『ヘタリア大帝国』




                   TURN102  革命

 ゾルゲ達は日本のとある記者達と会った、無論彼等もシンパである。
 その新聞社のビルに入る、新聞社全体がシンパになっているので何の問題もなかった。
 そして中に入って記者達と紅茶を飲みながら話す。
 ゾルゲはスプーンに入れた苺ジャムを舐める、それから紅茶を一口飲んでから記者達にこう言ったのだった。
「美味しいですね」
「お気に召されましたか」
「はい、いいジャムに紅茶ですね」
 こう微笑んで言うのである。
「日本のものですね」
「そうです、我が国のものです」
「ジャムも紅茶もです」
「ソビエトのものと同じだけの味です、そしてソビエトではです」
「誰もがこのジャムと紅茶を飲んでいるのですね」
「同志カテーリン書記長も」
「同志カテーリン書記長は贅沢を嫌っておられます」
 このことは事実だ、少なくともカテーリンは自分だけがいい目を見ようとと考える人間ではない。性格的には極めて潔癖なのだ。
「ですから全ての人民がです」
「同じものを食べてですね」
「同じお茶も飲んでいるのですね」
「無論ジャムもです」
 それもだというのだ。
「それが共有主義です」
「この日本も間も無くそうなるのですね」
「そして太平洋全てが」
「そうです、太平洋は今資産主義に支配されています」
 これはゾルゲの見立てである。
「しかしそれがです」
「これから革命が起こり一変しますか」
「共有主義になるのですね」
「全ては一瞬で終わります」
 まさにそうなるというのだ。
「この国の帝が宣言すれば」
「共有主義になると」
「そして帝が退位を宣言すればですね」
「全てが変わります」
 ゾルゲは淡々としているが確かな口調で話した。
「一瞬にして。この戦争も終わり」
「誰もが共有主義の中で幸せに過ごせるのですね」
「階級も貧富もない幸せな世界が訪れますか」
「誰もが同じものを食べ飲み違いなく生きられる」
「平和と共に」
「そうです、では宜しいですね」
「では宮廷まで案内します」
「今から」
「あっ、今宮廷にはこの国の帝の他に誰がいるのかな」
 ロシアが記者達に尋ねる、彼は記者達に対しても素朴な笑顔を見せている。
「柴神様がおられるのかな、やっぱり」
「あの神様は今はインド洋です」
「そこにいます」
「伊藤首相もそこにいます」
 日本の宰相である彼も今は宮廷にいないというのだ。
「そして五藤内相も元にあの国の内政のことで出張しています」
「残る外相と陸海軍の両長官はラーゲリにいます」
「今政府の閣僚達は皆日本にいません」
「まさにもぬけの空です」
「じゃあ仕掛けられるね」
 ロシアは記者達からここまで聞いてにこやかに笑って述べた。
「宮廷に行っても楽に」
「ではロシア殿もどうぞ」
「宮廷に」
「既に同志達をこの星の要所に配しています」
 ベラルーシは記者達にこのことを話した。
「ですから私達が蜂起すればです」
「すぐにこの星は解放されますね」
「共有主義に」
「そうなればもう誰も手出しは出来ません」
 ベラルーシは無表情の中にその目を燃え上がらせて語る。
「革命は一日にして成ります」
「夢の様です、まさに」
「我等の望みが一日にして成るとは」
 記者達もベラルーシの話を聞いてその顔を希望で輝かせる。
「では是非共です」
「革命を成功させましょう」
「では皆さん参りましょう」
 ロシア妹が話す。
「革命を果たしに」
「革命万歳」
 ゾルゲがその口元に笑みを浮かべて述べた。
「そして全てはです」
「はい、共有主義の為に」
「カテーリン書記長の為に
 記者達も応える、かくしてだった。
 ゾルゲ達は外国の記者という触れ込みで日本の記者達と共に宮廷に向かう、その時に。
 一人の小柄な和服の少女を連れて来た、記者達はその少女を見て言った。
「いや、同一人物にしか思えません」
「ですが違うのですね」
「この娘は帝ではないですね」
「我が国の」
「違います、この娘もまたです」
 ゾルゲは少女を見て驚きを隠せない記者達に微笑んで話す。
「我等の革命の同志です」
「そうですか、まるで鏡を見ている様です」
「いや、既に宮廷にいる様です」
