『ヘタリア大帝国』
TURN104 謎の女
枢軸軍はソビエト軍とドクツ軍は圧倒していた、戦局は彼等に有利に思えた。
それはキャロル達も見ていた、そのうえでこう話すのだった。
「あたし達もやるわよ」
「そうだね、やってやるよ」
アメリカ妹がそのキャロルに応える。
「ドクツ軍の第六世代の艦艇は強いけれどね」
「適わない相手じゃないわよ」
だから大丈夫だというのだ。
「兵器の質はね」
「後は戦術だね」
「二倍以上いるから」
キャロルもこのことは忘れていない、それでここでは真剣な顔になって言う。
「無理せずに守っていくべきかしらね」
「積極的に守るんだね」
「機動力を使ってね」
これがキャロルの守り方だ、攻撃的な性格の彼女は守る時も艦隊を積極的に動かしてそのうえで守るのである。
「そうしようね」
「あたしもその方がいいしね、ただね」
「うん、そうね」
キャロルは今度は怪訝な顔になってアメリカ妹に応える。
「敵の動きがね」
「本当に何処かで見たことがあるわね」
アメリカ妹も海賊の動きを見つつ応える。
「誰かしら、あれは」
「祖国ちゃんでもないし」
「僕はここにいるぞ」
そのアメリカから言って来た。
「僕もその海賊の動きには既視感があるがな」
「うちの艦隊の動きじゃないのか?」
ダグラスも連合軍の相手をしながら海賊達の動きを見て言う。
「似てるんだがな」
「ドクツの艦艇にガメリカの動きをさせている感じだな」
アメリカもそう見ていた。
「妙な動きだな、これは」
「本当に欧州の海賊な?この連中」
キャロルはこうも思った。
「何か引っ掛かるわね」
「あまりそんな気がしないわね」
「ええ、何なのかしらね」
謎の海賊達に多くの者が疑問を感じていた、だが。
枢軸軍は海賊達をその射程に入れた、アルビルダはそれを見て早速アイスランドに対して威勢よくこう叫んだ。
「よし、撃つぞ!」
「了解」
「そして敵の左右に展開して攪乱するぞ!」
「守ることは守るんだ」
「私もキャロルと同じだからな」
つまり陣を敷いて守るのではなく機動力で攪乱しつつ守るというのだ。
「そうするぞ」
「わかった、じゃあ付き合う」
こう話してそのうえでだった。
アルビルダは敵艦隊にビーム攻撃を浴びせる、だが。
その瞬間にだった、海賊達は素早く散開してアルビルダとアイスランドの艦隊の攻撃のダメージを最低限に抑えたのだ。
「!?これは」
「速い」
「今枢軸軍みたいな動きをしたぞ!」
「海賊の動きじゃない」
アイスランドは今の即座の散開から即座に察した。
「これは」
「軍隊の動きだ」
「海賊はこの場合散開せずに一旦下がるから」
散陣を組むことはしないのだ、海賊は。
「こんな海賊は見たことがない」
「おかしいぞ」
アルビルダは直感的にこのことを察した。
「どういった連中なんだ?」
「本当に何処かで見た感じよ、この動き」
今の動きからもだ、アメリカ妹はいぶかしむ顔で言った。
「何処の誰なのかね」
「気になるわな、まあここはね」
「あたし達もだね」
「仕掛けましょう」
こう言ってそしてだった。
キャロルとアメリカ妹も攻撃を仕掛ける、だがこれもだった。
やはり散陣でかわされる、そしてだった。
今度は海賊達の番だった、彼等はというと。
高速だが蛇行しつつ枢軸軍に向かいそしてだった。
ビームを放つ、その攻撃は。
第六世代のものではなかった、確かにその艦艇は第六世代のものだがその攻撃はその威力を超えていたのだ。
正確かつ的確だ、それでだった。
枢軸軍の艦艇を次々と航行不能にしていく、これにはキャロルも驚いた。
「嘘、確かに数は向こうが多いけれど」
「第六世代のものじゃないね」
「ええ、もっと強いよ」
アメリカ妹と話す。
「これはね」
「二世代の違いを感じさせないって」
「何よ、艦の弱点を的確に狙って撃ってくるし」
「強いなんてものじゃないね」
「艦隊の運営も速くて」
それでだというのだ。
「こっちは狙いを定められないわよ」
「これだけの動きが出来るのは」
アメリカ妹は海賊達の激しくかつ的確な攻撃の中言う。
「東郷の親父さんとね」
「わっしーに総統さんにね」
「それともう一人は」
「お姉ちゃん?」
キャロはここで言った。
「お姉ちゃん位よ」
「連合だとセーラ女王さんね、限られてるわ」
