『ヘタリア大帝国』




                TURN106  ウラル星域会戦

 枢軸軍はソビエト方面の主力艦隊に対して一気に応急修理を行った、それでだった。
 何時でも攻撃を仕掛けられる様になった、ランスは港に揃っている艦隊を見ながら東郷に対して言った。
「なあ、行くんだよな」
「ウラルにだな」
「旦那の性格からして止まらないよな」
 こう東郷に問うたのである。
「そうだよな」
「ああ、止まるつもりはない」
 東郷自身こう答える。
「ここはな」
「そうだよな、それじゃあな」
「ウラル侵攻だ」
 これが東郷の今の作戦だった。
「ここで待っていても状況が辛くなるだけだ」
「連合軍の大艦隊とレッドファランクスを同時に相手にすることになるからな」
「どちらかだけなら何とかなる」  
 それはだというのだ。
「まだな」
「そういうことだな」
「それにウラルを手に入れればだ」
 今度はウラルを手中に収めた場合の戦略的価値にも言及した。
「ソビエトの主星域を攻撃範囲に収められる」
「いよいよってことだな」
「そうだ、ここは攻めるべきだ」
「よし、そうでないとな」
 ランスは東郷の話を聞いてから確かな顔で微笑んでこう言った。
「俺としても面白くないからな」
「ランス様は攻撃がお好きですからね」 
 そのランスにシィルが言って来た。
「だからですね」
「ああ、だからな」
 それでだというのだ。
「腕が鳴るぜ」
「それは何よりです。ただ」
「ああ、あの人のことか」
「スカーレットさんは強敵です」
「まさに天才だよな」
「しかもソビエト軍だけでなくドクツ軍もいますので」
 戦いはかなり厳しい、シィルはそのことを言うのだ。
「まさに正念場です」
「その通りです、ウラル戦は辛いものになります」
 日本もここでランス達に話して来た。
「しかし攻める方がです」
「今は、ですね」
「勝つ可能性があります」
「そういうことですね」
「今は待つ時ではありません」
 日本は確かな声でシィルに言った。
「攻めていきましょう」
「ウラルにはレッドファランクスにです」
 秋山も言って来た。
「連合軍の艦隊がいますが」
「いますがとは」
「ジューコフ元帥とロシアの諸国家はいない模様です」
 今はというのだ。
「どうやらモスクワで主力艦隊の修理、そして作戦会議に入っています」
「しかしそれはですね」
「今月だけです」
 まさに今待っては、というのだ。
「来月から攻勢を仕掛けてきます」
「そうしてきますね、間違いなく」
「はい、ですから」
 それ故にだというのだ。
「今は攻めるべきです」
「そういうことですね」
「そしてウラルを手に入れるのです」
 ソビエトの欧州側への入口であり多くの資源があるこの星域をというのだ。
「そうしましょう」
「よし、艦隊は全て修理した」
 東郷も言う。
「今からだ」
「ウラルに出撃ですね」
「レッドファランクスは前の戦いと同じだ」
 東郷と精鋭艦隊が引き受けるというのだ。
「そうする」
「では」
 こう話してそしてだった、東郷は主力艦隊を率いてウラルに出撃した、大和は今港を出た。
 そしてウラルに向かう、だがその途中で。
 東郷は困惑した顔の秋山から報告を受けた、その報告はというと。
「あの、実は」
「どうした?」
「真希ちゃんが」
「ああ、結婚は待ってくれ」
 東郷は困惑している顔の秋山にまずは冗談で返した。
「あの娘がその歳になってからな」
「それはどういう意味ですか?」
「御前なら真希を任せられる」
 こう言うのだ。
「だがあの娘はまだ幼い、結婚するまで待ってくれ」
「それは冗談ですか?」
「ははは、半分本気だ」
 実際にそうであるがあくまで冗談としている。
「御前も結婚しないといけないし真希もな」
「冗談はいい加減にして下さい、とにかくです」
 秋山は真剣な顔で本題に入った、そして言うことは。
「真希ちゃんが大和に乗り込んでいるのです」
「またか」
「はい、どうも直感で感じたらしく」
「スカーレットのことをだな」
