※このお話はPCゲーム「とらいあんぐるハート3」とTVアニメ「魔法少女リリカルなのは」の融合作品です。
 しかし基盤となるのは「とらいあんぐるハート3」なので、士郎は死んでますし、恭也はALLエンド&フリーです。
 「魔法少女リリカルなのは」はキャラ追加のみを目的としたと捉えてください。







―――翠屋店内事務室。

「あ、なのは、お疲れ〜……」

そこにはぐったりと燃え尽きた翠屋店長・高町桃子がいた。

「あはは……お疲れ、お母さん。今日はすごかったね〜」

「ホントよ〜もうっ。厨房は2人も少ないし、バイトの子も急用で来れないなんて言うし…。
 そんな時に限ってお客様は引っ切り無しだし。
やっぱりもう一人厨房で働ける有能な人が欲しいわぁ〜。何処かにいないかしら」

パティシエ…とまではいかなくても、桃子が納得するレベルの職人となるとそう簡単には見つからない。
それがわかっているのか、なのはも苦笑する。

高町桃子―――恭也たち高町家の大黒柱兼喫茶翠屋の店長をしている女性。
過去に有名ホテルでチーフパティシエを勤めたほどがあるほどで、その腕前は海鳴に留まらず全国レベルで有名である。
恭也の父である士郎とはそのホテルで出会った後に結婚したが、なのはを儲ける直前に士郎が他界したため
それから女手一つで高町家を支えてきた見た目も中身もパワフルな人である。
高町家の住民達は彼女がいるから笑顔で居られると言っても過言ではない。
ただし他人を、特に恋愛ごとに関してからかうことを至上の喜びとしている節があり
恭也を取り巻く恋愛事情のチェックぶりは、既に彼女のライフワークの1つと言えるだろう。

「ああぁぁ〜もう〜、ホントに疲れた〜〜。
早く帰ってレンちゃんのご飯食べたいわ〜〜」

「そうだね。レンちゃんは昨日から張り切ってたから期待してていいと思うよ」

「あら、そう?今日は何かしらね。
 お肉が特売だったから、すき焼きなんかだったりして」

そう言いながらなのはを見る桃子は後ろに誰か居ることに気付いたようだ。

「…あれ?どなたかお客さん?」

桃子の前に遠慮がちに出るフェイト。

「あ、あの。桃子さん、こんばんは」

「あ、フェイトちゃん!? やだ、私ったらみっともないとこ……」

『あはは〜』と苦笑しながらポリポリと頭を掻く桃子。

「あれ?でもどうしたの?こんな時間に」

尋ねる桃子になのはが代わりに答える。

「今日はフェイトちゃんがお母さんにお願いがあるって言うから連れて来たんだ」

「お願い?」

「……はい。あの、実は……アルバイトの面接を受けたいんです」

「は?アルバイト?」

「は、はい」

「………」

「………」

「……理由を聞いてもいいかしら?」

「えと、実は―――」












『 Dreieck Herz -Lyrical- 』 ACT.04












――――夜道を二人で歩いていく。

「ところで恭也君」

「はい?」

「貴方は……本当に彼女達が好きなの?」

彼女達――それが誰を指しているかは明白だ。

「もう一人の子は会ったことないからわからないけど……
 話を聞く限りフェイトさんに負けず劣らず、見た目より大人びた子だということはわかるわ」

黙って頷く恭也。

「でも、貴方ほどの容姿にその実直なまでの性格―――
 美由希ちゃんを始め、きっと今までにも歳の近い子で、綺麗な優しい子たちとも出会ったはずよ?
それなのに………どうしてその二人なの?」

