※このお話はPCゲーム「とらいあんぐるハート3」とTVアニメ「魔法少女リリカルなのは」の融合作品です。
しかし基盤となるのは「とらいあんぐるハート3」なので、士郎は死んでますし、恭也はALLエンド&フリーです。
「魔法少女リリカルなのは」はキャラ追加のみを目的としたと捉えてください。
「―――すっかり遅くなってしまったな」
春先でまだ暖かいとはいえ、辺りはもう既に暗い時刻。
話もひと段落したので恭也たちは帰路へ就こうとしていた。
「そうですね。そろそろ桃子さんたちも帰ってくると思いますし……戻りましょうか」
「そうね。お腹も空いてきちゃったし」
そう言うと、アリサは迎えをよこそうと携帯を取り出したのだが、
「ア、アリサ、ちょっと待ってくれ」
恭也に止められたので、電話を中断して向き直った。
「――どうしたんですか?」
「その……なんだ。今日はウチで食べて行かないか?
皆も会いたがってると思うし」
「………?」
どうも恭也の様子がおかしい。
夕飯に誘われる事は結構あるので珍しいことでもないのだが、いつもの彼とは思えないほど歯切れが悪い。
「あ、はい……。一緒していいのでしたら是非」
イマイチ納得いかないが、恭也と一緒に夕飯を食べる事に異論はないためとりあえず返事はしておく。
「そ、そうか。それじゃ早いところ家に戻るか」
恭也は足早に墓地の坂を下りていった。
少女二人は慌てて追いかける。
「………??」
どこか緊張しているようにも見える恭也にアリサは首を傾げるばかりだが、
2人の様子を見ていたフェイトは何か気付いたようだ。
「(恭也さん、何か様子がおかしい――――――ひょっとして……)」
「ね、アリサ」
小声でアリサに話しかける。
「ん?」
「恭也さん……様子がおかしいよね?」
「うん。どうしたんだろ?」
「まさかとは思うんだけど……ひょっとして恭也さん………(ボソボソ)………」
「……ふんふん……えぇぇ?」
「………(ボソボソ)………ってことじゃないかな?」
「いや、さすがにそれはないんじゃあ……」
「で、でもさっきまでは普通だったし、それだと納得できるんだよね……」
「なるほど………でも、あの恭也さんがそれくらいのことで………たりするかなぁ?」
「…うーん。もうちょっと様子を見てみようか………別に原因があるかもしれないし」
「そうね。でももし、フェイトの言う通りだったら…………ぐふふふふ」
「ア、アリサ。落ち着いて……」
「…じゅる……っと、イケナイイケナイ。思わずヨダレが……」
恭也を獲物を狙うような目で見ているアリサを少し怖いと思うフェイトだが
その気持ちもわからないでもない、という顔をしている。
「フェイトもちょっと楽しみじゃない?ホントにあの恭也さんが―――」
「う、うん」
顔を赤くして頷くフェイト。
高町家に着くまで3人に会話らしい会話はなかったが、各々それ所ではなかったようなので、気まずい雰囲気になることはなかった。
『 Dreieck Herz -Lyrical- 』 ACT.08
高町家。
3人が着いた頃には既に桃子も帰宅しており瞬く間に夕飯となった。
なお、3人一緒に帰ると何かしら疑われるため、途中から二手に分かれて帰宅した。
「「「「「「「「「「 いただきます 」」」」」」」」」」
今日はフェイト・アルフに加えて那美とアリサという大人数なので
いつもの食卓ではなく、リビングにて食べる事になった。
「う〜ん、晶ちゃんもレンちゃんも相変わらず上手だよね〜。
このカラアゲなんかもの凄く美味しいし………ううぅ」
年下の女の子達の腕前に、那美はがっくりとうな垂れながらも箸を進めている。
「ま、まぁまぁ那美さん。那美さんだって、耕介さんに教わってからかなり上手くなりましたよ」
フォローを入れる晶。
耕介というのは、那美が住んでいる女子寮の管理人の名前だ。
「そうですよ〜。ウチらは必要に駆られてやってたから、ある意味自然ですよ。
那美さんの料理は十分美味しいですから、自信持って下さい」
レンもフォローを入れる。
実際那美の料理は一般的に十分なレベルなのでそこまで落ち込むことはないのだが、
自分の住んでる寮の管理人、目の前の二人の女の子達がプロ顔負けの腕前を誇っているため、自信を持てというのは無理な話だ。
「ううぅ……二人の優しさが身に染みる。
周りの人達って、お料理上手な人達ばっかりだよね……」
マジ泣きしている那美。
そんな那美を見かねて美由希もフォローを入れ…………ようとしたのはよかったのだが
「心配ないですよ、那美さん。私の料理も『普通よりちょっと美味しい』くらいですから。
普通レベルが作れれば、ひとまず大丈夫ですって!」
あんまりな内容であったため、那美を含めた一同は口をあんぐりと開けたまま固まってしまった。
「「「「「「「「「 ………………… 」」」」」」」」」
「……あ、あれ?皆、どうしたの?」
周りの皆が急に押し黙ったので、美由希は不思議に思いながら尋ねるが返答はない。
「え……っと、何かおかしなこと言ったかな?」
知らぬは本人ばかり、というのはよく言ったものである。
桃子を含めた周囲の人達は、同情とも憐れみとも取れない複雑な表情を浮かべていた。
「………美由希よ」
「ん?何、恭ちゃん」
「………何度言ったらわかる。お前の料理は『普通』などではない」
女性達がなかなか言えずにいたため、唯一の男性である恭也が男らしく注意を促した。
「え?そ、そんなに美味しいかなぁ〜?エヘヘ」
しかし勘違いの極みに達している義妹は、ここでも当然ありえない解釈をする。
「こないだなのはと久遠に作ってあげたんだけどね?
そんなに美味しかったのか、食べた途端に気持ちよく寝ちゃったんだよ」
「「「「「「「「 ………………… 」」」」」」」」
一同はなのはを一斉に見る。
「…………………」
なのはは滝のような涙を流しながら『お願いだから聞かないで』という顔をしていた。
「私も前よりちょっと上手くなったなぁ〜とは思ってたんだ。
でも、気絶(?)するほど美味しいんなら、今度から夕飯は私も作ろうかな?
ね、いいでしょ、皆?」
嬉々として一同に尋ねる美由希。しかし――――
「許さん」
義兄兼、師匠である恭也より、容赦ない3文字が飛び出した。
「えぇっ?なんでっ!?」
「とにかく許さん。他の事なら多少は目を瞑ろう。
だがお前が料理をすることだけは断固許さん。
もし作ろうなどと考えれば、俺は全力をもって貴様を止め………いや、貴様を殺す」
皆は殺すのはさすがにやりすぎかと思ったが、それくらいしないとこの殺人料理人は止まりそうにないので黙っておいた。
「な、何言ってるの恭ちゃん!横暴だよ!どうして私が料理をしたらダメなの!
