※このお話はPCゲーム「とらいあんぐるハート3」とTVアニメ「魔法少女リリカルなのは」の融合作品です。
 しかし基盤となるのは「とらいあんぐるハート3」なので、士郎は死んでますし、恭也はALLエンド&フリーです。
 「魔法少女リリカルなのは」はキャラ追加のみを目的としたと捉えてください。







――――誰か……いや、何かが語りかけてくる。

『邪魔ではないのか?』

………誰?

『自分ではない誰かが……あの者の傍に居るのは許せないのだろう?』

あの者…?

『その為の力を欲するか?』

ちから……?

『そうだ。そなたはあの者のすべてを手にしたいのだろう?』

そうだ……私はあの人と共に在りたいと願っている。

――――例え、何かを失うとしても。

『…それを可能にする力、そなたは欲しくないか?』

私……は…

『欲するならば我が名を呼ぶがよい。我は常にそなたと共にある』

待って…あなたは……






『 Dreieck Herz -Lyrical- 』 ACT.06






―――翌朝。

いつも通りの時間に起きたフェイトはアルフへと話し掛ける。

「……おはよう、アルフ」

「あぁ、おはようフェイト。昨日は遅かったんだね。
 どうだい?『アルバイト』は決まったかい?」

と、少しニヤケ顔で聞くアルフはフェイトの顔付きが昨日までと少し違うことに違和感を覚えたが、気のせいと流した。
一方のフェイトは、目の前のアルフの顔を見て昨日のことを思い出す。

「…アルフ。わかってたんだね…?」

「ん?何をだい?」

ますますニヤニヤしながら聞くアルフ。

「………………」

「おや?フェイトは恭也と一緒に働けるのが嬉しくないのかい?」

昨日の事情を話してもいないのに既に翠屋でアルバイトが決定したとわかっている。
ちなみに昨日は時間が遅かったため、恭也に送ってもらった時アルフはもう寝ていた。

「………それは……嬉しいけど」

「だったらいいじゃないのさ」

「…………」

昨日のようにむっ、とするフェイト。
確かに恭也と一緒の職場になったのは嬉しいし、気持ちの再確認も出来たため良い事尽くめなのだが
アルフの思惑通りになってしまったようでなんとなく悔しいようだ。

「ほら、拗ねない拗ねない。
 楽しみがひとつ増えたんだからいいとしようよ」

「………」

渋々頷く。

「……ところで今日はどうしたんだい?
 いつもならまだ着替えないでゴロゴロしてるのに」

そういうアルフの前には既に制服に着替えて後は家を出るだけ、といった外見のフェイトがいる。

「あ、それなんだけど………アルフ。出掛けるから準備して」

「え?出掛けるって…学校は?」

「これからしばらく……学校の前にちょっと寄る所が出来たから……」

「???」










――――AM 6:55

フェイトとアルフの2人は高町家前に立っていた。
アルフは何やらご機嫌だ。

「う〜ん、フェイトもやるねぇ〜。
 まさかお目当ての人の家で食事の約束まで取り付けるなんて。
それも毎日♪」

「……だからそれは偶然そうなっただけで……」

「いや、普通は偶然でもそんなことにはならないと思うけど。
 まぁ桃子の性格を考えたら普通かもね。
 それより………フェイト?」

「……?」

「昨日………学校で何かあったのかい?」

「??」

何のことかわからないフェイトは首を傾げる。

「昨日は見たフェイトは朝が最後だけど……今朝、フェイトの顔付きが何か違うように見えたからさ……」

フェイトは、ああ、とどこか納得したように言う。

「……そうだね。昨日はホントに色々あったよ。
 ちょっとしたトラブルに巻き込まれたし、犯罪紛いのことまでしちゃったし」

苦笑するフェイト。
アルフはフェイトが犯罪に手を染めてしまったのかと、気が気でない。


「だけどそのお陰で大切な―――とても大切なことがわかったんだ」


そう言ったフェイトの顔は何処から見てもひとりの女だった。

「昨日あったこと、昨日決心した事。
 もちろんアルフにも話すけれど―――――」

「誰よりも最初に聞いてもらわなくちゃいけない人がいるんだ。
 だから…少し待っててくれるかな?」

そんなフェイトを見て何故か顔を赤くするアルフ。

「そ、そうなんだ。
 う、うん!モチロン待ってるさ!
フェイトに何があったかわからないけど……アタシはフェイトの味方だからね」

「ありがとう………アルフ」

そうして二人は高町家の門をくぐった。











―――ピンポーン。

「は〜い、どちらさんですか〜?」

はやてと同じ関西イントネーションで出迎える、緑のロングヘアーをした女の子。

「あ、おはようございます。レンさん」

「おはよう、レン」

「おお、フェイトちゃんにアルフさん。おはようさん。
 桃子ちゃんから話は聞いてるで〜。
さ、早よう上がってや」

「はい、お邪魔します」

「ほいほ〜い」

そういって食卓へ向かう3人。
そこには朝から香ばしい匂いをさせている調理人の姿があった。

「こら、カメ!
 さっさとこっちを持っていきやがれ!!
俺は手が離せねぇんだよっ!」

「やかましい!
 客の出迎えもせん奴に言われとうないわ!」

「っせぇー!
 揚げモンは引き上げるタイミングが命なんだ!
そんなのはおめぇがやってろ!」

「そんなもんやて!?
 おのれはフェイトちゃんの出迎えをそんなもん扱いか!?」

高町家恒例となった朝のやり取り。
フェイトとアルフは『相変わらずだ』という顔をして二人を眺めている。

「決まってんだろ!フェイトの出迎えなん……え?フェイトの出迎え?」

そう言ってこちらを向く青髪の女性。

「あ、あれ?フェイトが来るのって明日からじゃなかったのか?」

「このおさる!
 桃子ちゃんが昨日『明日から来る』って言うたやんか!」

ヒートアップしていく二人。
とは言ってもいつも通り、晶が劣勢ではあるのだが。

「バ、バカヤロー!
 『明日から』って、それを聞いたのは0時過ぎだぞ!
それで『明日』っていったら、今日じゃなくて明日だろ!?」

このセミロングをした青髪の女性の名前は『城島 晶』。
高町家の居候のような存在である。
元々は両親が不仲であるために、ちょくちょく高町家に出入りしていたのだが
晶自身、高町家の人達を好きであるし、高町家の人達も晶を家族のように思っているため
両親の問題が解決した今でも、こうして彼女は以前のように高町家の料理当番として頑張っている。
以前は正に男勝りといった感じで、自分が女であることを不満に思っていた時期もあったようだが
大学一年生となった今では落ち着いて女性らしさも出てきている。
最も言葉遣いはまだ直っていないが。