「これはもう天才の動きよ」
こうも言うキャロルだった。
「冗談抜きで後はスカーレットさん位ね」
「けれどそんな筈ないから」
キャロルは自分達が出した名前を即座に全否定する。
「幾ら何でもね」
「それはね、もうあの人はね」
「だからね」
二人はお互いが知っていることから話していた。
「今ここであたし達と戦うなんて」
「絶対にないわよ」
「けれどこの動きは」
「それにこの攻撃は」
「どう考えても」
「並の名将じゃないわね」
マンシュタインやロンメルをも凌駕していた、それだけのものだった。
そしてその采配でキャロル達をあっさりと一蹴してだった。
海賊達は枢軸軍主力の後方に向かう、その動きは東郷達も見ていた。
東郷は怪訝な顔になりそのうえで秋山に言う。
「まさかと思ったがな」
「キリング提督達がああもあっさりと抜かれるとは」
「あの娘達は普通に戦っていた」
その戦術に何の問題もなかったというのだ。
「それであそこまで軽く一蹴するとはな」
「尋常な人物ではありませんね」
「何処かで見た動きだな、やはり」
東郷もこう言うのだった。
「それも俺の知っている誰かか」
「誰かとは!?」
「それが誰かとはまだはっきりとわからないが」
だがそれでもだというのだ。
「何処かで見た動きなのは間違いない」
「ガメリカ軍の動きに似ていますが」
「しかもその動きが水際立っている」
天才の域までだというのだ。
「これはな」
「このままですと」
「わかっている、ここで後方から攻められてはな」
連合軍主力と戦っている、そこでだというのだ。
「敗れる、まずな」
「ではどうされますか」
「ここで戦力を分散させては駄目だ」
東郷はその戦術は愚とした。
「連合軍の主力を一気に倒すぞ」
「まずは彼等ですね」
「あと一押しだ、それで攻めてだ」
「まずは彼等を退け」
「それから海賊だ」
彼等の相手をするというのだ。
「そうしよう」
「わかりました、それでは」
秋山は東郷の言葉に頷いた、そうして。
東郷の言葉通り連合軍に総攻撃を浴びせた、それはこれまでよりも遥かに強いものだった。
その攻撃で連合軍を押し切った、ジューコフも軍のダメージが五割に達したのを見て歯噛みして言った。
「こうなっては仕方がない」
「間も無く海賊が敵の後方を衝きます」
「それでもですか」
「無理だ、それでもな」
ジューコフは部下達にモニターに映る戦局を見つつ述べる。
今枢軸軍は我々を突破しようとしている」
「では突破してですか」
「そのうえで、ですか」
「突破し反転してだ」
枢軸軍は連合軍のソビエト軍とドクツ軍の間に入ろうとしていた、そこから反転してそれからだというのである。
「海賊達も正面から迎え撃つつもりだ」
「それはまた考えていますね」
「そこまで、ですか」
「そうだ、考えている」
こう言うのである。
「その場合我々はこれまで以上に攻撃を受ける、海賊達と共にな」
「ではここはですか」
「これ以上の損害を避ける為に」
「撤退する」
そうするというのだ。
「わかったな」
「わかりました、仕方ありませんね」
「それでは」
「海賊達にも伝えよ」
正規軍だけでなく協同してあたっている彼等にもだというのだ。
「共に撤退するぞ」
「わかりました」
海賊達にも連絡がいった、だが。
女は不敵に笑いそのうえでモニターに映るジューコフにこう言ったのだった。
「生憎ですが」
「撤退はしないというのか」
「我々は連合軍への協力者であります」
このことは確かだというのだ、だが。
「しかし指揮下にはありませんね」
「だからだというのだ」
「撤退だけでなく進軍も私の裁量で行わせて頂きます」
「いいのか、敵は強いぞ」
「そのことは承知しています」
彼女にしてもだというのだ、そのことは。
「ご心配なく、ですが」
「それでもか」
「必ずや連合軍のお役に立ちますので」
「我々に勝利をもたらしてくれるのだな」
「何があろうとも」
サングラスの奥から自信に満ちた笑みが見える、そこには一点の虚栄もない。
「そうさせて頂きます」
「ではだ」
「暫くお任せ下さい。閣下はそのまま撤退されて下さい」
「そうさせてもらう」
ジューコフも女の言葉に頷いた、そしてだった。
連合軍はチェリノブから撤退した、後に残ったのは海賊達だけだ。
