※このお話はPCゲーム「とらいあんぐるハート3」とTVアニメ「魔法少女リリカルなのは」の融合作品です。
 しかし基盤となるのは「とらいあんぐるハート3」なので、士郎は死んでますし、恭也はALLエンド&フリーです。
 「魔法少女リリカルなのは」はキャラ追加のみを目的としたと捉えてください。






「……なのはちゃん、私らはどないしようか?」

「うん……」

はやてに問いかけられたなのはは曖昧な返事を返す。

すずかの本当の想いはわからない。
アリサ達以上に、もしかしたらまだ自分達の知らないことが沢山あるかもしれない。
そんな自分達が出て行って何かできるだろうか。
不用意な行動でデバイスが起動してしまう確率が高い今は、まだ行動を起こさない方がいいのではないか。





――――どうしてこんなことを考えているんだろう?
なのはは自問する。

まるで『今の状態で』すずかの元へと行くべきではない理由を探しているようにも思えた。
もちろん助けに行くべき理由はある。

すずかは今得体の知れない何かに心を奪われようとしている。
それが何であれ、友達が危機に陥っている状況は見過ごせない。
ならば助けに行く理由はそれで十分だ。

だが、この心の片隅に引っかかるような不安はなんだろう?
今の話に何一つ矛盾している点はなかった。
愛している人を取られてしまうかもしれない葛藤。
全てわかるとはいえないが、自分も男性に好意を抱いている身。
すずかの気持ちはなんとなくわかる。

だけど―――――

私は………何を恐れているんだろう―――
私達は……何か大事な事を忘れているんじゃないだろうか―――






『 Dreieck Herz -Lyrical- 』 ACT.12






「……それでは今日はこの辺にしましょう。そろそろ夕飯時です。
 ヴィータちゃんにはすずかちゃんを連れてくるように言っていますから、そろそろ戻らないと間に合いません」

なのはがそんなことを考えている間に話は進んでおり、本日は解散という流れになっているようだ。

「そうだな」

「ああ」

シャマルに続いて、シグナム、ザフィーラが立ち上がり月村家を後にする。

「心配しないで。
 言ってはなんだけど、元々はやてちゃんのお家にいる間は恭也さんの話はそれ程出ないからね。
今日のうちに覚醒することはないと思うわ」

心無し、落ち込んでいるように見えるアリサを元気付けようと
シャマルは声をかける。

「…わかりました」

「それじゃ、アリサちゃん達はあとで恭也さんに今のことを伝えておいてね。
 あまり時間があるわけでもないから、出来るだけ早い内に決行する日を決めておいて。
私達も当日には全員でバックアップするから」

「「はい」」

「よし。そんじゃ早いとこ帰ろうか、フェイト。もうすぐ6時だよ?」

「え?あ、ホントだ……。急いで帰らないと」

「あれ?何かあるの?」

急にあたふたし始めたフェイトになのはが尋ねる。

「うん…実はこれから部屋にみきちゃんと秋子さんが来るんだ」

「へぇー」

なのはは感心したようだが、当人である少女の片割れは忘れていたようである。

「あ、そうだった」

「…アリサ」

「あはは、ゴメンゴメン。色々あったんでうっかり…」

「お、みきちゃん?そういやまだ会ってへんからなー。私も晩御飯の支度がなかったら行きたいとこやけど…」

美樹の話は聞いているものの、実際にはまだ会ってないはやてはちょっぴり残念そうだ。
そんな主を見かねたシグナムは助け船を出す。

「主、でしたら帰りはテスタロッサの家に寄ってくるといいでしょう。
 あとでヴィータも向かわせます。
少し話をされましたら3人で戻ってきてください」

「ええんか?」

「はい。宿題の気晴らしに散歩に出たところで偶然会ったということにでもしておけばよいでしょう。
 夕飯の支度ならザフィーラに任せますからご心配には及びません」

「「「「「えええっ!?」」」」」

盛大な声で驚いているのは、忍・なのは・アリサ・フェイト・アルフの5人。
ちなみに声こそ出していないがメイド二人組も驚いている顔だ。

「……?」

当のザフィーラはなぜ驚かれているのかがわからない。

「どうした?」

シグナムも不思議に思っている。

「いや、あのサ……ザフィーラって料理出来るの?」

代弁したのは忍。

「……何を言っているんだ忍。こう見えてもザフィーラは八神家の中では主殿に次ぐ腕前だぞ?」

「「「「「えええっ!?」」」」」

再び驚愕する5人。

はやての料理の腕前はかなりのものであるということは知られている。
そしてその次に上手い(ハズの)シャマルも、それなりの腕前だ。
しかし目の前の寡黙な男は、少々うっかり屋さんのシャマルよりも上手いという――――

「しかも今日はすずかが来るんだ。ザフィーラが張り切らないわけがないだろう」

基本的にヴォルケンリッターの者達を含め、馴れ合いというものを好まないザフィーラではあるが
すずかにだけはなぜか気を許している……というよりは頭が上がらないように見える。

「……彼女が来るならば、無様なものは出せん」

わずかに顔を赤くしたザフィーラは一足先に八神家へと向かっていった。
ちなみにシグナムは彼をからかおうと思って言ったわけではなく、単なる客観的事実を述べただけのようだ。

「あらら」

しかし金髪美人は当然彼の照れ具合に気付いていたので、後でからかおうとスキップしながら彼に続いて行く。

「それじゃ、私達もそろそろ行こうか。………なのはも来る?」

「え、いいの?わざわざ部屋に来るってことは何か大事なお話じゃないの?」

「あ、せや。フェイトちゃん、大丈夫なんか?」

勢いで部屋までついて行くと言ったはやてだが、なのはの言葉に少し躊躇する。

「うーん、大丈夫だと思うけど……アリサはどう?」

「大丈夫なんじゃない?
 昨日……というか現状の説明をするだけでしょ?
だったら別に隠すことはないし、どちらかと言えば照れる恭也さんが見れる確率が高くなるから逆に楽しみね」

「ふふ…そうだね。恭也さんにはちょっと悪いけど」

「そうそう。そんじゃ2人とも一緒に行こうか」

「「うん」」

そうしてフェイト達5人も月村家を後にした。









客人達が去った館に残された主人とメイド二人。

「………………」

「………………」

「………………」

ファリンはすずかの身を案じるだけだが、他の2人は別のことを考えていた。

「ファリン」

「はい?」

突然忍に呼ばれたファリンは考え事をしていたせいもあって、少し上ずった声を上げてしまうが

「――――ごめんね」

「……はい?」

いきなり謝られたので、今度は素っ頓狂な声で返してしまった。

「すずかのこと…夜の一族のこと。黙っていてごめんなさいね。
 でも私を含めて皆、貴女の事を信用していない訳ではなかったのよ」

「…………」

「私達は人間より遥かに永く生きる種族。
 いずれは気付かれると思っていたけど、今のこの幸せな時間を楽しんでいたいという気持ちもあって――
ううん、結局は自己満足ね。
……やっぱり私達は貴女に離れられてしまうのが怖かったのだと思う」

