『ヘタリア大帝国』




                          TURN4  長官の娘

 韓国がだ。宇垣に尋ねていた。
「ちょっといいんだぜ?」
「何かな、韓国殿」
 宇垣はその韓国に礼儀正しく応える。今丁度だ。彼は外務省の己の執務室にいた。質素でありそこは簡素ですらある。その中でだ。彼は外務省に来た韓国に応えたのである。
「外交のことであろうか」
「違うんだぜ。ちょっと気になることがあるんだぜ」
「それをわしに尋ねにか」
「それで来たんだぜ」
 こう宇垣に言ったのである。
「前に東郷さんが結婚していたという話は」
「むっ、あのことか」
「そうなんだぜ。それは本当なんだぜ?」
「韓国殿は御存知なかったのか?」
「初耳なんだぜ」
 実際にそうだとだ。韓国は宇垣に答える。
「あの人結婚していたなんて信じられないんだぜ」
「あれだけ遊んでいればだな」
「その通りなんだぜ。昨日も女の子とデートしていたんだぜ」
「華族の中条家のご令嬢とだったな」
「そうなんだぜ。俺程じゃないにしてももてるんだぜ」
 さりげなく自分がもてると断言する韓国だった。
「その東郷さんに奥さんがいたなんてことは」
「ううむ。実はだ」
「実は?」
「あの者の奥方はキリング家のご令嬢だったのだ」
「キリング家!?」
 キリング家と聞いてだ。韓国はその目を見開いた。そのうえでだ。
 かなり慌てながらだ。宇垣に言ったのだった。
「あのガメリカの四大財閥のあの!?」
「左様。軍需産業にも大きな力を持っているな」
「あの家のお嬢さんだったんだぜ!?東郷さんの奥さんは」
「流石に驚かれた様だな」
「驚かない筈がないんだぜ」
 韓国は実際に呆然となりかつ慌てた態度で宇垣に応える。
「まさか。あの旦那あの家の人まで声をかけて」
「士官学校を卒業してすぐだった」
 宇垣はその頃から話していく。
「あの男はガメリカに留学生として派遣されたのだ」
「それでなんだぜ?」
「そうだ。そこでそのご令嬢と知り合いだ」
 そしてだというのだ。
「結婚にまで至ったのだ」
「あのキリング家との」
「当然キリング家側は大反対した」
「一介の士官とは結婚できないっていうんだぜ?」
「そうだ。あの頃の東郷はまだ少尉だった」
 所謂下級士官だ。とても世界的な財閥のご令嬢と釣り合うものではない。そのうえだった。
「ガメリカの者でもないしな」
「それでなんだぜ」
「そうだ。キリング家の方は大反対だった。特にだ」
「特に?」
「奥方付きのメイド。確か黒人だったな」
 ここでだ。宇垣の顔が鋭くなる。
「その女が特にだ」
「反対したんだぜ」
「その通りだ。それで大変な騒ぎになったのだ」
 その騒ぎ、韓国の知らないそれのことをだ。宇垣は話していく。
「そしてその騒ぎの後でだ」
「ようやくなんだぜ?」
「左様。奥方が家を出る形になってだ」
「駆け落ちしたんだぜ」
「そういうことになったのだ」
 具体的にはそうなったとだ。宇垣は韓国に話す。
「祖国殿もガメリカに行かれて話をしたり。大変だったのだ」
「日本まで出たんだぜ」
「そうだ。とにかくあの侍女が強かったな」
 その侍女のこともだ。話す宇垣だった。
「何をするかわからなかった」
「そんなにとんでもない女だったんだぜ?」
「うむ、思い出したくない程だ」
 そこまでだというのだ。
「だが何はともあれ二人は結婚できた」
「そうなったんだぜ」
「そしてだ。そのうえで帰国してだ」
「留学が終わったんだぜ?」
「いや、ガメリカにいられなくなったのだ」
 ガメリカで絶大な力を持つキリング家から睨まれてはだ。そんなことができる筈もなかった。そうした事情があってだ。東郷はガメリカを離れたというのだ。
「留学は中断、そして日本に戻りだ」
「二人は結婚したんだぜ?」
「左様、その通りだ」
 まさにそうだったというのだ。
「二人は幸せだった。しかしだ」
「旦那浮気したんだぜ?」
「いや、あの男の女遊びは士官学校の頃からだが」
「結婚していた頃はなんだぜ?」
「そうだ。女遊びは一切しなかった」
「信じられない話なんだぜ」
 東郷の女遊びは韓国もよく知っている。かなり陸軍寄りの彼でもだ。そのことは知っているのだ。