「そうです、誰もあの娘に話していないのですが」
 軍の間だけで知られていることで箝口令が敷かれていたのだ、だがだったのだ。
「どうも。我々の態度から察したらしくて」
「凄いものだな、俺の娘ながらな」
「感心している場合ではありません、どうしますか」
「もう出港しているからな」
 だからだと、東郷は言うのだった。
「後で俺から行っておこう、しかしだ」
「あのことですね」
「ああ、あのことだ」
 東郷は真剣な声になった、そのうえで言うのだった。
「あの時真希が乗っているとバリアが出たな」
「不思議なことに」
「それでマニラでの戦いはこちらの予想よりも遥かに一方的な戦いになった」
「それがですね」
「再びなるかも知れない」
 こう言うのだ。
「奇跡に頼ってはならないがな」
「それでもですね」
「若し真希がまたバリアを張ってくれればレッドファランクスとの戦いにおいて非常に大きい」
 向こうの攻撃が通じないのだ、確かにこれは大きい。
「それはな」
「ではここは」
「少しやってみよう」
 バリアを確かめるというのだ。
「どのみち向こうは攻撃をしてくるからな」
「ではですね」
「真希は降ろさない」
 戦術的な意味での判断だった、東郷は今は連合艦隊司令長官として決断を下したのだ。
「そうしよう」
「わかりました、それでは」
 真希は東郷のところに呼ばれた、小さくなって申し訳なさそうな顔をしている。そして父に頭を下げて言うのだ。
「お父さん、御免なさい」
「感じたんだな」
「お母さん、来てるのよね」
「ああ、そうだ」
 やはり感じ取っていた、父も嘘は言わなかった。
「敵としてな」
「お父さんとお母さんは戦うの?」
「そうなる、しかしだ」
「しかし?」
「安心してくれ、お父さんは絶対にお母さんを傷つけない」  
 娘への約束だ、そして東郷はこれまで真希との約束を破ったことはない。
「絶対に助け出すからな」
「そうしてくれるの?」
「約束する、お母さんは絶対に戻って来るからな」
「うん、お父さん御願い」
 真希はここでやっと顔を上げて父に言った。
「お母さんを助けてあげて」
「折角生きていたんだからな」
「事故でも生きていたのね」
「そうだ、けれどな」
「悪い人に操られてるの?」
「悪い人じゃないと思うがそうなっているな」
 実は東郷はカテーリンを悪人だと思っていない、生真面目なだけで世間知らずの子供だと思っている。そしてそれはその通りなのだ。
「だから絶対に助け出すからな」
「うん、じゃあ」
「真希はお父さんの部屋で大人しくしているんだ」
 娘に優しい声で言う。
「ここはお父さんの仕事場だからな」
「うん、それじゃあね」
 真希は東郷の言葉に素直に頷いた、そしてだった。
 司令室に案内されてそこで落ち着いた、東郷は大和の甲板士官に案内される娘を見送ってから秋山にあらためて言った。
「よし、今からだ」
「奥様をですね」
「助け出すぞ、いいな」
「はい、何としてもやりましょう」
「親は子供に嘘を吐いてはいけない」
 東郷の教育方針の一つだ。
「そして約束を破ってもいけない」
「だからこそですね」
「スカーレットを助け出すぞ、いいな」
「了解です」
 東郷は娘にスカーレットを助け出すことを約束した、そのうえでだった。
 ウラルに来た、ウラルには連合軍とレッドファランクスが展開していた。それを見てだった。
 東郷は先に立てていた作戦通り軍を二つに分けた、そのうえで。
 彼は精鋭艦隊を率いてレッドファランクスに向かう、そこには彼女がいた。
 スカーレットは不敵な笑みで東郷にモニターから言って来た。
「それではいいわね」
「ああ、君を取り戻す」
 東郷は余裕の笑顔でスカーレットに返した。
「そうしよう」
「生憎だけれど私は今はソビエトの海賊よ」
 共有主義者であるというのだ、ただしヒムラーに雇われてもいるのでこの辺りは複雑な事情があったりする。
「貴方の妻でなくね」
「生憎籍はまだある」
「離婚はしていないというのね」
「最初からそのつもりはない」
 こう妻に返す。