およそ雇い主が抱く感情ではない。
彼女はいち従業員に過ぎない自分をこんなにも大切に想ってくれているのだと。

「…いいえ。
 忍お嬢様がそう想って頂けるのがわかっただけで嬉しいです。
 私はこの館の人達に必要とされている…それだけで十分。
それさえあれば、私は生涯ここにいることができます」

「……ファリン」

「…私も、忍お嬢様が、お姉さまが……そしてすずかちゃんが大好きですから」

「だから……改めてよろしくお願いいたします、ご主人様」

「ファリン………ありがとう」






「……そういえばお姉さまも知っていたんですよね……お姉さまもその一族なんですか?」

「……いいえ。私は違います」

「?じゃあ普通の人なんですか?」

『普通の』という言葉が出てくる辺り、ノエルもただの人間ではないと薄々感じているのだろう。

「私は自動人形………一般に言えばロボットというものです」

「……………」

「……………」

「……………」

「……………」

「…………は?」

「……ですからロボットです」

「……………」

「……………」

「は、はい〜〜〜〜!?」





ファリンの絶叫から説明して納得してもらうまでに、それから30分を要した。

「……貴女も相変わらず物覚えの悪い子ですね」

「……物覚えとかの範疇を超えてる気がします」

彼女がロボットであるということを理解したファリンは、やっとのことで落ち着いた。

「大体、現代の科学力を考えたら信じろっていう方が無理ですよ…」

至極もっともな意見に忍は苦笑するしかない。

「……それで、ファリン」

「?」

「今まで貴女がお姉さまと慕ってきた人物は……ヒトですらなかったのです。
 忍お嬢様やすずかお嬢様に不満が無くても、私に感じることがあるのではないですか?」

「…お姉さま」

「貴女が感じた『ノエル』というのは、所詮創られた偽りの人格。
 いいえ、真偽を問う前に生物でない私に『本当』なんてものは存在しないのかもしれません…
貴女はそんな私を許せないのではないですか?」





「そう、ですね……確かに不満な所はあります」

その言葉に、彼女の『創られた』心は痛んだ。

「…ファリン」

「何で黙ってたんですかっ」

「…ごめんなさい」

いつも元気いっぱいに頑張っている彼女が怒っている姿は稀にしか見ない。
その対象が自分ともなれば『心』は痛むばかりだ。

「まったくもう…いいですか。
 これから向こう一週間、朝と夕方の庭掃除はお姉さまお一人でやって頂きますからねっ
私は一切手伝いませんよっ」

「………え?」

「え?じゃないです!人に隠し事をするなんていうお姉さまには罰です。
 私は一週間、朝は惰眠を貪りますからね。しっかりやってくださいよっ」

「ファリン……」

「あ、忍お嬢様もですよ?
 お嬢様も罰として一週間おやつ禁止ですからね。
冷蔵庫にあるおやつは私が頂きます」

いいですか?と子供をしつけるように2人を叱るメイド。
そんな彼女に2人は―――


「ありがとう……ファリン」

忍は両目から溢れんばかりの涙を流しながらファリンを抱きしめている。
ファリンは忍に泣かれたため、許してあげようかなんて気持ちが若干芽生え始めているが何とか堪えた。

「ちょ、な、なんですか忍お嬢様。な、泣いたって許してあげませんからねっ」

「ええ……そうね」

「あ、も、もう〜。お、お姉さま、お嬢様をなんとかしてください…」

「…………」

しかし呼ばれたノエルはどこか呆然としている。
今にして思えばロボットであるが故にだが、気の抜けた所など滅多に見たことがないファリンはどうしたのだろうかと思った。

「お、お姉さま〜〜何とかしてくださいよ〜〜〜」

ノエルは思案していた。
目の前の女性は未だに自分をお姉さまと呼んでいる。
どうして?
ヒトに使役されるために創りだされた、ヒトでもない私が、他でもないヒトを騙していたというのに―――
なぜ彼女は今でもお姉さまと呼んでくれるのだろう。

「…どうして」

「どうして…って見ればわかるじゃないですかっ!
 ああぁ〜忍お嬢様、お願いですから泣き止んでくださいぃぃ〜〜〜……」

「いえ、貴女はどうしてまだ私を『お姉さま』と呼ぶのですか?」

「へ?」

「ヒトでもない私を…貴女を騙してきた私を…………何故?」

「…ノエル」

いつも笑顔が素敵な彼女とは思えないほどの無表情さにファリンは戸惑った。
しかしその仮面の下は、今までで一番泣いているようにも見える。
そんなノエルに気付いたのか忍も泣き止んで彼女を見つめているが、ファリンは特に考えた素振りもなく言った。

「何故って……お姉さまはお姉さまじゃないですか。
 今までと何か変わるんですか?」

確かにそうだ。
今までと何かが変わるわけではない。
ファリンが真実を知った―――ただそれだけ。

「人間じゃないから嫌いになるなんて………そんな器用なこと、私には出来ません。
 だって、私は『忍お嬢様』と『お姉さま』を好きになったんですから」

「「……………」」

2人は何も言えなかった。
何も言えないほど、今の言葉が胸に染み渡ったのだ。
世界中が彼女のような人達ばかりならば、私達も夜の一族ということを隠す事もないだろうに――
そんなことを考えてしまうほどファリンの言葉は嬉しかった。

「ファリン……」

「………………」

忍は再び涙を流し始めた。
そして驚くべきことにノエルの目からも涙が流れている。
ファリンは気付かないが、自動人形である彼女が涙を流すなんてことは理論上ありえない。
その事実に忍は気付いていたが、この場で言うのも憚られたため黙っておいた。

「あれ?ど、どうしたんですか?
 ……も、もしかしてこの呼び方、実はお嫌いでした?」

しかし目の前の2人が泣き始めたことに、当の本人は非常に焦っている。
『お姉さま』というのは自分勝手に決めた呼称であるため、もしかすると今まで我慢してただけなのかと思い
ファリンはちょっと悲しそうな顔をした。

