『ヘタリア大帝国』




                           TURN5  中帝国

 日本は帝にだ。こう言われた。
「あの、今我が国は同盟国がありませんね」
「はい、残念ですが」
 日本もだ。帝のその言葉に残念そうに答える。
「そうした国は今は」
「そうですね。それでなのですが」
 帝は共にいる宇垣も見た。そのうえで彼にも言ったのだった。
「それで外相、同盟を結べそうな相手は」
「はい、残念ですが周辺にはいません」
 そうした国はないというのだ。
「中帝国、ガメリカ共和国は論外ですし」
「そうですね。あの二国は」
「中帝国とは戦争中であります」
 まずこの国の可能性が消えた。
「それでどうして同盟なぞ」
「そしてガメリカとは」
「今にも開戦に至りかねません」
 そうした緊張した状況ではだというのだ。
「ですからあの国ともです」
「同盟はとても無理ですね」
「はい。その他にはですが」
「タイはどうでしょうか」
 帝はこの国の名前を出した。
「あの国は独立国ですね」
「そうです。しかしです」
「しかしですか」
「エイリス帝国に囲まれております」
 その国にだとだ。宇垣はここでも残念な顔で帝に述べる。
「それではとてもです」
「同盟を結べませんか」
「エイリスは今は我が国を警戒しておりますので」
「かつては我々は同盟国同士だったというのに」
「あれもまた残念でした」
 宇垣は苦い顔で帝にだ。また述べたのだった。
「我等にとっても日英同盟は非常に大きな利益がありました」
「そうですね。世界最大の国との同盟だったのですから」
「しかしそれがです」
「あの同盟解消はガメリカの横槍でしたが」
「その通りです。あの国は太平洋の市場独占を狙っていますので」
「それ故にですね」
「はい、そうです」
 まさにその通りだとだ。宇垣は今度は忌々しげに言った。
「それからです。我が国は孤立しています」
「困ったことですね。しかしです」
「これからはですね」
「何処かの国と同盟を結びたいと思います」
 帝は切実な顔になり宇垣に答えた。
「何処かあるでしょうか」
「私としてはです」
 ここでだ。日本が帝に言ってきた。
「ドクツ第三帝国が気になります」
「ドクツといいますと」
「はい、今レーティア=アドルフ総統の下急激に勢力を伸ばしている国です」
「オーストリアを併合したそうですね」
「そしてハンガリーさんやブルガリアさんも取り込まれました」
「ドイツ、プロイセンに加えてですか」
「今では飛ぶ鳥を落とす勢いです」
 日本はこう帝にだ。ドクツの現状を話す。
「あの国はどうでしょうか」
「ドクツですか」
「そうです。私としましてはソビエトが気になります」
 日本の顔がここで曇った。
「ロシアさんのことを考えますと」
「そうだな。ロシアこそが我が国最大の脅威だ」
 宇垣も日本のその言葉に頷いて答える。
「あの国は油断できぬ」
「そうです。だからこそです」
「ドクツと手を結び東西から挟撃するか」
「少なくともソビエトを牽制できます。それにです」
「それにとて?」
「レーティア=アドルフさんは常にドクツの生存圏確保を主張されています」
 これがその彼女の主張だというのだ。
「東方に大きくです。ドクツの生存圏確保をです」
「ドクツから見て東方というとだ」
「はい、ポッポーランドにです」
「ロシアだな」
「既に同じ民族国家のオーストリアさんを併合されました」
 このことが大きかった。まずはだ。
「そしてブルガリアさんやハンガリーさんも取り込まれましたね」
「その調子でいけばルーマニアも時間の問題だな」
「では、です。後はです」
 それからだった。レーティアの目指すものは。
「ロシアさんです。あの方の広大な領域をです」
「ドクツの手中に収める為に」
「ロシアさんと戦争されるでしょう。だからこそです」
「ふむ。ドクツとの同盟か」
「それを考えられてはどうでしょうか」
「そうだな。悪くない」
 宇垣は日本の提案に腕を組んだ。そしてだ。
 そのうえでだ。こう言ったのだった。
「ではドクツ大使館にドクツの情報を詳しく報告してもらうとしよう」
「そうしてからですね」
「うむ、帝と相談のうえだ」
 その帝に顔を向けてだ。宇垣は日本に話した。
「それを決めよう。帝もそれで宜しいでしょうか」
「はい、私もそれでいいと思います」
 帝もだ。宇垣の言葉に微笑んで答える。
「ではまずはドクツの調査を行うということで」
「そうしましょう。では祖国殿は」
「私はですね」
「そろそろ出陣されるな」
 戦争に出る、そうなるというのだ。
「では見送らせてもらおう」
