『ヘタリア大帝国』




               TURN105  スカーレット=東郷

 海賊達がまた来た、それを受けて。
 東郷は選抜したメンバーに対してこう告げた。彼の他にはキャロル、ダグラス、レーティア、ネルソン、マンシュタイン、ロンメル、それに三国だった。
 その三国を見てだ、フランスが残念そうにぼやいた。
「何でお兄さんは入れてもらえなかったんだろうな」
「あれっ、兄ちゃん残念そうだけれど」
「実際にそうだよ」
 残念だとだ、イタリアにも言う。
「強いってことを否定されたからな」
「御前結構負けてきてるからな」
 ロマーノはそのフランスに容赦なく言う。
「だからだろ」
「いや、艦隊指揮は得意だよ」
 フランスはロマーノに少しムキになって返した。
「大型空母二隻に駆逐艦二個部隊でいけるからな」
「指揮もあの連中の方が上だろ」
 日本、アメリカ、中国の方がだというのだ。
「というかあの三人ははまた桁外れだろ、国家の中でもな」
「それか、俺はあの三国程じゃないからな」
 そこまで指揮がよくないというのだ。
「流石にな」
「あの三人攻撃や防御も上手だからな」
「俺よりもなあ」
「自分で言ってるじゃねえか」
「ああ、言ったか」
 自分でもここで気付いた。
「まあ何ていうかな」
「今回は仕方ねえだろ、諦めろ」
「そうするか」
「それといいか?」
 フランスが諦めたところでだ、田中が彼等のところに来て言って来た。
「うちの長官が海賊に向かう間連合軍の相手をする主力部隊はドイツさんが指揮することになったからな」
「えっ、ドイツなんだ」
「ああ、あの人なら大丈夫だからな」
 その謹厳な性格と的確な采配を買われてのことだ、無論軍事能力の高さも考慮されている。
「うちの長官が決めたんだよ」
「ここでも俺は除け者かよ」
「フランスさんはこれまでと同じだよ」
「艦隊司令か」
「それで頼むな」
「仕方ねえな、じゃあ連合の奴等が来たらだな」
 フランスは溜息と共に述べた。
「やるか」
「そういうことでな」
「今月は連合軍は動いていません」
 〆羅が言って来た。
「モスクワで傷ついた艦隊を修理しています」
「じゃあ来月だな」
「はい、その攻勢は来月とのことです」
 少なくとも今月ではない、〆羅はフランスに答える。
「ですからご安心下さい」
「今は大丈夫なんだな」
「長官達の戦いを見守りましょう」
「そうさせてもらうか。じゃあ応援だったらな」
 フランスはここでこんなことを言い出した。
「綺麗な女の子達にバレエでも踊ってもらうか」
「バレエはロシアさんでは?」
「俺のところが起源だよ、確かにあいつバレエ好きだけれどな」
 あくまで本場は彼だというのだ。
「俺だからな」
「韓国さんではないのですね」
「ああ、違うよ」
 小澤の確信犯の突っ込みには白目になって返す。
「というかあいつバレエにも手を出してきたのかよ」
「それはまだです」
「そもそもあいつ日本起源に一番言うよな」
 フランスもこのことに気付いてきている。
「そうだよな」
「そうなんです、実は」
 実際にそうだとだ、小澤も答える。
「韓国さんは日本さんのものにまず言います」
「他は中国か」
「あとアメリカさんも」
「欧州には言わねえんだな」
「日本帝国で人気があるものか国際的に評判のいいものに対してです」
 起源の主張をするというのだ。
「そういった特徴があります」
「つまり日本ばかり見ているんだな」
「常にそうされています」
「成程なあ、俺達はどうでもいいんだな」
「心の奥底からそう思っておられるかと」
 韓国はあくまで日本しか見ていないというのだ、そうした国だというのだ。
「フランスさんはほぼノーマークです」
「まああの主張を受けないならいいか」
「多分日本さんがフランスさんの文化で凄いことをされれば」
「俺のところにも起源を主張するか」
