※このお話はPCゲーム「とらいあんぐるハート3」とTVアニメ「魔法少女リリカルなのは」の融合作品です。
 しかし基盤となるのは「とらいあんぐるハート3」なので、士郎は死んでますし、恭也はALLエンド&フリーです。
 「魔法少女リリカルなのは」はキャラ追加のみを目的としたと捉えてください。





―――日付が変わった直後の深夜1時過ぎ。

高町母娘への勤労感謝マッサージも終わり、深夜の鍛錬から帰って来て後は寝るだけの時分、
自室で仰向けになっている恭也は秋子を送って行ったときのことを思い出す。







「そう、ですね。
 ――――よろしければ聞いていただけますか?」






『 Dreieck Herz -Lyrical- 』 ACT.05






「アリサと出会ったのはあいつが小学2年生のとき……なのはの友達ということで家に遊びに来たのが最初です。
 妙に懐かれたこともあり、アリサとは結構親しくなったと思います」

「それから少しして―――その頃俺は美由希との鍛錬場所を探して、誰も使っていない廃ビルを捜し歩いてました」

「探し始めて何日か経った頃、入った建物から複数の男の声と、少女の声が聞こえてきました。
 気になったのは少女の声がその場には似つかわしくないほどの幼い声、なおかつ聞き覚えのある声だったからです」

それを聞いた秋子は表情を強張らせる。
その先の展開が読めたのだろう。

「現場に駆けつけた俺が見たものは……
 アリサを身動きできないように縛り、これから彼女を性欲の捌け口にしようとしているクズ達と
最後まで抵抗したものの、殴られて気絶しているアリサでした。
―――幸い、衣服は破れていませんでしたけど」

その言葉に幾分、安心する秋子。

「しかし気を失っていたこともあって、アリサは自分が襲われたと思い込んでいるんです」

「思い込んで………って、実際襲われたんでしょ?」

秋子の言葉に顔を赤くしながら答える恭也。

「えぇ、その……つまり、アリサは自分が………処女ではなくなった、と」

「…あ、あはは、そ、そっちね。
 で、でもお医者さんとかに行って確かめたんじゃないの?」

「……思い出したくなかったのでしょう。
 俺が助けに行った状況を話したため、衣服に乱れがなかったことは理解していますが、それでも襲われてないという証拠にはならない。
 もしかしたら違うかもしれないけど、本当に自分が襲われたと再確認してしまったら……
なのはにチラッと聞いただけですが、そんな様子だったようです」

「……そう」

コホン、と咳払いをして恭也は話を続ける。

「俺はその場に居合わせた男共をすべて半殺しに追いやりました。
 最後に残したリーダー格の男に吐かせた所、奴らがアリサを襲ったのはとある所から情報を得たかららしいです。
なぜアリサがターゲットとして選ばれたかはわかりませんが…恐らく裕福な家庭に育ち、
その上保護者が祖父母しかいないアリサは後々の身代金要求の対象としても適していたのでしょう」

「………ビルでアリサを助けた俺はとりあえず警察よりも、と思い自宅へと連れて行きました。
 そのときのアリサの顔は今でも覚えています。
この世全てに絶望した、小学生がするような顔ではない。
俺は何とかこの娘を助けたかった。
何とかこの娘が心から笑った姿を見たかった。
そう思い、俺はよくなのはを遊びに連れて行く名目で彼女と接してきたわけです」

「それからしばらく高町家で暮らすようにもなり…
 ウチの娘達の優しさに触れたアリサも少しずつ立ち直ってきて、元来の勝気な性格に戻ってきました」

「……なるほど。それでいつしか情が移って―――」

秋子がそう言うが、恭也はそれを否定する。

「……いえ、そういうわけではないです。
 あのままいっていれば、俺がアリサを女性と意識することはなかったでしょう」

「…俺がアリサを意識したのは1年前。
 この町で幼女誘拐事件が多発したんです」

「………」

「アリサ達の通う学校は俗に言うお嬢様学校。
 犯人からすれば一番狙うべきポイントとなるでしょう。
なので、しばらく生徒は家族の送り迎えが必須となりました」

「なのははともかく、アリサや友人であるすずかちゃんは送迎リムジンがあるため問題ないはずなのですが
 アリサはあの事件以降、一人で密室空間にいるということに強い恐怖を覚えるようになったんです。
ボディガードもいますが、親しくない運転手程度では逆に恐怖心を煽るようですね……」

黙る秋子。
自分は襲われたことはないが、同じ女としてアリサの気持ちがなんとなくわかるのだろう。

「そのため、アリサはすずかちゃんと同じ稽古に行く時以外に車に乗ることはなくなってしまい、
 俺はアリサを助けたくて、なのはの事は極力美由希に頼み、アリサの送迎を行いました。
―――そんなある日、路地裏で少女の悲鳴が聞こえたんです」