「…いえ。そんなことはありませんが」

「よかった〜」

えへへ、と笑うファリン。
それはいつも自分を慕ってくれるあの笑顔だ。

「さ、それじゃ早く夕飯の支度にかかりましょう。
 今日は私が当番ですけど……そうだ!せっかくですから、たまには外食しません?」

「「え?」」

目を丸くする主人と姉。

「実はこの間、すずかちゃんから美味しそうなお店があるって教えて頂いたんですよ〜。
 私も行った事はないんですが…」

あは〜、と頭を掻きながら苦笑するファリン。

「…ええ、いいわね。そうしましょうか」

「え?」

答えたのは主人である忍。
出不精な彼女がわざわざ外食に行くなんてことにノエルは驚いている。

「それじゃ早速用意しましょう。
 私はこのままでもいいけど……貴女達は一旦着替えてらっしゃい」

「は〜い♪」

言うなり、ファリンは自室へと駆け出した。




「――――――」

「さ、ノエルも着替えてきなさい」

「…忍お嬢様」

「うん?」

「私は…あの娘のことを何もわかっていなかったのかもしれません」

「………ノエル」

「あの娘はあんなにも私達を愛してくれているのに……私は何一つ理解できていませんでした。
 すずかお嬢様のことにしてもそうです。
もしかしたらあの娘の言うように、ファリンが予め真相を知っていたら
今回のことが起きなかったのではないかとも思えます」

「…………」

「あの娘を助けたのは私達ですが……それからの日々、本当に助けられていたのは私達なのかもしれません」

「そうね……あの娘が来てから、すずかも貴女もよく笑うようになった。
 私たち3人は皆、口数が多い方じゃないから
ドジだけどファリンの明るさをいつもありがたく感じていたわ」

「…………」

そっと目を閉じるとファリンのことが鮮明に浮かび上がる
毎日、何か失敗をしながらも元気にメイドとしてのお仕事を全うしようとする彼女の姿。

「初めはファリンを家に置くことに猛反対したけれど…今ではあの娘は大切な家族。
 そう思っていたにも拘らず真実を告げれなかったのは………やっぱり私達の弱さ、でしょうね。
結局の所、あの娘を信じきれていなかったのかもしれない」

「…………」

「だけど今は違う……そうでしょ?」

「はい」

昨日まではそうだったかもしれない。
だけど今は違う、とそれだけは自信を持って言えるノエルははっきりと答えた。

「だったら問題ないわ。
 ちょっとケンカして、お互い本音で言い合えるようになった。
 簡単に言えばそんな感じ」

「…そういうものでしょうか?」

「そうよ。何より『私達の好きなファリン』は、今更私達の態度が変わることを望んでいないわ。
 あの娘も言ったでしょ。貴女をお姉さまと呼ぶことに、今までと何か変わったことがあるのかって」

「……………」

「そう。別に今までと何も変わっていない。何か変わる必要も無い。
 ただあの娘が私達を受け止めてくれた結果、私達は救われた。それでいいじゃない。
それでも―――」

「………それでも?」

スッと目を閉じ、言葉を一旦区切る忍に対し
何かを期待したような眼差しのノエル。

「それでも罪悪感を感じると言うなら……あの娘がいつか本当に困ったとき、今度こそ私達が助けてあげましょう」

「…………」

それは忍自身の想いでもあった。
見た目ほとんど変わらないが、ノエルの表情がかすかに変わったことを確認すると忍は話を切り上げる。

「わかった?それじゃ、貴女も着替えてらっしゃい。
 急がないとファリンにまた怒られるわよ」

「わかりました」

それだけ発し、忍へお辞儀をしたノエルはくるりと反転し歩きだした。
背を向けている忍には見えないが、自室へ向かう彼女の顔は『あの娘』の大好きな笑顔だった。








「お待たせしました」

ロビーに私服に着替えたノエルが現れる。

「お姉さま、遅いですよ」

「ごめんなさい」

「ほらほら。ファリンもあんまり怒らない。
 さ、時間がもったいないから早く行きましょ」

「では、お車をご用意して参りますのでお待ち下さい。
 ………ファリン、行きますよ」

「あ、はいっ」

ファリンを今まで通りに呼ぶ事に一瞬躊躇ったノエルだが、ファリンは予想に反して普通の反応だったので
ノエルは少し安心したのかいつものように雑談をしながらガレージへと向かった。

「ファリン、今日はどちらが運転しますか?」

「あ、それじゃ私が運転してもいいですか?
 お店の場所知ってるのも私ですし」

先日、普通免許を取得したばかりのファリンは車を運転することが楽しいようだ。
送迎を行う際、手が離せないときもあるので、ノエルとしても彼女が運転出来るようになったことは非常に喜ばしい。

「ええ。それではお願いね」

「はい♪」

そうして車に乗り込んだ二人は表まで回り、忍を回収した。

「さ、それじゃ行きましょう。
 お二人ともよろしいですか?」

「ええ」

「今日はファリンに色々お世話になったからねー。
 好きなだけ食べていいわよ」

先程の件もあってか忍は大層ご機嫌だ。
すずかが心配ではあるものの、今は楽しんでおこうと考えている。

「えっホントですか?」

ファリンが車を止める。
と言っても赤信号なので仕方がないのだが。

「ええ。今ならどんな願い事もみっつまで叶えてあげるわよー♪」

7つ集めると出てくる龍のようなセリフを吐く忍。
彼女としてはそれくらいの気分であることを言いたかっただけだが、予想外にファリンは真剣に反応した。

「…………ホント、ですか?」

「……ファリン?」

ノエルは彼女の雰囲気が突然変わったことに驚いている。
忍もいつもの冗談が真面目に取られるとは思ってなかったので困惑気味だ。

「……本当に、何でもいいですか?」

再び尋ねるファリン。
その瞳は真っ直ぐ忍に向けられている。

「――――ええ。私に…私達に出来る事なら何でもいいわ」

「…でしたら、ひとつだけお願いします」



「――――――――」


「「――――――え?」」



ファリンの口から出たお願いは、二人にとって驚愕以外の何物でもなかった。

















八束神社。

現在ヴィータとすずかは久遠を見つけて一緒に遊んでいる。

「ヴィータちゃんの負け〜」

「…むっ、やるな久遠」

「くーん♪」

神社に見えるのはヴィータとすずか、それに一人の見慣れない少女。
この少女の名は『久遠』と言い、那美が連れている子狐の人型形態である。
久遠は元々、那美の実の両親を含め数多の者を手にかけてきた、俗に『妖狐』と呼ばれる邪悪な存在。
一時は久遠を斬るという結論まで達したものの、那美の懸命な想いが通じて久遠の中の祟りを消滅させることに成功した。
以来、久遠は那美の『仕事』のパートナーとして、高町家・さざなみ寮の人達のマスコットとして幸せに暮らしている。


その久遠を含めた三人は境内でトランプをしていた。
何故トランプをしているかと言えば、雨が降ってきたから。
何故トランプがあるのかと言えば、那美が神社に持ち込んでいたから。

