※このお話はPCゲーム「とらいあんぐるハート3」とTVアニメ「魔法少女リリカルなのは」の融合作品です。
 しかし基盤となるのは「とらいあんぐるハート3」なので、士郎は死んでますし、恭也はALLエンド&フリーです。
 「魔法少女リリカルなのは」はキャラ追加のみを目的としたと捉えてください。








気が付くと走っていた。

辺りは見渡す限りの闇。

その向かう先、一筋の光とともに人影が見える。


「はぁっ、はぁっ、はぁっ」


私はその人に追い付こうとしているが、一向に追い付けない。


どうして―――

どうして―――

どうして―――


「あっ!?」

ドタッ

足をもつれさせて転んでしまった。

ふと前を見るといつの間にかその人影の傍に誰かが立っている。



やめて―――その人を取らないで―――

私はずっとその人の事が―――――――



そう叫ぼうと手を伸ばしたとき―――――――












「すずかちゃんっ!」

「えっ?」

気が付くとそこは自分の部屋。
横には膨れた顔をしたファリンが立っている。

「も〜、やっと起きてくれたね。早くしないと遅刻するよ?」

枕元の時計に目をやると、確かにいつもより20分は遅い。
今朝はご飯を食べる時間がなさそう…。

「あ、ゴメンねファリン。すぐに用意するから…」

「朝御飯は車の中で食べられるものを用意しておくからね」

そう言いながら部屋を出て行くのは私専属のメイド、ファリン。
実際は私より年上なんだけど、どこか危なっかしい所があるのであんまり年上と感じません。
それに凄く親しみやすいのでメイドさんというよりは、私はお友達感覚。
ファリンとしては徹底してメイドさんという立場を貫きたいみたいだけど……あのドジっぷりではちょっと無理だと思います。

「ありがとう」

「ううん、それじゃ急いでね」

慌てて支度を済ませながら、私は先ほどまで見ていた夢の内容を思い返していた。






『 Dreieck Herz -Lyrical- 』 ACT.10






「あら、おはようすずか」

「おはようございます。すずかお嬢様」

「おはようお姉ちゃん。ノエルも」

リビングに出ると、そこにはお姉ちゃんとノエルが朝食を取っていた。
と言ってもメイドさんであるノエルは一緒に食べるなんてことはしてないけど。

「今日は珍しくお寝坊さんみたいね?」

普段はお姉ちゃんが常習犯なので、たまに寝坊した私が嬉しいのかニコニコしている。

「うぅ、ゴメンナサイ。
 …それにしてもお姉ちゃん、今日は早いんだね」

「あはは。早いんじゃなくて遅いのよ。昨日から寝てないんだ」

そう言うお姉ちゃんの肌は少しハリが無い感じ。
どうやら研究に没頭していたんで、気が付けば朝、ということみたい。

お姉ちゃんは月村忍といって、私、月村すずかのお姉さん。
今年卒業した恭也さんと同学年ですが、お姉ちゃんは大学院へと進みました。
妹の私がいうのも何ですが、美人でスタイル抜群な上、気さくな性格は世の中の男性が放っておかないくらいの人です。
また、お姉ちゃんの大学院生……いえ、科学者としてのレベルは凄まじいものがあって
本気でやればノーベル賞の1つや2つ、簡単に取れるのではないかと思ったりも。
以前、そんなお姉ちゃんに大学レベルの研究なんてつまらないのではと聞いてみた所、

「そんなことないわよ。自分で好き勝手やっていいんだからね。
 オマケに必要な物は大学が用意してくれてるし」

そんなことを言うお姉ちゃんは既に再来年出すべき修士論文が終わっているみたい。
2年も前に作成したものが通ってしまう修士論文を作成できるなんて…………天才という人種は、皆こうなのかな?

「忍お嬢様は、昨夜0時35分にお夜食をお持ちした際に
 『もう少しで終わるから、そう遅くならない内に寝るよ』とおっしゃっていたのですが…」

そう言って紅茶のお代わりを注いでいるのは、我が月村家メイド長のノエル。
見た目では全くわからないけど、なんと彼女は自動人形…いわゆるロボット。
過去に造られてもう動けなくなっていた所を、幼いお姉ちゃんが地道に調べながら直したとのこと。
普段は笑顔の素敵な完璧メイドさんだけど、有事の際には高い戦闘力をもって私達を護ってくれる頼もしい存在です。

「もうノエル、余計な事は言わなくていいの」

ぷん、と拗ねて紅茶を飲むお姉ちゃん。ああいう所はちょっと可愛い。

「ふふふ。でもお姉ちゃん、あんまり夜更かししたらダメだよ?
 お肌も荒れちゃうし」

「う、それはそうね……。
 昔は気にしてなかったけど、ハタチを過ぎるとやっぱり違うのよ…」

ちょっとガックリきてます。
とは言うものの、間近で見ても『ホントに荒れてるの?』というレベルなのであまり問題はないだろうけど。

「すずかお嬢様。そろそろお出になる時間です」

「あ、うん。それじゃ行ってきます」

「はい、行ってらっしゃい」

「行ってらっしゃいませ」

笑顔で手を振るお姉ちゃんと、ペコリとお辞儀するノエルに見送られて私は家を出た。







すずかが家を出て行った後のこと。

「――――で、ノエル」

「はい」

「昨日の件、記録を調べてみたけど………貴女の言う通りみたいね」

「…やはりそうですか」

「こうなってくると専門外だわ……。ノエル、学校が始まる時間になったらシグナム達に連絡を取って頂戴」

「かしこまりました」

「あと……恭也には知らせないように」

そう言った忍は、どこかやりきれないような顔をしていた。








今私は車でなのはちゃんの家に向かっています。
寝坊した私は、朝食を摂っていたりもするけど。

「すずかちゃん、昨日は遅かったの?」

自分で言うのも何だけど、私はあまり寝坊というものをしない。
性格はのんびり屋さんですが時間はきちんと守る方。
そんな私をファリンも不思議に思ったので尋ねたのでしょう。

「モグモグ……うーん、いつも通りだったんだけど」

「お夕飯前にお姉さまとお買い物に行ってたけど…その疲れかもね」

「え?」

お姉さまというのはノエルのこと。
ファリンはノエルを尊敬……というか崇拝してる節があるためか、彼女のことをそう呼んでいる。
しかし今気になるのはそんなことではありません。

