『ヘタリア大帝国』




                          TURN7  捕虜の処遇と処罰

 北京を占領した日本帝国軍はそれで動きを止めなかった。
 東郷はすぐに無傷の艦隊を西安に送った。そのうえでだ。
「本国にいる治安担当の艦隊をだ」
「すぐに北京と西安にですね」
「送る。そうしよう」
「畏まりました。それでは」
 日本が東郷の言葉に応える。かくしてだ。
 治安担当艦隊も動かされた。だがこれで終わりではなかった。
 東郷は今度はだ。こう日本と秋山に話した。
「後は南京だが」
「はい、このままですね」
「落ち着いてから南京攻略ですね」
「いや、損害を受けている艦隊は一旦本国に戻して修理させる」
 そうさせるというのだ。
「あとこの北京にも修理工場はあったな」
「はい、採掘場も」
「複数置けるのは有り難いな」
「そこで損害の大きくない艦隊を修理してですね」
「損害の大きな艦隊は日本星域の大修理工場に送る」
 そこにだとだ。東郷は日本に述べる。
「そしてそのうえでだ」
「どうされるのでしょうか」
「台湾経由で香港、マカオに向ける」
 そうするというのだった。
「そこの指揮は山本の爺さんに任せたい」
「山本さんをですか」
「そしてそこからも南京を攻めたいな」
「香港方面からですね」
「マカオの攻略も同時に進めてな」
「わかりました。それでは」
「さて、南京までにやるべきことをやっておこう」
 治安回復に他星域の攻略、それにだった。
「後はだ」
「その後は」
「樋口豪欲提督だが」
 東郷が彼の名前を出すとだ。すぐにだった。
 秋山が顔を顰めさせてだ。東郷と日本にこう言ってきた。
「信じられないことにだ」
「我が国に戻ってきたな」
「しかも提督としてですね」
「碌でもない者には碌でもない仲間がいます」
 秋山は顔を顰めさせて述べた。
「そしてそのうえで、です」
「その人脈を使って我が国に戻ってきたか」
「そうしてきました」
「いてもな。同じことを繰り返すからな」
 東郷はその目に珍しく嫌悪を浮かべて述べた。
「だからだ。あの男はだ」
「処罰しますか」
「出来ればその碌でもない面々も何とかしたいな」
 東郷は秋山のその嫌悪の色を浮かべる目を見ながら述べた。
「だからだ。頼めるか」
「はい、お任せ下さい」
 秋山は即座に東郷に答えた。
「憲兵隊から確かな証拠は既に聞いています」
「ではその証拠を出してか」
「樋口とその一派を一掃します」
 秋山は即座に東郷に述べた。
「そうさせてもらって宜しいでしょうか」
「頼む。腐った林檎は置いておくとだ」
「他の林檎を腐らせてしまうからですね」
「腐った林檎かどうか見分けるのも人として大事だが」
 こうも言っていく東郷だった。
「はっきりわかる腐った林檎はすぐにどけよう」
「そしてそれが樋口ですね」
「そういうことだ。ではあの男は任せた」
「では」
 秋山は完璧な海軍のその肘を畳んだ敬礼で東郷に応えた。そうしてだ。
 東郷は秋山から日本に視線を移してだ。今度はこう言ったのだった。
「それで前の戦いの敵の指揮官リンファ提督だが」
「あの方ですか」
「生きているらしいな」
「はい、乗艦は大破しましたが」
 それでもだとだ。日本は東郷に話す。
「ご自身は御無事でした」
「そうだな。それだとな」
「どうされますか、あの方は」
「少し話がしたい」
 こう日本に言うのだった。
「祖国さんもついて来てくれるか」
「私もですか」
「ああ。祖国さんもいると俺が誤解されなくて済む」
 秋山をちらりと見てだ。微笑みもする東郷だった。
「だからだ。お願いできるか」
「誤解ではないと思いますが」
 秋山も東郷にすぐに言い返す。
「長官の場合は」
「やれやれ。信用がないな」
「信用していないのではなく確信しているのです」
「確信だったのか」