料理が出来ないならともかく、普通に料理できる私が作って何が悪いの!?」
「「「「「「「「 ………………… 」」」」」」」」
一同は今まで『ひょっとしたら…』と、美由希が自身の料理の腕前を正しく認識してるという淡い期待を抱いていたが
どうやらこのままでは未来永劫、その願いが叶うことはないようだ。
「……今までお前のためと思い、お世辞や、遠回しに注意をしたりしてきたが………そろそろ限界だ」
恭也のその言葉に息を呑む一同。
『い、言っちゃうの?』と、期待と不安が入り混じった顔をしている。
「美由希、ハッキリ言おう」
「な、なに?」
恭也があまりに真剣なので、美由希はちょっと焦っている。
「お前の料理は食えたモノじゃない」
『い、言ったーーーーーっ!!』と心の中で叫ぶ恭也、美由希以外の人々。
特に気を遣う事の多かった晶・レンは、ついに禁句を言ってくれた恭也を今ほど頼もしいと思ったことはない。
小さく、それでいて力強いガッツポーズをし、涙を流しながら二人は腕を組み合っている。
「お前の料理は決して『普通』などではない。
ましてや気絶するほど『美味い』ものでもない。
食した人が気を失うほどまでに『不味い』料理……いや、料理と呼ぶのもおこがましい。
料理の名を語る超一級危険物だ」
普通・美味い・不味いをいつも以上に強調して言う恭也。
「…………………」
美由希は無言だ。彼女からしてみれば恭也の言っていることはワケがわからない。
「……な、なにを…」
「……まだわからんか?
お前は自分の料理が美味いなどと思っているようだが勘違いも甚だしい。
那美さんと比べる事すら失礼なほどの、最悪な腕前ということだ」
もはやフォローの欠片も感じられない恭也の言葉だが、
今の今まで我慢してきた彼……いや彼等にとって、この程度では語りつくせないだろう。
「あ、あはは………。きょ、恭ちゃん。冗談は……」
「冗談だと?ああ、確かに冗談だったらよかったな。
しかし現実を見ないお前に冗談を言う気分ではない」
「…………………」
「いいな?お前は金輪際二度と料理を作るな」
「きょ、恭ちゃん!あんまりだよ!!何の根拠があってそんな……」
「根拠?そんなものは腐るほどある。
お前の料理そのものが根拠であり、諸悪の根源だ」
「だ、だって皆、喜んでくれてるじゃない!!」
「「「「「「「「 ………………… 」」」」」」」」
静まり返る一同。
『やっぱりそう思っていたのか』と一斉にため息を吐く。
「………なぜ喜んでくれてると思うんだ?」
「『美由希の料理は独創的だね』とか『すごく個性的な味がするよ』って言って、誉めてくれたもん!」
「……それがお前が勘違いしている部分だ。
確かに皆、独創的や個性的だといった言葉でお前の料理を評したことはあるだろう」
「だ、だったら・・・」
「では美由希、お前に聞こう。
お前は他人が作った料理が素晴らしかったときに、まずは何と言って誉める?」
「……え?」
突然、恭也から意図が不明な質問をされた美由希は戸惑う。
「聞こえなかったか?
お前は出された料理を素晴らしいと思ったとき、まず最初に出てくる言葉は何だと聞いたんだ」
「えっと……『美味しかったよ』?」
「そうだ。どんな人間でもそう言った表現が自然と出てくるのが本当に美味しい料理だ。
だが、お前はその言葉を自分の料理で聞いたことがあるか?」
美由希は思い返してみた。
確かに言われてみれば、今まで色んな評価を受けてはきたが一度も美味しいと言ってもらったことはない気がする。
「……………ない、かも」
「だろう?」
それ見たことか、といった感じで恭也は答えるが美由希も食い下がる。
「で、でも!きっと美味しいハズだよ!!」
「………美由希、その発言は許されんぞ?
そもそも何故お前の口から美味しい『はずだよ』なんて言葉が出てくる?」
「そ、それは………」
「料理が下手なのは許そう。誰だって出来るというわけではないからな。
しかしお前の最大の罪は、自分で作った料理を味見もせずに他人に食べさせることにある」
「………………」
「先日、なのはと久遠に食べさせたという料理………お前は味見をしたか?」
「……してない」
「何故しなかった?」
「……一番最初に食べて欲しかったから」
「その心遣いは良しとしよう。
だが、お前は自分で味見もしなくて自分の料理の味がわかるのか?
もし失敗してたら……という考えは浮かばないのか?」
「…………………」
「自分で納得のいく味も確認せずにどうして他人に薦める?
それは心遣いではなく、お前の自己満足に過ぎん。
相手に本当に美味しい料理を食べて欲しいと願うなら、途中で必ず味見を行うはずだ。
その人を大切と思っているなら尚更、な……」
「………で、でも、そんなにヒドくは……」
「……どうやら口で言ってもわからんようだな。ならば少し待っていろ」
そう言うと恭也は立ち上がり、キッチンへと向かった。
リビングには呆然とした美由希と、ハラハラと見守る女性陣が残されている。
「………………………えっと」
美由希が何か話しかけようとしたが、
「「「「「「「「 ………(サッ)………… 」」」」」」」」
皆が露骨に目を逸らしたのを見て泣きたくなった。
自分の料理はそんなにひどいのか?と自問していたが、
まだ恭也の勘違いであるだろうという望みを捨てきれない美由希は、
自分をここまで否定した恭也に、料理を美味しいと言わせた後どんな仕返しをしようかと思案している。
そうしている内に恭也がキッチンから戻ってきた。、
「…………待たせたな」
一同は彼に注目する。
手にあるものを見る限り、どうやらキッチンにはこの小さな2つの袋を探しに行ったらしい。
「美由希、まずはこれを食べてみろ」
渡されたのは片方の袋から取り出された一枚のクッキー。
「………(モグモグ)………。あ、美味しい…」
「だろう。さすがは翠屋店長といったところか」
どうやら桃子が作ったクッキーのようだ。
「それでは今度はこちらも食べてみろ」
「あ、これも美味しそう………(ぱくっ)」
そう言ってもう一枚のクッキーを口にする美由希。すると
「…………ブハァッ!!!???」
豪快にクッキーを吐き出した。
ちなみに吐く瞬間に真横を向いたため、那美の顔面はクッキーまみれだ。
「ゲホッ!ゲホッ!?……きょ、恭ちゃん!何これ!?
こんなクッキー食べた事ないよ!!」
「ああ。かなりすごいだろう?」
「すごいなんてモノじゃない………。毒物に対する抵抗をつけた御神流剣士でもこれはひどすぎるよ……
一体どうやったらこんなに凄まじいものが作れるんだろ・・・」
未だかつて体験したことのない『毒物』に、美由希は戦慄を覚えた。
ちなみに恭也と美由希の毒物に対する抵抗力は、少量の青酸カリなどでは効かないほど高い。
「……これは確かに凄まじいものだ。これを流せば、龍と言えども一網打尽に出来るかもしれん。
だが残念ながら俺には作れない。作成者に聞かないとな・・・」
「え?恭ちゃん、コレ、誰が作ったか知ってるの?」
「ああ」
「てことは私も知ってるのかな?
薬品(?)て言えばフィリス先生だけど……ここはやっぱり忍さんかな?
ひょっとしたらリスティさんかも。あの人色々やってそうだし。
あ、でもこれほどとなると愛さんが一番可能性高そう・・・」
美由希データベースから、該当者と思われる人物が何名かピックアップされていく。
当然ながらその4名が作ったわけではないのだが。
「いや、これは彼女達が作ったものではないんだ。
もうちょっと身近にいる」
「え?てことは…………アリサ!?」
ズビシッ!!
