『ヘタリア大帝国』




                          TURN3  新生連合艦隊

 東郷は秋山と共に日本のところに向かった。するとだ。
 日本の家には他の国家も集まっていた。見れば全員揃っていた。
「ああ、これは都合がいいな」
「私達にとっては距離は関係ないですから」
 その日本が東郷に話す。今彼等は日本の屋敷の応接間にいる。茶室を思わせるが広い部屋だ。東郷と秋山はそこで日本の淹れた抹茶と和菓子を振りまわれながら話に入っていた。
 その中でだ。日本は言うのだった。
「御呼びとあらばすぐに参上します」
「そうだな。人間もそうして瞬間移動できればな」
「かなり楽ですか」
「何かとな。まあそのことは置いておいてな」
「はい、お話の本題ですね」
「祖国さん達に頼みたいことがあるんだ」
 日本だけでなく他の国家にも言ったのである。
「前の戦いで祖国さんは第二艦隊を率いてくれたな」
「はい、そうさせて頂きました」
「それを全部の国家にしてもらいたい」
 こうだ。日本達に告げたのである。
「六人・・・・・・と呼ばせてもらう、今はな」
 国家を擬人化して捉えてからの言葉だった。
「とにかく今国家は兄弟を入れて六つ」
「その私達全員にそれぞれですね」
「ああ、艦隊司令になってもらいたい」
 こう日本達に話すのだった。
「提督の仕事をしてもらいたい」
「わかりました。では私でよければ」
「お願いします」
 まずは日本と日本妹が応えた。そしてだ。
 続いて日本兄妹と同じく海軍の軍服を着ている韓国妹と台湾兄もだ。こう東郷に答える。
「私もそうさせてもらいます」
「是非共」
「わかった。じゃあ頼むな」
 東郷も彼等に応える。この四人はこれで決まりだった。
 だがここでだ。問題となるのは。この二人だった。
 まず韓国がだ。少し不満気にだ。こう東郷に言った。
「俺はちょっと無理なんだぜ」
「ああ、そうだな」
「俺は基本陸軍なんだぜ」
 見れば軍服がそれだった。韓国が今着ているのは陸軍の軍服である。そして台湾もだ。ズボン、見ればどの女性国家もそれであるが彼女だけは陸軍のズボン姿で言うのだった。
「私もです。陸軍ですから」
「提督になるのはだな」
「山下さんにお話を通してもらわないと」
「駄目なんだぜ」
「そうだな。あんた達の話は陸軍さんと少し話をしよう」
 東郷は韓国と台湾についてはこう答えた。
「だが。提督になることはな」
「それはなんだぜ?」
「考慮して欲しいということですね」
「そう。どの国も国家が提督をやる時代だ」
 それは日本だけではなくなっていた。他の国もなのだ。
「それならな。祖国さん達にも頼みたい」
「私としても異存はありません」
 日本が再び東郷に答える。
「国民の皆さんと共に戦わせてもらいます」
「有り難い。それじゃあな」
「はい。ですが」
 ここでだ。今度は日本からだ。東郷に言ってきたのだった。その言ってきたこととは。
「人間の提督の方も必要ですね」
「ああ、そのことだな」
「このことについては何かお考えが」
「ある。日本さんのところの第二艦隊だが」
「私の艦隊ですか」
「一旦海軍省に来てくれるか?」
 東郷は気さくに笑って日本に述べた。
「そこであらためて話をしたんだが」
「畏まりました。それでは」
「では山下さんについてはです」
 日本が東郷に応えたところでだ。台湾がこう言ってきた。
「私達からお話させてもらいますね」
「ただ。ちょっとどうなるかわからないんだぜ」
 韓国は眉を曇らせて東郷に話す。
「あんたと山下さんの仲を考えると俺も不安なんだぜ」
「まあそれはな。色々と話すさ」
「そうですか。ではとりあえずは」
「山下さんには俺達から話しておくんだぜ」
 こう話してだった。陸軍のことは台湾達に任せてだ。
 そしてそのうえでだ。東郷と秋山は日本と共に海軍省に戻った。そしてそこでだ。
 ある面々を呼んだ。彼等はというと。
「お呼びですか?」
「ああ、ちょっとな」
 まずは小澤に応える東郷だった。彼女の他にだ。
 南雲と田中もいた。それに皺だらけの白髪に白い顎鬚、頬髯とそのまま一緒になっている髭を持った老齢の男もいた。顔は日に焼けて年齢こそ感じさせるが明るい。
 その老人の横には豊満な肢体に紫がかった長い絹の様な黒髪に鳶色の優しい瞳にだ。穏やかな表情の女もいる。服はピンクのナースの服と帽子だ。