買い物?
私がノエルと?
だって昨日は確か――――

「気を付けてよ〜。本当は深夜コンビニに行くなんてのも控えて欲しいんだから」

「………」

―――ファリンはさっきから何を言ってるんだろう。

「あ、はやてちゃんもちょうど向かってるみたいね。すずかちゃん、ここから歩いていく?」

「え?あ、うん」

見ると、10M程先にははやてちゃんがヴィータちゃんとザフィーラさんと一緒にお喋りしながら歩いているので
私は車を停めてもらった。

「はい、それじゃ行ってらっしゃい」

「行ってきます」

よくわからないことがあるけれど、帰ってから聞けばいいかな、と思った私は
いつも通りの挨拶をしてはやてちゃんの元へと駆け出しました。




「お、すずかちゃん。おはようさん」

「おーすずか、久しぶりだ」

「………」

私に気付いたはやてちゃん、ヴィータちゃんが挨拶をしてきたので私も返します。

「はやてちゃんおはよう〜。ヴィータちゃんお久しぶり。ザフィーラさんも」

ちなみにザフィーラさんは犬の姿をしているので、私は撫でて挨拶。

「……ザフィーラを撫でるなんてはやて以外じゃすずかだけだよな。
 ザフィーラも満更じゃなさそうだし…」

ヴィータちゃんは呆れたように言いますがザフィーラさんは撫で心地がいいんですよ?

「はは、そうやな。シャマルも撫でたがるけどザフィーラは嫌がるからなー」

そうは言っているけれども、はやてちゃんはとても楽しそう。
少し前までひとりぼっちだったはやてちゃんは、同居している4人のことが本当に好きなんだと伝わってきます。

「ふふ。それじゃはやてちゃん、そろそろ行こう?
 なのはちゃん達も待ってるだろうし」

十字路に差し掛かった私ははやてちゃんを促します。
ヴィータちゃんの散歩ルートは、高町さんのお家とは反対なので。

「そうやな。それじゃヴィータにザフィーラ、行って来ますや」

「はやてっ、行ってらっしゃーい!」

「(お気を付けを、主。……すずか殿も)」

ザフィーラさんがぼそっと小声で言います。
こういう所は恭也さんみたい。

「うし。そんならすずかちゃん、行こか」

「うん。そうだね〜」

私達はなのはちゃんのお家へと向かいました。









それから、なのはちゃんのお家で合流した私達は学校へと向かっています。
先頭はアリサちゃんとはやてちゃん、
その後ろになのはちゃんとフェイトちゃん、
私はひとり皆から外れるように一番後ろを歩いている。

別にケンカをしたわけではありません。
特別なことがあったわけでもありません。

―――――そう、私以外には。


先程、なのはちゃんの家に着いたとき、中から出てきたのはなのはちゃんとフェイトちゃん…それにアリサちゃん。
お話によれば昨日は恭也さんとアリサちゃん、フェイトちゃんの3人でお泊りしたみたいだけど…
3人の雰囲気が違うので、何かあったのかと聞いたら―――

「それにしてもアリサちゃん、やるなぁ〜」

「ふっふっふ。このアリサ・バニングスを甘く見ないことね。
 恭也さんはもう私のモノと言っても過言じゃないわ」

「あはは、でもフェイトちゃんだって負けないよ。ね〜?」

「うん。恭也さんはアリサの手に余るだろうから、安心して私に任せておいて」

「…なかなか言うじゃない?」

「ふふふ。そうでもないよ」

4人は楽しくお喋り。
どうやら昨日、2人は恭也さんと気持ちを確かめ合った結果、1ヶ月という期限で真剣な勝負をすることになったようです。
勝負と言っても殺伐とした雰囲気はなく、正々堂々としてるけど。

「あー、1ヵ月後が楽しみだわ。初デートはどこにしよっかなー♪」

「そうだね。アリサはなのは達とのデート、存分に楽しんできて。
 私は恭也さんとお出かけしてるから」

既に勝つ気マンマンのアリサちゃんだけどフェイトちゃんもかなり強気。
恋する乙女は強くなる、っていうのはホントみたい。

「あらら。フェイトさんは何をおっしゃってるのかしら?まぁ1ヶ月後にわかるけどね」

「うん。来月、恭也さんの隣に居るのは……言わなくてもわかるからね」

お互い牽制し合いながらも、二人はどこか楽しそう。

余談ですけど、今朝はなのはちゃんに関するお話もありました。
なのはちゃんのパートナー(?)であるユーノ君と、
フェイトちゃんのお義兄さんであるクロノ君との三角関係。
二人がなのはちゃんのことを好きなのは私もわかりましたが、なのはちゃん自身の気持ちは知らないまま。
私としては付き合いの長いユーノ君が好きなのかなぁ〜と思っていたけど
予想外になのはちゃんは両方に興味があるようで、さりげなくアプローチをしてるみたい。

「あ〜あ、楽しそうやなぁ、すずかちゃん」

そんな三人を見て、はやてちゃんはちょっと羨ましそう。

「うん。でも仕方ないよ」

「そうやな。わたしは男の人好きになったことはないからわからへんけど…きっと毎日楽しいんやろうな」

「…はやてちゃんは気になってる人とかいないの?」

「わたし?うーん…でも男の知り合いってクロノとユーノくらいしかおらへんし。
 まぁ確かに二人はカッコええけど、既に売約済みやないか?」

そう言ってはやてちゃんはイヤらしい顔付きでなのはちゃんを見ました。

「な、何かな?はやてちゃん」

「なのはちゃんは見かけによらず男殺しやもんなぁ。
 こういう見た目清純派に真面目な男は引っかかるんやな…。おお、なのはちゃん恐い子。
 すずかちゃん、ウチらはこういう娘には育たんように気ぃ付けよーな」

「あはは、そうだね」

「そ、そうだねじゃないよっ。二人とも人聞きの悪い事言わないでっ!」

なのはちゃんが真っ赤になって怒ってますがあんまり恐くありません。
というのも、なのはちゃんの行動はどうみても二股っぽいし。
兄妹、こんな所まで似るのかな。

ふと、二人のことを考える。
なのはちゃんはもう少し時間掛かりそうですが、恭也さんの方はもうすぐ決着が着くんだ。
アリサちゃん、フェイトちゃんのどちらかが恭也さんの恋人に―――


「―――――――――」


―――何だろう、この感じ。

あの人を取られるかもしれない嫉妬?
今以上に傍にいられなくなる、それに対する悲しさ?
それとも……もう私を見てくれないかもしれないという不安だろうか。

そんなことを考えていたら、突然目の前が真っ暗になり頭の中に声が響いてきた。



『憎いか?』

――え?