「ガハァッ!?」
失礼な事をのたまう美由希に恭也から手刀が入った。
確かにアリサの料理は壊滅的だが、自分を棚に上げて己の愛する人をけなされては黙っていられない。
「失礼なことを言うな。
確かにアリサはあまり上手くないかもしれんが、アリサはお前と違ってきちんと味見をする奴だ。
何よりアリサの手料理を食わせるわけにはいかん」
若干アリサへの独占欲が現れた発言だったが、皆は恭也が美由希のことを心配して言っているのだと思い何も言わなかった。
最も、アリサ・フェイト・桃子の3名は気付いていたようだが。
「だ……だったら、そ、それは一体……誰が……?」
既に瀕死の状態にある美由希は何とか尋ねるが、後に聞かなければ良かったと後悔する。
「ふむ。これを作ったのはな、高町美由希という古流剣術を修める読書・園芸が趣味の女性だ」
「………………………………………………………………え?」
「これを作ったのはな、美由希というなんでもない所でコケるようなドジッ娘だ」
「………………………………………」
「これを作ったのはな、ミユキという己が力量も理解していない、救いようもないほどの料理・機械オンチのメガネオタクだ」
「って3度も言わないでよ!!最後発音おかしいし!!ていうかメガネオタクって何!?」
「要はお前の事だ」
「スルーしないでよ!」
「そんなことはどうでもいい。つまりこの国宝級危険物はお前が作ったものだ」
いつの間にか超一級からランクアップしている美由希。
「どうだ。この袋に見覚えがあるだろう?」
そう言われて見せられた、クッキーが入っている袋には丸の中に『み』という文字が書かれている。
間違いなく美由希が作ったものだ。
「そ、それは………」
先程の国宝級危険物が、実は自分が美味しいと思って作ったクッキーだとわかり、愕然とする美由希。
そんな美由希に恭也は更に続けた。
「理解したか?貴様が今まで料理と称し作成してきた危険物の数々。
経験者として言わせてもらうが、今しがた貴様が食したクッキーは5段階評価でランク2といったところだ」
恐るべき事実。あれがランク2!?ならばランク5を食した時には一体―――――
美由希の考えてることがわかったのか、恭也は分かりやすく説明をし出した。
「ランク1では気絶がいいところだ。
ランク2〜3は単純に毒物だな。それでも常人がまともに3を食えば即死。
ランク4になると3までの症状に加えて記憶障害が現れ、その日一日の行動がまともに思い出せなくなる。
そして――――――」
ゴクリ、と息を呑む一同。
なぜならランク5を体験したことのあるのは恭也だけだからだ。
「―――――――いや、これはもはや言葉などでは語れない。
あの凄まじさ………俺でももう一度味わえば間違いなく死ぬだろう」
「「「「「「「「「 ………………… 」」」」」」」」」
美由希を含めた全員が言葉を失くす。
あの恭也がもう一度対峙すれば間違いなく殺られるという相手(?)。
その料理に、そしてそれを作った美由希に一同は畏怖するしかなかった。
「………まぁランク5は滅多に生成されるものではないのが唯一の救いか。
とにかく美由希、これでわかっただろう。貴様の作るものがどれだけ凄まじいかを」
「じゃ、じゃあ、今まで皆が言ってきた事は・・・」
「お前が考えている通り、あまりの凶悪な料理の前に家族や友人達が最大限の譲歩をした評価だ。
皆が己が身を犠牲にして出した暖かい評価をお前は勘違いし、際限なく被害を広げてきた。
そんなお前に、もはや料理を作って欲しくないと思うのはいけないことか?いや、それはない」
反語を用いてまで美由希にトドメを刺す恭也。
「……………」
がっくりと膝をつく美由希。その様子はまさに『orz』といったところか。
「「「「「「「「 ………………… 」」」」」」」」
確かに美由希の料理はヒドイものであるが、さすがにちょっと可哀相かなと一同が思っていると、恭也から更なる追撃が。
「ひとつだけ言っておくと…………美由希」
「………………」
生気のない顔をして恭也を見上げる美由希。
「お前の料理の腕自体は決して悪いわけではない。
普段の鍛錬でもわかるが、お前は教えられたことをゆっくりと時間をかけて確実にモノにしていくタイプだ」
「……えっ」
「バカにしているわけではないが……教科書通り、という点では恐らく上手い部類に入るだろう」
「……………」
一瞬、気休めかとも思ったが恭也の目が嘘をついていないとわかり、少し気分が軽くなる美由希だが
イジメっ子である義兄はやはりそれだけに留まらなかった。
「ではなぜあんなものが出来上がるか?
それは美由希。お前が『余計な事』をするからだ」
「よ、余計な事?」
「ああ。お前の料理で例外なく実践されている『余計な事』。
何故お前は教科書に載っている『以外』のことをやろうとする?」
「い、以外って…?」
「わからんか?例えばカレーだ。
野菜や肉を切って煮込んだ後、ルーを入れて完成という所まできたときに
そのままにしておけば美味しいカレーが出来るにも関らず、なぜそこに教科書に載っていないモノを入れようとする?」
「だ、だって……せっかくなら自分の味ってものを出したいし……」
「ああ、確かに一流の料理人たちはそういう自分だけの隠し味を持っているな。
その発想は大変素晴らしいものだ」
「しかしそれはあくまで『普通の料理ができる』という土台があってこそ。
隠し味なんてのは『普通』すら作れないお前が踏み込んでいい領域ではない!
カレーにドレッシングやオレンジジュース、果てはシュークリーム・饅頭は隠し味になどならん!」
ビシィッ!とアリサのように指を突きつける恭也。
美由希は青褪めながら『ガ、ガーン………』などと言っている。
その横では『そんなもの入れてたのかよ……』と呆れた目で美由希を見つめる7人がいた。
ちなみに那美は美由希のランク2散弾銃を喰らった結果、不幸にもノックダウンしている。
「……繰り返しになるが、その料理を作ってしまったとしてもお前が味見をしていれば問題なかったんだがな……」
ふっ………、と遠い目をする恭也に対し、もはや絶望の域にある美由希。
今まで一番直接的な被害を蒙ってきた彼にしてみれば、言いたい事を全て言えて満足という状況だろう。
「………とにかく、今言ったような理由からお前が料理をすることは許さん。
普通に料理が上手くない人になら『練習すれば大丈夫』と言いたいところだが
お前の場合は作っただけで毒ガスを発生させるようなものまであるから、料理自体を禁止だ」
「そ、そんな………」
「どうしても作りたいのであれば、半径5km以内に生物が居ない所でやれ。
そして作ったものをまず自分で味見しろ。
その後、1週間経っても自分に悪影響が無ければ、この俺も鬼ではない。
匂いを嗅ぐくらいはしてやろう」
「お、鬼だよっ!!」
このさして大きくも無い市内で半径5km以内が無人という地があるわけがない。
しかしそれくらいでないと被害を軽減出来ないという恭也の考えだ。
「これだけ言ってもまだわからんのか。自分で今、あの銀河級危険物を食べただろう。
お前はこれを自信を持って人に薦められるのか?」
とうとう惑星内を逸脱してしまった美由希の料理。
「そ、それは……」
さすがにここまでヒドイとわかると、美由希は虚勢すら張れない。
しかし理解は出来ても納得は出来ないのだろう。何とか食い下がる。
「本来なら今まで俺達を窮地に沈めてきたお前には極刑すら生温いところを
これからの頑張り次第で何とか出来るかも知れないという、万が一にもありえない希望を残してやっている事にすら気付かんとは……」
「万が一にも無いなら希望じゃないじゃない!」
「仕方が無い。美由希、お前には死んでもらうことになるな………」
突っ込む美由希を無視して抜刀する恭也。
「ってまたスルー!?それにホントに八景を抜かないでよ!!?」
「覚悟!!」
「えぇ!?本気ぃ!!?」
「せいっ!」
「え?ちょ、ちょっと!?」
恭也の斬撃を何とかかわす美由希だが、すぐに次の攻撃が来る。
「はっ!」
「こ、このぉっ!」
ラチがあかないと思ったのか、美由希も刀を取り出し応戦する。
「ふんっ!」
「やぁっ!」
ギン! キィン!