「……………」

恭也は考える。
誰にも明かしたことの無いこの胸の内、今日会ったばかりのこの女性に話すべきなのか。

「まぁ興味本位な質問なんで、別に聞き流してもらって構わないわ」

秋子はそう言うが、今日自分がこの女性に救われたのは事実。
再び相談するようで気が引けるが、何よりこの女性に嘘はよくないと判断した恭也は―――

「そう、ですね。
 ――――よろしければ聞いていただけますか?」

自分の想いを全て話そうと思った。














―――― 一時間後。

舞台は戻って翠屋。

昨日のアルフとの会話から、昼休みの話までを桃子へと聞かせた。

「―――というわけなんですけど『採用♪』……えっ?」

「だ・か・ら、採用♪」

「い、いや、ちょ、ちょっと待って下さい。
 履歴書も何も見ずにそんな勝手に決めていいんですかっ?」

履歴書を持っていないくせに一般論を掲げるフェイト。

「え〜、なんでダメなの〜?」

なぜか店長がダダをこねる。

「な、なんでと言われましても…」

店長がOKを出している。
そこだけ見れば何も問題はないだろうが、やはり心情的に納得できないようだ。
横に居るなのはは、この展開が読めていたとはいえ苦笑するしかない。

「うーん、じゃあ採用理由を言ってあげましょうか?」

「…………お願いします」

「理由は」

「…理由は?」

「ウチの子達と仲良しだからよ♪」

「……はっ?」

フェイトが聞いた採用理由は、経営者としてあるまじき理由であった。




















「えっと―――よくわかりません……」

「……フェイトちゃんは、ウチの子達のこと好き?」

「はい」

迷いなく答えるフェイトを見て桃子は満足そうに頷く。

「うん、ありがと♪
 でね、自慢じゃないけどウチの子達は人を見る目ってのは確かだと思うのよ。
その子達がフェイトちゃんのことを好きで、フェイトちゃんも同じ職場で働くウチの子達を好き――
楽しく働くには十分な条件でしょ?」

「で、でもっ、私、口下手だし、愛想だって悪いし『大丈夫よ』」

「貴女が思ってるほど、貴女は無愛想ではないわ。
 いつもなのは達と話してるときのような顔が出来ればたちまちウチの看板娘よ〜♪
……いい?そもそも無愛想っていうのはウチの長男みたいな子の事をいうのよ。
まったくあの子はいくつになっても鈍感・無愛想・ぼ『朴念仁……か?』……へ?」

そこには今しがた自分が言った通り、秋子を送り終えた『無愛想』な長男が立っていた。

「きょ、恭也?」

「どうした高町母。まだ面接は終わっていないぞ。
 あとで鈍感息子からのマッサージも残っているんだ。仕事は早く終わらせようじゃないか」

夕方の件を忘れていない恭也は桃子に止めを刺す。

「あ、あら。恭也早かったわね?
 さっきのお客さんを送ってきたんでしょ?」

冷や汗を掻きながらもなんとか話を逸らす桃子。

「ああ。『いいお店ね。また行かせてもらうわ』という言伝を預かっている。
 俺は尊敬したぞ高町母。
注文もしていない一顧客から、また来店したくなるような雰囲気のあるお店を作り上げた貴女を」

「そ、そう?あはは、やっぱり桃子さんはすごいでしょ?」

恭也が予想外に尊敬してくれてるので、制裁はなさそうだと思ったが

「ああ。しかしそのお店を作り上げるのに毎日遅くまで大変だろう。
 『鈍感』な俺は今まで気付かなかった。
なので今までの分も含めて、母娘共々、今日のマッサージは特に念入りにしてやろうじゃないか」

その言葉に顔にタテ線が見えるほど青褪める桃子。
後ろではなのはもガクガクと震えている。

「……………」

震えている二人を尻目に、恭也は事務室の奥にある椅子を取りにいき
それを広げるとアルバイト希望者の横へと座った。

「フェイトさん」

「あ、はい」

「恐らく母から採用通知はもらったと思いますが……何か問題でもありましたか?」

「え、えっと」

フェイトは先程桃子にも言ったような、自分がアルバイトに向かない理由を話す。
自分からアルバイトの面接を受けておきながら矛盾してる気はするが。


「………そんなことはない。
先程も言ったように、俺は貴女の素晴らしい所を沢山知っている。
翠屋店員として、友達の兄として、俺は貴女と一緒に働きたいと思っています。
………ですから、フェイトさんが職場の仲間に不満さえなければ……是非アルバイトをお願いしたい」

