※このお話はPCゲーム「とらいあんぐるハート3」とTVアニメ「魔法少女リリカルなのは」の融合作品です。
 しかし基盤となるのは「とらいあんぐるハート3」なので、士郎は死んでますし、恭也はALLエンド&フリーです。
 「魔法少女リリカルなのは」はキャラ追加のみを目的としたと捉えてください。








4人でハラオウン家への帰路を取る。

フェイトとアルフが並んでいる後ろで、アリサは恭也の腕を抱きながら歩いていた。

「恭也さん、今日は何してたんですか?」

「あ、ああ…。今日は午前中、アルフさんに美由希との鍛錬を手伝ってもらったあと、
 午後からは忍の実験に付き合わされて……」

「ふーん、そうですか。
 忍さんとヘンなことしたりしてませんよね?
 あ、もちろんノエルさんやファリンだってダメですよ」

「だ、大丈夫だ。少しは信用してくれ…」

「どーですかねー。恭也さんは色仕掛けに弱いですから」

クスクス、と笑いながらアリサは恭也に話しかけるが、当の本人はどこか上の空だ。

「……それに、さっきから私の方をちっとも見てくれませんし」

アリサの発言にどこか棘を感じたため、恭也は彼女の顔を見るが怒っているというわけではなさそうだ。
むしろ表情はからかっているようにも見える。

「…っ、いや、そんなことはないだろう(…しまった、気付かれていたか?)」

「……まぁそういうことにしてあげましょう」

「……………」

ここで追求しても良かったが、部屋に着いてからの方が何かと面白いと思ったアリサは話を打ち切る。
依然ニコニコしながら手を握ってくるアリサの様子に、恭也言い知れぬ不安を感じていた。






『 Dreieck Herz -Lyrical- 』 ACT.09






そうしてフェイトのマンションへと到着した4人。

「さて、アリサの用事はどのくらいで終わるんだ?」

「え?なんでですか?」

「……お前を家まで送るからに決まっているだろう。
 どんな用かは知らないが、もう時間も遅い。手短に済ませるんだぞ」

相変わらずそっぽを向きながら言う恭也。

「あ、そういうことですか。だったら心配要りませんよ。
 今日はフェイトのお家に泊まる予定ですから」

「………む、そうなのか?ならば俺はこれで『恭也さんと一緒に♪』帰……なに?」

アリサから何や不穏な言葉が聞こえたような気がした恭也は、恐る恐る聞き返した。

「だ・か・ら♪恭也さんも一緒にお泊りするんですよ、って言ったんです」

満面の笑顔を浮かべて誘う栗色の小悪魔。
後ろではフェイトとアルフが苦笑している。

「…………………」

目の前の少女が言ったことが理解できない恭也。
聞き間違いでなければ彼女は今『お泊り』と言った。
つまり今日、自分はここにいる3人と同じ家で寝るということなのだが、

「(いや、冷静に考えてそれはないだろう。
  となると、泊まるとは言っているものの実際は一緒に寝る訳ではない…。
  けれども近くには居て欲しいということか。
  つまり3人が今求めているのは……)」

そんなことはあるはずないという恭也はすぐさま別のベクトルへと思考が切り替わる。

「なるほど」

「理解しました?」

ニコニコしながらアリサは尋ねたが

「…ああ。最近は物騒だからな。
 つまり今日はアリサも居るから、俺に外で見張りをしていて欲しいということだな?」

「なんでやねん!!」

スパーーン!

彼の出した答えがあまりにも見当違いであったため、
アリサは懐から取り出したスリッパで恭也の頭を渾身の力を込めて叩いた。
スリッパには子供らしい字で『はやて』と書かれている。
どうやら関西人の友人からもらったツッコミ専用アイテムらしい。

「…アリサ、痛いぞ?」

「そんなことはどうでもいいんです!というか、どう聞いたらそうなるんですかっ!」

「いや、どこを聞いてもそうとしか取れないんだが……」

「全くもう……いいですか、恭也さん。
 今日は恭也さんを含めた4人でお泊り会をしようって言っているんです。
 もちろん恭也さんも一緒のお部屋で寝るんです」

『わかりましたか?』と人差し指を立て、お姉さん風を吹かせながら恭也に説明するアリサ。

「……………」

つまり先程一瞬よぎった考えの通り、どうやら自分は3人と同じお泊り会に招待されているようだ。

「ま、待て。女性だけしかいない所に、男である俺が泊まるわけにもいかんだろう」

「平気平気♪」

ぐいぐいと恭也を引っ張るアリサ。
けれども、あまり邪険に出来ないので恭也も徐々に引き摺られていた。

「い、いや、しかし……
(今日だけはマズイ。何とか凌がないと…)」

愛する女性が2人も居る状況でお泊りなどしてしまえば
理性を抑えきる自信のない恭也はなんとか踏み止まろうとしている。

「ほらほら。フェイトだって了承してるんだから問題ないじゃないですか」

フェイトの顔を見ると確かに満更ではない……どころか、是非泊まっていって欲しいという感じだ。

「あ、あの、恭也さん。イヤじゃなければ是非泊まって行ってください…」

モジモジしながら男を誘うフェイトの仕草に、陥落寸前の恭也。
もちろん恭也も嫌な訳ではない。
しかし恋人でもない女性の家に泊まりに行くというのは、古い考えをもつ彼には少々ハードルが高すぎるようだ。

「最近は特に仕事もないんだろ?女の子のお誘いを断るもんじゃないってさっきも怒られたじゃないかい」

「(確かに先程そんなことを言われたが…………今とはかなり状況が食い違ってないか?)」

むしろ本来は、先程よりも女の子の誘いを断るべきではない状況なのだが、
朴念仁の彼にそんなことを理解するのは不可能なためなかなか結論が出ない。

「そうですよ〜。女の子から誘っているんですから男らしくビシッと覚悟を決めてください」

「…何の覚悟だ?」

「イロイロです♪」

徐々にアリサに言いくるめられていく恭也。
既にフェイトの部屋の扉まであと10メートルという所まで連行されている。

「覚悟はともかく……やはりこういうのはマズイだろう?」

「大丈夫ですって」

「だ、だが…」

「…あの、恭也さん。そんなにイヤ………ですか?」

最初は女性の家に泊まるということで遠慮しているだけだと思ったが
恭也があまりにも渋るので、本気で嫌がっているのではないかと感じたフェイトは不安そうな表情をして尋ねた。