「そうして頂けるのですか」
「出陣する侍を送るのは武人の礼儀だ」
 宇垣は軍服を着る者として日本に答えた。
「ならばだ。是非共そうさせてもらう」
「有り難うございます。それでは」
「では私もです」
 帝も楚々とした声で名乗り出た。
「御見送りをさせてもらいますね」
「帝もそうして頂けるのですか」
「いつもそうしていますが」
「それはそうですが」
「祖国さんや東郷は戦場に赴くのです。死地に」
 だからこそだというのだ。
「その貴方達を見送らないでどうするというのでしょうか」
「それ故にですか」
「はい、では出陣は明日ですね」
「そうです。明日の予定です」
「武運を祈ります」
 こう日本に告げてだ。そのうえでだった。
 日本は東郷と共に出撃した。そこにはだ。
 韓国と台湾もいた。彼等も今は海軍の軍服を着ている。その服でそれぞれの旗艦の艦橋にいた。そしてそのうえでだ。こうそれぞれ言うのだった。
「ううん、俺達まで提督になったんだぜ」
「何か急に決まったわね」
「それが信じられないだぜ。嘘みたいなんだぜ」
 韓国は艦橋のモニターにいる台湾に対して言っていた。
「よく山下さんが許してくれたんだぜ」
「そうよね。どうしてなのかしら」
「私としてはだ」
 その山下もいた。彼女は台湾の旗艦である台湾、まさに彼女の船の艦橋にいる。そこから言うのだった。
「貴殿達二人には陸軍に留まって欲しかったが」
「それがなんだぜ?」
「急に変更になったのですか」
「帝がそう決断されたのだ」 
 山下はここで帝の名前を出した。
「今は海軍の戦力を増強されるべきだと判断されてだ」
「ああ、帝が決められたんだぜ」
「そうだったのね」
「そうだ。だからこそだ」
 二人が提督になったというのだ。
「では私としても異存はない」
 忠誠心の塊の山下としては異存がある筈がなかった。確かに東郷、海軍への反発はあるがだ。
 だがそれでもだ。山下はこう言うのだった。
「しかしだ。惑星の占領はだ」
「ああ、それ本当に頼むんだぜ」
「陸軍さんあってのことですからね」
「会戦で勝利した後は任せろ」
 その手にしている日本刀に手をかけつつだ。山下は二人に答える。
「陸軍は必ず占領する」
「そうそう。海軍が幾ら勝ってもそれだけじゃ駄目なんだぜ」
「ですから私達の後はお願いします」
「任せてもらおう。ではだ」
 ここまで話してだ。山下は二人に対して大きく頷きだ。それからだった。
 己の後ろに控える陸軍の軍服の者達にだ。こう告げたのだった。
「では丁度昼になった。ではだ」
「はい。食事ですね」
「昼食ですね」
「そうだ。今のうちに食べておくぞ」
 こう部下達に告げるのだった。
「ではいいな」
「はい、それでは今より」
「食事かかります」
 こうしてだ。陸軍の面々は食事に入った。食堂でのその食事を見てだ。
 台湾はだ。こう山下に尋ねたのだった。
「あの、前から思っていたのですが」
「何だ、一体」
「これは日本帝国だけの様ですが」
「我が国だけというのか」
「はい、そもそも海軍さんと陸軍さんに分かれていますね」
「そうだな」
 これは日本帝国の特徴だった。日本帝国は軍は海軍と陸軍に分かれているのだ。宇宙空間での戦闘を行う陸軍と惑星での戦闘を行う陸軍の二つがあるのだ。
「それがどうかしたのか」
「食事も違うのですが」
 見れば山下も陸軍の将兵達も白米にだ。焼き魚、漬物や味噌汁といったものしかない。実に質素だ。
 そうした食事を見てだ。台湾は言うのだった。
「それはどうしてでしょうか」
「陸軍は質実剛健なのだ」
 山下は厳しい声で台湾の問いに答える。
「だからなのだ」
「それ故にですか」
「武人たる者食べるものに贅沢なぞしてはならないのだ」
「それで白米にですか」
「栄養は充分に考えてある」
 その魚、漬物、味噌汁だけでだというのだ。
「脚気等やその他のビタミン、タンパク質の不足に陥ることもない」
「しかしこれはまた」
「陸軍とは海軍とは違うのだ」
 少しきっとしてだ。山下は台湾に述べた。
「華美なぞ忌ましむべきものだ。これが武人の本来の食事なのだ」
「ですか」
「最近海軍は特に華美に過ぎる」
 山下はここで海軍批判に入った。
「それでは武人として堕落だ。許してはならない」
「左様ですか」
「食事も日々の生活もだ」
 見れば誰もがキビキビとして食事を摂っている。山下も背筋を伸ばしている。
「常に襟を正すのが陸軍だ」
「はい、それは私も知っていますが」
 台湾にしてもついこの前まで陸軍にいた。ならば当然のことだった。
「ではこれからもですね」
