『ヘタリア大帝国』
TURN11 エイリス女王
「女王陛下万歳!」
「女王陛下万歳!」
世界で最強と言われるエイリス帝国の霧の都ロンドン。その赤い煉瓦の町でだ。
臣民達が歓呼の声で見事なブロンドの髪に青緑の宝石の様な瞳を持つ楚々とした美少女を迎えていた。
緑と白の丈の長いドレスを着ており薔薇の香りを漂わせている。
顔立ちは気品がありバランスよく整っている。その後ろにだ。
青く長い髪をした優しい顔立ちの青年、薄茶色の髪の眼鏡の青年、そして見事な白い髭を持つ端整な初老の男、その三人の緑の軍服、騎士を思わせるエイリス軍の丈の長い軍服の彼等がいる。それぞれだ。
ジョン=ロレンス、ヴィクトリー=ネルソン、クルード=モンゴメリーという。エイリスの誇る騎士提督達だ。女王セーラ=ブリテンの懐刀と言ってもいい。
その彼等を後ろに控えるこの少女こそがだった。その女王セーラ=ブリテンである。
セーラは国民達にその麗しい姿を見せて手を振って応えていた。そのうえでだ。
後ろにいる彼等に。こう問うたのだった。
「話は聞きました」
「はい、ポッポーランドは敗れました」
ロレンスがだ。セーラに答える。
「そしてそのうえで、です」
「東欧全域がですね」
「ドクツの手に落ちました」
「ポッポーランドがこうも簡単に敗れるとは思いませんでした」
今度はモンゴメリーが言う。
「そしてです」
「はい、ギリシアもですね」
「ギリシアは戦わずして降伏しました」
そうなったとだ。モンゴメリーはセーラに説明した。
「僅かの間に東欧は全てドクツが併合してしまいました」
「そのドクツに対してです」
セーラはその曇った顔で話した。
「我が国はオフランス王国と共に宣戦を布告します」
「わかりました」
ネルソンがそのセーラの言葉に応えた。
「では軍もまた」
「お願いします。それでなのですが」
セーラは三人の方を見た。そのうえでだ。
最初はだ。モンゴメリーにこう言ったのだった。
「モンゴメリー、貴方はです」
「はい」
「北アフリカに向かって下さい」
「イタリンへの備えですね」
「はい、我が国はドクツの同盟国でもあるイタリンにも宣戦を布告します」
だからだというのだ。
「ではいいですね」
「わかりました。では艦隊を率い」
「お願いします」
「女王陛下の為に」
エイリスの敬礼でだ。モンゴメリーはセーラに応えた。
「私達は失態を犯してしまいました」
そのセーラがだ。曇った顔でこう言った。
「先の敗戦でドクツに自治を許したことはです」
「そのことがですね」
「はい、失態でした」
まさにそうだとだ。セーラは曇った顔でネルソンに話した。
「せめてもの情けだと思ったのですが」
「しかし今度はですね」
「彼等の暴虐を許してはなりません」
セーラはその手に剣を持った。実際にはそうではないが心でそうしていたのだ。
そしてだ。また言うセーラだった。
「北欧とオフランスに軍を派遣しましょう」
「その北欧ですが」
ロレンスが北欧について話してきた。
「近頃王室が騒がしいそうです」
「ノルウェーのですね」
「はい、あの家がです」
「王女だったでしょうか」
セーラは少し考える顔になって述べた。
「アルビルダ姫でしたね」
「あまり品のいい言葉ではありませんが」
こう前置きしてからだ。ロレンスはセーラに話した。
「お転婆だとか」
「マリーの様にでしょうか」
「いえ、マリー様よりもです」
「遥かに酷いのですか」
「その様です」
そうだとだ。ロレンスはそのアルビルダについてセーラに話した。
「それで自ら艦隊を率いると仰っているそうです」
「それは大変ですね。ですが」
ここでだ。セーラは言った。やはり心に剣を持って。
「私もまた、です」
「自ら前線に立たれますか」
「女王陛下も」
「我がエイリス帝国の主の務めです」
セーラは毅然としてだ。騎士提督達に答えた。
「自ら軍を率いそのうえで敵を倒す」
「その伝統に従いですか」
「女王陛下もまた」
「お母様がそうされた様に」
セーラは母のこともその話に出した。
「そうします。それでなのですが」
「はい、祖国殿ですね」
「こちらにお呼びしたいのですね」