今やっているのは『ババ抜き』。
すずかは一番に上がっており、ヴィータと久遠の一騎打ちでヴィータは敗れてしまったという事だ。

「くおん、つよい」

「う〜、それじゃ次は神経衰弱だ!」

「うん、それじゃ並べるね」

「…ヴィータ、いじわる」

ババ抜きのような『勘』が要求されるゲームは問題ないのだが
元々狐である久遠にしてみれば『記憶力』がカギとなるこのゲームはなかなかに厳しい。
勿論ヴィータはそれをわかってやっているのではあるが、そもそもそのヴィータも記憶力に関してはお世辞にもいいとは言えない。

「はい。準備できたよー」

「よし!それじゃ行くぞ!」

「く〜ん………」

嘆く久遠を他所に、我先にと言わんばかりに神経衰弱にも拘らず先手を取るヴィータ。
この辺りが負ける理由ではあるのだが、久遠も気付いていないのであまり問題はなさそうである。
そうして3人は雨が止むまで楽しくトランプをしていた。

なお、この勝負の行方は先程のババ抜きと同じ結果になったという。














ハラオウン家。

フェイト達4人は恭也と岡野母娘を呼び出したあと、リビングにて話をしている。
ちなみにアルフは『ちょっと用がある』と言ってお出かけ中だ。

「―――とまぁそんなわけで、これから俺はどちらを選ぶか決めることになりました」

「なるほど。
 昨日の今日でよくそんな結論が出せたのかと思ってたけど……そういうことだったのね」

「だ、だめだよっ!おにいちゃんのこいびとさんはふぇいとおねえちゃんなんだからっ!」

恭也の昨日からの一部始終の説明に納得する秋子と、全く納得のいかない美樹。
一昨日の段階ではアリサなんていう存在があったことを認識していなかった彼女にしてみれば
実際は違うのだが、告白されたフェイトの横からアリサが割り込んで来た悪い女のように見えるのだろう。

「美樹ちゃん…」

そんな美樹にアリサは少し悲しそうな顔をしており、恭也はそんな顔をさせているのが自分だと思うと不甲斐無くなった。

「美樹ちゃん。恭也さんはね、いい加減な気持ちで私達2人から選ぼうって言ってる訳じゃないの。
 私達もそれをわかってるから納得したんだ」

フェイトが優しく諭す。

「…ふぇいとおねえちゃんはそれでいいの?」

「うん。私もアリサも恭也さんの事が好きだし、恭也さんも私達を好き……だからこれでいいんだ。
 それに私はアリサのことも大好きだからね」

美樹の頭を撫でながらフェイトは答えた。

「うん……」

今ひとつ理解は出来ないが、フェイト自身が納得しているのであれば仕方ないと思ったのか
美樹は渋々頷いた。

「……ゴメンねー美樹ちゃん。フェイトお姉ちゃんにいきなりライバルが現れたみたいで。
 でも、それもこれもあのロリコン男のせいだから」

アリサは美樹を自分の膝の上に乗せ、美樹の手を取り、美樹の指で目の前の男を指差した。

「……待て、アリサ」

突っ込むロリコン男は無視。

「2人を同時に好きになるなんて女の子がかわいそうだよね〜。
 美樹ちゃんはあんな男の人には引っかかっちゃダメだよ?」

「………」

ある意味、目の敵にしているアリサに突然抱きしめられた美樹は困惑している。

「でもね。私も恭也さんのことはずっと好きだったんだ。
 比べることなんてしちゃいけないけど……フェイトよりもずっと好きだって思ってる。
そして恭也さんも私たちの事を本当に好きでいてくれる。
だから、納得できないかもしれないけど今はこれが一番なんだ。
美樹ちゃんも好きな人が出来たらきっとわかるから……だから、今はお姉ちゃん達を応援してくれないかな?」

「…………」

「あ、別に私を応援してって言ってるわけじゃないのよ?
 美樹ちゃんはフェイトを応援したいだろうし、それは全然構わないわ。
だけど、私がフェイトとお互い納得した上で勝負をすることになる……それだけは分かって欲しいの」

「…………」

「…………」

「………ごめんなさい」

「えっ?」

突然少女に謝られたアリサは驚いた。

「ずっとまえから……ふぇいとおねえちゃんよりまえからすきだったのに、みき、あんなこといっちゃって…」

泣き出した美樹を見て、アリサはフェイトから聞いた通り見た目以上に聡い少女であると理解した。

「美樹ちゃん」

アリサは美樹の頭を撫でながら語りだす。

「いいのよ。美樹ちゃんがフェイトを好きなのはわかってるわ。
 やっぱり自分の好きな人には幸せになってもらいたいもんね」

「うん…」

「私もフェイトのことは好きだから幸せになって欲しい。
 だけど恭也さんのことだけは譲るわけにはいかない」

「でもね、私は勝負に勝ったとしても誰かに嫌われたままってのはイヤなの。
 フェイトはもちろんのこと、美樹ちゃんを含めて。
私は皆に祝福されて恭也さんと恋人になりたいのよ」

「大好きなお姉ちゃんから彼氏を奪ったように見えるかもしれないけど…
私とフェイトは互いに納得しているから、どちらが選ばれても片方を恨んだりしないわ。
……だから、結果がどうあってもそのときは美樹ちゃんにも喜んで欲しいんだ」

「…………」

「ダメ……かな?」

美樹は考える。
後ろから身を包むように優しく語り掛けてくる、自分の大好きな姉と同い年の女性。
今までは姉から幸せを奪う人という認識しかなかったため敵対するような態度を取っていたが
女性が言ったことを考えてみると、彼女も姉同様に男性を好きであり、それでいて姉のことも大切に思っているとわかった。
彼女が口だけの悪い女ではなく、姉の同じくらい思いやりがある女性であることはわかったし
今はその人達が友達よりも我を通すほど真剣に考えている状況であると理解した美樹は、ちょっと申し訳なさそうな素振りで