――――1年前、春


「キャーーーー!!」

「「―――!」」

今の悲鳴は!?
――間違いない、多発してる誘拐犯だ。

「恭也さん……」

アリサが俺のズボンを掴んでくる。

「大丈夫だ。とにかくアリサはここに『イヤッ!』」

「アリサ……?」

「恭也…さん。ひとりにしないで下さい……」

あのアリサがここまで弱気になっている。

「ひとりは……イヤです」

自分の中であの忌まわしき事件を思い出しているのだろう。
―――ここでアリサをおいて犯人達を捕まえて少女を救出したとしても、アリサはまた殻に閉じこもってしまう。

「……大丈夫だ、アリサ」

俺はぎゅっとアリサを抱きしめた。
本当は振るえが収まるまでしてやりたかったが、今は一刻を争う。
身体を離すと名残惜しそうにするアリサに語りかける。

「アリサ。今から俺は犯人を捕まえに行く。
 だが、お前を置いて行くようなことはしない。
けれどもお前を護りながらであれば、少女も手遅れになるかもしれないし、犯人も逃がしてしまうかもしれない。
だから―――」

「……だから?」

「―――だから、二人で犯人を捕まえよう。
 こんなくだらないことをする連中なんかに負けないということを、やつらに叩き込んでやるんだ」

「………」

「…できるか?」

「………わからない」

「……だったらこう考えろ。今お前が感じてる恐怖。
 お前が今動かなければ、それ以上の恐怖をその少女は味わうことになる。
お前は……俺の知ってるアリサ・バニングスはそれを許せるのか?」

「…………」

「アリサ。お前の恐怖は男の俺にはわからないし、わかるとも言えない。
 だけど、お前が自分に打ち克つには今をおいて他にないんだ。
だから――――頑張ろう、アリサ」

未だ恐怖心は消えない。
だけど自分と同じ目に遭ってしまう子を増やしてはいけない。
自分が今頑張れば、その子が一人消えるのだ。

「………はい」

いい子だ、と頭を撫でられる。

「心配するな。
 必ず、何があってもお前は俺が護る―――」

愛しき男性の力強い言葉にもはや悩む必要などない。
自分の過去を断ち切るためにも、さぁ――少女を助けに行こう。








恭也は犯行現場を探知するために、目を閉じて精神を集中させる。


――発生源はこの近く。
――耳を澄ませ。
――神経を集中させろ。
――わずかな物音も逃しはしない。




   ガタッ



小さな物音が聞こえた。



――――――――――――――――――――――そこか!


「行くぞ!アリサ!」

「はい!」


 ダダダッ



 バン!!



焼却炉のドアを蹴破ると、そこには数人の男が衣服を脱がされ下着姿になって連れ去られようとしている少女がいた。

「チッ!なんだテメェらは!!」

ひとりが叫ぶが

「あ、あんたたちぃ〜〜〜……」

「な!?な、なななな」

中身の入ったドラム缶を『持ち上げて』いるアリサを見て、信じられないものを見るかのように怯んでいる。

「なにやってんのよーーー!!!!」

そう叫んでドラム缶を投げつけた。

「ガハァッ!!」

いきなり先制攻撃を仕掛けたアリサのドラム缶クラッシュでひとりは完全に気を失った…というか瀕死だ。

「オイ!逃げるぞ!!」

仲間がひとりや(殺)られたことで、犯人達は逃亡を試みる。

「逃がすと思うか?」

「「「へ?」」」

そう言って突如目の前に現れた黒い男が懐から刀を取り出す。

「そ、そんなのアリかよ……」

ナイフ程度しか持っていない犯人グループは武器の差に怯えている。

「こんな年端もいかない少女を襲うとは……恥を知れ」

「う、うるせぇー!!そ、そそそれ以上近づいて見やがれ!
 この女の顔は見れたモンじゃなくなるぜ!?」

「む……」

さすがに少女を盾にされては恭也も迂闊な事は出来ない。
神速を使えばそんなことをさせる前に救出できるだろうが、それは最後の手段だ。

「しかしそのままではお前達も何も出来ないだろう?どうするつもりだ?」

そんな恭也を見て、思ったより交渉の価値があると踏んだリーダー格の男は告げる。

「へっ。別に大したことじゃねーよ。
 このまま俺らを見逃してくれりゃいーだけだ」

「その少女は?」

「そりゃ俺らが持ってくに決まってんだろ?元々そういうつもりだったし」

逆に恭也は交渉の余地はないな、と思い神速を使おうとした瞬間、

「まぁコイツを助けたかったら、そこの女でもいいぜ。
 コイツより全然楽しめそうだし……ん?お前どこかで……?」

もう一人の男がアリサを見て何かを思い出しているようだ。
しかしアリサの記憶にこんな男の知り合いはいない。

「……たしか、何年か前に……あっ!」

「な、なによ?」

男がいきなり指差してきたので、アリサはどもりながら返す。

「お前………アリサ・バニングスだろ?」

「なっ………!?」

なぜこんな男が私の名前を!?そう思った矢先、男が理由を語る。

「何で知ってるかって顔だな。お前何年か前に不良グループに襲われただろ?
 ありゃ俺らの下のグループが実行した事件だからな。
ちなみにターゲットであるお前の情報を流したのは俺だ」