「まさにそう思えます」
「そこまで似ていると」
「この作戦は必ず成功させねばなりませんので」
 だからだというのだ。
「何もかもが同じである同志を用意したのです」
「そうでしたか、しかし」
「ソビエトによくいましたね」
「実はまだ日本帝国とソビエトがまだ国交のある時にね」
 ロシアがここで事情を話す。
「宮廷で髪の毛を拾ったんだ」
「髪の毛?」
「髪の毛が何か」
「うん、帝の髪の毛を拾ったんだよ」
「髪の毛で何が出来るのでしょうか」
「一体それは」
 記者達はソビエトがクローン技術を完成させ実用化していることは知らない、それで首を捻ってこうロシアに問うたのである。
「とにかくこの娘はそっくりですが」
「驚くまでに」
「しかし髪の毛とは」
「それは一体」
「それは後で」
 ゾルゲはさりげなく秘密を隠した。
 そのうえでこう記者達に言う。
「それではです」
「はい、とにかく宮廷にですね」
「参りましょう」
 記者達もロシアの言葉が気になったがとりあえずそれはいいとして宮廷に向かった。ゾルゲ達は皇居の門の前まで来た。
 門は檜の造りだ、ベラルーシはそのさして大きくない門を見てこう言った。今はスーツ姿だ。
「いつも思うのですが」
「質素ですか」
「そう思われるのですね」
「はい、小さく質素な門ですね」
 小柄な彼女は門を見上げている、そのうえで記者達に応えているのだ。
「皇居自体も」
「実際に質素です、日本の宮殿は」
「ロマノフと比べますと」
「そうですね。それは確かにですね」
「しかし君主です」
 ゾルゲはこのことから皇室を否定して言うのだった。
「ですから何としても帝も否定しなければ」
「そうしなければなりませんね」
「必ず」
「はい、それでは」
 こう話してだった、ゾルゲ達は記者の顔に戻った。
 そして衛兵達に何食わぬ顔で話した、そしてであった。
 門を開けてもらい中に入る、庭も見事に手入れされているがやはり質素だ。
 そして宮殿もだ、ロマノフの別荘よりも遥かに簡素でしかも贅沢さは全くない。
 ただ清潔で細部まで手入れが行き届いている、ゾルゲは檜のその宮殿の中を進みつつこうロシアに述べた。記者達はなん吃取材に来ているので宮廷でも知られ取材の間への道も知っているのだ案内役も置かれない。
「何もありませんね」
「そうだよ、この宮殿はね」
「本当に何もない。そして」
「そして?」
「思った以上に広いです」
 目だけで皇居の隅から隅まで見回しての言葉だ。
「まさに迷宮です」
「迷うね」
「祖国殿はこの宮殿に何度も入られていますが」
「場所は大体わかるよ」
「ですが帝のいる場所は」
「寝室とか?」
「そこはご存知でしょうか」
 右隣にいるロシアに目を向けて小声で問う、
「若しくは彼女のいそうな場所の所在は」
「そこだね、実はね」
「そうですか」
「宮廷の奥に入られるのは柴神様と日本君の兄妹だけだよ」
「ではです」
 ゾルゲは話をj聞いてすぐにだった、まさに一瞬だった。 
 周りに彼等以外誰もいないことを見回してから変装した、白い軍服の日本になってみせたのである。
 そして彼はベラルーシにもこう囁いた。
「お願いできますか」
「日本の妹に変装するのですね」
「はい、私達がこの国の祖国達に変装すればです」
「宮廷の奥にまで入られますね」
「そして帝を拉致してです」
「この娘を使うんだね」
 ロシアは今は記者に化けさせている少女を見て言う。
「そうだね」
「帝は拉致して別室に監禁しましょう」
「そうだね、ではね」
 ロシアはゾルゲの言葉に頷く、そしてだった。
 ベラルーシも一瞬にして日本妹に化けた、そのうえでロシア達と別れ女官達にこう問うたのである。
「あの、申し訳ありませんが」
 ゾルゲは声も日本のものを真似て問う。
「帝にお話したいことがありまして」
「帝の場所まで案内して頂けるでしょうか」
 こう女官達に言うのだ、ベラルーシも声を日本妹のそれにさせている。
「危急の様です」
「ですから」
「帝の御前にですか」
 だがここでだ、話を聞いた女官は怪訝な顔で二人に問うた。
「そこにですか」
「はい、そうですが」
「宜しいでしょうか」
「祖国殿も妹殿もお聞きにならずとも」