「まあ見ていろ、君はもう一度俺のところに戻って来る」
「そうなる夢を見て敗れるのね」
「それに共有主義はだ」
 今度はスカーレットが今信じているこのイデオロギーについても言う。
「先はない」
「おかしなことを言うわね」
「おかしなことじゃない、共有主義は破綻する思想だ」
 こう言うのだ。
「一見すると完璧だがな」
「人類を幸福にする完璧な思想よ」
「この世に完璧なものなぞない」
 これは東郷の持論でもある。
「何一つとしてな」
「だからだというのね」
「そうだ、経済も社会も生き物だ、全てを管理し動かせるものではない」
 東郷はスカーレットに対して言うのだ。
「学校は社会の一部だ、全てでもないからな」
「戯言ね、けれどそれもね」
 そうしたこともだと、スカーレットは言ってだった。
 レッドファランクスを進ませる、戦いがはじまろうとしていた。
 その中でだ、東郷は日本に言った。
「このまま戦う、しかしだ」
「真希ちゃんですね」
「ああ、あの娘がいるからな」
「ここは迂闊な真似は出来ませんね」
「しかしだ」
 それでもだとだ、ここで東郷は言った。
「またあの事態になればな」
「バリアですね」
「勝てる」
 そうなれるというのだ。
「あくまで仮定の話だがな」
「そうですね、あれは本当に何故起こったのでしょうか」
 日本も首を傾げることだった。
「あの娘のあの能力は」
「俺も不思議だ、しかしだ」
「若しここでバリアが発動すれば」
「その時は相手がレッドファランクスでも勝てる」
「そうなりますね」
 二人は戦争のことから話すのだった、そして。
 東郷達は前に出るレッドファランクスに対して鶴翼の陣で対した、その扇の軸には東郷が乗る大和がいる。
 その大和を見てだ、スカーレットは自信に満ちた声で言った。
「そういうことね、それなら」
「ご主人とですね」
「ええ、決着をつけるわ」
 こう副官でもあるメイドのコロネアに答える。
「この戦場でね」
「そして、ですね」
「この戦争にも勝つわ」
 戦術的に勝つだけでなく戦略的にもだというのだ。
「そうするわ」
「では」
「ええ、攻撃目標大和」 
 そしてだった。
「敵の第一艦隊よ」
「わかりました」
 コロネアはスカーレットの命令に微笑んで答えた。
「それでは」
「ええ、ではね」
「第一艦隊さえ倒せば」
「枢軸軍は確かに強いわ、けれどね」
「扇の要を失います」
「日本の扇は素晴らしいものだけれど要を失えば壊れるわ」
 そうなるというのだ。
「だからここはね」
「はい、潰しましょう」
 こう言ってそしてだった、レッドファランクスはまずは第一艦隊に集中攻撃を浴びせそして枢軸軍全体の扇の要を潰そうとした。
 無数のビームが第一艦隊を襲う、それは最早光の帯というよりは壁だった。
 それを観てだ、ダグラスは歯噛みして言った。
「おい、これだけの攻撃だとな」
「大和でもね」
「ああ、ジ=エンドだ」
 こうキャロルに返す。キャロルも苦い顔だ。
「そうなっちまうな」
「そうね、これはね」
「旦那は死ぬつもりか?」
 ダグラスはこうも言った。
「娘さんも乗り込んでるのにな」
「自分の娘を死に場所に送る父親はいないわよ」
「じゃあ心中かよ」
「あんたうちの長官が心中すると思ってるの?」
「そんな訳ないだろ」
 ダグラスはキャロルにすぐに言い返した。
「あの旦那はそんなタマじゃねえ」
「そういうことよ」
「じゃあ何でなんだ」
「さてね、あいつの考えは時々わからないけれどね」
「けれどここはか」
「ええ、何か考えがあるのよ」
 それは間違いないというのだ、具体的にはどういう考えかわからないが。
 レッドファランクスの集中的なビーム攻撃が第一艦隊に突き刺さった、かに見えた。
 しかしここでだった、司令室にいた真希の身体が光った。それと共にだった。
 第一艦隊にあのバリアがかかった、それでだった。
 レッドファランクスの攻撃が全て防がれた、この事態には。
 レッドファランクスの精鋭達、スカーレット自らが鍛え上げた彼等が驚きの声を挙げた、まさにそうした事態だった。
