※このお話はPCゲーム「とらいあんぐるハート3」とTVアニメ「魔法少女リリカルなのは」の融合作品です。
しかし基盤となるのは「とらいあんぐるハート3」なので、士郎は死んでますし、恭也はALLエンド&フリーです。
「魔法少女リリカルなのは」はキャラ追加のみを目的としたと捉えてください。
フェイトが高町家に着くと、美由希と茶色いロングヘアーの女性が談笑している。
「あれ、フェイト?」
「あ、フェイトちゃんこんばんは〜」
「こんばんは…。美由希さん、那美さん」
那美と呼ばれたこのおっとりムードな女性は、恭也の後輩で美由希の先輩にあたる。
フルネーム、神咲那美。近所の八束神社で巫女さんのバイトをしている海鳴大学4年生なのだが
その実態は霊障を払うことを生業としている、『神咲一灯流』と呼ばれる退魔の一族だ。
しかし緊急時はともかく、日常では何も無い所で転ぶ事ができるほどのドジッ娘属性を持っており
美由希と仲が良いのは、お互いが同じ属性を持っているが故であると周囲の人達は信じて疑わない。
「えへへ。今日は私も夕飯ご馳走になることにしたんだ〜。
フェイトちゃんは昨日からなんだって?」
「あ、はい。少々財政難で……」
美由希から事情を聞いているのか、ちょっと同情する那美。
ちなみに那美は大学4年の春という就職活動に忙しい時期なのだが、卒業後は退魔士の道へと進む事に決めているので
世間一般の大学生とは違い相変わらずのほほんと過ごしている。
「うーん、大変だよねぇ。もし高町さんのお家で食べれない日があったら遠慮なくウチに来てね」
「はい。ありがとうございます」
那美の住んでいる所は、ここ高町家から30分程の距離にある「さざなみ寮」と呼ばれる寮である。
実はそこは女子寮なのだが、なぜか男が管理人をしているという不思議な寮だ。
管理人は当初こそ女子寮に男がいるということで邪険に扱われていたが、今は持ち前の明るさも手伝って寮生皆に慕われる管理人となっている。
また、この管理人の作る料理は非常に美味しく、晶とレンが彼を目標にしている節があるほどだ。
「みんなも会いたがってたよ…………………………………特に真雪さんとリスティさんが」
「あ、はは、はははは…………。
え、と。ど、どうしようもなくなったら、そのときはお邪魔させて頂きます…」
真雪とリスティという女性は…………一言で言うと悪魔である。
他人をからかうことを生きがいとするその傍若無人とセクハラっぷりは、幾度となく寮生を恥辱の海へ沈めてきた。
口数は少なくともリアクションのいいフェイトは、寮へ行くたびに彼女らに玩具にされ『心身共』にズタボロだ。
なお、フェイトがさざなみ寮に来るまでは那美が主なターゲットであったため、
フェイトの出現は那美にとって素晴らしいスケープゴートなのである。
「うん。まぁ出来るだけ……真雪さんが締め切り間際で余裕がないときがいいかもね……」
「そうですね………」
「「…………」」
「「………はぁ」」
セクハラ大魔王の実刑を味わった経験のある二人は揃ってため息を吐く。
何やら微妙な空気になってきたので、美由希は慌てて話題を変えた。
「そ、そういえばフェイトはどうしたの?かーさんやなのはとは一緒じゃなかったの?」
「あ、今日はその、用事があって少し早目に上がらせてもらったんです…」
「ふーん。あ、てことは晶かレンに用事かな?お料理で何か教わりたいってわけ?」
「あ、いえ。
実は恭也さんにちょっとお話があって……」
「恭ちゃん?
恭ちゃんなら今、士郎父さんのお墓参りに行ってるけど……」
「…そうなんですか」
告白しようとした矢先、何ともタイミングが悪い。
明日に回してもいいが、どうしてか今日告白しなければいけない気がしてしまう。
そんな中、那美が
「あ、でも恭也さんが出て行ったのってほんの五分くらい前だから……追いつけるかもしれないよ?」
と言ったので、フェイトはすぐさま駆け出した。
「それじゃ行って来ます」
「「え?あ、ちょっとフェイト(ちゃん)?」」
呆然とするドジッ娘二人を置いて。
『 Dreieck Herz -Lyrical- 』 ACT.07
藤見台墓地。
恭也の父である、高町士郎はここに眠っている。
「大学を卒業してからは初めてだな、父さん」
そう言って花と酒、それと翠屋のシュークリームを供える。
「ようやく、俺も父さんと同じ道を歩き始めたよ」
父、士郎は恭也が幼い頃、ボディーガードの仕事中に事故で他界した。
その時の桃子と美由希の悲しみようは今でも覚えている。
「あの時……父さんが死んだとき、俺は子供心ながらに思った。
――――大切な人を護る。 確かにその信念は貫けただろう。
しかしそれで死んでしまった貴方を悲しむ人達を見て
『そこまでして何がしたかったんだ。
大切な人達を悲しませるために、貴方は剣を振るっていたのか』と」
恭也は持ってきたグラス2つに酒を注ぐ。
「父さんが死んで……道を見失ったりもしたけど、
ようやく落ち着いて周りを見れるようになったとき俺は誓った。
『決して貴方のようにはならない』」
そう言うと、一気にグラスの中身を煽った。
喉が焼ける様な感覚を覚える。
「大切な人達を悲しませるようなことをした貴方のようにはならない…と。
だから俺は女性と結婚はもちろん、付き合うつもりもなかった。
愛する人がいれば、いつか必ずその人も危険な目に遭う」
『最も、俺が女性に好かれるなんて思っていなかったがな』、と笑う恭也。
「けれど今、俺は貴方と同じ道を歩もうとしている」
苦笑しながら今度はシュークリームを取り出した。
「1年前、あの事件でアリサが過去に打ち克ち、眩いばかりの笑顔を見たとき…
父さんが何を思ってフィアッセを護りきったのか、それが何となく分かった気がする。
大切な人を護るために自分が死に、結果、自分の大切な人達を悲しませることになったとしても……」
「それでも貴方は御神の理に……高町士郎が高町士郎であるための理に従って剣を振るったんだな。
俺が憧れていた高町士郎という男はそんな人だった……」
そうしてシュークリームをひとつ頬張る恭也。
口にすると何故か涙が出てきそうになった。
「父さん」
涙を堪えて語りかける。
「―――俺、好きな人が出来たんだ」
「それも二人同時に。
子供の頃、かーさんのシュークリームひとつに絆された父さんを情けなく思ったが
どうやら俺はそれ以上の節操無しだったみたいだな」
自嘲気味に笑う恭也。
しかしその瞳は真剣だ
「この歳になってようやく恋というものを知った気がする。
二人ともまだ中学生だが、とても……とても魅力的な女性だ。
こんな朴念仁の俺が、二人の事を考える度に胸が高鳴り、傍に居たいと思っている」
「この二人のことなら、俺はすべてを以って護りたいと……いや、護ると言ってみせる」
「でも、俺の想いを受け入れてくれるかはわからないが……やはり二人と付き合うことは出来ない。
どちらか一人を選ばなくてはいけない。
なぁ……明るく楽しかった父さんは、きっと色んな女性から好意を受けたことがあっただろう?