「ううん……ダメ、じゃないよ」

とだけ言った。

「そう…ありがとう、美樹ちゃん」

「うん……がんばってね、ありさおねえちゃん」



「!!」



突如目を見開くアリサ。
美樹を含めた一同は何事かと彼女を見た。

「み、美樹ちゃん、い、いま、なんて…?」

「??」

「い、今、私の事……なんて呼んだ…?」

「…ありさおねえちゃん?」

「…………」

「…………」

「………き」

「「「「「「き?」」」」」」


「キタ━━━━━━(゜∀゜)━━━━━━!!」


突然アリサが叫ぶ。

「「「「「「……………」」」」」」

「ううぅっ、長年の夢がついに…。
 パパ、ママ、聞いた?私がお姉ちゃんだって〜」

どうやら『お姉ちゃん』と呼ばれたことが嬉しかったようだ。
その異常さ現すかのようにアリサは涙を流しながら天に向かって祈っている。

「あーん、あんな可愛い顔して『お姉ちゃん』なんて言われたら……
 ぐふっ、ぐふふふふふ。ど〜しよ〜困っちゃうなぁ〜〜〜♪」

今度は両手を頬に当てながら、イヤンイヤンと身体を振っている。

「「「「「……………」」」」」

アリサ、美樹を除いた五人は呆然としていた。
確かに嬉しいかもしれないが、ここまで喜ぶ姿を見るとちょっと引いてしまう。

「……ありさおねえちゃん、どうしたの?」

「…いいんだよ美樹ちゃん、気にしなくて……」

ポン、と美樹の頭に手を乗せるフェイト。

「???」

アリサをどこか哀れんだような目で見る周りを見て、美樹は首を傾げるばかりだったが
なのはだけはどこか複雑な顔をしていた。








――10分後。

落ち着いたアリサを嘲笑うかのように、美樹はいつの間にかなのは・はやても『おねえちゃん』をつけて呼んでいる。
そんな様子を見たアリサは若干落ち込んだりもしたが美少女組4人+子供は楽しそうだ。
特に美少女組は皆一人っ娘、もしくは末っ娘であるため『お姉ちゃん』と呼ばれることに幾ばくかの憧れがあったようである。

「美樹ちゃんは今度誕生日なんだって?いくつになるの?」

「5さい!」

なのはに抱かれた美樹は、バッと掌を見せて元気よく答える。

「なのはおねえちゃんはなんさいなの?」

「私?私…というかここにいる皆は12歳だよ」

「じゅうにさい……えーと…」

美樹は指でなにやら数えている。

「はは。美樹ちゃんが私らとおんなじになるには、今度を含めてあと8回誕生日を迎えなあかんってことやな」

美樹のしている事がわかったはやてが答えるが、

「…うぅー」

「え、え?ど、どないしたんや美樹ちゃん?」

美樹があからさまに怒り出したのではやては焦りだす。

「はやておねえちゃん、さきにいっちゃダメっ!」

「ああぁぁ〜ゴ、ゴメンなぁ〜美樹ちゃ〜ん」

どうやら一生懸命計算していた所に、あっさり答えを言われたことが悔しいようだ。
泣きそうな顔で美樹に抱き付くはやて。
当初はムスッとしていた美樹だが、はやての温もりが気持ちいいのかいつの間にか許してしまう。

「ゴメンな美樹ちゃん」

「…ううん、いいよ。
 それよりもはやておねえちゃん、きもちいい」

「ん?ホンマか?」

「うん。ぷにぷにしてて……なのはおねえちゃんよりきもちいい」



 ピシッ



「―――――」

美樹の言葉に絶句するなのは。
もしかして今美樹が言った事は―――

「…ぷにぷに?」

「うん、このへんがすごくやわらかくてきもちいいんだー」

そう言ってはやての『胸』をぺしぺしと叩く美樹。
なのはの考えはズバリ的中していたようだ。

「は、はやてちゃんに負けた…」

がっくりと膝を突くなのは。
去年の身体測定ではほぼ変わらない数値(極僅かな差でなのはが上)だった二人であったが、この一年の成長差は残酷にも幼い少女から告げられた。
それも抱かれてわかるほどなので、少なくとも微小な差ではないだろう。

「そかそか〜。私も美樹ちゃん抱いてると気持ちええからな〜。
 また今度抱かせてなー」

「うん」

美樹に気に入られた事、なのはに勝った事の2つが嬉しくてはやては終始笑顔だ。
フェイトの見間違いでなければ、はやては部屋の隅でうな垂れているなのはに勝ち誇った目で勝利を訴えていた。






少女達が談笑しているとなり、別の部屋で恭也は秋子と向かい合っている。

「――――いずれこうなるとは思ってたけど、まさかこんなに早いとは思わなかったわ」

「返す言葉もないですね…」

「別に責めてるわけじゃないのよ。
 昨日アリサちゃんに会ったときもこうなるんじゃないかと思ってたし」

「……そうですか?」

「昨日の様子や、さっき美樹と話してたこと。
 貴方が惹かれたのが十分わかるほどに素敵な子ね。
中学生とは思えないほどの大人な雰囲気を醸し出したかと思えば
歳相応の可愛らしい素振りも見せたりする――」

「それに何より、友達を大切にする優しさが伝わってくるわ。
 きっとあの子は大切な人が辛い目に遭ったら、
叱咤しながら励まして、一緒に泣いて、そしてまた一緒に笑ってくれるんでしょう。
確かにあの子とフェイトさん、どちらか選べと言われたら私でも迷いそうよ」

「………ええ、本当に。
 俺の周りにいる人達は皆心優しい人達ばかりです」

恭也はそう言うが、高町家やその周りの人々がそういう風に育ったのは
間違いなく桃子と恭也の影響であることに本人は気付いていない。

「貴方は幸せ者ね。
……私が言うのは筋違いだと思うけれど
どちらを選ぶにせよ、彼女達を泣かせるような事をしたら許さないわ」

「ええ。それだけは絶対にさせません」

力強く応える恭也に秋子は満足そうに頷いた。

「まぁ私としてはなんとなく先が読めるんだけどね…
 その結果が一致するかどうかは楽しみにしてましょう」

「……?」

「恭也君が誰を選ぶかってことよ」

「そうですか…?俺自身もよくわかっていないんですが」

「こういうのは第三者からの方が良く見えるものよ。
 なんなら予想してあげましょうか?
誰を選ぶか書いておくから、結果が出たあとに見てみることね」

秋子はそう言うと、メモ帳の一枚を切り取り何かを書いたあと小さく折りたたんで恭也に手渡した。

「ちょっとしたクイズの気分ね。
 当たったら何かもらえるのかなー?」

「……翠屋スペシャルセットをお持ちします」

スペシャルセットとは翠屋のオススメする洋菓子を味のみでセレクトしたという詰め合わせだ。
当然それなりの値は張るが、それを超す満足度が得られるため裕福な家庭には人気のメニューとなっている。

「あら、ホント?スペシャルセットってアレよね?
 やったわ〜、美味しそうだけどちょっと高いから手が出なかったのよね〜」

既に正解したように喜ぶ秋子に一応ツッコミを入れる恭也。

「いや、まだ正解したわけではないんで……」

「だいじょぶだいじょぶ。絶対当たってるから♪」

「……まさかどっちの展開になっても正解と取れるような書き方をしてたりしませんか?」

母親やさざなみの悪魔たちに辛酸を舐めさせられてきた恭也は、この手のことに関しては疑り深くなっているようだ。

「む。信用してないわね。そんなインチキなことしないわよ。ちゃんと誰を選ぶって書いてるわ」

「……そうですか」

「じゃ、そーゆーわけだから、1ヵ月後に私の家に届くように手配しておいてね」

しかし、自信満々な笑みを浮かべる秋子に『スペシャルセットはやりすぎたかな…』と少し後悔していた。









そんな中、部屋の片隅では――――

『マスター、元気を出してください』(※テレパシーなので日本語に変換してます)