「陸軍は陸軍としてそのやり方がある」
 頑固とさえ言っていい口調だった。
「海軍とは違うことは言っておくわ」
「わかりました」
 台湾もこう応えるしかなかった。今の山下にはだ。それでだ。
 山下の前から離れてだ。そうしてだった。
 自分の兄の乗艦のところに行きだ。海軍の食事を食べながら話す。海軍の昼食はパンに海草のサラダとポタージュ、鮭のムニエルに大きな豚のカツレツ、テリーヌにだ。デザートはフルーツの盛り合わせだ。
 海軍も陸軍と同じく将兵は皆同じものを食べている。違うのはメニューだ。
 その海軍の昼食を食べながらだ。台湾は自分の兄に言うのだった。
「海軍さんはこんなものを食べているのに」
「陸軍さんはだよね」
「はい、あれでは朝食です」
「朝も晩もあんな感じだから」
「武人として堕落してはならないと仰いますが」
「対抗意識があるんじゃないかな」
 台湾兄はポタージュを飲みながら妹に述べた。
「特に山下さんは」
「あの人がなのね」
「あの人東郷さんと仲が悪い、いや」
「いや?」
「東郷さんを一方的に嫌ってるから」
 これは台湾兄が見てもだった。東郷の方は何でもないが山下はなのだ。
「食事も海軍のものとは全然別にしてね」
「給養のマークも置かないで」
「兵隊の人が当番で作ってるんだよね」
「そうなの。陸軍さんは」
「じゃあ味は」
「御世辞にもよくないわ」
 台湾は微妙な顔で兄に答えた。
「陸軍さんの食事はね」
「そうだろうね。海軍さんは給養の職種の人がいるけれど」
 だがそれでもだった。
「陸軍さんはいないからね」
「昔は陸軍さんにも給養の人がいたけれど」
「給養員が勘違いしてね」
「そうそう、それでだったわね」
「自分達は料理を作ってやってるから偉いと思い込んでね」
 人間は食べないと生きられない、それを司っているということはそのまま力になりかねない。つまり彼等は力を握ったと錯覚してしまったというのだ。
「だからね。それでね」
「山下さんのお祖父さんが給養員を廃止されて」
「そう。あの元帥だった方がね」
「それで陸軍さんには給養員がいなくなったわね」
「海軍さんでも給養員は昇進が遅いのは」
 それは何故かというと。
「給養員に増長させない為らしいからね」
「そうよね。海軍さんでも給養員はどうやら」
「そうだよ。勘違いしている人多いよ」
 料理を作ってやっていると思い込んでだ、威張り散らす輩がいるというのだ。
「だから昇進も遅いんだよ」
「そういうことね」
「だから陸軍さんとしてもそうした人達の増長を消す為にもね」
「そうするしかなかったのね」
「そうだったんだよね」
「仕方なかったにしても」
 陸軍としても一部の人間の増長を許してはおけない、それでだったのだ。だがその処置により犠牲になった者があった。まさにそれこそがだったのだ。
「陸軍さんのお料理の味は」
「カレーも酷いんだって?」
「その時の兵隊さんによるけれど」
 調理当番のだ。その兵士によるというのだ。
「あまりね」
「味はよくないんだね」
「どうにもね」
 こう困った顔で言う台湾だった。
「海軍さんのカレーと比べると」
「成程ね。そうなんだね」
「そのことはどうにかなるかっていうと」
「難しいと思うよ」
「やっぱりそうなのね」
「うん、陸軍さんの考えじゃ一部の人間の勘違いは食事の味より深刻な問題だから」
 それ故にだというのだ。
「そう認識されているからね」
「ううん。仕方ないのね」
「まあ食べられるだけかなりいいよ」
 台湾兄はここでこう言った。今度はサラダを食べている。無論使っている食器はフォーク二ナイフ、スプーンだ。食事にはワインまでついている。
「昔なんて。酷かったからね」
「そうね。それぞれの星系の中で沢山の部族に分かれていた時は」
「まだ餓えとかあったから」
 この時代ではもう大昔の話だ。宇宙進出の時代から思えばだ。
「それと比べたらそれこそね」
「お腹一杯食べられること自体が嘘みたいね」
「だからいいよ。本当にね」
「そうね。あの頃を考えると」
「今は天国だよ」
 腹一杯食べられるこの時代はだと言ってだ。そのうえでだ。
 台湾兄は妹と共に海軍の豪勢な昼食を食べていく。尚この食事は普通の一般市民でも食べている。しかしこれ以上の馳走もあるのは言うまでもない。
 北京の豪奢な、紅と金色のだ。木造に黄金で飾ったその宮殿の中でだ。紅と紺に白、そこに黄金をあしらった豪奢な服を着た少年がいた。その髪は茶色で奇麗に切られており切れ長の目の色は赤だ。白く中性的な顔をしている。
 その彼が見事な中華料理、北京ダッグや海老に鯉、蟹を料理した様々な馳走を前にして箸を動かしながらだ。己の傍らに立つ中国に言う。