「なっ、我々の攻撃が通じない!」
「馬鹿な!」
「ビームを全て防ぐだと!」
「どういったビームバリアだ!」
「お嬢様、これは」
 コロネアは流石に動じない、そのうえでスカーレットに問うた。
「どういうことでしょうか」
「ビームバリアね」
 スカーレットは冷静にそれだと断定した。
「そのせいよ」
「ビームバリアですか」
「今枢軸側の技術は格段に上昇しているから」
「そういえば本当に急にですね」
「ええ、兵器の性能を上げたわね」
「噂ではドクツの科学者も大量に亡命している様ですし」
 さしもの彼女達もまさかレーティアが亡命しているとは思っていない、それでスカーレットですらこう判断したのである。
「だからですね」
「そう思うわ」
「そうですか」
「大和に突貫工事でかなり高性能のバリアを装填したのかしらね」
「敵もさるものですね」
「全くよ、ただね」
 それでもだとだ、スカーレットはまだ自信を持っていた。
 そのうえで今度はだった。
「攻撃はビームだけではないわ」
「連続攻撃で、ですね」
「第一艦隊さえ倒せば戦争自体が決まるわ」
 そうなるというのだ。
「だからこそね」
「まずは第一艦隊ですね」
「それでは」
 こう話してそしてだった。
 ビームからすかさずだった、ミサイル攻撃に入った。敵に攻撃の機会を与える隙もなかった。
 今度はミサイルが向かう、だが。
 そのミサイルも防がれた、しかしそれでもスカーレットは冷静だ。
 沈着な物腰で再び指示を出した。
「次は鉄鋼弾よ」
「あの、首領ですが」
「あの艦隊に攻撃は通じないのでは」
「見たところ全く」
「ビームもミサイルも」
「攻撃が通じない艦隊はこの世に存在しないわ」
 スカーレットはこの常識から答えた。
「絶対にね」
「では、ですか」
「再びですね」
「攻撃を仕掛けますか」
「今度は鉄鋼弾で」
「そうするわ」
 部下達に冷静なまま答える。
「何があっても落ち着くのよ」
「了解です」
「それでは」
「今より鉄鋼弾攻撃ですね」
「それですね」
「そうよ、何があっても冷静沈着であれ」
 スカーレットとコロネアだけは動じなかった、スカーレットはその冷静さのまま命じ続ける。
「いつも言っているわね」
「レッドファランクスならですね」
「それならば」
「そう、ではいいわね」
 穏やかだが確かな言葉だった。
「引き続きこのまま攻めるわ」
「わかりました」
 レッドファランクスの面々はこれで冷静さを取り戻した、それでだった。
 その鉄鋼弾攻撃に移る、無数の鉄鋼弾が大和達に遅い掛かる。 
だがそれでもだった、今度もだった。
 バリアで防がれる、レッドファランクスの攻撃は全く通じなかった。海賊達はその状況を観て愕然となった。
「何と・・・・・・」
「攻撃が全く通じない」
「枢軸軍はどういった兵器を導入したのだ?」
「我々の攻撃を許さないとは」
「全て防ぐとは」
「一体どうなっているのだ」
「訳がわからないぞ」
 攻撃が全て通じないのではだった、彼等も狼狽するのも当然だ。スカーレットとコロネアは違うが彼等はそうだった。
 そこに一瞬の行動の空白が出来た、そしてそれを見逃す枢軸軍ではなかった。
 日本はそのレッドファランクスを観て東郷に言った。
「司令、今です」
「ああ、敵の攻撃は全て防いだ」
「それではですね」
「今度はこちらの番だ」
 反撃に転じるというのだ。
「そうするとしよう」
「では今から」
「とはいっても皆もう動いてくれているな」
 観れば精鋭艦隊十個艦隊は既にレッドファランクスを包囲していた、そのうえで。
 彼等は東郷の命令を待っていた、東郷もすぐに言う。
「総攻撃だ」
「では」
「勝敗はここで決する」
 レッドファンランクスとのそれがだというのだ。
「今決めよう」
「了解です」
 日本は東郷の言葉に敬礼で応えた、そうして。
 精鋭十個艦隊の攻撃が来た、包囲され驚愕で隙を見せていたレッドファランクスにそれをかわす手立てはなかった。
 忽ちのうちに次々と撃沈されている、それこそは。