「おどれは大学の一般教養で何を習っとるねん!
 常識で考えたらわかるやろが!」

先程フェイトたちを出迎えた緑髪の女性は『鳳 蓮飛(ふぉう れんふぇい)』。通称レン。
桃子の知人である小梅の子であるが、事情があって高町家が預かっている。
レンは元々心臓を患っていたため身体が弱く、武道に関して天賦の才を持っていたが長時間の運動を禁止されていた。
手術するにもあと一歩の勇気が持てなかったためなかなか治せなかったが
ある事件をきっかけに手術を決心、今では健康そのものである。


さてこの二人、先程から見てもわかるように犬猿の仲。
本当は………本当の本当は仲良しなのだが、互いの性格ゆえに顔を合わせれば常にケンカという、
『ケンカするほど仲が良い』を体現する組み合わせである。
この二人が高町家の料理当番であると、料理がまともに出てこないことが懸念されそうだが
なぜかケンカして台所がどんなに荒れたとしても、料理だけはキッチリ出てくるのが高町家の人達には未だ謎な部分である。

「ふっ。大学の一般教養でそんなもん習うワケねーだろ…
 カメさんは身体だけじゃなく頭の方まで発育不十分なんじゃありませんの?」

「…ほっほー。
 大学で学ぶ必要も無いくらい常識的なことを知らないおさるさんのくせに
人間様に口出しする度胸はおありのようですわね?」

気がつけば二人の口論は一触即発な状況にまでなっていた。
普段は使いもしない、お嬢様言葉まで使っている。

「「ふふ……」

「「ふふふふふふふ……」」

二人の目がイっちゃってきた。

「…先月、半年振りに更新した跳躍記録を更に伸ばしたいようやな……?」

「…おめぇこそ、今度は外の鯉のぼりくらいまで浮かんでみるか………?」


「「……………」」


空気が張り詰めてきた。
二人とも動かない。いや動けない。
ジリジリと間合いを詰める両者。
そして開始を告げる7:00の時報がなる―――







プー「せやあぁぁぁぁぁーーー!!」「でぇやあぁぁぁぁーーー!!」ーン

「ぶっ飛べ!絶招!浮雲脚!!」

「突き破れ!真!吼破!!」

そこに、

「やーめーなーさーいーーーーー!!」

サイドポニーの少女、なのはが現れたことにより二人は踏み止まった。

「「うっ!な、なのちゃん……」」

「全くもう、二人とも大人なんですからいい加減にして下さい!
 花も恥らう女子高生と大人の仲間入りをした女子大生が、朝っぱらから何を騒いでいるんですか!」

「「そんなこと言ってもこの(おさる)(カメ)が……」」

互いに罪を擦り付け合う二人。

「晶ちゃん!レンちゃん!」

「「は、はいっ!」」

「……今日、帰ったらお二人にお話があります」

「い、いや、なのちゃん?」

「そ、そうそう…これはいわゆるスキンシップっちゅーやつで……」



「問答無用です」



なのはの言葉にがっくりとうな垂れる二人だった。











「あ、あの晶さん、お邪魔してます……」

「相変わらずだねー晶」

晶がガックリ落ち込んでいるのを見て、話題を変えようとフェイトとアルフが話しかけた。

「あ、ああ、フェイトにアルフさん、おはよう……それといらっしゃい。
 ゴメンな。カメなんかに出迎えに行かせて」

「い、いえ」

「そうそう、フェイトちゃんは綺麗な女性に出迎えられたかったからなー。
 おさるはお呼びじゃあらへん」

そう言ってフェイトを抱きしめるレン。
なお、高町家から見れば妹的な存在で、自分たちより下の子がいない彼女達は
自分たちを姉のように慕ってくれるフェイトを大変気に入っていた。
(なのはには頭が上がらないため、二人が望んでいる純粋な『妹』とは少し違う)
そんなフェイトを可愛がってあげたいと、二人の得意分野である料理を教える事になったのは当然の流れかもしれない。

「なんだと!?」

「なんや!?」

「ふたりとも!!」

またケンカしそうな二人をなのはが止める。
二人は「「はい……」」と大人しくなった。






「でさ」

切り出したのはアルフ。

「アタシはさっき聞いたばかりなんだけど……今日からこっちでご飯をご馳走になっていいってホント?」

「ええ、構わないですよ。
 元々俺らが了解することじゃないですし」

「せやせや。桃子ちゃんがええって言ってるからもーまんたいですー」

「そう。二人ともありがと。
 それじゃ遠慮なく頂く事にするよ。
フェイトには昨日大丈夫って言ったけど、やっぱりお腹は空くからねー」

目の前の料理に眼を輝かせるアルフと

「……しばらくお世話になります」

とりあえず昨日はお腹一杯食べたので、今朝はそれほど空腹感のないフェイト。
二人が挨拶をしていると、早朝鍛錬の汗を流していた御神流剣士たちが食卓に姿を現した。

「あ、フェイトいらっしゃーい。アルフも」

「……おはようございます。フェイトさん、アルフさん」

「美由希さんに恭也さん……おはようございます」

「やっ」

「(―――フェイトさん………昨日も思ったが、やはり今までとどこか雰囲気が違う――)」

昨日、翠屋で追加注文をしたときのことを思い出す恭也。

「…………??」

恭也に見られてる気がするが、その恭也は自分と目が合っても気が付いていないことにフェイトは首を傾げる。

「(なんというか―――アリサと同じような……………まさか。そんなバカなことがあるか)」

「「「「「………………???」」」」」

美由希、アルフ、晶、レン、なのはも同じように恭也を見るが、当の恭也は今だ思考の海だ。

「(確かにアリサは俺を好きだと言ってくれたが、フェイトさんまで言ってくれたわけではない。
  そもそも好意を持たれてるかどうかすら怪しい。変な期待はするんじゃない、高町恭也―――)」

