『真に守るべきモノ』





第五章「白と黒の魔導師」


突然の雷光。
光で目を塞がれ、音で耳が聞こえない。
それが少しずつ無くなり、広がる光景を見たくないと思いながらも恐る恐る目を開く。
まだ少し靄掛かり、視界が悪い。
だがそれも時間と共に晴れていく。
先ほどまで凛とアルクェイドが居た場所。
そこには誰もいなくなっている。
わけも判らず辺りを見回す。

「ちぃ・・・・」

左から舌打ちをする声。
アルクェイドが膝をついていた。

 ドォン

はっとする。
自分と対峙していたでかい化け物も倒れこんだのだ。
暫く、それを見ていたがそれよりも仲間達が気にかける。
イリヤ達を囲んでいた狼達が全滅している。
イリヤも桜も何があったのと言わんばかりの顔で、もう動かない敵を見回している。
衛宮も目の前に倒れているユニコーンを驚きの目で見ていた。

「がぁ!!」

短い叫びで叩きつけられる者が居た。
シエルと戦っていたネロだ。
アルクェイドの近くに砂埃を上げ落下してきた。
ワラキアも後退させられたと言う感じで戻ってきた。
押された敵を睨みつけている。
その視線の先を見る。
そこに少し前屈みになっているセイバーと、その少し前に金髪の少女が立っていた。


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(何とか間に合ったみたいだね・・・)

上空から見下ろす限り、最悪の事態は回避出来たみたい。
アクセルシューターで取り囲んでた敵や空で暴れてた鳥さんは皆倒せたし、凄い悪者っぽい人たちはフェイトちゃんやシグナムさんがフォローしてくれたし・・・・。
あの大怪我した女の人はシャマルさんとユーノ君がアースラに連れて行って手当てしてくれてる。
あとはあの三人を何とかしないと・・・・。
取り合えず、下を見て驚いている赤い髪の女の人に声をかけよう。
勿論油断しないで、三人に目を向けたまま・・・・。

「すいません、じっとしていてくださいね」

声をかけられて振り向いてすっごいビックリした目で見られてる。
ん〜、やっぱり私みたいな魔導師は珍しいのかな?
その辺りは後で聞いてみよう。
フェイトちゃんが金髪の鎧を着た女の人の前に、シグナムさんが青い修道服かな?・・・・・・・の前に居る。
そう言えばシスターさんはああ言う格好って聞いたっけ。
とにかく、女の人の手を取って連れる形で地上に降りる。
仲間の人の所に連れて行くような感じで・・・。

「・・・・何、あんた達?」

背後で凄く低い声。
振り返ると金髪の凄い怖い目の女の人がフェイトちゃんを睨みながら聞いている。
な、何か危な気な人だな・・・・。

「・・・・・・・・・時空管理局嘱託魔導師、フェイト・T・ハラオウン」

バルディッシュを構えながら答える。
あんな怖い人に気負けしないフェイトちゃんなやっぱり凄いな・・・。

「大人しくしろ。
 抵抗しなければ悪いようにはしない」

シグナムさんがフェイトちゃんに続いて喋る。
こっちもレヴァンティンにカートリッジを装填しながらだ。
二人ともすぐにでも戦える状態にしてる。
・・・・それじゃ話も聞けない気がとも思ったりもするのですが・・・・。