そんな恭也に再起動を果たした桃子が続ける。

「そうよ〜フェイトちゃん♪
 口下手なんてのはね、私が言うのもなんだけど些細な問題。
貴女が楽しんでバイトをしてくれれば、お客様にもそれは必ず伝わるから―――」

「そうそう、それに周りには私やお兄ちゃん、お姉ちゃんもいるんだから
 ちょっと失敗したって大丈夫だよ♪」

なのはも、『友人と一緒にバイト』というシチュエーションに憧れてるのか、一生懸命口説き落とす。
目の前の親子の思いが伝わったのか

「え……と、そ、それでは改めて………………よろしくお願いします」

頭を下げるフェイトだが、思い出すように言葉を続けた。

「あ、それと……お給料のことなんですけど……」

「うん?」

「お金がないので………日当にして頂けませんか?」

「日当?あ、そっか。そもそもそういう理由で来たんだし」

「………ダメでしょうか?」

「うーん、ちょっと難しいかなぁ。
 ウチの経理上、締めの日とかは決まってるし……でもそれだとフェイトちゃんが困るのよね〜…」

うーんうーん、と悩んでいた桃子は突如『名案よ♪』という顔をして言った。



「じゃあ、明日からご飯はウチで食べなさい♪」

「「「は?」」」

桃子以外の3人がハモる。

「さっすが、桃子さん!名案よね〜♪」

「あの……それはどういう……?」

「ん?
 食事するお金が必要。
でもバイト先は日当制が無理。
じゃあ翠屋で賄いを受ければいいじゃない〜♪」

一番最後の"じゃあ"以降の内容が、いきなりぶっ飛んでいるが桃子は気にしていない。

「で、この場合フェイトちゃんの賄いってのはフィアッセと同じ扱いね。
 つまり、高町家でのお食事にご招待〜〜♪」

「えっ、ホント?やった〜〜♪」

フェイトと一緒に食べれるのが嬉しいのか、喜ぶなのは。

「ええっ?で、でもそんなご迷惑……」

「迷惑なんかじゃないわよ、フェイトちゃん。
 さっきも言った通り、貴方達はお互いに好き合ってる者同士。
晶ちゃんやレンちゃんにしたって、貴女の事は気に入ってるんだから遠慮は無用よ〜」

「…………」

「だ・か・ら。
 明日から朝と夜はウチで食べて、お昼は晶ちゃんたちにお弁当作ってもらうから♪
あ、勿論食べるときはアルフちゃんも連れてきてね〜」

あれよあれよと言う間に決定してしまったフェイトの台所事情。
展開が早過ぎてついていけていない。

「何なら、しばらくウチで暮らしてもいいのよん。
 というか是非そうしなさい♪」

桃子の言葉に更なる期待を持つなのはだが

「あ……いえ、さすがにそこまでは。
 それに義母さんたちからいつ連絡があるかもわかりませんし……」

ちょっとガッカリした。

「そう……残念だわ〜。
 でも、たまには泊まっていってね♪」

「あ、はい。……ありがとうございます」

量・質ともに高レベルで、なおかつ恭也と一緒である高町家の食事と考えれば、これほどの好条件はないだろう。
昨日から懸念していた食事の件は、多少強引な決定であったものの、ひとまず安心できそうだ。