「そうしてこられますので」
 とにかく凄まじいまでに日本本位であるというのだ、そして。
 その韓国は今は鍋を作っていた、そこには平良と福原、それに自身の妹がいる。鍋は見事なまでに真っ赤だ。
 その赤の中に葱や白菜に豆腐、それに鶏肉が入っている。その鍋を平良達に見せながら言うのである。
「遠慮せずにどんどん食うんだぜ」
「ではお言葉に甘えまして」
「頂きます」
 平良と福原は礼儀正しく返す。
「祖国殿の勝利を祈願して」
「乾杯をしましょう」
「日本さんは今さっき出撃されたニダよ」
 韓国妹がこのことを話す。
「帰還は早くても夕方遅くニダ」
「その時なんだぜ?じゃあその時は日本にも俺の料理を振舞ってやるんだぜ」
「またこの鶏のキムチ鍋ニダか?」
「いや、今度は焼肉なんだぜ」
 それだというのだ、韓国の得意料理の一つである。
「それかサムゲタンなんだぜ」
「どちらかニダか」
「そうなんだぜ、勝った後は栄養のあるものなんだぜ」
「焼肉なら冷麺もニダな」
「冷麺は焼肉の後は絶対なんだぜ」
 食べなくてはならないというのだ、焼肉の後は。
「それを食わせてやるんだぜ」
「ふむ、韓国殿のあの冷麺ならです」
 平良は早速韓国が入れてくれた鍋の具を食べながら言う。
「祖国殿も喜ばれます」
「じゃあ焼肉なんだぜ」
 韓国は平良の言葉を受けてすぐに決めた。
「それにするんだぜ」
「ところで韓国さんは」
 福原も韓国から具を受け取りつつ言って来た。見れば卓の上には鍋以外にも様々な料理がこれでもかとある。
 その多くの料理を見ながらだ、こう言ったのである。
「いつもお料理を多く出されますね」
「皆どんどん食うんだぜ」
「それはいいのですが」
 ここで微妙な顔になる福原だった。
「これだけ多いと食べきれないです」
「それでいいんだぜ」
「いつもそうですが」
「それがどうかしたんだぜ?」
 韓国は福原の今の言葉にきょとんとした顔になって返した。
「食いきれないだけあるのがいいんだぜ」
「そうしたお考えですよね」
「ウリナラではそうなんだぜ」
 韓国では、というのだ。
「昔からこのことで山下さんに言われるんだぜ」
「あえて言わせて頂きますが私もどうかと思います」
 平良も韓国の軍事顧問として謹厳な態度で述べて来た。
「残したものは捨てますね」
「そうなるんだぜ」
「ですからそれはどうかと思います」
 日本人としての考えである。
「やはり」
「ううん、いつも言われているけれどどうしてもわからないんだぜ」
「料理は食べきれないだけあることがですね」
「それがいいんだぜ」
 韓国は腕を組み首を傾げさせながら語る。
「豊かに見えるんだぜ」
「ウリもそのことについては兄さんと同じニダ」
 韓国妹もこう言う。
「御飯は食べきれないだけあることがいいニダ」
「その通りなんだぜ」
「山下さんはそうしたことが特に嫌いみたいニダが」
「陸軍全体がですね」
 福原は彼女だけのことではないと話す。
「何かを粗末にするという様なことは嫌いです」
「特に食べ物をニダな」
「はい、お金のこともですが」
「そうニダな」
 韓国達もこのことはよく知っている、何しろつい最近まで日本帝国にいて陸軍には何かとよくしてもらったからだ。
「凄く優しい人達ニダがそうしたところは凄く厳しいニダ」
「特に山下さんは凄いんだぜ」 
 韓国は唸る様にして言う。
「食べる量は多いけれど粗食で無駄にしないんだぜ」
「そうですね、麦飯や稗飯ですし」
「おかずも質素なんだぜ」
 韓国が今用意したものとは比べものにならない。
「あそこまでの人はいないんだぜ」
「私もそう思います」
 福原もこのことは同感だった。
「今も大和に乗り込まれていますが」
「やっぱりいざという時なんだぜ?」
「はい、接舷切り込みに備えられて」
 それでだというのだ。
「乗り込まれています」