「え〜っと取り合えずお話を聞かせてくれたらと思うのですけど・・・」

「話?」

瞬間で空気が変わったように感じる。
す、すっごい怖い目で見られてる。
少し口元に笑いを浮かべてるけど、絶対良い意味での笑いじゃない。

「話なんて簡単。
 あんた達、ここで死になさい」

言い終わると同時ぐらいに女の人が私に迫ってくる。
それも凄い速さで・・・・。

《Protection Powered》

足元に魔方陣が出てきた。
右手を掲げ、シールドを展開する。
相手に文句を言いながら・・・・・。

「これは話じゃなくて暴力と言うんですがーーーー!?」

女の人の右手・・・・爪が迫ってきたのを防ぐ。
後ろにさっきの人達が居る。
このままじゃ巻き込んじゃう。

「レイジングハート!」

《All right,my master》

私のしようとする事を察してくれる。
後ろに居る人達を囲むシールドを展開。
攻撃を防いだまま後ろに声を掛ける。

「そこから動かないで下さい!」

シールドの中の人達が訳も判らないと言う顔をしていたけど、男の人が頷いてくれる。
それを確認すると次の行動を起こした。

《Barrier Burst》

展開したシールドの上から衝撃が走り煙を上げて互いの距離を空ける。

「ぐあ!?」

叫び飛ばされて体勢が悪い状態のうちに次の攻撃の準備をする。

《Load Cartridge》

ガコンと音を立ててレイジングハートのカートリッジをロード。

《Accel Fin》

声と同時に足に光の翼が生え、空へと運んでくれる。
相手は近接タイプ。
私は中・遠距離タイプだから少しでも距離を開けて攻撃しないと・・・。

「何処に行くのかしら?」

「!?」

空に翔けると同時に目の前に迫っていた。
シールドは間に合わない。
考えるより先にレイジングハートで防ぐ。
次に衝撃。
ただ、それが一度じゃない。
4、5・・・・6回衝撃がきたのだ。
相手は体を回転させながら両手を広げてきた。
最後の攻撃が一番威力があり、衝撃で地面に叩きつけられる。

「きゃあぁぁぁ!!」

あまりに強い衝撃に思わず声が出る。
でも、何とか持ち堪えて地面ギリギリで停止して着地する。
手が痺れているけど、それ以上にレイジングハートが壊れていないか気になった。
さっと見た限り傷は無い。
ほっとして改めて既に地面に着地している敵を見る。
目が合うとニヤッと笑ってまた向かってきた。
相手よりも先に攻撃をする為に魔方陣を開く。

《Accel Shooter》

周りに12個の球体が生まれる。
レイジングハートを前に構え叫ぶ。

「シュート!!」

「!?」

向かってきていた足が止まる。
弾を制御して相手に向かうようにコントロールする。
相手が舌打ちしたのがわかった。
自分に向かってくる攻撃を避ける為に回避行動を取った。
でもこれは完全追尾型。
避けても追いかけてもらう。
それが12発。
避けるのも一苦労のはず・・・・。
なんだけど・・・・。

「ふん!!」

避けながら当たると思った弾を叩き落す。
シールドを素手で攻撃してくる人だから、弾を弾くのもお手のものと言ったようにやりこなす。
順番じゃダメだ。
なら・・・・。

「アクセル!」

弾の速度を上げて、更に攻撃タイミングは早める。
着弾をズラさずにほぼ同時にするようにコントロールする。
先回りするか形で相手の足を止めさせる。
止まった時には周りを囲む。
残り7発・・・。

「いけーーー!」

前後左右、上空から同時に仕掛ける。
加速させての全方位攻撃。
避ける隙は与えない。
女の人は瞬時に全部の弾を確認して・・・。

「はぁ!」

私に近い弾に自ら突っ込んできた。
全方位の弾は全部同時に着弾するように速度を調整したから、捌くのは不可能。
でも、どれか一つだけ当たる覚悟で向かっていけば弾を一方向に絞れる。
ある程度防御があった上での回避行動。
でもこの人は恐らくダメージを受けるつもりはない。

「ふん!」

自分から向かっていった弾を振り下ろすようにして、弾を叩き落した。
次いで相手の後ろで弾がぶつかり合い炸裂する。
叩き落した時に舞った砂埃で敵の姿が消える。
けどすぐに現れて私に向かってくる。
全方位に使ったのが5発。
残り2発。
そのタイミングに合わせて弾を正面からぶつけるようにする。
一瞬顔を強張らせたけどそれも弾かれるけど、それも予測していた。
相手の目線から完全に死角の場所に低空で弾を走らせていた。
地面スレスレから少しホップして向かっていく。
気付いた時には爆音と煙が上がる。
回避も捌く事も出来なかったと言う事・・・・。
そして本命は・・・・。

《Buster Mode,Drive ignition》

距離を置いてレイジングハートをバスターモードに切り替え、翼が出てくる。
そしてカートリッジロードを二回行う。
足元に魔方陣とレイジングハートの周りに環状魔方陣が4つ現れ、光球をチャージ。
何時でも発射できる状態にした。

「この、やってくれる!!」

煙から防御体勢を取っていた姿が現れ、顔を歪ませ煙を払う。
晴れた先の私を驚いた顔で見る。
すぐに行動を起こそうとしたけど・・・・。

(遅い!)