「そうです。長官はこと女性についてはです」
 秋山は東郷を咎める目で見ている。そのうえでの言葉だった。
「あまりにも非常識ですから」
「俺は非常識だったのか」
「ですがら女性についてはです」
 秋山はさらに言う。
「そもそもこれまでの交際相手は何人ですか」
「一度限りの相手も含めてか」
「はい、何人おられましたか」
「千人はいるな」 
 実に素っ気無く答える東郷だった。
「だがその恋人達が色々と働きかけてだ」
「それによって軍事に関する建造費や開発費がですね」
「二割はましになっているのだが」
「それはあくまでその結果です。過程が問題です」
「軍人は結果が全てじゃなかったのか?」
「女性問題は軍事とはまた別です」
 秋山は尚も言う。
「女性問題は軍事とは関係がありますか?」
「ははは、これは手厳しいな」
「当然です。全く、祖国様からも何か言って下さい」
「えっ、私がですか?」
「そうです。祖国様は長官にどう思われますか」
「まあ。無理強いや不倫でなければ」
「既に長官は結婚しておられますが」
 秋山はこのことを指摘する。
「それでもですか」
「ですが奥方は亡くなられていますね」
「それはその通りですが」
「ではいいのでは」
「全く。祖国様は優し過ぎます」
 とはいってもだった。秋山は日本にはこれ以上言わなかった。だが東郷にはまた言うのだった。
「とにかくです。女性とはいえ捕虜ですから」
「条約に反する様なことはするな、というんだな」
「間違っても手を出されたりしない様にお願いします」
「ははは、祖国さんがいる傍でそういうことはしないさ」
「どうでしょうか。何はともあれです」
「ああ、ちょっと行って来る」
「中帝国の情報を聞き出して下さい」
 そんな話をしてだった。東郷は日本と共にリンファが入れられている捕虜用の部屋に向かった。そこはまさに来賓席の如き場所だった。
 その部屋の入り口にいる将校、海軍の軍服の彼が辟易してだ。東郷と日本に言って来た。
「あっ、長官。それに祖国様も」
「リンファ提督はこの部屋か」
「はい、そうなのですが」
「何かあったみたいだな」
「そうです。とにかく紅い本を出してきて私に色々と言って来て」
「マルクスだな」
 紅い本と聞いてだ。東郷はすぐに察して言った。
「あの本か」
「はい、それを出して来て共有主義をしきりに勧めてきまして」
「予想通りですね」
 日本はその将校の話を聞いて眉を顰めさせて言った。
「共有主義の勧誘にかかってきましたか」
「そうだな。しかしここはだ」
「はい、共有主義についてですか」
「俺が引き受ける」
 東郷が日本と将校に対して言う。
「そうしてもらっていいだろうか」
「私も協力させてもらっていいでしょうか」
「祖国さんもか」
「はい、二人でリンファさんとお話しましょう」
 日本は切実な顔で日本に話す。
「ここは是非」
「実は祖国さんの力も借りたかった」
 東郷はここで本音を述べた。
「共有主義が我が国に入ると危険このうえないからな」
「そうですね。だからこそ」
「処刑なんかしたら相手と同じだ」
 ソビエトと、だというのだ。
「だから避けたいしな」
「そうですね。そうしたことはあまり」
 日本も好まない。それで東郷に応えて述べるのだった。
「よくはありません」
「なら二人でだ」
「共有主義の危険性についてお話しますか」
「その根拠となるものも多いからな」
「では」
 部屋の扉の前で二人頷き合いそのうえでだ。二人はその部屋に入った。するとリンファはすぐにだ。二人のところに来て切実な顔でこう言って来た。
「あの、実はですね」
「ああ。君に話したいことがある」
「少し宜しいでしょうか」
 東郷と日本はそのリンファにソビエトの実態を話しはじめた。
「ソビエトにあるのは弾圧だ」
「階級がなくともです」
「革命の敵とみなされればそれで終わりだ」