 中国は黄色い詰襟の軍服を着ている。ズボンは少し大きめで上着は黒いベルトで調えられている。大きなポケットが四つあるのが目立つ。
 その中国にだ。少年が言うのだった。
「美味だな」
「そう言ってもらえるあるか」
「やっぱり祖国の作る料理は違う」
 この料理は中国の作った料理だ。その味はいいというのだ。
「今日は北京料理だけではないな」
「広東料理も入れたある。炒飯もそれある」
「この海鮮炒飯もだな」
「そうある。どうあるか?炒飯は」
「炒飯は我が中帝国の料理の基本」
 少年は炒飯をこう言い切った。
「これができているのは」
「いいと言ってくれるあるか」
「うむ。人間が作る料理もいいが」
 その炒飯も食べながらだ。少年は中国に言っていく。
「やはり祖国の料理が一番だな」
「有り難き幸せある」
「ただ。近頃は他の料理も好きになってきている」
 こんなことも言うのだった。
「ガメリカの料理だが」
「ハンバーガーやそういったものあるか」
「あれもいいものだな」
 これが少年の今の言葉だった。
「この前ランファに勧めれたがいいものだ」
「皇帝が召し上がるものではない様な気がするあるが」
「美味ければそれでいい」
 少年はこう中国に返した。
「このシュウ皇帝はその料理の味だけを求めるのだ」
「それ故にあるか」
「そうだ。それでだが」
 皇帝はここで話題を変えてきた。今度の話題は。
「日本帝国の艦隊が北京に向かって来ているそうだな」
「その通りある。韓国から満州に入り」
「そして北京に攻め入ろうとしているのか」
「そうして来ているある。僕ももうすぐ出撃するある」
「ではだ。そなたと共にだ」
 自分の祖国だけでなくだというのだ。
「リンファを呼ぼうか」
「今回はリンファあるか」
「そうだ。北京は北軍の管轄だからだ」
 それ故にだ。彼女だというのだ。
「あの娘を呼ぼう。ではだ」
「わかったある。ではリンファを呼ぶある」
「それとだ。そなたにだ」
 皇帝は中国に顔を向けてだ。それで彼自身にも言った。
「全ての国家も呼ぼう」
「妹に香港、マカオもあるか」
「戦力は多い方がいいだろう。だからだ」
「僕達全員も集めてそのうえであるか」
「日本に対する。いいな」
「わかったある。それでは」
 中国は皇帝に敬礼してだ。そのうえでだった。
 一旦皇帝の前から下がりだ。すぐにだ。宮殿の一室、紅い長方形の木製の机のある部屋に一同を呼んだ。すぐに彼と同じ軍服姿の面々が部屋に来た。
 中国妹に香港とマカオと彼等の妹達、合わせて五人が部屋に来た。彼等は中国を上座に置きそのうえでだ。着席してから話をはじめたのだった。
 まずはだ。中国が難しい顔で五人に述べた。
「僕としてはある」
「戦争したくない的な?」
「近頃あちこちがたが来ているある」
 左手の肘のところを押さえながらだ。中国は香港に答えた。
「だから戦争よりもある」
「内政ですね」
「そうある。けれど世界の状況はそうも言ってはいられないある」
 中国は今度はマカオに答える。
「だから仕方ないある。僕達も出撃して日本を迎え撃つあるよ」
「それはわかったのですが」
 マカオ妹がこう中国に言ってきた。
「北京での戦いですね」
「そうある」
「それならこちらの指揮官は」
「リンファある」
 彼女だとだ。中国も答える。
「あの娘に行ってもらうあるよ」
「リンファあるか」
 中国妹はリンファの名前を聞いてだ。眉を顰めさせたうえで兄に述べた。
「能力的にも人望も問題ないあるが」
「それでもあるな」
「そうある。共有主義に染まり過ぎているあるよ」
 中国妹が気にしているのはこのことだった。
「勝ったとしてもある」
「国内での共有主義の勢力が大きくなるあるな」
「私それが心配ある」
 心からだ。中国妹はこのことを懸念していた。
「いいあるか?共有主義はどう考えても我が国を飲み込もうとしているある」
「下手をしなくても日本帝国より危険的な?」
「中帝国をソビエトにするものですね」
 香港とマカオもだ。この国の危機をだ。共有主義に見ていた。
「だからリンファには共有主義を捨てて欲しい的な?」
「ご本人は純粋に素晴らしいものと信じておられますが」
「そのことは僕も心配しているある」
 中国も腕を組み難しい顔になって言う。
「ランファはまだいいあるが」
「リンファは危険過ぎる的な」
「善意のみであるだけにですね」
 香港妹もマカオ妹もだった。
 リンファのその思想を心配していた。そうして中国に言うのあった。
「先生、本当にリンファはどうにかならない的な?」