《Divine Buster Extension》

「ディバイイィィィィン・・・・・・」

光球が更に巨大化し、光の円が出来る。
その上で相手をきっちりと見据え叫ぶ。

「バスタァァァァァァーーーーーー!!!!!!」

光球が一気に拡大、閃光を放ち相手に向かっていく。
直線で避けるのはさほど難しくないけど、スピードがある分それをカバー。
相手が反応するより先に直撃する。
激しい爆音と煙を上げて・・・・・。

 ガコン プシューーーー

発射が終わり、レイジングハートが熱を放出。
煙を上げ冷却する。
改めて相手の居るであろう場所を見る。
体勢はともかく、タイミング的に直撃したはず。
ここで武装隊の戦技訓練が役に立ってくれた。
僅かに構えは解くけど、多分あの人のスピードからするとこの距離はそれ程離れてないと思う。
安心するのはまだ早いかな・・・。


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ただ驚くばかりだ。
まだ幼い感じの少女がアルクェイドを押さえ込んでしまった。
それも半端じゃない魔法で・・・・・。
今まで見てきたのとまた違う。
この世界で使う魔術とも・・・・リリィやベリオが使う魔法とも・・・・。
それに魔法が使えなくても分かる。
あの子もワラキアと戦っている黒い服の子・・・・・フェイトって名乗ったか?・・・・も相当の魔術師。
ネロと戦っている剣士もかなり強い。
剣の実力もだけど、多分魔術も行使して戦うんだろう。
今までに見た事無いタイプのスタイルだ。
いや、まあ俺もスタイルで言うなら多分すげぇ異質だろうけど・・・・。
チラッと衛宮達の顔を伺ったけど、ただただ呆然と戦いを見守っている。
当然か、いきなりの乱入・・・・そしてこの実力。
どう言うつもりかまでは分からないけど、少なくとも今は俺達を守って戦ってくれている。

(それに・・・・)

どうも悪人には見えないんだよな。
特に今目の前に居る白い少女は・・・・。
だが思考がそこで停止する。
目の前に突然現れた敵。
アルクェイドが背後から白い少女に爪を突き刺そうとする光景を見たからだ・・・・。


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煙が晴れていくけど、中心地に相手の姿が無い。
訳も分からず疑問符が浮かんだ。

《Master!!》

「えっ!?」

レイジングハートが叫んだ。
反射的に背後に振り返ると、そこにさっきの女の人がいる。
所々にダメージを負っているけど、既に勝利を確信するかのように相手に向ける殺気を目に・・・・自分に訪れる狂喜を口に持つ顔をして私を見ていた。

「・・・・さよなら」

間に合わない。
シールドを展開するのも、咄嗟の防御を取るのも・・・。
条件反射で自分に襲い来る傷みを堪える為に、目を瞑る。
そして衝撃。
でもそれは痛みを運んではこなかった。
体が浮いて誰かに抱えられている。
何があったのか分からない。
でも、はっきりした事があった。
それは私を庇ってくれた人が居て、その人が変わりに痛みを受けてしまったという事。

「ぐあぁ!」

男の人が私を庇って背中から赤い飛沫が舞う。
私も男の人もそのまま地面を転がる。
止まった所でその人の背中を見る。

「っ!?」

目を見開き愕然とした。
明らかに大怪我を負っていたから・・・・。
しっかりと声を掛けようとした・・・・でも、すぐにあの人が追ってきていた。
気付きレイジングハートを掲げようとした。
でもそれより先に・・・

「はあああぁぁぁぁぁ!!!!」

横から剣を振り下ろしながら鎧を着た女の人が私達を助けに来てくれた。
敵は攻撃を瞬時に防御に変えて、両の爪で剣を受け止める。
力と力の拮抗。
ギリギリと金属を擦らす音を立てながら鎧の女の人が私を見た。
いや、正確には私じゃなくて私を庇ってくれた人を・・・

「シロウ!
 くっ・・・・」

「ぅ・・・・」

少し唸って返事をするけど、声にならないみたい。
私のせいだ・・・・。
でも、後悔より先に今はこの人の手当て・・・・。

(ユーノ君!
ごめん、すぐに救援に来て!
男の人が私を庇って大怪我しちゃったの!!)