「い、いえ、嫌というわけではないのですが…」

「でしたら是非、お願いします。
 今日はもっと恭也さんとお話していたいんです……」

その言葉が決め手だった。
恋愛感情を自覚している相手から、ここまで言われてしまったら断る術も理由もない。

「あ、その………そ、それではお世話になります…」

さすがの恭也も少し緊張している。
とにかく、恭也も承諾したので話がまとまったかのように見えたが
一人、アリサは不満な表情をしている。

「む〜。なんでフェイトの誘いには簡単に乗るんですか〜」

「う」

「私が誘ったときは頷かなかったのに〜」

「そ、それは…」

「うぅっ、やっぱり恭也さんはフェイトの身体にもうメロメロなのね。
 今日の熱烈な愛の告白も次第に忘れていくんだわ……」

アリサも恭也が本気でそんなことを考えているとは思っていない。
しかしフェイトの行動に悩殺(?)されたのも事実なので、悔しさを織り交ぜて少し恭也をからかったが
恭也の反応は予想外のものだった。

「そんなことはない」

「え?」

うろたえる恭也を予想していたアリサは、先程までとは打って変わってハッキリとした口調で自分に語りかける男性に驚いている。

「今日言った、俺の気持ちは決して嘘ではない。
 身体的な特徴で選んだりはしないし、今日という日を忘れるなんてことも絶対にない。
………俺はお前を、心から愛しているから」

「―――――――――」

突然の愛の告白。
こんな展開は桃子直伝100手にもなかったので、完全に意表を突かれた。
アリサは真っ赤になりながら口をパクパクさせている。

「……………」

「…アリサ?」

「…………あ」

「…………あ?」

「あ、ああああありがとうございますっ!わ、わわわたしも……………その………あ、愛してます」

最後は消え入りそうなアリサの声だが、恭也の耳にはきちんと届いていたようだ。

「ありがとう。それと…すまないな。不安になるような行動をしてしまって」

アリサの頭を撫でながら申し訳なく言う恭也。

「い、いえ………」

撫でられている手の感触が気持ちいいということもあるのだが、
先程の恭也の言葉が頭の中で反芻しているアリサは依然照れて俯いたままだ。

「(やっぱり恭也さんってずるい………あんなこと言われたら誰だって――)」

言葉巧みにはぐらかされた気もするが、それを許せてしまうのは惚れた弱みというやつだろうか。
周囲に人がいる状況で、自分だけに言ってくれたということが嬉しかったのかもしれない。

そんな二人はとてもいい雰囲気ではあるが、当然その状況を残りの2人が黙っている訳もなく、

「あー、二人とも。そろそろいいかな?」

アルフが呆れたような声で、

「……えっと、その辺で…」

フェイトがちょっと悔しいような、羨ましいような声で止めに入った。

「「あ」」

二人はバッと離れる。
アリサはともかく、恭也は残りの二人を完全に忘れていたので今更ながら照れているようだ。

「いやー、恭也があんなこと言うなんて驚きだね。
 ひょっとして今日はフェイトもあんな感じに言われたのかい?」

「えっ?」


『俺は間違いなく貴女を――――フェイトさんを愛している、と』


「……あ、えーと…………その……………うん」

アルフに言われて今日の告白シーンを思い返したフェイトは、段々と声が小さくなってくる。
そんなフェイトを可愛いと思うアルフだが、恭也は何か別のことを感じたようだ。

「もしかして………アルフさん、今日のこと知っているんですか?」

自分から話してはいないし、食事のときもそんな話は上らなかった。

「ああ。さっき恭也が那美を送ってる時に"聞かせてもらった"からね」

あくまでフェイト達が自主的に話したように伝えるアルフ。
無理矢理聞き出したのではなく、少女達が自ら話したのであれば恭也も納得するだろうという算段だ。

「そうですか」

「桃子なんか大喜びしてたよ。ようやく孫の顔が見れるって」

「ぐ。かーさんも知っているんですか………」

あの場にいたメンバーを考えれば当然だが、帰ったら確実にその時の一部始終を話させられる事を考えるとちょっと憂鬱になった。

「あとは晶とレン、かな。二人は恭也がロリコンと知って、自室に泣き寝入りしに行ったけど」

笑いながら言うが、あまり笑い事ではない恭也。
これは彼女達からの追及も免れなさそうだ。

「あのー、そろそろ行きません?ちょっと寒くなってきましたし」

「…そうだな」

ようやく落ち着いたアリサの発言により、一同は部屋に向かおうとしたのだがフェイトから待ったがかかる。

「あ、すいませんけど少し待って頂けますか?
 ………ちょっと散らかってるので」

「ええ、構いませんよ」

「ん、りょーかい」

「すいません。すぐに片付けますので」

「悪いね、二人とも」

そう言ってアルフは一足先に部屋へと入っていった。
実際はそんなに散らかっていないのだが、散らかっているものが下着類であることを思い出したフェイトは慌てて片付けに入る。
ちなみにその下着類は全てアルフのものだ。

「フェイト、ちょっと待った」

「?」

続けて部屋に入ろうとしたフェイトを止めたアリサは恭也に聞こえないように耳打ちをした。

「(……は……つで………つね)」

「(え?それって……)」

「(そういうこと)」

「(………………)」

「(って、ここで照れてどーすんのよアンタは)」

「(だ、だって……)」

「(まぁまぁ。とりあえずそういうわけだからよろしく)」

「(う、うん)」

顔を赤くしながら部屋に入っていくフェイトを見た恭也は、またアリサが変な企みをしていると分かったが
止める術もないので黙ってみているしか出来なかった。










扉の前で恭也とアリサは、何をする訳でもなくぼうっと立っている。
会話らしい会話もない。
というのも、恭也の様子が夕食時のようなぎこちない態度に戻ってしまったからだ。