 その二人も入れてだ。五人を置いた。
 その五人に対してだ。東郷は微笑んで言った。
「俺が第一艦隊でな」
「そうしてです」
 東郷に続いてだ。秋山も述べる。
「小澤さんが第二艦隊です」
「私が提督に」
「はい、そして南雲さんと田中君は第三、第四です」
「へえ、出世したねえあたしも」
「へっ、当然だな」
 南雲は明るい微笑みで、田中は威勢よく応える。
「そして山本無限さんは第五艦隊をお願いします」
「わしにもう一度艦隊を指揮させてくれるのか」
「宜しくお願いします」
 東郷もだ。この老人には丁寧な口調だった。
「今の状況では是非にと思いまして」
「わかった。それではこの老いぼれも及ばずながらな」
 戦うとだ。山本は右目を瞑ってみせて微笑んで答えた。
「ではやらせてもらおう」
「ですが山本さんは無理はできません」
 ここでこの女が言う。心配する顔で。
「この前も何とか大病から復帰したばかりですから」
「おいおい、そう言うのか」
「はい、ですから私としては」
 勧められないとだ。困った顔で述べる女だった。
「あまり遠出は」
「それは俺もわかっている」
 東郷は女にも答える。そしてだ。
 まずはだ。その彼女にこう問うたのだった。
「ところで君名前は」
「はい、古賀ひとみです」
 女は問われるまま己の名を名乗った。
「山本さんの専属看護士を務めています」
「そうか。では君は山本の爺さんの副官を頼む」
「私がですか」
「そうだ。ナースが傍についていてくれると何かがあっても安心できる」
 だからだというのだ。
「そうしてもらえるか」
「そしてそのうえで、ですね」
「山本の爺さんさえよければな」
 頼むというのだ。提督のことも副官のこともだ。
「それでどうでしょうか」
「ははは、わしは構わん」
 山本は明るい笑顔で東郷に応える。
「最近提督の仕事がなく暇でな」
「お酒と博打ばかりだったんですよ」
 古賀が困った顔でこう言う。
「特にお酒は止めて欲しいのですが」
「酒は百薬の長じゃ」
 山本は呑んべの言い訳を堂々と言ってみせた。
「だからかえって飲まんとな」
「御身体に毒です」
「いやいや。酒は薬じゃよ」
 こう言って全然反省する素振りを見せない山本だった。古賀はその山本の横で困った顔になっている。だがそれでもだった。彼も提督になった。
 こうして五個艦隊が決まった。そのうえでだ。
 東郷はだ。日本にも言った。
「それで祖国さん達はだ」
「第六艦隊以降でしょうか」
「いや、他の国の編成と同じにしたい」
「他の国のものとですか」
「国家艦隊だな」
 この世界独特の編成だ。国家が提督を務める艦隊はこう呼称されるのだ。旗艦はそれぞれの国家が自動的に持っている。しかもこの旗艦は国家の成長と共に変化する。
 そしてその編成をだ。東郷は踏襲するというのだ。
「将兵はまた用意するとしてだ」
「では私達は」
「そうだ。国家艦隊になってもらう」
 それがこれから日本達が指揮する艦隊だというのだ。
「とりあえずは一から四だな」
「わかりました。それでは」
「これで九個艦隊になったな」
 国家艦隊と合わせてだ。それだけになった。
 だが東郷は難しい顔でだ。こう言うのだった。
「しかしまだ足りないな」
「はい、中帝国軍の艦隊は優に百を超えます」
「流石に人口が違うな」
「まず日本星域に五十億です」 
 秋山は人口の話もした。
「そして韓国と台湾を合わせて三十億です」
「合わせて七十億。それに対して中帝国はな」
「六百億です」
 これが中帝国の人口だった。
「ガメリカの百五十億と比べてもかなりのものです」
「そもそも人口が違う」
「そして資源もです」
「我が国の弱点は資源がないことだからな」
 とはいっても東郷はこのことについても飄々としている。
「どうしても艦隊の数がな」
「かなり劣っています」
「幾ら艦艇の質が上でも九個艦隊と百個艦隊じゃな」
「勝負になりません」
 秋山は難しい顔のまま東郷に話す。
「それをどうするかですが」
「まだ艦隊が必要だな」
 これが東郷の出した結論だった。
「問題は誰を提督にするかだが」
「韓国さんと台湾さんにその国家艦隊の司令になってもらうにしても」
「まだ十一だ」
「それではまだです」
「十倍の敵なぞそうそう相手にはできない」
 東郷はこの現実を指摘した。やはり戦争は数なのだ。
「だからこそな」
「より数が必要ですね」
「そうだ。他に提督はいるだろうか」