「ありがとう、レイジングハート。
 …でもあなたがいつも優しいのは私の胸が小さいからなんだよね……。
フェイトちゃんも言ってたし、やっぱりデバイスは胸の小さい娘には優しいのかな…」

落ち込んでいるなのはがレイジングハートに慰められていた。

『そんなことはありません。
 私はマスターに頑張って欲しいと…』

「ううん、いいんだよ。私もレイジングハートには優しくしてもらいたいしね…
 ふふふ。だから胸なんか小さくてもいいんだ……」

『………安心してください。
 桃子さんは、その、あんなに立派ではないですか』

「そうだね。お母さんはあんなに凄いんだもん」

『そうです』

「なのに、この歳になってちっとも大きくならないのは………魔法の使いすぎかな?」

『What!?』

マスターの暴言に身の危険を感じるデバイス。
そしてその予感は間違いなく正しい。

「……そっか、実はレイジングハートが私の胸を奪っていったんだね。
 そういえばはやてちゃんはこの一年、あんまり魔法を使ってなかったようだし」

『…………(汗』

「皆、私の魔力が凄い凄いって言ってくれるけど…そりゃそうだよね。
 女の魅力の一つである胸の成長を犠牲にしてまで搾り出してる魔力なんだもん。
これで威力が高くなければまさにお笑い種だね………あははは」

『マ、マスター。落ち着いてください』

「うん。落ち着いてるよ。
 それじゃあレイジングハート、私の胸(の成長率)を返してくれるかな?」

『ままま待ってください、マスター!
 そ、それは誤解です!』

「何言ってるの、レイジングハート?
 貸してたものを返すだけなんだから、何も難しいことはないよ。
それとも放出した魔力はもう返せないとか?」

『ま、魔法は精神力で、胸は関係ありません!
 胸が小さいのはそもそもマスターの―――っ!!??』

「……………」

『……………』

「うふふ。そうだよね〜。
 やっぱり胸が小さいのは…………」

『…………(ダラダラダラ)』

「私が成長してないだけなんだぁぁぁーーーーーーーーー!!!」

『マ、マスター!待っ……』


ドゴオォォォォォォォォォォォォォン!!!


なのはの全力の魔法がレイジングハートに命中した。











ピンポーン


「ん?」

「…誰か来たみたい」

「あ、ひょっとしたらすずか達じゃない?」

「お友達?…そういえば恭也君の話にもちょっと出てきたわね」

「ええ」

「うんうん。これはまたどんな娘か楽しみだわ〜。
 でもここにいる4人…フェイトさんにアリサちゃんの二人は対照的だし
なのはちゃんとはやてちゃんもそれぞれ違うタイプだしね〜。
あらかた出尽くしたけど……あと居るとしたらのんびりした感じのコかな?」