「(恭也さんもフェイトみたいにめんどくさいというか律儀というか……損な性格よねー。
  まぁそこが可愛かったりするんだけど)」

既に恭也がぎこちない理由は確証が持てるほどにわかっているので
会話がないけれども、アリサの方は恭也の気持ちがわかるので今はそっとしておいた。
過去の自分もこうだったのかと思うと、見てるのが少し面白く感じた事もある。

「(…いかん、何か話題を探さなければ。アリサは先程から喋る気配がないし…)」

一方の恭也は、この沈黙を気まずいものと捉えているため頭の中は既にオーバーヒート気味だ。
実際に気まずいと思ってるのが自分だけだとは夢にも思わないだろう。

「(マズイな。このままではアリサは退屈だろうし…)」

朴念仁の彼が女性にここまで気を遣うようになったのも、一重に愛の力か。
しかし今までが今までだけに、突然彼に女性を楽しませる話題など出てくる訳もなかった。


 ガチャ


そんなときに、隣の扉が開く。

「―――あれ、恭也君?」



「「え?」」

「どうしたの?こんな所に………もしかして私に会いに来てくれたの?」

からかうような口調で言う秋子。
アリサは突然現れた見た目晶くらいの年齢の女性に困惑しており、恭也はマズイ人物に見つかったと若干焦っている。

「……こんばんは。今日はちょっとフェイトさんのお宅に用事がありまして」

さすがに泊まりに来たとは言えない恭也は少しぼかして伝えたものの、
恐らくそう遠くない内にバレるだろう、という諦めもあった。

「そう、私が目当てじゃなかったのね。
 昨夜はあんなにも真剣に語り合ったからてっきり……」

「何を言って…!?」

秋子がそういった瞬間、後方から感じる霊気が妖気に変わったような気がした。
もちろん恭也に霊感があるわけではないので、それほど凄まじいということだ。

「きょ〜やさ〜〜〜ん。その方はどなたですか〜〜?」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴという音が聞こえてきそうなほど、黒いオーラを全開にしているアリサ。

「随分と親しいみたいですし………昨夜はどんなお話をしていたか聞かせて頂けませんかね?」

しゃきん、と何処からか取り出した細身の剣を恭也の喉元に突き付けている。

「フフフ。シグナムさんからもらった剣がこんな所で役に立つなんて、人生備えあれば憂いなしですね」

そんなものを備えている女子中学生はどうだろう。

「ちょっ…ま、待て」

「いいえ待ちません。
 いつの間にかこんな美人にまで手を出しているなんて……一体、愛している女性は何人いるんですか?」

「だから誤解だ。別にやましいことは何も…」

「恭也さんのお口は信用できませんからね。
 さっきはまんまと騙されましたけど……今度はそうはいきませんよ?」

「だ、騙してなどいない」

「さぁ恭也さん。素直にお話してくれれば痛いことはしませんよ〜?」

完全に聞く耳を持っていないアリサ。
笑顔でしませんよ、と言いながらアリサの剣は既に恭也の薄皮一枚を切り裂いているが
当の恭也は全く関係のないことを考えている。

「(まさかアリサが紙一重レベルの攻撃を会得しているとは………今度一度手合わせを願ってみるか)」

「ほらほら。やましいことがないなら言えるでしょう。
 早く言わないとプスッといっちゃいますよ?」

剣に込める力が強くなっていく。
恭也の喉元からは一筋の血が流れている程にアリサは真剣なようだ。

「お、落ち着け。殺人はマズイぞ」

「大丈夫ですよ。私もすぐに後を追いますから……」

超危険なセリフを吐くアリサ。
このままでは確実に殺されてしまう恭也を救ったのは騒動のきっかけとなった秋子であった。

「あなたひょっとして……アリサちゃん?」

「え?」

突然自分の名前を呼ばれたアリサは、それまでの妖気が霧散するほど呆気に取られる。

「あれ?アリサちゃんじゃなかった?」

「あ、いえ。確かに私はアリサですけど……」

「きゃ〜〜やっぱり♪
 うんうん。恭也君の言ってた通りの綺麗な子ね。将来はすごい美人になるわよ〜
 ちょっと勝ち気な性格みたいだけど……今流行りのツンデレってやつかしら?」

「えと………貴女は?」

よくわからない単語も飛び交っていたので、とりあえず目の前の女性が誰なのかを確認するアリサ。

「私は岡野秋子って言うの。恭也君とフェイトさんとは昨日知り合ったばかりなのよ」

昨日知り合ったばかり、の所でアリサは何かを思い出した。

「もしかしてフェイトが昨日会ったっていう……」

「そうそう。フェイトさんには娘の美樹を助けてもらってね。それから恭也君たちとも知り合うことになったのよ」

「えぇ!?む、娘って……秋子さん、いくつなんですかっ!?」

目の前の女性はどう見ても10代にしか見えない。

「ふふ。恭也君と同じ事聞くのね。今19よ」

年齢の話題は結構受けてるせいか、特に気にした風もなく答える。

「じゅっ、19ぅ!?」

自分達と6〜7歳しか変わらない女性が、既に子持ちであることに驚いているアリサ。
更に今朝のフェイトの話によれば、昨日出会った女の子は4〜5歳くらいと聞いている。

「そんなに驚くことでもないわよ。だってアリサちゃんの方がその上を行くんだし♪」

「……へっ?」

「あのね、昨日恭也君がね―――」

と、昨日話した事をアリサに伝えようとした所で、真後ろのドアからフェイトが顔を出してきた。

ガチャ

「アリサ、恭也さん……お待たせしました」

「あら、フェイトさん、こんばんは」

「え?……あ、秋子さん。こんばんは」

先程まで表に居なかった人物から話しかけられたフェイトは驚いたが
恭也達が彼女と会話をしていたとわかるとすぐに笑顔に戻った。

「みきちゃんは……もう寝ちゃいましたか?」

「ええ。ついさっき眠ったばかりよ。なので私もちょっと職探しに出ようかなと思ってたの」

「「職探し?」」

アリサとフェイトはこんな時間から職探しに出かけようとしている秋子に疑問を持ったが
既に夫が他界していることを知っている恭也は納得しているのか、それに関しては何も言わずにこの話を切り上げようとした。