「そうです。祖国殿と妹殿はまだでしょうか」
少し心配そうな顔になってだ。セーラは騎士提督達に尋ねた。
「共に臣民達に応えたいのですが」
「もう少しで来られると思います」
モンゴメリーがセーラに答える。
「ですから暫しお待ちを」
「わかりました。それでは」
セーラも応えるとだ。ここでだ。
そのイギリスが来た。妹も一緒だ。二人はそれぞれエイリス軍の軍服を着ている。やはり緑でだ。騎士の様な格好の軍服である。
そのイギリスがだ。妹共にセーラに敬礼してからだ。
そのうえでだ。こう言ったのだった。
「済まない、遅れた」
「少し港に行っていました」
「港にですか」
「ああ、ドクツに宣戦布告したからな」
それでだとだ。イギリスはセーラに話したのである。
「俺達も出撃の用意をしていたんだ」
「そうですか。貴方達も戦われるのですね」
「だってよ。祖国が戦わないとな」
「どうしようもないですから」
イギリスもイギリス妹もこうセーラに答える。
「今度の戦いも激しくなるんだろ?」
「ですから私達も是非」
「戦わせてもらうぜ」
「できれば女王陛下には後方にいて欲しいのですが」
「そういう訳にはいきません」
セーラはイギリス妹の今の言葉は断った。
そしてそのうえでだ。こう言ったのだった。
「女王である限りはです」
「戦うしかない」
「そう仰るのですね」
「はい、そうです」
女王である、まさにそれ故にだというのだ。
セーラは自分の祖国達に対してもだ。毅然としてこう答えたのだった。
「私は女王です。ですから」
「そうか。けれど本当にお願いするぜ」
「無理はなさらないで下さい」
二人は自分のその美しく、かつ責任感に満ちた上司に敬意を抱きつつだ。それ故に心から心配してだ。そのうえでこう彼女に言ったのだった。
「死んだら元も子もないからな」
「女王陛下は昔から無理をされることが多いですから」
「その通りです」
モンゴメリーもだ。ここでこうセーラに言ってきた。
「祖国殿と妹殿の仰る通りです」
「私は、ですか」
「ご幼少の頃から無理をされ過ぎています」
セーラのそうしたところをだ。モンゴメリーも心配する顔で述べた。
「努力されるのはいいのですが」
「無理はよくないんだよ」
「そのことを注意されて下さい」
イギリスとイギリス妹は再びセーラに言った。
「何でも自分一人で背負い込むんじゃなくてな」
「私達もいますから」
「だから。頼むぜ」
「無理はなさらないで下さい」
「及ばずながら我々もいます」
「困った時は何とでも言いつけ下さい」
騎士提督達もだ。三人一斉にセーラの前に片膝をついてそのうえで言ったのだった。
「エイリスの為に」
「この命捧げましょう」
「有り難うございます」
セーラは祖国達、そして騎士提督達の言葉を受けてだ。
微笑みになりそうしてだ。こう言ったのだった。
「私なぞの為に。そこまで心を見せてくれるとは」
「女王さんだからな」
イギリスは微笑んでセーラにこうも言った。
「前の女王さんも好きだけれどな」
「私達はセーラ様だからこそです」
「喜んで戦わせてもらうぜ」
「女王陛下の為に」
「そうですか」
「ああ、それでな」
イギリスがだ。その微笑みと共にセーラの横に来た。そうしてだ。
臣民達の前に姿を現してだ。こんなことを言った。
「俺達をここに呼んだのはやっぱり」
「そうです。共に臣民達の前に出たいと思いまして」
「そうだよな。だから呼んでくれたんだよな」
「そうです。それで祖国殿」
「ああ、二人一緒にな」
「彼等に応えましょう」
セーラも微笑みだ。そうしてだった。
イギリスと共に臣民に手を振って応えるのだった。今エイリスも戦いに入ろうとしていた。
そして王宮ではだ。セーラは紅茶を飲みつつだ。こうイギリスと妹に話していた。
見事なソファーに装飾の部屋だ。その中で紅茶を飲みながらだ。セーラは自分の向かい側に座る二人に尋ねた。
「ドクツ軍は北欧に向かっているそうですね」
「ああ、マンシュタインとロンメルの軍勢がな」
「シャイアン星域から向かっています」
そうだとだ。二人も紅茶を飲みながらだ。セーラに答えた。
「まずはデンマークを占領してな」