「それで食べるものは何なんだぜ?」
「麦飯のお握りかと」
 それではないかというのだ。
「陸軍らしく」
「ううん、やっぱり凄いんだぜ」
 韓国は山下のその質素さ、粗食に唸っていた。
「俺はいつも腹一杯ご馳走食って残るけれど全く違うんだぜ」
「残さなければいいかと」
 これが平良のアドバイスである。
「そうされては」
「ううん、考えてみるんだぜ」
 これが韓国の食文化なのであらためることは難しい、だが考えることは考える彼だった。
 その山下は実際に大和に乗り込んでいる、そのうえで。
 戦いの時を待っていた、艦橋で東郷に対して言う。
「若し接舷した時はだ」
「ああ、その時はか」
「任せろ、即座に切り込みだ」
 そしてだというのだ。
「成敗しよう」
「頼むな、やはり肉弾戦では陸軍さんだからな」
「己の責は果たす」
 強い声での言葉である。
「必ずな」
「それではな」
 こう話してそうしてだった。
 山下は何時出撃してもいい様に身構えていた、既にその手には刀がある。
 大和は軍の先頭にいる、そこからだった。
 敵を見るとその先頭には。
「向こうも敵の旗艦が陣頭だな」
「はい、そこにいますね」
 秋山も敵の布陣を見て応える。
「どうもあの布陣は」
「わかるか」
「やはりスカーレットさんのものですね」
 彼女のものだった、秋山から見ても。
「それでは」
「スカーレットとは何度も模擬戦闘をしてきた」
 それならというのだ。
「相手に出来る」
「そうですね、それでは」
「全軍このまま正面から突撃を仕掛ける」
 東郷は全艦隊に命じた。
「いいな、正面からだ」
「同じ数での殴り合いということか」
 マンシュタインがモニターに出て来て問う。
「そういうことですな」
「そうなる、スカーレット相手に下手な戦術を仕掛けても意味がない」
 彼女がわかっているからこその言葉だ。
「だからだ」
「わかりました、それでは」
「数は互角にした」
 艦艇の数までだ、それならである。
「後は艦艇の質もあるが」
「将兵、特にですな」
「指揮官の質だ」
 それが大きく影響するというのだ。
「それで勝つ」
「では作戦会議通り」
「攻撃を仕掛ける」
 こう言ってそうしてだった。
 枢軸軍の十個艦隊は海賊達に正面から突っ込む、そして。
 細かい戦術を抜きにしてビーム攻撃を浴びせる、それに対して海賊達も攻撃を仕掛けてきた。
 派手な撃ち合いになった、その中でまた言う東郷だった。
「さて、はじまったが」
「それではですね」
 今度は日本がモニターから応える。
「次は」
「鉄鋼弾だ」
「それも正面からですね」
「横にはそれない」 
 それも全くだというのだ。
「何があろうともな」
「あくまで正面からですか」
「同じ数でそれをするとだ」
「相手もですね」
「正面から向かうしかなくなる」
 下手な小細工が心理的に出来ないというのだ。
「特にスカーレットならな」
「スカーレットは正々堂々としていたからな」
 アメリカも彼女のことは今でもよく覚えている、それで言うのである。
「正面から同じ数や体格で来られるとな」
「滅多にないことだがな」
「そうだ、向かう」
 そうなるというのだ。
「だからな」
「実際同格の相手が一番戦いにくいあるよ」
 中国もモニターに出て来て言う。
「そこをどうするかあるが」
「その場合は完全に倒すしかない」
 東郷はまた言った。
「正面から力でな」
「それでは今は」
「このままいくか」
「力と力あるよ」
 三国も東郷に応える、そして。
 今度は鉄鋼弾同士のぶつかり合いになった、まさに力と力のぶつかり合いだった。
 彼等はそのまま殴り合いを展開した、それを何度か繰り返し。
 ダメージは大きかった、しかしここはだった。
「海賊の方が損害が大きいですね」
「予想通りな」
 枢軸軍もかなりのダメージを受けている、だがそれでも。