目にも止まらぬ剣の応酬が始まる。
どーでもいーがここはリビング。周りの人達はヘタに動けば死ぬとわかっているので微動だにしない。
そうして何合かの打ち合いを続けた後、両者は一旦距離を取った。
「……さすがは正統伝承者。そう簡単にはやらせてくれないか」
「はぁっはぁっ、負けるわけには……いかないんだよっ」
既に目的を見失ってる気もする両者。
「ここでお前を倒しておかねば……俺達(高町家)に未来はない」
「そんなことない!未来の旦那さんのために私はお料理を頑張る!」
女らしいこだわりを見せる美由希だが、
「いや、それはない」
と、恭也にアッサリ否定された。
「え?」
「お前はそのままだと一生独身だ。間違いない」
うんうん、と頷く恭也。
周りの人達も頷いている。
「ひ、ひどい……」
涙を流す美由希だが、そんなものには目もくれず恭也は続ける。
「ひどくなどない。ヒドイのはお前の料理だ」
「そ、そんなに言わなくたって――――『ピシッ』」
叫ぶ美由希の隙をつき、恭也は美由希の口を目掛けて親指から何かを弾き飛ばした。
「っ!――――――――――――――――ゴクンッ。
な、なにを……」
思わず飲み込んでしまった美由希は、自分が今口にしてしまったものの正体が気になり尋ねたところ
恭也から返って来た答えは血も涙もなかった。
「こんなこともあろうかと懐に忍ばせておいた『M.T作 マーブルチョコレート』だ。
あぁ、勘違いしないように言っておくがMは決して『桃子』などではないからな。
コイツの効き目は凄いぞ。ランク4というお墨付きだ」
「…ぐ………がっ……ぁ…あぁぁあぁぁぁぁ―――――がふっ! △■※$Ю▼♂☆‡!!!???」
パタリ
しーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーん
声にならない悲鳴を上げ、美由希は緩やかに倒れた。呼吸をしてないようだが大丈夫だろうか。
「ふっ、逝ったか…」
昨日と同じようなセリフを吐く師範代。
気のせいでなければ、昨日より遥かに清々しい顔をしている。
「あ〜、恭也?さすがにちょっとやりすぎじゃない…?」
自分も実害を受けてきただけあって恭也の行動には概ね賛成であるものの、
やはりやりすぎではないかと心配になった桃子は恭也に尋ねたが、
「心配ない。『バカ』は死ななければ治らないというしな」
と、目の前の青年はどこまでも冷たい師範代だった―――――――
美由希とのちょっとしたイベント(?)後、復活した那美を含めた9名は夕飯を再開した。
「あ、晶ちゃん。お醤油取ってくれる?」
「はいよ、なのちゃん」
「レ〜ン、おかわり〜〜〜♪」
「アルフ……もう5杯目なんだから少しは………」
「かまへんよ、フェイトちゃん。
沢山食べてくれた方がウチらも嬉しいからなー」
「ほらほら。レンもこう言ってくれてるし」
「もう………」
と、なのは、晶、アルフ、フェイト、レンの5人が楽しく食事をしている横では
「なるほど……ということは男性を落とすにはギャップが重要なわけですね?」
アリサが桃子から恋愛指導を受けていた。
「そうそう。普段と違う一面を見て惹かれるパターンってのは多いからねぇ〜♪
特にアリサちゃんが………(ボソボソ)………なことをして迫れば、もう世の年頃男性9割はイチコロね♪」
物騒なことを言う桃子。
どういうことか内容はわからないが、もしそうなれば世の中の半数以上の男性はロリコンになってしまう。
「そ、そうですか………よし!コレはいざというときにために………」
桃子からの助言を必死でメモるアリサ。
その様子に気付いた那美が、冷や汗を垂らしながらアリサに尋ねる。
「ア、アリサちゃん……そのメモ帳って………何?」
那美が見たそのメモ帳には『朴念仁を虜にする手引き全100手』と書いてあった。
既に100ページあるメモ帳の7割以上が埋まっている。
「これですか?見ての通りですよ。何なら……………………那美さんも見てみます?」
ニヤリ、という笑みを浮かべて那美を見るアリサ。
「え、わ、私は別に、そんな………」
そんな那美にアリサは更に得意そうな顔付きになる。
「そうですか……この中には"あの"桃子さん直伝の朴念仁打倒法が書いてあるんですが……まぁ必要ない人にはいらないでしょう」
「(ぴくっ)」
桃子直伝となると、その効力はかなり大きいと言って良いだろう。
やはりまだ恭也を諦めきれない自分としては、アリサのメモ帳の中身は非常に気になる。
「それにここに書いてある内容は………主に胸の小さな人でも実行できるもの。
いや、むしろそこを逆手にとったアプローチの数々が記されているんですけれど……大人である那美さんには必要ないかもしれませんね」
その言葉が決め手だった。
「………アリサちゃん。恭也さんが大学で講義を受けてる所の写真とかいらない?」
取引を始める那美。いつの間にかこんなに黒い女性に育ってしまったようだ。
「うーん、なかなかイイですね〜」
イイモノではあるが、メモ帳と比べると些か軽い。
「え、と……じゃあコレも付けるけど……どう?」
「………?」
そう言ってポケットから取り出した名詞ケースの中にある一枚の写真をアリサに見せる。
「……………ぶふぅっっ!!?」
アリサはお茶を噴出すと同時に鼻から赤いものを垂らしていた。
そこには体育館の更衣室で赤星と喋りながら着替えをしているらしい恭也(上半身裸)が映っていた。
それだけでも興奮モノだが、カメラが赤星の真後ろにあるため恭也の目線はほぼカメラ目線。
その上男同士で気兼ねないのか、とてもナチュラルな笑みを浮かべている。
「な、ななななななななななななな那美さんっ!?こ、こ、ココココココココレぇっ!!??」
写真を手にしながら叫ぶアリサ。
ポタポタと鼻血を出している様はもはや女子高生に興奮するオヤジのようだ。
恭也自身が写真というものを嫌っているため、このようなカメラ目線は頼んでもやってくれるものではない、レア中のレアだ。
「えへへ。………取れたのはホントに偶然なんだけどね。
以前忍さんがイタズラで作ってたステルス機能搭載のカメラをもらったんだけど……
いつものドジでキャンパス内で落としたことがあるんだ」
あはは、と苦笑しながら説明をする那美もどことなく顔が赤い。
「それを誰かが拾ってその更衣室に置いてたみたいなんだけど、
このカメラ、認証されてない人以外が触ってから24時間経つと自動的にステルス機能が働くみたいなの」
もちろんその間もシャッターは自動で切るんだ〜、と那美。
ちなみにこのカメラはとてつもない容量を誇っており、1分単位で撮影すると考えて1週間分もの写真を保存できてしまう。
「で、失くしたことに気付いて忍さんに探知機で探してもらったんだけど……
家に帰って記録を見てみたら、なんとその写真が入ってたってわけ」
「………………………」
「ラッキーだよね〜♪」
恐るべし、ドジっ娘パワー。
むしろ今までのドジはこのときの為に練習してきたのではないかと思えるほど、写真の恭也は魅力的だった。
「その写真で………………どうかな?アリサちゃん」
「…………も、文句なしですっ!」
グッと親指を立てながら、鼻血を堪えて力一杯答えるアリサ。
「それじゃあこの写真はアリサちゃんに……と。
あとでデジカメのデータも送っておくね。
私の方は……あとでメールしてくれるかな?コピーでもいいけど」
「あ、それじゃ帰ったらメールしておきます。今日はちょっと無理かも知れませんけど」
「余裕のあるときでいいよ。それじゃお願い〜」
と、思わぬ所で思わぬブツをゲットした二人は、お互い満足そうに頷き合った。
「ところで那美さん……?」
「?」
写真を眺めていたアリサが急に神妙な顔付きになったので不思議に思う那美。
「この写真………どのくらい"活用"できました?」
「!!!!!」
真っ赤になる那美。アリサが言いたい事を理解してしまったようだ。
「え、えええええと、そ、そ、そそそそそれは……っ!!!」
「ほらほら、大人しく言っちゃいましょうよ〜〜♪」
「えええと、えええと、あのっ、そのっ……わ、わわわわたし、別にそんな………っ!!」
「那美さん…………?」
多少は恥ずかしがるだろうが、那美くらいの年齢の女性からはありえないほど慌てふためく。
彼女が人より恥ずかしがり屋という点を差し引いても、今の反応は少し過剰だ。
不思議に思ったアリサは更に詰め寄ってみた。
「…………で、どうでした?」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「……………………」
「………あ、あのね」
「………………はい」
「……………………じ、実はこのカメラ、忍さんが予め合成して作った"ある人"の音声が入ってるんだけど……」
そう言ってカメラを取り出す那美。
「……………音声?」
"ある人"が誰を指すかはわかるが………カメラに音声?