「あの旦那が浮気しなかったなんて」
「だが事実だ。しかしだ」
「しかしなんだぜ?」
「数年前だ。奥方は台湾に旅行に行かれたが」
 その時にだというのだ。
「そこでだ。宇宙事故に遭いだ」
「死んだんだぜ?」
「死体は発見されていない」
 それはないというのだ。死んだという確かな証拠は。だが、だった。
 宇垣はその気難しそうな顔をさらに顰めさせてだ。こう韓国に言ったのだった。
「だが。わかるな」
「宇宙事故なんてそれこそなんだぜ」
「助かるものではない」
 こうその顔で言う宇垣だった。
「到底だ。だからな」
「旦那は奥さんを失ったんだぜ」
「そうだ。あ奴は何も言わないが」
 だが、だ。それでもだとだ。宇垣は言葉の中にそういった言葉を含ませて韓国に述べた。
「悲しんでいるのは間違いない」
「その気持ちはわかるんだぜ」
 韓国は悲しい顔で述べた。
「東郷さんにもそんなことがあったんだぜ」
「そうなのだ」
「じゃあ旦那は今一人なんだぜ?」
「いや、一人ではない」
 宇垣はこのことは否定した。
「娘さんがおられる」
「そのキリング家の奥さんとの間の娘なんだぜ?」
「その通りだ。それで今はその娘さんと一緒に住んでいるのだ」
「ううん、一人暮らしだと思ってたんだぜ」
「しかしそれは違う。韓国殿は御存知なかったか」
「本当に今知ったことなんだぜ」
 まさにその通りだとだ。韓国は宇垣に答えた。
「旦那も色々あったんだぜ」
「そうだ。しかし奥方がいなくなってだ」
 どうなったかと。宇垣は今度は難しい顔になって述べた。
「あの男はまた女遊びをはじめたのだ」
「今みたいになんだぜ」
「わしとしては再婚を勧めておるのだがな」
 世話焼きの宇垣としてはそうせずにはおられないのだ。彼は日本帝国きっての世話焼きとして知られている。それでそれなりに人望もあったりする。
「全く。今は遊んでいたいと言ってな」
「ああしてるんだぜ?」
「そうだ。困ったことにだ」
 こう言うのだった。
「やれやれだ」
「山下さんが言ってるんだぜ」
 その陸軍寄りの韓国の言葉だ。
「旦那は不真面目に過ぎる。あれでは長官として示しがつかないって言ってるんだぜ」
「それはわしも同じだ」
「外相もなんだぜ」
「だから再婚を勧めておるのだ」
「成程、そうだったんだぜ」
「そうだ。困ったことだ」
 実際に腕を組んで難しい顔になって言う宇垣だった。
「どうにかならないものか」
「それでなんだぜ。その娘さんは」
 宇垣の悩みを切る形でだ。韓国は話題を変えてきた。
「旦那の家にいるんだぜ?」
「そうだ。奥方に似てか可愛い娘でだ」
「それなら一度会ってみたいんだぜ」
 好奇心から言う韓国だった。
「外相案内して欲しいんだぜ。俺旦那の家に行くんだぜ」
「韓国殿がか」
「そうなんだぜ。キムチを土産に行くんだぜ」
 もう完全に行く気の韓国だった。
「じゃあ今から行くんだぜ」
「いや、今は無理だ」
「どうしてなんだぜ?」
「仕事中だ。わしもあの男もだ」
 これが今行けない理由だった。
「それでだ。それに娘さんもだ」
「今はいないんだぜ?」
「幼稚園に行っている」
「ううん、じゃあ何もできないんだぜ」
「貴殿も仕事に戻ってはどうか」
 宇垣は韓国にも仕事を勧める。
「陸軍省にでも戻ってだ。どうだろうか」
「いや、俺は今日は非番なんだぜ」
「では。今は」
「そうなんだぜ。じゃあ外相の仕事が終わった時にまた来るんだぜ」
 そうするというのだ。
「じゃあその時に長官の家に遊びに行くんだぜ」
「遊びに行くのではないのだが」
 少なくとも宇垣にそのつもりはなかった。
「わしとしてはいい機会だからだ」
「どうするんだぜ?」
「見合いの話を持って行こう」
 やはり宇垣だった。世話焼きだ。
「よい縁談があるのだ」
「ここでもそれなんだぜ」
「男は身を固めてこそだ」
 四角四面ですらあった。宇垣は。
「だからだ。そうしよう」
「何か外相はかなり生真面目なんだぜ」
「それでよいのだ。国の責務を預かるからにはだ」
「その辺り山下さんや平良さんと似てるんだぜ」
「そうやもな。真面目でないのはだ」
「旦那だけなんだぜ」
「そうだ。全く以て困ったことだ」