「馬鹿な、我々が負けるのか」
「我等レッドファランクスが」
「敗れるというのか」
「今ここで」
「お嬢様、大変です」
 コロネアがすぐにスカーレットに言って来た。
「将兵の動揺を抑えられません」
「ええ、そうね」
「ここはどうされますか」
「完全に包囲されているわね」
 最早誰も目にも明らかだった、今レッドファランクスは完全に包囲されていた。
 しかも敵の攻撃で次々と沈められている、それではだった。
「こうなってはね」
「敗れますか」
「これ以上戦ってもね」 
 損害を増やすだけだというのだ。
「だからね」
「それではですね」
「降伏よ」
 最後の最後の選択肢、これを選ぶしかなかった。
「そうするわ」
「わかりました」
 こうしてレッドファランクスは枢軸軍に降伏を打診した、東郷はそれを受けてモニターのスカーレットに応えた。
「そうか、降伏するか」
「忌々しいけれどね」 
 スカーレットは夫に苦笑いで応える。
「そうするしかないわ」
「わかった、では降伏を受諾する」
「海賊のメンバーには丁重な対応を御願いするわ」
「それは約束する」
 最初からそのつもりだった、東郷もそこを害するつもりはない。
「それではな」
「後で詳しいお話を聞きたいですね」
 コロネアもモニターから東郷に言って来た。
「あのバリアのことは」
「やれやれ、君もいるとはな」
「私は常にお嬢様と共にいますので」 
 その生死もだというのだ。
「当然です」
「相変わらず手強いな」
「それはお互い様、それでは」
「ああ、降伏を受諾する」
「それでは」
 こうしてだった、スカーレットとレッドファランクスは投降した。それからだった。
 東郷は敵主力の後方に回った、そのうえで彼等を後方から攻めた。
 ドイツもそれを見て総攻撃に移る、それで戦いは決まった。
 挟撃を受けた連合軍はかなりの損害を出して撤退するしかなかった、こうしてウラルは枢軸軍の手に落ちたのだった。
 戦いは彼等の勝利に終わった、だが。
 問題はここからだった、降り立ったウラルの湊において日本は困った顔で東郷に話した。
「スカーレットさんですが」
「完全に共有主義者になっているな」
「マンシュタインの時と同じだ」
 レーティアもこのことをこう指摘した。
「洗脳されている」
「あの人の時もまさかと思ったがな」
 東郷も今は微妙な顔で語る。
「スカーレットまで洗脳されるとはな」
「カテーリン書記長と会うとです」
 そのマンシュタインの言葉だ。
「どうしてもです」
「逆らえないんだな」
「そうなってしまいます」
 こう語る。
「不思議なことに」
「それはあの石のせいか」
「カテーリン書記長の左手の甲にあるあの赤い石を見ると」
 それでだというのだ。
「彼女の言葉を唯一無二の真実だと確信してしまうのです」
「不思議な話だな」
「まさに洗脳されます」
 そうなるというのだ。
「全く逆らえなくなります」
「そうなんですよね、本当に不思議なことに」
 リディアも出て来て話す。
「共有主義こそが正しいって思うんですよ」
「確かに赤本はよく出来ている部分もありますが」
 リンファはカテーリンと会ったことはない、彼女は赤本から共有主義に入っている。
 その赤本についてだ、リンファはこう語る。
「落ち着いて観ると現実を直視していないことばかりです、社会や経済の」
「あれはまさに子供の主張だ」
 東郷はここでも共有主義をこう評した。
「理想論でしかない」
「はい、その通りです」
「だから所々に問題点がある」
「そのことに。熱狂していると気付きません」
「若しくは洗脳されていると」
「そうなってしまいます」
「確かに貧富の差や差別はないに越したことはない」
 東郷にしろそうしたことには反対だ。
「エイリスの植民地の一部みたいなことはな」
「誰もが平等であるべきという主張は正しいですね」
「正しい、しかしだ」
 それでもだとだ、東郷は現実から話した。
「それに必ずしようとして無理強いをするとだ」
「より酷いことになってしまいますね」
「確かにソビエトには階級も貧富の差もない」