(なのは・・・わかった。
すぐに行く)

念話でユーノ君を呼ぶ。
その後鎧を着た女の人を見る。
いつの間にか距離が離れた所で戦っている。
・・・・戦闘を私達から遠ざけてくれたみたい。

「衛宮!!」

別の男の人がシールドから出て駆け寄ってくる。
肩膝を付き、庇ってくれた人・・・・衛宮さんの背中を見る。

「・・・・・・やばいな。
 傷が深い、すぐに塞がないと・・・・」

「・・・・さっき救援を呼んだので、すぐに来てくれると思います」

そう言うとすぐ隣に魔方陣が出来て、何人かの姿が現れる。

「なのは!」

ユーノ君が来てくれて、状況を判断するとすぐに治癒魔法を掛けてくれる。
横に来てくれた男の人もただじっと手当てを見ている。
魔方陣がある場所を見ると、ザフィーラさんにヴィータちゃん、それにアルフさんが居た。

「・・・怪我人をこれ以上増やさせない為に、早期決着を着ける。
 その為の救援」

私が考えている事をユーノ君は分かっていたみたいに説明してくれる。

「フェイト、今行くよ」

「・・・・あたしはシグナムを加勢する。
 ザフィーラはあのシグナムもどきを・・・・」

いや、ヴィータちゃん。
シグナムさんもどきってとても失礼だけど・・・・・・。

「わかった」

ザフィーラさんもそこはツッコもうよ。
などと考えつつも三人はそれぞれに加勢しに向かう。
それを見送った後、もう一度衛宮さんを見る。
駆け寄ってきた男の人の隣にさっきの赤い髪の女の人が来ていた。
ユーノ君の治癒魔法を見ながら何か考え込んでいる。

「ねぇ、術式が違うみたいだけどこの場合私も治癒魔法を掛ける事はできる?」

「・・・・そうですね、多分大丈夫だと思います。
 多少術式が違っても根本は同じはずですから・・・・」

「そうね。
 それじゃ・・・・」

「リリィ・・・」

女の人・・・・リリィさんが左手を前に出して、何か詠唱を唱えた。
するとグローブをした左手が光だし、魔法が発動する。

「・・・・っ、あんまり得意じゃないんだけど・・・・何もしないよりはずっと良いはず・・・・」

私が不注意だったばっかりにこんな大怪我を・・・・。
不意にポンッと頭に何か乗り軽く重くなる。
下を向いていた顔を上げると、駆け寄ってきた男の人が私の頭に手を乗せていた。

「・・・・今、『私のせいでひどい事になった』って考えただろ?」

ズバリ的中。
私は目を大きく見開いて驚いた。
男の人が続ける。

「衛宮が君を庇わなかったら、君がこうなってただろ?
 君は一生懸命俺達を守ろうとした。
 その結果、君が負う筈だった怪我を衛宮が負った。
 もし衛宮の怪我は誰の責任だって追求していくなら、どう考えてもさっきの吸血鬼女だ。
 君が責任を感じる必要は無いと思うぜ?」

「で、でも、私がしっかりしてればこんな事には・・・・」

「人間で何でも完璧ってやつはまず居ない。
 しっかりしていても何処かでミスは出てくる。
 大切なのはそのミスをした時どうやって補うかって事だ。
 君はすぐに救援を呼んでくれた。
 衛宮の治療をする為に・・・・・。
 それはここでの最善なんじゃないか?」

二ッと無邪気な笑顔を向けてくれた。
そして頭に乗せた手でクシャクシャと撫でてくれた。
今さっきまで沈んでた私。
それが嘘みたい・・・・。
とても大切な事を教わった。
まるでお兄ちゃんに教えられてるみたいに・・・・。
気持ちが晴れ、顔を上げてありがとうの意味も込め力強く返事をする。