数は逆転していた、枢軸軍の方が圧倒的になっていた、だっがそれでも。
東郷はにこりともせずにこう秋山に言うのだった。
「いいか、相手の実力は本物だ」
「はい、だからですね」
「油断は出来ない」
例え何があろうともだというのだ。
「慎重にいこう」
「ではここは」
「密集していても敵の動きに翻弄されてそのうえで集中攻撃を受ける」
「だからですね」
「艦隊ごとに別れてだ」
そのうえでだというのだ。
「相互に連携出来る状況で立体的に陣を組む」
「立体的ですか」
「一つの艦隊が攻撃を受けても相互に援護出来る様にする」
これが東郷が今考えている戦術だ。
「それをする」
「わかりました、では」
枢軸軍はすぐに布陣させた、艦隊ごとに別れそれが上下、前後左右に助け合う様にして布陣していた。それはまるでカバラの定理だった。
その布陣で海賊達に対峙する、その陣を見てだった。
女はここでも不敵に笑った、そして言うことはは。
「考えたわね、これは」
「中々攻めにくい陣ですね」
「敵の艦隊を一つ攻撃してもね」
それでもだとだ、メイドに対して言うのだ。
「周りの艦隊が一斉に攻撃してくるわ」
「こちらが攻撃を仕掛けたなら」
「そうしてくるから」
だからだというのだ。
「ここは用心が必要ね」
「しかし攻撃はされますね」
「勿論よ」
それはするというのだ。
「必ずするわ」
「そうですか、それでは」
「私のやり方でいくわ」
「お嬢様の、ですね」
「それでいくわ、いいわね」
「わかりました、それでは」
マイドはこれといって意見をせずに微笑んで頷くだけだった、そして。
そのうえで布陣を組み枢軸軍に向かう、十個艦隊で一個艦隊を攻撃し。
即座に離脱する、そうしてだった。
こちらはダメージを与え相手の攻撃はかわす、そうした蜂の様に巧みに攻撃を繰り返し。
それを何度か繰り返して急に反転した。
「撤退か」
「その様ですね」
「随分と心憎いやり方で攻めてくれたな」
東郷はその彼等を見ながら言う。
「これはな」
「そうですね、この布陣にああして攻めるとは」
「少しない」
こう言ったのである。
「ちょっとな」
「確かに、ですが」
「御前も思ったか」
「はい、やはりあの動きは」
秋山も怪訝な顔で言う。
「何処かで見ました」
「実戦ではなくともな」
「キャロル長官の用兵に似ています」
まずはキャロルを例えとして出す。
「ですがそれ以上に洗練され完璧にした様な」
「そうした采配だな」
キャロルは用兵にも定評がある、伊達に自ら艦隊を率いてそのうえで戦っているのではない。それで秋山も言うのだ。
「さらに優れている」
「例えるなら姉か」
東郷は言った。
「それだな」
「はい、姉ですね」
「つまり俺のかみさんだな」
「スカーレットさんですか」
「あいつになるな」
「スカーレット長官もがメリカの閣僚でしたね、そういえば」
ここでこう言う秋山だった。
「国防長官兼副大統領でしたね」
「あの頃はな」
「はい、そうでしたね」
「まさにガメリカのナンバーツーだった」
そこまでの人物だったというのだ。
「もっともその人に声をかけたのが俺だがな」
「普通はどなたもされません」
秋山は困った顔になり東郷に返した。
「あの様な方にお声をかけるのは」
「ははは、俺は差別はしない主義だからな」
「一介の士官ががメリカ政府国防長官兼副大統領に声をかけることもですか」
「特に気にしなかった」
その頃からそうだったというのだ。
「だから声をかけてだ」
「そのうえで、ですか」
「結婚したからな」
「全く、まさかスカーレットさんも乗られるとは」
東郷のその誘いにだというのだ。
「よくもそんなことになりました」
「だから真希も産まれた」
東郷が誰よりも可愛がっているその娘もだというのだ。
「俺にとってこれだけ嬉しいことはない」
「そうですか」
「それだけに残念だ」
だがこうは言っても表情は変えない、何とか耐えているのだ。
「あの事故はな」
「そうですね、私もそう思います」
「消息不明だがな」
だが宇宙で船に乗っている中でその船が事故で姿を消したのだ、最早どうなったのかは言うまでもないことだ。
「もうな」
「そうですか」
「だが確かにだ」
「そうした動きですね」