その中で複数の女性に気が向いたということは無かったのか?
そんなとき…父さんはどうしたんだ?」
昨日決心はしたが、やはり二人とも同じくらい好きという事実からは逃れられなく
すがるような気持ちで父に話しかけるが、目の前の墓石からは返事がない。
「――――――――――――」
突如吹いた風がまるで士郎の言葉を代弁しているようで、やけに身に染みた。
「………そう、だな。
こんなことを他人に聞くのは間違っている。
二人を好きになったのは俺だし、選ばなきゃいけないのも俺だ。
ならば決断をし、最後まで責任を取るのは…………俺でなくてはならない」
立ち上がる恭也。
「じゃあな。父さん。
酒は置いていくから好きなだけ飲んでくれ。
今度来る時は………俺が大切な人と来る事を期待してろ」
「しかし、女性の趣味まで父さんと同じ道をいくとは思ってなかったよ。
静馬さんや父さんもそうだったが、どうやら御神の血筋は代々童顔の人を好きになるみたいだ」
『まぁ、俺の場合は童顔じゃなくて実際に幼いんだが』と最後に若干の皮肉を投げて、恭也は墓地を後にしようとした――――そこに
「っ!?」
「……………」
見間違えようの無い……翠屋の新人アルバイターが立っていた。
「ふぅ〜。フェイトも世話が焼けるというか、めんどくさい性格してるわね〜」
と、呆れたような、でもそれでいて嬉しいような顔して歩いているアリサ。
フェイトの話を聞いてるときは対等な位置につかれて少しだけ悔しい気もしたが、今はそれほどでもない。
先に好きになった、先に告白したのは自分だが、そんなことで恋が実るなら誰だって苦労はしないだろう。
「ま、何にせよ明日から色々と楽しみだわ」
そうやって自宅へ帰ろうとしたが、先程のフェイトとの会話で何か想う所でもあったのか突然進路を変えた。
「………ここ最近行ってないし、久しぶりに行ってみようかな」
彼女が通り過ぎた看板には『藤見台墓地 これより400M→』と書かれていた。
「―――――」
ここはアリサの両親達が眠る場所。
彼女は微動だにせずお祈りしている。
「―――パパ、ママ。色々と大変なことはあるけど、毎日楽しくやってるよ。
だから………安心して」
そうしてお墓にキスをしたあと、墓石の名前を指でなぞりながら彼女は告げる。
「未だに恭也さんから返事はもらえてないけど……予想だけどもうすぐ決着が着きそうなんだ。
今度来るときは私の『彼氏』を連れて来てあげるわ。
すっごく格好いいのよ?羨ましがったってあげないからね〜♪」
あはは、と笑う。
「―――それじゃあね、『 』」
お墓参りが終わったアリサはそのまま帰らず、墓地の裏側にある草原にてぼうっと空を見上げていた。
この草原はなのは達(美)少女組の秘密の場所である。
ひとりでいることが怖かった時期も、ここだけは例外だった。
「恭也さん、か………」
想い人の名を呟きながら、目を閉じ、心地良い風に身を任せると
恭也に出会ってから今まで……特にここ1年のことが鮮明に思い出される。
どれもが懐かしく、心温まる思い出。
時にはイヤなこともあったけど―――――それも今では彼と私を繋ぐ大切な思い出。
そう思うだけでこんなにも心が安らぐ。
これが人を好きになるという事ならば、人という生き物はなんて素晴らしいのだろうとさえ思えた。
自分でも初めて会ったときには、こんなことになるなんて思ってもみなかったけれど。
初めは―――遊びみたいなものだった。
友達の兄………そこらで見かける人達とは比べ物にならない容姿。
ミーハーだと自覚してる自分は『格好いい彼氏がいる』という自分のステータスのために恭也に近づいた。
そこに恋愛感情は皆無だったと言ってもいいだろう。
そうして何度か友人の家に遊びに行く名目で彼と接してきた。
しかしある日、彼が外見だけではない男性だと知ることになる。
彼のしている剣術、大切な人を護るという信念、他人に優しく自分に厳しい愚直なまでに生真面目な性格。
外見だけを見ていた自分が恥ずかしくなるほどその瞬間、私は彼に恋心を抱いた。
とは言っても最初はやはり憧れた部分が強かっただろう。
自分はまだ子供だし、彼が私なんかを見てくれるはずがない―――――そう言い聞かせて。
けれど彼と話している内に、その想いは消えるどころか確かなものと感じれるようになった。
自分は間違いなく彼に本気の恋をしている。
だけど彼自身はどうだろうか?
自分が女性として見られていないのは百も承知だ。
だからと言って彼は誰かと付き合うような素振りも見せない。
彼の周りにいる女性たちは皆魅力的な人たちなのに、どうして恋人としないのか。
彼も彼女達を嫌っているわけではない。むしろ好意を抱いているだろう。
ならばなぜ?