「まぁ秋子さんにも事情があるんだろう……それよりもここに居ては冷える。早く上がらせてもらおう」

そう言ってアリサを促す。
秋子はそんな恭也の心遣いに気付いたのか、多少強引ではあるが話題を変えた。

「…恭也君たちはこれからフェイトさんのお家?」

「あ、はい。アリサとフェイトさんを送ってきたんですが、ついでにお茶を頂くことになったんです」

「なるほど。それじゃ、お邪魔になりそうだから私はそろそろ行くわ」

「いえ、そんなことはないんですが……」

「いいからいいから。他人がいると言いたい事も言えなくなっちゃうからね」

秋子を他人とは思っていないが、確かに出会ったばかりの人間がいれば自分やフェイトはともかく
アリサはどこかしら遠慮をするだろう。

「……そうですか。では、また明日………っと、そういえば秋子さん、明日はお暇ですか?」

フェイトに伝言を頼んでいたが、せっかく会ったのでここで明日の事を伝える恭也。

「明日?特に用事はないけど………ナニナニ?デートのお誘い?」


 ((ぴくっ))


デートという単語に2人の少女が過剰に反応する。

「(恭也さん…まさか昨日送っていった帰りに秋子さんと何か………?)」

「(さっきは有耶無耶になっちゃったけど………やっぱり何か………?)」

秋子は当然狙ってからかっているのだが二人は気が気でない。
色仕掛けに弱い恭也は、人妻の魅力に虜にされてしまったのではないかという考えまで浮かぶ。
そんな少女達の焦りを目の前にしている男性も同じように気が気でない。

「な、何を言っているんですか。そんなわけないでしょう……」

「あら、残念」

「まったく…」

「ちょっとした冗談よ。そこの2人も気にしないようにね」

「「は、はい」」

「それでですね……。昨日お話した件がちょっと変わりまして……その詳細な打ち合わせ、みたいなものを明日行うんです。
 是非、秋子さんとみきちゃんにも来て頂きたくて」

「……?よくわからないけど、内容から察するに私は居ない方がいいんじゃないの?」

「…いえ、今の状況に至ったのは間違いなく貴女達のおかげなんです。
 その貴女達には是非一緒に居てもらいたい」

「……そう。そういうことならわかったわ。
 明日の何時頃にすればいいのかしら」

「そうですね……フェイトさん、学校は何時に終わるんですか?」

「あ、はい。明日は土曜日ですから学校は早く終わるんですけれど、その分アルバイトも早目なので……
 夕方6時くらいになりますけど…」

「…ということなので、6時になりましたらお迎えに行きます」

「わかったわ」

「ええ。それではまた明日」

「おやすみなさい」

「えっと……おやすみなさい」

「ええ」

恭也たちは一人街へと向かう秋子を見送ると、フェイトの部屋へと上がっていった。













「うーん、あの人が秋子さんかぁ〜」

話題のみきの母親を初めて見たアリサはリビングに向かいながらブツブツと呟いている。

「それにしてもあの人、桃子さんに似てる気がする…」

その考えはズバリ的中している。
外見が、ということではなく彼女の内面を構成する全てが桃子因子で出来ているのではと思えるほどだ。

「……それは私も思う」

フェイトも秋子の人の心情を見抜くことに長けているという部分は桃子に通じるものがあると思っている。
その後のからかいを含めた言動まで同じであることも理由ではあるが。

「その上、あんなに若いとは思ってなかったなー」

「…そういえば秋子さんっていくつなの?」

「あれ、フェイトは聞いてなかったの?驚くわよ。なんとまだ19らしいわ」

「え…じゅ、19……歳? だ、だって……みきちゃんって今4歳くらいだよね…ということは……」

「うーん、世の中は広いわねー」

あはは、とアリサは本気で笑っているが、フェイトはどこかしら乾いた笑いだ。

「おや、3人とも遅かったね。何かあったのかい?」

リビングに入るとアルフが待ちくたびれた様子で問いかけた。
一応部屋を見る限り、片付けは終了しているようだ。

「あ、ゴメンねアルフ。ちょうど秋子さんたちと会ったからちょっと話し込んじゃって…」

「秋子……って、昨日フェイトが会ったっていう子の親御さんだっけ?」

「うん。あと、明日は秋子さんたちがウチに来るから……アルフは気をつけててね」

「あいよ」

基本的にアルフが人間形態を取るのは知人の前だけである。
恩人とは言え、そう簡単に魔法少女であることを言えるわけではないので、明日彼女には動物形態で過ごしてもらうことになる。

「……で、恭也はそんなとこに突っ立ったままでどうしたんだい?」

フェイト達の後ろを見れば恭也がリビング入口の辺りで所在なさげに立っている。

「……い、いえ。別に何でもないですが…」

「ほらほら。恭也さんもそんなとこに立ってないで、こっちに来て下さい」

「あ、ああ…(今日が無事に終わる事を祈っていよう…)」

アリサに引っ張られた恭也はリビングの中央に座らされてしまった。
残りの3人は恭也を取り囲むように三角形に陣取っている。



「さて―――――」


「では、これから恭也さんには色々と聞きたいことがありますんで、覚悟してくださいね♪
 裁判官のお二人も準備は宜しいですか?」

「は〜い」

「…OK」

「………い、色々とは何でしょう?」

嫌な予感がしたのか、何故か敬語な恭也。

「むふふ。色々ですよ〜。まずは最初にハッキリさせないといけないことがあるので……」

「(…一体何だ。間違っても今の俺の心情を悟られるわけにはいかない――)」

「恭也さん。夕食の時から私達の事を避けてますけど……どうしてですか?」

「…いや、そんなことはないだろう…?」

内心、ヒヤヒヤしながらも表情は全く変えずに答える恭也。
確かに自分は夕食時から彼女達と極力話さないようにしていた。

「恭也さん……嘘つかないで下さい。
 私やアリサが話し掛けたときだけ、あんなに露骨に目を逸らされたりしてたら気が付きます…」

フェイトは恭也に避けられたかも、ということでちょっと涙目だ。
理由は分かってるくせに彼女も相当の策士である。

「う……」

「そうだよ恭也。理由はわからなかったけど、アタシでもアンタが挙動不審なのはわかったからね。
 2人が気付かないわけないだろ?……それとも2人の事が嫌いなのかい?」