「私では駄目か?」
 ここで新たな声がしてきた。見ればだ。
 海軍の軍服を来ただ。犬がいた。見ればだ。
 その顔は薄茶色の柴犬の顔だ。尻尾まである。ただ肉球の前足にしろ人間に似た身体つきではある。それを見るとワーウルフを思わせる。
 その犬人がだ。急に出て来て東郷達に名乗り出たのだった。
「私も艦隊司令になっては」
「あっ、柴神様」
 日本がその犬人を見て言う。
「まさか柴神様も提督に」
「国家の危機だ。それではな」
「そう、柴神様にも声をかけようと思っていました」
 東郷もその柴神に対して言うのだった。
「丁度いいです。こんな時期ですから」
「そうだな。では及ばずながらな」
「艦隊司令をお願いします」
「それではな」
「これで十二個艦隊だな」
 東郷は柴神も提督になることを引き受けてだ。こう言ったのだった。
「まあ韓国さんと台湾さんが提督になってからだけれどな」
「ですが十個艦隊は確保できました」
 秋山が述べる。
「さしあたってはこれでよしとしますか」
「だがそれでもまだな」
「艦隊の数が足りませんね」
「中帝国と戦うにはな。まだな」
「では他の提督は」
「平良少将はまだ怪我から回復されないのですか?」
 小澤がぽつりとだ。彼の名前を出した。
「あの方は」
「ああ、傷が思ったより深い」
 それでだとだ。東郷は小澤に対して答えた。
「それでな」
「まだ復帰されませんか」
「そうだ。復帰できたらすぐに提督になってもらいたい」
 東郷としても切実だった。提督の人材確保は。
「だが少なくともな。あるだけでな」
「戦わないといけないからね」
 南雲がここで言う。
「まあこの十個か十二個の艦隊でとりあえずやるかい?」
「へっ、幾らでも暴れてやるぜ」
 田中は数を問題にしていなかった。
「中帝国だろうが何でもな」
「とはいっても数は大事じゃな」 
 山本もだ。このことを重要視していた。それでだ。
 柴神と日本にだ。こう尋ねたのだった。
「それで神様と祖国さんに聞きたいんだがな」
「うむ、何だ」
「何のことでしょうか」
「とりあえず艦艇も必要じゃ。乗組員はまだ何とかなってもな」
「そのことか」
「確かに。それが問題になりますね」 
 柴神と日本も山本の言葉に応える。そしてだ。
 その中でだ。柴神が言うのだった。
「艦艇は方法がない訳でもない」
「ほう、あるのか」
「何も軍艦にこだわることはない」
 こう言うのだった。
「水族館に行ってだ」
「そうですね。古代の様にです」
 日本もだ。柴神の言葉に応えて続く。
「お魚や動物を使えばいいですね」
「魚!?」
 二人のその話を聞いてだ。秋山がだ。 
 怪訝な顔になりだ。こう二人に問い返した。
「今何と」
「だからだ。魚や動物を艦艇にしてだ」
「そうして戦われればいいのです」
「そんなことができるのですか!?」
 秋山は唖然とした顔になって二人にまた問い返した。
「あの、鮫やエイですよね」
「そうだ。幸い水族館にも動物園にも使える種類が何匹ずつもいる」
「それを使えばいいのです」
「まさか。そんなことができるとは」
「私達の力を介する必要があるがな」
「それでもできますので」
 そのことは大丈夫だというのだ。
「では艦艇はそれでいいな」
「それぞれ癖はありますがかなり使えますので」
「しかし。軍艦ではなく魚や動物に乗り込んで戦うとは」
 このことがどうしてもだった。生真面目で常識人の秋山には拒否反応があった。
 それでだ。戸惑いながらまだ言おうとする。しかしだった。
 当の東郷はだ。落ち着いた顔でこう言うのだった。
「よし、ではそれでいこう」
「長官、いいのですか?」
「今は艦艇も不足気味だからな」
 それでだ。いいというのだ。
「人員は八十億、つまりだ」
「韓国と台湾からも募兵するからですね」
「それは足りる」
 将兵についてはそうだった。八十億で十個艦隊、それではだった。
「一隻で精々千人かその辺りだ」
「はい、海軍は百万で陸軍も同程度です」
「軍人の数自体はそんなにいらない」
 この時代ではそうなっていた。惑星、星域間の戦闘の時代になってからはだ。
「だから正直将兵の数はな」
「さして問題ではないと長官は見ておられたのですか」
「ああ。軍人だけ多くても仕方がない」
 ひいてはこうも言う東郷だった。
「問題は艦艇だったからな」
「そしてその艦艇がですか」
「それでこと足りるならいいことだ」