その理由を自分なりに推測してみたことがある。
直接聞いたわけではないが、彼の性格を考えれば恐らく正しい。
――いずれ進むボディーガードの道。
彼は自分が愛する人を傷つけさせないために恋人を持たなかったのだと。
自らの信念を貫くが故に、愛する人が危険な目に遭うかも知れないことを何よりも恐れたのだと。
その答えに辿り着いたときから私は彼に言ってやりたいことがある。
その想いは違う。本当に愛しているのならば―――――
しかしこれを今の自分が言っても意味がない。
彼が私を一番に好きだと自覚しそれでも迷いを見せるようならば……その時にこそ聞かせてあげよう。
私がどれだけ彼を想っているか、どれだけ彼の傍に居られるだけで幸せか―――
そんな想いを巡らせていたとき、不意に墓地の方から男性の声が聞こえた。
「―――俺、好きな人が出来たんだ」
「(―――え?)」
聞き覚えのある声と思って近付くと、そこには馴染みの青年がお墓の前に座り込んでいた。
「………あれは……恭也さん?」
彼に気付いた私はちょっといけないと思いつつも彼が話している内容をこっそり聞く事にした。
恭也を見かけたのは墓地に入る直前だった。
声をかけようと思えばかけられたが、お墓参りが済んでからでいいと思ったフェイトは
恭也が気にならないよう結界を張り気配を消していた。
初めはその場で待っているつもりだったが恭也の目があまりにも真剣だったので、悪いとは思いつつもつい聞き耳を立ててしまったのである。
そして、恭也の口から語られた内容は―――――
「フェ、フェイトさん……」
「……………」
「あの、フェイトさん……いつからそこに?」
「……恭也さんが墓地に来たくらいからです」
それはつまり先程の話(独り言)をフェイトに聞かれていたということである。
結界を張っていたのでさすがの恭也も気付く事はできなかったが、それでも自分を呪わずにはいられなかった。
「(……不覚。まさかあの話を聞かれているとは。………しかもよりによってフェイトさんに……)」
明確な名前は口にしていなかったと思うが、それでも『二人の女性』が誰を指すかは、恭也の周りにいる人達には理解できるだろう。
一人思案する恭也。
そんな恭也にフェイトは話かける。
「恭也さん」
「…はい」
「お話があるんですけど……いいですか?」
話とはもちろん、今のことだろうと思っていた恭也は身を固くする。
「え、ええ」
「実は昨日から恭也さんにお話したいことがあったので……今日は少し早目にバイトを切り上げさせてもらったんです」
そういえば彼女はまだバイトの時間のはずだ。
その彼女が自分と話すためにわざわざ時間を割いた。
しかも昨日から話そうと考えていたらしいので、これからの話は先程の件についてではないようだ。
「昨日のみきちゃんとの一件―――覚えてますか?」
「……ええ。秋子さんには貴重なお話を聞かせて頂きました。
大切な事を気付かせてくれた昨日の事は、これからも忘れる事はないでしょう」
「私もみきちゃんと話してて大事な事に気付きました。
自分の気持ち、アリサの気持ち、そして恭也さん―――」
「………俺?」
いきなり出てきた自分の名前に首を傾げる恭也。
そんな彼を少し可愛いと思いつつ、フェイトは続ける。
「はい。今までは憧れに似た部分もありどこか諦めていたところがありました。
何よりアリサには敵わない、と」
「……………」
「私は昨日、恭也さんと初対面ということで食事をしてましたけど……
そこでみきちゃんに恭也さんをどう想っているか、と聞かれました」
恭也はドキリとする。
まさかこんな形で彼女の気持ちを聞く事になろうとは。
「しかし私は『今日会ったばかりでそんなこと言われても』……とお茶を濁しました。
でも、昨日みきちゃんが言ってくれたんです。
『きょうとかきのうとか、あんまりかんけいないとおもうんだ』って……」
「それを聞いて私は自分がどれだけ愚かなことを考えているのかを知りました。
みきちゃんの言う通り。
時間なんて関係ない。
自分の気持ちに正直になること、"覚悟"を持つ事が大切だと」
恭也はここで昨日までに比べて彼女の雰囲気が一変した理由を理解した。
彼女はあのときに、彼女の言う覚悟を持てたのだ。
「今まではくだらない……本当にくだらないことに捉われて自分自身を否定していました。
もちろん、現実問題として何も支障がないわけではありません。
しかしそれを理由に自分の中にある想いを偽るべきではない、とあのお二人に教えて頂きました」
「………フェイトさん?」
「だから今の私は胸を張って言えます。
まだ子供だけど……貴方には相応しくないかもしれないけど……
それでも私は――――」
そうしてフェイトはとても眩しい笑顔で
「私は……貴方を、高町恭也さんを―――誰よりも愛しています」
愛しい彼に想いを告げた。
「―――――――」
「……お返事を………聞かせて頂けませんか?」
「(………あちゃ〜)」
フェイトの告白を聞いていたアリサは、しまったという顔をしていた。
初めは恭也の独り言が終わったら出て行くつもりだったのだが、間髪入れずにフェイトが現れたので
出るに出られなくなってしまったのである。
「(不可抗力とはいえ、告白現場を見ちゃうなんてね〜。……しかし他人の告白シーンって結構ドキドキするわ)」
友人の告白現場を目撃してしまったアリサは、もしかしたら自分のとき以上に緊張してるのかもしれない。
「(……でもさっきの話………恭也さんってそんなこと考えてたんだ)」
先程の恭也が独白した自分たちへの想い。
もしかしたら、という部分もあったが、彼がそこまで真剣に自分達を想ってくれているのが嬉しかった。
「―――――」
恭也は頭が真っ白になってしまった。
思考が追い付かない。
今彼女は何と言った?
彼女は好きだと言った。
誰を?
俺をか?
ありえない。
自分が好きな2人の女性。
その2人『両方』から好きだと言われるなんて。
「まだ……アリサへの返事が決まりませんか?」
「………」
「恭也さんがアリサを意識していること、それは知ってました。
まぁ…アリサが既に告白していて……その返事を未だもらえてないということは今朝初めて知りましたけど。
その告白の経緯もアリサから聞かせてもらいました」
「アリサが……あの時の事を?」
「はい。アリサは私をライバルと認めてくれて……
それでいて、正々堂々闘おうと言ってくれたんです」
「でも、私からしてみれば恭也さんのアリサを見つめる視線はとても優しげで…
今まで遅かれ早かれ、いずれ二人は恋人同士になるんだろうと思ってました。
……私では相手にならないっていうのもありましたけど」
ちょっとはにかむフェイト。
「…………………」
「覚悟を持てた今でも、やはりどこかアリサには負けるんじゃないかと思ってました。
だってアリサはあんなにも素敵だし、恭也さんもアリサを好ましく思ってる。
恭也さんが私を少し意識してる……なんて話も聞きましたけど、そんなはずはない、と自分に言い聞かせたんです」
「だけど……さっき、恭也さんの話を聞いてしまって………もしかしたらっていう自分が居ます。
自惚れじゃなければ……恭也さんは私とアリサのどっちも好きで、どちらを選ぶかで迷ってる―――そうじゃないんですか?