「そ、そんなことはっ!」

自分の不安定な行動のせいで、そんな考えまで持たれてしまっているのかと考えた恭也は途端に焦りだした。
自分が二人を嫌いになるなんてことは天地が裂けてもありえない。

「……だったら教えてくれませんか?
 人それぞれ、言えない悩みがあるかもしれませんけど…恭也さんの事は知りたいんです。
 恭也さんも言ってくれたじゃないですか。私達のことは何でも知りたいって」

「そ、それは……」

確かに自分はそう言ったが、今の自分の状況とはあまりにかけ離れた問題だ。
言ってみればそんなご大層な理由ではなく、勘違いかもしれない自己のくだらない感情のひとつだからだ。

「………………」

それにこんなことを言ってしまえば、目の前の女性達に幻滅されるかもしれない。
そう考えるとなかなか言い出せなかった。

「うーん、なかなか固いですねー。
 さすがは御神流師範代ってところですか?」

恭也が喋りそうにないのを見て、アリサが冗談交じりで質問役を交代した。

「それじゃ〜………私が代わりに言ってあげましょう♪」

「え?」

予想外の言葉に恭也は思わず顔を上げた。
そこには母親を思わせるような極悪の笑顔を携えた裁判長がいる。


「恭也さん……実は私達に"二度目"の恋をしちゃってるでしょ〜?」


「!!!??」


ちょっと顔を赤くしながら嬉しそうに言うアリサ。
恭也は図星を突かれたのか、大きく目を見開いていた。

「な、な……」

「どうですか?違いますか?」

ニコニコしながら問いかけるが、恭也は完全にパニクっている。

「恭也さん……本当ですか?」

言い出しっぺではあるものの、やはり本人の口から聞かないことには信じられないフェイトも
多少の期待を込めて、恐る恐る尋ねた。

「う、そ、それは……」

「あらら、強情ですねぇ。それじゃ詳細な部分も私からお話ししてあげましょうか?」

なんとか堪えている恭也をアリサは完全に手玉に取っている。

「(ま、まさか2人に見抜かれているのか……?)」

「返事がないってことはOKってことですか?それじゃ仕方ありませんね、私から……」

どうやら自分の心情は全て見抜かれているとわかった恭也はしぶしぶ承諾した。

「……わ、わかった。自分で話すから………その、勘弁してくれ」

「は〜い♪」

アリサの可愛らしい返事に恭也は逆に泣きたい気分である。
しかし泣き寝入りをして見逃してくれる相手でないことは百も承知なので腹を括った。





「…と、その、すまなかった。皆の言う通り、墓地から2人のことを意識的に避ける行動を取っていたのは事実だ」

まずは謝罪。

「ただそれは2人を嫌っているということではなくて……むしろその逆……。
 2人を今まで以上に大切な存在と思えるようになったからなんだ」

2人は嬉しそうにしながら聞いているが、事情を今ひとつ理解していないアルフは
自身の恋愛経験の無さも手伝って、恭也の言う事に疑問を感じた。

「……? なんでそれで避けるようになるんだい?」

「え、と………それは……ですね……」

恭也はチラチラと2人を見ながら恥ずかしそうな素振りを見せている。
そんな恭也を見かねてか、2人はからかうように言った。

「ほら、恭也さん。ちゃんと言ってくれないとわかりませんよ?」

「そうです。想いは言葉にしないと伝わりません……」

「う……そ、その、つまり、彼女達が今まで以上に可愛く見えて、
 目を合わせるだけで締め付けられるくらいに胸が高鳴ってしまって……」

「………………」

「改めて、こんなに可愛くて美人な2人に好かれてると思うと、自分でも抑えきれない程に舞い上がってしまいました。
 でも、本当に2人が好きなんだとわかったのはいいものの、
 顔を合わせれば頭が真っ白になってしまうし、何を話していいのかわからない。
 変なことを言って嫌われたらどうしよう……頭に浮かんでくるのはそんなことばかり」


「自分でもおかしいと思ってはいるんですが………同じ人にまた"恋"をしているんです」


「―――――」

恭也から語られた内容はアルフの予想を大きく裏切るものであったため、彼女は呆然としている。
アリサとフェイトは予想通りの理由であったため、安心感もあるのか嬉しそうにしていた。

「じゃあ……恭也の行動がおかしかったのって……」

「そ〜で〜す♪ つ・ま・り、恭也さんは『照れていただけ』なんですよ〜♪
 一目惚れした女子高生みたいな反応ですよね〜」

「う…」

大変分かりやすい一言且つ、最も言って欲しくない言葉を聞いてしまい恭也はがっくりと項垂れた。
そんな恭也の頭をアリサは『よしよし』と撫でている。

「は〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜」

恭也の心情が理解できないアルフはなんとも言えない感想を漏らしている。
しかしフェイトとアリサ二人の反応を見るに、恭也は本当に二度目の恋をしたのだろう。

「はいはい、それじゃ次の質問にいきましょうか」

「うん」

「な、ま、まだあるのか?」

断腸の思いで心情を語ったことで既にリミットブレイクな恭也は、まだ尋問があるのかと思うと冷や汗が出てきた。

「当然ですよ。とは言ってもまぁ、全部さっきのことが関連してるものなんで確認と言った所ですね」

「そうですね…。私達は恭也さんに避けられてショックを受けたので、洗いざらい吐いてもらいます」

二人を傷つけてしまったという罪悪感がある恭也は、ちょっとお仕置きモードなフェイトに素直に従った。
ただし、くどいようだが二人は予めわかっていたのでこれっぽっちもショックを受けてなどいない。


