魚雷の性能も高いな」
「はい、それもかなり」
「あの攻撃力だと戦艦も吹き飛ばせるな」
 そこまで強いというのだ。
「特に一個艦隊かなり隠れるのが上手いみたいだしな」
「まさかカナダさんでしょうか」
 ラトビアは直感で彼ではないかと言った。
「あの人目立たないですから」
「ああ、カナダか」
「はい、あの人ならそこにいても中々見つからないですし」
「あの人連合にいたんだよな」
 コンドラチェンコも真顔で言う。
「そうだよな」
「はい、実は」
「ずっと忘れていた、しかも連合国の会議にいつもいてな」
「誰も気付かなかったみたいですね」
「あの人実は能力も高いんだよ」
 このこともいつも忘れられる。
「潜水艦艦隊にはもってこいか」
「あの、もう一波総攻撃を受ければ」
 ニガヨモギは今も潜水艦艦隊の攻撃を受けている、相手の姿は何処にも見えない。
「如何に大怪獣といえど」
「ソナーを持っている艦はな」
 見れば敵の艦載機に真っ先にやられていた、枢軸軍もわかっていた。
「今はないな」
「どうやら事前にまずニガヨモギを何とかしようって思っていたみたいですね」
「そうだな、これはまずいな」
 もう一枚の切り札スノーもいない、これではだった。
「祖国さんも頑張ってるけれどな」
「僕がそっちに行きましょうか」
 ラトビアはどうしてもという口調でコンドラチェンコに言って来た。
「今から」
「祖国さんに許可を得てか」
「はい、そうしましょうか」
 ラトビアは潜水艦艦隊を率いている、だからだというのだ。
「今から」
「そうしてもらいたいけれどね」
 だがすぐにだった、そのラトビアに他ならぬロシアが言って来た。
「こっちも潜水艦欲しいんだ」
「あっ、こっちの戦局も」
「うん、ラトビアは枢軸軍の後方に回ってくれるかな」
「潜水艦艦隊を率いてですね」
「それで敵の後方から攻めて」
「わかりました、それじゃあ」
「ニガヨモギの方は悪いけれど」
 ロシアはラトビアに話してからコンドラチェンコに申し訳なさそうに告げた。
「コンドラチェンコさんの方で」
「何とかするしかないか」
「うん、出来るかな」
「それがな、こっちの戦艦もダメージ受けててな」
 それでだった。
「ニガヨモギのコントロールが万全じゃないんだよ」
「トルカさんへの通信がしにくくなってるんだ」
「ああ、途中途切れるし声も小さくなっている」
「トルカさん只でさえロシア語には疎いのに」
「まずい状況だよ」
 コンドラチェンコも歯噛みすることだった。
「これはな」
「ニガヨモギ、諦めるしかないかな」
「僕達としている通信をトルカさんに切り替えてみる?」
「それもやったさ、けれどな」
「向こうもなんだ」
「通信がおかしくなっちまっている」
 つまり双方の通信がおかしくなっているというのだ、戦いではままあることだ。
「俺がシャトルで直接行ってもな」
「うん、コンドラチェンコさん自身の艦隊の指揮もあるしね」
「出来ないからな」
 艦隊司令としての立場ではとても無理だった。
「それもな」
「ううん、ニガヨモギはどうなるかな」
「このままだと終わりだ」
 確実にそうなるというのだ。
「本当にあと一度敵の潜水艦艦隊の総攻撃を受けたらな」
「終わりだね」
「そうなったらな」
 二枚の切り札のどちらも破られる、そうなればというのだ。
「ロシア平原の戦いも、ソビエト自体も」
「あっ、まだ大丈夫だから」
 ロシアはコンドラチェンコの危惧には微笑んで答えた。
「まだ最高の切り札があるから」
「最高の?」
「うん、まだあるから」
「それはどういったものなんだ?」
 コンドラチェンコは怪訝な顔になってロシアに尋ねた。
「祖国さん、よかったら教えてくれないか?」
「あっ、まだ内緒にしないといけないから」
「同志書記長さんの判断か」
「その時になったら見せるからね」
 ロシアは答えずにこう言うだけだった。
「そういうことでね」
「ああ、それじゃあな」
 この話はこれで終わった、そしてだった。 
 ソビエト軍はドクツ軍、イタリン軍と共に枢軸軍と戦いニガヨモギも何とかコントロールを取り戻そうとしていた、だが。
 田中はニガヨモギの急所に照準を合わせこの指示を出した。
「いいか!次でだ!」
「へい、決めますね!」
「総長、いえ副司令の手で!」
「そうだ!ここで決めるぞ野郎共!」
 田中は己の部下達に告げた。
「あの化物のどてっ腹にありったけの魚雷をブチ込むぞ!」
「それで決めましょう!」
「これで!」
「ドクツ軍の仇を取ってやりましょう!」
「そうだ、やるぜ!」
 田中は自ら望遠鏡の握り手にあるボタンを押した、そしてだった。