 それでもだというのだ。
「帝のおられる場所はわかるのでは」
「あっ、それは」
 ゾルゲは日本のこのことまでは知らなかった、それで内心ひやっとした。しかし工作においてはこうしたことも日常茶飯事だ。
 それで冷静な顔でこう返したのである。
「ご不浄におられては失礼ですね」
「お気遣いですか」
「はい、それで今はです」
「その力を使われるにですか」
「お聞きしたいのです」
 あえてそうしているということにしたのである、そして女官も日本、実はゾルゲのその話を信じた。やはり自身の祖国と思うからだ。
「わかりました、それでは」
「案内して頂けますね」
「こちらです」
 女官はにこりと笑って二人を宮廷の奥、内廷にまで案内した。そしてそこで、であった。
 帝の前に案内された、しかし帝はすぐにわかった。
 変装しているゾルゲ達を見てはっとした顔で言った。
「!?貴方達は祖国さん達ではありませんね」
「えっ、まさか」
 案内した女官も帝の言葉に青い顔になる。
「その様なことは」
「いえ、間違いありません」
 女官に対して強張った顔で答える、既に身構えてもいる。
「この人達は祖国さんでも妹さんでもありません」
「では一体」
「わかりません、ですが」
 日本達ではない、それは確かだというのだ。
 そしてゾルゲ達もだ、ここでだった。
 変装を解いた、変装に使う覆面を一瞬で脱ぎ捨てると服もそれと共に派手に脱ぎ捨てられた。そして正体を表わして言うのだ。
「ソビエト軍諜報部大佐ゾルゲです」
「ソビエト国家の一つベラルーシです」
「日本の帝ですね、それでは」
「暫くの間失礼します」
 こう言ってそしてだった。
 女官の後ろに回ってその首の後ろを手刀で打ち気絶させる、そして帝の後ろにも影の様に近付いた。
 宮廷の中は瞬く間にロシア達に押さえられた、彼等の目指す革命の第一段階は成功した。
 その占拠した宮廷の中でだ、ゾルゲはロシアに言った。
「では次はです」
「うん、テレビ局に行ってだね」
「この娘に宣言してもらいましょう」
 その少女を見て言うのだった。
「それでは」
「それで革命は完成するね」
「ところで帝はどうしたのですか?」
 ロシア妹がゾルゲに彼女の現状を尋ねる。
「やはり宮廷の奥にですか」
「はい、縛ってはいますが」
 だがそれでもだというのだ。
「何もしていません」
「そうですか」
「カテーリン書記長も帝に乱暴なことはするなと仰っていました」
 カテーリンの命令もあってだというのだ。
「帝は書記長御自身で再教育されたいとのことなので」
「だから命まではですか」
「手荒なこともしていません、ご安心下さい」
「わかりました」
「寝室で休んでもらっています」
 ゾルゲはその居場所のことも話した。
「では今は」
「はい、それではテレビ局に」
 ゾルゲ達は占拠したl宮廷を後にしてテレビ局に向かった、それと入れ替わりに宮廷には同志であるソビエトから来た工作員達を呼んだ。
 既に宮廷の女官も衛兵達も全て拘束されている、しかし。
 一人だけ気配を、ゾルゲにすら悟られないまでに隠している女がいた。彼女はゾルゲ達が宮廷から去ったのを見てそっとその宮廷を出た。
 そのうえですぐに携帯に連絡をした、出たのは。
「私だが」
「すぐにこちらに来て頂けますjか」
 女は携帯の相手に話す。
「そこからラーゲリに行きたいのですが」
「危急の様だな」
「まさに危急です、我が国の危機です」
「どういった危機だ」
「それは後で。ただ今この星で何かをする力はもうありません」
 だからだというのだ。
「ラーゲリで山下長官達のお力を借りたいのです」
「わかった、ではだ」
 携帯の向こうにいる者も応えた、そしてだった。
 ラーゲリにいる者達はテレビの緊急放送を聞いて唖然となった、何とだ。
「なっ、帝が!?」
「おい、嘘だろ」
「停戦!?講和!?」
 帝がテレビで言っているのだ。
「我が国はソビエトと停戦し講和します」
「おいおい、そんな話聞いてねえよ」
「というか何で外相を通じてじゃないんだ?」
「わしも今はじめて聞いたぞ」
 実際にだ、宇垣も唖然として言う。
「ソビエトとの講和なぞ」
「そうですよね、やっぱり」