「・・・はいっ!」

私はまた一つ強くなった気がした。


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「はぁぁぁぁ!!」

《Haken Form》

バルディッシュを振りかぶりエネルギー状の鎌を出し斬り掛かる。
だけど、相手はマントを自在に変化させてこっちの攻撃を防ぐ。
さっきから続く一進一退の攻防。
相手のマントはあまりに変則的で、攻撃もだけど防御を取るタイミングが難しい。
実に戦いにくい相手。
例え懐に入っても・・・・。

「カット!」

あの黒い爪のような攻撃が来る。
あれを避けて攻撃するのは正直無理だ。
攻撃を避けてサイドから攻める手があるけど・・・さっきは通じたけど、今は防がれる。
つまり、あの攻撃後の隙を付く手が今は無い。
いや、ある。
あるにはあるけど・・・・。
相手との距離を空け相手を注視したまま、左足を意識する。
少し前の攻撃の時に左足に黒い爪が当たったのだ。
正確にはかすった感じだったのだが、それでもかなり痛む。
感覚で見て恐らくそれなりの出血もしているだろう。
この足のせいもあり、さっきから相手に一撃を入れる攻撃が出来るスピードまで上げる事が出来ていない。
以前のシグナムとの戦いの時の様に何とか誤魔化しているけど・・・・。
かと言ってこのまま誤魔化し続けて戦っても時間が経っていくだけ。
時間だけかけても、いつか体力が落ちて行き最後には攻撃を喰らってしまう。
思考を展開していると相手が片手を掲げる。

「ヒ……フフヒャハハハハヒ!」

いきなり笑い出し、それと同時に黒い渦が迫り来る。
突っ込むわけには行かない。
咄嗟に判断し、残像を残すスピードで迂回。
相手の背後に一気に迫った。
だが、相手に完全に読まれていた。
バルディッシュを構え攻撃に転じようとしたが、相手が振り返り目の前のマントに吸い込まれる。

「失礼」

掴まれたと感じたがそれもすぐ消える。
次の瞬間、浮遊感が襲ってくる。
目を見開くといつの間にか上空から地面目掛けて落下していたのである。

(空間跳躍!?)

だが、今それを確認するよりも先に体勢を整えないとこのまま落下したら地面に激突する。
魔法で落下速度を落とそうとする。
しかし、いくら試しても思うように発動しない。
慌てながらも何とかしようとするが間に合わない。
下で相手が半身で腕を引き、突き上げようとしている。
やられると思い目を閉じる。

「ギッ!」

だがいつまでたっても衝撃は来ず、聞こえてきたのは奇妙な声と感じたのは抱擁だった。
恐る恐る目を開けると、俗に言うお姫様抱っこで抱えられていた。

「アルフ・・・」

私を抱えてくれている橙色の髪の女性・・・・私の使い魔アルフの名を呼ぶ。
他の箇所もさっと見るとヴィータにザフィーラがそれぞれ加勢に、ユーノがなのはの近くに居るのがわかった。
なのはの様子が少し心配だったけど、今はと相手を見てアルフの腕の中からゆっくりと降りる。

「フェイト・・・大丈夫かい?」

「うん」

心配してくれるアルフに笑顔で答えた。
それだけで本当に安心してくれるから・・・・。

「ふむ。
 また脚本に修正が加わったみたいだな」

私の前で対峙している男の人もざっと周りを見ながら言う。
多分アルフが私を助けるのに相手を突き飛ばしたんだろう。
埃を払いながら立っている。
仮面の様な顔。
正直、心境を読み取る事が難しい。
でも今少し思案するような感じなのはわかった。

「大人しく投降して下さい。
 そうすればまだ弁明の余地があります」

「フェイトにした事はここできっちり償ってもらうけどね」

アルフが物騒な事を言ってるけど、取り合えずもう一度呼びかける。
さっきは女の人に聞いたけど、この人ならと思った。
でも、再びこっちを見た時に真顔で・・・・それでいて否定的な雰囲気を感じた。
そして、少し芝居掛かった振りをしながら私に言ってきた。