「恭ちゃん…………さっきからフェイトを見てどうしたの?」

「っ!? いや……なんでもない」

「……はっ!?まさか恭ちゃん、朝っぱらからロリコン騒動はイケないよ!
 昨日ダメだってあれほど言ってぷぎゃっ!?」

「……お前も懲りない、いやしつこい奴だな」

とりあえず余計な情報を漏らしかねない弟子を一撃で沈黙させた。
制裁を加えた恭也の拳には赤いものが付着している。

「「「………ロリコン???」」」

しかし不幸なことに、この場の事情を知らない3人には食いつかれるハメとなった。








――10分後

「あはははははっ」

昨日のロリコン騒動の一端を聞いたアルフは大笑いしている。
逆に晶とレンは

「「(お)師匠っ!!なんで今まで(ウチ)(俺)じゃダメだったんですか!!?」」

ともの凄い形相で恭也に問い詰めた。
さすがの恭也ビビっている。

「……落ち着け二人とも。とりあえずその前提となってるロリコンを何とかしろ」

「「だって(お)師匠はアリサ(ちゃん)が好きなんですよね!?」」

「ま、待て。それはあくまで話をしたときの例えだろう」

「じゃあフェイト(ちゃん)の方が!?」

「何故そうなる……というか、どうしてフェイトさんが出てくる」

昨日秋子に語った内容まで見透かされてる気がして、恭也は内心ヒヤヒヤしている。
片や、アルフは特に気にした様子もないフェイトを少し疑問に思ったのでテレパシーで聞いてみた。

「(――フェイト、どうしたんだい?)」

「(……?どうしたって………なにが?)」

「(いつものフェイトなら……今みたいな話のとき、ちょっと落ち込んだりしてたと思うんだけど…
  今日は特に気にした様子じゃなかったからさ…)」

「(……………)」

「(もしかして……恭也のことはもう諦めたのかい?)」

「(ふふ。違うよアルフ。恭也さんのことは今まで通り…ううん、今まで以上に『好き』だよ)」

「(フェイト?)」

今までテレパシーと言えど、フェイトから直接『好き』という言葉を聞いたことのなかったアルフは驚いた。

「(それは……出来ることなら私を好きになって欲しいけど、大切なのは自分の気持ち……
  昨日はそれを教えてもらったんだ……)」

「(………フェイト)」

「(ふふっ。とりあえずこの話はここまでね。これ以上はまだ秘密♪)」

呆然としているアルフ。
逆に並大抵のことでは動じなくなったフェイトだが………

「「だって(お)師匠はアリサ(ちゃん)に告白されて、まだ返事してないじゃないですかっ!
  それって迷ってるってことですよね!?」」

この発言には驚愕してしまった。





「(―――――え?)」

アリサが…………恭也さんに告白……してる?






「そ――――」

それは一体、と聞こうとしたところに

「たっだいま〜。あーお腹空いちゃった。
 あら?もうフェイトちゃん来てるのね〜〜♪」

と、朝の仕込みを終えた桃子が帰ってきたため、この話題はここで打ち切られてしまった―――

















「「「「「「「「ごちそうさまでした」」」」」」」」


朝食が終わった。
以前も食べたことがあるので腕前の方はわかっていたが、今日食べたのも大変美味しくアルフは満足そうに言った。

「あ〜、美味しかったよ、晶」

「へへっ、ありがとうございます」

晶は嬉しそうだ。

「フェイトも最近腕を上げてきてるけど……やっぱりまだまだ師匠たちには敵わないみたいだねー」

「そうですよ。フェイトちゃんもかなり上手くなってきてるけど、ウチ等もそう簡単に負けるわけにはいかへんから」

「ははは。フェイトも先は険しそうだねー」

「うん……頑張る」

「そうそう、その意気。
 新しいお料理を作ったら桃子さんに言いなさい〜
翠屋試食係をデリバリーさせるから♪」

そう言って恭也を見る桃子。

「………それはもしかしなくても俺のことか?」

「そうよ♪」

「ウチはそんなサービスやってないぞ…」

「当たり前よ。これは試験運用な上に、アリサちゃんとフェイトちゃん専用なんだから。
 あ、フェイトちゃん。デリバリーにお代はいらないから遠慮しないのよ〜」

「「「「「「「え゛??」」」」」」」

信じられない言葉を聞いた、といった感じの面々。
それはデリバリーや試験運用といった点に対して言ってるわけではない。

『アリサちゃんとフェイトちゃん専用』という所に言っているのだ。
それもなぜアリサとフェイトだけ!?という女性の嫉妬ではない。
『アリサが作った料理』を試食することになる恭也を憐れんでいるのだ。



そう、アリサは壊滅的に料理がヘタなのである―――――









「え、えぇっ!?か、かーさん、正気!?」

一番失礼と思われる人物、美由希が驚きを隠せずに叫ぶ。
実は美由希の料理も壊滅的で、今まで高町家ワースト1を誇っていたが
数年前に美由希を超える期待の新星(アリサ)が現れたため、現在は2位にランクインしている。
ただ、アリサの場合は自分の料理がヘタなことを知っているためまだ救いがあるのだが
この美由希は自分の料理が上手いと誤認識しているため非常にタチが悪い。

「も、桃子ちゃん。さすがにそれはマズイんやなかろうか…?」

「そ、そうですよ、桃子さん!いくら師匠といえど、そればっかりは……」

レンと晶が珍しく意見を一致させる。
それほどアリサの料理は危険なのだ。

「い、いや、桃子が言うんだから…ひょっとしてアリサの腕が上がってる、もしくは上がってきてるんじゃないのかい?
 そういえばなのは、この間調理実習があったんだよね?そ、そのときはどうだった?」

使い魔ですらビビっている。

「えっと……私とすずかちゃんは調理担当じゃなかったんだ。野菜を切ったり盛り付けたりで。
 フェイトちゃんとアリサちゃんは調理担当だったよね。…………どう、だったの?」