「じゃあ明日からは集合場所をウチに変えた方がいいのかな?」

なのはは明日からの登校について思いを馳せた。

「そうね〜。アリサちゃんとすずかちゃんはちょっと遠回りになっちゃうかもしれないけど……
 まぁ集合場所までは車で来てるからそんなに変わらないでしょ」

桃子の言い分に納得したなのはは早速二人にメールしているようだ。

「とまぁ、そんなわけだから明日からフェイトちゃんはアルフちゃんとウチに来てね〜♪
 いつもよりちょっと時間早くなっちゃうけど……大丈夫かな?」

「はい。それは大丈夫です」

リンディ以外は早起きな家庭なのでその辺りは問題ない。

「はい、決まり!
 じゃあ早速お店の皆にも紹介しようね〜。
ほらほらフェイトちゃんはコレに着替えて〜」

そう言って翠屋の制服を渡す桃子。

「あ、わかりました…」

「フェイトちゃん、着方わかる?ちょっとややこしいんだ、それ」

「え?……………ホントだ。何か不思議な構造……」

「じゃあ私と一緒に着替えよう。私も久しぶりに制服着てみたいし〜♪」

「…うん。お願い」

そう言って着替えだす女子中学生2人。
しかし彼女らは忘れている。

「で、恭也はどこまで二人の着替えを見てくの?」

―――この場にまだ男性が残っていることを。

「「―――!!」」

桃子の言葉が聞こえた二人はバッと後ろを振り向く。
そこには顔を真っ赤にして立っている恭也がいた。

フェイトは下はスカートと普通だが、上の制服は脱ぎ去られ下着一枚という格好である。
なお、なのははまだ服を着たままだ。

「…………」

恭也は動かない。いや、動けない。
この場では何を言っても状況は自分に味方しないからだ。
ならば自分に出来るのは沈黙を守ることのみ―――

「あらら、フェイトちゃんも大胆ね〜♪
 最もこの朴念仁にはそれくらいしないと効果ないけど。
フェイトちゃんもわかってるわね〜♪」

このこのっ、という感じでフェイトの脇腹を肘で突く桃子。
しかしフェイトはそれ所ではない。

「(あああぁぁぁぁ〜〜……。今朝に続いて今度は上まで…今日一日で恭也さんに下着姿全部見られちゃった……)」

もう、ホントに今日何度目かわからないが真っ赤になるフェイト。
1回目は不可抗力だが、2回目は完全に自業自得だ。
ちなみに恭也は着替えが始まったときに出て行こうとしたのだが、自分とドアを挟んだ位置に2人がいることと、
2人の行動が迅速すぎたため、機会を逃してしまったのである。

「ほら。朴念仁の息子もフェイトちゃんに釘付けよ〜
 それにしても…ちょっと見ないウチにスタイル良くなったわね〜。
今どのくらい?」

「えぇっ?」

「桃子さんにこっそり教えてみて?」

そう言って耳元をフェイトの顔に近づける桃子。
フェイトは困惑するばかりだ。

「ほらほら、遠慮しないで♪」

『何を遠慮するんだ』と突っ込みたかった恭也だが、彼の目線は桃子よりもフェイトの上半身に注がれている。
そのフェイトは逃げられないと思ったのか、しぶしぶ話し出した。
どうでもいいが、フェイトの上半身は未だに下着一枚であることを誰も突っ込まない。
本人も忘れてるのだろうか。

「え………と。………………………………………………………………です」

「えっ?ホントに? じゃあ去年は?」

「……………で、…………は…………………です」

「きゃ〜〜♪フェイトちゃん、その歳ですごいわね〜♪
 これは将来が楽しみだわ〜♪
恭也も喜ぶわよ〜♪」

語尾全てに音符マークがつきそうなほどのリアクションを見せる桃子。
恭也は憮然として答える。

「なぜ俺が喜ぶんだ」

「フェイトちゃんの発育がいいからよ♪」

「だからなぜ、それで俺が喜ぶんだ」

「え?だってアンタさっきからフェイトちゃんの胸ばかり見てるじゃないの」

「「――っ!!!!」」

二人が硬直する。
桃子は呆れたような顔をして、

「アンタ、あれだけ凝視しといて気付かれてないとでも思ったワケ?」

「…………」

まったく、と言って質問…いや詰問を続ける桃子。

「で?で?」

「………で、とは?」

桃子に気付かれていたのが悔しいのか、むすっとした感じで答える。

「触ってみたいと思った?」

「…っ!な、なにを言う!そんなことあるわけ……っ!」

「…ないワケないでしょう。
 アンタ23にもなって、一度も女性経験がないのよ?
それくらいの欲求が湧いてこないなんてあり得ないわ。
部屋にもそれらしい本なんてひとつもないし。
桃子さんはアンタがどうやって処理してるか心配で心配で……」