『あの者の傍にいようとする者……それが憎いか?』

憎い……?

私達は別に付き合ってるわけでもない。
気持ちを確かめ合った訳でもない。
確かに想いは伝えたけど、当時小学生の『好き』をあの人はそういう意味では受け取ってくれなかった。
ハッキリ言われたわけではないが、やんわりと振られたのだろう。
だからそんな私にあの人が誰と結ばれようと止める権利はない。

だけど―――――

『憎いのだろう?その者達がいなくなればお前を邪魔する者はいない』

居なくなればあの人を好きでいるのは私しかいなくなる。
そうすれば―――

『ならば憎め。その想いが真なるものと感じたときにこそ、我はそなたに力を貸そう』

それっきり声は聞こえなくなった。

居なくなれば私は―――――――







「すずかっ!」

「えっ?」

突然大きな声で呼ばれた私ははっとなり、目の前の少女と目を合わせた。

「もう、どうしたのよ?今日は一日おかしいわよ、アンタ」

どうやらアリサちゃんは私がぼーっとしてたことに怒ってるみたいだけど…

「今日一日って…まだ始まったばかりじゃない」

さすがに朝一番にぼーっとしてただけで、その日一日が決定されてしまうのはいただけません。
まぁそんな所もアリサちゃんらしいな、と私は思っていたのですが、彼女からは予想外のことを言われてしまいました。

「は?何言ってるのよ。もう放課後よ?
 今日は翠屋さんで、なのはに奢ってもらうって今朝約束したじゃない」


―――え?

放……課後?
言われてみれば、今自分は教室にある自分の机についている。
携帯電話を取り出して時間を見てみたけど確かにもう12時を過ぎている。

そんな私の所になのはちゃんとはやてちゃんがやって来た。


「すずかちゃーん、そろそろ行こー……ってどうしたの?」

「おし、シグナム達とも連絡取れたし……ってどないしたん?」

「あ、二人とも。何かすずかの様子がおかしいのよ」

「すずかちゃん、朝からどことなくヘンやったからなー。疲れてんのとちゃうか?」

「そうなの?だったら今日はやめとく?」

なのはちゃんが心配そうに覗き込んで来ました。
未だによくわかりませんけど、これから翠屋さんに行くという事はわかりましたのでなんとか返答します。

「ううん、大丈夫だよ。ゴメンね、心配かけて」

「……ならいいけど。あんまり無理しないのよ?」

「うん、ありがとう」

「ほんなら行こか。―――あれ?フェイトちゃんはどこに行ったん?」

「あ、フェイトちゃんならバイトに遅れるからって先に行ったよ」

「そう。それじゃ私たちも早く行きましょ」

アリサちゃんを先頭に、私達は翠屋さんへと向かうことになった。













カランカラン

「いらっしゃいませー」

アルバイトの人が出迎えて席に案内してくれた先には、はやてちゃんの同居人でもある3人が既に席についています。

「はやてちゃん、おかえりなさい♪」

癒されるような笑顔で出迎えた金髪の女性はシャマルさん。
シャマルさんはおっとりしてて、ちょっと那美さんに似てる所があります。
かと言って那美さんみたいに極度のドジではないので、よきお姉さん、よき相談役といった人です。

「はやてっ!おかえり!」

赤毛の三つ編み少女は今朝も会ったヴィータちゃん。
見た目通り元気なお子様です。
はやてちゃんに一番懐いているのもこの子。
トラブルメーカー的な存在ではありますが、この子が楽しそうだと私も楽しいです。

「…お疲れ様です、主」

腕を組んだまま瞑想をしていたのはシグナムさん。
性格は一言で言うなら『女版 恭也さん』と言った感じです。
口数は少ないですけれど、いつも皆のことを見守ってくれている所なんかそっくり。
ただ、ピンク色の長いポニーテールが象徴(?)するように、意外と可愛いもの好きだったりします。


ザフィーラさんを含めたこの4人ははやてちゃんを主とする、ヴォルケンリッターと呼ばれる騎士団だそうです。
実際に見たことはないですが、なのはちゃん達と闘ったこともあるみたいで色々と確執があるみたい。
ヴィータちゃんはなのはちゃんに対してやたらと突っかかるし、
フェイトちゃんとシグナムさんは、言葉を交わすことはあまりないですが目で語り合ってるように見えます。
………強敵と書いて「とも」と呼ぶ、みたいな感じかな?

「みんな、ただいまや」

そんな3人に元気よく答えるはやてちゃん。
それに続いて私達も挨拶をします。

「あー、シャマルさ〜ん」

アリサちゃんはシャマルさんに飛びつきます。
理由はよくわかりませんが、あの二人は波長が合うようです。

「あら、アリサちゃん。元気でしたか?」

「はい♪」

「…高町なのは、テスタロッサはどうした?」

「あ、フェイトちゃんはアルバイトなので、今日は店員さんです」

シグナムさんはフェイトちゃんが居ないのでちょっと気になるみたい。
ちなみにフェイトちゃんはリンディさんの養子になったので、正確にはハラオウンなんだけど…
以前のクセもあるのか、シグナムさんがフェイトちゃんを呼ぶときは未だにテスタロッサです。

「そうか」

なのはちゃんの答えにシグナムさんは、仕方ないなと言わんばかりにコーヒーを飲んでいます。
なんだかんだ言ってフェイトちゃんがお気に入りのよう。

「はやて、こっち!すずかも来い!」

かく言う私もヴィータちゃんに気に入られてたり。
なんというか可愛いんですよね。

そうして各々が席についたところで店員さん……もとい、フェイトちゃんが注文を取りに来たのですが…


「…ご注文はお決まりでしょうか?」


「「「「「…………………」」」」」


「………?」


「「か、可愛い〜〜♪」」

私とシャマルさんは思わず叫んでしまいました。
翠屋さんの制服を着たフェイトちゃん……だけでも可愛いのですが、
今はエプロンにフリルのオプションもついており、いわゆる『メイドさん』のような格好です。