「リンファと彼女の同志達の勢力が大きくなれば困ります」
 また言う香港妹とマカオ妹だった。
「ですからここはランフアを出すべき的な?」
「そうしませんか?」
「それができればそうしているある」
 ところがだった。中国は二人にこう返したのだった。
「北京にいるのは北軍ある。北軍はリンファの管轄ある」
「だからリンファしかいないあるか」
「これが南京なら別ある」
 そこならばだとだ。中国は中国妹に述べた。
「南軍はランファの管轄あるからな」
「ううん、国軍を統一したいあるよ」
 中国妹は困った顔で腕を組み言った。兄の言葉を聞いて。
「日本帝国との戦いが終わればそうしないあるか?」
「そうあるな。何よりも共有主義を何とかしたいある」
「共有主義の勢力にはロシアさんがおられます」 
 マカオがこの国の名前を出すと皆顔が蒼ざめた。香港兄妹も微かに。
「ロシアさんのところに入ればです」
「バルト三国やウクライナと同じになる的な」
「奴隷扱いですよ」
 香港とマカオ妹がだ。マカオの言葉を聞いて言う。
「だから絶対に嫌、的な」
「はい、そう思います」
「これは万歳爺も懸念されています」
 マカオは皇帝を中帝国の古い呼び方で呼んだ。
「何しろ満州は今の皇帝家の故郷だったのですから」
「そこを最初に奪ったのはロシアある」
 中国は忌々しげにだ。マカオに応えた。
「内乱の鎮圧にかかっている間にあそこを開けたのがまずかったある」
「そうある。失態だったある」
「あれは失敗だった的な」
「僕もあれは後悔しているある」
 中国は自分の妹と香港妹に述べる。
「満州は元々僕の国の一部でなかったあるから」
「そうあるね。兄さんもあまり関心がなかったある」
「僕の身体は北京から南ある」
 こう妹にも話す中国だった。
「満州は皇帝家の故郷あるが」
「私達の領地ではなかったあるから」
「あの時はどうでもいいと思っていたある」
 ところがだったのだ。
「あそこを足掛かりにして我が国を狙う様になったあるからな」
「満州は明け渡すべきでなかったある」
「言っても仕方ないあるがな」
 今更というのだ。
「まだ日本帝国があそこにいた方がましある」
「全くある。けれどある」
「満州は万歳爺のたっての要望ある」
 その奪還はだというのだ。
「だから。どうしてもある」
「そうあるな。私達も出撃して」
「満州を手に入れるある」
 中国の兄妹がやや渋々ながら決意を述べるとだ。ここでだ。
 香港妹がだ。こう一同に提案した。
「では私達がリンファより頑張る的な?」
「あっ、そうあるな」
 中国は香港妹の今の言葉にだ。はっとした顔になった。
 そしてそのうえでだ。こう言ったのだった。
「リンファに功を挙げさせずに日本帝国を撃退して」
「その勢いで満州を奪還すればいい的な」
「そうある。そうするある」
 こう言う中国だった。
「香港妹はいいこと言うある」
「ではリンファ提督の指揮に入りながらです」
 マカオ妹も言う。
「私達が活躍してあの方に功を挙げさせないでおきましょう」
「そうするある。では決まりある」
 中国は先程よりも明るい顔で言った。
「僕達がやるあるよ」
「では今から出撃ある」
 中国に続いて中国妹も言いだ。そのうえでだ。
 中帝国の国家の面々は彼等の意を決して出撃する。かくして北京に多くの戦力が集結していった。
 そして日本帝国軍もだ。今は満州にいた。そこでだ。
 田中がだ。手長猿や猫達を見ながらだ。こう言うのだった。
「まだ信じられねえな」
「猿や猫が提督をやれることですか」
「ああ。御前も喋ってるしな」
 こうだ。田中は久重にも言うのだった。見れば彼も軍に同行している。
「とはいっても御前は理由は知ってるさ」
「はい、津波様の改造手術のお蔭です」
「だよな。けれど艦隊指揮はできないよな」
「私はあくまで津波様の口です」 
 それだというのだ。
「ですから艦隊指揮はできないです」
「そうだろ?けれどこの連中はな」
 四匹の動物達を見ながらだ。また言う田中だった。
「ナチュラルに提督やってるからな」
「私もだけれど」
 史羅もいた。この場には。
「けれど私はいいのね」
「人間だからな。けれどこの連中はな」
「動物だから」
「だから犬とか艦隊指揮するってできるのかよ」
 田中は首を捻りながらさらに言う。
「命令とかできるのかよ」
「できるよ」
「ちゃんとね」
 しかしだった。ここでだ。
 そのアストロコーギーとアストロパンダがだ。こう田中に言って来た。
「こうして言葉も喋れるし」
「軍事の本も読んできてるよ」
「おいおい、本も読めるのかよ」