「………余計なお世話だ。
 御神の剣士には、己を殺して理を全うするなど朝飯前」

「なるほど。つまり、触ってみたい欲望は湧いてきたもののなんとか理性で抑えたってワケね」

「……………」

墓穴を掘った恭也。
桃子はしたり顔で恭也を見ている。

「あ、……あの」

そこに艶姿を晒しっ放しのフェイトが桃子へと尋ねる。

「ん?」

「あの、恭也さんって………お付き合いしたことないんですか?」

「「「え?」」」








「―――え?なになに!?フェイトちゃんはお付き合いしたことあるの〜?」

桃子がこれでもかっ!というくらい嬉しそうな顔で聞いてくる。

「えぇっ!?い、いや、私はありませんけど……恭也さんがないっていうのは、意外というか何というか……」

フェイトが恭也に出会ったのはほんの3年ちょっと前。
そのときの恭也は既に二十歳だったし、周りにいる女性達も魅力的な人達ばかり。
だからフェイトは、恭也はあの中の誰か、もしくは自分は知らない誰かと付き合ってたことがあるだろうと思っていた。

「む………俺はそんなに遊んでそうに見えるか?」

「…アンタ、過去に付き合ったことがあるってだけで、なんでそうネガティブな思考になるのよ…」

「……そんなつもりではなかったのだが……まぁとりあえず俺は今まで女性と付き合ったことはありません」

「……そうなんですか」

少し嬉しそうに呟くフェイト。
そんな彼女を翠屋店長が逃がすハズがなかった。

「あれ〜?フェイトちゃん、どうしたの〜?
 何かホッとしてるわね〜〜?」

「い、いえっ、そそそそんなことは」

ブンブンと首と両手を振って否定しているが、2人にはバレバレだ。

「………で、でででも恭也さんくらい格好良かったら、一度くらい付き合ったことありそうなんですけど……」

見てて悲しくなるくらいの話題転換だったが、桃子もちょっとかわいそうになったのか乗ってあげることにした。

「そうなのよ〜。この歳で一度もナシ!
 何て言うか男として終わってる?みたいな♪」

「………」

何とか言い返したいが、反論できるだけの材料がないので黙るしかない恭也。

「そうだ!フェイトちゃんが協力してくれるなら桃子さんも安心〜♪
 ねぇねぇフェイトちゃん。この子、もらってくれない〜?」

「え……えぇっ?」

突然息子を差し出される恋する乙女。

「だってこの子、今日このまま帰ったらフェイトちゃんの下着姿を妄想して、ひとり悶々と過ごすのよ?
 そんな寂しい夜を息子に過ごさせたくないじゃない〜〜」

テンション上がりまくりの桃子。3人は完全に置いてけぼりだが、

「「「…………」」」

「あ、でもこのままいくとフェイトちゃんが大変かな?
 23年間溜めに溜めた情動を、フェイトちゃんの発展途上の身体では受け止めきれないかも。
フェイトちゃん、申し訳ないけど今日はお触りだけで我慢してもらえるガフッ!!」