 こう言ってなのだった。今は韓国は外に出て適当に遊んだ。それからだ。
 また外務省に来てだ。こう宇垣に言った。
「じゃあいい時間なんだぜ」
「そうだな。五時だ」
 自分の左腕の腕時計を見て韓国に応えた。
「では行くとするか」
「そうするんだぜ。旦那の家までワープするんだぜ」
「そうしたことが出来るところは国家は有り難いな」
「俺もそう思うんだぜ」 
 自分でも言ってだ。そのうえでだった。
 二人は東郷の家の前に来た。瞬時にだ。するとそこにだ。
 東郷がいた。彼は韓国と宇垣を見て二人に尋ねた。
「おや、これは珍しい顔触れだな」
「むっ、今帰ったところか」
「ええ、今日は仕事が早く終わったので」
 それでだとだ。東郷は宇垣に答える。
「それで娘を迎えに行って帰りです」
「その娘さん何処なんだぜ?」
 韓国がその東郷に尋ねる。
「一緒なんだぜ?」
「ああ。それにしても韓国さんな」
「俺がどうしたんだぜ?」
「俺の家に来てくれたのはじめてじゃないのか?」
 このことを言う東郷だった。
「ふと思ったんだがな」
「確かに。そういえばそうなんだぜ」
「そうだな。じゃあはじめて来てくれたからな」
「土産も持って来たんだぜ」
 韓国はキムチが詰まった壺を出して来た。それを日本に渡した。
「おかずにでもするんだぜ」
「悪いな。じゃあ貰っておくよ」
「そうするんだぜ。それで娘さん何処なんだぜ」
「あの、お父さん」
 ここでだ。小さい女の子の声がした。
「宇垣さんと誰が来てるの?」
「ああ、韓国さんが来てるんだよ」
「韓国さんってあの」
「その韓国さんだよ」
 変に有名な韓国だった。
「真希に会いたいそうだ」
「私になの?」
「そうだ。多少賑やかだが悪い国じゃない」
 韓国の騒々しさは統合も否定しない。
「出て来ていいぞ」
「うん、それじゃあ」
 こうしてだった。緑の長い髪にだ。
 藍色の大きな瞳にだ。幼いながらも楚々として明るい顔をしている。その耳には丸く白いヘッドホンがありその髪の毛の一部がはねている。
 黒と白のメイドのものを思わせる可愛らしい服を着ている。その彼女を見てだ。
 韓国は飛びあらがんばかりに喜んでだ。こう言うのだった。
「凄い可愛いんだぜ、予想以上なんだぜ」
「はっはっは、韓国さんから見てもそうか」
「そうなんだぜ。凄く可愛いんだぜ」
 実際にそうだと言う韓国だった。
「俺の妹の次に可愛いんだぜ」
「そこで妹さんの話を出すんだな」
「それは駄目なんだぜ?」
「いや、韓国さんらしくていい」
 だからいいというのだ。
「それじゃあだな」
「そうなんだぜ。こんな可愛い娘さんがいるなんて幸せなんだぜ」
 こう東郷に言う韓国だった。
「しかし。親父さんにあまり似てないんだぜ」
「ああ、真希は母親似なんだ」
 東郷がそうだと話す。
「だから俺にはあまり似てないんだ」
「成程、そうなんだぜ」
「そうだ。それでだが」
「それで。何なんだぜ?」
「折角家に来てくれたからな」
 それでだとだ。東郷は韓国だけでなく宇垣にも話す。
「二人共食事でもどうだろうか」
「一体何が出るんだぜ?」
「俺の手料理でいいだろうか」
 東郷はこう二人に話す。
「今から作るが」
「旦那料理できるんだぜ?」
「ははは、男やもめだからな」
 それでだとだ。東郷は笑って韓国に話す。
「自然と身に着けたんだよ」
「それ美味いんだぜ?」
 韓国は統合が料理を作ると言われてだ。大丈夫かという顔になって彼に問い返した。
「男の料理は正直かなり不安なんだぜ」
「お父さんのお料理凄く美味しいよ」
 しかしここでだ。真希がこう韓国に言った。
「一度食べたら忘れられない位だよ」
「そうなんだぜ?」
「韓国殿ははじめてここに来られたからな」
 今度は宇垣が韓国に話す。
「このことも知らないか」
「というか旦那戦いだけじゃなかったんだぜ」
「そうだ。この男は意外と器用なのだ」
 それでだとだ。宇垣は話す。
「美味い。このことはわしも保障する」
「ううん、じゃあ頂くんだぜ」
「それではな。共に馳走になろう」
 こうしてだった。二人は東郷の家の中に招かれた。その家の中は清潔で整理整頓も行き届いている。その家のリビングの中を見回してだ。