「・・・・・何やら勘違いをしているようだな」

「勘違い?」

「君達は私が・・・・私達が何者か分かって言っているのかな?」

「「・・・・?」」

よく分からない。
何者も何も、人間なわけで・・・・。
私もアルフも怪訝な顔で相手を見る。

「我々は人間ではない。
 吸血鬼だ」

「!?」

多分ビックリしたん顔をしたんだと思う。
使い魔だったら、そうですかですむんだけど吸血鬼とは予想していなかったから・・・・。
相手がやれやれと言った感じの表情と行動をしたから。

「なるほど。
 君達の概念に『吸血鬼』は無いわけだ。
 そこのお嬢さんは人間では無いが・・・・使い魔と言った所か?
 と言う事は魔術を使えるのに我々が何者か知らなかった時点で、この世界の者では無いと言う事。
 ふむ、異世界からの訪問者か・・・。
 少し大掛かりな舞台になってきたな」

男・・・・吸血鬼が思案する体勢を取る。
今ならと頭は思っているのに体が動かない。
多分、今は無理と攻撃しても当たらないと体が感じているんだ。

「最も、大掛かりなのは最初からそうか・・・・。
 このまま戦っても目的の達成は難しそうだ」

「まったくね・・・・」

「!」

この場に居る人の声じゃない。
辺りを見回し気配を探る。
するとすぐに異変が起こる。
吸血鬼と言った男の足元・・・・正確には対峙した男を含めて3人の足元に魔方陣が出現したのだ。
そしてそれぞれが姿が消え、一箇所に集まって現れる。
丁度、さっき3人を追い込んでいた場所辺りに・・・・。
そこに一際大きい赤い五芒魔方陣が現れ、遅れて1人の女性が姿を現す。

「ったく、いつまで待っても結果報告が来ない。
 見に来て見ればややこしい状況になっている。
 ・・・・・・言われた事さえ出来ないの?」

「・・・・・・・・・ちっ」

金髪の女性が反論したいのだろうが、結果を残していないのが本当の事だから舌打ちして黙ってしまった。
正面がなのは達の方を向いているからそっちに回り込む。
シグナム達も反対方向から回り込んで来た。
正面に正対し、女性を見る。
赤い服に赤い髪、そして赤い眼。
まるで全てを焼かんとする業火の様な印象を受けた。
特に髪の赤と白が燃えている姿をイメージさせる。
整った顔立ちでとても美人だ。
その女性の目がこちらに向く。
そして、口を開いた。

「初めまして、あたしはフロックス。
 『神創衆』が1人、炎獄のフロックス」

「シン・・・・ソウシュウ?」

意味が分からず反復する。
それを見て面白そうに女性・・・・フロックスが答えた。

「『神の創りし者達』って意味さ。
 ふふ、言い得て妙だろ?
 なぁ、救世主?」

(救世主?救世主って確か・・・・)

思考を展開しながら救世主と呼ばれた人、なのはの横に居た男性を見る。
物凄い形相で相手を睨みつけていた。
傍から見ても怖いぐらいの・・・・。

「・・・・・・・・お前、イースの仲間か?」

口元をニヤッと歪め、嬉しそうに答えるフロックス。

「そうだよ。
 あの方と同じ神によって生まれた存在・・・・。
 勿論、目的も・・・・いっ・しょ☆」

ウインクをして茶目っ気を出しまくりの顔で答える。
こんな場面で無ければよく似合うと思うんだろうけど、状況が状況だけに皆冷め切って見ている。
そんな反応を見て苦笑しながら目を閉じ、姿勢を正しながら目を開く。
その時、空気が変わった。
もうすぐ冬を迎える為か、夜はもう空気は冷たい。
にも関わらずフロックスが見開いた瞬間、空気が一気に熱く重くなり夏に戻った様な錯覚を覚えた。
まるで周囲一体が炎に包まれたかの様に・・・・・。