「そうだよ。津波様から貰ってね」
「それで勉強したんだ」
「あの博士手前等にも改造手術してたのかよ」
 かなり唖然となりながら言う田中だった。
「それで艦隊指揮もできるんだな」
「そういうことだからね」
「安心してね、田中さん」
 今度は猿と猫が田中に言う。
「僕達も艦隊指揮頑張るから」
「一緒に活躍しようね」
「ああ。じゃあ宜しくな」
 自分でも驚く位あっさりとだ。田中は彼等を受け入れた。そのうえでだ。
 今度は久重にだ。こう言うのだった。
「で。手前は何でここにいるんだ?」
「私がここにいる理由ですか」
「そうだよ。いつもあの博士と一緒じゃねえのかよ」
「そうですよ。私は博士の口ですから」
 それはそうだとだ。久重は田中にはっきりと答える。
「同行させて頂いています」
「じゃあ博士もここにいるのかよ」
「そうです。今は艦の研究室に篭もっておられますが」
「何でここに来てるんだ?」
「満州の資源を調べる為です」
「この満州のかよ」
「はい、満州には既に多くの資源があることがわかっています」
 久重はあらためて田中に話していく。姿勢もきちんと座って礼儀正しい。
「ですがどうやらさらにです」
「資源があるってのかよ」
「その資源の調査にです」
「博士は満州に来てるのかよ」
「そういうことです」
 やや誇らしげな声になってだ。久重は田中に話した。
「おわかり頂けたでしょうか」
「まあそれならな。しかしな」
「しかしですね」
「あの博士資源の調査にも頑張ってるよな」
「博士の専門分野の一つですから」
「兵器の開発とか生物だけじゃないんだな」
「えっへん、津波様は天才なのですよ」
 何故かだ。久重は自分も胸を張って述べる。
「ですから何でも出来ちゃうのです」
「それでメタン何とかも見つけたんだな」
「日本周辺の宙域に多くあるあれですね」
「あれ見つかって。全然違ってくるらしいな」
「我が国の資源問題がかなり好転します」
「すげえよな。あの博士が色々やってくれてな」
 それでだとだ。田中は唸る様に言っていく。
「日本帝国が違ってきてるよ」
「そうですよね。いや、津波様は本当に凄いです」
「全くだぜ。これで満州の資源が見つかったらな」
「さらに凄いことになりますよ。ただ」
「ただ?何だよ」
「津波様は自信のある方ですがそれでもです」
 どうかとだ。久重はここで言ったのだった。
「ドクツ第三帝国のレーティア=アドルフ総統には負けると仰っています」
「あの人ね」
 史羅はその名前を聞いてだ。眉を少し動かしてから述べた。
「あの人は確かに」
「はい。物凄いですよね」
「科学者としても数多くの特許を得ているし」
「多くの賞も受賞されています」
「そのうえで政治家としてもあのドクツを立て直したから」
 先の大戦の敗北で荒廃したドクツをだというのだ。
「まさに天才ね」
「津波様もいつも仰っています」
 久重は史羅にさらに話していく。
「あの方こそは真の天才だと」
「いや、津波様以上っていうのは」
「幾ら何でもないんじゃないかな」
「そうだよね。あの方より上って」
「それこそどんな人なのか」
 動物達はだ。久重の今の言葉を聞いてだ。
 それぞれ首を捻ってだ。こう言ったのだった。
「褒め過ぎ?過大評価?」
「そう思うんだけれど」
「日本帝国を科学面から支えられている津波様以上って」
「ちょっと」
「いえ、本当にそう仰ってるんですよ」
 久重は彼等にもはきりと話す。
「ご自身以上だと。あの方は」
「ううん、まさかね」
「そんなこと有り得ないと思うよ」
「それって人類の歴史上最高の天才?」
「そうなるけれど」
「はい、そうも仰っています」
 久重は四匹の言葉の中でだ。人類の歴史上最高の天才という言葉に反応して言った。
「あの方こそはと」
「あの博士がそこまで言われるってことは」
「やっぱりあの総統さんって凄いのかな」
「それこそ本当に人類の歴史上最高の」
「そんな天才なんだ」
 四匹もだ。まだ信じられないといった様子だがそれでもだ。
 久重の言葉を受け入れてだ。そのうえで言うのだった。
 そして田中はだ。今度はこんなことを話した。
「で、ドクツってな」
「はい、あの国自体ですね」
「ファンシズムの国だったよな」
「そうです。それがあの国のイデオロギーです」
「共有主義に似てるとも言われてるよな」
 田中は久重にだ。ファンシズムと共有主義の類似性について尋ねた。
「そこんとこどうなんだよ」
「確かに似てますね。権限は一人に集中しますし」
「それで個人よりもだよな」
「全体を重要視しますから」
「しかも共有主義もファンシズムもな」
 田中はさらに話す。