「ノルウェーに入ると思います」
「わかりました」
二人の話を聞いてだ。セーラは決断を下した。
「では我が軍はアイスランドからノルウェーの救援に向かいます」
「よし、じゃあ俺達も行くぜ」
「何個艦隊を向かわせますか?」
「貴方達を含めてです」
国家艦隊二つ、それと合わせてだというのだ。
「六個艦隊を送ろうと考えています」
「そうか、六個か」
「それだけを送るのですね」
「戦艦を軸にします」
艦隊の艦種についてもだ。セーラは言及した。
「そして巡洋艦と駆逐艦を」
「空母はどうされますか?」
イギリス妹は空母を話に出してきた。
「それは送られないのですか?」
「航空母艦ですか」
「はい、あれはどうされますか?」
「送りたいのですが」
セーラの顔が曇った。空母についてもだ。
「ですが。北欧の吹雪を考えると」
「艦載機を出せないからですね」
「我が軍の艦載機は残念ながら非力です」
「シーファイアとソードフィッシュは」
「ですから」
艦載機に問題があるというのだ。
「北欧には送れません」
「わかりました。それでは」
「はい、送るのはあくまで戦艦を主軸にします」
北欧の気候を考えてだ。そうするというのだ。
「そうしますので」
「仕方ないな。しかしな」
イギリスはここで話題を変えてきた。今度の話題は。
「ドクツの船だけれどな」
「あの戦艦や巡洋艦ですね」
「凄い射程らしいな」
「はい、速度もです」
「相当高性能だな」
イギリスは深刻な顔でセーラに述べた。
「何世代も先をいってるみたいだな」
「質では我が軍の艦艇を凌駕しているでしょう」
セーラもこのことは否定しない。
しかしだ。彼女は同時にこうも言った。
「しかし数はです」
「そっちはこっちの方がずっと上だな」
「我々は数で挑みます」
「そうだよな。数で押すしかないな」
「北欧には六個ですが」
「本国艦隊はな」
「総動員をかけます」
セーラは強い声で言った。
「予備役の将兵、それにです」
「艦艇もか」
「それもですね」
「はい、動員します」
セーラは強い声でイギリスの兄妹に話す。
「そして何としてもドクツをです」
「勝たないとな。ロンドンを陥落させられたらな」
「終わりですから」
セーラはイギリスにまた述べた。
「だから絶対にです」
「ああ、勝とうな」
「何があろうとも」
「無論植民地の戦力もロンドンに集めます」
それも行うというのだ。
「戦力は集められるだけ集めます」
「それはいいのですが」
ここでだ。イギリス妹がセーラにこう言ってきた。
「植民地も不穏な場所が多いです」
「というか最近何処もやばいよな」
イギリスも言う。
「何か今にも叛乱が起きそうな感じだよな」
「特に東南アジア、そしてインドです」
イギリス妹が挙げるのはこの二つの地域だった。
「インドネシア、マレーシア、ベトナムと」
「静かなのはオーストラリアにニュージーランドか」
「トンガも静かではあります」
オセアニアはまだ大丈夫だというのだ。しかしだった。
東南アジアは不穏な空気が漂っているという。そしてだった。
イギリス妹は特にだった。この地域を挙げるのだった。
「インドです」
「あの地域ですね」
「インドは今にも大規模な独立運動が起こってもおかしくないです」
「本来なら艦隊を幾つか送りたいのですが」
セーラの顔が曇る。深刻なものがさらに深くなっている。
「しかしそれはです」
「できませんね。本国の状況が状況ですから」
「若しインドを失えばです」
どうなるか。イギリス妹はこのことも話した。
「我が国の経済力は間違いなく三分の一はなくなります」
「そうですね。そこまで」
エイリスはそこまでインドに依存しているのだ。インドの通称は女王陛下の宝石箱である。インドだけでアフリカ、東南アジア全域を合わせただけの富があるのだ。
若しそれを失えばどうなるのか。セーラは憂いていた。
「そのままエイリスの衰退につながります」
「そうです。ですからインドの艦隊は動かせません」
「むしろな。若しあそこで何かあればな」
どうかとだ。今度はイギリスが言う。
「こっちから艦隊を送りたい位だな」
「その通りです」