「じゃあまずは私を送っていくのを断ったことですね。あれはどうしてですか?」

「…あれは、アリサと2人きりになるということを考えたら、どうしていいかわからなくなったんだ…
 一晩経てば、明日には今の気持ちを落ち着かせられると思ったから、何とか今日だけは2人と接触するのを避けたかった」

「ふんふん」

恭也の予想通りな行動に納得しているアリサ。

「…それじゃ、アリサを夕食に誘ったのはどうしてなんですか?」

しかしそれならば、そもそもアリサを夕食に誘わなければよかったはずだ。
予想はつくものの確認の意を込めてフェイトは尋ねた。

「そ、その……確かにアリサを誘わなければそんなこともなかったんですが……
 それでもアリサと一緒に居たい、という気持ちの方が強かったので…」

「な・る・ほ・どぉ〜。恭也さんは照れていたけれども、好きな女の子と居たかったってわけですね?」

コクン

ニコニコしながら恭也に問いかけるアリサに、恭也は俯いたまま首だけを縦に振った。

「目が合うと緊張しちゃうけど、それでも見ていたかったとか」

コクン

「沢山お話したいけど、おかしなこと言って嫌われたりしたらどうしようとか」

コクン

「ホントは2人きりになりたいけど、いきなりそんなことなってもどうしていいかわからないとか」

……コクン

最後は少し躊躇ったが全部当たっているようだ。
真っ赤になっている恭也は、子供のように頷くだけで返事をしている。

顔を合わせれば上がってしまって何も喋れない。
だけども好きな人とは一緒に居たい。
そんな似つかわしくない乙女チックな考えを抱いていた恭也に、

「……や」

「「「…………?」」」

「や〜〜〜ん!恭也さん、可愛い〜〜〜〜!!」

ガバッ!

「むぐっ!?」

アリサは思わず、本能の赴くまま恭也の頭を抱きしめていた。

「あ〜ん、もうっ♪普段はカッコイイのに、そんなトコロ見せるなんてズルイですよぅ〜♪」

ハートマークが飛び散りそうなくらいに締りの無い表情で、アリサは恭也の頭に顔を擦り付けている。

「心配しなくていいですよ〜。恭也さんだったらどんなことされても嫌いになんかなりませんから♪」

「むぐぐっ!」

ご満悦そうなアリサとは対照的に、アリサの胸に顔を押し付けられた恭也は呼吸が出来ずにもがいている。
そんな恭也を見て、フェイトが助けに入った。

「ちょ、ちょっと、アリサ!恭也さん、苦しそうだって!」

「―――え?」









「…死ぬかと思った」

一瞬、父の顔が見えたような気がした恭也は、一命を取り留めてホッとしている。

「あ、あはは……ゴメンナサイ」

調子に乗ってしまったアリサは若干反省。
フェイトもしょうがないという顔をしている。

「まったくもう…。はしゃぎすぎだよアリサ」

「う、だ、だって恭也さんがあんまり可愛いから、つい……」

小学生のような言い訳をするアリサだが、先月までは小学生だったので別に構わないかもしれない。

「その気持ちはわかるけど…」

先程はアリサが主体の話ではあったが、実際にはフェイトも同様に思われているのでアリサの行動はわからなくもない。
実際、自分もアリサのように恭也を可愛いと思った。

「……あまり男に可愛い可愛いと言わないでくれ…」

特殊な趣味を持っているならともかく、基本的に可愛いと言われて喜ぶ成人男子はいないと思ったのだが
アリサからは予想外な答えが返って来た。

「あ、恭也さんわかってませんね。
 女の人が年下の人に可愛いって言う事はありますけど、姉弟とか特殊な関係を除いて
 余程の年齢差が無い限りそれは男として意識してるってことなんですよ?
 そしてそういうときは、そういった一面を見れて嬉しいっていう気持ちがあるんです」

「……そういうものか?」

「そういうものです。
 ちなみに私達のように年下の女が年上の男の人に言うときもおんなじです。
 ね、フェイト?」

「うん、そうだね。
 ……例えば恭也さん、フィアッセさんに"可愛い"と言われたことはないですか?」

「フィアッセに? 確かに何度か言われたことはありますね…。
 その度に子供扱いするなと言ってきましたが」

「…そのフィアッセさんが、恭也さんをどう思っているかはご存知ですか?」

「……ええ。いつからかはわかりませんが、彼女は俺を一人の男性として見ていてくれていたようです」

「フィアッセさんも恭也さんの……簡単に言えば格好いい所に惹かれていました。
 そんな彼女が時として恭也さんを"可愛い"と言ったとき、それは普段見れない好きな人の一面を見れて嬉しいけれども、
 自分が年上であるが故に素直に言えない、ある意味女性なりの照れ隠しでもあるんです」

「………………」

思い返してみれば確かに彼女は自分を可愛いと頭を撫でたあと、もの凄く嬉しそうな顔をしていた気がする。
そのときは単純にからかっている楽しさからくるものと思っていた。

「男性の場合は少し違うかも知れませんけど……恭也さんも年上の女性を美人ではなく、可愛いと思ったことはないですか?」

自分の周りに居る年上の女性達。
そう言われてみれば普段は美人だけれども、ふとした仕草を可愛いと感じるときがある。

「だからたまに言われる"可愛い"っていうのを単純に"自分が男らしくない"、と捉えなくてもいいと思います。
 男の人からしたら、そういう風に思うのは難しいかもしれませんけど……
 女性も決してからかっているわけではないんです」