「女の子が主だしな」
「そうですね。ただです」
「ただ?違う部分もあるってんだな」
「そうです。ファンシズム、ドクツだけでなくはじまりの国であるイタリン共和帝国もですが」
 久重はこの国の名前も出した。
「ああした国々は流石にソビエトまで強権ではないですね」
「ソビエトの話は俺も知ってるさ」
 田中は忌々しげに答える。
「とんでもねえ国家だな、あそこは」
「はい、まさに究極の独裁国家です」
「あのカテーリンって娘のな」
「あの統率はファンシズムの偶像崇拝とはまた別のものではないですか?」
「アイドルとは違うってのかよ」
「私は猫ですから」
 こう前置きしてからの言葉だった。
「学校には通っていませんが」
「学校?」
「学級会の様な感じがするいう話を聞いたことがあります」
「あっ、確かに」
 暫く沈黙していた史羅がここでまた口を開いた。
「ソビエトの状況はそうね」
「そうですね。そんな感じらしいですね」
「あのカテーリンという娘が学級委員で」
「そしてミール=ゲーペという方が風紀委員だと」
「そうね。そんな感じだわ」
「そんなお話を聞いたことがあります」
「ではあのカテーリンという娘は国家全体を学校と考えているのかしら」
 史羅はこう考えて述べた。
「そうなると」
「そうかもですね。ただ」
「ただ?」
「カテーリンという娘は悪意はないと思います」
 久重はカテーリンのその面を指摘した。
「本人はよかれと思ってやっていますね」
「じゃあ悪人じゃないのかよ」
「私はそう思います」
 こう田中に話す久重だった。
「あくまで推測ですが」
「けれどよ。ソビエトってよ」
「とんでもない国家だというのですね」
「だろ?どう見てもな」
「それはその通りです」
 ソビエトの恐ろしさはだ。久重は否定しなかった。
「あの国は世界の脅威になりつつあります」
「それでもカテーリンは悪人じゃないってのかよ」
「善意が悪をもたらすこともありますから」
「?善意が悪を?」
「そうです。自分がよかれ、正しいと思っていることでも他人はそうではないことがありますね」
「そうなのか?」
 田中は久重の今の言葉に目をしばたかせてだ。きょとんとした顔になった。その彼にだ。今度は史羅がだ。こんなことを話してきたのだった。
「だから。田中君がお魚好きでもね」
「おうよ、大好物だぜ」
「それを嫌いな人に勧めたら」
「駄目だってんだな」
「アレルギーで食べられない人とかいるわよね」
「鯖とかそうだよな」
「それと同じなのよ」
 史羅は田中の好物である魚に例えて話していく。
「例え自分が好きでもいいものだと思っていてもね」
「それが他の奴全員がそうだとは限らないってことか」
「けれどカテーリンはそれがわかっていなくて」
 そしてだというのだ。
「共有主義はそうしたことを認めていないのよ」
「だからソビエトはやばいのか」
「ええ。そういうことなのよ」
「そうです。史羅さんの仰る通りです」
 ここで久重も語る。
「共有主義はそれを完全に否定していますので」
「だからあんな国家になってるんだな」
「他人も他の主義主張も認めないのです」
 それが共有主義の問題点だというのだ。
「まさに巨大な蟻の群れと同じで」
「蟻!?じゃあカテーリンは」
「ええ。女王蟻でしょうか」
「だよな。そんな存在だよな」
「そもそもあんな子供が急に出て来てです」
 久重はここで首を捻って述べだした。
「瞬く間に革命を成し遂げ国家元首になったことが不思議です」
「ドクツもイタリンも選挙を経ているわよ」
 史羅は今度はこの二国を比較に出してきた。
「ムッツリーニ=ベニスもレーティア=アドルフも選挙で圧倒的なカリスマを発揮して国家元首になっているわ」
「そこがカテーリンと違うのかよ」
「選挙に勝つより革命を成功させる方が困難なのです」
 久重はこう田中に話す。
「人を完全に従わせるカリスマが必要な場合がありますので」
「選挙は投票するだけ、革命は命がかかるわ」
 史羅は双方の違いを指摘した。
「人を死地に送るだけのカリスマを即座に見せないとならないから」
「だからこそ革命は成功させることが難しいのです」
「けれどカテーリンはそれをやったよな」
「そうです。彼女の前に出た者、周りを囲んだ者はです」
「全員従ったわ。誰もがね」
 久重と史羅は田中に説明していく。今度はあの革命のことを。
「それこそカテーリンが死ねと言えば死にました」
「ロシア帝国はあえなく崩壊したわ」
「あそこまでの恐ろしいカリスマはです」
「まさに女王蟻ね」
「蟻か蜂か?」 
 田中は蟻の近種のこの昆虫の名前を出した。