「おおっ!フェイトちゃん、めっちゃラブリーや〜」

「フェイト、な、なんだそれはっ!?」

はやてちゃんとヴィータちゃんも反応します。
というか、なんだと言われてもどうしようもない気が(汗

「えっと……桃子さんが今日はコレを着てなさい、って…」

どうやらフェイトちゃんは相変わらず桃子さんに可愛がられているよう。
でも、こういう反応をするフェイトちゃんを見れば仕方ないかも。

「…………………」

そんな中、ひとりシグナムさんはフェイトちゃんを凝視したまま固まっています。

「…シグナム?」

不思議に思ったフェイトちゃんが尋ねますが、シグナムさんからは返答がありません。

「………………テ、テスタロッサ」

「?」

「……そ、その服を着るには………ここで働けばいいのか…?」

シグナムさんの爆弾発言に、皆はしばらく唖然としていました。












そんなシグナムさんをからかうことから十数分。

「そういえばアリサちゃん」

「はい?」

先に頼んでおいた紅茶を一口含んだシャマルさんが切り出しました。

「さっき抱きついて来た時に、少し男の人の香りがしたけど…昨日は何かあったの?」

「ぶっ!?」

思わず咽返るアリサちゃん。
というか、その質問は一歩間違えれば大変な事になると思うのは私だけ?

「あら、可愛い反応」

ニコニコしながら詰め寄るシャマルさん。
一方のアリサちゃんはうろたえるのかと思っていたけど、恥ずかしそうにしながらも結構話したがってるみたい。

「えーと、じ、実はですね…」








―――――30分後

「あらら」

「むぅ。よくわかんないけど、それはいいのか?」

「高町恭也、武人として……いや女として許すまじ」

ヴォルケンリッターの方々は三者三様の反応。
ヴィータちゃんはよくわかっていないみたいですが、シグナムさんはかなり危険なセリフを吐いています。
第三者から見ればどうみても二股なので、気持ちは分からなくもないですが。
そんなときにフェイトちゃんが注文の品を持って来ました。

「…お待たせしました」

「おっ、来た来た〜」

「それじゃ、まずは頂きましょうか」

「そうだな……。む?ひとつ多いな。誰の分だ?」

「あ、シグナム……それは私の」

「あ、てことは今から休憩?」

「うん。少しだけだけどね」

そう言うとフェイトちゃんはなのはちゃんの隣に座りました。
やっぱりフェイトちゃんが一番だと思っている友達はなのはちゃんみたい。

「…ところで、さっきは何の話をしてたの?」

「ん?えーとね……」













「ふ、ふーん……」

自分達の話だとは思わなかったフェイトは、アリサの説明にちょっと赤くなっている。

「うーん、私ももうちょっとアタックしておけば良かったかしら」

本気とも冗談とも取れないような仕草をするシャマルにアリサは途端に焦った。

「えっ、シャ、シャマルさんも恭也さんが好きなんですかっ?」

「そうね〜。恭也さん、カッコイイし♪」

「そ、そんな……」

ニコニコと笑うシャマルに愕然とするアリサ。
確かに恭也は好きだと言ってくれたものの、自分自身が憧れている女性まで好きと言い出されたら
さすがに平静ではいられないが、そんな中フェイトは冷静に尋ねる。

「…シャマルが恭也さんを好きになったのは………どうして?」

「きっかけってこと?
 実は以前、お買い物帰りで両手が塞がってるときに変な男達に絡まれたんだけど……
 その時恭也さんが助けれてくれたのよ。
 あっという間に男達を倒しただけじゃなくて、その後『女性のひとり歩きは危ないですよ』って
 すっごく素敵な笑顔で、荷物まで持って家まで送ってくれたの」

『素敵だったわ〜』と、頬を染めながらうっとりと話すシャマルだが
その顔を見たら、逆に男性陣がうっとりとしてしまいそうである。

「それから少し話すようになって……とっても優しくて家族想いってこともわかったわ。
 将来一緒になったら、きっとはやてちゃんのことも大切にしてくれると思うの。
 ね、シグナム?」

「ぶっ!」

急に話を振られたシグナムは危うくコーヒーを吹き零しそうになる。

「あら、どうしたの?」

「将来ってお前………というか、そもそもなぜ私に振る?」

「え〜?だってシグナム、恭也さんとはしょっちゅう会ってるじゃない。
 お堅いアナタが嫌いな人にわざわざ会いに行くなんてことはないでしょ?」

「む……確かに恭也とはよく会ってはいるが」

「「ええっ!?」」

シグナムの呟きに少女二人組みは驚愕の声を上げる。
思いもよらぬ伏兵×2の出現に若干の危機を感じているようだ。

「あれ?フェイトちゃん達……ひょっとして知らないの?」

「「な、なななななにを?」」

すずかの質問にあからさまな動揺を示す二人組。

「シグナムさんと恭也さんは暇さえあれば、二人で剣の稽古をしているんだよ」

「「な、なるほど……」」

女性として会いに行っているのではなく、剣士としての性質ゆえのことであると分かり二人は少し落ち着いた。
……しかし二人の様子を見て悪戯心が湧いたのか、すずかはちょっとからかうことにしたようだ。

「………最も、片方は稽古と称した逢引のつもりみたいだけど」

「「「な!?」」」

予想通りの反応を示す3人に満足気味のすずか。
奥のシャマルを見ると「GJ!」と言わんばかりに親指を立てている。

「なっ……何を言う、すずか!わ、私はそんなつもりは……」

「あれ?私は別にシグナムさんなんて言ってませんけど?」

してやったりと言わんばかりのすずかに、シグナムはこれ以上ないくらいに焦る。

「ぐ……い、いや!私も恭也もそんなつもりは毛頭ない!」

「ホントにー?シグナムったら恭也さんと稽古したあとはすっごく嬉しそうなのよねー。
 ヴォルケンリッターを束ねる将として、あの腑抜け具合はマズイと思うわ。
 ヴィータちゃんもそう思うわよね?」