『はい、チーズ』とか『いちたすいちは〜?』とでも言うのだろうか。
…まぁ彼の性格を考えると、それはそれで聞いてみたい気もするが。
「ちょ、ちょっと聞いてみる……?」
「あ、はい…………」
手渡されたイヤホンを耳に付けると、そこからは"ある人"の声が聞こえてきた。
いや、聞こえてくるのはいい。問題はその内容だ。
「!!!!????」
突如真っ赤になるアリサ。
「な、ななななな!?」
「…………すごいでしょ?ホントにそっくりだし、パターンの数も半端じゃないんだ……。
しかも登録すれば自分の名前も呼んでくれるんだよ…」
じ、自分の名前まで!?
この写真にこのカメラがあれば………………………………………ゴクリ。
思わず喉を鳴らすアリサに那美は更に続けた。
「……………………じ、実はその写真、もう何枚か違うアングルがあって」
「……………………」
なんと、この写真に近いレベルのものがまだあるとな!?
ますます興奮してしまったアリサは那美に詰め寄る。
「……………そ、そそそそれで、こ、"効果"のほどは!?」
「……………そ、その写真も"一緒に使った"と仮定してね…?」
「……………(ドキドキ)」
「……………………」
「……………(ドキドキドキ)」
「……………………」
「……………(ドキドキドキドキ)」
「……………………す、凄かった。次の日、まともに顔を見れなかったよ……………」
那美はもはや気を失うんじゃないかと思うほどに真っ赤である。
その那美を見て妄想してしまったアリサも同じくらいに赤い。
「そ、そうですか…」
「アリサちゃんも……………使ってみる?」
「えっ、い、いいんですか……?」
「う、うん。翌日の保証はしないけど………」
さらっと恐ろしい事を言う那美。
しかし目の前の甘美には抗えないのか
「…………………………………………………お、お借りします」
アリサはあっさりと陥落。
「うん……頑張って」
何を頑張るかはさておき、アリサはかなりの期待と少しの不安を抱えて那美からカメラを受け取った。
――――色々と問題点はあるかもしれないが、夕飯自体は楽しく進んでいる。
しかし、やはり先程から恭也の様子がおかしい。
いや、周りの人達には普段と変わらない対応をしているのだが、アリサとフェイトに対してだけがおかしい。
話しかけても素っ気無い所か、極力目を合わさないようにしている節がある。
「(ねぇフェイト)」
「(…………やっぱり……そんな気がしない?)」
「(結構信憑性が出てきたわ……)」
「(……私達だけ反応が違うんだよね……)」
「(確かに……。うふふふふふふふふ)」
「(ア、アリサ……(汗)」
「(これは確かめる必要があるわね……。そうと決まれば……)」
「(え?ど、どうするの?)」
「(こうすんのよ………ボソボソ)」
「(………そ、それはまた結構強引だね…)」
「(何よ。フェイトは確かめたくないの?)」
「(そ、それは知りたい……よ。自分で言っておいて何だけど、ホントだったら……すごく嬉しいし)」
「(ウッシッシッシ。そうよねぇ〜〜〜〜〜♪)」
「(ア、アリサ……)」
隣同士、小声で話している少女達。
しかし片割れの少女があまりにもオヤジくさい反応をするので、基本的に慎ましやかな少女はちょっと引いている。
「アリサちゃんもフェイトちゃんもどうしたの?……そんな隅っこでコソコソと」
フェイトの隣にいるなのはが、二人の様子を変に思ったため尋ねた。
「あ、なのは。お願いがあるんだけど……」
「?」
「今日、これからあとでフェイトの家まで行くんだけど……恭也さんに送ってもらいたいんで、ちょっと借りてもいいかな?」
なのはに許可をとるアリサ。
普通なら本人の了承を得る所であるが、なのはからのお願いであれば恭也はまず断らないだろうという算段だ。
まぁいざとなればデリバリー権限を発動させればいいわけで。
「いいよいいよ〜。そういうことならお兄ちゃんも喜んで行く『な、なにっ!?』……し?」
突然叫んだのは恭也。いつもの彼らしくなく、かなり焦っている。
「……どうしたの、お兄ちゃん?いつもなら『女性の夜道は危ない』って率先して送って行くのに……」
「む、いや……それは…そうなんだが………」
言葉に詰まる恭也。周りの皆も恭也の様子を不思議に思っている。
「今日だけは少し時間が欲しいというか、何と言うか………」
ブツブツと呟きだす恭也。
そんな恭也を見て、アリサはニヤリと笑い、
「そう……ですか。恭也さんと一緒だったら安心して帰れると思ったんですけど……仕方ないですね」
わざとらしくしおらしい態度をとったため、恭也は罪悪感に苛まれてしまった。
「う……」
そんなうろたえる恭也を説教好きの母娘が逃すわけもなく、
「恭也!!」「お兄ちゃん!!」
「は、はい!?」
突如、自分を襲ったあまりのプレッシャーに恭也は思わず身を正す。
「………恭也、桃子さんは貴方をそんな男に育てた覚えはないわよ?」
「………お兄ちゃん、そんなこという人嫌いです」
なのはが少し危険なセリフを吐いてはいるが、二人とも完全にご立腹である。
「女性からのお誘いを断るなんて……男として恥を知りなさい!」
男にも選ぶ権利がある、とちょっとばかり一般論で抵抗してみたかったが
そんなことをしてしまえば間違いなくタコ殴りにされるので黙っておいた。
「い、いや、だから今日はちょっと……」
「お兄ちゃん!アリサちゃん達を送るより大事な用があるの!?」
「うっ、そ、それは……」
「あるなら聞いてあげます。納得のいく説明をしてくれたらなのはも許してあげます」
恭也の前に仁王立ちするなのは。
既に恭也は正座をしている………というよりは、雰囲気がそうさせている。
「何かありますか?」
「イ、イエ、ナニモアリマセン」
「「だったら送って行きなさい」」