「外相も御存知ないですよね」
「というか外相も御存知ないとは」
「帝が御自ら外交をされるなどととは」
「そんなことはかつてなかった」
 宇垣もそれは否定する。
「建国以来一度もな」
「ですよね、しかも日本がソビエトと講和したら」
「今は枢軸の盟主なのに」
「他の国も、あの」
「戦えないですよ」
「ああ、その通りだ」
 ガメリカ大統領であるダグラスも蝋梅を隠せない顔だ。
「ガメリカも戦えない」
「うちもよ」
 ランファもかなり焦っている。
「あの、こんなことされたら」
「はい、中帝国もソビエトと戦えなくなります」
 リンファも言う。
「これは」
「日本がソビエトと講和したならガメリカも講和するしかないわ」
 ガメリカ国務長官、ガメリカの外交を担うハンナの言葉だ。
「もうね」
「うちもよ、というか枢軸の全ての国がでしょ」
 今度はインド首相に就任しているクリオネが慌てふためきながら話す。
「ちょっと、こんなこと急に言われたら困るわよ」
「クリオネさん、落ち着いて下さい」
「落ち着ける筈ないでしょ、これは」
 止めようとするサフランにこう返す始末だった。
「停戦とか講和って、しかも相手はソビエトよ」
「本当に急ですね」
「どうなるのよ、一体」
 そしてどうなるかもだ、帝は言った。
「私は退位し共有主義国家となることも宣言します」
「えっ、何だって!?」
「帝が退位!?」
「おい、今度はそれかよ」
「何でそうなる!?」
「しかも日本が共有主義って」
「日本がそんなこと言ったら」
 ここでも日本が枢軸の盟主であることが影響するのだった。
「あの、もう」
「それこそ枢軸、太平洋全体が赤化するのに」
「ちょっとないでしょ」
「どうしてそうなるんだよ」
「これは幾ら何でも有り得ません」
 日本軍、いや枢軸軍の中で最も冷静な筈の秋山もこう言う。
「帝がこの様なことを仰るなぞ」
「そうだな、俺もそう思うが」
 だが、だと。東郷もいささか狼狽している。
「しかし帝が仰っている」
「それならですか」
「事実上枢軸はソビエトと講和してだ」
「共有主義国家になりますか」
「今からな、そうなる」
「そんなことが有り得るのですか」
 秋山も唖然となっている、だが聖断は覆らない。
 枢軸諸国の誰もが目が点になり呆然となってしまった、しかしここで。
 柴神が妙齢の艶やかな美女を連れて彼等の前に来た、そしてこう言ったのである。
「いや、あれは帝ではない」
「えっ、柴神様」
「どうしてここに」
「彼女から話は聞いた」
 柴神はその美女に顔を向けて言う。
「女官長にな」
「えっ、女官長!?」
「女官長っていうと」
「そうだ、女官長のハル殿だ」
 柴神はこのことにも驚く一同に話す。
「彼女がな」
「あのとんがり眼鏡でおばさんカットのあの人が」
「素顔はこんな綺麗なんですか」
「あの、髪の毛も波立っていて色っぽいんですが」
「この人がですか」
「私の容姿のことはいいでしょう」
 ハルは恥ずかしそうに返す。
「とにかく今はです」
「そう、それですぞ」
 宇垣が真っ先に強張った顔で言う。
「帝のことですが」
「ソビエトの工作員が皇居に侵入してきました」
「何と、皇居に」
「いや、それは有り得ます」
 驚く宇垣に山下が言う。
「それも」
「そうか、マスコミ関係者か」
「以前より我が国には知識人に共有主義のシンパが多くいました」
「その彼等が手引きしましたか」
「夕日新聞等は警戒していましたが」
「おそらくその新聞です」
 ハルも山下に応えて言う。
「あの新聞社の記者と共に皇居に入り」
「くっ、取材で宮廷に入りそこからか」
「迂闊だった、警備が手薄だったか」
「祖国殿に変装していました」
 ハルはさらに話す。
「それで帝の御前に来まして」
「私にですか」
「完璧な変装でした」
 それこそハルですら見抜けないまでにだったのだ。
「恐ろしいまでに完璧でした」
「えっ、日本さんに完璧に変装したって?」
 ハニートラップはそれを聞いて目を顰めさせて言った。
「それあいつよね」
「御存知ですか」
「ビッグ=ゾルゲよね。ソビエトの工作員の」
「銀髪で背の高い男でした」
「間違いないわ、それゾルゲよ」
 こうハルに話す。