「!!」

「かく言う俺もちょっとしたタレコミで知っただけなんだけどな。
 …そーいやあいつら、あれから連絡ねーけど何やってんだか。
 どーせヘマして捕まったんだろうけど」

思いがけぬ所で事件の首謀者を見つけた。
アリサはあの事件を思い出したのか、がくがくと震えている。

「ひゃはははは!どうした?震えてるぜ天才少女アリサちゃんよぅ?
 強姦されたときのことを思い出してイっちゃったのぅ〜?
はははははははははは!!」

「ぐっ………」

あまりの悔しさにアリサは涙していた。
よりによって恭也の前でこんな話をされるなんて予想外にして屈辱―――
それでも視線だけは目の前の男から外さない。

「お〜怖。そんなに怒ったら可愛い顔が台無しじゃん。
 そこの彼氏も言ってやりなよー」

「…………」

話題を振られた恭也は黙ったままだ。
ただし目線は揺らぐことなく目の前の連れ去られる寸前の少女に向けている。
そんな恭也に気付いた男は

「あっはっは!見ろよアリサちゃん、お前の彼氏の姿を!
 大切な彼女が実は処女じゃないと知ってショックを受けてるぜ?
大事〜に大事〜に育ててきたのに報われねぇなぁ!
そりゃコッチのガキに乗り換えたくもあるぜ!!」

「…………っ!」

男を更に睨むが、自分が優勢と分かっている男はそれくらいでは怯まない。
それでもアリサは泣き叫ぶのだけはこらえた。
それをしてしまったら、自分は完全に負けてしまう。

「彼氏はプラトニックな恋愛で満足ってか?
 残念だったな〜アリサちゃん、自慢のテクニックを披露できなくて♪
経験豊富なアリサちゃんは彼氏を優し〜くリードしてあげたかったんだよな〜
ひゃはははははははははは!!!」

ヒートアップしてきた男を見ながら、『そろそろ頃合か…』といって恭也が一歩踏み出そうとするその直前、

「………よ」

「あ?」

「…ふざけんじゃないわよ!!」

アリサが爆発した。

「さっきから聞いてれば好き放題言ってくれちゃって……
 襲われたからって何よ!
バージンじゃないからって何よ!
彼女も出来なくてひとりで自慰行為にふけってるアンタらに…そんな事言われる筋合いはないわ!!」

「な、なんだと〜?」

「モテないからアダルトビデオで慰めて!
 それでも足りなくなったら誘拐までして!!
ひとりじゃなんにも出来ないチキン野郎に言われたくないって言ってんのよ!!!」

「ぐっ、好き勝手言いやがって……!」

「図星を指されたからってイキがってんじゃないわよ!」

「んだとぉ!?清純そうな顔しといて彼氏を騙してきたテメェが何言ってやがる!」

「……っ!恭也さんは…そんなことで人を判断したりしない!
 あんた達なんかと違って、本当の私を見てくれてる!!」

「本当の私ぃ〜?ひゃはははっ、そりゃアレか?
 お前さんが相当のヤリ○ンだってことをか!?
考えようによっちゃ彼氏の選択は正しいよなぁ!!
経験豊富なお嬢ちゃんならスンナリヤラせてくれるだろうし!!
確かに『本当の私』を見てくれてるよ!!あははははははははははは!!!」

「…っ!!!」

マズイ。もう限界だ。
次に何か言われたら私は大声を上げて泣き出してしまう。
だけど、だけど目の前の少女だけは助けなければ―――

「いいからとっととその娘を離しなさいよっ!!
 私を連れて行きたいなら……そうすればいいわっ!!!」


 バキッ!!

  ドガッ!!

   ドンッ!!