だから……今でもアリサに返事が出来ていないんじゃないですか?」
「私は、恭也さんのこと…大好きです。
恭也さんは私の事………どう想ってますか?」
潤ませながらも真剣な眼差しフェイト。
ここで誤魔化すことはしてはならない、と恭也は感じたのか正直な気持ちを打ち明けた。
「………ええ。俺はアリサとフェイトさん、お二人を好きになりました。
二人の女性を好きになるなんて節操無しもいい所ですが………俺は二人を誰よりも愛している。
アリサの告白に今まで返答できなかったのも、貴女の存在があったからこそです」
「とは言っても、昨日までは愛してるというほどの感情はありませんでした。
ですから、最近アリサへの恋心を自覚した俺は、あのままいっていれば恐らく近い内に結論を出せていたでしょう」
「…………」
「しかし、昨日のみきちゃんとの一件。
決意をした貴女と目が合ったとき、俺の中で何かが弾けた。
あの場の方便であった『一目惚れ』……とは少し違うかも知れませんが、
それほどまでの衝撃を受けてその気持ちは固まりました」
「俺は間違いなく貴女を――――フェイトさんを愛している、と」
自分が告白した男性から、愛していると言われた。
これほど嬉しいことが今まであっただろうか。
「けれど、俺は同時にアリサも愛しいと思っています。
――――ですから、フェイトさんへの返事は………すぐには出来ません」
唇を噛み締める恭也。
不甲斐無い自分が許せないのだろう。
しかしそんな恭也にフェイトは優しく返す。
「はい。いつまでも待ってます」
「……え?」
「恭也さんはこれから………私達のどちらを選ぶかで悩んでくれるんですよね?
でしたら、私はその結論が出るのを待つだけです」
『今後はちょっと積極的に迫るかもしれませんけど』、と零すフェイト。
「え……いや、あの……そんなに簡単に決めていいんですか?」
「何がですか?」
「……目の前の男は複数の女性を好きになって…未だ決めきれないような、どうしようもない男ですよ?
それなのに、そんな男の答えをいつまでも待つなんて……」
「恭也さん」
恭也の唇を人差し指で押さえながら微笑むフェイト。
そんな彼女を見て恭也は動悸が激しくなった。
「そんな事……言わないで下さい。
私が…私達が好きになった貴方がそんな人ではないことは知っています。
私達を真剣に想ってくれているからこそ、貴方はこれから……悩んで悩み抜いて、答えを出してくれるんだと思います」
「………………」
「だから、恭也さんも私達を信じてください」
「……信じる?」
「はい。私は恭也さんを信じています。
だから恭也さんもこれから、貴方が好きだという私達の事を信じて悩んで欲しいです。
だけど、不安に駆られてどうしても信じきれないときがあるかも知れません。
そんな時は―――『私達を好きになった自分』を信じてください」
「自分を―――?」
疑問を浮かべる恭也の顔を、両手で優しく包み込むフェイト。
恭也はますます顔が赤くなる。
「貴方が好きになった女性達は、好きな男性の本質も見抜けないようなつまらない女性ですか?
貴方が好きになった女性達は、好きな男性を信じる事も出来ないようなくだらない女性ですか?」
「――――――」
「自分が好きになった人、私は何があっても信じることができます。
こんな風に思えるようになったのもついさっきですけど……………恭也さんはどうですか?」
「………そう、ですね。
好きになった人のことならばどんな時でも信じれる。
何より、好きになった自分の気持ち……これは自分の中の唯一の真実なのだから――――――」
「はい。だからこれから……安心して、一生懸命悩んでください」
『ね♪』と両手は未だ恭也の顔を包んだまま、目の前でニッコリ笑うフェイトに恭也は思わず彼女を抱きしめていた。
「きゃっ?」
「…………………」
「…………………」
「…………………」
「……あ、あの、恭也さん?」
突然抱きしめられ、嬉しい気持ちながらもとまどうフェイト。
「……ありがとう。フェイトさん。
自分をこんなに想ってくれる、自分をこんなにも理解してくれている貴女達を好きになって良かったと……
今ほど思ったことはない」
「………恭也さん」
フェイトは自分も彼の首筋に手を回し、抱きしめる。
彼の力強い抱擁が少し痛く感じるが、それが彼の想いの強さそのものを示していると思うと逆に嬉しくなった。
恭也の鼓動が伝わってきて……自分の鼓動も伝わってるかと思うと、より一層ドキドキしてくるフェイト。
「これから、辛い思いをさせてしまいます。
結果、貴女を選ばない事もあります。
それでも……………待っていてくれますか?」
「はい………。待ってます」
「ありがとう…………」
「恭也………さん」
そうして二人は、そのまましばらく抱き合っていた――――――
名残惜しい部分もあったが、あのままでいればトンデモないことになりそうだったので、お互い離れた所で恭也が言い出した。
「先程は近い内……と言いましたが、実際は今度アリサと二人きりになる機会があったら
そのときに返事しようと考えていたんですよ」
どうやらアリサへの返事は彼の中でほぼ決まっていた事らしい。
「……そうですか。
それじゃ、私にしてみればギリギリのタイミングで恭也さんを掴まえたってことですね」
アリサにはちょっと悪いことしましたけど、と笑うフェイト。
「そうですね……。アリサには随分と辛い思いをさせています」
「恭也さんは優柔不断みたいですからね。
今まで色んな女の人を泣かせてきたんじゃないですか?」
フェイトの意地悪い質問にとまどう恭也。
「い、いやっ、そんなことは決して………」
「ふふっ、冗談ですよ」
ちょっとお茶目な感じのフェイト。
告白したことでスッキリしたのか、恭也に対する態度が少し変わっている。
最も恭也はそんな彼女も好ましく思っていたりするのだが。
「まぁ泣かせたかどうかはともかく……優柔不断なのには間違いないですから」
苦笑する恭也に、フェイトも少し笑う。
そこに――――
「まったくよ」
「「え?」」
そう言って裏の茂みからアリサが現れた。
「恭也さん、あんまり女の子を待たせちゃダメですよ?」
仕方ないですね、という顔をしている。
「アリサ……どうしてここに?」
フェイトはライバルがこの場にいる理由がまったくわからずに驚いている。
しかしアリサからしてみれば、高町家に告白しに行ったフェイトがここに居る事の方が驚きだ。
「や、フェイト。いつものトコにいたら恭也さんの声が聞こえてさ…」
その言葉にフェイトは、彼女が両親のお墓参りに来たのだと理解した。
彼女は裏手の草原が大のお気に入りで、よく一人でここに来ているらしい。
「そうなんだ……」
「すぐに出て行きたかったんだけど……出るに出れなくなっちゃってね」
と言われた所で気付いた。
彼女は先程の恭也とのやり取りを見ていたのだ。どこから?