 海賊達は致命傷だった、それは。
「海賊のはじめてのダメージのうえにだ」
「はい、戦力の殆どを失わせました」
「やっと勝ったか」
「そうですね、この二ヶ月の間やられっぱなしでしたから」
「しかしこれならだ」 
 レーティアが考えたこの戦術ならというのだ。
「勝てるな」
「こちらのダメージも大きいにしても」
「肉を切らせて骨を断つだ」
 東郷はここでこの言葉を出した。
「この戦いはな」
「それしかないですね」
「勝つ為にはな」
 軍人としての至上命題、それを果たす為にはというのだ。
「それもだ」
「必要ですね」
「今はその時だからな、ではだ」
「はい、それでは」
「このまま攻撃を続ける」
 ダメージをあえて考慮せずにというのだ。
「それでいくぞ」
「わかりました」
 秋山も頷く、そうして。
 両軍はもう一度激しい殴り合いを展開した、その結果。
 海賊達は遂に撤退に入った、その時に大和に通信が入って来た、その相手はというと。
「海賊からの通信です」
「ほう、何だ?」
「長官とお話がしたいとのことです」
「海賊の首領からか」
「その様です」
「わかった、それではだ」
 東郷は秋山の言葉に頷いた、そうしてこう言った。
「受けよう」
「それでは」
 こうして東郷はモニター越しにその首領と会うことにした、そこでモニターに姿を現したのは。
 日本達も観ていた、そして目を剥いてこう言った。
「そんな、まさかと思いましたが」
「スカーレット!?生きていたのか!」
「鬼ではないあるか!」 
 中国も言う、彼もガメリカ大統領補佐官であった彼女とは何度か会っていて顔見知りであるのだ。それで言うのだ。
「嘘の様ある」
「君はあの事故で死んだんじゃないのか?」
 アメリカもその彼女に言う、サングラスで顔全体は見えにくくしかも色は赤だがドクツのデザインに似た軍服なのでわかりにくい、だが。
 紛れもなく彼女だ、それで彼も言ったのだ。
「それがどうして」
「お久し振りね、祖国さん」
 スカーレットはそのアメリカにまずは微笑んでこう返した。
「いつも観ていたわ」
「観ていた?じゃあ君は」
「ええ、生きているわ」
 そのスカーレット自身の言葉だ。
「こうしてね」
「ううむ、訳がわからないある」
 中国はまだ目を見開き驚愕の顔のままである。
「何故生きているあるか」
「確かにあの事故で私は遭難したわ」
 嫁いでいた日本からガメリカに向かう途中のその宇宙事故でだというのだ。
「けれど気付いたらチェリノブにいてね」
「ここにですか」
「ええ、ここにね」
 今戦場となっていたこの星域にだと、日本にも答える。
「いたのよ」
「それが何故レッドファランクスに」
「そのことね」
「レッドファランクスの勢力圏は大西洋沿岸です」
 日本はこのことから話す。
「それで何故ここに」
「そのことも話させてもらうわね」
「はい、お願いします」
「私は一旦このチェルノブから日本まで戻ろうとしたのよ」
 東郷に娘のいるその国にだというのだ。
「けれどソビエト軍の監視が厳しくてね」
「それではチェリノブから動けませんね」
「動けなかったわ、けれどここにいたソビエト軍に船ごと捕まって」
「そこからですか」
「私達の記憶はなく明らかにガメリカの船だったので国外追放になったのよ」
「それで大西洋に行き、ですか」
「ウクライナから追い出されたわ」
 黒海沿岸の星域だ、そこから地中海に行けるがそこもまたレッドファランクスの勢力圏なのだ。
「そこから今度はガメリカに戻ろうとしたけれど」
「今度もだな、こりゃ」
 田中は話を聞いてこう直感した。
「邪魔が入ったな」
「ええ、レッドファランクスにね」
「そこで私がです」
 ここでそのメイドが出て来た、そして言うのだ。
「お嬢様に彼等との戦いを勧めたのです」
「ただ、この間私達はずっと記憶力を失っていたのよ」