その言葉を聞いた直後の恭也は正に神の如き速さ。
一瞬にして残りの男共を薙ぎ倒したのだ。

「え?」

目の前の男達がいきなり倒れたのを見てアリサは呆然としている。

「え?あれ?恭也さん……?」

「良く頑張ったな」

そう言ってアリサ抱きしめ、頭を撫でる。

「あ……」

「誘拐犯複数……それも自分の過去に関っている相手を前にたったひとりでよく頑張った。
 あの状況で、自分よりこの少女を助けようとする言葉が出てくるのであれば……もう大丈夫だろう」

言われてみれば男達を見ても今はそんなに怖くない。
夢中だったとはいえ、自ら負い目を曝け出せたことがよかったのだろうか。
実際はそんなに簡単なものではないが、『襲われたのなら襲われたで構わない』と思えたこともあるかもしれない。

しかし一番の理由はやはり恭也だ。
あの時自分だけでなく恭也をも罵られたとき自分の中で何かが弾けた。
 
『恭也はそんなことで人を判断したりしない』

自分で言った言葉だが、その言葉が自己が抱えてる確執をすべて解き放ってくれた。
そうだ。
自分が好きになった男性はそんなことで大切な人を嫌いになったりしない。
アリサが一番怖かったのは、強姦されたということで恭也の見る目が変わることだった。
人を外見で判断しない恭也の内面にこそ惹かれたはずだったのに、事件後の憂鬱さも手伝ってかそのことをすっかり忘れていた。
しかし事件から今までを思い返してみれば、今更ながらに恭也がどれだけ自分を護っていてくれてたかがわかる。

なのは達以外に遊ぶ人が居なくてひとりが多かったときも
体育祭や授業参観で、自分だけ父兄が来ず寂しかったときも
夜中、鳴り響く雷が怖くて眠れなかったときも
――そして今、不良たちに立ち向かおうとしたときも

この1年だけでも数え切れない。
端から見れば些細なことかもしれないが、自分にはそれが一番嬉しかった。
大切な人を全力で護るその姿を好きになったのに、護られている時はそれがどれだけ尊いものか気付いていなかった。

けれど今は気付いた。思い出した。
だからアリサは今までの、3年余りの想いを込めて、

「恭也さん…」

愛しい男の腕の中で呟く――

「ありがとうございます」

と。


「ん?」

「いえ、何でもないです」

「そうか」

「ただ―――」

貴方を好きになって良かった、とアリサは心の中で付け足した。






そのあと二人は少女を解放し、男達を警察へと引き渡した。

誘拐犯は自分達以外には誰もいないという犯人達の供述を信じて、事件は幕を閉じたのである。




事情聴取が終わったあと警察の人から送っていこうかと言われたが
何となく歩きたい気分だったので、二人は申し出をやんわりと断った。

「恭也さん」

「…どうした?」

「この歳でバージンじゃないと………恭也さんは嫌ですか?」

「ぶっ!?」

アリサの突然の発言に咽返る恭也。

「あ、アリサ…?」

「あの時はああ言いましたけど、やっぱり不安です。
 他の男を知ってる女の子っていうのは……嫌じゃないですか?」

「………」

アリサのあまりにもな内容に戸惑う恭也だが、その瞳が真剣なことを理解すると、自分も真面目に返答した。

「……確かに男はそういう部分があるかもしれない。
 けれど、例えそうだとしても、それはその人が自分に出会うまでに得てきた人生経験。
その経験がなければ自分と出会うこともなかっただろうと考えれば………それはむしろ好ましい事かも知れない。
アリサの場合は少し違うかもしれないが、俺はアリサとこういう風になれたことを感謝している」

聞く人が聞けば、まるで恋人同士の会話。
恭也の物言いにアリサは笑顔を見せる。

「ほ、ホントですか!?」

「ああ」

「じゃ、じゃあ……ちょっと耳貸して下さい」

モジモジしながら恭也に耳打ちのために姿勢を下げろというアリサ。

「ん?こうか?」

「はい。それでいいです」

そうして深呼吸したあと、恭也の耳に爆弾発言を送り込む。




「(――溜まったら言ってくださいね。『経験豊富』な私が恭也さんを満足させてあげますから♪)」




と、そう言って恭也の頬にキスをする。
真っ赤にしながら妖艶な笑みを浮かべるアリサを見た恭也は胸が高鳴り、思考が完全に停止してしまった――――









――――それから数日後。

アリサが突然高町家を訪れた。


ピンポーン


「は〜い♪」

ソプラノボイスが玄関に響き渡る。

「あ、フィアッセさん。おはようございます」

玄関からは触覚歌姫、フィアッセ・クリステラが顔を出す。
恭也と美由希の幼馴染であるこの女性は『光の歌姫』と称される世界的に有名なシンガー。
また恭也の父・士郎がその身と引き換えに護り抜いた人でもある。
年中世界を飛び回っているのだが、現在は先日のツアーも終えて再び海鳴で翠屋チーフをしていた。