「えっと……アリサ。…………どの辺から聞いてた?」
「ん?恭也さんがお墓の前でブツブツ言ってるときからかな?」
「ブツブツ…」
アリサの物言いにちょっと不機嫌になる恭也。
あんな言い方だと自分がアブナイ人に見られそうだが、思い返してみれば墓前で独り一喜一憂してる姿は確かに怪しい。
「………それってつまり、最初からってことじゃ…」
「まぁそうとも言うわね。
いやぁ〜告白してるときのフェイトは可愛かったわ〜。
思わずお持ち帰りしたくなっちゃったわよ」
「「……………」」
「まさかフェイトが『ね♪』なんて可愛い仕草をするなんてオドロキもオドロキ。
しかもあんな歯が浮くようなセリフをよくもまぁ……。
これが恋……いや、愛の力ってやつ?」
「「……………」」
「おまけに恭也さんも大胆なこと……というか羨ましいことしてるし。
私の時にはあんな熱い抱擁はなかったのになぁ〜。
あんまり悔しいから思わず写真撮っちゃったわよ」
「「……………」」
そう言って携帯のディスプレイを二人に見せるアリサ。
そこには恭也とフェイトが嬉しそうに抱き合ってる姿がある。
「………ってあれ?二人ともどうしたの?」
決定的写真を見せたにも関らず、何もリアクションがない二人を不思議に思ったアリサは尋ねてみるが、
二人から発せられたのは彼女にとって理解不能な言葉だった。
「「……アリサ」」
「ん?」
「「お仕置き(だ)」」
「ええええっ!!!?なんでっ!!!??」
「―――まったく。人の告白現場を覗き見るなんて、いい趣味してるとは言えんぞ」
「……もうやったらダメだよ?アリサ」
「ううぅぅぅ………はい」
二人からお仕置きを喰らったアリサは現在、お墓の前で正座して泣きながら説教を受けている最中。
ちなみにフェイトは携帯の写真を転送して欲しいとお願いしてたりもした。
「まぁそれはいいとして、だ」
『良いならお仕置きしないで下さい』なんて思ったが、恐らく無意味だろうと悟ったアリサは黙って恭也の話を聞く。
「アリサ」
「?」
「すまない」
恭也は突然頭を下げる。
「え?」
アリサは驚いている。横にいるフェイトも同じだ。
しかし恭也は二人に構わず話を続けた。
「お前は一年以上も前から俺を好きでいてくれて。
いつまでも返事を出せない俺に、変わらず接してきてくれて。
俺の前では辛そうな顔など一度も見せなかった」
「だけど……自分なりに恋心というものがわかった今、
お前がどれだけ辛い思いをしてきたのかがわかる……いや、わかるなんて事を言ってはいけない。
俺には想像もつかないような辛い思いをしてきて、時には不安に押し潰されそうなときもあっただろう」
アリサは何も言わない。
恭也の言っていることは紛れも無い事実だから。
「そしてそんなお前を弄ぶかのように今、俺は別の女性をも好きになってしまった。
好きな女性のために、好きな女性を苦しませている」
「けれど、これだけは信じて欲しい。
俺はお前も……アリサもフェイトさんも、どちらもこれ以上ないくらいに愛している。
二人のためなら何だってしてやりたい。
今すぐ恋人として二人を包んでやりたい」
「しかし、二人を選ぶということはどうあがいても出来ない。
先に想いを告げてくれたお前からすれば……俺の決断は到底許されるものではないだろう。
だが………許されるならあと1ヶ月だけ待って欲しい」
「1ヶ月?」
「ああ。これから一月の間に俺は必ず結論を出す。
どちらが俺にとって、最も大切な人なのか。
俺が世界で一番愛していると言えるのはどちらなのか」
「だから………お前にはまた辛い思いをさせてしまうが…あと一月だけ待っててくれないか?」
真剣な瞳をしてアリサを見つめる恭也。
その眼には若干の不安が見られるが、アリサはそんな恭也に
「はい。わかりました」
と、いともあっさり承諾した。
「む……。そう簡単に納得されるのも何かこう……」
納得してくれるのは嬉しいが、アリサにあまりにも迷いがなかったのを見て恭也は少し不満を漏らす。
「だって、一年以上も待ってる私にあと一月なんて大した差じゃないですよ」
最もである。
「しかし………」
「それにあと一月っていう明確なゴールが見えたんで、むしろ嬉しいくらいです。
まぁゴール地点に自分が居るとは限らないんですけどね」
少し笑うアリサ。
そんなアリサを見てフェイトは寂しげに言う。
「……アリサ。ゴメンね。
私がもう少し遅かったら……アリサは恭也さんと付き合えたのに。
横からしゃしゃり出てきちゃったみたいで……」
「ん?別に構わないわよ。
確かにさっきフェイトの話を聞いてた時は、ロクな覚悟もないくせに〜とか
私の方がずっと前から好きだったのに〜なんて思っちゃったりもしたけど
むしろ今はこういうのは付き合う前にハッキリさせた方がいいと思ってるわ。
だって私が恭也さんと付き合ったあとにフェイトを好きになっちゃったら、私捨てられちゃうのよ? 」
「……人聞きの悪いことを言うんじゃない」
恭也が憮然と答えるが、アリサは構わず続ける。
「きっと恭也さんは私の身体を弄んだ挙句、若くてピチピチ、スタイル抜群なフェイトの元へと駆け寄るんだわ。
ううぅ、恭也さんはロリコンだけど胸は大きい方がいいのね……よよよ」
わざとらしく泣き崩れるアリサ。
「だから誤解を招く発言はやめろ……というか、お前はフェイトさんと同い年だろう」
「気持ちの問題です」
どんな気持ちだ、と突っ込むのを堪えた。
「まぁそんなわけだから別にしゃしゃり出たなんて思わなくて良いわ。
フェイトだって言ってたじゃない。
『時間なんて関係ない』って。
先に好きになった方が勝ちだなんて決まりがあるわけじゃないしね」
「アリサ……」
「だからこれからは一月はお互い何の遠慮もなく、正真正銘真剣勝負。
優柔不断節操ナシのロリコン男性を落とすには実力行使あるのみよ!」
ビシィッ!!と指を突き付けるアリサ。
「……うん、そうだね。負けないよ」
そんなアリサにフェイトは微笑み、恭也は拗ねているが真実であるが故に何も言い返せないでいた。
「―――でまぁ、一月後に結論を出すわけだが」
話が一段落したところで恭也が口を開いた。
「「?」」
「今朝方、家にいたフェイトさんは知ってると思うが、
これから一ヶ月間、俺は二人専用のデリバリーを行う事になった」
「デリバリー?」
「えっとね、実は今朝――――」
何の事かはわからないアリサは首を傾げるが、桃子の言っていた事にようやく合点のいったフェイトは
アリサに説明をしてあげることにした。
「――――なるほどね。
さっすが桃子さん。何から何までお見通しってワケか」
「…そのようだな」
恐らくこの展開を見越したであろう、母の気遣いに今更ながら感謝する恭也。
「うーん、でも料理って圧倒的に不利な立場だわ。
私はてんでダメだし」
自分の腕前を熟知しているアリサは困惑顔だ。
「…別に料理に拘る必要はないんだよアリサ。
要は恭也さんと一緒にいる時間を増やしてあげようっていう桃子さんからのチャンスなんだから」
「あ、そーゆーことなんだ?」
「うん。二人に時間をあげるからその間に恭也さんを射止めてってことみたいだね」
「ふんふん。なるほど」
少女二人が楽しく会話をしているのは微笑ましいのだが、内容が内容だけに恭也はあまり口を挟めない。
「そういうことなら遠慮はいらないわね。
じゃ、恭也さん。明日は早速私の家に……」
そう言ってアリサは恭也の腕を取る。
「ちょ、ダメだよアリサ。
恭也さんには最初はウチに来てもらうんだから……」
アリサの行動に自分もと、同じく腕を取るフェイト。
「何言ってるのフェイト。
ここは先駆者である私が先に決まってるじゃない」
「アリサこそ、対等なスタートなら遅れを取ってる私に譲るべきじゃ…」
二人の少女が両側から自分の腕を引っ張っている。
大人びて見えても、言い争っている今ばかりは二人も歳相応だ。
「…ふん。だったら恭也さんに決めてもらおうじゃない。
それなら文句ないでしょ?