「容赦なく収容所に送られます」
「収容所?」
 そう言われてもだ。リンファはだ。
 怪訝な顔になりそのうえでだ。首を傾げさせてこう言うだけだった。
「ソビエトにそんなものはありませんが。それにです」
「それにとは?」
「ソビエトは階級も貧富もない理想の国ですよ」 
 実に無邪気な感じでの言葉だった。
「そのソビエトにどうして収容所があるのでしょうか」
「どうやら純粋にだな」
「その様ですね」
 今三人は部屋のソファーにテーブルを挟んで向かい合って座っている。東郷と日本が向かい合っている。その中でだ。東郷と日本は向かい合って座っている。そこで顔を見合わせてだ。二人は一旦こんな話をした。
「共有主義を完全に信仰しているな」
「そうなっていますね」
「ならここはだ」
「あれを出しましょう」
 二人で話してからだ。そのうえでだ。東郷が数枚の写真を出してきた。
「これを見てくれるか」
「これは?」
「我が国の明石大佐がシベリアの向こうのラーゲリ星域で撮影してくれたものだ」
「あの星域の写真です」
 日本も言う。見ればだ。
 その写真は異様なものだった。雪の荒野で老若男女がスコップやツルハシを手に働かさせられていた。そしてだ。
 それは老人や子供も同じだった。その写真を見てだ。
 リンファは眉を顰めさせてだ。こう言ったのだった。
「あの、これは」
「だからだ。これがラーゲリ星域だ」
「あの場所の現状です」
「何故皆さん雪の中で無理矢理働らかさせられているのですか?」
「さっき言った通りだ。ソビエトに逆らったからだ」
「革命の敵としてシベリアに送られました」
「それで、なのですか」
 リンファの表情が変わってきた。
「革命の敵として」
「君はこのことについてどう思う?」
 東郷はリンファの目を見て問うた。
「思想信条の違いで弾圧するのは」
「それは」
「それは中帝国にもあると思うが」
「かつてはありました」
 自国のことだ。否定できなかった。
「我が中帝国は満州民族の方が万歳爺ですので」
「しかし君は漢民族だな」
「はい、そうです」
 つまり被支配民族だというのだ。それがリンファの立場だった。
「ただ。漢民族でも私やランファの様に高官にはなれますが」
「数が違いますね」
 日本はここで数の話をした。
「満州民族と漢民族では」
「実際に満州民族は漢民族にかなり気を使っている」
 東郷は中帝国のそうしたところを指摘した。
「漢民族の多さを意識して政治を行ってきている」
「今の王朝になって以来ですね」
「それに漢民族の文化にも積極的に溶け込んできた」
「その結果皇族の方が完全に漢化している程ですね」
「そうだ。中帝国の中で満州民族はほぼ漢民族と化してきている」
 東郷は日本に話しながらリンファにも説明をした。
「しかしそれでもだ」
「弾圧はありました」
 リンファは確かな顔で小さく頷き東郷の言葉を認めた。
「満州民族についてよからぬ書は発禁にされてきました」
「そして満州民族を批判すればだな」
「はい、牢獄に送られ下手をすれば」
「死罪」
「それもありました」
「そう、中帝国で弾圧は実際にあった」
「私はそれも嫌です」
 リンファは答えた。はっきりと。
「弾圧のない社会に。中帝国をしたく」
「だから共有主義を選んだのか」
「はい、誰もが同じならそれもないと思っています」
「しかし人はそれぞれ違う」
 東郷は落ち着いた声でリンファに話す。
「俺と君が違う様にな」
「国家同士でも違いますし」
 日本もこうリンファに話す。
「私と中国さんでは全く違いますね」
「ですね。それは本当に」
「そういうことです。人も国家もそれぞれ違います」
「では共有主義になったとしても」
「個性は消せません」
 日本ははっきりとだ。リンファに対して答えた。
「むしろ消そうとすればです」
「ラーゲリですか」