 韓国は意外といった顔でだ。東郷に言った。
「家で誰か雇ってるんだぜ?」
「御手伝いロボットは置いてるがな」
「そのロボットが掃除してるんだぜ?」
「毎日な。俺も掃除はしてるがな」
「ううん、この辺りは軍人らしいんだぜ」
 整理整頓をしていてしかも清潔にしているところはそうだというのだ。
「じゃあ洗濯もなんだぜ?」
「毎日しっかりとやらせてもらってるよ」
「それもなんだぜ」
「そうさ。それじゃあ魚のムニエルでいいな」
「辛く頼むんだぜ」
 韓国はムニエルも辛口志向だった。
「それじゃあ御馳走になるんだぜ」
「あと肉じゃがも温めるか」
「御主の得意料理だな」
 宇垣は肉じゃがと聞いて言った。
「それを食べさせてくれるのか」
「外相も肉じゃがお好きですね」
「あれは身体にいい」
 宇垣は東郷にこう返す。
「それにだ」
「それに、ですね」
「美味い。特に御主の肉じゃがはだ」
 こう東郷自身に言うのだった。
「是非共頂こう」
「はい、じゃあ今から作ります」
「宇垣さん、一緒に食べよう」
 真希は子供らしい無邪気な笑顔で宇垣に言う。
「お父さんのお料理ね。一緒にね」
「そうだな。子供はいいものだ」
 顔は厳しいままだがだ。宇垣の今の言葉は優しいものだった。
「この子供達の笑顔を守らなくてはな」
「外相子供好きだったんだぜ?」
「大好きだが」
「それも意外なんだぜ」
「ではわしが何を好きだったら意外ではなかったのだ」
「いや、そこまで考えてなかったんだぜ」
 韓国は宇垣にこう返す。
「けれど外相が子供好きっていうのは本当に意外なんだぜ」
「ははは、実はそうなんだよ」
 東郷はここでは韓国に笑って話した。
「宇垣さんはこれでも子供好きで幼稚園や孤児院に寄付もしてるんだよ」
「何っ、そこまでいい人だったんだぜ!?」
「そう、だから人望もあったりする」
「人望はもう知っていたんだぜ」
 韓国もだ。それはだった。だがそれでもだ。
 宇垣の子供好きは本当に意外でだ。こう言うばかりだったのだ。
「ううん、わからないものなんだぜ」
「全く。わしはどう思われているのだ」
「頼りになる外相ですが?」
「いや、どうもお節介だの融通が効かないだの石頭だのではないのか」
 実際にこう言われている宇垣だった。
「わしの評判はよくないであろう」
「いえ、そうでもないですよ」
 実際は違うとだ。東郷は穏やかな声で宇垣自身に話す。
「皆口ではそう言いますけれど外相を嫌ってはいませんよ」
「それはまことか?」
「もっと言えば軽蔑もしていませんし憎まれてもいません」
「ではわしは人気があるのか」
「あるといえばありますね」
 この辺りは結構真面目に話す東郷だった。
「少なくとも外相を嫌いな人間はそうそういないです」
「ならよいがな」
「そういえば俺も外相嫌いじゃないんだぜ」
 これは韓国もだった。
「確かに顔は怖いし融通が効かないし変なおっさんなんだぜ。加齢臭もするんだぜ」
「何気に言ってくれるのう」
「けれど公平で親切で真面目なんだぜ」
 宇垣の長所だった。どれも。
「しかも外相としてもそこそこ優秀なんだぜ」
「ではわしは外相合格か」
「俺はそう思うんだぜ」
「ならよいのだがな」
「ですから外相は嫌われる方ではないです」
 東郷もこのことを言う。
「それは俺も保証しますよ」
「御主もか」
「はい、提督としても優秀でしたから」
「提督か。懐かしいな」
 かつての提督時代のことをだ。宇垣は思い出しながら述べた、
「あの頃はわしも艦隊を率いて戦っておったわ」
「ええ。俺は部下にいなかったですね」
「御主が部下だったらその女好きを修正しておったわ」
 ここでも東郷の女好きを指摘する。
「全く。御主はどうしてそう不真面目なのだ」
「やる時はやるでいいじゃないですか」
「それがいかんのだ。やはり軍人たるもの常にだな」
「ははは、その話はまた今度ということで」
「今度ではない。大体御主はだ」
 どうかと話してだった。宇垣はだ。
 今度はだ。こんなことを言うのだった。
「真希ちゃんもいるのだ。この娘の為にやるべきことをやるのだ」
「娘の為にですか」
「わしはこれでも御主の資質は買っているのだ」