「魚や動物でもですか」
「構わない。では艦艇の問題はこれで解決された」
 東郷は微笑み素っ気無く述べた。
「しかも何匹ずつもいるのなら。強力な艦隊が幾つもできるな」
「割り切っておられるといいますかその」
「使えるのなら何でも使うさ」
 東郷の言葉はここでも素っ気無い。
「何しろ俺達は生き残らないといけないからな」
「それ故にですね」
「そういうことだ。それじゃあな」
「わかりました。では水族館や動物園から出して来て」
「乗り込もう」
「艦艇化は私達に任せてくれ」
 柴神が人間達に話す。
「それで幾らでも艦艇にしたり元に戻したりできる」
「ではそうさせてもらいますので」
「そういうことでお願いします」
 秋山はまだ釈然としないがそれでもだ。柴神と日本の言葉に頷いた。しかしだった。東郷は艦艇が確保できてもだ。まだこんなことを言うのだった。
「しかし通常の艦艇の質の向上、技術革新はしておかないとな」
「そのことですね」
「そうだ。それはどうするかだな」
 東郷はこのこともだ。秋山に話した。
「一体どうするのか」
「それなら平賀博士に会われてはどうでしょうか」
 すぐにだ。東郷に日本が述べる。
「科学長官ですから」
「ああ、平賀博士か」
「はい。あの方が技術を担当しておられますから」
「わかった。では今度は科学技術庁に行こう」
 東郷はすぐに決断を下した。
「すぐにな」
「わかりました。では今度はですね」
「戦いは長くかも知れない。それに常に備えはしておくべきだ」
 東郷は中帝国との戦いだけを見てはいなかった。それから先も見ていた。
「技術革新は常にしておかないとな」
「はい、では私も同行させてもらいます」
 秋山も応えてだ。今度はだ。
 東郷は科学技術庁に赴いた。秋山に柴神、それに日本が同行する。そして科学技術庁に入ると。
 そこは科学に化学、機械に生物が複雑に混ざっていてそのうえで白衣の者達がせわしなく動き回っていた。まるで建物自体がだ。研究所だった。
 その中でだ。東郷は白衣の美女に尋ねた。
「ああ、一つ聞きたいんだがな」
「あっ、海軍長官ですか」
「そうだ。平賀長官は何処におられる?」
 このことをだ。東郷は美女に単刀直入に尋ねた。
「自分の部屋か」
「はい、そうです」
 その通りだとだ。白衣の美女は東郷に答えた。
「地下の一番下の階におられます」
「そこか。しかし地下が」
「そこが一番研究に向いているとのことなので」
「普通長官の部屋は上にあるものだがな」
 人間の習性としてだ。立場にいる者は上の方にいきたがる。このことは東郷も知っている。
「またそれは変わってるな」
「いえ、あの方はそうした方でして」
 ここでまた日本が東郷に説明する。
「そうしたこともです」
「普通なのか」
「あの方にとっては」
「成程な。それじゃあな」
「御会いになられるのですか?」
「だから来たんだ」
 そうだとだ。東郷は美女に微笑んで答えた。
「有り難う。では今から行かせてもらう」
「それはいいのですが」
「今度が何だい?」
「長官は非常に気難しい方といいますか」
 口を濁らせながらだ。美女は東郷に答える。
「癖があるといいますか」
「ほう、そうした人なのか」
「ですから。くれぐれもです」
「ははは、世の中には色々な人間がいるものさ」
 そう言われてもだ。東郷は全く動じない。
「そうでないと面白くとも何ともない」
「そうですか。それでは」
「ああ、じゃあ地下のだな」
「はい、最下階です」
 そこだとだ。美女は東郷にあらためて告げた。それを受けてだ。
 東郷は秋山に日本、そして柴神と共にだ。エレベーターでその最下階に降りた。そのエレベーターの中でだ。
 日本がだ、こんなことを言った。
「そういえば平賀さんと御会いしたのは」
「私もだ」
「久方ぶりになりますね」
「そうだな」
 柴神もだ。日本のその言葉に応える。四人でエレベーターで降りながら。
「私もあの者に会うのはな」
「いつもこの最下階に篭もっておられて」
「自宅にも帰っていないらしいな」
「その様ですね」
 日本と柴神はこう話していく。
「それ程まで御自身の研究に没頭されている様ですが」
「それはいいことだ。しかしだ」
「はい。折角美貌も持っておられますから」
 日本は残念そうに述べた。
「もう少しお外に出られてもいいと思いますが」
「全くだな。しかしそうしたことはだ」
「御自身が決められることです」