「そうだなー。恭也の所から帰って来たシグナムはひとりでニヤニヤしてて不気味だし」

若干ズレた回答ではあったが、それでもシグナムが恭也との会合を楽しんでいる事は手に取るように分かる。

「ま、待て、お前達。私は女である前に騎士。
 そんな色恋沙汰に現を抜かすような鍛え方はしていない………」

まるでどこかの朴念仁のようなセリフを吐くシグナムだが
彼女のマスターはそんな嘘はお見通しのようだ。

「んふふ〜」

「あ、主……?」

「シ〜グナム〜?」

「な、何でしょう……?」

いつも心優しい主とは思えないほどのイヤらしい笑みにシグナムは身の危険を感じた。

「女である前に騎士、か〜。騎士である前に女、の間違いやないんか〜?」

そう言ってはやてはカバンから取り出した一枚の写真をひらひらと見せる。
そこには椅子に座っているシグナムの両肩に手を置き、少し困った表情だが楽しそうな恭也と
普段着慣れない可愛らしい服装に恥ずかしそうな仕草をしているシグナムの二人が仲良く映っていた。
ちなみに撮影したのは桃子である。

「なっ!?なぜそれを!?」

この写真はいつものように出稽古に来たシグナムを見た桃子が、シグナムの本質(ぷちツンデレ・可愛いもの好き)を見抜き
『着せ替え大作戦』を実行した結果である。
家に3人以外居ないときを狙ってやったのはせめてもの慈悲だろうか。
なお、写真で恭也がシグナムの肩に手を置いているのは、可愛らしい服を着たシグナムが恥ずかしがって逃げるのを取り押さえるためだ。

「んふふ〜シグナムはうっかりさんやなぁ〜。
 大切なものをいつも見ときたい気持ちはわかるが、机の上に無造作の置いたりしたらアカンで〜」

「うっ…………」

「そ・れ・に、や。
 約束事を忘れたくないのもわかるけど、写真の裏に書いたりするのは感心せぇへんなー」

「!?」

しまった!という表情ではやてから写真を取り上げようとするシグナムだが、
それよりも早く隣の少女達が写真の裏を覗き込んでいた。

「…わっ、シグナムさんスゴイですねー。
 お兄ちゃんとこんな約束できるの、シグナムさんくらいですよ」

「…うわ〜ホント。シグナムさんらしい約束です♪」

なのはとすずかは感心しているが、残りの2人はそれ所ではない。

「「何々……『私、高町恭也(甲)は、シグナム(乙)との時間無制限一本勝負に於いて敗北を喫した場合、
       乙の要求する事項を一つ無条件で承諾するとともに、一日乙の行動に付き合います。
       また、この規約は甲が承諾する限り期限・回数等に制限はありません』〜〜!?」」

少女2人は、写真の裏に書かれている文章を読み上げると同時に顔を上げてシグナムを見た。
写真にはご丁寧に恭也の母印まで押されている。

「へぇーシグナム。あなたいつの間にこんな約束を取り付けたの?隅に置けないわね〜♪」

「い、いや、それは……」

「こうとかおつとか……なんか難しいな。結局何て書いてあるんだ?」

よくわかっていないヴィータにすずかが説明をする。

「えーと、恭也さんとシグナムさんが勝負してシグナムさんが勝ったら、
 一日シグナムさんとのお買い物に付き合うと同時に、シグナムさんは恭也さんにひとつだけ何でもお願いできるってこと。
 簡単に言えば、デート権だね」

「「デ、デート……」」

似たようなことはあったが、未だ恭也と正式なデートなんてしたことのない2人は
写真を持つ手がぷるぷると震えている。

「ふーん。でもシグナム、恭也に勝てるのか?」

「ぐっ………悔しいが未だ連敗中だ。
 どうやったらあの男に勝てるのか、最近全くわからなくなってきた……」

シグナムの言葉にホッとする2人だが、なのはは違う所が気になったようだ。

「あの…シグナムさん。お兄ちゃんとの勝負って、魔法も使っているんですか?」

「ん?ああ……恭也の全力で来いという言葉に乗せられてな。
 最初は剣士同士の闘いにそんなものは邪道だと思っていたんだが
 『全力とはその人が今までの鍛錬で身に付けた、自分の持てる全ての力のこと。
 それが魔法であれ生まれ持った奇跡であれ、行使することを躊躇う理由は何もない。
 それに…何か一つでも出し惜しみした状態で勝ってもお互い嬉しくないだろう?』
  と恭也が言ったのでな……。
 最も、魔法を使おうが使うまいが未だにあしらわれているが」

なのはは思わず冷や汗が出た。
前々から自分の兄は人間離れしていると思っていたが、魔法を使いこなす凄腕の剣士ですら勝てないなんて…。
正直、あの兄は地球人なのだろうかという疑問すら湧いてくる。

「剣閃は既にひとつひとつが必殺の領域。
 武器の差を補って余りある剣速は障壁すらも貫通する。
 ひょっとするとあの刀は魔剣の類かもしれないが」

「…距離を取ろうとも、奴の広すぎる間合いはそれを許さない。
 一旦逃げれたとしても、避けることはおろか目視できないほどの速度で矢が飛んでくるし、
 こちらが隙を突いたと思っても、いつの間にか絡められた糸で一瞬行動を制限され逃げられてしまう」

コーヒーを一口含んでシグナムは続ける。

「特筆すべきは第六感とも言うべき危機直感能力。
 最初はただの偶然かと思っていたが魔法による奇襲をああも続けて回避されてはもはや認めざるを得まい」

一同はシグナムの話に聞き入っており、目の前のお菓子は手につかないようだ。

「………そして真に恐ろしいのは、その直感に身を委ねることの出来る奴の決断力。
 正直な話、私とて戦闘中にそういう感覚が働くことはままある。
 だがその予感にすべてを委ねられるかと問われればNOというしかないな。
 幼少の頃よりひたすら繰り返した反復練習。
 そこで得た自分の力量を誰よりも正しく認識し、信じているからこそできるのだろう」

「……そうだね、恭也さんはすごく強い。
 魔法を使おうと思ってもあの不思議な動きの前には当てることが出来ない」

恭也の強さを語るシグナムに反応したのはフェイト。
実は彼女自身、一度だけ恭也と闘ったことがあるのだ。

「神速……と言うヤツか。
 確かにアレには何度も煮え湯を飲まされたな。
 テスタロッサも十分速いが、奴はそれ以上だ。
 決定的チャンスを、恭也にとっては絶体絶命だったはずの危機を一気にひっくり返されてしまった。
 しかし奴はあれでもまだ本気とは思えない」