「……高町母よ。戯言はその辺にしておけ」

息子の鉄拳制裁が下った。

「〜〜〜〜っっっっっ!
 ったいわね、何すんのよ!」

「くだらないことを言うからだろう…」

「くだらなくなんてないわよ。
 女性の身体を触ってみたいと思うのは男性が持つ普通の感情。
逆に女性だって好きな男性には触られたいと思ってるんだから」

「……それは好き合ってる者同士の話だ。今の場には些か不適切だろう」

「不適切じゃないわよ。
 アンタだって、さっきフェイトちゃんの胸を見て欲情しちゃったくせに」

「………それは俺の一方的な感情だ。
 フェイトさんが触られたいということには繋がらん」

「……アンタも相変わらずねぇ。
 まぁこの話はいいわ。とりあえずアンタはほら、出てった出てった」

「わかっている」

そう言って事務室を出て行く恭也。
部屋には女3人が残った。





「はぁ〜〜〜〜あの子もちょっとはマシになったけど、相変わらずねぇ」

桃子がやれやれ、といった感じで呟く。

「ホントホント。2年くらい前から鈍感な所はちょっとだけ治ったけど……朴念仁は相変わらずだね」

娘であるなのはも同意する。

「……やっぱりそうなんですか」

恭也の男らしい部分は何度も見たが、皆が言うような鈍感・朴念仁な所は余り見たことの無いフェイトが言う。
とは言っても、セリフからわかるように薄々感じてはいたようだ。

「あ、フェイトちゃんもようやく気付いた?
 ダメよ〜そんな事じゃ。アリサちゃんに負けちゃうわよ〜」

「…………」

桃子の何気ない一言であったが、フェイトには少し重い問題だった。
アリサが一年前に恭也とともに経験した過去を断ち切る事件。
詳しいことまでは聞いていないがあの一件以来、恭也のアリサを見る目が変わったように見える。
と言っても振る舞い自体は今までと変わりない。
しかし、ふとした時にアリサを熱っぽい視線で見ていることがあるのだ。

「ほらほら、お母さん。あんまりフェイトちゃんをイジメちゃダメだよ〜」

「は〜い♪」

高町母娘の会話も耳に入らず、更なる思考の海へ旅立つフェイト。



――加えてアリサは恭也にハッキリとわかるほどの好意を示している。
恭也もそれを嬉しく思っている節があり、端から見れば恋人同士と見えなくも無いだろう。
恭也争奪戦において、自分の勝率は友人でありライバルであるアリサとは比べるべくもない。
闘うだけ無駄。少なくとも……昨日までの自分ならそう思っていた。

だけど……だけど、今は違う。
恩人とも言えるあの親子に大切なことを教えてもらった。だから――――

「――そう…ですね。でも……」

「――ん?」

思考中だったフェイトが突然顔を上げて桃子に言った。
夕刻の時と同じく、迷いの無い顔をして。




 「私も…恭也さんが大好きですから。………アリサと言えども、負けるわけにはいきません」




突然のフェイトの告白。目の前の母娘は目を丸くしている。

「「……………」」

「……………」

「……そう」

フェイトの告白を聞いた桃子は嬉しそうにただ一言、そう言った。

「今日はいい事……、ううん、いい人に巡り合えたみたいね?」

その真剣な眼差しを見て、今日という日、彼女が"覚悟"を持てるだけの素晴らしい出来事があったのだと見抜いた桃子は優しく語りかける。

「……はい。とても……とてもいい人達でした。
 その人達のお陰で恭也さんのこと、アリサのこと、そして自分のこと―――
色んなことがわかって……私は恭也さんを好きでいることの自信が持てました」

「……………」

「年齢の事で悩んだりもしたけれど……
 今はそんなこと気にならないほどに、恭也さんを……彼を愛しています」

「……………」


「――――だから、もう迷いません。
 アリサにこの事を伝えた後、近い内に必ず、恭也さんに想いを告げるつもりです」


「……………」



―――静寂。

先程までピンク色の雰囲気が漂っていた事務室も今は重苦しいほどの雰囲気に包まれている。

桃子は依然、黙ったまま。

なのはは友人の突然の告白と、母が何も言わないことに対して慌てふためき、

フェイトはじっと桃子の瞳を見つめている。

―――1分

―――2分

永遠に続くかと思われたその時間は、桃子の言葉によって動き出す。

「強くなったわね………フェイトちゃん」

「…………」

「貴女が恭也を好きなのは知っていたし、恭也も少なからず貴女を気にかけてるのも知ってた。
 でも、あのまま二人が付き合ったとしても必ずどこかで綻びが生じると思ったわ」