「ああ、実際にスカーレットの用兵にそっくりだ」
東郷も言う。
「あの艦隊の動きは」
「だからこそ手強いですね」
「今も追撃はしない」
それもしないというのだ。
「下手に仕掛けてもな」
「返り討ちにあいそうですね」
「敵の損害は少ない、また来る」
こう呼んでのことだ。
「今はダメージを受けた艦隊を修理工場に入れてだ」
「再襲撃に備えますか」
「そうする」
戦いには勝ったがそれでもだった。
枢軸軍はかなりのダメージを受けその傷を癒す必要があった。実際に修理工場に入った艦隊はかなりの数だった。
その中にはキャロルの艦隊もある、彼等はキリング家のスタッフ達を総動員させて修理に当たらせながら言うのだ。
「全く、してやられたわね」
「全くだね」
アメリカ妹も苦い顔で応える、彼女の艦隊も修理工場の中にいる。
「随分とね」
「何なのかしらね、あの海賊」
キャロルは憮然とした顔で言う。
「無茶苦茶強いじゃない」
「動きが普通じゃなかったね」
「主力への一撃離脱もね」
「あの海賊に戦力の三割がやられたわ」
そこまでやられたのだ、海賊達に。
「お陰で修理工場はこの有様よ」
「洒落になってないわね」
こうも言うキャロルだった。
「しかも向こうは殆ど無傷よ」
「何もダメージ受けてなかったわね」
「どうなのよ、これって」
「連合軍への対策が出来たのに」
「また変な敵が来たね」
「あの海賊何とかしないとまずいわね」
「何か攻略法があるかしら」
アメリカ妹は真剣にそれを考えだしていた、今はやられたがリベンジは忘れていないのだ。
「凄い攻撃力と機動力だけれどね」
「それがない相手なんていないけれどね」
「それでもよね」
「ええ、あるわ」
こう話すのである。
「絶対にね。けれどね」
「あれだけ強いとね」
「中々難しいわね」
今は枢軸軍もお手上げだった、そして。
その翌月まただった、彼等はまた来た。
再び枢軸軍は出撃して迎撃をしたがそれでもだった。
その用兵に翻弄される、今回も一方的にやられてそのうえでだった。
あっさりと撤退される、ダメージを受けた艦隊は修理工場に入れられチェルノブは大忙しという状況になっていた。
日本もそれを見てだ、危惧する顔で台湾に言う。
「損害が増える一方ですね」
「はい、困ったことに」
「僅か十個艦隊にここまでやられるとは」
こう言うのである。
「この有様は」
「参りましたね、おそらく二月程したら」
「連合軍も来ます」
その彼等もだというのだ。
「そしてこのまま損害が蓄積されていると」
「敗れます」
日本はあえてこのことを言った。
「このチェリノブを失い」
「それからもですね」
「最悪何処まで負けるか」
それがわからないまでに深刻だというのだ。
「即刻対策を講じなければ」
「慎重に対応を検討する、では駄目ですね」
「それは何もしないということですから」
他には状況を注視するだの事態を見守るだのいう言葉もある、こう言って何もしない輩にはそのやからが暴漢に襲われている時に同じことをすればいいだろう。
「ですから」
「何とかしないとなりませんね」
「絶対に」
「ではすぐに会議を開きますか」
「そうしましょう」
こうした話をしてだった、そのうえで。
枢軸軍の提督と国家達は会議室に集まった、そのうえでだった。
会議に入る、まずはアメリカ妹がこう言った。
「あの動き本当に何処かで見たんだよね」
「はい、そうですよね」
クーもアメリカ妹に応える、彼の艦隊も海賊に壊滅させられている。
「艦隊の動きが我が軍のものです」
「レッドファランクスって欧州の海賊だよね」
アメリカ妹はここでこうも言った。
「何でうちの動きなんだろうね」
「いや、以前はああした動きではなかった」
イスパーニャがここで言った。
「あの様なガメリカ的な動きではな」
「オフランスや私達みたいな動きだったわ」
ローザも話す。
「以前はね」
「艦艇がドクツであるということは」
ネルソンはこのことからこう推察する。
「おそらくドクツ軍が援助していますね」
「あの男はそういうことするわね」
グレシアは考える顔で述べた。
「ヒムラーだとね」
「昔はそうした人間ではなかったのですが」
ロンメルは残念な顔でかつての同期について言及した。
「随分と変わってしまいました」