「あれ?アリサ、どうしたの?」

「えーっとですね、あの、恭也さんいますか?」

「恭也?うん、庭にいるけど……とにかく上がってよ〜」

「あ、はい。お邪魔しま〜す♪」


勝手知ったる友人の家。
アリサはスキップしながら庭へと向かう。




――パチン

庭では恭也が愛しの盆栽シリーズの微調整に精を出している。

「ふむ。こんなものか……」

「またやってる……」

――パチン

「…妹よ、まだお前には和の真髄がわかっていないようだな」

「そんなのわかりたくないよ……」

――パチン

「そんなことでは御神の剣士は――――む。アリサか?」

後ろを振り向くと、『だ〜れだ?』をしたかったのか、両手を中空に構えたままのアリサがいた。

「あぅ……バレちゃいましたか」

チロッと舌を出しながら微笑む。

「今日はどうかしたのか?なのはなら朝早くからフェイトさんとアルフさん、それに久遠との4人で出かけてるが…」

「あれ?そうなんですか……」

今日二人が一緒に遊ぶということは知っていたので、自宅にいると思ったアリサはちょっと残念そうだ。

「……うん、まぁいいか。
 それよりも今日は恭也さんにお話があってきたんです」

「………俺に?」

「はい。ま、お話というよりも…宣戦布告?」

「いや、なぜそこで俺に聞く」

「あはは。とりあえず今日は一言だけ言いに来たんで。
 フェイトがいないのは残念……いや、かえってよかったのかな?」

アリサがひとりでうんうん言ってる内に、アリサの来訪に気付いた高町家の人達も庭に集まってきた。

「……アリサ?」

恭也に呼びかけられ、はっとなる。

「あぁぁぁ、すみません。―――それじゃ聞いてもらえます?」

「?あぁ…それは別に構わんが」

首を傾げる恭也を見ながらアリサはひとつ深呼吸―――そして

「じゃあ、言いますね。私―――――」





 「恭也さんのこと、大好きです」






「「「「「「……………」」」」」」







「「「「「ええええぇぇぇぇぇーーーーーーーーーー!!!!???」」」」」





桃子、フィアッセ、美由希、晶、レンの絶叫が響き渡る中―――

「……今日もいい天気だな」

恭也は現実逃避をしていた。















「………………ということがあったんです」

アリサと体験した出来事を秋子に聞かせた恭也は一息つく。

「………」

「確かに秋子さんがおっしゃるように、俺の周りには素晴らしい女性達が沢山います。
 フィアッセに美由希、那美さんに忍、晶、レン…」

「……その子たちではダメだったの?」

「いえ、先程も言いましたように皆魅力的な女性達です。
 告白して付き合えば俺は……俺達は幸せになれたでしょう」

「じゃあどうして?
 恭也君も彼女達を愛していたのでしょう?」

「……そこが違うんです」

「え?」

「2年程前の話ですが―――色々と心境の変化があって、俺は周りを少し客観的に見れるようになりました」

突然話が飛んだように見えたが、これは関係のある話であるとわかると頷く秋子。

「そんなときある人に出会い、その人と話しているうちに初めて気付きました。
 周りの女性達が俺をひとりの男として好意を抱いてくれている、と。
 男としてこんなにも魅力的な女性達に好かれてると知ったときは、さすがの俺も嬉しくなりました」

ただ、と続ける恭也。

「俺は彼女達が好きです。護ってやりたいとも思う。
 しかしそこに彼女達と同様の恋愛感情があるかと聞かれれば、恐らく『ない』と答えるでしょう」

「周りの女性達も、俺が自分達に対してそういう感情を持っていないことをわかっている。
 色んな手段で俺を遊びに誘ったりしたのも、自分を好きになって欲しかった故のことだと思います」

「けれど、どんなにいい雰囲気になっても彼女達は自分達から決して『好き』とは言わず、
 それでいて俺に自分を好きになるようにし向け、俺から好きだと告白させようとしていた。
 まるで―――――自分は危険を冒さず、安全な所から大金をせしめるように」

「勿論、周りから言われてるように鈍感・朴念仁であるため
 俺が直球と言っていいほどのアプローチにも気付いてなかった可能性もあると思います。
 皆の本心を知っているという、卑怯な状況もあるかもしれません。
 贅沢な悩みだということもわかります。
 けれど―――」

「けれどそれなら、間接的なアプローチがダメなら、どうして直接『告白』しなかったんだと言いたかった。
 告白するのは男から、なんていうポリシーでも持っているのか、自ら告白はせず俺からの行動をひたすらに待っている。
 ―――そんな彼女達の行動に一時期怒りを覚えたことさえあります」

ぎり、と唇を噛む。

「今の大切な関係を壊したくない、という気持ちもあるでしょう。
 しかしそんなことでは恋愛に限らず、人は何も出来ないのではないでしょうか………?」

秋子は恭也が綴る悩みに顔をしかめたままだ。
確かに恭也の言っている事は、本人も言っている通り贅沢な悩みかも知れない。
『俺と付き合いたいなら、それ相応の行動を見せろ』と言ってるわけだから。