 田中艦隊の全ての潜水艦から魚雷、まさにありったけの魚雷が放たれた。それは全てニガヨモギの腹部に稲妻となって向かい。
 深々と突き刺さった、そして派手に爆発し。
 ニガヨモギ自体もその爆発で止めをさした、今度は大怪獣自体が星域全体を震わせるまでの爆発を起こした。
 凄まじいまでの光と衝撃、そして炎が両軍を照らし揺らした、それが終わった時にそれまでニガヨモギがいた場所には何もなかった。 
 田中はそれを見て会心の声をあげた。
「よし、やったな!」
「副司令、大金星ですぜ!」
「やりやしたね!」
「おめえ等の手柄だ!」
 田中は自分の手柄とは言わなかった。
「よくやってくれたな!」
「はい、お見事でした」
 日本もその田中にモニターから言う。
「これでソビエト軍の切り札を二つ共消しました」
「よし、じゃあ次はだな」
「連合軍との決戦です」
 それはもうはじまっている。
「勝ちます」
「じゃあ今から潜水艦艦隊もそっちに向かうな」
「田中さん、ですが田中さんの艦隊には魚雷が残っていませんが」
 〆羅がその田中に言って来た。
「それでもですか」
「ああ、まだミサイルがあるからな」
「それで、ですね」
「戦うさ、じゃあ行くか」
「わかりました」
 こうしてニガヨモギを倒した潜水艦艦隊、そしてのぞみ達は主力と合流し連合軍との決戦に参加した。そこにはコンドラチェンコもいた。
 両軍は艦隊同士での激しい戦いに入っていた、だがスノーとニガヨモギを失った連合軍はもうそこで既に敗れていた。 
 果敢に戦術を尽くして戦ったがそれでもだった、遂に。
 コンドラチェンコは全軍、ドクツ軍とイタリン軍もその損害が七割を超えたところで断を下した。
「全軍カテーリングラードに撤退だ」
「そしてそこでだね」
「戦力を立て直す」
 こうロシアにも答える。
「そうしよう」
「うん、じゃあね」
「同志書記長もそこに入ってもらうか」
「わかった、ではだ」
 今度はゲーペがコンドラチェンコに応える。
「書記長は私がお守りする」
「そういうことで頼むな」
「同士司令も速く戦場を離脱してはどうか」
「後詰がいるだろ」
「それではか」
「ああ、司令の務めだからな」
 撤退の後詰も自分から名乗り出てだった、コンドラチェンコは全軍に撤退を命じたのだった。
 カテーリンもミーリャと共にカテーリングラードまで逃れ連合軍はカテーリングラードまで撤退した、しかしその際に。
 逃げ遅れたスノー、そしてコンドラチェンコも乗艦のエンジンを攻撃され動きが停まったところを捕虜になった。ロシア平原での戦いはソビエト軍にとっては散々なものに終わった。
 枢軸軍は遂にソビエト軍に決定的なダメージを与えた、それを受けてだった。 
 東郷はロシア平原の港に入りすぐに日本に言った。
「次はカテーリングラードを攻めてだ」
「そしてですね」
「そこで向こうの書記長さんが降伏しないのならだ」
「ソビエト全土の占領ですね」
「あの書記長さんが降伏するまでな」
 そうするというのだ。
「戦力数も逆転した、もうソビエト軍に我々と正面から戦える戦力は残っていない」
「カテーリングラードに残っている残存戦力を倒せば」
「それで終わりだ」
 後は各星域の占領だけだというのだ。
「それを進めよう」
「では」
「コンドラチェンコ提督とスノー提督はどうかな」
 東郷は日本に二人のことも尋ねた。
「あの人達は」
「枢軸軍への参加に同意されています」
 既にだというのだ。
「そうされています」
「そうか、それならな」
「各艦隊の修理が終わりましたら」
「次はカテーリングラードだ」
 そこに兵を進めてというのだ。
「ソビエトの戦いも何とかな」
「終わりが見えてきましたね」
「ああ、油断は出来ないがな」
 それでもようやく終わりが見えてきたというのだ、だが東郷も日本も他の者達もソビエトがまだ切り札を持っていることは知らなかった、カテーリンもロシアもまだ諦めていなかった。


TURN111   完


                               2013・5・16



ニガヨモギとスノー将軍も何とか退けたか。
美姫 「スノーに関しては身柄確保までは出来なかったけれどね」
だが、勝負自体は勝てたから良しと言った所だろう。
美姫 「そうね。とは言え、まだ諦めていないみたいだし」
切り札というのが気になるな。一体、何を持っているのか。
美姫 「非常に気になる所ね」
ああ。次回も待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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