自分は全力で挑んでいるのに、相手はまだ全力になりきれていないという現実が
剣士としてのシグナムの自信を奪いかけている。
そんな彼女に気付いたのはなのは。

「…いえ、そんな事は無いと思います。
 お兄ちゃんは手を抜くなんてことは嫌いだから、いつも全力じゃないかと。
 ただ――――」

「……ただ?」

「ただ、私はわからないんですけど……
 お兄ちゃん達がやってる『御神流』っていうのは何かを護るときに一番強くなる、って言ってました。
 だからきっとシグナムさんと闘ってる状態のお兄ちゃんってのはそれが全力なんですよ」

「何かを護る時に、か。
 なるほど。確かにその理念はわからなくもない」

自分も主に仕える身。
主を護ろうとするときには、今よりも力が出せるだろうと信じている。

「しかし……やはり剣士としては最高の状態である恭也を倒してみたいものだ。
 まだまだ修練が足りないな」

悔しがってはいるが、どこか嬉しそうなシグナム。
そんなシグナムを見てシャマルはしつこくからかう。

「うーん、やっぱりシグナムにピッタリなのは恭也さんみたいね。
 お互い剣が好きだから話題も尽きないだろうし、何より以前言ってたわよね?
 『自分より弱い男を好きになることなどない』って」

「あ、あれは言葉の綾だ……っ!
 それに強ければ好きになるとも言ってない!」

「そう?」

「そうだっ!……いいからこの話はもう終わりにするぞっ」

真っ赤にしながらそっぽを向くシグナムに、シャマルとすずかはクスクス笑っているが
少女2人は微妙な焦りを感じたりもしていた。









それからシグナムさん達は色々と闘いのお話に花を咲かせています。
女性同士の会話の種としては一般的ではないかもしれませんが……
シグナムさんなんかは本当に楽しそうなので、別に構わないかなぁ〜とも思ったり。
それよりも周りの皆が戦闘のスペシャリストみたいなので、私とアリサちゃんは完全に置いてけぼりを喰らってます……。

「はぇ〜〜〜、恭也さんってそんなに強いんだ……」

アリサちゃんは呆然としています。
それもそのはず。
私達も一度だけ魔法を使った闘いを見ましたが、あのときはビルが一瞬で吹き飛ぶほどのレベルだったので
正直、そんな人達に魔法の使えない恭也さんが勝てるというのが信じられません。
その上、恭也さんが持ってる武器はあの短い刀だけですし…。

「ああ、闘いとは単純な力が強いものが勝つわけではない、というのを身をもって味わった。
 あの男は『闘い』というものの本質を誰よりも理解しているのだろう」

「そうだな。アタシもちょっとだけ闘り合ったことあるけど……何もできなかったよ。
 始まった瞬間矢が飛んできて、それを防いだと思ったら目の前に恭也はいなくて……後ろから刀を突きつけられてお終い。
 おい、なのは。お前の兄貴はホントに人間か?」

ムスッとしたヴィータちゃんの問いかけになのはちゃんは困惑しています。

「えーと、た……多分。人間以外のDNAは存在してない……………はず。
 魔法も使えないみたいだし」

た、多分って、なのはちゃん……お兄さんなのに。

「それはちょっとわからないかも。
 実は以前、恭也さんに一回魔法が使えないか以前試してもらおうとしたんだけど……」

「そうなの?それでそれで?」

「『お、俺にはなのはみたいな言葉は出せませんっ!』って逃げられた…」

「「「「「「「はぁ?」」」」」」」

予想外の反応に私達は思わず素っ頓狂な声をあげてしまう。

「要するに…恭也さんは、その、『リリカルマジカル』って言葉を出すのが恥ずかしいみたいなんだ。
 今は違うと思うけど、当時の恭也さんは魔法の詠唱ってのを万国共通みたいに思ってたから
 もし自分も魔法を使うとすれば、なのはと同じ掛け声が必要になると思ったんだろうね」

フェイトちゃんの言葉に私たちは顔を一瞬見合わせると、吹き出してしまいました。

「ふふ、なるほど。言われてみればあの男がそんなセリフを吐く所は想像できんな」

「そうだなー。でもシグナム、ちょっと見てみたくないか?」

「………確かに」

ヴィータちゃんの提案に意外にも乗ってくるシグナムさん。
…ひょっとして、いつも勝負に負けてるからその仕返し……かな?

「ということは結局、恭也さんが魔法を使えるかどうかはわからないわけね」

「うん。でも戦闘中のあの危険察知能力を考えると、最低でも並レベルの魔力は持ってそうだし
 なのはと血が繋がっていることを考えるとやっぱり少し期待しちゃうね」

フェイトちゃんはちょっと嬉しそう。
もし恭也さんが魔法を使えたら自分ともっと話ができるし
可能性の問題として、将来同じ職場で働けるかも、とか考えてるのかな。

「うーん、だけど恭也さんって今でもメチャ強いんでしょ?
 そんな人が魔法まで使えたら手が付けられなさそうな気が…」

「………」

恭也さんと直接闘うことがあるシグナムさんは押し黙ってしまいました。
確かに今のままでも勝てないのに魔法まで会得されたらたまんないでしょう。
でも相手が強ければ強いほど倒し甲斐があるとも言っていたので
どちらかと言えば賛成派と思っていたのですが………

「………………………………とりあえず魔法に関しては保留にしよう」

悔しさの方が強いみたいなので、恭也さんが魔法を使えるようになるのはもう少し先みたいです。







それからしばらく恭也さんの話で盛り上がりました。
趣味である盆栽とか、普段の生活とか。
それから――――

「じゃあ近い内に恭也さんの恋人が決まるわけね」




――ドクン!