「ああなると思います」
「・・・・・・そうですか」
 リンファは俯いた。そのうえでだ。
 暗い顔になりだ。こう答えたのだった。
「やはり。そうなるのですね」
「共有主義は自分達以外の存在を認めない」
 そのイデオロギー自体がだと。東郷は述べた。
「だからこそだ。危険極まる思想なんだ」
「そして中帝国が共有主義になれば」
「今より遥かに酷いことになる」
 東郷は断言した。そうなった場合の中帝国の未来についてだ。彼はそうなることを確信しているが故にだ。リンファに対して断言できたのである。
「想像を絶する監獄国家になってしまう」
「監獄国家・・・・・・」
「君は中帝国をそうしたいのかい?」
「いいえ」
 リンファは蒼白になって東郷の今の問いに首を横に振った。
「私は。誰もが仲良く幸せになれる国にしたくて」
「そうだな。しかし共有主義ではだ」
「それはなりませんか」
「その通りだ。他者を認めないからこそ」
「では」
「そう。すぐに答えを出してくれとは言わない」
 東郷もそれは求めなかった。
「だが。共有主義についてよく考えてみてくれ」
「わかりました。それでは」
「そのうえで君は今後どうするのか」
 東郷は共有主義からリンファ自身について尋ねた。
「そのことを考えてくれるか」
「私は捕虜になりました」
 そこからだ。リンファは東郷に応えた。
「そして捕虜はですね」
「そうだ。国際法で捕虜にした国の軍に入ることになっている」
「そうしなければですね」
「戦争終結まで抑留されることになる」
 これがこの世界での捕虜の決まりだった。
「君はずっと抑留されたいか。なら丁重に扱わせてもらうが」
「いえ、私はです」
 顔を少し上げてだ。リンファは東郷に答えた。
「ソビエトに疑問を持ちました」
「だからか」
「はい。母国とは戦えませんが」
 中帝国、彼女のその国からはというのだ。
「ですがそれでもです」
「戦うことはか」
「防衛の任なら。中帝国以外の国との戦闘ならばです」
「参加してくれるか」
「そうさせて下さい」
 切実な声でだ。リンファは東郷に話す。
「私は捕虜になり。そして共有主義に疑問を持ちましたので」
「そのソビエトの実態を知る為にも」
「ソビエトとも。必要とあらば戦います」 
 今のリンファの言葉も顔もだ。迷いはなかった。
「ですからお願いします」
「わかった。では艦隊を一つ用意しよう」
 リンファの決意を受けたうえでだ。東郷は彼女に答えた。
「そちらの艦艇の他にこちらの第一世代の艦や魚が混ざるがいいか」
「はい、戦えるなら問題はありません」
「よし。では台湾から愛情を受けてな」
 そうして指揮や能力を上昇させてからだというのだ。
「宜しく頼む」
「わかりました。それでは」
 リンファは中帝国の敬礼をしてそのうえでだった。日本帝国軍に入ったのだった。
 リンファは満州方面に配属された。それを受けてだ。東郷は長門の艦橋で秋山の言葉を聞いたのだった。
「リンファ提督は満州とシベリアの国境地帯につかれています」
「そうか。そうしてだな」
「はい、ソビエトへの備えとなられています」
「いいことだ。今の彼女は共有主義には戻らない」
「戻りませんか」
「共有主義のことを知ったからな」
 それ故にだというのだ。
「問題はない」
「では。今は」
「満州は彼女に任せる」 
 東郷は微笑んで秋山に述べた。
「そして我々はだ」
「はい、南京攻略ですね」
「西安はどうなっている」
 東郷はそちらの戦線のことを尋ねた。
「あの場所は」
「無事攻略されました」
 そうなったとだ。秋山は東郷にすぐに答えた。
「あの星域には大した艦隊もいなかったので」
「そうか。それは何よりだ」
「あの、長官」
 ここで長門のモニターに日本妹が出て来た。そのうえで東郷に述べてきた。
「西安は後は治安回復だけです」