まぁ結果はわかってるけどね」
「……いいよ。恭也さんは私を選んでくれるはずだし」
「…………」
「…………」
「…………」
「…………」
「「……フフフ」」
いつの間にやら微笑ましい争いは、血で血を洗うようなドロドロの争いになっていた。
「「さぁ恭也さん。明日はどちらの家に行きたいですか?」」
まるで告白の答えを聞かれているかのような迫力で迫る少女×2。
さすがの恭也もたじろいでいる。
「……とりあえず二人とも腕を離してくれ」
答えが出ないこともあるが、両腕から感じる感触が正常な思考を妨げそうなので二人を引き離そうとする恭也。
「「ダメです」」
しかし少女達は己を貫くために、ここは譲れない状況らしい。
「いや、頼むから離してくれ」
このままだと色々とヤバイ、と言いたいがさすがに口には出せない。
「む〜。恭也さんは腕を抱かれるのがそんなにイヤなんですか?
私達のことを好きって言ってくれた割にそれはヒドイですよ」
「…そうですよ。お互い好き合ってるならこれくらいのスキンシップは……」
少女達は問題ないようだが、ロリコン男性に今の状況はかなり厳しいようで結局口にしてしまう。
「……その、スキンシップは嬉しいんだが……
さっきから腕に……柔らかいのが押し当てられて、な………」
「あ」
「え?」
恭也の言葉に赤くなる二人。
フェイトは慌てて手を離したが、アリサは未だ腕を抱きしめたままだ。
「恭也さんは私達が真剣に悩んでるときに、そんな破廉恥な事を考えていたんですね。
ううぅぅ…アリサは悲しいですわ」
自分をアリサと言う辺り、どこから見てもからかっているのだが
嘘泣きとは言え涙を流されている上、自分がそういう考えをしてしまったのは事実なので何も言い返せない。
「わ、悪かった」
「ホントに思ってますぅ〜?
『胸の感触が味わえてラッキー♪』なんて微塵も思ってません?」
「…………………………」
返事が無い。ただの屍……ではなく、図星のようだ。
「………どうやら恭也さんにはお仕置きが必要みたいですね」
そう言って腕を抱く力を強める。
「お、おい」
「ダメですよ。お仕置きなんですからちゃんと受けて下さい」
胸を腕に擦り付けるようにアリサは身体を動かす。
「えへへ〜♪
どうですか恭也さん?ちょっと興奮しちゃいました?」
更に今度は身体全体を密着させてきた。
「ちょ……ま、待てアリサ」
「何ですか〜?」
恭也の質問に答えながらもスリスリと身体を寄せるアリサに、フェイトは慌てて止めに入った。
「ア、アアアリサ。な、なな何してるの?」
「ん?何って………お仕置き?」
「な、何で疑問系なのっ?
きょ、恭也さんだって困ってるから止めなきゃ……」
「そう?だって恭也さん困った顔してないよ?むしろ喜んでるし。
全くお仕置きで喜ぶなんて、恭也さんって実はヘンタイさんですか?」
アリサは非難しながらも顔は笑っている。
確かに恭也はやめろと言いながらも、満更ではなさそうな顔だ。
「きょ、恭也さんも何喜んでるんですかっ!?」
逆にフェイトはちょっと拗ねている。
「ま、待て。別に俺は喜んでなんか……」
「ホントですかぁ〜〜?」
疑惑の視線を投げるアリサはトンデモナイ行動に出た。
「……わ、すごい。こんなに大っき『ア、アリサ!何してる!?』」
口では言えないような所を触られた恭也は、思わず大声を張り上げる。
「何って……確認ですよ。嘘吐きな子は身体に聞かないと。
こんなにしておいて喜んでないなんてことはないでしょ〜?」
「ま、待て、これは違………痛っ!?」
右腕が至福の時を味わっている所に、左腕が悲鳴を上げた。
「………………」
左側では、ぎりり、とフェイトが拗ねた顔をして恭也の左腕を抓っている。
「あ、あの…フェイトさん?い、痛いんですけど………?」
恐る恐る声を掛けるが返答はない。
「………………」
「え……と、ど、どうして抓ってるんでしょうか……?」
痛みがかなり増してきたので、ここらで止めて貰わないと困ると本気で思う恭也。
「恭也さんがえっちだからです……」
あまり言われたくないことを言われてしまいちょっと泣きたくなる恭也だが、
更に自体は悪化(良化?)する。
「この際……えっちなのはいいとします。
だけどそのままじゃ満足できそうにないですから………私が協力してあげますね」
するとフェイトは自分も恭也の腕に胸を押し付けだしたが
もう一人の少女は今の言動を聞き逃しはしなかった。
「……フェイト〜〜?今のってどういう意味〜〜?