その言葉を聞いて、途端に焦りを感じる私。

結果はわからないけど、もし、もしそうなったら――――

そう思うとまた視界が暗くなった。






『いいのか?』

……………

『このままだと、そなたはあの者と添い遂げることはできなくなるかもしれんぞ』

……だけど

『…人間、大切なものを得るためには何かを失わねばならぬ』

…………

『そなたにとってあの者は、何かを失ってまで得るのに値するものではないのか?』

………そう、そうだ。自分にとってあの人は―――

『それを奪おうとする者が……そなたは憎いのだろう?』

…憎い。
そうだ、あの人の傍にいていいのは私だけ。
私以外が居るというのであれば、そんなものは――――――








「「「!!!」」」

突然、ヴォルケンリッターの3人が身構える。
なのは達は臨戦態勢に入った彼女達を見て驚いた。
彼女達は服装こそ変わっていないが、いつでも己の武器を取り出せる状態だからだ。

「…え、どうしたの3人とも?」

なのはが尋ねるが、3人ともそんな余裕はない。

「(これが忍の言っていたことか…!)」

「(えぇ、これほどまでに強い闇の魔力(ダークフォース)……想像以上です)」

「(まずいな…。これって明らかに闇の書の防衛プログラム以上じゃないか?)」

3人がテレパシーで会話をしているため、少女たちは何のことかわからない。

「…ねぇ、なのは。シャマルさんたちどうしたの?ひょっとしてなんかヤバイこと?」

「う、うん…私もわからないんだ……。私は何も魔法の力とか感じてないし…」

「3人ともどないしたんや?お店の中でそんなもん振り回したらアカンで?」

はやてが嗜めようとするが、逆にシグナムは驚いた顔をしている。

「…主?主は何も感じないのですか?」

「うん?」

はやては何のことかと首を傾げた。

「(シグナム、無理よ。これは私達…もしくは近しい者にしか感じる事はできないわ)」

「(くっ…)」

「(どうするんだ、シグナム?このままじゃ…)」

「(いいえ、まだ完全に覚醒していないから大丈夫よ。
  楽観視は出来ないけれども、ひとまずこの場は"彼女"を落ち着けるのが先決。
  それから皆で対策を立てましょう)」

「(落ち着ける……というのはどうすれば?)」

「(…普段通りに振る舞うのよ。
  彼女がおかしな反応をしたとしても、あまり聞き返さず普通に振る舞う事。
  今の状態ならば、それは深層領域にいる彼女の本体へと必ず届くわ)」

「(…わかった)」

「(了解だ)」

そう言うとシグナムはテレパシーで正面にいる少女達に告げた。

「(主、これから私の言う通りにしてください)」







「「「(……………)」」」

「(つまりは普段通りに振る舞って彼女を落ち着けるのが目的です。
  決して彼女が不快を覚えるような行動をとってはいけません。よろしいですか?)」

「(あのー)」

「(どうしたアリサ)」

「(なんかヤバイってのはわかったんですけど……結局彼女ってのは誰なんですか?)」

他の2人も疑問に思っていることを聞くアリサだが、割り込んできたシャマルから返ってきた答えはまさに信じられないものだった。



「(貴女たちの目の前にいる少女――――ある特殊なユニゾンデバイスのマスター、月村すずかちゃんよ)」



「「「(ええっ!?)」」」








「(すずかちゃんが……マスター?)」

「(それにユニゾンデバイスって…)」

「(あと、ひとつだけ大事なこと。決して今は恭也さんの話をしてはダメよ)」

「「「(え?)」」」

「(詳しい話はあとで。今は彼女が優先)」

「(わ、わかりました…)」




そう言ってすずかを見るなのはだが、朝のときと同じく別段変わった所は見受けられない。
ただ少し、目の焦点が合ってないようには見える。

「…すずか、ケーキ食べないの?大好きでしょ、ショートケーキ」

「あ、うん。たべるよ」

ケーキを食べ始めるすずか。少し手元がふらついている。

「それにしても今日のすずかちゃんは傑作やったなー。
 まさか数学の授業中に国語の教科書を開いてるなんて古典的手法、関西人として悔しいくらいやわ」

3時間目、国語の教師に当てられて立ったすずかが回答したのは、
1時間目の数学で学んだ公式だった。

「もう。そんなにいわないでよ」

「あはは。体育の授業じゃ珍しいくらいに転んでたしね」

おっとりした雰囲気だが運動神経は抜群のすずかが転ぶというのはかなり珍しい。
しかし、普段の態度と体育の成績がそもそもミスマッチなため、今日の方がある意味自然に見えてしまうのは何とも悲しい所だ。