5人は一斉にフェイトを見る。

「…………」


「「「「「(ゴクリ)」」」」」




美由希、晶、レン、アルフ、なのはが息を呑む中、フェイトは口を開いた。

「最初は―――」

「「「「「最初は?」」」」」

「……問題ありませんでした。
 オムレツの卵をフライパンで焼くだけだったし」

「人数分の卵を焼くところまでは……私も一緒に見てたんです。
 これなら心配ないだろうとも思いました」

若干、ホッとする5名。しかし

「けど――――」

「「「「「……………け、けど?」」」」」

「次に見た瞬間、焼き上がったハズの卵がいつの間にか円形から四角形に変わっているように見えたんです」

「「「「「……………」」」」」

「さすがにそんなことはないだろうと思ってたんですけど………ずっと見てるうちにやっぱり変形してるんじゃないかと……」

「でも見た目はそんなに問題ないし、香りもよかったので………見てないフリをして先に進みました」

「「「「「………(汗」」」」」

「そうして具が出来上がったので、ひとつひとつ卵に包んでいたら……」

「気のせいか……最初に包んだオムレツが一回り小さくなってる気がするんです」

「少なかったかな?と思ってもう一度具を入れようと、卵をめくったら………」

「「「「「………め、めめめくったら?」」」」」

「……見たことのない『卵の化け物』がオムレツの具を内側から食べていました――――」

「「「「「……………(大汗」」」」」

「その余りの光景に……バルディッシュが間一髪で私を守ってくれましたが……
 もしデバイスのない一般生徒だったら恐らく………」

「「「「「……………(滝汗」」」」」

フェイトの衝撃告白に言葉をなくす一同。
そんな中、恭也が口を開く。

「………で、高町母よ?そのデリバリーはいつまでやるんだ?」

「「「「「「ええっ!?」」」」」」

あれだけの壮絶な話を聞いたにも関らず、恭也はデリバリーを受けると言い出した。
一同は驚くしかなかったが、桃子だけは恭也の答えがわかっていたかのように――

「そうねぇ。大体1ヶ月って所かしら」

「1ヶ月だな。了解した」


「「「「「「……………」」」」」」


今だ状況が飲み込めていない面々。
しかしこの桃子の提案にはひとつ隠された意味がある。

アリサとフェイトを対象とした恭也自身のデリバリー。
これは昨日の一件で対等の立場となり、恐らく今後闘いとなるであろう2人に気付いた桃子が、
同じく、2人のどちらを選ぶかで迷っている事に気付いた恭也の問題を同時に解決させるために仕組んだものだった。
アリサだけを対象とした提案であったなら、告白の返事待ちをしてるということもあって、
フェイトを含めた全員がこの意図に気付いたであろう。
しかし恭也が『アリサとフェイトの両方を好き』ということに桃子以外は気付いていない今、
彼女の意図を読み取ることは出来なかったのである。

恭也はそれに気付いたため試食は命懸けであるが、機会を与えてくれた母に感謝しつつ承諾したというわけである。
もちろん『1ヶ月以内に結論を出すのよ』という桃子の意図も理解していた。