「ソビエトのスーパーエージェント、天才スパイよ」
「そこまでの者だったのですか」
「あいつはね、やばいわよ」
「確かにかなりの手練でしたが」
「実は私も彼に接触しまして」
 ここでもリンファが話す。
「それで共有主義になりました」
「そうだったのですか」
「はい、常に神出鬼没で私の前に現れてきました」
「あいつは何時か消そうと思ってたんだよ」
 今度はがメリカ軍諜報部出身のキャヌホークが話す。
「ガメリカとしてもね」
「ソビエトの工作部隊の中でも最も危険な人物だったからね」
「あいつだけはってなってたのよ」
 ハンナとキャロルも言う、ガメリカの外交と軍事を担う二人もだ。
「それでソビエトと開戦の折にはね」
「そう考えていたけれど」
「成り行きが混乱していて話せないでいたのよ」
「それがこんなことになるなんてね」
「いえ、ガメリカのせいではないです」
 宇垣は申し訳なさそうに言う二人にこう返した。
「相手があまりにも、そして我が国の不穏分子共が」
「そうです、私達の不始末です」
 ハルもその整った唇を噛んで述べる。
「こうなってしまったことは」
「元々皇居の警護は緩やかでした」
 山下も話す。
「衛兵はいましたが」
「女官達も皆それなり以上の鍛錬は積んでいました」
 帝の警護も兼ねるからだ、ハル自身実は山下に匹敵する武道の達人である。
「ですが」
「相手が悪過ぎたのよ」
 ハニートラップは顔を俯けるハルに述べた。
「ゾルゲじゃねえ」
「あいつは超人なんだよ、まさにね」 
 キャヌホークも再び話す。
「身体能力も化物だから」
「変装もどんな人間にでも化けられるんだよ」
「そうした相手でしたか」
「そう、だからね」
「あいつにやられても仕方ないよ」
 二人でハルに話す。
「むしろシンパの新聞社の方がまずいわよ」
「あの連中は何とかしないといけないよ」
 この事件の後の話もする二人だった。
「とにかく今はね」
「これからどうするかだよ」
「それなら私に任せてくれ」
 柴神がここで名乗り出て来た。
「おそらく惑星全体にソビエトの工作員なりシンパなりが蜂起しているだろう」
「はい、その様です」
 日本妹が柴神に話してきた。
「今日本星域の主惑星である都は各地でソビエト工作員と国内の共有主義者達が蜂起し占領されようとしています」
「そうか、やはりな」
「それで帝は」
「御無事です」
 ハルがすぐに答えた、このことについては。
「皇居の帝のご寝室に縛られてはいるそうでうsが」
「それでもですか」
「はい、御無事です」
「それは何よりです。ですが」
 それでもだとだ、日本妹は帝の無事を聞いてとりあえずは安堵したが深刻さはそのままにして言うのだった。
「この状況では」
「そうだ、何とかしなければならない」
 柴神も言う。
「ここはな」
「具体的にはどうされますか?」
「私と祖国殿ならばすぐに日本に入られる」
 国家、そして神だからだ。自分達の国には何時でも何処でも瞬時に行き来出来る。
 それでだ、こう言ったのである。
「すぐに中に入り帝を救出しソビエトの工作を潰す」
「それでは今からですね」
「精鋭を送り込みましょう」
 日本兄妹が柴神のその提案に応えそうしてだった。
 早速日本に潜入するメンバーが選ばれる、まずはこの三人に。
「私も行きます」
「私もです」
 山下とハルが名乗りを挙げた。
「こうしたことなら陸軍にお任せを」
「宮廷のことは隅から隅まで知っていますので」
「すぐにです」
「帝をお救いしましょう」
「俺も行きます」
 東郷も名乗り出た。
「この状況は一刻も早く終わらせなければならないですから」
「貴様は武芸は」
「利古里ちゃん程じゃないがな」
 だがそれでもだというのだ。
「射撃には自信がある」
「そうか、それではだ」
「後はあたしね」
「俺も行かせてもらうよ」
 諜報部出身のハニートラップとキャヌホークも名乗り出る。
「これでも身体柔らかいし拳法の達人だから」
「マーシャルアーツなら誰にも負けないよ」
「よし、じゃあ僕もだ」
「僕も行くあるよ」
 二人の祖国であるアメリカと中国も名乗り出て来た。
「大変な戦いになりそうだけれどな」
「やらせてもらうある」
「それと陸軍の精鋭ですね」