「ですが私達はその船から海賊達が乗り込んだのを受けてね」
「彼等を返り討ちにして」 
 そしてだというのだ。
「そこから彼等の首領に収まりました」
「つまり船に乗り込んで来た海賊を全員その格闘術でやっつけたんだね」
 南雲がここまで聞いて言う。
「そういうことだね」
「はい、そうです」
 メイドはこう話す。
「尚私の名前はコロネア=ビショップといいます」
「あんたも生きているなんてね」
「お久し振りです、キャロルお嬢様」
 そのメイドコロネアは微笑みキャロルに一礼する。
「お元気そうですね」
「ええ、お姉ちゃんもね」
 キャロルは今度はバツの悪そうな顔でスカーレットに言う。
「元気そうね、ただ」
「ただ。何かしら」
「本物ってことはわかるわ」
 二人共そうであることは、というのだ。
「けれど何かおかしいのよね」
「?そういえばそうだな」 
 アメリカもキャロルの言葉を受けて気付いた。
「記憶が戻っているのはどうしてなんだ?一旦失ったのは事故によるものだとわかるが」
「そうでしょ、記憶が戻ったのなら日本かガメリカに戻ってるでしょ」
「それがどうしてなんだ?」
「お姉ちゃんひょっとして」
 モニターに映るスカーレットをまじまじと見る、コロネアもだ。
 そのうえで彼女がこれまで会ってきたリディアやマンシュタイン、リンファ達に彼女の今の赤い軍服を見て言うのだった。
「ドクツのデザインに似た軍服だけれどね」
「赤だな」
「レッドファランクスだしね」
「まさかスカーレット、君は」
「カテーリン書記長に会ったの?」
「ソビエトを追い出される時に」
「それがどうかしたのかしら」
 平然とした返事だった、これに全てが出ていた。
「一体」
「しかもドクツの軍服を着ているとなるとだ」
 今度はレーティアが言う、彼女はここからその灰色の頭脳を働かせて言う。
「ヒムラーと、何処かで会ったか」
「よい方ですね」
 今度はコロネアが答えてきた、にこやかとした笑みだがそこにあるものはかなり不気味だ。
「レッドファランクスを乗っ取り指揮をしだした頃にお会いしました」
「あの男の士官学校中退以降の経歴は不明なところが多かったが」
「その間にレッドファランクスとも接触していたのね」
「その様だな」
 グレシアとも話しつつ分析する。
「それで、なのね」
「どうやらな」
「これは危険よ」
「そうだ、カテーリンとヒムラーはどうやらだが」
 これはレーティアが直感から感じていることだ。
「人を操る能力を持っている」
「ええ、それでよね」
「どうやら、操られているな」
「間違いなくね」
「お姉ちゃん、今共有主義を信じているわね」
 キャロルはきっとした顔になりモニターの姉に問うた。
「そうよね」
「この軍服の色でわかるわね」
「やっぱりね、だからなのね」
「共有主義こそが世界を幸せにするのよ」
 共有主義を信じる赤い海賊、それが今のスカーレットだった。
「もっとも私達はヒムラー総統とドーラ教団から援助を受けているけれどね」
「おい、怪しい関係ばかり出て来るな」 
 フランスも話を聞いて唖然となっている。
「何だよ、これは」
「だから彼等は連合軍と協力しているのですか」
 フランス妹もここで納得した。
「そういうことですか」
「何てこった、無茶苦茶だな」
 プロイセンもここまでの話を聞いて愕然とした感じだ。
「あの総統やっぱり信用出来なかったんだな」
「今は去るわ」
 スカーレットは微笑みのままで東郷達に告げる。
「けれど次はね」
「次か」
 暫く黙っていた東郷がここでようやく口を開いた、そして言うことは。
「その次にだ」
「かつて私達は夫婦だったけれど」
「今は違うか」
「私は海賊、それも共有主義者よ」
 だからだというのだ。
「枢軸軍の貴方を倒すわ」
「いいだろう、相手をしよう」