「さて、それじゃ皆出かけましょうか」

桃子が皆を促す。

「うん。すずかちゃんたちもそろそろ来るだろうし」

「そうだね」

「美由希……お前、今日の講義は?」

「今日?今日はお昼からだけど…」

「そうか、ならば午前中は少し打ち合おう」

「うん」

「うし、片付け終了や〜」

「おーし、そんじゃカメ、行くぞ」

皆、それぞれの場所へと向かう中、ひとりフリーなアルフは途方にくれていた。

「それじゃアタシは…………どうしようかな?」

「あぁ、それでしたらアルフさん。よければ俺と美由希の鍛錬に付き合って頂けませんか?
 魔術による攻撃は予想外なものが多くて、なかなか得るものが多いんです」

「そうかい?それじゃちょっとお手伝いしようかねー」

そうしてそれぞれやることが決まった所に




 ピンポーン




「なのはー。来ったよーー」

玄関からアリサの声が聞こえてきた。

「あ、来た!それじゃ行って来ま〜す」

と駆け出そうとしたなのはの頭を恭也が鷲掴みにした。

「にゃっ!?な、なにするのお兄ちゃん!」

ぷぅ、と膨れっ面になるなのは。

「……お前は二日連続で兄に弁当を届けさせるつもりか?」

「あ」

そう言って弁当を受け取るなのは。

「まったく……女子校まで持って行くのはなかなか辛いんだから勘弁してくれ…」

「エヘヘ。ゴメンね、お兄ちゃん。
 ……あ、でもそうしたらフェイトちゃんにも会えるからいいんじゃないの?」

ゴスッ

「あうっ!?」

なのはの頭に拳骨がお見舞いされる。
調子に乗った妹には兄からの鉄拳制裁はお約束事らしい。

「……馬鹿なことを言うもんじゃない」

「うぅ〜〜〜照れてるからって叩かなくても……」

「照れてなどいない」

「……もぅ、素直じゃないんだから」

「何か言ったか?」

「ん〜ん。な〜〜んにも」

相変わらずな反応しかしない兄に、妹はちょっと不機嫌になってしまった。

「コホン………それでフェイトさんの分はこちらになります」

「あ、ありがとうございます」

「……お礼ならレンに言ってください。俺は何もしてませんし」

苦笑する恭也を横目で見ながらレンにお礼を言う。

「レンさん、ありがとうございます」

「ええよええよ。ま、晶のよりは美味いから安心してやー」

なんだとーーー!!と、車庫でバイクを出そうとしてる晶の声が聞こえてくる。

「あはは。それじゃありがたく頂きます」

そうしてお弁当をカバンに仕舞う。

「じゃ、行って来るね〜」

「行って来ます」













「二人ともお待たせ〜」

「遅いわよなのは………ってフェイト!?」

「あら。フェイトちゃん?」

「お?フェイトちゃん?」

「………三人ともおはよう」

「おはよう………って違うわよ!いや、違わくはないけど。
 と、とにかくなんでフェイトがなのはの家にいるの?」

「昨日はお泊り会でもしたの?
 それなら誘って欲しかったです………」

シュン、となるすずかになのはは慌てて説明する。

「あ、あはは、違うよ二人とも。実はね―――――」













「へぇ〜そんなことがね〜」

アリサはしきりに感心している。

「みきちゃんですか。会ってみたいね〜」

「うん。とっても可愛いんだ……」

「ほうほう。フェイトちゃんが言うとなるとよっぽどやな。
 よし、今日の帰りはフェイトちゃん家に行こか。
お部屋もお隣みたいやし」

「あ、いいわね。それ」

はやての提案にアリサが頷く。

「ちょ、ちょっと二人とも。
 そもそも今日からフェイトちゃんはアルバイトがあるんだって……忘れてないよね?」

「「あ」」

「忘れないでよ……」

ガクッとするなのは。
そんななのはに苦笑するフェイトとすずかだった。









校門まであと50Mと迫った所で、不意にフェイトが漏らす。

「アリサ」

「んー?」

両手を頭の後ろで組むようにしながら、先頭を歩いていたアリサは振り返るが
アリサの顔を見たフェイトは少し驚いた。

「?……アリサ、どうかしたの?」

「え?なんで?」

「うん。なんかちょっと落ち込んでるように見えたから…」

フェイトの不安そうな顔を見たアリサは『あちゃ〜』と言った表情で返す。

「顔には出さないようにしてたんだけどね……気付かれちゃったか。
 大丈夫よ。ちょっと夢見が悪かっただけだからあんまり気にしないで」

「そう…」

「それより何か用があったんじゃないの?」

「あ、うん。アリサは……今日、何かある?」

「今日?今日は特にないけど……」

「そう…。それじゃ悪いけど……今日、私のバイトが終わるまで待っててくれないかな?
 少し早目に上がらせてもらうようにしてるんだ」

「?それは別に構わないけど……」

「じゃあ……よろしく」

「「「???」」」

事情を知らないなのは以外は、フェイトの意図が読めずに目を点にしていた。
















放課後。

フェイトは初のアルバイトとあって店内で四苦八苦している―――

「…ダージリンとモンブラン、それにケーキセットがおひとつですね。セットのドリンクは何になさいますか?」

「うーん、レモンティーで」

「かしこまりました」

「フェイトちゃーん、こっちもいいかなぁ?」

「あ、はい。…少々お待ち下さい」

「フェイトちゃん、お水もらえるかな?」

「は、はい。ただいま……」

というよりも、大人気だ。
中学生のアルバイトということもあるだろうが、
可愛らしい容姿・立ち振る舞いに、たまに(主に子供に対して)見せる笑顔につられ
店内にはいつもは数えるほどしかいない男性客が約半数を占めている。

客はすでにフェイトを名前で呼んでしまうほどのファンっぷりだ。
中には店を勘違いしてるのではなかろうか、と思える客もいる。

一方のフェイトは初めての接客業に手一杯で、そんなことを考える暇も無く

 『喫茶店の店員を舐めてた……』

と、店内を走り回りながら反省していた。












―――それから晩御飯の時間が迫ってきた。

桃子は食事で一旦抜けるだけだが、中学生であるフェイトはこの時間までの勤労となる。
最も今日は少し早目に上がらせてもらうようにしているので、まだ晩御飯には早い時間だが。

「はぁ〜〜〜〜〜〜〜〜」

彼女にしては珍しく疲れたようなため息を漏らす。
事実、疲れているのだろう。

「フェイトちゃ〜ん。お疲れ〜」

なのはが話し掛けて来る。

「あ、なのは……お疲れ様」

「どうだった?初仕事は?」

「………………ウェイトレスを甘く見てた」

「あはは。それはフェイトちゃんだからと思うけど…」

「??」

「まぁいいよ。それよりも準備しなきゃ。
 きっとアリサちゃん、待ちくたびれてるよ?」

「あ」

そうだ。
こんなことしてる場合じゃない。

「…ゴメンね」

「いいっていいって。店長が了承してるんだから」

フェイトがこれから何をするかを理解している桃子は、少し早めに上がらせて欲しいというフェイトの願いを快く承諾した。

「………うん。それじゃ行って来ます」

「うんっ。頑張ってね〜♪」




アリサの元へと駆け出したフェイトを見送ったなのはは仕事を再開しようとしたのだが、
ふと視界に気になるものが入った気がしたので手を止めた。

「さてと、それじゃもうひと頑張り―――――あれ?」

「ん?なのは、どうかしたの?」

なのはがフェイトが出て行った先を見ているので、どうしたのかと桃子が尋ねた。

「あ、お母さん。いや、さっきそこに誰かがいたような気がしたから……」

「え、お客さん?」

「ううん、そんな感じじゃなかったと思う……」

少し真剣な顔になる。

「あらやだ。ヘンな人じゃなければいいけど……まぁこういうことは後で長男に相談しておこうね」

「うん、そうだね。私の見間違いかも知れないし」

「それが一番なのよね〜。とにかく今はオーダーを済ませちゃいましょう」

「あ、はーい」

仕事を再開する二人。
だが、なのはは再び店の入口へと目を向けていた。

「………ひょっとして――――ううん、まさかね」



















「あ、フェイト。お疲れさん〜」

「…ゴメンね、アリサ。待たせちゃった」

「ホントよ、全く!こりゃ明日にでも翠屋ケーキセットを奢ってもらわなきゃ、割が合わないってモンよ」

そう言うが顔は笑っている。

「……あはは。うん。なんとか頑張ってみるよ」

「はは、ウソウソ冗談だって。今のフェイトからお金を巻き上げるほど、私も鬼じゃないし」

アリサも笑う。
少し和やかな雰囲気ができていた。



しかし、その雰囲気を壊したのは他ならぬアリサ自身だった。

「……それで?何か話があるんでしょ?」

いつものおちゃらけた彼女からは想像もつかないような真剣な瞳。
フェイトもそれに合わせて表情を変える。

「うん」

「じゃあ聞かせてもらいましょうか。
 そうじゃなきゃこんな時間まで待ってた意味がないしね〜」

少し軽い感じでいうアリサ。
フェイトはそれに答える。



「私、ね」



「恭也さんのこと………大好きだよ」





そうしてフェイトは、昨日起こった事、自分が感じたこと…全てをアリサに語ったのである。












「―――ふーん」

話を聞いたアリサは怒ってるようなつまらないような、何とも言えない表情だった。

「………ったく」

「……アリサ?」

アリサの様子が変だったので、恐る恐る声をかけたフェイトは、

「遅すぎるのよっ!!」

怒られてしまった。

「んもうっ!アンタ今まで何やってたのよ!
 そんなことにも気付かないなんて………アタシのライバルを名乗る資格なんてないわっ!
あああぁぁぁもう、それなのに恭也さんはこんな小娘を気にかけちゃってるし……」

小娘なのは自分も同じでは?と思ったが、そんな突っ込みは許されなさそうなので黙っておいた。

「はぁ〜〜。
 ライバルと思ってた娘が実はこんなヘタレ少女だったなんて……
全く、今まで正々堂々と勝負してたアタシがバカみたいじゃない」

その言葉に返す言葉もないフェイト。
今まで彼女が勝負と思っていた勝負は、実はそうではなかったからだ。

「つまり何?
 私は自分のほうが有利な状況にもかかわらず、ライバルが自分の元に来るまで待っててあげた訳?
キーーーーーッ!!うさぎとカメじゃないんだからぁぁぁぁぁ〜〜〜」