「そうか。やってくれたか」
「西安にいる中帝国軍も全て降伏しました」
 彼等もだ。そうなったというのだ。
「彼等はこのままですね」
「ああ。我が軍に組み入れるか捕虜として抑留する」
 そうすると答える東郷だった。
「戦争終結までな」
「わかりました。それでは」
「そして君達だが」
 日本妹に対してだ。東郷は話していく。
「南京攻略戦に参加してくれるか」
「はい」
 一言でだ。日本妹は答えた。
「そうさせてもらいます」
「ただ南京攻略前にだ」
 その前にやるべきことがあるとだ。東郷はこうも述べる。
「香港とマカオだ」
「あの二つの星域をですか」
「そう。攻略しそちらかも南京を攻めたい」
 一方向からではなかった。南京攻略計画は。
「それが終わってからだ」
「南京攻略はですか」
「南京戦で中帝国との戦いはおおよそケリがつく」
 東郷はこう言ったところでその目を鋭くさせた。
「その為にだ。用意はしていく」
「その決戦に勝つ為に」
「そうしたい。ではいいな」
「はい、それでは」
 日本妹は海軍の敬礼で東郷に応えた。かくしてだった。
 西安も手中に収めた日本帝国軍は南京戦に向けて着々と手を打っていた。その南京ではだ。
 仮の宮殿にいるシュウ皇帝がだ。不機嫌そのものの顔でだ。こう中国に言っていた。
「話はわかった」
「そうあるか」
「日本帝国軍は西安も陥落させてだ」
「そしてそのうえで、である」
「香港とマカオにも兵を向けているのだな」
「それで香港とマカオ、その妹達はそちらに戻ったある」
 中国は自国の戦局を上司に話していく。
「それで今ここにいるのは」
「そなたと妹と」
「私だけです」
 ランファだった。彼女も名乗りを挙げてきた。
「そして軍事顧問としてガメリカの」
「あの男か」
 皇帝はその幼さの残る眉を顰めさせて述べた。玉座に不機嫌そうに座りながら。
「デビット=キャヌホークだったな」
「あの方は戦われないそうですが」
「それでも顧問としてだな」
「はい、軍事物資も用意してくれました」
 ランファは明るい顔で皇帝に話していく。
「そのガメリカの艦艇も使ってです」
「そなたが指揮を執るというのだな」
「お任せ下さい」
「よいか、失敗は許されん」
 難しい顔でだ。皇帝はランファに告げる。
「ここで敗れれば我等はだ」
「重慶に逃れるしかありませんね」
「そうだ。だからこそだ」
「我が国は敗れる訳にはいきませんね」
「香港とマカオ達にも伝えておくのだ」
 皇帝は今度は中国に対して告げた。
「日本帝国軍を必ず退けよとは」
「わかったある」
 中国は敬礼をして皇帝に応えた。
「では後で伝えておくある」
「そうするのだ。しかし日本帝国」
 眉をさらに顰めさせ嫌悪さえ浮かべてだ。皇帝はまた言った。
「まさか魚を使うとはな」
「それでその魚がある」
「思いの他強かったです」
 中国とランファはそれぞれ皇帝に述べる。
「まさか。古代のやり方を今してくるとは思わなかったあるが」
「癖はありますがそれぞれかなりの強さで」
「しかも数も多いな」 
 皇帝は魚のその数についても言及した。
「確かにな。戦争は数だ」
「あと。問題はです」
 ランファは話を少し変えてきた。その話はというと。
「日本帝国は北京に西安も手に入れましたので」
「国力がさらに伸びるな」
「新世代の艦艇の開発、製造も進めると思います」
「ふん。今よりさらに強くなるか」
 皇帝は腕を組みだ。顔を顰めさせて述べた。
「面白くない話だな」
「だから南京では絶対にある」
「負けられません」
「わかっている。では正規戦の他にだ」
 それとはまた別にだとだ。皇帝は中国とランファに述べてきた。
「裏からも仕掛けるか」
「ではまたあるか?」
「彼女を使うのですか」
「そうだ。ハニートラップは今北京にいるな」
 皇帝はこの名前、コードネームと思われるそれを出したうえで中国とランファに問うた。