「そうしたしみったれたこと手段を使ってきても当然よ」
グレシアは話していく。
「海賊を援軍に出して裏から援助することはね」
「政治としては妥当ではあるな」
宇垣はヒムラーのそのやり方を政治家として肯定はした、だがだった。
彼はここでだ、こうも言ったのである。
「綺麗なやり方ではないが」
「全くです、忌まわしいことです」
山下も会議の場にいるが潔癖症の彼女がこうしたやり方を好む筈がなく憮然とした顔で言ったのである。
「そしてそれによって」
「こっちは追い詰められてきているわよ」
ランファが眉を顰めさせて言って来た。
「このままじゃ本当にやばいわよ」
「艦隊の動きが抜群です」
リンファも深刻な顔で述べる、彼女もしてやられたのだ。
「攻撃も、防御もまた」
「あれ何?天才?」
セーシェルに至っては目を丸くさせている。
「あの動きって」
「俺も自分の才能には自信があるけれどな」
自信家であると自他共に認めるダグラスの言葉だ。
「あれは俺以上だな」
「動きがどう見てもガメリカなのに何かあるんじゃないのか?」
フランスもレッドファランクスのことを知っているので語る。
「昔はうちの連中の動きもあったんだよ」
「あの動きはキャロルの動きね」
ここで言ったのはドロシーだった。
「ガメリカ軍の中でも」
「ええ、あたしにそっくりでね」
キャロルは口をへの字にして語った。
「これ絶対に有り得ないけれど」
「スカーレットさんね」
「そうよ、お姉ちゃんよ」
キャロルは今度はハンナに応えて言う。
「あれはお姉ちゃんの動きよ」
「けれどそれは有り得ないわね」
ハンナはキャロルに聞いてからそれでその可能性を否定した。
「絶対にね」
「ええ、お姉ちゃんは死んだからね」
キャロルもハンナのその言葉に同意して頷く。
「有り得ないわよ」
「あれは残念な事故だった」
アメリカも今は眼鏡の奥で目を閉じて語る。
「スカーレットは凄かったからな」
「あたしなんかよりもずっとね」
キャロルは複雑な顔になった、口をへの字にしたまま苦さに加えて劣等感と愛情も交えてそれで言うのだった。
「お姉ちゃんがいたらあたしなんか出る幕なかったわよ」
「僕は最初から君を閣僚に推薦するつもりだったぞ」
大統領にだ、国家としてキャロルの才能を見てのことだ。
「君は凄いぞ」
「お姉ちゃんよりもじゃないわ」
キャロルはその顔のままアメリカに返す。
「祖国ちゃんの気持ちは嬉しいけれどね」
「本当のことだぞ」
「あたしは長官で終わりだけれどお姉ちゃんは大統領よ」
そこまでなれる器だったというのだ、彼女は。
「全然違うわ」
「ううん、まあそれはいいとしてね」
アメリカ妹はキャロルに頑ななものを見て彼女に助け舟を入れる為にここでこう言った。
「とにかくあの動きはスカーレットのそれね」
「そうか」
「そう、長官さんもわかってたんじゃないの?」
「確かにあれはスカーレットの動きだ」
東郷もスカーレットにこう返す。
「俺にもわかる、あの艦隊運動と攻撃はな」
「スカーレットよね」
「彼女の動きだ」
「実際にあの娘が生きている可能性はないよ」
アメリカ妹はこの可能性はゼロとした。
「完全に、ただね」
「ただ、だな」
「スカーレットの動きならね」
それならというのだ。
「やり方があるわよね」
「そうだな、しかしだな」
「強いね、あたしもあの娘は天才だったと思うから」
「軍事、そして政治についてはな」
流石にここで科学や様々なジャンルは入らない、レーティアの様な万能の天才とまではいかないというのだ。
「まさにな」
「あの娘と戦うにはね」
「勝つことは難しい」
東郷も言う。
「数が多くともな」
「艦載機を出してもです」
小澤は枢軸軍の得意戦術を出す。
「防空体制も整えています」
「あれはエイリスの技術だな」
レーティアは海賊達の防空体制の充実をこう看破した。
「ドクツ軍はそれは全くといっていい程ないからな」
「ですから艦載機での攻撃は期待出来ません」
「流石に艦載機の攻撃は向こうからはないがな」
「しかしです」
それでもだというのだ、小澤は言う。
「あの防空体制は破れません」
「楯も備えているということだな」
東郷は海賊達のその防空体制を楯と評して語る。
「それを破ることは容易ではない」