「まぁ、あくまで普段言われない人の話ですけどねー」

「――――――――」

フィアッセがどんな気持ちで自分を可愛がってきたのかを今更ながらに知った恭也は少し後悔している。
彼女のそんな想いに自分は全く気付いていなかった。
しかし――――

「―――でも」

「?」

「それに気付かなかったのは私達にとっては良かったです。
 こうして恭也さんと気持ちを通じ合えましたし」

「だねー」

少女達の笑顔を見てそれでもいいか、と思えた。
フィアッセには悪いが、彼女達を好きなれた自分を今はとても幸せだと考えている。
満たされた気分の恭也だったが



「さ、話が逸れちゃったけど次の質問は――――」



裁判長の一言に現実に戻され、再び沈んでしまった。











裁判は閉会間際。
2人は自分達にとって嬉しい事ばかりなので満足気味である。

「…大体こんなとこかなぁ」

「そうだね」

「……アタシはなんというか、聞いてるだけでお腹いっぱいだったよ。
 桃子が居たら何て言うだろうねぇ…」

結局の所3人のノロケ話を聞かされることになったアルフは途中からぐったりしていた。
そんな中、一人真剣な顔をした恭也はいきなり素っ頓狂なことを言い出す。

「ところで……その、二人は幻滅しないのか?」

「「…………」」

「…………」

「「は?」」

何を言ってるんだこのロリコンは、という目で見るアリサとフェイト。

「今更ながらこんな気持ちになるなんて………まるで今まで俺が本気じゃなかったみたいに思わないのか?」

どちらかと言えば少女達よりも恋愛経験が乏しい恭也は、捨てられた子犬のように不安な瞳をしている。

「「…………」」

そんな恭也を見て顔を見合わせた少女達は苦笑しながら優しく諭した。

「うーん、恭也さんは根本的に何か勘違いしてるみたいね」

「そうだね…」

「……?」

「どっちが言う?」

「じゃあ私…でいいかな?」

「おっけー」

アイコンタクトでお互いの意志を伝える二人。
間違ってもテレパシーなどではない。

「恭也さん」

座り込んでいる恭也の前にフェイトは中腰になると、そのまま恭也を右手を両手でそっと握った。

「…………」

「恭也さんは気付いてなかったかもしれませんけど……私も恭也さんに二度目の恋をしています」

「…え」

驚く恭也にニッコリと微笑むフェイト。

「一度目は貴方に助けられたとき……。
 憧れにも似た気持ちが私の胸を高鳴らせました」

「外見が格好良かったというのもありますけど……
 貴方の生き様、貴方の信念。
 自分がしたかったけど出来なかった事を貫けている貴方が羨ましくもあり……恋しくもなりました」

「そして二度目の恋は再会したあの日。
 あの時の貴方が力だけでなく、とても優しくて頼りがいのある人だとわかったとき、再び恋を感じたんです」

「相手の知らなかった一面を知ったことで、新しい側面から見れるようになった。
 そんな発見を嬉しく思うと同時に、自分が好きな人はこんなにも魅力的な部分があるんだと再認識してしまった故に
 再び胸が高鳴るような感覚を覚えるんです」

「決して今までが本気じゃなかったわけではなく…『もっと好きになっただけ』なんですよ。
 だから私達はこれから先……三度目、四度目の恋をしていくんだと思います」

「……………」

「ですから、そんな貴方になったからといって幻滅するなんてことはありません。
 むしろ、私達の事をもっと好きになってくれたんですから嬉しいくらいですよ。
 私達も貴方をもっと好きになりたいですし、貴方にも私達をもっと好きになって欲しいです」


「そういうことです。
 だから皆の前では強い恭也さんですけど……私達には弱い所も沢山見せてください。
 弱い所を知ったからと言って嫌いになんかなりません。
 普段頼られている貴方だからこそ………私達だけには頼って欲しい、甘えて欲しいんです。
 逆の立場だったら恭也さんだってそう思うでしょ?」