「リョウカイシマシタ」
恭也の防壁はあっさりと崩されてしまった。
そんな中、目論みが成功したアリサは再びフェイトとヒソヒソ囁き合っている。
「(原因はまだ確定じゃないけど、あの様子だとホントにそうかもね)」
「(うん。今日だけはっていうのは一晩経てば持ち直せるってことかな)」
「(クククククククク、こんな面白そうなこと………恭也さん、逃がしはしないわよ〜〜♪)」
「(ア、アリサ………)」
手の付けられないライバルに、もはやフェイトは涙するしかなかった。
先程まではあんなに素敵な女性に見えたのに………これが彼女の言うギャップというものなのだろうか。
もしかして自分もこれくらいしなければ恭也を射止める事はできないのかもと考えたりしている。
そうして夕食も終わりに差し掛かった所に、突然那美の携帯電話が鳴り響いた。
ピリリリリリリ、ピリリリリリリ、ピリ――――
「あ、すいません――――はい、もしもし。神咲ですけど………あ、どうもどうも〜」
着信音が流行りのソングではなくシンプルな音であることから、どうやら『仕事』の電話らしい。
退魔士として働く那美は時折、こうして警察からの要請を受ける事がある。
「………はい、わかりました。それではよろしくお願いします」
ピッ。
「――――ふぅ」
電話が終わり、ため息をつく那美に恭也が尋ねる。
「……お仕事ですか?」
「あ、はい。すみません………そういうことなんで私はこれで失礼します。
晶ちゃん、レンちゃん、お夕飯ありがとう〜。とても美味しかったよ」
「ありがとうございます。那美さんっ、また来てくださいね」
「お願いします〜」
「うん。今度またお料理教えてね」
晶とレンに挨拶をすると、桃子から声がかかる。
「こんな時間から那美ちゃんも大変ね〜。遅いけど大丈夫?」
「はい。寮に警察の方が迎えに来てくれるそうなので」
「寮に?」
「一度、久遠を連れに戻らないといけないんですよ……。
それに着替えもしたいですし」
「……そう。それじゃ大変だろうけど……気を付けて。
また今度いらっしゃい。
今、新作デザート作ってるから、那美ちゃんも是非試食してね♪」
「はい」
と、那美は笑顔で頷いた。
彼女にしてみればこういった緊急の呼び出しはそれなりにあるため
何ヶ月も前から約束していたことを、電話一本でキャンセルしたことも少なくない。
それに加え退魔士という現実味の無い職業柄が原因で、仲の良かった友達と疎遠になったこともあった。
―――だったら、辞めればいい。
そんなことを思ったのも数回ではない。
親しい友に嫌われてまで、見ず知らずの誰かを助ける必要があるのかと。
しかし誰かがやらなければ誰かが傷付く。
そして自分にはそれを未然に防げる力がある。
そう考えると、この仕事を簡単に辞めるわけにはいかなかった。
何より今はこの仕事に誇りを持っている。
決して友達が離れていくことが辛くなかったわけではない。
"この人なら話しても大丈夫"と思い、裏切られたこともある。
我侭とはわかっている。
だけど叶うなら、大好きな人達には自分のしていることを理解してもらいたい。
叶うなら、大切な人達にはまたいつも通りに笑って欲しい。
彼女は常にそう願ってきた。
だから、さざなみ寮や高町家の皆が自分を受け止めてくれている現在(いま)は、那美とってとても幸せなことだった。
「……寮までお送りします」
一通り挨拶が済んだ所で恭也が護衛を宣言。
アリサのときと違い今度は自ら名乗り出た。
「あ、ありがとうございます〜♪」
そうして恭也と那美は玄関へと向かっていった。
少し静寂が訪れるリビング。
その静寂を破ったのは――――
「さ〜〜〜て、本人もいないことだしぃ〜〜〜ア・リ・サ・ちゃ〜〜ん?」
当然というべきか、桃子であった。
「え、えーと…………な、何でしょう?」
桃子のハイテンションっぷりにちょっと引いてしまうアリサ。
「うふふふふふふふ。隠したってムダよ〜。
今日は恭也とお泊りする気なんでしょ〜?」
「「「「「「…………………………」」」」」」
「「「「「「 えええぇぇっ!? 」」」」」」
6人が驚く。
「更に言うなら、会場はフェイトちゃんのお家ってトコかな〜?」
「「えええぇぇっ!?」」
と、これはアリサとフェイト。
2人は作戦が完全にバレていることに、周りの4人は予想外の展開に驚いている。
「さっきから恭也の様子がおかしいからね〜。
桃子さんも原因まではわからないけど、2人は何となくわかってるみたいだし。
恭也に送ってもらうのを頼んだのは、その辺りの確認のためって事でしょ?」
「「…………………」」
開いた口が塞がらない二人。
何でそこまでバレてるんだろう?と本気で不思議がっている。
「でも、あの子のことだから帰り道くらいの短い時間じゃ吐かないだろうし。
一晩かければ、女3人対男1人ということもあって、簡単に吐かせられると思ったんじゃないの?」
女3人というのは、アリサ・フェイト・アルフのことだ。
「極め付けはタイムリミットね。
さっきの恭也の言動から、様子がおかしいのは今日だけ。
一晩経てば、自分の中で整理をつけて明日からはいつも通りに振舞うつもりみたいだし。
その心意気は買うけれども、恋する乙女としてはそこは見逃せないわよね〜〜♪」
自分達の考えを寸分の狂いもなく言い当てた桃子にさすがのアリサも驚愕している。
この人、実はこっそり背中に羽でも生えているのではないだろうか。
「で、まぁその辺のことはいいとして…………あの子がおかしい理由って何?」
と、ワクワクしながら尋ねる桃子。
いつの間にか聞く相手を(基本的に)大人しいフェイトに変更している辺り、交渉というものをわかっている。
「え、あの…」
「ほらほら〜。今日はバイト早く上がっちゃったじゃな〜〜い?