「ったくよ。本国もこんなのでな」
ドクツと対峙して。そしてだというのだ。
「植民地もそんなのか」
「どうしてもというのならです」
セーラは苦渋に満ちた顔でだ。こう言った。
「エイリス本土だけでも守らなければなりません」
「だよな。だから第一はドクツだな」
「あの国を倒さねばなりませんね」
「その通りです。この世界を正しく導ける国はです」
その国こそだ。何処かというと。
「我がエイリス帝国だけなのですから」
「ああ、だから勝とうぜ」
「この戦いも」
イギリスと妹は二人でだ。セーラの誓いに応えた。そうしてだった。
エイリスはすぐに総動員令を発布し予備役の将兵や艦艇を動員してだ。臣民を軍事に重点を置いて配した。そして植民地の艦隊も可能な限り本国に集められた。
湊にも艦艇が次々と集る。それを見てだ。
ネルソンはロレンスにだ。こんなことを言った。
「威容だな」
「我がエイリス艦隊がだな」
「そうだ。これだけの数があればだ」
「我々は勝てるな」
「エイリスは決戦に敗れたことはない」
ネルソンは断言した。このことをだ。
「危機に瀕した我が国は最大の力を出す」
「その通りだ。しかしだ」
「ドクツは強いか」
「あの強さは本物だ」
今度はロレンスが断言した。ドクツは本当に強いとだ。
そしてだ。こうも言うのだった。
「それだけに。少しでも油断をすればだ」
「敗れるのは我々だな」
「そうだ。勝敗は戦いの常」
「勝つこともあれば、か」
「敗れることもある」
ロレンスはこの冷徹な現実をだ。親友に告げたのだ。
「それは我々とて同じだ」
「エイリスも敗れることもある」
「油断すればな。ただしだ」
ここでまた言うロレンスだった。
「国力では我がエイリスはドクツを圧倒している」
「植民地の富故にな」
「我が国は日の沈まぬ帝国だ」
エイリスの通称だ。そしてこの通称は伊達ではなかった。
「あらゆるものが手に入り他の国を指導してきた」
「その通りだ。それはな」
「その国力は。後発のドクツを凌駕している」
それもだ。遥かにだというのだ。
「近頃はガメリカが成長してきているがな」
「ガメリカ。あの国か」
「そしてソビエトもあるにしてもだ」
だがそれでもだというのだ。エイリスの力はまだあるというのだ。
この話をしている二人のところにだ。今度はモンゴメリーが来た。彼は穏やかにこう二人に言った。
「どうだ。訓練や整備は順調か」
「はい、御安心下さい」
「全ては順調です」
「それは何よりだ」
二人のエイリス式の敬礼を受けたうえでの言葉を聞いてだ。モンゴメリーは微笑になった。
そしてだ。こう言ったのだった。
「ではこのままだ」
「ドクツとの戦いの準備を進めましょう」
「まずは北欧、そしてオフランスになりますが」
「まさかとは思うがだ」
どうかとだ。ここで言うモンゴメリーだった。
「マジノ線が破られるとは思わないがな」
「そうですね。あの要塞は難攻不落です」
「そう容易に陥落させられるものではありません」
「あの要塞を陥落させるにはだ」
どうすべきか。モンゴメリーは二人に言った。
「バリアを用意することだ」
「つまりバリア艦ですね」
「それでマジノ線からのビームを防ぐことですね」
「それしかない」
モンゴメリーはこう看破した。マジノ線攻略にはだ。
「だが、だ。オフランス軍も我々も艦載機やミサイルを持っている」
「マジノ線を無効化できてもですね」
「我々の戦力があれば」
「バリア艦を。ドクツが持っているかどうかは知らない」
このことはまだ確かな情報は入っていなかった。ドクツの艦艇は確かにかなり優秀だがそれでもだ。そうした補助艦艇の種類まではまだわかっていないのだ。
しかしそのバリア艦についてだ。モンゴメリーはこうも言った。
「しかしバリア艦を持って来るとだ」
「その分戦力が落ちますね」
「我々の付け入る隙ができますね」
「その通りだ。攻めることが容易になる」
まさにそうだというのだ。
「どちらにしろマジノ線は存在自体が脅威だ」
「敵にとっては」
「そう、ドクツにとっては」
「その通りだ。それこそ密かに接近し破壊工作でもするしかない」