「というか今のあたし達じゃ無理だよ」
アメリカ妹はその楯にこう結論を付けた。
「とてもね」
「ビーム攻撃がとりわけ優れている」
レーティアは言った。
「そしてその後一撃離脱で鉄鋼弾を浴びせてくる」
「それもガメリカ軍の戦術なんだけれどな」
アメリカがそこを指摘する。
「しかしあの鉄鋼弾の攻撃は」
「うちのやり方だけれどそのレベルが違います」
ガメリカ軍の中で随一の猛将のイザベラも脱帽するまでだった。
「日本軍のそれと比較しましても」
「俺でもあそこまでいかねえよ」
その水雷戦の専門家である田中もイザベラと同じ評価である。
「あれは冗談抜きでやべえな」
「弱点ないんじゃないの?」
クリオネはお手上げといった感じである。
「あの海賊には・・・・・・と言いたいけれどね」
「うん、そうたいな」
「ここで諦めたら終わりなのよね」
インド、今の自分の祖国に応えて言うのだった。
「というか解決出来ない難題もないからね」
「とにかくあれは完全にスカーレットの動きよ」
アメリカ妹は再びこう言った。
「そこから考えていくべきね」
「それならよく知ってる人がいるな」
キャヌホークはここで二人を見た、その二人は。
「うちの大将とこっちの長官さんだな」
「俺か」
「あたしもなのね」
「そうだよ、お二人だよ」
こう東郷とキャロルに言うのだ。
「事情がわかっているつもりだけれどあえて名前を出させてもらったよ」
「いや、それはいい」
「あたしもよ」
二人はキャヌホークが何故ここで彼等の名前を出したのかもそれにあたっての覚悟もわかっていたのでいいとした。
そしてだ、東郷は今度は自分から言った。
「伊達に夫婦だった訳じゃない、あいつのことは知っているつもりだ」
「ええ、妹してずっと一緒にいたからね」
二人で言うのだった。
「長所も短所もな」
「知ってるわ」
「それではだ」
レーティアの目が光った、心理学の権威でもあるので言ったのである。
「スカーレット夫人のことを全て話してもらえるか」
「そこから作戦を考えるんだな」
「そうだ、采配も性格が影響する」
まさに心理学からの言葉だった。
「だからだ、ここはだ」
「わかった、それではだ」
「お姉ちゃんのこと洗いざらい話させてもらうわ」
こう話してそうしてだった、二人はスカーレットのことをここで全て話した。それはハンナ達他の四姉妹のメンバーもだった。
スカーレットのことが全て話される、そしてレーティアは言った。
「わかった、ではだ」
「対策が見つかったか?」
「おそらくこれしかない」
会議室の己の席の前にあるパソコンを叩きだした、そのうえで部屋のモニターに仮想の戦陣を出して話すのだった。
青が枢軸軍、そして赤が海賊達だった。その陣を見せて言うのだ。
「これまで我が軍は数を使ってきた」
「大軍には大軍の布陣がありますので」
秋山がそのレーティアに応える。
「ですから」
「そうだな、しかし」
「この布陣は」
「大軍であることを捨てることだ」
見れば枢軸軍の陣は密集だ、さながら一匹の大蛇の様に長大だ。
その布陣で海賊と対峙している、しかしその数は互角だ。それを見せていての話だ。
「こうして囲むのではなくだ」
「正面から戦うのですね」
「そうだ、一気にだ」
そうするというのだ。
「スカーレット夫人は勇敢だな」
「格闘技と射撃も天才よ」
彼女の妹のキャロルの言葉だ。
「これはもう言ったわね」
「そうだな、例えどれだけ大勢の相手でも体格が優れた相手でも負けたことはない」
「マーシャルアーツやボクシングで戦ってね」
「格闘スタイルは蝶の様に舞い蜂の様に刺す」
レーティアはこのことも指摘した。
「相手の攻撃をかわし一撃離脱を繰り返す」
「それは海賊の戦術そのものですな」
マンシュタインも知っていた、彼ですら適わない相手であるからこそ。
「まさに」
「そうだ、戦術にも出ている」
「格闘戦での行動が艦隊戦にも出ている」
「何度も言うが人間にはそれぞれの性格がありそれは行動にも出る」
レーティアは心理学者としての立場からこのことを看破する。
「全ての行動にな」
「お姉ちゃんは格闘戦でね、相手の急所を攻撃するのよ」
ここでまたキャロルが話す、その姉のことを。
「相手が数とか体格に頼って押し潰そうとしたらそこで即座に反撃してね」