その辺りの結果も桃子さん気になる〜♪」
「あ、桃子さん、それは――――」
「「「結果?」」」
事情を知らない晶・レン・アルフが一斉に尋ねる。
勿論、桃子はわざと3人が疑問を持つような聞き方をしたのだが。
「あぅ…………」
桃子に詰め寄られ、MS5(マジでしゃべる5秒前)のフェイト。
しかし桃子となのはが知っているのは、今日はフェイトがアリサにライバル宣言をするということだけ。
その後、急遽会いに行った恭也との話は今はこの場にいない美由希と那美以外知らないはずなので、ここは何としてもシラを切り通さなければならない。
「フェ、フェイト!耐えるのよ!ここは何としても逃げ切らなくては――っ!?」
アリサがなんとかこの窮地を乗り切ろうとするが、単純な武力ではこの7人中最弱を誇るため、あっさりと捕獲された。
「はいはーい。アリサはちょーっと大人しくしてようねー」
と、アルフがいきなり捕縛魔法を用いてアリサの両腕・両足を固めた。
「えっ?ちょ、ちょっとアルフさんっ!?」
「うんうん。すまへんけど、アリサちゃんにはちょっと我慢してもらおうなー」
「そうだなー。やっぱり情報は皆で共有しないと」
とレン・晶がアリサの口をガムテープで抑え、
「アリサちゃん、眩しいでしょ?これ貸してあげるね」
トドメになのはがアイマスクを取り付けた。
ほとんど内容を覗け……いや、様子を見れなかった彼女も今日の結果は気になるらしい。
「むーっ!むーっ!!」
ジタバタと暴れるアリサだが、鎖は魔法のため肉体的な力ではビクとも動かない。
フェイトが魔法を使えば外せるのだが、彼女は目の前のラスボスの呪縛にかかっているため気付いていないようだ。
「さ〜〜〜〜て、フェイトちゃ〜〜〜ん。桃子さんに教えて欲し〜な〜〜?」
「うんうん。フェイト。アタシはフェイトと一心同体だからねぇ。是非知りたいよ」
「「そうだ(や)な。師匠としては弟子のことは知っとかねぇ(知っとかん)と」」
「そうそう。お友達にはやっぱりお話しとかないとね〜」
5人にずずぃっ!と詰め寄られたフェイト。
その口は『あぅ……あぅ……』と、某退魔士のような反応をしている。
そんなフェイトが今日あった出来事を白状させられるのに、30秒とかからなかった。
30分後―――――
「「きゃーーーーーーーーー♪」」
高町母娘はかなりテンションが高い。
「ううぅっ………フェイト、アタシは嬉しいよ……」
娘の成長を喜ぶ父親のように、アルフは大泣きしている。
「「(お)師匠が………ホントにロリコンにーーーー!!??」」
ショックを受けた(元)少女組は、泣きながら各々の部屋へと駆け出して行った。
少し前まではフェイト達と同じような立場であった彼女達にしてみれば、些かやりきれない部分があるのだろう。
「……………………」
そんな中、フェイトは少しホッとしている。
アリサとの話については、雇い主の目の前と言う事もあり詳細に話したが
恭也との話は一部口に出来ないようなこともあったため、少しだけぼかして話したからだ。
「うんうん。恭也も成長したわねー。
……となると、アリサちゃん達の読みはかなり可能性高いわ。
フェイトちゃん、明日はバイトが始まる前に是非報告してね♪」
「は、はい………」
「はぁ〜、それにしてもなのはの方が早いと思ってたから桃子さんは嬉しいわ〜♪」
息子の成長を喜ぶ母親。
子供好きな彼女は早く息子達に結婚してもらい、孫を産んで欲しいのだろう。
言動から分かるようにどうやら美由希にもあまり期待はしていなかったようだ。
「あー、確かにそれはあるかも。
アタシも正直なのはが一番早いんじゃないかと思ってたし」
アルフが桃子の意見に賛同する。
「ちょ、二人とも何言ってるの……」
少し顔を赤くしながら抗議するなのは。
兄妹揃ってというか、実は彼女も恭也と似たような状況にあるのだ。
「ううぅっ……恭也に続いてなのはまで。
どうしてウチの子達は異性を誑かすようなことをするのかしら……」
泣き崩れる桃子。
「だ、誰も誑かしてなんかいないよっ!」
断固否定するなのはだが、アルフから思いもかけない言葉が聞こえてきた。
「へぇ〜なのは、そんな事言うんだ?
じゃあ先々月のバレンタインのときにユーノに送ってたやつ……アレは何だろうねぇ?」
「!!??」
な、何故それを!?といった表情のなのは。
「え?何々?なのは何をあげたの?」
「な、ななな何もあげてないよっ!」
嬉々としている桃子を危険と感じたなのははすぐさま否定。
しかし明らかに動揺している。
「ふっふっふ。実はね……」
「あ、ああああっ!い、言っちゃダメっ!」
桃子にチクろうとしているアルフを慌てて止めるが時既に遅し。
「なのはがバレンタインの日にね、突然アースラにやってきて一直線に無限書庫へと向かってたんだ。
なんか様子がおかしいと思ってあとをつけたら………」
「つけたら?」
「真っ赤にしながら、チョコと一緒に手編みのマフラーをユーノに渡しているなのはがいたんだよ。
いや〜あれはフェイトに負けず劣らず可愛かったね〜」
アルフの話を聞いた母親は、とてつもないほどのイヤらしい笑みを浮かべていた。
「なのはもオトコ心がわかってるわねん♪
で?で?それからユーノ君とは何かあったの〜?」
「な、何もないよっ!」
ぷん、と顔を赤くしてそっぽを向くなのは。
しかし話はこれで終わりではなかった。
「いやいや桃子。話はそれで終わりじゃないのさ」
「?」
まだ続きがあると言わんばかりのアルフに桃子は首を傾げている。
なのはは彼女が何を言うつもりなのかがわからない。
確かにバレンタインにプレゼントを贈ったのは一人ではなく、二人なのだが―――
あのことだけは誰にも知られてないはずだ。
「実はなのはは、同じ日にクロノにも――――」
「な、ななななななななんで、アアアアアルフさんが知ってるのーーー!!!??」
大声を出すなのは。
しかしそれを聞いたアルフの反応は予想外なものだった。
「へっ……?なのは、ホントかい……?」
「……えっ?」
なのはは固まってしまった。
「(ひょっとして………………自爆?)」
たら〜っと、冷や汗が出てくるなのは。
そこには満面の笑顔でなのはを見つめている3人の顔が。
「「「(ニコニコ)」」」
「え、えーっと、わ、私、宿題があるからこれで………」
一刻も早くこの場から離れるべきと判断し、背を向けたなのはだが
ガシッ!
当然、それは肩を掴む3人によって阻まれた。
恐る恐る振り向くなのは。そこには――――
「……ふふ。なのは、忘れちゃった?今日は宿題出てないよ?
それにせっかく一緒にいるんだからもっとお話しようよ」
その辺の中学生男子がイチコロになるほどの笑顔で話しかけるフェイト。
「そうだね。やっぱり管理局同士、色々と近況を報告し合う必要があると思うんだ。
…………………そう、イロイロとね」
こちらも笑顔だが、背後には黒いオーラが見えるアルフ。
「安心しなさい、なのは。オトコの一人や二人、虜にする方法なら教えてあげるわよ〜♪」
最後は突拍子のないことを言い出す母親がいたので、なのははがっくりと膝をついてしまった。
「……へぇ」
どこか感心しているフェイト。
なのはのバレンタイン時の行動を知って、ちょっとびっくりしている。
なのはの話では、初めからクロノにも渡すつもりで手袋を編んでいたらしい。
しかしクロノは仕事で当日はいないことを知っていたので、後日渡すか、部屋に置いてくるかのどちらかで考えていた所に
補給のためにアースラに立ち寄ったクロノと偶然、バッタリ会ってしまったとのことだ。
クロノも帰還とは言え、一時的なものなので、特に誰に連絡をしたというわけでもなかったため
なのはとクロノの会合は誰にも知られなかったとの事である。
「なるほどね〜」
「その偶然は恋する乙女、いや恋する少年の力〜ってとこかしら」
アルフと桃子が楽しそうに反応するが
洗いざらい白状させられてしまったなのははしょんぼりとしている。
「ま、なのはの行動監視は今後の課題として………とりあえず現状はフェイトちゃん達ね」
ひとまず釈放してもらったが、今後は行動が監視されると聞いてなのはは落ち込んでしまった。
「………そうですね、頑張ります」
「うんうん。アリサちゃんと二人掛かりで迫れば、あの恭也と言えどイチコロでしょうねぇ♪
あ〜ん、私も一緒にお泊りしたい〜〜」
相変わらずな桃子に苦笑するフェイトだが、ここで一つ気付いた。それは―――――
「………あれ?そういえばアリサは………?」
未だ捕縛されたままのアリサのことだった。
「もうっ!ヒドイですよっ!」
ようやく自由を取り戻したアリサは開口一番、最初に動きを封じたアルフに向かって叫んだ。
「あははは。ゴメンゴメン」
「ったくもう……ファイトもアッサリ喋っちゃうし」
「……ゴメン」
「…………でもまぁ、面白い話も聞けたからいいかな?」
ニヤリとなのはを見るアリサ。
「あ、あはははははは。な、何かな〜……アリサちゃん?」
「うふふふふふふふふ。別にな〜んにもないわよぅ?ちょ〜っと明日が楽しみなだけ♪
はぁ〜、すずか達に早く会いたいなぁ〜」
「あうぅ…」
知られてはならない相手に知られてしまったと、頭を抱えるなのは。
「これは将来なのはが結婚する時楽しみね。恭也さん、どんな行動するだろ……」
恭也がなのはを溺愛していることは周知の事実である。
以前から冗談交じりに、
『なのはを下さいと挨拶に来たら、「俺から一本取れたら許してやろう」と言うつもりだ』
と漏らしていた。
しかし恭也が冗談で言っているのではないとわかっているため、なのはは将来にちょっと不安を感じている。
何せ自分の知っている人の中で恭也より強い人を知らないからだ。
「そうね〜。桃子さんはもしかしたら、恭也が禁断の愛に走るんじゃないかとヒヤヒヤしてたわ」
恐ろしい事を言う桃子。
「アタシも思ってた。なのはもクロノを気にするあたりちょっとヤバイかなぁ〜と」
しかしアルフも同じように思っていたようだ。
クロノは外見を含めてどこかしら恭也と似通った部分が多いため、ブラコン気味のなのはが気になっているのも頷けるらしい。
実際クロノのポテンシャルは相当高い。
「ク、クロノ君とお兄ちゃんは関係ないよっ!