 このことは確かだ、カテーリンはこのことを常に厳格極まりなく国家に導入している。
「経済も不足のものがなければ素晴らしい」
「しかしですね」
「社会も経済も生き物だ」
 古典的資産主義の頃から言われている言葉だ、東郷はこのことから言うのだった。
「それを忘れて個人も全て統制するとだ」
「あの様に息苦しい社会になりますね」
「ソビエト軍の将兵も適性から選ばれ訓練されている」
「ソビエト軍は確かに強いですね」
 日本妹も戦ってみてこのことをよくわかっていた、実際に戦うとその相手がよくわかるのだ。
「ですが戦術戦略もオーソドックスで」
「まるで機械と戦っている様だ」
「はい、まさに」
「ソビエト自体もだ、無駄を徹底的に廃し国家自体が一つの巨大な機械となって動いている」
「それはですね」
「相手や周りを観ていない」
 観ているのは自分だけだというのだ。
「勿論予想外の計算には脆い、そうした機械だ」
「それがソビエトですね」
「その通りだ、ソビエトは一方通行の機械だ」
「そうした機械は何時か必ず壊れる」
 レーティアも冷徹に言い切った。
「ファンシズムもそうだがな」
「総統さんには悪いがファンシズムと共有主義は同じだ」
「その通りだ」
「国家の、国民も含めて全てが一人の人間の下に集まり」
 そしてだというのだ。
「その完璧な統制の下に動く」
「そうした意味で同じだな」
「ドクツ第三帝国と人類統合組織ソビエトの政策もな」
「気付いたか、私も実は」
「そっくりだな」
「最初は意図していないが政策を推し進めているうちに気付いた」
 ファンシズムと共有主義の同一性、類似性という言葉を越えたこのことにだというのだ。
「ファンシズムと共有主義は同じだ」
「ソビエトもカテーリン書記長が全てだ」
「あの娘の主張だけだな」
「だからあの娘がいなくなれば終わる」
 それがソビエトだというのだ。
「そうした国だ」
「その通りだな」
「ドクツは総統が倒れて終わってしまった」
 ドイツは腕を組み難しい顔で述べた。
「一時過労で倒れただけでだ」
「あれはな、本当にびっくりしたぜ」
 プロイセンもその時のことを思い出して苦い顔になっている。
「それだけで後は雪崩みたいに崩れたからな」
「それまでドクツは完璧だと思っていました」
 エルミーも沈痛な顔で言う。
「ですがそれはです」
「総統あってのものだった」
「だから総統が倒れられると全部おじゃんになったんだよ」
 ドクツとプロイセンはエルミーのその言葉に応えて再び過去を思い出した。
「全ては一人の下にある」
「そういう国家は脆いよな」
「一人の下に一人があり一人が全てを動かすからだ」
 だからだとだ、また言う東郷だった。
「自然とそうした国になる」
「考えてみれば不自然な国家であるな」 
 宇垣はここまで話を聞いてこう評した。
「実に」
「はい、不自然な国家のシステムだからこそです」
「そうした国になるか」
「つまり国家元首である総統か国家主席がいなくなればです」
 それでだというのだ。
「それで終わる国家です」
「あれっ、じゃあうちもなの?」
 そのファリズムの本家にあたるイタリンのムッチリーニがここで言って来た。
「イタリンもなの」
「そうなる」
 実際にそうだとだ、東郷はそのムッチリーニにも答えた。
「ファンシズム国家はな」
「そうだったの」
「いや、そんなのはじめて気付いたよ」
「俺もだ」
 イタリアとロマーノは今驚きの顔でいる。
「ファンシズムってそういう国家システムだったんだ」
「一人で全部動かしてたのかよ」
「それでその一人がいなくなったら」
「駄目になるんだな」
「ううん、それは困るわね」
 ムッチリーニも今気付いた感じの言葉だった、そんなといった感じの表情にそれが出ている。
「私に何かあったらユーリちゃんがいるけれど」
「私は統領の後継者だったのですか?」
「あれっ、言ってなかった?」
「初耳です」
 ユーリはここで別の意味でも驚くことになった。
「まさか。そうだったとは」