 山下が再びここで柴神に話す。
「ソビエトの工作部隊がどれだけいるかわかりませんが」
「そうだな、彼等にも来てもらう」
 柴神も山下の言葉を入れて頷く。
「それにだ」
「それにとは」
「明石大佐、いるだろうか」
「ここに」
 瞬時にだった、柴神の後ろに明石が出て来て答えて来た。
「迂闊でした、まさかソビエトがああしてくるとは」
「その話はいい、ソビエトが凄過ぎた」
 だから不問に付すというのだ、これはハルや他の女官達についてもである。
「それよりもだ」
「はい、それでは」
「君にも来てもらう」
 明石には自ら誘う。
「ゾルゲ大佐に対抗出来るのは君だけだ」
「それでは」
「うむ、頼むぞ」
「わかりました」
 こう話してそうしてだった。
 都に潜入し帝と星を奪還する部隊が集められた。そして彼等はすぐに惑星に入ることになった。
 その時都では柴神達の予想通りの事態になっていた。
 各地で工作員達とシンパの者達が蜂起していた、それに加えて。
「イーーーーーーーーッ!!」
「な、何だこの連中は!?」
「ソビエトの工作員か!?違う!」
「シンパでもないぞ!」
 全身暗い色のタイツで怪しい覆面までしている、正体は不明だ。
 だが常人以上の身体能力で暴れ回る、そしてその中心には。
 灰色の短い髪に白い羽根が頭から生えて狐のそれに似た耳を持っている少女がいた、顔立ちは幼いが鼻は程よい高さで口も小さめである。顎の形もいい、目は赤紫の可愛い感じだ。
 服は白と紅の巫女のものだ、その少女が率先して陸軍近衛兵の将兵達と戦っていた。
「この娘は一体」
「何者だ?」
「かなり強いぞ」
「明らかに普通の人間ではないが」
「何なのだ」
「さあ、皆早いうちにやっちゃおう」
 その少女がタイツの者達に話す。
「それじゃあね」
「イーーーーーーッ!!」
「くっ、強い!」
「このままでは都が!」
 都を守る近衛兵達も苦戦していた、都全体が瞬く間に制圧されようとしていた。
 しかしこのタイミングでだった、柴神達がj都に来たのだった。
 丁度彼等の前でソビエト軍の一味と思われている謎の一団が近衛兵達と戦っていた、ハニートラップはその中で巫女服の少女を見て言った。
「あれ何?ソビエトの奴ってのはわかるけれど」
「あからさまに怪しいね、あれは」
「というか色々入ってるわね」
「そうだなあ、巫女に狐にエンジェルかい?」
 キャヌホークもその謎の少女を見ながら首を捻る。
「ごちゃ混ぜだな」
「あれね、ウナギちゃんと一緒で」
「色々と入れたクローン人間だな」
「周りにいる戦闘員もそうみたいね」
「殆ど特撮じゃないか」
 二人でこう話す、そしてだった。
 東郷がここでこう柴神に話した。
「あの謎の一団も気になりますが」
「うむ、帝を救出しなければな」
「はい、どうすべきでしょうか」
「惑星全体のことはだ」
 柴神は山下に顔を向けて彼女に告げた。
「山下長官に任せたいが」
「はい」
 山下はすぐに陸軍の敬礼で応えた。
「それでは工作員やシンパの鎮圧は私が精鋭部隊と近衛兵を率いて行います」
「頼む、そしてだ」 
 柴神は今度はその謎の一団を見て言う。
「あの一団だが」
「戦闘員位ならあたしとデヴィットで何とかなるわよ」
 ハニートラップが名乗り出て来た。
「あれ位の強さならね」
「うん、さっきも言ったけれど俺達は格闘術も出来るからね」
「あの訳のわからない巫女以外はね」
「何とかしてみせるさ」
「では戦闘員達は頼む」
「じゃあそれでね」
「やらせてもらうよ」
「あの訳のわからない巫女だが」
 戦闘員達はどうにかなっても問題は驚異的な戦闘力で暴れる彼女だった、今も柴神の目の前で近衛兵達を何人も片手で投げ飛ばしている。
「あの娘の相手は」
「私が行きます」
 日本妹が名乗り出る、既にその手には刀がある。
「それで宜しいでしょうか」
「頼む、それではな」
 柴神も日本妹の名乗りを受けた、そしてだった。
 山下はすぐに自ら陣頭に立ち陸軍全体の采配に当たった、刀を抜きソビエトの工作員達を次々と倒しつつだった。
「都を奪わせるな!いいな!」
「はい!」」
「わかりました!」