「反撃を加えるな」
「そう、つまりは」
「一緒だな、海賊の攻撃と」
レーティアはまた言った。
「だからだ」
「ここはそれを見てなの」
「この陣はまさに蛇と蛇の戦いだ」
「数を互角にした理由はどうしてあるか?」
このことを問うたのは中国だった。
「スカーレット夫人が体格が優れた相手との戦いを得意としているからあるな」
「そうだ、そして体格が劣っている相手にもだ」
「強いあるからか」
「素早い相手への対応も上手だ」
レーティアはここでもスカーレットの格闘戦のデータを見て話す。
「動きを見切りその動きが止まった瞬間に急所を攻撃している」
「それも凄かったのよ、お姉ちゃんは」
またキャロルが言う。
「けれどそういえば体格が同じ相手とはね」
「戦っていないな」
「格闘技で体格が同じ相手と戦うことって滅多にないわよ」
キャロルは格闘技のことから話す。
「これって艦隊戦でも地上戦でもだけれどね」
「訓練ではよくあるが戦力的に全く互角の相手との戦いは滅多にない」
ほぼ全てがどちらかが多いか少ないかである。
「しかし互角ならだ」
「どうなるかわからないっていうのね」
「いや、スカーレット夫人は互角の条件ならだ」
それならというのだ。
「実は案外脆いのだ」
「脆いとは」
「そうだ、脆いのだ」
「あっ、今度は家事とかのことね」
「スカーレット夫人は主婦としても見事だ」
尚レーティアは料理でも天才的である、他の家事も。
「政治と同じくな」
「それでもよね」
「自分に有利な条件なら気を引き締めてかかり失敗しない」
そうした条件では油断しないというのだ。
「不利な条件ならば突破口を見つけて解決する」
「どちらでもないとなるとね」
「意外と手間取っているな」
「何もない状態だとお姉ちゃん結構手間取るところがあるのよ」
「そうだったな、何故か普通の状況だと普段より動きが悪かった」
東郷も夫婦生活を思い出して語る。
「何故かな」
「そうした状況が少ないからだ」
「動きが悪くなるか」
「相手は十倍の数でも負けない」
それがスカーレットだと、レーティアは言う。
「そして少数にも強いとなるとだ」
「互角か」
「互角の勝負に持ち込みだ」
そしてだというのだ。
「勝つことだ」
「そういうことか」
「だからここは互角で挑む」
そうしてだというのだ。
「ただ、数では互角でもだ」
「提督の質は選ぶべきだな」
「敵の指揮官は一人だ」
優れた指揮官は、というのだ。
「海賊の十個艦隊の中でもな」
「それに対して、なのね」
「我々はこれだけいる、これだけの数の中でもだ」
レーティアは提督達をその青い目で見回した、そして言うことは。
「優れた者が揃っている、さらにだ」
「その中でもなのね」
「特に優れたものをぶつけてだ」
そしてだというのだ。
「海賊達に対しよう」
「同じ数で質はこちらで上にしてか」
「艦艇の質では凌駕出来ないならだ」
ハードウェア、それで駄目ならというのだ。
「次はだ」
「人材なのね」
「それで対する」
つまりソウトウェアでだというのだ。
「これでどうだ」
「少なくともこれまでのやり方じゃ駄目だしね」
南雲も己の艦隊をやられている、それで言うのだ。
「やってみる価値はあるわね」
「ではこれでいいな」
「やってみるか」
東郷はレーティアのその言葉に頷いた、そして。
海賊達に向かう面々も選ばれた、まずは。
「俺が行こう」
「長官自らだな」
「スカーレットの相手なら俺がまず行かなくてはな」
夫でもあった彼がだというのだ。
「話にならないだろう」
「そういうことだな」
まずは彼だった、そして次に名乗りを挙げたのは。
キャロルだった、彼女も強い顔で言って来た。
「同じ理由でね」
「参加するか」
「ええ、これまで一度もお姉ちゃんに勝ったことがなかったし」
コンプレックス、それがあっての言葉だ。
「お姉ちゃんじゃないにしてもやってやるわよ」
「その意気だな。では私もだ」
そしてレーティアも言うのだった。
「あの天才、私以上か見極めてみたい」
「俺も行かせてもらうぜ」
ダグラス、そして。
マンシュタインとロンメル、ネルソンに日本とアメリカ、中国もだった。枢軸の主力と言っていい顔触れが揃った。
その彼等で艦隊を組みそのうえでだった。
「海賊達を倒しましょう」