モンゴメリーはもう一つの要塞攻略法を言ってはみせた。
「しかしそれは不可能だ」
「工作員の潜入はですね」
「とてもですね」
「そうだ。既にオフランスでも警戒態勢に入っている」
ドクツに宣戦布告した、それならばだ。
「だからだ。彼等もだ」
「工作員の潜入は許さない」
ネルソンが言った。
「何としても」
「幾らオフランスが平和主義に溺れていてもそこまで愚かではない」
モンゴメリーもそう見ていた。そしてそれは確かだった。
「そしてだ。ドクツ軍の予想進路だが」
「オランダ、そしてベルギーですね」
「ベネルスク三国から攻めて来ますね」
「シュリーフェンプランのままだ」
かつての一次大戦のだ。そのままだというのだ。
「あそこから攻めるしかない」
「確かにオランダもベルギーも小国です」
ロレンスはこの二国はこう言い切った。
「おそらくドクツに対して為す術もないでしょう」
「その通りだ。しかしだ」
「進路はわかっていますね」
「そこにマジノ線を向ければいい」
そうして対するだけだというのだ。そこから来るドクツ軍に対して。
「間違っても他のルートからは来られない」
「ドクツとオフランスの国境にはアルデンヌがあります」
ネルソンはこの地域のことを話に出した。
「しかしあの暗礁宙域は。小型の一般艦艇ならともかくです」
「軍艦は越えられない」
「だからあの宙域は除外していいですね」
「その通りだ。あの宙域からはドクツ軍は来ない」
モンゴメリーは断言した。これは彼だけでなく誰もが確信していた。
「絶対にだ」
「その通りです。ではシュリーフェンプランのままですね」
「彼等は来ますね」
「それに対処すればいい。オフランスで終わらせる」
そうしたいと言うモンゴメリーだった。
「この戦いはな」
「はい、そうしましょう」
「何があっても」
こう話してだ。騎士提督達も戦略を立てていた。そしてだ。
セーラもだ。祖国達と話しながら戦略を立てていた。その中でだ。
セーラは己の執務室、女王らしい見事な装飾のある部屋の中でだ。イギリス兄妹と話していた。その中でだ。彼女はこう二人に言ったのだった。
「やはり北欧はですか」
「負けると思うぜ」
「あそこでは」
「そうですか。勝てるものではありませんか」
「まず空母が使えないんだ」
イギリスはセーラにこのことを話した。
「ビームだとな。索敵能力で勝っている向こうの方が有利だ」
「そうなりますね」
「そしてです」
今度はイギリス妹がセーラに話す。
「北欧は吹雪の中にあります」
「そうですね。防寒対策ですが」
「それをすればな」
どうなるか。マジノ線でのドクツ軍と同じ憂慮がだ。今度はエイリス軍に覆い被さってきたのだ。
「こっちの戦力がそれだけ落ちる」
「持って行かない訳にはいきませんが」
ジレンマだった。まさにだ。
「それで今のドクツ軍と戦うとな」
「やはり敗北がです」
「濃厚ですね。では北欧は」
「ああ、援軍を送ってもな」
「やはり敗れると思います」
これが二人の出した結論だった。そして彼等のその結論を聞いてだ。
セーラは憂いのある顔をここでも出してだ。こう言ったのだった。
「では。騎士提督達が言う様に」
「決戦はオフランスだな」
「マジノ線を頼りに戦いましょう」
「わかりました」
セーラは意を決した顔になった。そしてその顔で二人に答えた。
「では。オフランス軍と協同して」
「ああ、戦略を立てようぜ」
「そして勝ちましょう」
「しかしオフランス軍ですが」
セーラはその彼等のことも話した。
「軍を指揮しているガムラン司令官ですが」
「あの人な。ちょっとなあ」
「噂に過ぎませんが」
イギリス兄妹もだ。ガムランという名前を聞いてだ。それぞれその顔を顰めさせてだ。
そのうえでだ。こう言ったのだった。
「病気でまともに考えられなくなってんだろ?」
「それでも様々な役職を兼任されていますが」
「ルイ八十世陛下には申し上げているのですが」
オフランス軍の状況もだった。セーラにとっては頭痛の種だったのだ。
「それでもです。あの方はどうしても」
「女王の話を聞いてくれないんだな」
「そうなのですね」
「はい、残念です」