そ、それだったらフェイトちゃんの方が気にしてるだろうし!」
クロノはフェイトから見れば義兄と、なのはと恭也の関係に酷似している。
おまけに血が繋がっていないということを両者が認識しているし、二人とも年頃であることを考えると
なのはと恭也の関係よりも遥かに現実味があった。
「……クロノはやっぱり家族だよ。
男性として素敵な所も沢山あるとは思うけど………恭也さんには敵わないと思うな」
恋は盲目、とはよく言ったものだ。
もはやフェイトの中では恭也以外の男性はどんなに素敵でも一般レベルになるらしい。
しかし、自分が気にしている人をそんな扱いにされてはさすがのなのはも黙ってはおらず、
「そ、そんなことないよ!
お兄ちゃんと違って、クロノ君は鈍感・無愛想・朴念仁なんかじゃないし、
そりゃ、かなり照れ屋だけどちゃんと思ってることを口に出して伝えてくれるもん!
それにクロノ君、普段はクールでカッコイイんだけど笑うと可愛いんだぁ…」
エヘヘ〜、と悦に入っているなのは。
どうやら彼女は先程のアリサが言った、クロノのギャップに絆されてしまったようだ。
「むぅ。そんなこ……………」
お返しと言わんばかりに『そんなことない』、と言おうとしたフェイトが途中で言葉を切ったため、
ひとり妄想の世界へダイブしていたなのはが不思議になって顔を上げると、そこには那美を送ってきた恭也が立っていた。
「あら恭也、お帰り」
「お帰りー」
「お帰りなさーい」
「…お帰りなさい」
4人がそれぞれ恭也を出迎える。
「ただいま…………なのは、何かあったのか?」
4人がなのはを取り囲むように陣形を組んでいるため、何事かと思った恭也はなのはに尋ねた。
「え、い、いやっ!なんでもないよ!」
「………ふむ。そうか」
その慌てっぷりでは『何かありました』と言っているようなものだが、
女同士の会話ということもあり、あまり追求するものでもないと思った恭也が話を打ち切ったので
桃子は恭也に尋ねた。
「那美ちゃんはきちんと送ってきた?」
「ああ、問題ない。問題があるとすればその後だ」
「「「その後?」」」
「……危うくさざなみの魔手に捕われる所だった。
ちょうどさざなみに帰って来ている薫さんの助けがなければ、今日は戻れなかっただろうな…」
どうやらさざなみの悪魔、真雪とリスティに捕獲されそうになったものの、
那美の姉である薫の助力により何とか逃げ出してきたようだ。
「そ、そうですか。大変でしたね…」
5人の中では一番のイジられキャラであるフェイトが同意を示す。
ちなみになのは以外の3人は完全に真雪側(イジる側)の人間であるため、恭也がイジられなかったことをむしろ残念に思っている。
「まったくです……。
っと、三人とも準備はよろしいですか?
もう遅いですし、そろそろ出ないと明日に響きますよ」
そう言って恭也が見た時計は既に21:00を回っている。
中学生が出歩くにはあまり良くない時間だ。
「おや?もうそんな時間かい。
それじゃフェイト、そろそろお暇しようかねー」
「…うん。じゃあなのは、バイバイ」
「それじゃ、私も帰ります。桃子さん、ご馳走様でした。
なのはもまた明日ねー」
3人がそれぞれ帰宅準備を始める。
「それじゃあね、3人とも。
フェイトちゃん達は明日も来るけど、アリサちゃんもいつでも来なさい♪
ここで遠慮すると、すぐに差をつけられちゃうわよ〜」
「あはは。ありがとうございます。
まぁ私にも色々と作戦がありますんで、そのときには是非お邪魔します♪」
怪我の功名というべきか、フェイトはこれから朝晩確実に恭也と会えるため
アリサにとっては少し辛いハンデかと思って話しかけた桃子だが、どうやら少女は見た目通り強かな考えを持っているようだ。
「あら、さすがアリサちゃん。抜け目ないわね」
「えへへ。これも桃子さん直伝100手の内の1手です」
「うふふ。それじゃあ頑張って」
「は〜い♪」
少女らしい振る舞いを見せているアリサの様子も相まって非常に微笑ましい雰囲気に見えるが
実際に話している内容はかなりえげつなさそうだ。
『作戦』という単語に、長年の経験から恭也は若干の恐怖を感じている。
「(……アリサ、色々考えてるんだ…)」
アリサが既に恭也への本格的なアプローチを考えていることは見て取れる。
和やかな雰囲気のせいかあまり深い事は考えていなかったが、既に闘いは始まっているのだ。
一月という期間が決して長くないということを認識したフェイトはアリサの行動に少し焦りを感じ始める。
「(私も……頑張らないと)」
そう思ったフェイトは、まずは今日、これからのことを考えながら高町家を後にした。
アリサ・アルフはなのはと話しながら玄関へ向かっているが
「……というか100手、とは一体なんだ…?」
最後にリビングを出た恭也の呟きに応えてくれる者はいなかった。
第8話をお届けしました、幸のない物書き さっちんです。
火妬美「うーん、なんというか幕間?」
まぁそんな感じに取ってもらえると助かる。それはもう非常に。
火妬美「要はアンタの中での繋ぎなのね」
うん。
火妬美「なのはの話が出てるけど、彼女の話もあるわけ?」
や、さすがにそれは無理っす。そんなキャパ、私にはありません。
火妬美「そんなこと知ってるわ」
…とりあえずこの話はあまり突っ込まれるとツライので軽く流して。
火妬美「そうね。中身は薄いし、相変わらず桃色思考だし」
…もうそれでいいんで終わってください。
火妬美「仕方ないわね…。それじゃ、また次回〜♪」
※誤字脱字、設定ミス等ありましたらご連絡頂けると幸いです。
今回はちょっとお笑いが。
美姫 「那美とアリサの会話も怪しさ爆発って感じよね」
うんうん。撃沈された美由希は、既に忘れられるっぽいな。
美姫 「あははは。そうそう、今回はもう一本あるのよね」
おう! すぐに続きが読めるんだよ〜。
美姫 「それは良いわね」
それじゃあ、続きを〜。