 東郷はこの状況でも己を失っていない、やはり悠然とした態度で言うのだった。
「そして君を取り戻した時にだ」
「それが出来ると思っているのね」
「そうだ」
 その通りだというのだ。
「必ずそうしてみせる」
「自信家ね、相変わらずの」
 スカーレットはその東郷に微笑んで返す。
「それでも私もね」
「自信はあるというか」
「そうよ、あるわ」
 如何にもという返事だった。
「私は貴方を倒しこの世界を共有主義で統一してみせるわ」
「そうはいかない、俺は君を倒しそのうえで取り戻す」
 ここでも動じない東郷だった。
「そのことを約束しよう」
「出来ればね」
 スカーレットの冷静さは変わらない、そのうえで東郷との話を続けるがそこには夫婦を思わせるものは彼女の口からはなかった。
 そのうえでだ、こうも言うのだった。
「その時を楽しみにしているわ」
「お姉ちゃんにとってはもうキリング家もなのね」
「共有主義は個人の財産を否定しているわ」
 彼女の実家もこれで否定出来た、それも完全に。
「それだけよ」
「そういうことね」
「ではいいわね」
「ええ、よくわかったわ」
 キャロルはここでもへの字の口で応える。
「あたしがお姉ちゃんの目を覚まさせてあげるわ」
「僕もだ」
 アメリカもキャロルに続く、その右手は拳になっている。
「君の目を覚まさせてやるぞ」
「あんた今絶対に普通じゃないからね」
 アメリカ妹も言うのだった、兄と同じく強い声で。
「その目、覚まさせてあげるわよ」
「どんなことをしてもだ」
 彼等も必死だったがスカーレットの言葉には応えない、そうして。
 スカーレットは悠然としてチェリノブから消えた、今の戦いは枢軸側の勝利と言えた。
 だがそれは到底勝利と言えるものではなかった、キャロルは港に戻ってからこれまで誰も見たことのないまでに苦々しい顔になって出迎えて来たハンナ達に言った。
「見たわよね」
「ええ」
 ハンナも沈痛な顔で応える、ハンナがこの顔になったのははじめてのことだ。
「よくね」
「信じられないけれどね」
「スカーレット姉様が生きておられるだけじゃなくてね」
「海賊の首領でね」
「しかも共有主義者なんてね」
「何よ、この連続コンボ」
 こう忌々しげに言うのだ。
「有り得ないでしょ」
「私もそう思うわ、けれどね」
「姉様は私達の敵なのね」
 クーも深刻な面持ちである、まるで危篤の家族を見舞った後の様な顔だ。
「まさか」
「こうなる可能性は」 
 ドロシーも何とか冷静を保っている感じだ、普段の何があっても冷徹な、機械の様な彼女でさえそうなっている。
「一億、いえ十億分の一よ」
「そこまで有り得ないわよね」
「生きておられるだけでも」
 ドロシーはこうキャロルに返す。
「有り得なかったけれど」
「それでもよね」
「まさか。レッドファランクスにおられて」
 自分の席の前のノートパソコンを叩きながらの言葉だ。
「共有主義者なんて」
「どういうことよ」
 また忌々しげに言うキャロルだった。
「どうすればいいのよ」
「そんなことは決まっているだろ」 
 アメリカが横からキャロルに強い声で言う、やはりその手は拳になっている。
「その洗脳を解くんだ」
「そしてよね」
「そうだ、ガメリカに戻って来てもらうんだ」
 アメリカは率直に己の考えを出した。
「そうするしかないだろ」
「それは出来るっていうのね」
「必ず出来る」
 東郷だった、今言ったのは。
「安心してくれていい」
「随分はっきりと言い切ったわね」
「俺は出来ること以外は言わない」
 その態度は今も同じだ、飄々としていてかつ悠然としている。
 その態度のままだ、こうキャロルに言ったのである。
「実は俺は今とても嬉しい」
「お姉ちゃんが生きているから?」
「正直諦めていた」
 スカーレットはもう死んでいたと思っていたというのだ。
「本当にな。けれどな」