 押されていた近衛兵達も彼等の長官が来て士気を取り戻した。そして山下の堅実で無駄がなくそれでいて勇敢な采配によって。
 都は落ち着きを取り戻し工作員達を押しだした、戦闘員達も。
 ハニートラップは右足を軸にして左の回し蹴りを放った、それで戦闘員達をまとめて吹き飛ばしていた。
 キャヌホークは拳を次々と繰り出し倒している、戦闘員達は二人により倒されていた。
「結構強いけれどね」
「俺達なら何とかなるな」
「ええ、とりあえず雑魚はね」
「二人で始末してな」
 そしてだというのだ。
「後はね」
「あの変な巫女だけれど」
 見れば日本妹ともう闘っている、日本妹は刀で向かうが。
 巫女は素早い身のこなしと格闘術で闘う、そのうえでこう言うのだ。
「あっ、あんた強いね」
「くっ、この娘やはり」
「私と互角にやれるなんてね」
「普通の娘ではありませんね」
「そう、私クローン人間なんだ」
 その通りだとだ、少女も言う。
「ソビエトのね」
「そうですか」
「名前はリョウコ=バンラーっていってね」 
 名前も名乗る。
「ソビエト軍工作部隊にいるよ」
「では今この都にいるのjは」
「この星を占領する為よ」
 まさにその為だというのだ。
「そしてこの国を共有主義にするのよ」
「そうはさせません」
 日本妹は強い声でリョウコに返した。
「私は貴女を止めます」
「言うね、けれどあんた確かに強いしね」
「ここは何としても」
 居合の要領で抜き切るがリョウコはひらりと返す、そしてだった。
 二人の死闘も続く、クローン人間達との戦いも行われていた。
 東郷と柴神達は皇居に向かう、その正門の前に行くとそこにはソビエト軍の軍服の者達が大勢集まっていた。
 その彼等を見てだ、ハルは瞬時に怒りを露わにして。
 彼等が自分達に気付き銃を向けてくる前にだ、彼等に接近し。
 素手の格闘で叩きのめした、そのうえですぐさま閉じられている筈の門を。
 まずは上に跳び門自体を跳び越えその裏手から開けて向こう側から言うのだった。
「さあ、どうぞ」
「あの、女官長」
 日本はメイド服姿で開けられた門の中で仁王立ちするハルに呆然とした顔で問うた。
「今何を」
「何かありますか?」
「ソビエト軍の兵達を瞬く間に倒し」
 そしてだった。
「門を跳び越えられましたが」
「それが何か」
 ハルは何でもない口調で呆然となっている日本に返す。
「一体」
「格闘術を身につけられているそうですが」
「山下長官程ではありませんが」
「それで、ですか」
「長官もこの程度出来ます」
 山下もだというのだ。
「あの方は気まで使えるではないですか」
「それはそうですが」
「この程度驚くには値しません、では行きましょう」
「わかりました」
「寝室の場所は目を閉じてもわかります」
 そこまでよく知っているというのだ。
「では」
「はい、それでは」
 こう話してそのうえでだった、一行は皇居の中に入った。
 ソビエトの工作員達もいたが全てだった。
 全員倒していくそのうえで寝室まで向かう、だがその前の部屋に。
 ゾルゲがいた、そして。
「ロシアもいるじゃないか!」
「ベラルーシもいるあるな!」
 アメリカと中国はゾルゲと共にいる彼等の姿を見て声をあげた。
「これは手強いぞ」
「この面々がいるとなるとある」
「妹さんもおられますね」
 日本はロシア妹を見て言う。
「ではこの方々は」
「あっ、ここは日本君の星だからね」
 ソビエト側の国家達の中心にいるロシアが微笑んで彼の妹とベラルーシに対して語るのだった。
「日本君の相手は僕でいいかな」
「はい、それでは」
「日本さんについてはお兄様にお任せします」
 二人もこう答える。
「では宜しくお願いします」
「私達は別の方の相手をしますので」
「じゃあ女の子の相手は気が引けるがな」
「御前達は僕達が相手をするある」
 アメリカと中国はそれぞれロシア妹とベラルーシを見据えながら構えに入った。
 国家同士の戦いもはじまった、そして。
 東郷はゾルゲを見ていた、スーツ姿で不敵な笑みを浮かべて立っている。
 その彼を見つつだ、東郷は柴神に対して言った。
「この男の相手ですが」
「私達では無理だな」
「はい、かなりの強さです」
 だからだというのだ。
「ですから」