 だからこそだった。
「もっと言えばその人間性も。欠点だらけにしてもだ」
「おや、俺のことは嫌いではなかったのですか」
「好きとか嫌いは別だ」
 公平なのは間違いなかった。宇垣という男が。
 その彼がだ。東郷にさらに話すのだった。
「大体嫌いな者の家にこんなにいつも来るものか」
「やれやれ。素直ですね」
「わしは嘘は言わん」
 このこともだ。宇垣ははっきりと答えた。
「だからこそ言うのだ。御主もまたこの国の為にだ」
「勝ちますよ」
 東郷は微笑みながら宇垣に答えた。
「今度の戦いは」
「頼めるか」
「絶対に。北京に攻め込む用意は進めています」
「頼むぞ。くれぐれも」
「はい。ところでガメリカですが」
「相変わらずだ」
 その国のことをだ。宇垣は苦々しい顔で述べた。
「理不尽な要求を続けてきておる」
「そうですか。では今も」
「燃料の輸出を制限するぞと言ってきている」
「今度は経済制裁ですかね」
「そうだな。残念だが我が国は資源に乏しい」
 日本帝国の弱点だった。まさにだ。
「それをどうするかだが」
「だからこそ今の我が国に満州は必要です」
「あの場所には多くの資源があるからな」
「本当は中帝国と貿易した方が遥かに楽に安く手に入るんですがね」
 東郷のこの言葉にだ。韓国がすぐに問うた。
「何っ、じゃあ満州は中帝国のものでも構わないんだぜ?」
「そう、実はそうなんだ」
「資源が手に入るのならそれでいいっていうんだぜ?」
「その通り。貿易は戦争をするよりずっといいものだ」
「じゃあ何で戦争になるんだぜ。訳がわからないんだぜ」
「満州は今の中帝国皇帝家の故郷だった」
 そこから興った家だというのだ。中帝国皇帝家は。
「中帝国が強盛だった頃は貿易でいけたんだがな」
「今の中帝国は昔と比べてかなり衰えたんだぜ」
「だから満州をロシア帝国に取られた」
「あの野心的な国になんだぜ?」
「そう。あの国は暖かい場所を求めている」
 ロシアの特徴だった。これは。
「だから満州を狙っている。そしてだ」
「俺達もなんだぜ?」
「その通り。日露戦争のことは韓国さんも知ってるよな」
「ロシアが俺達を狙ってきたんだぜ」
「韓国さんがロシアの勢力圏になれば日本帝国も危うかった」
 韓国を前線基地として攻め入る。このことは火を見るよりも明らかだった。
 それでだ。こう言ったのだった。
「だからこそあの頃の日本帝国はロシア帝国と戦ったんだ」
「ううん、あの時の日本も日本人も傍から見ていて必死だったんだぜ」
「まさに乾坤一擲の勝負だったのだ」
 宇垣も話す。
「我々は勝たなくてはならなかった」
「そして勝ったんだぜ」
「左様。ロシア帝国は滅んだがソビエトになった」
 日本と戦ったその国はだというのだ。しかしだった。
 それでもソビエトという国がありだ。この国もまただというのだ。
「あの国はロシア以上に危険だ」
「世界を共有主義で覆おうとしてるんだぜ?」
「その通り。だから危険なのだ」
 宇垣は深刻な声で韓国に話していく。
「それを考えるとガメリカはまだわかりやすいのだ」
「わかりやすいんだぜ?」
「あの国は市場を狙っているのだ」
 宇垣は見抜いていた。ガメリカのことを。
「我が国の、そして中帝国の市場をだ」
「それで俺達に嫌がらせしてるんだぜ?」
「ガメリカの野望は太平洋全域を己の市場とすることなのだ」
「まあその為に俺達に嫌がらせをしてな」
 東郷がまた韓国に話す。
「俺達が太平洋の市場を独占するのを防ごうとしている」
「日本も俺もそんなつもりないんだぜ」
 韓国はすぐに述べた。
「ただ生きたいだけなんだぜ。今よりも少しでもいい暮らしをしたいだけなんだぜ」
「俺達がそう思っていてもそれができるってことが問題という訳さ」
「俺達がなんだぜ?」
「そう。中帝国は正直足元がかなりふらついてる」
 国として混乱があり衰えも見られるというのだ。
「それに対して日本帝国はしっかりしてるからな」
「だからなんだぜ?」
「そう。俺達を倒してそうして市場を手に入れる」
 太平洋の市場、それがだった。
「それがガメリカの目的ってことだ」
「じゃあ軍需産業とかは何なんだぜ?キリング家の」
「ああ、あれか」