「我々が言うことではないからな」
 こんなことを話す二人だった。そしてだ。
 彼等は四人でだ。その最下階に降りだ。そこにある多くの部屋の中のだ。長官室と札がかけてあるその部屋の扉の前に来てだ。すうにその扉を開けた。
 するとそこには様々な研究器具に設計図、それに生物実験の道具にだ。他にも様々なものが薄暗い部屋の中にあった。中には犬や猿までいる。
 そしてだ。小柄な少女もいた。
 紫の長い髪を無造作に後ろで束ねている。大きいダークブラウンの瞳に幼女の顔をしている。形のいい眉が前髪の中からのぞいている。
 丈の短いワンピースのスカートの上に丈の長い白衣を羽織っている。その白衣にはスクリューや様々な道具がある。
 髪の毛や服にだ。金色の時計やベルトが付けられていて右手には大きなスパナがある。そして頭には煙管を背中に括りつけられている黒地で虎模様。腹と四本の足首が全て白くなっている金色の目の猫がいる。
 その少女にしか思えない白衣の女を見てだ。秋山が言った。
「子供・・・・・・ですか」
「無礼者!」
 突如としてだ。女の方から声がしてきた。
「子供とは何だ!控えおろう!」
「むっ、声はするが」
 東郷はその声を聞いて女を見た。しかしだ。
 女は口を開いていない。では誰が喋ったのか。
 東郷は少し考えた。そしてだ。
 こうだ。自分からも女に言うのだった。
「君がか。その平賀長官か」
「博士でもいいぞ」
 また声がしてきた。
「平賀津波。日本帝国科学技術庁長官である」
 再び声がしてきた。
「これでわかったか」
「ああ、よくわかった」
 東郷はその声に対して微笑んだ。そしてだ。
 そのうえで女のところに近寄りだ。猫を見て言うのだった。
「喋っているのは御前だな」
「むっ、わかったのですか」
「わかるさ。そうか喋る猫か」
「そういう御前は」
「ああ、東郷毅だ」
 東郷は微笑んでその黒いトラ猫に話す。
「海軍長官だ。宜しくな」
「あの女好きという」
 その猫がだ。さらに言う。
「御前があの海軍きっての問題児の男なのですか」
「ははは、俺はどうも有名人らしいな」
「むう、全く動じませんね」
「それで何で猫が喋ってるんだ?」
 東郷はあらためて猫に尋ねた。小柄な少女の頭の上にいる猫を見下ろしながら。
「元々喋れる猫だったのか?」
「はっはっは。よくぞ聞いてくれました」
 その質問を待っていた様だった。猫は誇らしげに笑ってだ。
 そのうえでだ。こう東郷に言ったのだった。
「まず私の名は久重といいます」
「それが御前の名前か」
「そうです。そして何故私が喋れるのか」
 そのことも話す久重だった。
「それは私が津波様に声帯と頭脳の手術を受けまして」
「それで喋れる様になったのか」
「津波様はお喋りが非常に苦手ですから」
「はい、実は長官はです」
「無口なのだよ」 
 日本と柴神がここでその平賀に対して説明する。
「非常に優秀な科学者であられますが」
「どうもな。昔からな」
「昔からですか」
 秋山がここで二人の言葉に尋ねた。
「では平賀長官は」
「女性の年齢については申し上げません」
 日本はこのことはだ。あっさりと止めた。
「そういうことでお願いします」
「わかりました。それでは」
「とにかくだ。こうしてその猫を己の代理として喋らせているのか」
 柴神もその平賀に対して言う。
「己が喋る代わりに」
「はい、そうです」
 久重は柴神にも答える。
「それで私が改造されたのです」
「そういうことだな」
「そういうことで柴神様も祖国様もお願いします」
 こう言う久重だった。そしてだ。
 東郷は久重を見ながらだ。そのうえでだ。その身体全体をまじまじと見てだ。
 そのうえでだ。髭を引っ張ってみた。
「にゃにゃっ!?」
「髭は普通か」
「な、何するんですか一体!?」
 久重は髭を引っ張られてだ。慌ててもがきながら東郷に抗議する。
「髭は止めて下さい髭は!」
「普通の猫と変わらないな」
「敏感なんですう。止めて下さいよ」
「わかった。それではだ」
「はい。それでなんですけれど」
 あらためてだ。久重は東郷に言ってきた。
「津波様からお話があります」
「わかった。では何だ?」
「東郷だったな」
 久重の口調ではなかった。彼の口からの言葉だが。
「御前は戦争は何だと考えている」
「戦争がか」
「そうだ。戦争は気合や根性があれば勝てると思っているか」