「だってユーリちゃんが一番頼りになるから」
「ですが私は」
「御願いね、私に何かあったら」
「というよりはファンシズムでなくするべきですが」
 ユーリは能天気なムッチリーニに真面目に返した。
「それが先決ですが」
「そうなるの?」
「そうなります」 
 やはり真面目に言う。
「議会もありますが」
「ファンシズム議会ね」
「民主的なシステムに変えていくべきですね」
「民主的な?じゃあそうする?」
「はい、そうしましょう」
「ファンシズムって問題があったのね」
 ムッチリーニは本当に今気付いたという顔である。
「気付かなかったわ」
「その様ですね」
 それはユーリもだった、ファンシズムの本家と言えるイタリンでまず否定されたのだった。
 だがここでだ、田中ががこう言ったのだった。
「そういえばイタリンってファンシズムか」
「今更何を言ってますかこの特攻野郎」
 小澤はその田中に毒のある突っ込みを入れた。
「本家本元です」
「どうしてもドクツ見るからな」
「イタリンはただ能天気なだけです」
 小澤はイタリンにもまずはこう言う。
「明るくのどかな国なのです」
「いい国なんだな、イタリンって」
「ポルコ族も可愛いしパスタもあります」
「一回行ってみてえな」
「そうですね、本場のパスタを食べたいです」
「いや、日本のパスタも美味しいよ」
 イタリアがイタリンに憧れを見せる二人に話してきた。
「お醤油を入れたの、凄く美味しいね」
「和風パスタだよな」
「あれはいいね、俺最近はまってるんだ」
「イタちゃん他にも魚もいけたよな」
 田中は魚屋の息子としてイタリアにこう問うた。
「それ料理して何か作るかい?」
「オリーブとトマト、大蒜もあるかな」
「おう、俺の家の隣は八百屋だよ」
 話が世間めいてきていた、田中も乗っている。
「新鮮な野菜が山みてえにあるぜ」
「じゃあこの戦いが少し落ち着いたら作るからね」
「楽しみにしてるぜ」 
 田中もイタリアに明るい顔で返す、そして小澤もだった。
 無表情だがそれでも静かにこう言うのだった。
「イタちゃんのお料理は何時食べても最高です」
「そういえばあんたよくイタちゃんと一緒にいるね」
「個人的に好きなので」
 こう南雲にも返す。
「好きです」
「イタリン料理って本当にいいね、あたしも作るけれどね」
「南雲さんもお料理の腕をさらに上げられてますね」
「好きだからね、じゃあね」
「はい、南雲さんのお料理も楽しみにしています」
「人生は楽しまないとね」 
 ムッチリーニはここでこうも言った。
「ファンシズムでもね」 
「その前に色々して欲しいところがあるのだがな」
 ドイツはそのムッチリーニとイタリアを見て少し呟いた。
「全く、仕方のない国だ」
「そう言っていつもイタリンに世話を焼かれますね、ドイツさんは」
 小澤はドイツにも突っ込みを入れた。
「ドイツさんもお好きなのですね」
「嫌いではない、困ることが多いがな」
 それはというのだ、だがそれでもドイツもイタリンが好きだ。
 それで一同にこう提案した。
「では今度はパスタを皆で大々的に食べるか」
「いいお考えですね」
「そうしよう」
 こう話してだった、彼もパスタのことを楽しみにするのだった。スカーレットを捕虜にしてもまだ何かとあるがその間の息抜きも忘れてはいなかった。


TURN106   完


                            2013・5・6



真希の不思議な力のお蔭で、レッドファランクスを倒す事が出来たな。
美姫 「しかも、大和は被害なしでね」
後はスカーレットの洗脳だな。
美姫 「マンシュタインの場合はレーティアが解いたけれど」
スカーレットの場合は東郷や真希だろうか。
美姫 「果たしてちゃんと解けるかというのもあるしね」
そんな気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」



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