「なのはちゃんまで……」

2人の物言いにすずかはちょっと拗ねている。



そんなやりとりを黙って見守る大人組。

「(シャマル……アレはいいのか?)」

「(ええ。拗ねてはいるけれども決して不快とは思っていないわ。
  あれは友人同士のコミュニケーション。むしろいい傾向よ)」



「そういえば今日の宿題、あれってちょっと多すぎない?」

「そうだよねー。いくら明日がお休みだからって……私達は週休二日じゃないのに」

「そやなー。ほんなら明日は皆で一緒にやろか?」

「いいね〜」

「そんなこと言って…はやて、アテにしてるのはバレバレだけど私は見せてあげないわよ?」

「ええ?お、横暴やでアリサちゃんっ」

「どーしよっかなー」

「ううぅ〜お代官さま、何卒……」

はやてはどこからか取り出した扇子でアリサを仰いでいる。

「うむ。苦しゅうない」

「もう、ありさちゃんったら……」

「あはは。大丈夫だよはやてちゃん。何だかんだ言って、アリサちゃんははやてちゃんが大好きだから見せてくれるよ」

「な、何言ってんの、なのは!恥ずかしいセリフ禁止!」

「おお、お代官様、それは真でございますか?」

見た目は子供、頭脳は大人……とまではいかないが、精神年齢の高い少女組は
理由はわからないが、シグナム達の意図を汲み取りいつも通りに振る舞っている。

「(さすがは時空管理局ね。この調子ならそろそろ落ち着くと見ていいわ)」

シャマルの言った通り、それから5分ほどするとすずかの様子が変わってきた。


「え?――あ、あれ?」


すずかが目をパチクリさせながら、キョロキョロしている。

「(戻ったわ…!
  いい、皆?彼女は先ほどまでのことを覚えていないわ。
  だからその間のことを絡める分にはいいけれど、重点をおいた会話だけは禁止ね)」

「「「「「(コクン)」」」」」



「じゃあ、明日のことも決まったし…追加の注文でもしようか?」

「そうだねー」

「ほんなら私はシュークリーム。シグナム達はどないするんや?」

「……それでは私はチーズケーキを頂きます」

「あ、じゃあ私も。ヴィータちゃんもそれでいいわよね?」

「ああ、桃子のチーズケーキは美味いからな」

「すずかちゃんはどうする?」

「あ、じゃあ私は――――」


それから1時間は特に何もなく、談笑を楽しんだ女達のお食事タイムは終わりを告げたので
一同は解散することとなった。






「バイバイ、すずか」

「うん。また明日ね」

車で去っていくアリサちゃんが視界から消えるまで見ていた私は、
家に帰ると自室へと入り、まだ4時前だけど日課としている日記をつけることにした。

今日あった出来事を思い出す。
今日も一日楽しかった。
楽しかった―――――――はず。

なぜか記憶が途切れ途切れになっている。
今朝のファリンの話もそうだし、お昼に翠屋さんでケーキを食べてた時もそうだ。
明日の勉強会なんてのも、開催されることは確認したが、どうしてそうなったのかはまるで覚えていない。

―――――私、どうしたんだろう?

―――――もしかして記憶喪失?

そんな不安が頭をよぎる。
こんな時間に日記を書こうとしているのも、忘れないようにと無意識の内のことかも知れない。
誰かに相談した方がいいのだろうか?
でも、こんなヘンなこと突然言われてもびっくりされるだけ。

そんなことを考えていたら、部屋の扉がノックされました。



コンコン

「すずかー、ちょっといいかな?」

お姉ちゃんみたいです。

「あ、うん」

「入るよー」

言いながら既に開けているお姉ちゃんは相変わらず。

「お姉ちゃん、どうしたの?」

「うん、実はね―――」

そう言ったお姉ちゃんの後ろからは、ちょっと予想外な人物が現れました。

「あれ?ヴィータちゃん?」

「すずか、神社に行きたいんだけど…一緒に来てくれないか?」

神社……ということは、くーちゃんと遊ぶということみたい。
あ、くーちゃんというのは那美さんのペット…でいいのかな?子狐の久遠のことです。

「え?いいけど……はやてちゃんはどうしたの?」

「はやては宿題中……」

「あ、あはは。そういうことなんだね…」

あまり勉強が得意でないはやてちゃんは、明日やる予定の宿題に取り掛かっているみたい。
アリサちゃんに見せてもらうつもりではいますが、自分で出来る所まではやっておこうというのがはやてちゃんのいい所。
そんなはやてちゃんだからこそ、アリサちゃんも文句を言いながら見せてあげるのだろうけど。

「うん。だからすずかに付いて来て欲しいんだけど……ダメか?」

「ううん、大丈夫だよ。それじゃ行こうか?」

「おぅ!」

元気一杯のヴィータちゃん。やっぱり可愛いです。

「あ、今日ははやてがご飯を作るって言ってたから一緒に食べような?」

「え?」

突然夕飯に誘われた私は思わずお姉ちゃんを見ます。

「あら、良かったじゃないすずか。最近はヴィータとも会ってなかったしね。
 楽しんでらっしゃい」

お姉ちゃんはあっさりと了承しました。
もしかしたら予め話を聞いていたのかも。

「あ、うん。それじゃ行って来ます」

「はい、行ってらっしゃい」

「すずかっ、早く行くぞ!」

「あ、ああっ、そ、そんなに引っ張らないで〜」

こうして私はヴィータちゃんと八束神社へ向かうことになりました。







すずか達が神社に向かったのを確認した忍は携帯電話を取り出す。

「もしもし…?私だけど。
 ええ、今出て行ったわ。そういうわけだから皆に召集をお願い。
 あまり時間があるわけでもないから急いでね」

ピッ

「―――ふぅ」

電話を切った忍はひとり、ため息をついた。

「まさか、すずかがそこまで―――――ゴメンね、お姉ちゃん気付いてあげられなくて」

そう言った彼女の瞳からは一筋の涙が流れていた。










 第10話をお届けしました、幸のない物書き さっちんです。
火妬美「え、何、この展開?」
 はっはっは、もっと誉めれ。
火妬美「いや誉めてないし。そもそも更新遅いし」
 うっ。リアルに仕事が忙しかったんだよぅ。というか今も忙しいし。
火妬美「そんな言い訳は聞きたくないわ。私が求めているのは結果よ」
 そんな上司みたいな……。
火妬美「それはともかく疑問点が沢山出てくる回ね」
 そうだろうそうだろう。
火妬美「設定とか設定とか設定とか」
 そっち!?いや、物語の真相とかじゃないの!?
火妬美「そんな先の読めたチープな真相はどうでもいいわ。
    すずかは丁寧語と標準語を使い分けててまとまりないし、
    ヴォルケンリッターの喋り方も微妙だし、
    はやてはいつの間にか頭が悪い設定になってるし」
 すずかは話すときは標準語だけど、考え込むときなんかは丁寧語になるんじゃないかと勝手に決めた。
 シャマルも同様に不明。はやては実際は知らないけど「そういうことで諦めてくれ」としか言えないっス。
火妬美「いつも一番最後に書いてる注釈がまるで意味ないわね。
    そもそも間違った設定の上に成り立ってるヘタレSSだし」
 正直な話、サウンドステージを買って聞かないとまずいかなぁなんて本気で思ってるんだ。
火妬美「思ったなら買いなさい。そして聞きなさい」
 善処します………。
火妬美「まぁとりあえずアンタが前回言ってた急展開ってのがわかったわ。
    王道と古臭いってのは違うからね。気を付けなさいよ」
 うっ、精進します。
火妬美「それじゃ、また次回〜♪」





※誤字脱字、設定ミス等ありましたらご連絡頂けると幸いです。





おお、本当に事態が急展開を!
美姫 「すずかにデバイス!?」
しかも、何かありそうだし。
美姫 「ともあれ、シグナムにも勝ってたのね恭也」
みたいだな。にしても、恭也がシグナムに負けたとき…。
あ、いかん、いかん。つい面白そうだと思ってしまったぞ。
美姫 「さてさて、神社へとすずかを伴ったヴィータちゃん」
一体、何が起こるのか。
美姫 「次回もとっても気になるわね」
次回も楽しみに待っています!
美姫 「待ってますね〜」



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