「わかっている、この男の相手はだ」
「私が務めましょう」
 明石がここで名乗り出る。
「その為にお呼び頂いたのですから」
「頼めるな」
「はい、それでは」
「では私達の相手はだ」
 柴神は周りを見る、そこには。
 ソビエトの工作員達がぞろぞろと集まっていた、その彼等を見ながら東郷とハルに対してこう言ったのである。
「彼等の相手だ」
「はい、それでは」
「彼等を倒し」
 そしてだというのだ。
「帝をお救いしましょう」
「是非共」
「いいか、私達の誰かが生き残ればだ」
 それでだというのだ。
「その者が帝を救出する」
「そういうことですね」
「それでは」
 こう話して早速だった、三人が工作員達の相手をした。 
 その中にはあの記者達もいた、柴神は自分に向かって来た彼等と戦いながら問うた。
「聞こう」
「くっ、何をだ」
「一体何を聞くつもりだ」
「何故国を売った」
 彼が問うのはこのことだった。
「国をソビエトに売った」
「売ったのではない」
「我々は国を売ってはいない」
 彼等はこのことはムキになった顔で否定した。
「我々はそんなことはしない」
「これは革命だ」
「革命か」
「そうだ、これは革命だ」
「それ以外の何者でもない」
 彼等は柴神に向かいつつ必死に自己弁護をする、
「そんなことは絶対にだ」
「したりはしない」
「革命か」
 記者達は特殊警棒やスタンガンで闘う、その相手をしながらのやり取りだった。
「この国を共有主義にする、か」
「そうだ、共有主義こそが人類を幸せにするのだ」
「理想社会にするのだ」
「理想社会か」
 その言葉に柴神は目を顰めさせた、そのうえで。
 彼等の攻撃をその手で防ぎながら言う。
「そんなものがあるのか」
「ある!」
「貧富も階級もない社会がある!」
「共有主義こそその社会だ!」
「矛盾も汚れもない社会が共有主義だ!」
「そんな社会は何処にもない」
 柴神は格闘技、接近戦のそれの要領で彼等の攻撃を受けながら言っていく。
「この世の何処にもな」
「くっ、共有主義を否定するのか」
「我々の崇高な思想を」
「同志カテーリン書記長のお考えを」
「全ての者が平等である世界の実現を」
「では何故だ」
 柴神はまた言う。
「そのカテーリンという娘を崇拝している」
「何っ、崇拝だと」
「我々のこれを崇拝だというのか」
「そうだ、崇拝だ」
 それ以外の何でもないというのだ。。
「御前はカテーリンの言葉を絶対としているな」
「同志書記長を呼び捨てにするな!」
「無礼だぞ!」
 彼等は気付かないうちにその崇拝を語った、攻撃を防がれ続けながら。
「如何に神であろうと許せん!」
「そうだ、それに共有主義ではもう神は必要ない!」
「崇拝する対象がいないからだ!」
「これからは共有主義だけを信じて生きる!」
「それこそが理想だ!」
「この世に絶対のものはない」
 柴神は彼等の言葉を再び否定した。
「何があってもな」
「共有主義は絶対だ!」
「この世で唯一の絶対のものだ!」
「カテーリンが言うことだからか。それこそがだ」
 カテーリンの言葉を盲信する、それ自体がだと指摘する。
 そのことを告げてそれからだった。
 柴神は反撃に出た、一気に蹴りや拳を繰り出して記者達を倒した。そのうえで気を失った彼等を見下ろしながら言うのだった。
「矛盾も何もない社会なぞ存在いない、絶対にな」
 そのことを誰よりも知っているからこその言葉だった、その言葉を今この場で言ったのである。
 戦いはまだ続く、ソビエトの仕掛ける戦いは枢軸諸国を苦しめ続けるのだった。


TURN102   完


                          2013・4・12



ソビエトの策が遂に発動。
美姫 「流石に前線は混乱状態になるわよね」
とは言え、柴神様の言葉もあってすぐに収まったけれどな。
美姫 「すぐさま反撃に転じたけれど、流石に同時に進軍って訳にもいかないものね」
無事に片付けても時間的なロスは出てしまうだろうな。
美姫 「どうなるかしらね。気になる次回は……」
この後すぐ。



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