「生きていればっていうのね」
「生きていることから全てがはじまる」
 この場合は特にだというのだ。
「希望がな」
「希望ね」
「そうだ、希望だ」
 まさにそれがあるというのだ。
「後はその希望を掴むだけだ」
「おいおい、随分と簡単に言ってくれるな」
 ドワイトも東郷の今の言葉には驚きを隠せない顔で突っ込みを入れた。
「洗脳を解くのはノウハウがあるけれどな」
「スカーレットに勝つことだな」
「それは簡単じゃねえぜ」
 ガメリカ軍きっての名将と言っていいドワイトの言葉である。
「あの人には俺も一人じゃ適わないからな」
「そうだな、しかも一度手の内は見せた」
「それでも勝てるんだな」
「また殴り合いを挑む」
 そうするというのだ。
「そして勝つ」
「来月になるわね」
 キャロルは次の決戦の時を直感的に感じていた。
「レッドファランクスはソビエトの援助で突貫修理に入るわよ」
「そしてだな」
「来月には来るわ、そしてそこにはね」
 来るのは彼等だけではなく、というのだ。
「連合軍も来るわよ、ジューコフ元帥達が率いるね」
「かなりまずい」
 ブラックホークも簡潔に言う。
「勝てるか」
「絶対に勝つ、それで連合軍に向かう主力艦隊はだ」
 東郷はブラックホークの深刻な言葉にも淡々と返す。
「ドイツさんに頼む」
「わかった、必ず勝つ」
 ドイツも東郷に確かな声で返す。
「引き受けるからにはな」
「ここはドイツさんしかいないからな」
 東郷、ダグラス、レーティアがレッドファランクスに向かう、そして国家では日米中の三大国も向かう、それでは残るのはだったのだ。
「軍全体の指揮を任せられるのはな」
「枢軸軍って人材多いけれどね」
「それでもですね」
 ムッチリーニにユーリが応える。
「何十もの艦隊を率いて勝てるとなると」
「ドイツさんしかいないのよね」
「はい、そうです」
 ムッチリーニでもそこまでは至らない、彼女はどちらかというと政治家であり軍人としてはそこまでの力量はないのだ。
 だがドイツは違う、それでなのだ。
「ドイツさんしかおられないです」
「だからお願いするわ、本当にね」
「わかっている」
 精鋭十個艦隊を割いていてもだというのだ。
「それではな」
「俺は必ずスカーレットを取り戻す」
 東郷はまたこう言った。
「その方法はある」
「かなり辛い戦いになりますね」
 秋山はここまで聞いて述べた。
「今回は」
「それは覚悟している」
 東郷もこう答える。
「だがそれでもだ」
「スカーレットさんを取り戻してですね」
「連合軍にも勝つ」
「達成出来る可能性は低いわ」
 ドロシーはここでも可能性の話をする。
「連合軍の情報が入って来たけれど」
「あのね、今回これまで以上に凄いわよ」
 その情報を持って来たハニートラップの言葉だ、彼女はこうした時はヤブ睨みになるがその目で言ったのである。
「ドクツの国家も全部来てるから、来てない国家イギリス系とイタちゃんの妹さん達だけよ」
「それでソビエトの艦隊は?」
 ランファがそのハニートラップにさらに問うた。
「やっぱりこれまで多いのね」
「三百よ」 
 それだけだというのだ。
「凄まじいでしょ」
「正直俺達も最初は誤報かと思ったんだよ」
 ハニートラップと同じく諜報も担当しているキャヌホークの言葉だ。
「けれどこれがな」
「事実、ウラルとモスクワにこれでもかと集結してるわよ」
「勝利の可能性は十億分の一」
 ドロシーはまたこの数字を出した。
「ここはレッドファランクスを優先的に倒して」
「そのうえでだな」
「連合軍とは適度に戦い」
 そしてだというのだ。
「一旦撤退すべきね」
「それが妥当だがな」
「そうしないのね」
「ここで退いても駄目だ」
 東郷は戦略家としての直感からここでチェリノブを失う形での敗北の危険をこう指摘した。
「連合軍はここぞとばかりに攻勢に出て来る」