「ではあの女を使いだ」
「北京の軍事基地への破壊工作あるか」
「それをしますか」
「いや、日本帝国軍の急激な向上はどうやら敵将にあるな」
 そこにあるとだ。皇帝は中国とランファの話から見抜いていた。
「それならばだ」
「では敵の司令官をあるか」
「彼女に攻めさせるのですか」
「敵将の一番上にいるとは海軍長官の東郷だったな」
 皇帝はここで彼のことに言及をはじめた。
「それならばだ」
「東郷を、あるか」
「彼女にあのやり方で」
「スキャンダルを仕掛けて失脚させるか動けなくする」
 失脚させられなくともだ。それを狙うというのだ。
「わかったな。女性問題でだ」
「そうしてあるか」
「動けなくさせたうえで」
「日本帝国軍と戦う。そうするぞ」
 こうだ。皇帝は日本帝国軍に仕掛けることを決めたのだった。そうしてだ。
 すぐに北京に隠密裏にだ。連絡がいった。それを受けたのは。
 小柄で肩を覆う位の赤髪を左右でテールにした少女だった。鳶色の目がかなり大きく童顔であり可愛らしい感じだ。
 そのまだ成熟していない感じの肢体を袖のない白いブラウスと黒いひらひらのミニスカートで覆っている。その彼女にランファが通信を入れたのだ。
「ねえハニトラいい?」
「あっ、ランファじゃない」
 自室、北京のアパートの一室のパソコンのモニターを通じてだ。二人は話をはじめた。
「どうしたのよ。命令?」
「そう。万歳爺からね」
 そうだとだ。ランファはこの少女ハニートラップ、通称ハニトラに対して告げた。
「ご命令よ」
「何、破壊工作?」
「ううん、美人局」
 そちらだとだ。ランファは明るく笑って答えた。
「それをお願いするって」
「ふうん。あたしの得意分野でしろっていうのね」
「そう。それで相手はね」
「あの田中とかいう馬鹿なら困るわね」
 ハニトラは彼の名前を出してその眉を顰めさせた。表情がかなり嫌そうなものになる。
「正直あいつはね」
「ああ、あの日本帝国軍の若い提督ね」
「何処の族なのよって感じだからね」
 ハニトラはその嫌そうな顔のままランファに話す。
「だからああいうのはね」
「嫌いなのね」
「まあ仕事なら仕方ないけれどね」
 そこは割り切る彼女だった。
「それならそれでね」
「で、その仕事だけれどね」
「ええ。それで誰をどうするの?」
「敵の海軍長官東郷毅ね」
「あの映画俳優みたいな格好いいの?」
「そう。あの男とデートしてそれをフォーカスよ」
 そうするというのだ。
「女性週刊誌なりネットなりにあんたとあの男が密会デートの場面をね」
「いつも通りそれを撮って」
「ばら撒くのよ。いいわね」
「わかったわ。海軍長官謎の美少女と密会デート!?ね」
「あんた美少女だったの」
 ハニトラの明るい顔になっての今の言葉にはだ。ランファはモニターの向こうから首を傾げさせてきた。
「というかあんた一体幾つなのよ」
「ちょっと、またその話?」
 ランファの今の言葉にだ。ハニトラはまた嫌そうな顔になってだ。そのうえで彼女に返した。
「あのね。レディーに年齢を聞くのはね」
「駄目だっていうのね」
「そうよ。お互い年齢のことは言いっこなしよ」
「けれど私は言えるわよ」
 ランファは自分のことはこう返せた。
「ちゃんとね」
「けれど言いっこなし。あたしの年齢は秘密よ」
「だから美少女だっていうのね」
「そう、永遠の美少女よ」
「何かねえ。無理があるわね」
 ランファは首を捻りながら述べていく。
「私で美女で。私あんたのこと前から知ってるから」
「だから言わないでって言ってるでしょ」
「わかったわ。そこはどうしてもっていうのね」
「そう。絶対にね」
「じゃあいいわ。それじゃあね」
「仕事のことね」
「それでだけれど。頼めるわね」
 ランファはあらためてハニトラに告げた。
「敵将東郷への工作をね」