「あれで戦争したいと聞いてるんだぜ。ガメリカは」
「軍需産業なぞ大して儲かるものじゃない」
 東郷はこのことはばっさりと切り捨てた。
「日本帝国にしても軍需産業なんて大して儲かるものじゃない」
「じゃあ何で戦争したいんだぜ?ガメリカは」
 ガメリカが戦争を望んでいる、近頃巷で言われていることを基にだ。韓国は東郷達に問う。真希はその横でムニエルを美味そうに食べている。既に食事がはじまっている。
「軍需産業の為じゃなかったんだぜ」
「他の産業の為さ。キリング家もその主な仕事は軍需産業以外だ」
「そうだったんだぜ」
「軍需産業は設備や技術への投資が半端じゃない」
 軍需産業のネックだった。収益という観点から見て。
「しかも受注は少ない。そんなものだからな」
「キリング家も大して力を入れていないんだぜ?」
「そう。ガメリカが日本帝国と戦争をした理由は」
「日本を倒して市場を独占したいのだ」
 宇垣はわかりやすく話した。
「太平洋の全ての市場をな」
「じゃあ俺達が弱かったら戦争にならなかったんだぜ?」
「そうなる。日本をそのまま市場にすればいいのだからな」
「ううん、段々わかってきたんだぜ」
「まず俺達日本にだ」
 東郷が再び話す。
「それにエイリスだ」
「あの国もなんだぜ」
「ガメリカは実は日本だけじゃなくエイリスもどうにかしたいと考えている」
 東郷は既に見抜いていた。ガメリカの真意を。
「大統領の下にいる四長官、四大財閥の四姉妹達は特にな」
「ああ、あの四人なんだぜ」
「あの四人はそのまま財閥の代理人、いやそのものだな」
 大統領の下にいてだ。ガメリカを動かしているというのだ。
「アメリカという国自体も四人の言うことをかなり聞いてるからな」
「戦争しようっていう悪い奴なのになんだぜ?」
「あの四人も悪じゃない」
 東郷はこのことは否定した。四姉妹が悪かどうかというとだ。
「彼女達もガメリカ、そして自分達の祖国のことを真剣に考えている」
「そうだったんだぜ」
「その通り。お互いに国益を考えて動いているということだ」
「だから俺達は下手をしたら戦争になるんだぜ?」
「その通り。だからガメリカはエイリスも何とかしたいと考えている」
「エイリスについてはどうするんだぜ?」
「噂では俺達にはオレンジプランという戦争計画を立てている」
 ガメリカは既にだ。そこまで考えているというのだ。
「そしてエイリスにもだ」
「考えているんだぜ」
「何だったか。ゴールドだったかブラックだったか」
 どちらにしろだ。エイリス相手の戦争計画も立案しているというのだ。
「エイリスとも戦うつもりだ」
「エイリスは世界一の帝国なのにそれでもなんだぜ」
「そう、ガメリカは元々エイリスの植民地だったがそのエイリスから独立した」
 歴史の話にもなった。ガメリカとエイリスの関係の。
「そしてやがてはそのエイリスの太平洋の市場も全て自分のものにしたいという訳だ」
「じゃあその為に戦争をするんだぜ?」
「エイリスと直接戦争をしなくてもいいがな」
 市場を手に入れることが目的だからだった。このことは。
「何につけてもガメリカは太平洋の市場を手に入れることを望んでいるってことだ」
「わかったんだぜ。何となくにしても」
「そうか。とにかく今はかなりキナ臭い」
 東郷は実感していた。海軍長官として。
「中帝国だけじゃなくガメリカとも戦争をすることはな」
「頭の中に入れておくことだ」
 宇垣も韓国に話す。
「そうしてくれると有り難い」
「わかったんだぜ。じゃあ妹にも言っておくんだぜ」
 韓国は自分の妹のことも話に出した。
「中帝国だけじゃないってことなんだぜ」
「正直中帝国やガメリカはある程度どうにかなるんだがな」
 この二国についてはだ。東郷は憂慮していたが極めて深刻なものではなかった。
「日本を倒したいとは思っていても滅ぼしたいとまではあまり考えてないからな」
「しかしソビエトは違うのだ」
 宇垣は東郷に合わせてこの国の話を出した。
「あの国は今では暖かい場所だけではなく世界の全てを共有主義にしたいからな」
「あのカテーリン書記長は危険過ぎる」
 東郷は今のソビエトの指導者であるこの人物の名前を出した。