よければお姉さんに教えてくれないかなぁ〜〜?」
笑顔で詰め寄るアリサ。
ちなみに彼女がお姉さんと言っているのは単純に誕生日の差である。
「……言った通りだよ。
えっちな恭也さんは、アリサ程度の身体じゃ満足出来ないみたいだし……」
そうして身体全体で左腕を抱くようにフェイトが身体を擦り付けると
アリサとは一味違う感触が恭也を襲う。
「(こ、これは確かに……フェイトさん、この齢にしてこのスタイル…
昨日高町母が言っていたことは間違いではなかった………
制服姿ではそうでもないのに…着やせするタイプだったのか。
最近は魔法服姿を見ていないが、あの姿ならば身体つきがハッキリとわかるだろう………って違う!こんなこと考えてる場合じゃない!)」
恭也もかなりテンパってるが、なんとか最後の一線だけは踏み止まっている。
「……ほら。恭也さん、さっきよりも嬉しそう…。
やっぱりアリサじゃ恭也さんを満足させて上げられないみたいだね」
恭也を喜ばせ(悦ばせ?)られたのが嬉しいのか、ニコニコしながら腕にしなだれかかるフェイト。
しかし当然ライバルはこれで引き下がるようなタマではなかった。
「な、何言ってんのよ!?
そんな胸の大きさなんて関係ないわっ!………………………………………多分。
ていうか、恭也さんもデレデレしないで下さいっ!」
「ま、待て。別にデレデレなんてしてないだろう」
無駄とは思いつつも、一応抵抗を試みるロリコン男性。
どうでもいいがさっきから『ま、待て〜』しか言っていない。
そんなに後ろめたいのだろうか。
「ううぅ〜。恭也さんがこんなに色仕掛けに弱かったなんて〜」
恭也の男らしいイメージ像が若干崩れたアリサは完全に拗ねている。
やり始めたのは自分だが、こうまで簡単に絆される姿を見てしまうとちょっと幻滅だ。
「違うよ、アリサ……。恭也さんが身体だけが目当ての男なわけないじゃない。
そんな不特定多数の女の人に簡単に靡いたりしないよ…」
「そ、そっか。う、うんっ、そうよねっ!」
フェイトの言葉にそんなはずはない、と持ち直したアリサだが、次の一言に固まってしまう。
「うん……。恭也さんは色仕掛けに弱いんじゃなくて、『私の色仕掛け』に弱いの。
やっぱり愛と身体、両方あるとさすがの恭也さんもメロメロだね。
…愛しかないアリサにはちょっと無理だろうけど」
ピシッ
ツインテールの少女は、気分が高まってきたのか今度は恭也の首筋に顔を擦り付けている。
とゆーか『アンタ、誰だよ』というくらいに完全に別人だ。
「ちょ、ま、待って下さいっ……お願いですから離れて……っ!」
「……どうしてですか?」
目を潤ませて見つめるフェイト。
その表情に決心が鈍りそうな優柔不断剣士。
「どうしてって………!!??」
瞬間、反対側からもの凄い殺気を感じた恭也は、今までの気分が吹き飛ぶくらいの寒気に襲われた。
「ふ、ふふふ……うふふふふふふふふふふふ。
フェイト………どうやらアンタとは白黒ハッキリつける必要があるようね……」
恭也の愛刀・八景を奪い取り抜刀しているアリサ。
「なっ!?い、いつの間に……」
気付かない内に武装を奪われていた御神流師範代はかなりショックを受けている。
一方金髪の少女を見ると、こちらもいつの間にか服装が戦闘用に変わっていた。
「……そうだね。これもある意味『正々堂々とした闘い』には違いないだろうし。
ここで決着を着けようか……」
全くもって正々堂々ではない、と二人を止めたい恭也だが、
今まで感じた事の無いほどのあまりのプレッシャーに動けない。
「(くっ……!こ、これが恐怖というやつか……。足がすくんで動けないとは不覚……)」
初めて感じる恐怖。
こんなに恐ろしいものとは夢にも思わなかった。
「(しかしそれにしても――――やはりフェイトさんはスタイルがいいようだ。
魔法服だとその辺りがハッキリとわかる………って、だからそれはもういい!)」
先程妄想したフェイトの魔法服姿について、セルフツッコミをかます恭也。
実際に見てみるとやはり違いがわかる。
しかし、そんな妄想をしている間に目の前の少女たちはジリジリと詰め寄り、既に一触即発だ。
誇張でも何でもなく、このままでは死者が安らかに眠るハズのこの場所が焦土と化してしまう。
何とかしなければならない。
「(この状況を止められるのが俺しかいないのは事実。
ならば……ここは命に代えても止めなくてはいけないっ!
恐怖がなんだ!御神の剣士は何かを護る時に一番強くなるっ!!)」
なにもこんなしょうもない状況で恐怖を克服しなくてもいいじゃないかと思うが、
とにかく優柔不断剣士はなんとか恐怖の呪縛を断ち切り、二人を止めに入った。
「ふ、二人とも落ち着けっ!!」
普段あまり大声を出さない恭也の声に、たちまち我に返る少女二人。
とりあえずほっとした恭也だが、アレが二人の本性かもしれないと思うとちょっと冷や汗が出てきた。
「……頼むからケンカだけはやめてくれ……」
恭也が心底疲れたような口調なので、さすがの二人も申し訳ないと思ったようだ。
「「ご、ごめんなさい」」
シュン、となる少女達。
その歳相応の仕草が可愛らしく見えたのか、恭也は顔を赤くしつつも目を逸らしながら言った。
「…その、確かに決め切れなかった俺も悪いが………何も本気で闘り合わなくてもいいだろう。
二人は友達同士なんだし」
「「………………」」
「かと言って、このままでは決まりそうもないし……
そこでだ、俺からひとつ提案なんだが―――」
「「?」」
「ひとまず明日は『二人のデリバリー』を受けるということでどうだ?