ピンポイントで言い当てる秋子の物言いに一同は舌を巻く。

「はやてちゃんは違ったけど、まさかその娘も恭也君が好きだなんてオチはないでしょうね」

笑いながら言う秋子に恭也はさすがにそれはない、と苦笑して返すが美少女組はまったく笑えなかった。

「……フェイトさん、どうかされました?」

「えっ?」

「いえ、どなたか来られたみたいなので早く出た方がよろしいかと…」

「あ、そ、そうでしたっ」

慌てて玄関へと駆け出すフェイトを見て、はやてとアリサはボソボソと相談を始めた。
ちなみになのはは未だにイジけている。

「(アリサちゃん、よく考えたらこれはマズイんとちゃうか?)」

「(え?なんで?)」

「(秋子さん、桃子さんによく似たタイプみたいやし、事情を知らんかったら恭也さんの話題を持ち出してからかいそうやないか?)」

「(あ、言われてみればそうね……………ちょっとマズイかも)」

「(しかも恭也さんにもまだ話してないから、恭也さんが話を止めれるとは思えへんし)」

「(そうね………となると、恭也さんを連れて一刻も早くここを出ることが先決ね)」



「あ、すずかにヴィータ。いらっしゃい」

「フェイトちゃん、お邪魔するね」

「テスタロッサ、はやてはどこだっ?」

律儀に挨拶するすずかに対し、フェイトには目もくれずはやての元へ駆け出すヴィータ。

「あ、ヴィータ………もう、相変わらずだね」

「今日はずっとあんな感じだったよ」

「…今日も、でしょ?」

「あはは。そうだね〜」

二人はリビングへと向かったヴィータを追うように後に続いた。

「そう言えば久遠はどうしたの?一緒に居るって聞いたけど」

「くーちゃんは雷が鳴ってたから怖くて出たくないって」

「雷が怖いって………本人が雷を出すのに?」

フェイトの最もな言い分にすずかは言葉に詰まる。
そういえばどうしてだろう?なんて思っているようだが――

「………………」

「………………」

「まぁ、そういうこともあるんだよ………………きっと」

考える事を放棄したようだ。

「……そうだね。ところで雨、大変じゃなかった?」

「ううん。さっきまでは少し強かったけど今はそうでもないよ」

「そう」




リビングに出たすずかは、この場に居るとは思ってなかった一人に目を向ける。

「あれ、恭也さん?」

「ああ、すずかちゃん。こんにちは」

ちなみになのはは、理由はよくわかっていないヴィータと一緒にはやてに嘲笑われていたが
さすがに我慢ならなかったようで、怒り狂いながらもイジけ状態からは立ち直った。

「はい、こんにちは………そちらの方は?」

「私は秋子っていうの。こっちは娘の美樹。先日フェイトさんと知り合ってね。
 今日はアリサちゃんとのお見合いも兼ねて、フェイトさんのお宅にお邪魔してるのよ」

「お、お見合いって……」

「ただの顔合わせよ。マジに取るんじゃないわ」

呆れたように言うアリサ。

「あ、それでそっちの子がフェイトちゃんが言ってた……?」

「ええ。この子もすっかり懐いちゃってね。お姉さんが出来たみたいで嬉しいみたい」

美樹の頭を撫でながらすずかに話しかける秋子に、すずかは思い出したように切り出した。

「あ、ご挨拶が遅れました。私、月村すずかといいます」

「アタシはヴィータ!よろしく」

「すずかちゃんに、ヴィータちゃんね。よろしく。
 ……うーん、すずかちゃんはのんびりした娘だと思ってたんだけど予想が外れたかな?」

何やら固い雰囲気のすずかに、予想が外れたと思っている秋子はちょっと悔しそうだ。

「いえ秋子さん。すずかは基本的に……というよりは年中のんびりしてて溶けてます」

「ア、アリサちゃん、ひどいよ…」

「そうだ。すずかはいつもワン……いや、ツーテンポは遅い」

「ヴィ、ヴィータちゃんまで……」

「あらそうなの?じゃあ今は緊張してるってだけかな?
 のんびりした娘はあまり人見知りしないってイメージがあったから、つい、ね」

秋子の言葉に思う所があるのか、少しだけ表情が翳るすずか。

「人見知りは…どちらかと言えばしない方……と思います。
 でも、全くしないわけでもありませんので…」

「まぁ、ね。
 そんなのはただ馴れ馴れしいだけの奴でしょ」

掌を上に向け、ため息交じりのアリサ。

「…そうやろか。
 初めて会うたとき、すずかちゃんは結構自然に話してたよ?」

すずかがアリサの言うような馴れ馴れしい奴とは微塵も思ってないが
普段のおっとりした雰囲気も相まって、物怖じとは無縁に思っていたはやては少し不満気だ。

「…すずかはきっと雰囲気がいいんだろうね。
 私もすずかと初めて話したときはそれに助けられたよ」

まだ友達というものがどういうものかよくわかっていなかった頃の自分を思い出すフェイト。
彼女の存在はフェイトにとっても大きな励ましとなったようだ。

「でもすずかちゃんはほんわかしてるけど、運動は得意なんだよね。
 私は運動神経千切れちゃってるから羨ましいよ…」

管理局の白い悪魔も蓋を開ければただの人間。
基礎体力がこの中では一番低いと思われるなのははすずかが心底羨ましいようである。
周りの人達もなのはの運動神経の無さは良く知っているので下手なフォローもしない。

「…それにしてもヴィータちゃんはなのはちゃんと仲が良さそうね?」

先程からヴィータのおさげをイジって遊んでいるなのはを仕方ないという目で見る秋子。
なのはは楽しそうだが、ヴィータは本気で嫌がっているようだ。

「はいっ」「違うっ!」

「あら、ピッタリ」

正反対の答えを返す2人に秋子は満足そうに微笑んだ。









神社からの帰り、電波を受信したヴィータちゃんの言葉により急遽フェイトちゃんのお家へ行く事になりました。
話によれば一昨日フェイトちゃんが会ったというみきちゃんが、今はフェイトちゃんのお部屋にいるとのこと。
気分転換で外に出たはやてちゃんもいるようなので、お迎えがてら……というわけ。
あ、それとヴィータちゃんははやてちゃんに抱きついてる内に気持ちよくなったのか、いつの間にか寝ちゃってます。


フェイトちゃんの言った通り、秋子さんに娘の美樹ちゃん。
少しお話しましたがお二人ともとてもいい人達。
特に美樹ちゃんのあの可愛らしい仕草はちょっとたまりません……思わず萌えちゃいます。

そんなことを考えていたら美樹ちゃんがトテトテと私の方へ歩いてくる。


「…………」

「………?」

美樹ちゃんは私を見つめたまま無言で立っている。
……私、何かしたかな?
……それともこの場合は私の方から何かしてあげないといけないとか?
子供と接する機会がほとんどないのでちょっと焦っちゃうよ…。

「…………」

「………えっと、美樹ちゃん…でよかったかな?私に何か御用かな?」

出来るだけ優しく、と思い尋ねると

「…えっと、すずかおねえちゃん?」

「えっ……」

『すずかおねえちゃん』と呼ばれました。
おねえちゃん………いい響き。
お家では一番年下なのでこういうシチュエーションにはちょっと憧れちゃう。

「うん。すずかおねえちゃんだよ。
 ……それで美樹ちゃんはどうしたの?」

「うん……あのね、だっこしてもらっていい?」

不安そうな表情で私を見つめてくる美樹ちゃん。
ううぅぅ〜、か、可愛い…。

「もちろんいいよ。ほら、おいで」

「うんっ」

言うや否や私の膝の上に飛び乗ってくる美樹ちゃん。
予想通り軽いです。

「えへへ〜」

「うふふ」

あ……これはマズイ。
美樹ちゃん可愛すぎ…。

「えへ〜。やっぱりすずかおねえちゃんきもちいい」

「ホントに?………って、やっぱりってどういうこと?」

「うん。すずかおねえちゃん、はやておねえちゃんよりもぷにぷにしてそうだったし」


 ピシィッ!


思わず固まってしまいました。

「(ぷ、ぷにぷにって………そ、そんなに太ったかな?)」

た、確かに最近は翠屋さんに行くことも多かったし、私はそんなに運動してる方でもないから、ちょっぴり増えたかもしれないけど……
こうもハッキリ言われるとヘコんじゃう…。

「あ、あははは……。き、気持ちいいなら私も嬉しいよ…。
 で、でででもそんなに、その……太ってるかな……?」

「??」

美樹ちゃんは何かよくわかってない感じ。
あれ?そういうことじゃないのかな?

「なんで?すずかおねえちゃん、ぜんぜんふとってないよ」

「え?で、でもさっきぷにぷにしてるって…」

「うん!はやておねえちゃんよりおっきいから、ぷにぷにしててきもちいいとおもったんだ〜。
 ん〜〜〜〜ふぇいとおねえちゃんよりもきもちいいかも」

そう言って美樹ちゃんは私の『胸』をぺしぺしと叩きます。
さすがに胸を触られるのは照れるけど……そういうことなんだね。
ちょっと安心。

「あ、そうなんだ。
 良かった〜、そんなに太ったのかと思っちゃったよ。ねぇみ……んな………?」

安心したのも束の間、くるりと後ろを振り向くとそこには
泣き崩れるはやてちゃん、
どこかイヤらしい笑みではやてちゃんを慰めるなのはちゃん、
……非常に無理してるのがわかる笑顔で見つめるアリサちゃん・フェイトちゃんの4人が。


――――えーと、よくわからないけど逃げた方がいいのかな……?


「♪♪〜〜」

でも美樹ちゃんは私の胸が気に入ったようなので離れる様子はありません。
というか、お願いだからあんまり胸を揉まないで……

「フフフ。すずかはいいわね〜、美樹ちゃん独り占め?」

いえ、そんな事はありません。

「…やっぱり『女性らしさ』が一番出てるすずかは凄いね。私にも教えて欲しいな」

何を教えろとおっしゃる?

「そうだね〜。私達はまだ子供みたいだから、ちょ〜〜〜〜っと妬けちゃうなぁ」

というか私も子供。あなたと同い年です。

「ほんまやなー。やっぱりあの『胸』は私らより断然気持ちええんやろうな〜」

胸の気持ちよさは大きさに左右されるものではない………と思います。

4人がジリジリと寄ってくる。

「……………」

ひょっとしてかなりぴんち?