「ゾルゲとかいう工作員は日本にも来ている」
「あの男は何者なのだ?」
 宇垣もそのゾルゲという名前に反応してだ。東郷に問うた。
「只の工作員ではないな」
「尋常じゃない。言うなら超人ですね」
 それだとだ。東郷は宇垣に話した。
「我が国で言うと明石大佐です」
「あの者に匹敵するか」
「油断できません」
「ううむ、ソビエトを第一に何とかしたいのだが」
「状況はそれを許しませんね」
「全く。厄介なことだ」
 宇垣は目を顰めさせて言った。
「しかし今は中帝国と戦うしかないか」
「はい、北京にこちらから攻め込みますので」
「頼んだぞ」
 宇垣は東郷に告げた。そうしてだった。
 話が一段落したところでだ。真希が三人に言ってきた。
「ねえ、肉じゃが美味しい?」
「ああ、これなんだぜ」
「韓国さん肉じゃが好き?」
「美味いんだぜ」
 唐辛子をたっぷりとかけながら食べてだ。答える韓国だった。
「これが旦那の料理なんだぜ」
「そうだよ。だから一杯食べてね」
「言われなくてもたっぷりと食うんだぜ」
 真希に笑顔で応えながらだった。
「この通りなんだぜ」
「うん、じゃあ真希も食べるよ」
「そう。子供は食べるべきだ」
 宇垣も暖かい目で真希に話す。
「そうして大きくなるのだぞ」
「宇垣のおじちゃんいつもそう言うよね」
「ははは、子供は国の宝だ」
 こうも言う宇垣だった。
「ならば大事にせねばな」
「それでなのね」
「そうだ。なら食べるのだ」
 無論自分も食べながら言う宇垣だった。
「よいな。それではだ」
「うん、今日もたっぷりと食べるよ」
 こんな話をしてだった。彼等は。
 明るく楽しくだ。肉じゃがにムニエルを食べた。その次の日だ。
 韓国は日本にだ。笑顔で東郷の家のことを話していた。そして言うのだった。
「あの肉じゃがってのは最高なんだぜ」
「東郷さんの得意料理のですね」
「そうなんだぜ。あんな美味いものはじめてなんだぜ」
「あのお料理は実は私が最初に作ったのです」
 日本はここでこのことも話した。
「ビーフシチューから」
「ビーフシチュー!?エイリスの?」
「はい、あれからです」
「いや、全然違うんだぜ」
 韓国は真顔で日本の今の話を否定した。
「味も何もかも」
「そうですね。全く違いますね」
「それでどうしてあれがエイリス起源なんだぜ」
「実は。ある方にビーフシチューを作ってくれと言われたことがありまして」
「上司の人なんだぜ?」
「はい、少し前にある方に」
 それが誰かは言わない日本だった。しかしだった。
「その方に是非にと言われまして」
「それで作ったんだぜ」
「ところが私はビーフシチューの作り方を知りませんでした」
「デミグラスソースとか知らなかったんだぜ?」
「はい、そうです」
 このことも話す日本だった。
「トマトやああしたものを使うことも」
「それでどうしたんだぜ?」
「御肉とジャガイモ、それに人参やタマネギを使うことは聞きました」
 その上司にだというのだ。
「ですからそれをお鍋に入れて」
「それからどうしたんだぜ?」
「お酒にみりんにお醤油を入れました」
「それ完全に和風なんだぜ」
「はい、本当にどういったものかわからないので」
 それでそうした作り方にしたというのだ。
「御鍋で煮て作りました」
「ううん、今わかった衝撃の事実なんだぜ」
「それで食べてみたところ」
 その味がだというのだ。
「あの味だったのです」
「それでできたんだぜ」
「そうだったのです」
「ううん、かなり凄い話なんだぜ」
 韓国は腕を組んで唸った。ここまで聞いて。
「けれどあの味はかなりなんだぜ」
「美味しいですね」
「ビーフシチューは俺も知ってるんだぜ」
 エイリスのだ。あの料理はだというのだ。
「エイリスの料理にしてはかなり美味いんだぜ」
「そうですね。エイリスはお世辞にも美味しいものは」
「全くないんだぜ」
 韓国はこうまで言った。エイリスの料理について。
「あんな飯のまずい国はないんだぜ」
「エイリス大使館で御馳走になった時のことですか」
「よくあんなの食えるんだぜ」
 晩餐会でのそれを思い出しながらだ。韓国は日本に忌々しげに話していく。
「あそこまでまずいともう芸術なんだぜ」