顔を俯けさせてだ。セーラは述べた。
「せめて別の方にして欲しいのですが」
「って言ってもなあ。今のオフランス軍はな」
「これといった人材がいません」
「ビジー提督か?あの人もあれだぜ」
「妙に日和見で。国家への忠誠心に疑問があります」
「まあ。フランスの野郎は絶対に勝てるって言ってるさ」
イギリスは彼にとって不倶戴天の敵であると共に無二の親友でもある彼の名前を出した。
「それでも。あいつ実はな」
「結構弱いです」
イギリス妹は兄以上にぴしゃりと言った。
「あれで結構負けるからな」
「自信程の力はありません」
「そうです。あの方も問題です」
セーラもだ。フランスの問題点は把握していた。そのうえでの言葉だった。
「敵としては。楽な時もありますが」
「味方にして一緒に戦うとな」
「危うい時も多いです」
「そしてそれは今です」
よりによってだ。今だというのだ。
「困ったことにです」
「ああ、本当にオフランス軍何とかならねえかな」
「マジノ線は確かに強力ですが」
「それだけで確かに考えられてねえからな」
「人材も兵器も心もとないです」
「だからこそ我々もオフランスでの戦いには主力を送ります」
まさにだ。そうすると言うセーラだった。
「そうします」
「ああ、そこでも俺達行くからな」
「お任せ下さい」
こう話してだった。二人もだった。
彼等は戦いの準備を進めていた。セーラは休む暇がなかった。
連日連夜徹夜で働いていた。書類のサインだけでなく訓練に視察にだ。そして軍事だけでなく内政もしなければならない。女王は多忙を極めていた。
セーラはその中で宮廷の私室において一時の休息を取っていた。そこにだ。
「あら、休憩中ね」
「大丈夫?お姉様」
「お母様、マリー」
二人の美女がだ。セーラの前に来ていた。
見れば二人共セーラと同じ髪と瞳の色だ。しかしだった。
二人共胸はセーラよりある。セーラとて決して小さくはないがだ。
セーラが母と呼んだエリザ=ブリテン、先代のエイリス女王は年齢を感じさせない若々しさと気品のある美貌をたたえ長く癖のあるその髪を後ろで束ねている。
そしてセーラを姉と呼んだマリー=ブリテンは髪をショートにしており中性的な、少年めいた顔立ちをしている。二人共エイリスの色である緑に白の配色のドレスと軍服をそれぞれ着ている。
その二人がだ。笑顔でセーラにこう言ってきたのだ。
「頑張ることはいいけれど無理をしては駄目よ」
「祖国さん達もネルソン達も心配してるわよ」
「それはわかっているけれど」
だがそれでもだとだ。セーラは眉をひそませて二人に答えた。
「今は。エイリスの危機だから」
「だから。セーラちゃんはいつも一人で背負い込み過ぎなのよ」
「僕達だっているから」
「御仕事は私達でできるのなら受け持つわ」
「一人で背負い込まないの」
「では私は」
戸惑いを見せるセーラにだ。二人はまた言った。
「少しは寝なさい」
「倒れたら元も子もないからね」
これが二人のセーラへの言葉だった。
「だからいいわね。今日からはね」
「僕達もお仕事手伝うから」
「セーラちゃんが自分から言ってくれるのを待ってたけれど」
「お姉様って本当に自分で何でも背負い込むんだから」
「私は女王だから」
それ故にだとだ。セーラは後ろめたそうな顔で二人に答える。
「だから。どうしても」
「それがセーラちゃんのいいところだけれどね」
エリザは母としてだ。セーラのことがよくわかっていた。
「責任感が強くて真面目でね」
「しかも努力家でね」
「子供の頃から。叱ったこともなかったし」
「叱られるのはいつも僕でね」
「マリーちゃんは元気がよ過ぎるのよ」
エリザはマリーにも顔を向けてだ。笑顔で言った。
「そこがマリーちゃんの長所だけれどね」
「えへへ、今もあまり変わってないかも」
マリーはぺろりと舌を出してだ。母に応えた。
「お転婆なままかな」
「そうね。セーラちゃんは真面目でね」
「私は。ただ」
二人の話を聞いてだ。セーラは。
少しだけ微笑みになって気を晴れやかにさせてだ。こう言ったのだった。
「やるべきことをやっているだけで」
「そのやるべきことを果たす人はそう多くないわ」