「そして一気に押し返されるのですね」
「満州までな」
 そこまでだというのだ、秋山に話す。
「押し返されかねない」
「そうなる可能性はかなり高いわ」 
 ドロシーはまたこう言う。
「私としては満州まで退いてね」
「そこを拠点としてもう一度か」
「反撃をするべきよ」
「それが妥当だがそのうえでの反撃はかなり辛いな」
「勢いはなくなるわ」
 ドロシーはパソコンを叩いていた、ここでも。
「これまでの勢いはね」
「戦争は勢いも重要だ、それがなければだ」
 東郷は冷静に語っていく。
「勝てる戦いも勝てない」
「つまりここは踏ん張りどころなんだな」 
 ランスもここまで話を聞いて言う。
「そういうことだな」
「ここでレッドファランクスを倒してだ」
 東郷はランスに応える形でまた述べる。
「そして連合軍の大軍を退ければだ」
「その場合は」 
 ドロシーはここでパソコンを叩き様々なデータから可能性を出して述べる。
「戦いでのダメージをすぐに修理すれば」
「そこからだな」
「ウラルを取ることが出来るわ」 
 ソビエトの欧州側、即ち主星域達への入口を抑えられるというのだ。
「遂にモスクワにね」
「そうだ、大きい」
「だからこそなのね」
「ここはあえて欲張る」
 例え勝てる可能性は殆どなくともだというのだ。
「そうしたい」
「意地ね」
「そうだ、意地だ」
「非科学的、だけれど」
 かつてのドロシーなら否定していたことだ、だが今はこう言うのだ。
「今は必要ね」
「やるしかない」 
 レーティアもこう言う、今は。
「私が見ても勝利の可能性は極めて低いがな」
「やるからには勝つ」
 イスパーニャの言葉だ、彼も今は緊張している顔だ。
「そうするとしよう」
「では今はです」
 秋山は真剣な顔で述べる、そうして彼が今言うことは。
「早速全艦隊を突貫修理に入れましょう」
「そして来月にだな」
「はい、何時でも戦える様にしておきます」
「この状況ではな」
 ここで言うのは宇垣だった、難しい顔で話す。
「前線外交も効果がない」
「一月時間があるのとないのとで全く違います」
 秋山は宇垣にも応えて言う。
「ここは特にそれが欲しいところでしたが」
「残念だがな」
 宇垣はその秋山に申し訳なさそうに返す。
「今は効果がない」
「そうですか」
「敵は来月に来る」
「ではその時は」
「ソビエト戦、いやこの戦争全体でおいてだ」
 東郷も言う。
「最も激しく辛い戦いになるな」
「連合軍だけでも辛いですね」
 日本は彼等の数からこう予想する。
「せめて二百個艦隊なら」
「三百です」
 小澤がその数を述べる。
「これだけいますと」
「尋常なものではありません」
「そしてここで負ければです」
「一気に押し切られますね」
「そうなります」
 満州までそうされてしまう、無論連合軍もそれを狙っている。だからこそである。
 東郷はそのこれまで以上に激しい戦いについて言った。
「ここは正念場だ、最後の最後まで踏ん張ろう」
「わかりました」
「必ず」
 秋山と日本が応える、枢軸軍は開戦以来最も厳しい戦いを迎えようとしていた。


TURN105   完


                       2013・4・19



勝利と言うより引き分けという感じか。
美姫 「勝負そのものは勝ったけれどね」
まさかの洗脳とは。
美姫 「それでも生存していた事は東郷にとっては嬉しい事だったみたいよね」
それはそうだろうな。
後は本人も言っているように捕まえて洗脳を解けば良いしな。
美姫 「そう簡単にいくかしらね」
だよな。当然ながら、ソビエト戦を止める訳にもいかないしな。
美姫 「どうなるのか、次回も楽しみにしてます」
待ってます。



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