「そんな感じだよな」
「はい、共有主義はああした急進的な思想もあると考えていいですが」
「以前からああした思想はあったから」
「ですがカテーリンのあの絶対のカリスマ性と統率力はです」
「常識では考えられないわ」
「カテーリンの暗殺計画も数多くあったそうです」
 久重は今度はこの話をした。カテーリン暗殺計画だ。
「ですがその全てが失敗しています」
「おい、全部かよ」
「数百はあったそうですが」
 暗殺計画はだ。そこまで多かったというのだ。
「ですがその全てがです」
「失敗かよ」
「カテーリンの目の前に来てもです」
「おいおい、刺客がそこまで来たら終わりだろ」
「ですがその刺客は誰もが急に大人しくなり」
 そしてだというのだ。
「カテーリンに従い唯諾々と連行されていったそうです」
「また妙な話だな」
「普通とは思えません」
 また言う久重だった。
「このことを考えましても」
「だよな。話を聞いててもな」
「あの国とカテーリンには謎と疑問があまりにも多いです」
「そんな国と対峙してるんだな。俺達は」
「田中さんも御気をつけ下さい」
 久重はかなり親身に田中に告げた。
「間違ってもカテーリンに洗脳されないで下さいね」
「俺がそう見えるのかよ」
「はい、見えます」
 きっぱりとだ。久重は田中本人に対して言い切った。
「田中さんは単純ですから」
「おい、そりゃどういう意味だよ」
「どういう意味とは。言ったそのままですが」
「俺はそんなに単純か?」
「呆れる位に」
 流石に馬鹿という言葉はつけないがそれでもだった。
「田中さんが一番心配です」
「ったくよ。竹を割ったみてえだとか言わねえのかよ」
「竹を割ったみたいに単純ですね」
 また言う久重だった。
「困ったことです」
「俺妙に色んな奴に心配されてるな」
「おや、私だけじゃないんですか」
「この前参謀にも言われたよ」
 秋山にもだというのだ。
「軽挙妄動は慎んで慎重にいってくれとな」
「ああ、秋山さんよくわかっておられますね」
「参謀が正しいってのかよ」
「どう考えても」
「全面的にかよ」
「田中さんは確かに一本気であっさりしていて気分のいい方です」 
 田中の長所は久重もはっきりわかっていた。
「ですがそれと共にです」
「俺の駄目なところはそれか」
「はい、周りが見えていなくて突っ走り過ぎます」
「それよく言われるんだよな」
「東郷さんを超えたいんですよね」
「おうよ、あいつを蹴落としてな」
 尚田中は権謀術数も知らない。彼の蹴落とすとは相手以上の功績を挙げることだ。
「それで海軍長官になってやるぜ」
「田中さんが海軍長官って」
「何か周りが大変そうだなあ」
「久重の言う通りの人だからね」
「まだまだ若いんだよね」
 パンダやコーギーといった動物達もだ。田中の性格はよくわかっていた。
「全くねえ」
「いい人なんだけれどね」
「士官学校でも成績のバランスかなり悪かったらしいし」
「参謀向きじゃないのは間違いないね」
「おい、本当に言ってくれるな」
 田中は動物達の言葉にも反応を見せる。
「確かに参謀には興味ないけれどな」
「はい、間違ってもそんな大それた野心は抱かないで下さい」
 久重もそこは言う。
「絶対に無理ですから」
「ああ、それは俺も自覚してるさ」
「誰も参謀には推薦しませんし」
 田中の性格も資質も誰もがわかっているのだ。
「ですからです」
「ああ、じゃあ艦隊司令としてだな」
「今のまま。そこに慎重さを加えればです」
「よりいいんだな」
「ですから頑張って下さい」
 久重は右の前足をその彼に向けながら話す。
「私これでも田中さん嫌いじゃないですから」
「ああ、そうなのか」
「田中さんは裏表ないですから」
「そういうの大嫌いなんだよ」
「だからです。頑張って下さいね」
「慎重さか。難しいな」
 田中はこのことには首を捻る。とにかく今の彼にはそうしたことは難しかった。だがそれでもだ。久重の言葉はその頭の中に入れはした。そのうえで北京に向かうのだった。


TURN5   完


                           2012・2・17



いよいよ開戦か。
美姫 「互いに現状確認って感じね」
それぞれが抱えている問題や世界情勢なども出てきたしな。
美姫 「次回はいよいよ決戦の火蓋が切られるのかしら」
どうなるのか楽しみです。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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