エリザは今度は己の人生の経験から話した。
「だからこそセーラちゃんは凄いのよ」
「そうなのですか」
「けれど。誰かに頼りなさい」
その自分で何でも背負い込むセーラの短所をだ。エリザはまた指摘した。
「エイリスの危機は私達共通の危機だから」
「僕だって戦うよ」
「だから。いいわね」
「これからは僕達もお仕事するから」
こう二人でだ。セーラに話してだった。
マリーはセーラの前にあるものを出した。それは。
「ケーキ?」
「そうだよ。苺ケーキだよ」
生クリームをふんだんに使り上に苺を置いた可愛らしいケーキだった。マリーはにこりと笑ってだ。姉にそのケーキを差し出してきたのである。
「一緒に食べよう。お姉様ケーキ好きだから」
「有り難う、マリー」
セーラもだ。微笑んでマリーの好意を受け取った。
そのうえで三人でそのケーキを食べながらだ。こうした話をしたのだった。
エリザがだ。笑顔でセーラに言ってきた。
「そういえばセーラちゃんは」
「何でしょうか」
「ずっと前から紅茶派よね」
「はい、好きですから」
「コーヒーは本当に飲まないわね」
「好きではないです」
コーヒーについてはだ。セーラはその整った眉を曇らせてこう言った。
「どうしても」
「そうよね。子供の頃からね」
「コーヒーは苦いですから」
だからだというのだ。
「どうしても」
「そうそう。セーラちゃんにとってはね」
「コーヒーよりも紅茶です」
「まさにエイリス人ね」
「ガメリカではコーヒーかレモンティーですが」
「レモンティーも飲まないわよね」
「ミルクティーがいいです」
ここでもエイリス的なセーラだった。
「それもロイヤルミルクティーがです」
「そうよね。本当に変わらないわね」
「それとです」
「それと?」
「お茶菓子ですが」
今度はこのことについて言うのだった。
「ケーキもいいですし」
「クッキーもよね」
「そうしたものがいいですね」
「そうよね。実は私もね」
どうかとだ。エリザは言う。
「祖国さん達に作ってもらったクッキーがね」
「生まれてはじめて食べた、でしたね」
「そうだったのよね」
こう笑顔でだ。娘達に話したのである。
「セーラちゃんもマリーちゃんもだったわよね」
「はい、祖国殿と妹殿が作ってくれました」
「あの人達が紅茶と一緒に出してくれたのよ」
「あの方々がそうして下さいました」
「私も。女王になりたての頃はね」
エリザはその頃のことを思い出しながらだ。セーラに話す。
「祖国さん達に助けてもらったわ」
「そうだったのですか」
「そうよ。いい人達よ」
イギリス兄妹を人と捉えての言葉である。
「だから。何かあればね」
「あの方々を頼れというのですか」
「そう。私達以外にもね」
彼等もいるというのだ。
「あの人達もそれを願っているから」
「だからこそですか」
「そうよ。頼れって言ってる人の好意は受けるべきよ」
「しかしそれは」
「だから。セーラちゃんはそれができないから駄目なのよ」
責任感の強さ故にそうしているのがだ。セーラの欠点だというのだ。
「頼りなさい、本当にね」
「・・・・・・はい」
「エイリスの危機は私達全員の危機だから」
セーラだけのことではないというのだ。
「だから何でも言って。やれることならやるから」
「わかりました」
「さて、じゃあ紅茶を飲んで」
ロイヤルミルクティーだ。それを飲みながらの言葉だった。
「また頑張りましょう」
「お姉様、僕にできる仕事ある?」
マリーは明るい笑顔で姉に問うた。
「何でも言って。できることなら」
「そうね。マリーは軍事をお願いするわ」
マリーは軍人でもあるのだ。時として艦隊を率いることもある。
「そちらの視察や書類のサインをお願いね」
「わかったわ」
笑顔でだ。マリーは敬礼で応えた。
「じゃあ早速ね」
「私は内政を受け持つわね」
エリザは自分から娘に言ってきた。
「これでもずっと政治には携わってきたから」
「では。お母様はそちらをお願いします」
「わかったわ。それじゃあね」
「後は議会ですけれど」