「わかったわ。スキャンダル工作はお手のものだから」
 にこにことしてだ。ハニトラはランファに応える。
「そうそう。写真撮って東郷に送りつけて脅すってのもいいわね」
「ああ、あの出っ歯の時みたいに」
「そうしたらどうかしら」
「そっちの方がいいかもね。それじゃあね」
「ええ。そういうことは任せて」
 ハニトラはまた明るい笑顔になってランファに述べた。
「じゃあ。写真撮って脅すわよ」
「わかったわ。それじゃあね」
「あんたの出番より前に仕掛けておくからね」
 こう話をしてだった。ハニトラはランファに別れを告げてモニターを消した。そのうえで丹念にメイクをはじめてだ。それから何処かへと向かったのだった。
 北京の仮の司令部、中帝国の宮廷をそのまま使っているそこでだ。東郷は日本と秋山から報告を受けていた。その報告は彼に関するものだった。
「長官、あの樋口提督ですが」
「全て終わりました」
「そうか。上手くいったんだな」
「はい、無事にです」
「あの者とその一味をです」
 日本と秋山は東郷に話していく。
「その悪事を全て暴いたうえで」
「軍法会議にかけることになりました」
「そうか。有罪は間違いないな」
「はい」
 秋山ははっきりと東郷に答えた。
「終身刑、若しくはです」
「死罪か」
「それも間違いないと思います」
「ではこれで海軍も膿を出し切ったな」
 東郷は落ち着いた笑みになって述べた。
「これで一つ憂いが消えたな」
「どの様な組織も腐敗します」
 そうなるとだ。秋山は深刻な顔で述べた。
「そしてそれを防ぐ為にです」
「こうして膿を取り出すこともだな」
「忘れてはなりません」
 秋山はさらに話していく。
「さもなければ組織だけでなく国家もです」
「海軍がある国家もだな」
「腐敗していきますので」
「腐敗は拡がるものだからな」
 東郷はこのこともよくわかっていた。そのうえでの言葉だった。
「外敵以上に厄介だ」
「その通りです。ですから私はあの男とその一味を取り除きました」
 秋山は厳しい顔で述べた。
「そしてそれが成功してです」
「何よりだな」
「正直ほっとしています」
 彼もまただ。そうなっているというのだ。
「あの者達はあのままいてもです」
「害にしかならなかったな」
「残念ですが世の中にはそうした輩もいます」
「その通りだ」
 東郷も秋山のその言葉に頷く。
「小悪党というものはな」
「大の悪ならまだ格好もいいですが」
「小さい悪はそれが卑小なら卑小なだけ醜くなる」
 東郷は素っ気無く言い捨てる様にして述べた。
「そしてそれが集るとだ」
「腐敗になります」
 樋口一味の様にだ。そうなるというのだ。
「ですからああしてです」
「腐敗の元を見つければだな」
「一つ一つ消し去っていくべきなのです」
「それをするのも国家にとって必要だな」
「その通りです。ただああした腐敗はわかりやすいのですが」
 だがそれでもだというのだ。
「より悪賢い輩になるとです」
「中々尻尾を出さないか」
「そこが難しいです」
 秋山は眉を曇らせながら東郷に話す。そして日本にもだ。
「それとです。困ることはです」
「かつての平良さんの様な方ですし」
「はい、ああした人物も問題です」
 秋山は今度は日本に対して答えたのだった。
「本人達はよかれと思ってやっていてもです」
「しかしそれが問題となる」
「ああした者達は人間としては清廉潔白で純粋であるが故にです」
「余計に難しいですね」
「その通りです」
 日本にだ。秋山はこう話していく。
「憂国獅子団は何時か何とかしたいと思っていました」
「しかしそれでもでしたね」
「あの組織の幹部を全て台湾や韓国に出向させたのは正解でした」
 秋山の顔がここでほっとしたものになった。
「それぞれの地にいる臣民も日本の臣民と変わらないことをわかってもらえましたが」