 平賀自身も東郷を見上げながら問う。
「それはどうなのだ」
「愚問だな」
「愚問か」
「確かに気合や根性、精神も必要だ」
「しかしだな」
「戦争は数に補給、それにだ」
 それに加えてだった。
「技術だ。それも必要だ」
「言ったな、確かに」
「ああ。我が国にもな」
 日本にもだというのだ。
「航空母艦が必要だ」
「そう言うのか」
「そうだ。ガメリカやエイリスの様にな」
「わかった。では航空母艦の開発は進めておく」
「他の艦艇もな」
 東郷の注文は続く。
「今の第一世代の艦艇からさらに発展させたいがな」
「第二、そしてだな」
「第三、第四だ」
 そうしただ。発展していかせたいというのだ。
「戦艦だけじゃなく空母もとにかく欲しい」
「何はともあれか」
「空母はかなりの戦力になる」
 東郷は確信していた。このことを。
「今魚を使うことにした。魚によっては小魚を出してだ」
「航空機の様に使えるものもあるな」
「それを参考にできるか」
「わかった、やってみよう」
 平賀も答える。そしてだった。
 今度は久重がだ。自分から言ってきたのだった。
「にゃっはっは、津波様は天才なのです」
「それはわかる」
「その津波様にかかればどんな艦艇もすぐにできるのです」
「だから期待しているがな」
「後は兵器を運用する側です。それで東郷」
 東郷にだ。言うのだった。
「御前はその采配で津波様の兵器を活かすのです」
「わかってるさ。それが俺の仕事だ」
「頼むのです。ただ御前はです」
「俺が?何だ?」
「途方もない女好きだと聞いています」
 このことは彼も知っている様だ。
「それで津波様も申しております」
「俺のことをか?」
「だから一度会ってみたいと。そしてです」
「そしてか」
「中々いい男だと。津波様は申して・・・・・・にぎゃっ!?」
 久重が言おうとするとだ。急にだった。
 平賀は右手に持っているその大きなスパナで久重の頭をぐりぐりと責めだした。そうされてだ。久重は慌てふためきながら主に対して述べた。
「お許し下さい!スパナは駄目なんです!」
「・・・・・・・・・」
「わかりましたもう言いません。失言は撤回します!」
「・・・・・・・・・」
 久重の謝罪の言葉を受けてだ。ようやくだった。
 平賀はその手を止めて久重は助かった。それを見てだ。
 東郷はだ。こう呟いたのだった。
「何かと大変だな、猫も」
「いえいえ、よくあることですから」
「よくあるのか」
「そうです。それとですね」
「それと?まだ話はあるのか」
「はい。津波様が申しております」
 立ち直ってすぐにだ。久重が言って来た。
「艦艇はどうにかなりそうだがその艦隊を率いる提督の数は足りているのか」
「そのことか」
「そのことはどうなのかと」
 久重は自分の口から平賀の問いを伝える。
「津波様が御聞きです」
「正直に言うと不安だな」
 東郷は隠すことなく答えた。
「今俺を含めて人間が指揮する艦隊が五つ」
「そしてですね」
「柴神様と祖国さん達の指揮する国家艦隊等が五つ、若しかしたら七つになるかも知れない」
「十、若しくは十二ですね」
「対する中帝国軍は百個艦隊を超える」
 東郷は平賀とその代理の久重にこのことも話す。
「正直相手にするのは厄介だな」
「ではだ」
 久重は今度は完全に平賀の言葉だった。
「四個艦隊を指揮する者達を出そう」
「四個か」
「そうだ。四個あれば少しは違うな」
「十六個、確かにな」
 十二と十六ではかなり違っていた。今の日本では。
「それだけあればな。隙を見て攻めることもできる」
「ではだ。こちらから派遣しよう」
 久重が言うとだ。ここでだ。
 手長猿にパンダ、それに犬と猫が出て来た。その彼等を出してだ。
 平賀はだ。やはり久重の口から述べてきた。
「この者達が艦隊を指揮する」
「何と、動物がですか」
「そうだ」
 平賀は秋山にも答える。
「動物だが久重、つまり私ですね」
 ここでは久重の言葉も入る。
「私と同じくです」
「言葉も喋れるし知能も手術であげてある」
「では人間や国家と同じ様にですか」
「そうだ。艦隊を指揮できる」
 それが可能だというのだ。秋山に述べたのだった。
「これでどうだ。十六個艦隊だ」
「有り難いな。これで何とかなりそうだ」
 東郷が微笑み平賀に答える。
「礼を言わせてもらう。それではな」
「健闘を祈る。大変な状況だがな」
「それではです」
 今度は日本が言ってきた。