暴走するアリサ。
どうやらフェイトよりも、自分の不甲斐無さに呆れているというのが正しいか。

「……はぁ〜〜。まぁ今更そんなこと言ってもしょうがないわよね…。
 うん。それじゃこれから改めてよろしく」

「へ?」

「へ?じゃないわよ。
 アンタは自分の気持ちに覚悟が持てたから、アタシに宣戦布告してきたんでしょ?」

「え、いや、それはそうなんだけど………そんなアッサリ…」

「アッサリもバッサリもないわよ!
 これからも正々堂々と闘うライバルなのよ!?
つまんないことにウジウジ悩んでどーすんのよっ」

「……ライバル?」

「そうよっ。
 同じ男性(ひと)を取り合う恋する乙女同士!
これをライバルと言わずして何て言うの!」

びしぃっ、と指を突き付けるアリサ。
何故か無駄に誇らしげだ。




――――『ライバル』

彼女はまたそう言ってくれた。
覚悟を持てないが故に、何一つ行動を起こせなかった自分を。
本来なら糾弾されてもおかしくなかった。
それを許してくれるどころか、また正々堂々と闘おうと言ってくれた。

それが、それが何よりも嬉しくて―――




「ア…リサ……。あり……が……とう」

「ちょ、ちょっと!なんでアンタが泣くのよ!?」

誇らしげな気分は一瞬にして砕かれた。何せ目の前の少女が泣いている。

「ぐすっ…それと……ゴメンね」

「な、何にも謝ることなんてないわよっ!」

「ゴメンね、アリサぁぁぁぁぁ〜〜……ううぅっ」

「あああぁぁぁぁ、もうわかった!わかったから!
 お願いだから泣きやんでよぅ〜〜〜」

フェイトに泣かれてしまい、逆に泣きたい気持ちのアリサ。
それからフェイトを落ち着かせるのに、しばし苦労することになる――――











フェイトがようやく落ち着いたので話を続ける二人。

「…そういえば、今朝知ったんだけど……アリサはもう恭也さんに、その……告白したの?」

「ん?ちょうど一年くらい前かな?
 あの時、私にちょっとした事件があったのは知ってるわよね?」

「うん」

「……そうだね。『ライバル』には知っててもらおうかな」

そうして、アリサは一年前に恭也と共に経験した事件のことを語りだした。






―――30分後

「と、そんなわけで告白しにいったわけよ。
 まぁ未だに返事はもらえてないんだけどね」

フェイトは驚いた。
目の前のライバルの強さに。

「一年も待ってて……辛くないの?」

一年も告白に対する返答がお預け。
自分はそれを想像しただけでも耐えられない。

「辛いわよ。
 でも、私は恭也さんのためなら何だってしてあげたいし、
恭也さんが私のために一年以上も悩んでくれてるのを知ってる」

「恭也さんは自分にとって大切な人だったら、どこまでも真剣に考えてくれるでしょ?
 例え、今みたいに返事を待たせて私が辛い思いをしてるとしても、
恭也さんはきっとそれを分かった上で、それでも悩んで悩んで答えを出してくれる」

「……そうだね。恭也さんならきっとそうする……」

互いに惚れた男を確かめ合う乙女達は嬉しそうだ。

「恭也さんは絶対にいい加減な答えを出したりしない。
 例え私を選んでくれなくても――そりゃ泣いちゃったりはするだろうけど……きっと私は納得できる。
それは自分の愛しい男性が苦しみながらにも出した結論だから。
だから―――辛いけどいつまでも待てるし、待ちたいと思うわ」

「それにそれだけ悩んでくれてるってことは、少なくとも私を意識してくれてるってことだから
 自分のアプローチ次第でどうにかできるかもしれないじゃない?
だったらただ待ってる暇なんてないわよ。
このアリサ・バニングスがどれだけ恭也さんを想ってるのかわかってもらわなくちゃ♪」

ライバルは自分の遥か先を進んでいた。
昨日の一件で得た覚悟は所詮、スタートラインに立つためのもの。
アリサのように至るにはまだまだ足りない。

「アリサは…………すごいね」

「すごくなんてないわよ。
 私から見たらフェイトのほうがよっぽどすごいわ」

「そんなこと………ない」

「何言ってんの。
 アンタが魔法少女として頑張ってるのは知ってる。
いち中学生が世界のために戦う――口で言うほど簡単じゃない。
大変なこともあるだろうし、今まで死ぬようなことだってあったんじゃないかな」

時空管理局であったことを詳細に話しているわけでもないのに、
まるでフェイトに何があったのかわかっているかのようなアリサに、フェイトは不謹慎ながら喜びを感じてしまった。
自分にはこんなにも自分を理解してくれる素敵な友人がいる、と。

「それをどんなに辛いことがあっても、笑顔で乗り越えてきてるフェイトの方が凄いと私は思うわ。
 私なんて結局は自分のためだしね〜」

あはは、と笑うアリサ。
しかしフェイトにはわかっていた。
そう言ってるアリサこそ『笑顔』で乗り越えてきてるのだと。

「……やっぱりアリサはすごいよ」

「ま〜だ言ってんの?アンタの方がすごいって言ってんのに……」

お互い相手を立てあう二人。
これ以上言い合っても、お互いが譲り合う形しか取れないと感じたフェイトは自分が折れることにした。

「ふふっ。アリサがそう言うなら………そういうことにしておこうか」

今は自分たちが正々堂々闘うライバル同士であることを再確認出来ただけで十分だし、
アリサならば『勝負』に負けたとしてもきっと納得できる。
だって彼女は、女である自分から見てもこんなに素敵な女性なのだから――