エイリスにも議会がある。二院あり貴族院と下院がある。下院は平民で構成されておりそして貴族院は文字通り貴族により構成されている。セーラが今問題視しているのは貴族院なのだ。
「あの議会は」
「貴族ねえ。彼等はね」
「最近。どうも」
「自分のことしか考えていない者が多いわね」
「はい、それで議会でもです」
どうかというのだ。その議会でだ。
「何かと。王室の政策に異議を唱えてきます」
「私達が間違っているのならいいけれど」
エリザもその場合は受け入れるというのだ。
「けれどね」
「はい、彼等の既得権益にしがみついて」
「それだけを考えてね」
「国家としての政策にも反発しています」
「議会は必要よ」
政治においてだ。このシステムは不可欠だというのだ。
「政策のチェックや議論の為にね」
「はい、その通りです」
「けれど。議会は一歩間違えると」
どうなるかとだ。エリザはその明るい顔にやや憂い入れて言った。
「ああしてね」
「腐敗しますか」
「そう、衆愚政治になるのよ」
議会の問題点をだ。エリザは娘に話したのである。
「それは下院も同じだけれどね」
「今は貴族院ですね」
「彼等の既得権益は多いわ」
エイリス帝国の長い歴史の中でだ。できあがっていったものの一つだ。歴史の中で形成されていくものは決していいものばかりとは限らないのだ。
「だからこそね」
「彼等もですね」
「ええ、その既得権益を守る為に」
「王家の政策に反発するのですか」
「この状況でもね」
国難にある、その中でもだというのだ。
「彼等にとっては国家より自分達の権益の方が大事だから」
「けれどそれっておかしいんじゃないの?」
マリーは母と姉の言葉を聞きながらだ。その横でこう言ってきた。
「だって。エイリスが滅んだらあの人達も滅ぶんじゃない」
「それはその通りよ」
「じゃあ何でそんなことするの?」
首を捻りながらだ。マリーは言う。
「自分達のことしか考えないの?」
「見えていないのよ」
エリザは次娘にも話した。
「自分達のこと以外はね」
「ううん、やっぱり馬鹿みたいだけれど」
「愚かではあるわ」
エリザはマリーのそのことも否定しなかった。
「けれど。本当にね」
「あの人達は全く気付かないのね」
「貴族院、植民地全体を含めてですが」
セーラは曇った顔で母と妹に話した。
「抜本的な改革を考えていました」
「貴族達の権益を大幅に縮小するね」
「その権限もです」
それを考えていたというのだ。
「アンドロメダで見てきましたから」
「ああ、あの叛乱ね」
セーラが即位してすぐにだ。エイリスの植民地の一つアンドロメダ星域で叛乱が起こったのだ。セーラはその叛乱を自ら出陣して鎮圧した。そしてそこで見たのである。
「植民地にいる貴族達の横暴は目に余ります」
「ええ、私の頃はまだずっとましだったけれど」
「それでもです」
どうだったかというのだ。
「今の腐敗は酷いものです」
「それでセーラちゃん叛乱は鎮圧したけれど処罰は寛大だったのね」
これは基本的に心優しいセーラの性格も影響している。
「それでなのね」
「はい、叛乱を起こした者達に問題はありません」
そのだ。植民地の者達にはというのだ。
「問題はです」
「そうね。貴族達にこそ問題があるのよ」
「私もそれを知りました。何とかしなければ」
セーラは深刻な顔で述べる。
「エイリスの屋台骨が揺らぎます」
「この戦争が終わっても」
「何か大変そうだね」
三人でだ。戦後のことも考えていた。エイリスは今斜陽の入り口にいた。しかしこのことはセーラ達は何とか挽回しようとしていた。その為に必死に戦っているのだ。
TURN11 完
2012・3・14
遂にイギリスも動き出したか。
美姫 「そうね。流石にドクツもすんなりとはいかないでしょうね」
植民地での不穏な動きも警戒しつつ、まずは二方面に展開しないといけないと。
美姫 「ドクツだけじゃなく、イタリンへの警戒もいるからね」
で、内部の貴族にも問題があったりと。
美姫 「内側から崩壊する可能性まであるし、結構大変よね」
だな。そんな状況でどうなっていくのか。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。