「あと付け加えるなら、『恋』なんてものは一晩経ったくらいじゃ治りませんよ?
 むしろ時間を置くだけ想いは膨らむものです」

「……………」

最後にアリサが付け加えて話を締め括ったのを見て、アルフは感嘆の息を漏らしている。

「は〜〜〜。二人とも凄いね。なんかすごく大人っぽく見えたよ」

自分のご主人様がいつの間にかこんな考えを持てるようになっていると知り
嬉しいような寂しいような、何とも言えない気持ちに捉われた。

「当然ですよ。これも愛の成せる業!」

エッヘンと胸を張る仕草は間違いなく中学生。
こういった子供っぽい側面と併せ持っている所に恭也は惹かれたのだろうとアルフは理解した。

「もうアリサ、何言ってるの…
 それより恭也さん、私達の言いたい事…分かって頂けましたか?」

「……はい。こんな気持ちになったのがいけないことだと思い、不安で仕方なかったのですが…
 今は、以前よりも二人を護ろうという気持ちが湧いてきました」

そう言った恭也の顔は非常にスッキリしていた。
先程までの緊張したような素振りは全く無く、その見慣れたはずの横顔に少女達は不覚にもときめいてしまう。

「そ、そうですか」

「な、ならよかったです」




「(……何やってんだろうねぇ)」

詰まる所、3人でイチャイチャしているようにしか見えないアルフはこれから先もこんな調子かと思い、一人ため息をついた。

「(――外から視線を感じるけど、恭也は気付いていないみたいだし。
  まぁ今のところ何かするようでもないから、とりあえずは様子見かね…)」










「それじゃ、今日はそろそろ寝ようか?」

時間はもう23時前。
目的を果たしたアリサは、明日もあるのでそろそろ寝ようと提案した。

「うん、そうしよう」

「ふぁ〜あ。そうだね、これ以上3人のノロケ話に付き合ってると朝になりそうだし」

「な、何言ってるのアルフ…」

「あはは。明日が休みならそれもよかったんですけどねー」

「お、さすがアリサ。フェイトもあれくらい言わなきゃダメなんじゃないのかい?」

「……知らない」

フェイトは拗ねてしまった。

「はは、冗談だよ。フェイトはフェイトらしく頑張ればいいさ。
 ………それじゃアタシはもう寝るよ、三人ともおやすみ」

「おやすみなさーい」

「おやすみ、アルフ…」

「ああ。恭也もおやすみ。二人のこと、よろしく頼むよ」

軽い口調ではあったが、自分のご主人様をよろしく、という気持ちが含まれていたのを恭也は感じた。

「…ええ。おやすみなさい、アルフさん」

そう言うとアルフは足早に自室へと向かっていった。
どうやらかなり眠たかったようだ。



アルフに挨拶を済ませた恭也は、ひとり部屋のソファに手を掛けていた。

「……?恭也さん、どうかしましたか?」

「あ、フェイトさん。こちらのソファは空いていますか?」

「はい……?」

恭也の言わんとしていることが分からないフェイトは首を傾げる。

「いえ、部屋を用意して頂くのもなんですし、よければこちらのソファを貸して頂きたいと思いまして」

「「………………」」

どうやら彼はリビングで寝るといっているらしい。
そんな彼の手を取ったアリサは問答無用で引き摺って行った。

「はいはい、恭也さんはコッチに来てくださ〜い」

「お、おい」

「さ、恭也さん、行きましょう」

反対側の手をフェイトにも取られた恭也は、成す術も無く部屋へと誘導された。

「はい。ココが恭也さんの寝るお部屋で〜す♪」

「それじゃ私達は着替えてきますから…大人しく待っててくださいね」

何か言う暇もなく、二人が隣の部屋へと入っていったのでその場で立ち尽くしている。
ちなみに恭也は基本的に寝るときに着替えたりせず、普段着のまま寝るようにしている。
これはいつ襲われてもいいようにという剣士としての長年の習慣だ。

5分ほど待ったがこのまま立っていても仕方ないので、恭也はとりあえず入るか、と目の前のドアを開けた。

ガラッ

「なっ!?」

部屋の中には既に布団が敷かれてある。
いや、敷かれているのはいい。問題は―――――

「どうですか?恭也さんの寝室は」

後ろから声がかかった。どうやら着替えが終わったららしい。

「……私達の寝る部屋でもありますけど」

布団が2つくっつけられた上に枕が3つ用意されている状況に恭也は分かりやすい程にうろたえる。

「な、ちょ、ちょっと待て。こ、これはどういうことだ…?」

「はぁ〜、そんなことまで女の子に言わせるなんて……恭也さん、男としてそれはどうかと思いますよ?」

アリサは呆れてため息をついた。

「ま、まさか2人ともここで寝るのか…?」

「…はい。今日はずっと一緒に居ようってアリサと決めたんです」

「…………………」

一緒の部屋で寝るとまでは聞いたが、まさかこんな寝方をするとは予想外。
いくらなんでもこれはヤバイのではないだろうか。

「そんなことよりも恭也さん。私達を見て何か言う事はないんですか?」

そう言われて改めて目を向けると、少女達は可愛らしいパジャマに身を包んでいた。
アリサはフェイトに借りたのか色違いのお揃いだが、フェイトが好む落ち着いたデザインを彼女が着ているというギャップが、彼女を非常に可愛らしく見せている。
一方のフェイトは普段結っているツインテールを解き、ストレートに髪を下ろしている姿が少し色っぽい。

「あ、ああ。二人とも……よく似合ってる」

「エヘヘ、良かった〜」

「…ありがとうございます」



「さ、それじゃもう寝ましょう〜。恭也さんは真ん中に来てください」

やはりそうなのか、と諦めにも似た感情で恭也が横になると
少女達も続いて両脇へと横になってきた。

「………………」

「う〜ん、気持ちいいわね〜」

「うん。それに何だか安心する…」

「ホント…………」

「ん………………」

少女達は恭也の両腕を抱きながら満足そうだ。
しかし、当の本人はそれ所ではない。

「(…くっ、こんな状況でどうやって眠れと…)」

両脇から理性を抑えるのが困難な感触が絶えず押し寄せてくる。
健康な成人男子であれば当然の反応の恭也だが、そんな心情を知らない少女達は既に瞼が下り始めている。

「あー…恭也さん、まだ寝ちゃ…ダメですよ?」

「うん。もう…少し…お話……」

「……スー」

「…………」

今日一日、色々あって疲れたのか、横になると少女達はすぐに眠ってしまった。
かく言う自分も程良い睡魔が襲ってきてはいるが今は興奮度の方が高い。

「(二人とも寝たか……しかしこれは眠れんな。
  仕方ない、しばらくイメージトレーニングでもしていよう……)」

「二人とも……お休み」

両脇にいる少女達の温もりを感じながら、今日あったこと思い出すと恭也は満たされた気持ちになっていた。
明日からの1ヶ月間少し不安はあるものの、それ以上に楽しみな気分で恭也は眠りに就く。





しかし翌日、予想だにしない出来事が恭也たちを襲うのである。













 第9話をお届けしました、幸のない物書き さっちんです。
火妬美「え?2話UP?アンタ大丈夫?」
 ふっふっふ。もっと褒めれ。
火妬美「や、でも話全く進んでないし」
 ぎゃふん。
火妬美「単純に8話のつもりで書いてた幕間が長くなったんで切っただけでしょ。
    何回も言うけど7話から全く進んでないし。何一つ褒める所がないわね」
 うぐ、仰る通りで…。
火妬美「で、次回は急展開!?的な締めになってるけど」
 おう。急も急。旧な展開だ。
火妬美「…それは要するに使い古された展開ってこと?」
 そうとも言う。とりあえずラヴラヴな話はここまでってことで、前フリ終わり。
火妬美「これまでが前振り!?アンタ舐めてんの!?」
 ぐぐぐ………ぐるぢい…
火妬美「返せ!今までの300KBを返しなさい!!あと管理人さんに謝れ!」
 ゲホッ…、い、いやホントはこれから1ヶ月間を更にラブラブに書こうとしたんだが
 ネタが思いつかないので急遽変更。
 いやー、創作物ってホント生き物だよね☆
火妬美「だよね☆、じゃないわよっ!!」
 それでは皆様、また次回お会いしましょう(逃走
火妬美「あ、ちょっ、待ちなさい!」



※誤字脱字、設定ミス等ありましたらご連絡頂けると幸いです。





うちは全然、OK〜。
寧ろ、もとラブラブな前ふりでも…。
美姫 「それはそうと、一体どんな急展開に!?」
確かに、それも気になるな。。
どうなる、どうする!?
美姫 「次回が待ち遠しいわね」
うんうん。次回も楽しみに待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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