しかし、そんなフェイトの態度を挑戦的と捉えたのか

「む。なによその余裕は?
 言っとくけどいくら恭也さんが気にしてるからって、
現状では間違いなく私の方がリードしてるんだからね」

アリサはいきなり敵意を表してきたが、フェイトは違う部分が気になったようだ。

「そう言えばさっきも思ったんだけど……恭也さんが気にしてるっていうのは……?」

「ん?言葉通りだけど………アンタまさか気付いてないの?」

今更何言ってんのこの小娘は、という顔で見るアリサは、

「え……?」

「はあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ〜〜〜〜」

今までにないくらい、盛大なため息を吐く。

「ううぅぅっ、何でアタシがこんなライバルに塩を…
 それも大量に送りつけるようなマネをしなくちゃイケないのよぅっ……」

アリサは半ばイジけているが、フェイトは全くわからない。

「え、え……と、アリサ……?」

「何かもう昨日から何やってんのよって感じじゃない?私。
 さっきのうさぎとカメの話じゃないけど、このままいくと私は負けますってこと?
くぬぅ〜〜、いくらフェイトでもそこだけは譲れないわ!」

段々とひとりの世界へダイブするアリサ。
フェイトはアリサが落ちつくのを待つしかない……

「…………」

「ったくもう、こうなったら最終手段を使うしかないのかな」

「…………」

「うん。やるにしてもとにかく準備が必要よね。
 まずは……」

「アリサ!」

……はずだったのが、いつまで経っても終わりそうにないのでこちらから止めた。

「ん、フェイト?どうしたの?」

「どうしたのじゃないよ…」

ガックリと肩を落とすフェイトを見てアリサは自分の行動を思い出す。

「あ、あはは〜。ゴメンね。ちょっと色々と考えちゃって……」

「それは構わないんだけど……それよりも、さっきの話……」

「恭也さんの話ね?
 …まぁ一言で言うと、恭也さんはフェイトをちょっと意識してるっていう話よ」

「え?」

アリサの思いがけない言葉に目が点になる。

「フェイトが恭也さんに会ったのは……大体3年くらい前だっけ?
 それから少しして恭也さんはフェイトに対して…好きっていう感じじゃなかったけど
ちょっと気になるというか、そんな視線を向け始めてたんだ」

「――――」

「あの時は何で私じゃなくてフェイトばっかり見てるのよって、ひとりでイライラしてたりもしたわね」

苦笑するアリサ。

「他の人達にはなかなかなびかなかったくせに、フェイトだけは初めから意識してたのよ。
 全く、私は紆余曲折を経てようやく意識してもらえるようになったのに……悔しいったらありゃしないわ」

怒ってはいるが、本気で怒ってるわけではなさそうだ。

「恭也さんの事だから外見で選んだったことはないでしょ。
 確かにフェイトは可愛いけど、外見だけで言えば恭也さんの周りにはそれこそ歳相応で相応しい人達がいるし」

頷くフェイト。

「その恭也さんがフェイトを意識するようになったのは……
 私の予想だけど、"フェイト自身"を気に入ったんじゃないかなぁ〜と思うのよ」

その言葉に『そんな、まさか』と思ったが
フェイトは、昨日恭也自身が言っていたことを思い出した。


 『……俺がその……フェイトさんに惹かれたのは、何というか……その"在り方"なんです』


彼はあの時そう言っていた。
とすれば、アリサが言ってることは正しいのかもしれない。

「ま、これ以上は推測になるだけだし、知った所で今のフェイトにはあんまり意味ないでしょ?」

と言うアリサ。

「そうだね……。恭也さんが意識してるしてないに関らず……私は恭也さんが好きだから」

「だね〜」

お互い笑い合う。





「で、フェイトはいつになったら恭也さんに告白するの?」

「明日……と言いたい所だけど、むしろ気持ち的に今からがいいな。
 どの道、このあと高町さんのお家で晩御飯頂くし」

「早っ!」

フェイトの行動力に思わず突っ込むアリサ。

「うん。それじゃ早速行って来るよ」

「え、マジ!?」

いつもの控え目な彼女はどこへやら、といった感じでアリサは驚くばかりである。

「ちょ、ちょっとフェイト、どうしたのよ?
 確かに早い方がいいけど、そこまで急ぐ必要はないんじゃない?」

「うん。……でもアリサとの問題が解決したらすぐにでも言おうと思ってたんだ。
 決心が鈍るとは思わないけど、今のままじゃアリサに勝てる見込みはないからね。
早く対等なポジションにならないと」

「そ、そう」

笑いながら言うフェイトに何とか頷き返すアリサ。

「……アリサ、さっきから何か告白して欲しくないように見えるけど……もしかして怖いの?」

「っ!?」

「…そっか、アリサにしてみれば今まで自分の気持ちを確認できてなかったライバルが告白しに行くんだもんね。
 それにアリサの話によれば、恭也さんは少なからず私を意識してくれてるみたいだし………
ひょっとしたら今日告白すればOKもらっただけじゃなく、そのままいくとこまでいっちゃうのかも」

と、人差し指を口に充てながら言うフェイト。
普段の彼女とは到底思えないほどの挑発的な態度を取られたアリサは何とか反論する。

「な、なななななに言ってんのよ!?
 きょ、恭也さんがフェイトみたいにウジウジしたやつの告白をOKするわけないでしょ!?
というか、いくとこまでってどこよ!?」

「…そうかな?
 昨日の恭也さん、私の下着姿見て興奮してたみたいだし……アリサよりスタイルがいいからイケるかも知れないよ?
……………いくとこまで」

顔を赤くしながらも、更にフフン、といった感じで続ける。

「そんなわけないでしょ!
 今時代が求めてるのはひんにゅーよ!
中途半端な大きさのフェイトなんて魅力皆無だわ!
私の艶姿を見れば恭也さんは興奮を通り越して、その場で襲い掛かってくるに決まってる!
理性を完全に奪えなかったフェイトの胸など恐るるに足らず!」

微妙に恐ろしい事を言うアリサ。というか襲われていいのか。

「むっ。そんなことないよ。
 大は小を兼ねるって言うし。
大きいと色んなことしてあげられるかも……」

「い、色んなことって何よ!?
 そもそも今の恭也さんの気持ちは完全に私寄りなんだから!
………ふっ。そうよ。今一番恭也さんに近いのは私。
ならば恐れるものは何もないわ」

「そうよ。フェイトが告白しても変わりはないわ。
 恭也さんの心の中にいる女性は常に私、アリサ・バニングス唯一人。
この一年で私は恭也さんにとってかけがえのない女性になった筈。
 そこに"フェイトさん如き"がしゃしゃり出て気持ちをお伝えになった所で、恭也さんがわたくしを選んで下さることに変わりはありませんのよ〜?」