「私の力を使わせて頂いて宜しいでしょうか」
「祖国さんのかい?」
「はい、私達はです」
 国家はだ。何を出来るかというのだ。
「戦える以外にそれぞれ提督の方々に五回、若しくは三回ずつです」
「五回か三回ずつか」
「愛情を注ぐことによってその能力を上昇させることができます」
「じゃあより質のいい艦隊を形成できるんだな」
「そうです。ではそれを使わせて頂いて宜しいでしょうか」
「頼む。じゃあ誰が五回使えるんだ?」
「まずは私です」 
 日本、まずは彼だった。
「それに中国さんにアメリカさん、ロシアさんにイギリスさん」
「他にもだな」
「フランスさんにドイツさん、イタリアさんです」
「その八国か」
「はい、俗に言う原始の八国ですね」
 その彼等がだ。愛情を五回注げるというのだ。
「私を含めその方々ができます」
「わかった。では俺達にな」
「愛情を注がせてもらいます」
「指揮能力や攻撃能力は重要になる」
 東郷はこの現実を話す。
「今愛情を使える回数は二十回か」
 日本が五回、後の五人がそれぞれ三回ずつだ。合わせてそうなるのだった。
「有り難い、祖国さん達にもかけられるな」
「それもお一人に何回もです」
「余計にいい。では頼むな」
「では」
 こうしてだ。それぞれの提督達にも愛情が注がれだ。艦隊があらためて編成された。
 港で田中がだ。忌々しげに述べていた。
「ったくよ、魚だらけになってきたな」
「そうだね。それにしてもあんたもね」
「ああ、祖国さん達の愛情を受けてな」
「指揮できる船の数が増えたね」
「有り難いぜ。これで派手に暴れられるぜ」
 こう言ってだ。田中は南雲に祖国達に対する感謝の感情を述べる。
「さあ。まずは護るんだな」
「いや、艦隊が増えたからね」
 それでだとだ。南雲は田中に話す。鉄の床やパイプの港には実際に魚達が満ち溢れている。その中でだ。南雲は明るい笑顔で田中に対して言った。
「攻めるらしいよ」
「おいおい、自分達からかよ」
「まずは北京にね」
 最初はだ。そこだというのだ。
「全十六個艦隊で攻めるってさ」
「派手だな、おい」
「それから西安、南京を攻めて」
 北京だけでなくだ。さらに攻めるというのだ。
「香港、マカオもね」
「中帝国の星域の殆どを攻めるのかよ」
「あの秋山の兄さんの作戦さ」 
 参謀総長である彼の立案だった。
「敵艦隊の配置や艦艇の状況も調べてね」
「それで攻勢に出るってのかよ」
「そう決めたんだよ」
「あいつそんなに好戦的な奴だったか?」
「いや、あの兄さんは理性的だよ」
「けれどここはかよ」
「戦力が揃ったし相手の状況も見てね」
 双方の戦力を見ての分析だというのだ。
「それで決めたんだよ、あの兄さんは」
「じゃあやれるのかよ」
「みたいだね。あんたはあの兄さんは嫌いかい?」
「いや、特にな」
 田中は秋山は嫌っていなかった。東郷とは違い。彼は東郷から連合艦隊司令長官、そして海軍長官を奪い自分が海軍のヘッドになることを目指しているのだ。
 だからだ。秋山に対してはこう答えるのだった。
「嫌いじゃないさ」
「じゃあいいね」
「ああ、それじゃあ攻勢か」
「あんたもあたしも参加するよ」
 日本の総力を挙げた戦いだった。まさにだ。
「全十六個艦隊だからね」
「そうだよな。しかし十六個艦隊っていったらよ」
「はい、そうです」
 小澤が出て来て答える。
「我が国の歴史上で最大の動員戦力になります」
「だよな。派手な戦いになるよな」
「そしてです」
 そしてなのだった。
「その艦艇ですが」
「魚な。大丈夫なのかよ」
「調べたところその質は癖がありますが」
「いいってんだな」
「田中さんが指揮されても大丈夫です」
「おい、俺もってどういう意味なんだよ」
「御気になさらずに」
「気にするってんだ。しかし俺の魚はな」
 ここで田中は己の艦隊の艦艇を見た。そのどれもがだった。
「潜れる?潜水っていうんだな」
「レーダーに映らない隠密の魚ばかりですね」
「あれを使って隠れて戦うんだな」
「はい、そうなります」
「また変わった戦い方だな」
「噂によればです」
 小澤はぽつぽつと述べていく。
「ドクツ第三帝国では実際にです」
「実際に?何だってんだよ」
「潜水艦なるものを発明中だとか」
「ドクツっていうとあのドクツかよ」
「レーティア=アドルフ提督の」
「あのアイドルの率いてる国かよ」
「あの人はまさに天才です」 