しかし、だからと言って恭也の言ってること全てが理不尽なわけではない。
むしろ恭也の言い分の方が理に適っている。
女だから、恋する乙女だからといったことを免罪符に、彼女達は『告白』という大きな責任を自分の好きな男性に押し付けていたのだから。

「俺は告白を断ったからといって、急に話もしなくなるなんてことはしないと断言できる。
それは『俺を好きになってくれた』女性達の方がわかってくれてるハズなのに………
振られた方が気まずく思ってしまい、以降、友人と接するというのが難しいという気持ちも分からないではないですが
結局、彼女達は俺を好きだという前に『気まずくなる自分』がイヤで告白してこなかったとしか思えない」

「しかし、アリサだけは違った。
 彼女は年齢差があるにも関らず、ある意味周囲の誰よりも厳しい状況を理解した上で、ハッキリと俺に好きと言ってくれました。
 それでいて自分のことを好きになってもらおうと、男として気持ちの良いくらいの行動を示してくれる。
 ―――そんな彼女が会う度に魅力的に見え、俺自身、最近になって恋愛感情だと自覚できるほどにもなりました。
恐らく彼女は俺が恋人として彼女を選ばなくても、大切な友人としてその後も付き合っていけると思っています」

そう言う恭也の顔はとても嬉しそうだ。

「………先程の秋子さんのお話で言えば、俺を含めて当時"覚悟"があったのはアリサだけ、ということになりますね」

恭也は苦笑する。
つい非難してしまったが、彼女達が素晴らしい女性達であるのには間違いないし、
今にして思えば先程までの自分と同じだったということだろう――

「そんなアリサだから小学生と言えども……いえ、年齢は関係ないですね。
 そんなアリサだからこそ―――――――俺は心惹かれた」

「告白してきたから意識したわけではない、とは言い切れないですが、
 俺は今アリサを一番魅力的な女性だと……一番好きな女性だと思っています」

そう言って前を見詰める恭也の横顔は、子持ちの秋子ですら見惚れてしまうほど凛々しいものだった。

「なるほどね」

高鳴った鼓動をなんとか抑えて答える。
秋子は恭也の心情を理解できたようだ。

「そこで現在の問題点としては………恭也君がフェイトさんをも意識してることにあるわけね?」

「っ……そうです」

図星を指された恭也は少し焦る。

「実はフェイトさんを意識したのはアリサより前なんです。
 恋愛感情にまで至ってはいませんでしたが、あの人の存在そのものを自分は好ましいと思っていた」

「…けれど、その感覚はどこか『いいな』と思う程度。
 『好き』という感情には少し遠かったと思います」

どこか自嘲気味に呟く恭也。

「…しかし」

「しかし?」

「しかし今日、みきちゃんとの一件を目の当たりにしてその気持ちは変わりました。
 この感情はアリサに抱いている感情と同じ。
 俺は彼女を『好き』になったと思います」

2人の女性を好きになる―――端から見ればただの節操なしに見えるが、
目の前の男性がそんないい加減な気持ちでないことは十分に感じられる。

「……それで今恭也君はどちらを選ぶかで悩んでるのか。
 心情的には返事を待ってるアリサちゃんを何とかして欲しいけど…さすがにこればっかりはね。
 でも……わかってるとは思うけど、どんなに明るい顔してても待ち続けるってのは辛いことなのよ?
アリサちゃんをかばうわけじゃないけど決断をあまり先延ばしにはしないことね」