淡々と語る桃子。
その内容は先程秋子が言ったことと同じだ。

「お互いがお互いに必要な覚悟がないまま一緒になれば……それは思わぬときに返って来る。
 だから私は、今までの二人が付き合おうとしたら別れさせようとも思った」

「…………」

「……だけど、今の貴女なら…ううん、今の貴方達ならば例え結果がどうあれ私は安心できるわ。だから―――」

今日は、恭也にとっても何かあったと感じている桃子は、最後だけはいつものノリで、

「だから……ウチの息子をよろしくね♪」

とだけ言った。
――親公認の恋人候補。あとは自分の頑張り次第だ。

「………はい。ありがとうございますっ」

フェイトは目に涙を浮かべながら笑顔で桃子に返す。
ちょっと付いていけていないなのはを置いて、二人はしばらく談笑した。










―――10分後。

制服にも着替え終わったので、恭也も待ちくたびれてるだろうと事務室を出ようとする3人。


「けどフェイトちゃん、今の所はアリサちゃんが一歩リードって感じだから……頑張らないとイケないわよ♪
 相手は最凶最悪の朴念仁・恭也だし」

「あはは……。はい」

「あ、でもスタイルはフェイトちゃんの方がイイからね〜。
 悩殺ってのもいい作戦かも♪」

「の、悩殺…ですか?」

「そうそう♪
 見たでしょ、さっきのあの子の顔?
フェイトちゃんの胸に触りたくてしょうがないって感じだったわよ〜♪」

「…………」

自分の胸を見ながら真っ赤になるフェイト。

「で、でも……男の人って、身体が目当てって人もいますし……その、私のだからってわけじゃないと思うんですけど……」

桃子の言葉に若干の期待を抱いたものの、男性にそういう傾向があるのは知っているし、
何より自分はまだ発展途上だと理解しているフェイトはちょっとマイナス思考だ。

「あ、それはないよフェイトちゃん」

なんとか付いていける話題を見つけたなのは。
桃子はうんうん♪、と言っている。

「え?」

「お兄ちゃんも男の人だからそういうのに興味あるだろうけど―――意識してない人の下着姿とか見てもほとんど反応しないんだ。
 だって今の晶ちゃんやレンちゃんの下着姿を見てしまうことがあっても『む……すまん』の一言なんだよ?」

それはそれで乙女心傷ついちゃうよね〜、と笑いながら言うなのは。
確かに可愛い女子高生・女子大生の下着姿を見た反応がそれでは、見られた方は二重にたまらない。

「今まで覗いてしまって焦ったことがあるのって、フィアッセさんか那美さんくらいと思うけど…
 さっきみたいにあんな凝視してるお兄ちゃん初めて見ちゃった。
男の人が興奮するとあんな眼になるのかな?ちょっと怖かったよ……」

「そうそう♪
 さすが士郎さんの息子よね〜。夜はケダモノの資質十分♪」

なぜか嬉しそうな桃子。

「…………と、いうことは?」

「今のフェイトちゃんはフィアッセさん達以上に意識されてるレベルってこと。やったね〜♪」

なのはが大変わかりやすくまとめてくれる。

「そ、そう……なんだ」

恭也の中の自分の位置付けが思ったより遥かに高かったことにドキドキするフェイト。
桃子たちの会話から、恭也に抱かれている自分をちょっと想像したこともあるが。

「はいはい。じゃあそろそろ出ましょうか。
 このまま話してるとフェイトちゃんがのぼせちゃいそうだし」

桃子がパンパン、と手を叩きながら退出を促すが
翠屋店長はやはり最後までからかわずにはいられなかったようだ。

「あ、フェイトちゃん。想像しちゃったからって帰って一人でスるのはあんまりよくないわよ。
 出来るだけ恭也と恋人同士になったときのために溜めておきなさい〜〜♪
そうすれば――――」