そこで今後のことを詳しく決めよう」
恭也の無難な案に二人は頷くしかなかった。
確かにこのまま話し合っていても結論は出ないだろう。
「それで、だ。フェイトさん」
「?」
「明日のデリバリー先は、フェイトさんのお宅にしたいんですが……大丈夫ですか?」
「あ、はい。大丈夫です」
突然自分の家を指定されて驚いたフェイトだが、徐々に嬉しそうな顔になってくる。
逆にアリサは無条件でフェイトの家に決めた恭也をちょっと睨んでいた。
「………そんな顔をするな、アリサ。
何も二人の順序を無視して決めたわけではない。
アリサには会わせたい人がいるんだ」
「会わせたい人?」
「ああ。俺とフェイトさんが今の状況に至れるようになったのはその人達のお陰だ。
フェイトさんから少しは話を聞いてるんじゃないのか?」
んー、と考えるアリサ。
やがて――――
「あ、ひょっとして…みきちゃんっていう娘?」
ポン、と左掌を右の拳で叩いて思い出したように言う。
「そうだ。正確に言うなら、みきちゃんと母親の二人だ。
明日は土曜日だし二人とも特に用事がなければ自宅にいらっしゃるだろう。
……申し訳ないですがフェイトさん、後で明日のお二人のご予定を伺っておいて頂けませんか?」
「わかりました。
………それで、確認が取れたら高町さんのお宅へ連絡したらいいんでしょうか?」
「そうですね、それでおねが……いや、さすがに明日だけは3人で話し合いたいので携帯の方にお願いします」
余計な邪魔が入る事を懸念した恭也は携帯への連絡を希望した。
「携帯って……恭也さんのですか?」
「ええ」
そう言って番号を教える恭也。
思わぬ所で恭也の番号を知る事が出来たフェイトは嬉しそうだ。
ちなみに意外にもアリサは恭也の番号を知らない。
というのも、恭也が携帯やメールというものを好まないからだ。
仕事上仕方なく使うときもあるが、基本的に彼は直接面と向かって話す方が落ち着くらしい。
「はい………それじゃ、こっちが私ので…………はい、OKです」
「……登録は……これか。それじゃフェイトさん、よろしくお願いします」
しかしこんな場面を見せられてしまっては、例えフェイトがその番号を使わないとしても
『好きな男性の携帯番号知っている』というのは恋する乙女達には重要事項だ。
今すぐ自分も教えてもらいたい―――――だけど今更、という気持ちが湧いて躊躇っているアリサに恭也から意外な言葉が掛けられた。
「………それで、アリサ。ひとつお願いがあるんだが」
「……え?お願い、ですか?」
「ああ……よければお前の携帯の番号と……メールアドレス、だったか。……教えてもらえないか?」
「……………」
「……………」
「…………はっ?」
恭也の言ったことがイマイチ理解できずにいたアリサは思わず聞き返す。
「む。イヤならいいんだが……お前と連絡が取れるように番号を知っておきたいと思ってな…」
「……………」
「……………」
「…………ええぇっ!?」
「………そんなにイヤか?」
恭也はちょっと寂しそうな目をしている。
「え、い、いや!イヤなんてわけじゃなくて!
ど、どうしたんですか!?恭也さん、こういうの嫌いだったハズですよね!?」
「……ふむ、確かにな。
しかし今でもあまり好きではないことに変わりはない。
人の顔を見ずに用件を伝えるというのが俺の性には合ってないと思っていたし」
「それなのに………どうしたんですか?
そりゃ私は恭也さんの番号を教えてもらえるんで嬉しいんですけど……」
「以前――――」
「え?」
「以前、なのはがな。
『将来の恋人のために携帯の0番は空けておくように』と言って、俺の携帯の電話帳を編集したことがあるんだ。
そのときは例え恋人が出来たとしても、俺は携帯なんか使わないと思っていた」
「「……………………………」」
「だけど―――本当に好きな人が出来て、二人のことを考えていたら
そのときなのはが言っていた意味がようやくわかった。
大切な人からの一本の電話、好きな人からの一通のメール。
そのやり取りを想像しただけで、俺は満たされた気持ちになってしまったんだ。
想像しただけでこれなんだから、きっと実際にするともっと嬉しくなれるんだろう。
今なら……恋人を携帯の0番に登録したいという気持ちがわかる」
「だから今、俺は二人の連絡先を知って、
会えない場所にいても、暇があれば電話で他愛ない話をしたり、
嬉しいことや悲しいこと、ちょっとしたことでメールをしてみたり…、
そんなことをしてみたいと思うんだ。
こんな風に思う自分に少し驚いていたりもするが………悪くないとも思ってる」
「なので二人の連絡先を………よければ教えてくれないか?
俺は機械音痴だからメールとかはすぐには返せないだろうし、気の利いた文章も打てないかも知れない。
でも、『好きな人』のことは何でも知りたいと思っているんだ」
「「……………………………」」
気が付けば少女達は涙を流していた。
携帯を……いや、携帯に限った話ではない。
あの朴念仁と言われる恭也が、例え自分の苦手な分野を用いてでも
自分達のことを知りたいという想いを語ってくれたことに。
それほどまでに自分達を愛してくれているということに。
「は……い…」
「…私こそ…喜んで……」
「そうか………ありがとう」
泣き続ける二人を恭也は優しく包んだ―――――
第7話をお届けしました、幸のない物書き さっちんです。
火妬美「アンタの頭の中が桃色一色なのは前々回でわかったからいいとして……」
いやよくないだろ、それ。
火妬美「それよりもアリサの設定が色々混じってる気がするんだけど気のせい?」
ん?気のせいじゃないぞ。エッヘン。
火妬美「威張るな!」メキメキメキッ!
い、痛たたたっ痛いっ!あ、アイアンクローはやめて!あぁあぁぁあぁ!割れるっ割れるっ!
火妬美「で、実際の設定はどうなってんの?」
…基本はアニメリリカルなんだが両親は既に他界。
頭が良いってのも一緒だけど、本編と違って天才ではなく秀才って感じ。
あと誕生日はわからなかったのでフェイトより早いってことにしてる。
火妬美「ふーん。それにしても途中はともかくなんか最後ら辺がイマイチね」
うっ。
火妬美「なーんか、強引に締め括ったって感じがありありと取れるわ」
うぅっ。
火妬美「てゆーか、普通に考えてアリサが何年も恭也の携帯番号を知らないわけないんじゃないの?」
うぐぅ。
火妬美「同じネタを引っ張るのは辞めなさい。その上可愛くないし。
………で、これからどーなるの?」
とりあえずあと1,2話は3人でイチャつく予定。
その後は……
火妬美「その後は?」
ひ・み・つ♪
火妬美「死になさい」ズビシッ!
ひぎぃっ!!?
ちょ……ちょっとしたお茶目心なのに………ガクッ
火妬美「それじゃ、また次回〜♪」
※誤字脱字、設定ミス等ありましたらご連絡頂けると幸いです。
何とか、期限を決めたみたいだな。
美姫 「よね」
後は、恭也が答えを出すのみ。
美姫 「一体、どんな答えを導きだすのかしら」
次回以降も気になる。
美姫 「次回も楽しみにしてますね〜」
待っています。