ええ、と頷く恭也。

「あとフェイトさんと違って、アリサちゃんを選べば100%付き合えるからって理由で選んだりしてはダメよ。
 まぁ恭也君はそんなことしないだろうけど」

実際はどちらを選んでも100%付き合えてしまうのだが、さすがにそれを言うわけにはいかない。

「……えぇ、さすがにそれは二人に失礼ですし、俺自身も納得できないでしょう」

「そうね。振られてみるのもいい経験でしょうし」

と話す秋子に恭也も、そうですね、と笑いながら返す。

「それじゃあフェイトさんを好きになった理由は?」

「フェイトさん……ですか。
 改めて意識したのは今日のみきちゃんとの出来事ですけど………最初に意識したきっかけは―――」

「…………」

「………?」

突然黙った恭也を不思議に思う。

「いえ。この話はやめておきます。これはフェイトさん自身の問題に繋がることなので」

きっかけを話すには、フェイトが魔法少女である所から話さなければならない。
それを目の前の女性に告げるのは第三者の口からであってはならないからだ。

「そう……」

「あ、いや、決して秋子さんを信用してないとかいうわけではありません。
 これはフェイトさん自身が秋子さんに打ち明けなければいけないことなんです」

「ふふ。わかってるわよ。
 そもそもそうじゃなきゃ、アリサちゃんの話もしないだろうしね」

「確かに」

苦笑する二人。

「……フェイトさんが秋子さんたちに秘密を打ち明けたのならば、そのときは改めてお話いたします」

「わかったわ。
 ……それにしても早くアリサちゃんに会ってみたいわ〜♪」








―――海鳴シーサイドマンション前。

「送ってくれてどうもありがとう」

「いえ、女性の一人歩きは危険ですから」

「………貴方のそういう所、今時珍しいわよね。
 下心がまるでないし。
皆が好きになったのもわかるわ」

「………」

恭也は何も言わない。どうやら照れているようだ。

「それに凄く格好いいし♪
 うーん、私もアリサちゃんに続いて参戦しようかしら?」

「え!?い、いや、それは……」

「そうよね…子持ちではロリコンの恭也君のハートは射止められないわよね…ううぅ」

わざとらしく俯く秋子。
演技とわかっていても女性の涙は男に辛い。

「い、いえ、そういうことではなくてですね…。
 大体旦那さんがいる人が何を言ってるんですか」

ため息を吐く恭也だが、秋子から返ってきた言葉は少し予想外だった。

「言わなかったかしら?主人はもういないのよ」

「………」

「つい最近のことでね。
 美樹もやっと落ち着いたんで心機一転、引っ越してきたってわけよ」

どうやら彼女の伴侶は既に他界しているらしい。

「……すみませんでした」

辛いことを思い出させてしまったと謝罪する恭也。

「いいのよ。あの人がいなくなったのは悲しいけれど…私には美樹がいるもの」

「……そうですね。あんなにいい娘なら……」

「うん?恭也君、ひょっとして美樹まで狙ってるの?さすがにそれは…」

「………」

未だにロリコンネタを引っ張る秋子にうな垂れるしかない恭也。
そんな恭也に秋子は続けた。

「うーん、どうして私の周りの格好いい男性ってのはこんな趣味の人達ばかりなんだろ?
 まぁそれで結婚することもできたし、結果的には良かったのかもしれないけど何か複雑だわ…」

「え?」

秋子の呟きに疑問を感じた恭也は尋ねる。

「あの……女性にこんなこと聞くのは失礼なんですが……秋子さん、おいくつですか?」

「私?19よ」

「じゅうきゅう!!?」

「むっ。何よ、そんなに歳食ってるように見える?」

頬を膨らませて恭也を睨む秋子。
その表情は間違いなく10代を思わせる顔だ。

「い、いや、確かにお子さんがおられるようには見えませんでしたし、学生っぽいとも思ってましたが…
 話し方やみきちゃんの存在で、ウチの母のようなタイプかと……」

「恭也君の母親?」

「……もの凄い童顔ということです」

なるほどね、と秋子は笑う。

「まぁ確かに主婦の話し方は板についてると思うわ。
 これでも結婚4年目だしね〜」

そこで恭也はまたひとつの疑問を抱く。

「……そういえば、みきちゃんって何歳なんですか?」

「美樹?今度の誕生日で5歳になるわ」

「今度5歳? ………ということは、秋子さんと旦那さんって……」

「そうよ〜。結婚したのは16歳の誕生日だけれども、その前に美樹を身篭ったってことねん♪
 だからさっき言ったじゃない。
『どうして私の周りの格好いい男性ってのはこんな趣味の人達ばかりなんだろ?』って」

恭也は絶句した。

「……………………………えーと、つまり」

「そういうこと。ウチの旦那も君と同じ『ロリコン』ってわけよ♪」

「……………」

「ちなみに付き合い始めた当時の年齢は私が13で旦那は21」

「……………」

恭也はあんぐりと口を開けている。
しかし先程翠屋で聞いた秋子の話が実体験に基づくものであることは理解できた。

「いや〜まさか8つも上の男の人に突然押し倒されるなんて夢にも思って無かったわ。
 あ、当然嬉しかったのよ?子供の頃からお兄ちゃんって慕ってる人だったからね」

そういう秋子の顔は本当に幸せそうだ。

「でも私は発育が良い方じゃなかったから、そういう夜の事に関しては不安だったんだけど……
 そんな不安を吹き飛ばすほどの変態趣味っぷりだったわね、アレは。
むしろ成長してスタイル抜群になったら捨てられるんじゃないかと思ったほどだわ」