 それに他ならないとだ。小澤は田中に話した。無論共にいる南雲にもだ。
「ただ可愛いだけではないですから」
「万能の天才っていうけれどな」
「あの方が今のドクツを支えておられ」
「その潜水艦もかよ」
「そうです。開発されているとか」
「潜水艦ってのが実用化されたらどうなるんだ?」
 田中は腕を組み考える顔になって述べた。
「一体全体よ」
「とりあえず田中さんの今の指揮の様になるかと」
「それにかよ」
「はい、潜るお魚が参考になるかと」
「まだ実際に戦ってねえからわからないけれどな」
 だがそれでもだった。田中はだ。
「まあとにかく今の俺はだな」
「そうです。潜って下さい」
「わかったぜ。それじゃあな」
「じゃあそろそろだね」
 二人の話が一段落したところで南雲が彼等に声をかけてきた。
「一旦食堂に入ろうかい」
「はい、お昼の時間ですね」
「飯食うか」
「今日は金曜だからカレーだよ」
 南雲は微笑みだ。それが出るというのだ。
「何カレーかね、今日のカレーは」
「私はシーフードカレーなら嬉しいです」
「俺はカツカレーだな」
 二人はそれぞれ好きなカレーを言う。
「海軍と言えばカレーですが」
「ガツーーンと力がつくカレーが一番いいんだよ」
「あたしはビーフカレーかね」
 南雲はこれだった。
「それを貰おうかね」
「何かそれぞれですね」
「カレーって一口に言っても様々だからね」
 南雲はこう小澤に返した。
「鶏肉のもあれば豚肉のもね」
「はい、そしてシーフードも」
「あるからねえ」
「で、俺のカツカレーだってそうだよな」
 田中はここでもこのカレーの話をする。
「あんなのよく考えたよな」
「確かプロ野球選手が考えたのです」
「えっ、そうなのかよ」
「はい。洋食が好きな人で」
 小澤は田中にそのカツカレーの起源の話をはじめた。
「カレーもカツも大好きでして」
「それで一緒に食う為にかよ」
「そうです。御飯の横にカツを置いて」
 それからだった。
「その両方の上にルーをかけてです」
「で、カツカレーの完成か」
「そうなりました」
「成程なあ。カツカレーって韓国起源じゃなかったんだな」
「あの方はカツカレーも起源だと仰ってたのですか?」
「いや、確かまで言ってねえけれどな」
 韓国の趣味は起源の主張なのだ。とにかくありとあらゆるものを自分が起源だと主張するのが韓国なのだ。それはもう日課にさえなっている程だ。
「言いそうだろ。それでも」
「はい。あの方は」
「韓国さんにも困ったもんだね」
 南雲はこう言っても顔は明るく笑っている。
「山下のお嬢ちゃんや平良の旦那が優しいしね。韓国に」
「誰か突っ込むべきです」
 小澤が韓国にしたいことはこれだった。
「あれだけ突っ込みどころ満載の方はおられません」
「っていうかマジで突っ込み待ちじゃねえのか?」
 田中はやや怪訝な顔になって韓国のその起源の主張について述べた。
「そうじゃねえとちょっとなあ」
「行動が理解できないですか」
「祖国さんよりもずっと年上とかも言うしな」
「確か十万歳」
「そんな昔に国家なんてあったのか?」
「なかった筈です」
 小澤は無表情で述べた。
「ですから例によってです」
「無茶苦茶言ってるだけなんだな」
「そうみたいです」
「で、韓国さんも食堂にいたらね」
 どうなるかとだ。南雲はその場合を二人に話した。
「あれだね。カレーの付け合わせに福神漬けとかじゃなくて」
「キムチだな」
「それですね」
「だろうね。あの旦那はキムチがないと生きていけないからね」
「何かと厄介な御仁だよな、本当に」
「妙に愛嬌があって憎めないので余計に困ります」
 そんな話をしながらだ。三人は食堂に行きそれぞれのカレーを食べるのだった。彼等は艦隊司令になってもそれでもだ。そこに奢り等はなく普段の彼等のままだった。


TURN3   完


                        2012・2・13



ひとまずは艦隊の編成が一段落という所かな。
美姫 「みたいね。まだ数の上ではちょっと不利にも見えるけれど」
それでも何とかなるようには持っていけたかもな。
美姫 「そうね。次回はいよいよ開戦となるのかしら」
それとも間にまだ何かあるか。
美姫 「次回も待ってますね」
待ってます。



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