「そうですね。台湾さんや韓国さん達もほっとしています」
「憂国獅子団の思想が変わったことは非常によかったです」
 秋山はこのことは非常にいいとした。しかしだ。
 ここでだ。彼はこうも言ったのだった。
「ですが。それはそれで」
「困ったことになっていますね」
「彼等はとにかく純粋です」
「正義感と義侠心に満ちていますね」
 つまり善人なのだ。そこが樋口達とは全く違っていた。
「そして有能で真面目でもあります」
「人間として非の打ち所がないのですか」
「しかしそれでもですね」
「視野が狭いのです」
 それがだ。平良達憂国獅子団の面々の欠点だというのだ。
「国粋主義から国際協調主義になりです」
「平等主義がいい意味でかなり強くなってもですね」
「はい、視野が狭く正義感が強過ぎます」
「ですから平良さんも」
「お陰で有能な提督を一人欠いてしまっています」
 秋山は頭痛に悩む様な顔になってしまった。その頭も抱えてしまっている。
「大切なこの時に」
「あれは私も頭が痛いです」
「両班の横暴は確かに問題です」
 韓国のかつての特権階級だ。彼等の横暴は今も韓国での社会問題の一つとなっている。
「ですがそれは司法に任せるものであり」
「軍人がそれを見てすぐに成敗するというものではないですね」
「はい、そうです」
 つまりだ。困っている民を進んで助けることはどうかというのだ。
「確かにそれはいいことですが」
「それでもですね」
「両班は成敗された後で恨みを持ちます」
「それで平良さんも懲らしめた後で背中を向けられた時に」
「後ろから刺されたのです」
 善良な臣民を虐める両班を懲らしめて去ろうとしたそこにだったのだ。
 両班が彼の背中から襲い掛かりだ。刃を突き刺したのだ。
 それでだ。彼は今入院しているのだ。
「その結果です」
「今有能な提督が一人欠けています」
「しかも思ったより重傷でした」
「それで今も入院ですからね」
「ああしたことがあるのです」
 本当にだ。秋山は頭を抱えんばかりの様子である。
「ああした者達は通報して警察なりに任せればいいのです」
「軍人が止めて成敗するものではないですね」
「その通りです。ああしたことがあるのですから」
「あの方はよかれと思って行われ実際に正しい行いですが」
「それでも結果としてそうなったのですから」
「憂国獅子団の方々はどうすればいいのでしょうか」
 二人で悩んでいる。しかしだ。東郷はこう言うのだった。
「まあ彼等は世の中に出して世間を知ってもらえばいい」
「それでいいのですか」
「憂国獅子団の面々は」
「視野が狭いのなら色々なものを見せればいい」
 それで済むというのだ。
「人生は経験だからな」
「それ故にですか」
「悲観することもないですか」
「悲観しても何もならない」
 東郷はいつもの東郷らしく二人に言ってみせる。
「俺はそう思う。だから憂国獅子団の面々もどんどん色々なところに行かせよう。ただしそうした軽挙妄動はその都度咎めていくぞ」
「わかりました。では彼等も」
「そうして手を打っておきましょう」
 小悪党だけでなくだ。視野の狭い善人もまた問題となるのだった。東郷達はこのことについても話しながらだ。そのうえで南京攻略の前に為すべきことをしていくのだった。


TURN7   完


                           2012・2・21



事後処理もつつがなく終わったって所かな。
美姫 「そうね。また次に向けて進軍ね」
中帝国も何か仕掛けてくるみたいだけれど。
美姫 「どうなる事かしらね」
だよな。次回も楽しみに待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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