うんうん、とひとり頷く秋子。

「……………」

恭也は開いた口が塞がらない。

「私が知る中で、私よりすごい状況の人は知らないけど……近いうちに現れそうよね?」

といって、恭也を見る秋子。

「えっ………と、それはもしかしなくても、俺……ですか?」

「何言ってるの。恭也君以外に誰がいるのよ。
 フェイトさんにアリサちゃん、どちらを選んだとしても君らの年齢は12と23。
新記録達成よね〜♪」

「…………」

「あ、でもそうなったとしても抱く時は優しくね?
 いたいけな中学生に大人の男性のモノは結構辛いのよぅ。
経験者は語る〜〜〜なんちゃって♪」

「…………」

経験者からの忠告。
非常にありがたいものであるはずが、その言葉を聞いた恭也は
せめて二人が目の前の最短記録である13歳を超えるまでは、付き合うことをやめたほうがいいのではないかと真剣に悩んだ。

――――決して世間体を気にしたわけではない、と自分に言い聞かせて。











「………………………………ふぅ」

秋子とのやり取りを思い出し、ため息をつく恭也。

「そう………だな。
 アリサはもう1年近く俺の返事を待っている。
1年近くも俺は彼女を………生殺しにしている」

二人の女性を好きになってしまった―――――それに後悔はない。
しかし二人と付き合うことは出来ないことも事実。
そうである以上、必ずどちらかを選ぶ時が来る。

「…秋子さんに会えたのはこれ以上ないきっかけ。
 ――――答えを、出そう」

すぐに決めることは出来ないが、近い内に必ず結論を出す。
そう決意した恭也は晴れやかな顔をし、フェイトと一緒に働く明日からの仕事を楽しみにして眠りに就いた。


「しかし深夜の鍛錬にも出ないとは……美由希め、どこに行ったんだ」


―――未だ翠屋店内に転がっている美由希を忘れて。








 第5話をお届けしました、幸のない物書き さっちんです。
???「………………………」
 え?ど、どうしたんだ?
???「………………………」
 ううぅ……何か言ってくれよぅ。
???「………………………また、これ系のネタか。
    アンタ頭の中は桃色一色じゃないの?」
 ま、待て!これはしょうがないだろ!?アリサと言えばやっぱりこの話では!?
???「まぁ確かにそうかも知れないけど……そもそもこのアリサは
    ローウェルじゃなくてバニングスなのよ?その辺わかってるわよね?」
 …………………
???「わ・かっ・て・る・わ・よ・ね?」
 …………………
???「ふふふ。どうやらお仕置きが必要のようね」
 いいいいいいや、ちょっと待て。冷静に話し合おう。
ローウェルだろうがバニングスだろうが俺の愛するアリサに違いはないというこの想いgへぶっ!?
???「うふふ。日本語って便利ね」
 (……ピクピク……)
???「それはともかく……アリサが襲われた所が何か適当ね」
 うーん、そこが上手く書けなかったんだよなぁ。
『襲われる』というシチュエーションで思いついたのはその人物がクラス内とかで孤立してることなんだけど…
リリカルの設定上、アリサを孤立させるのは難しかった。
最初はアリサを孤立させたクラスメイトに恭也が怒りを覚える描写もあったんだが却下。
それに仮にクラスメイト達に嫌われるような設定をしたとしても
本編と違ってなのは・すずかという友達がいる中、果たしてその程度で孤立できたかなぁと。
そんなこと考えてたら単純に通り魔(?)に襲われた風な感じが一番無難かと思ったわけだ。
???「まぁそんなことはどうでもいいわ」
 うそっ!?今までの説明は!?
???「ひとまずこのSSの方向性としてはアリサorフェイトルートなわけね」
 そうだな。書いてる内に段々とアリサが可愛く見えてきたのだよ。
特に最後の耳打ちシーンとセリフは俺の欲望を忠実に再現したと言っても過言ではない。
一度くらい言われてみたいものだ。
???「確かに現実的にはあまりなさそうよね。アンタ(作者)が言われたことあるのってせいぜい……」
 ま、待て。それは言うな。言うんじゃない。いや、言わないで下さい。
???「………まぁいいでしょ」
 ほっ…。
???「で、結局ヒロインはどっちなの?」
 決めかねてる。ふふん。
???「だから威張るな!」ドゲシッ!
 へぶぅっ!?
???「どっちでもいいから、とにかくきちんと最後まで仕上げなさい」
 わ、わかりました……
???「それじゃ、また次回〜♪」
 それでは〜。




※誤字脱字、設定ミス等ありましたらご連絡頂けると幸いです。





うーん、真剣なアリサの気持ちと。
美姫 「それを受けて真剣に考えていた恭也の胸のうち」
第三者の秋子さんに語る事で、恭也も新たなものが見えてきたのかも。
美姫 「果たして、恭也はどんな決断を下すのか」
次回も楽しみにしてます。
美姫 「待ってま〜す」



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