「私はそこまで言いませんが」
「それであの眉毛何て言ったんだぜ」
 韓国はある国の名前を出した。
「ほら、あのエイリスから出て来た」
「ああ、イギリスさんですね」
「あいつが作った料理は本当に最悪だったんだぜ」
「あの、韓国さんひょっとして」
「んっ、何なんだぜ?」
「イギリスさんのことを御存知ないのですか?」
 日本は韓国の話からこのことに気付いたのである。
「あの方のことは」
「俺どうでもいい奴のことは覚えない主義なんだぜ」
「いえ、イギリスさんはエイリスの主要国家ですが」
 そのエイリスのだ。軸であるというのだ。
「その方のこともですか」
「俺は中国の兄貴とアメリカさんのことは知ってるんだぜ」
 何故かこの二人には低姿勢の韓国だった。
「それでもそんな奴のことは知らないんだぜ」
「では欧州の方々のことは」
「俺は太平洋の人間なんだぜ」
 胸を張って言う韓国だった。
「だから欧州のことなんて知らないんだぜ」
「ではドイツさんのことは」
「ドイツは知ってるんだぜ」
 この国のことはだ。韓国も知っていた。そのうえでの言葉だった。
「ドクツの主要国家なんだぜ」
「その通りです。ですがイギリスさんもドイツさんも」
「どうしたんだぜ?」
「原初の八国なのですが」
 そうした国だというのだ。この両国は。
「私や中国さん、アメリカさんと同じく」
「何っ、そうだったんだぜ」
「はい。私達はそうなのです」
 このことをだ。日本は韓国に話した。
「気付いたらこの世界にいて。人間の方々と共にいましたが」
「ううん、そんな古い奴だったんだぜ」
「その時は人間の方々はまだまだ少なかったです」
 日本は自分が国家として意識を持った頃のことを思い出しながら韓国に話していく。
「ただ。柴神様はおられました」
「あの人はなんだぜ」
「はい、おられました」
 柴神はだ。その頃からいたというのだ。
「人類より前かその誕生と共におられた様です」
「あの神様そんなに古かったんだぜ」
「私達八人にも色々と教えて頂きました」
 日本は柴神に受けた恩も忘れていなかった。だが、だった。
 韓国にだ。こうも話したのだった。
「しかし何時この世に出て来られたのかは」
「日本も知らないんだぜ?」
「どなたも御存知ない筈です」
「八国全部がなんだぜ」
「そうです。どなたも御存知ありません」
 そうだというのだ。
「どういう訳か」
「ううん、不思議に過ぎるんだぜ」
「何か妙に恐れている感じが。その頃には強くありました」
 日本が生まれた。その時はだというのだ。
「今はそうでもないですが」
「何かに?」
「はい、何かにです」
 日本は少し怪訝な顔で韓国に話す。
「その何かがわかりませんが」
「ううん、柴神さんにも謎があったんだぜ」
「原始から人間と共にいる方ですが」
「それじゃあ創造神なんだぜ?」
「さて、それもよくわからないのです」
 柴神がどういった神かもだ。日本はわからなかった。
 それで再び首を傾げさせてだ。また韓国に話した。
「柴神様御自身はそのことを否定されていますし」
「最初からいるのに創造神じゃない?」
「この世界を創造した神がいないということも有り得ないですし」
「謎が謎を呼ぶんだぜ」
「はい、私もそう思います」
 こうした話をしながらだ。日本は柴神やこの世界のことを考えていた。それは長い間人類と共にいる彼にしても知らず、そしてわからないことだったのだ。


TURN4   完


                            2012・2・15



今回は東郷の娘も出てきてのんびりと夕食って感じかな。
美姫 「ほんわかな感じよね」
まあ、最後は結構、シリアスな話だったけれどな。
美姫 「結構、重要な話よね」
まあ、その謎について今は特にって感じになるかもしれないがな。
美姫 「まあ、目下の所は次の戦いだものね」
さて、次はどんな話になるのかな。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



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