「むー」

「うぅ〜なによ〜」

聞いたこともないようなお嬢様言葉で切り返すアリサに、頬を膨らませるフェイト。
それを見てアリサもフェイトを睨み返すが、

「「…………………」」



「「―――――――ぷ」」



「「あははははっ」」



二人して笑い出してしまった。


「あははっ、全くフェイトもなかなか言うわねー。
 完全に中学生のセリフじゃないわよ?」

「そういうアリサだって、さっきまで私に爽やかなライバル宣言をしてた人とは思えないよ…」

ふふっ、と顔を見合わせあう二人。
先程までとはうって変わり穏やかなムードが流れていた。




ひとしきり笑いあった後、

「―――行くの?」

というアリサの問いにフェイトは

「うん」

とだけ答え、立ち上がった。

「そっか。頑張ってね」

「ふふ。それじゃ、結果は明日ね。楽しみにしてて」

「まぁ私の勝ちは決まってるから、その辺は確かに楽しみだわ。
 ……明日は慰めの言葉と勝利宣言のセリフを用意しておくわよ」

「そう…。じゃあ私はアリサを慰めつつも、アリサが今日という日を後悔するような言葉を考えておくよ」

「はいはい。とっとと行ってらっしゃい」

「行って来ます」


「「それじゃ――――また明日」」


そうしてフェイトは晴れ晴れとした顔で恭也の元へと向かう。
そんなフェイトを見送るアリサも、彼女に劣らないほどの笑顔だった。







その頃、翠屋―――

「うーん、フェイトちゃん達どうなったかな〜」

快く友人を送り出したなのはであったが、やはり恋愛絡みの話は年頃の少女には気になるようだ。

「……ちょっと様子見に行ってみようかな。
 うん。様子を見るだけだからいいよね……決して覗きたいわけじゃないよ?」

言い訳するかのように自身を納得させて外へ出たなのはは
場所を特定するためにも、ひとまず魔法を使ってフェイトの声を拾う事にした。

「レイジングハート、お願い(うーん、ゴメンねフェイトちゃん。私も気になるんだ〜)」

『All Right, My Master』

快諾するあたり、レイジングハート自身もちょっと気になっているようである。
目を閉じて耳に神経を集中させるなのは。
やがてなのはの耳にはフェイトだけの声が響いてくる―――

『そ……うアリ…だ……で私に……バル宣…をしてた人とは思……いよ…』

「(ちょっと聞き取り辛いな。もう少し出力をあげて……)」

『それじゃ―――また明日』

今度はハッキリと聞き取れた。
しかしそれ以降話し声は聞こえない。

「(…ええっ!?ひょ、ひょっとしてお話は終わったの?そ、そんなぁ〜〜)」

ガクッと肩を落とすなのは。
しかし発声源から二人が話していた所はすぐ近くとわかったので、なのははせめて現場だけでも見ておきたかったのかふらふらと歩いていったのだが、
目的の場所にはまだ誰かが立っていたようなのでなのはは思わず身を隠した。

「(あれは―――アリサちゃん)」

逆光な上、遠くからで表情はよく見えないがアリサと思われる。

「(フェイトちゃんはどこか行ったみたい……でも、あんな所に立ったままどうしたんだろ)」

なのはが未だ出て行かずコソコソと隠れるようにしているのは、アリサの様子がいつもと少し違うからだ。

「(………………)」

時間にして1分にも満たなかったが、恐らく本人にとっては長い時間だったのだろう。
アリサは少し俯いたあと、一言だけ呟いた。



『悔しい―――私は……私の方がずっと前から好きだったのに―――』



「(えっ?)」

その呟きを聞いてしまったなのはは驚きを隠せなかった。
しかしその言葉に隠されている真意……いや、感情と言っていいだろう。
それを問いただす前にアリサは目の前から走り去って行った。















 第6話をお届けしました、幸のない物書き さっちんです。
火妬美「こんなこと言う中学生一年生っているの?」
 いるんじゃないのか?最近の○学生は進んでるって聞くし。
火妬美「いや、進んでるっていう意味が違うし、それ」
 まぁ所詮は空想の物語ということで納得してくれ。
火妬美「なるほど。アンタが想うフェイトも所詮は空想ということを理解しておく事ね」
 ぐっ…な、なんてことを。永遠のMyえんじぇる フェイトに向かって……
火妬美「大体何の取り得もないアンタが中学生はおろか、高校生にだって好かれる事があるなんて、
    よもや思ってたりしないでしょうね?」
 し、しかし!よく言うじゃないか!女の子は「優しい人が好き」って!
火妬美「アンタ、そんなこともわからないの?あれは経済力等を前提とした上で、「優しい人」が好きってことなのよ」
 な、そ、そうだったのか・・・。じゃ、じゃあ経済力のない俺は……?
火妬美「フェイトはおろか、雪虎、ぎんがにも嫌われるわね」
 ガ、ガーーーーーン。
お、俺は猫にすら嫌われるのか……orz
火妬美「まぁ、それはともかくさっきから気になってるんだけど………私の名前って決まったの?」
 おう、決まった決まった。火妬美(ひとみ)って読むんだ。いい名前だろ?
火妬美「音はいいわね。だけどどこかの護身道チャンプと色々と被るのは気のせいかしら」
 はっはっは。気のせいではないぞ。一文字目は性格を現した「火」、二文字目は嫉妬の「妬」、三文字目は単純に「美」。
 どうだ?これ以上ないくらいハマってぷぎゃっ!?
火妬美「浮気したら殺すって……言ったわよね?」
 言ってない!言ってない!!というかその発言、文脈からしておかしいし!!
火妬美「当たり前よ、ただ使ってみたかっただけなんだし」
 …三文…字目は……褒めて…るのに……ガクッ
火妬美「褒めるのは当たり前よ……ってあら?もう動かなくなっちゃった。それじゃ、また次回〜♪」



※誤字脱字、設定ミス等ありましたらご連絡頂けると幸いです。





フェイトとアリサが本音をぶつけ合う。
美姫 「一人の男を愛した女たちの静かなる戦い」
ライバルでもあり、友達でもあるという二人。
美姫 「一体、どうなってしまうのかしら」
というか、最後のアリサがちょっと気になってたり。
美姫 「うんうん。確かにそれはあるわね」
ああー、アリサもフェイトもどっちもけなげでいい子だかな。
美姫 「続きがどうなるのか気になって仕方ないわね」
うんうん。次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってますね」



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