「「…………そ、そうすれば?」」

なのはも一緒に"ゴクリ"と喉を鳴らして聞き返す。
かなり興味をそそられる内容のようだ。

「そうすれば、"いざ"というときに、ものすごーーーーーーーーく気持ちよくなれるから♪」

それを聞いた二人の女子中学生は真っ赤になりつつも、『ちょ、ちょっと控えようかな………』と思ったそうだ。







ガチャ。

「む。終わったか?」

フロアで待ち構えていた恭也が尋ねる。

恭也が既に召集をかけていたのか、厨房スタッフにフロアスタッフも全員着替えもせずに待っている。

「あ、みんなゴメンね〜。急に集まってもらっちゃって。
 ちゃんと残業代は出すから安心して♪」

「で、店長。召集の理由は何でしょう?」

理由を知っているが、話を円滑に進めるために松尾さんが言う。
ここで自分が言わなければまた変な方向に脱線してしまうと確信しているからだ。

「はいは〜い、今から新しいお仲間を紹介しま〜す。
それじゃ、自己紹介して♪」

そう言って皆が整列する前に立たされたフェイト。
端に立っている恭也をちらっと見た後、

「あ、明日からウェイトレスとして働くことになりました、フェイト・テスタロッサ・ハラオウンです―――」



―――――こうしてフェイトのアルバイトは開始されることとなった。
店内は中学生ということもあり、興味津々なアルバイトや社員が次々にフェイトに質問を投げ掛けている。
もともと顔見知りの人も多かったので、フェイトもあまり緊張することもなかったし、
初めて会った人達もいい人ばかりなので、店を閉めるときにはすっかり打ち解けることができたようだ。





「………………………」

しかし店内がそんな穏やかな雰囲気に包まれている頃、
外の物陰から店内の人物を睨みつけるような視線があったことに誰も気付かなかった。











 フェイトの翠屋エプロン姿見てえぇぇぇぇぇぇぇーーー!!!

……第4話をお届けしました、幸のない物書き さっちんです。
???「第2話の冒頭からここまで引っ張ったのね……」
 うっ。それは言わないでくれ。
???「はぁ〜。まぁそれはいいとして……ホントに下ネタ多いわね。
    こういうのを下ネタというかはちょっとわからないけど」
 うっ。それも言わないでくれ。
???「このSS、いっそのことイチハチにしちゃった方がスムーズに進むんじゃないの?」
 いや、それは避けたい。なぜならそういう情事のセリフってのが非常に難しそうだから。
あと書いてる内に変な気分になりそうな自分が怖い。
???「まぁこういうギリギリのラインがアンタ好きだもんね」
 いや、それも避けてくれ。俺が特殊な趣向の持ち主と思われてしまうではないか!
???「……アンタの好みって?」
 ツンデレ(キッパリ
???「なるほど。それで前回からアリサが微妙に話題に上がってきたわけね。
    となると前回言ってたENDを決めかねてるってのはアリサとフェイトで迷ってるってことか」
 そうなんだよ〜〜。
フェイトはフェイトで萌え萌えだし、アリサはアリサで萌え萌えだし。
???「いや二人とも同じじゃん」
 次回のアリサの話を書いてたときなんか、このままアリサルートで突っ切ろうと思ったほどだ。
???「アリサはツンデレみたいだしね」
 しかしフェイトへの溢れんばかりの愛もあるため、現在非常に迷ってる。
 わかるか!?二人の女性のうち一人を選ばなければならないというこの苦悩!?
???「そう、大変ね」
 うんうん。わかってくれるか。
???「能書きはいいから、早く続きを書きなさい」
 ひどっ!?
???「それじゃまたね〜♪」
 え?また無視?ねぇ?





※誤字脱字、設定ミス等ありましたらご連絡頂けると幸いです。





いやいや、フェイトが可愛いね〜。
美姫 「にしても、少し大胆な発言ね」
うーん、次回が気になるところ。
美姫 「最後に出てきた店の中を覗いている人物も気になるしね」
一体、どうなるんんだ次回!?
美姫 「それじゃあ、また次回を待ってますね〜」
ではでは。



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