「ど、どうしたの…………かな、みんな?」

言いたい事はわかるけど一応聞いてみる。ひょっとしたら違うかもしれないから。
……多分、無理だろうけど。

「「「「ううん、別になんでもないよ(ないわよ)(なかよ)?」」」」

「……………」

絶対になんでもある。

「「「「ただ……」」」」

「……………」

「「「「その胸が羨ましいだけ」」」」

予想通りの言葉に何も言えない私。
そ、そりゃ確かに同年代の娘達と比べたら、私は少し大きい方だと思うけど……
そんなに目くじら立てるほどでもないと思っちゃうのは私だけ?

「そ、そんなことないよ。みんなも結構大きい………じゃない?」

フェイトちゃん→はやてちゃん→なのはちゃんという順番で見ていった最後、
アリサちゃんの所で思わず疑問系になってしまったのは大失敗です。

「………フフフフフフ。何?すずか?勝者の余裕ってヤツ?」

あああっ、アリサちゃんが本気で怒ってるっ!?

「え、あ、あのっ、べ、別にアリサちゃんが小さいって言ってるわけじゃ……っ」

「そうよね。"時代はひんにゅー!"なんて掲げてても、すずかから見ればそんなものは所詮負け犬の遠吠え。
 きっとアンタの瞳には私は滑稽な敗北者の如く映っているんでしょう……」

「ち、違うよっ」

「うふふ。何も言わなくていいわ、すずか。
 ええ、アナタのことは何でも知ってるもの。
誕生日や血液型から――――――そう、胸の大きさまで」

「…………」

「ええ、アナタのその中学一年生とは思えないほど女らしい体つきに
 つい嫉妬してしまうなんてことは日常茶飯事ですのよ?
でも日頃そんな感情はワタクシの小さな胸の中に押し留めてますの」

「…………」

「ですけど、そろそろそれも限界ですわ。
 ワタクシ如きの貧相な胸では、すずかさん(の胸)への余りある想い(嫉妬)は
もう表面張力などではカバーできない程に溢れているのです」

「ですけどこのままではワタクシもノイローゼになってしまうかもしれませんわ。
 ……やはり溜まったものは一度吐き出すべきだと思いませんこと?」

「そ、そうだね……が、我慢は体に良くない……………と、時と場合によっては思うよ」

うん。
そしては今はその時じゃないよ、と付け加えたいです。

「ええ、そうでしょう?
 ですから申し訳ないけれどすずかさんにお手伝いをお願いしたいのよ。
 よろしいかしら?」

「え、えーと…何をすればいいの…………かな?」

「うふふふ。何も難しい事はありませんわ。
 すずかさんはそこに立っているだけでいいんですの」

「………………」

「コホン。
 さて、それでは溜まった膿を吐き出しましょうかね……」

「………………」

「……すずかさん?」

「………………」





「うわぁぁーーん!その胸揉ませろーーーーー!!」






「きゃ、きゃああぁぁぁぁぁぁぁ!?」












―――アリサちゃんに襲われてしまいました、まる。

日記にそうとしか書けないと思うほどインパクトがありました。
ちょっと胸が(肉体的に)痛いです。

「ふぅ、余は満足じゃ」

アリサちゃんはひとりで満足してるし…。

「すずかおねえちゃん、だいじょうぶ?」

「あはは……。だ、大丈夫だよ」

美樹ちゃんにまで心配されてしまいました。
というか、美樹ちゃん以外に心配してくれる人がいません。
他の3人は言うに及ばず、恭也さんは真っ赤にして固まってる上、秋子さんは楽しげに見てるし。
なんか秋子さんって桃子さんに似てる…。





「ねぇ、すずかおねえちゃん、ひとつきいてもいい?」

ようやく落ち着いてきた私に、突然美樹ちゃんから質問が来ました。

「聞きたい事?もちろんいいよ。私で答えられることだったら」

「ほんと?」

ぱぁっ、と明るい顔をする美樹ちゃん。
こんな顔をされると何でも答えてあげたくなっちゃうんですが、美樹ちゃんから聞かれたのはあまりにも予想外。

「うん」

「えっとね、すずかおねえちゃんも―――」




「おにいちゃんのことがすきなの?」




その場にいた美樹以外の人物は理由こそ違うものの、皆絶句してしまう。
外で降っている雨の音がやけに部屋に響いていた―――――








 第12話をお届けしました、幸のない物書き さっちんです。
火妬美「…………」
 あのー…?
火妬美「…………」
 えっと、どうかしました?……って、これ前回と同じやりとりじゃ・・・
火妬美「その前回から何ヶ月経ってるのよーーーーーーーーーー!!」
 ぴぎぃぃっやぁぁっ!!??
火妬美「…はぁはぁ。もう2ヶ月…ううん、3ヶ月弱ね。月刊コミックが出るほどのペースよ」
 うぐぐ・・よくわからん例えだが、遅れたことに対して怒られているというのはわかった・・・
火妬美「当然よ。これでわからなかったらどこぞの固有結界に閉じ込める勢いだわ」
 ゴメンナサイ。
火妬美「で、内容はもういいわ(いつも言ってるけど
      次回の更新はいつ?」
 じ、じじじじじじ次回でああありますか!!??
火妬美「…なんでそんなに驚くのよ」
 え?いやぁ〜どこぞの飛翔漫画のはんt(ry みたいな流れもアリかなぁ〜と。エヘヘ。
火妬美「パキパキ…(指を鳴らす)」
  ……………
火妬美「パキパキ…(指を鳴らす)」
  ……………
火妬美「パキパキ…(指を鳴らす)」
  ……………
火妬美「……わかってるわよね?」
 …はい、頑張ります。
火妬美「わかればいいのよ。それじゃ、また次回〜♪




※誤字脱字等ありましたらご連絡頂けると幸いです。



あはははは〜。今回はThe・胸!
美姫 「いやいや、違うから! それ以上に、かなり重要な出来事が最後で起こってるでしょう」
胸だろう?
美姫 「違うでしょう。それ以外にも、月村家の心温まるエピソードとか」
いやー、なのはたちも胸の話で一喜一憂するようになったか〜。
うんうん、成長だね〜。
美姫 「はぁぁぁ。アンタ、バカだわ」
何を今更。だが、幼い子の無垢な言動は時として…という感じだな。
美姫 「そうよね。って、行き成りまともなコメントを」
悪気もなく、ただ純粋だけど、今ここでという感じだな。
しかも、いい所で次回だよ〜〜!
うわぁぁ〜〜ん、気になる。
美姫 「確かにね。次回がどうなるのか、非常に待ち遠しいです」
次回も待ってます!
美姫 「待ってますね〜」



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