「やるか」
「互角の相手との戦いは実践では本当にないですが」
日本は強い声で東郷に応えていた。
「それでもです」
「倒すか」
「そうしましょう」
二人で話す、こうして後は海賊を迎え撃つだけになった。
枢軸軍はまたしても決戦の時を迎えていた、その頃連合軍では。
イギリスが難しい顔でこうセーラに言っていた、場には彼の妹と王族の面々が揃っている。その場で言ったのである。
「なあ、あのヒムラー総統だけれどな」
「彼ですね」
「レッドファランクスを使うのはいいけれどな」
話すのはこのことだった。
「あの連中とどうして知り合いになったんだ?」
「それがわからないのよね」
マリーも首を捻って言う。
「何でかしらね」
「その辺りかなり怪しいよな」
「そもそもあの人怪しいことだらけよね」
マリーはヒムラーについてこうも言う。
「謎ばかりっていうかね」
「謎しかねえよな」
「そうよね。経歴とかね」
「最近ドクツでドーラ教ってのがやけに大きくなってるな」
イギリスはこの組織のことも言う。
「あれもな」
「あの教団についてですが」
妹が深刻な顔で述べる。
「ドクツに駐在している外交官の方からも諜報部の方からもです」
「何も入って来ないか」
「はい、本当に何もです」
情報が入って来ないというのだ。
「ドーラという神を信仰する一神教であること以外は」
「何もわかってねえんだな」
「そうです、教理は特におかしなところはありません」
肝心のこれの話にもなる。
「友愛や平和を解く」
「普通の宗教か」
「カルト的は要素はありませんが」
「何か妙に引っ掛かるのよね」
エルザが言って来た、直感ではセーラよりも上の彼女がだ。
「あの宗教はね」
「そうなんだよな、だからな」
イギリスは再び言う、エリザに応える形で。
「あの総統とドーラ教のことは調べておくか」
「あとソビエトもだね」
マリーは今枢軸と激しく戦っている国のことを出した。
「書記長さん時々モスクワからいなくなってるよ」
「はい、そこまではわかるのですが」
セーラもいぶかしむ顔で言う。
「しかしそれからは」
「全くわからないのよね」
「何処かに秘密都市があるのでしょうか」
「?俺達の航路にもない星域かよ」
イギリスはここでその太い眉を顰めさせた。
「そんな星域があるのかよ」
「俺達の星域って?」
「それは一体」
マリーだけでなくセーラもだ、イギリスの今の言葉に顔を向けた。
「どういう意味なの?今の言葉」
「よくわかりませんが」
「その時になったら話すさ」
イギリスは二人にこう返した。
「だから待っていてくれよ」
「ううん、何か凄く気になるけれど」
「ではしかるべき時に」
「祖国さんからお話聞くね」
「重要なことであることはわかりますが」
「そういうことでね、私からも話すから」
エリザも言う、どうやらエイリスにとって極めて重要な事項であることは間違いない、セーラ達にもそれはわかった。
だがそれでもだ、カテーリンのことは。
「あの娘も謎だらけだしね」
「共有主義自体が危険だしな」
「今は同盟国だけれど」
「この戦争の後はドクツ共々エイリスの敵になるぜ」
イギリスはマリーに深刻な顔で述べる、エイリスはこの戦争に勝ったとしてもそこから先も多難であることが予想されていた。
その中でだ、セーラは共に席に着いている面々に告げた。
「では今はです」
「うん、軍の立て直しだね」
「アフリカ方面の」
「それを急いで下さい」
こう告げたのである。
「今のままでは攻勢はおろか防衛もままならないので」
「わかってるさ、今以上に進めるからな」
イギリスが応える、エイリスは今は軍の再建が急務でありそれを必死に進めていた。
TURN104 完
2013・4・17
ソビエト軍、ドクツ軍はどうにか撤退させれたけれど。
美姫 「流石にレッドファランクスは一筋縄では無理みたいね」
今回も撤退させたとは言え、被害は大きいしな。
美姫 「けれど、これで相手の手の内を大方予想できて対策が出来たのは上々じゃない」
確かにな。後は実際にやってみて上手くいくかだな。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
気になる次回は……。
美姫 「この後すぐ!」