「これが私のバトルフィールド。
 どう、気に入ってくれた?」

さっきの笑顔と違い、人を見下ろすような嫌な表情。
・・・・・・・・・まるでプレシア母さんみたいな・・・。

「気に入ると思うか?」

男性がフロックスを睨みつけて、剣を構える。
フロックスはその反応が楽しいのかクスッと笑い、指を鳴らす。
音と共に周囲に感じた熱気が消えた。

「ま、気に入ったって言ったらそれはそれで神経疑うけどね・・・。
 私がしてるのは嫌がらせだし・・・・」

 ザッ

地面を蹴る音。
剣を構えて男性が一気に間合いを詰める。

「大河!?」

赤い髪の女性が男性の名を叫ぶ。
恐らく静止と驚きだったんだろう。

「ホントにてめぇらはムカつくぜ!!!!」

けど、それを無視して男性・・・・・大河さんは殺気を放ち叫びながら斬りかかる。
ふぅと溜息を付き、フロックスが大河さんを見直す。

「一応断っておくと・・・・」

大河さんの斬撃がフロックスの頭に迫る。
でも・・・・・。

「あたしは、あんたはもう少し賢いやつかと思ってたんだけど・・・・」

言うより速く、剣を素手で止め流すかのように大河さんを見る。
少しスローに感じたのも束の間、大河さんの腹部に物凄い音を立てて衝撃が走る。
後ろからでも分かるぐらい大河さんが体を九の字に曲げる。
拳が打ち込まれている。

「がっ・・・ぁ・・・・」

次いでアッパーで顎の下から拳を打ち上げて宙に体が浮く。
そのまま体が上に上がり、大河さんの足がフロックスの前に来る。
それを無造作に手で掴み足を軸に体を360度回転させ空へと放り投げる。
大河さんが凄い速度で空へと上がる。

「少し、買い被ってたみたいね」

言いながら右手を上げて指を鳴らす。
すると大河さんの周り、上下左右に魔方陣が現れ取り囲む。
そして大爆発。
余りの威力と衝撃に皆が目を閉じる。
目を開けた時は同時に大河さんが地面に叩きつけられた。
うつ伏せになって体から煙を上げている。
さらに右手に握り締められている剣がボロボロになっていた。
それを見たフロックスは・・・・。

「おぉ凄い凄い、流石は反逆の剣。
 あれを喰らって破壊出来ないなんてね。
 いや、恐れ入った」

手で拍手しながらそんな事を言う。
確かに折れてはいないけど、ほとんど使い物にならないぐらいボロボロになっている。
その場に居る全員が動けなかった。
まるでレベルが違う事を見せ付けるかの様な強さ。
それに相手はあの場所から一歩も動いていない。
怖い。
不意にそんな恐怖心が沸き立ってきた。
ここで掛かっていったら多分二の舞。
恐らくこの場の皆が感じた恐怖。
その光景が満足だったのか、フロックスの顔に喜びが浮かんだ。

「じゃあ、目的は達成出来なかったけどこいつらは連れて帰るわね?
 取り合えず器は預けておく。
 また何処かで会いましょう」

屈託の無い笑顔で手を振りながら魔方陣の光の中に4人が消えていった・・・。
その姿を声を発する事無く全員が見送る。
ただ一人を除いて・・・・。

「まっ・・・・まて・・・」

かなりのダメージを受けたのに立ち上がろうとして相手を呼び止める。
だが相手には届かなかったのだろう。
そのまま魔方陣も消えた。

「くそ・・・・」

相手が消えると立ち上がった大河さんがまたガクリと膝を付く。
それを横から赤い髪の女性が支える。
やはり一人で立つ力が残っていないんだ。
そう思ったと同時ぐらいに目の前に緑色の魔方陣が現れ、顔が映し出される。

「お疲れ様、フェイト達・・・」

映し出されたリンディ提督が労ってくれる。

「提督、怪我人を含めて皆さんをアースラに連れて行きます。
 良いですか?」

「ええ、是非そうして。
 そちらの事情も聞きたいですから・・・・」

「わかりました。
 では、後で・・・・」

「ええ」

リンディ提督の最後の言葉で魔方陣が消える。
そして私達が助けに入った人達へ向き直る。

「と言う事なので、一緒に来て頂きたいんですが良いですか?」

皆顔を合わせてどうするべきか悩んでいる。
すると、紫っぽい髪の色をした女性が仲間を支えながら答える。

「行きましょう」

「桜?」

赤い髪の女性が桜と呼んだ女性を見る。

「先輩や皆の怪我を見て貰えるなら行くべきだと思います。
 それに・・・・姉さんは貴方達が連れて行ったんですよね?」

姉さん・・・・恐らく、あの大怪我している女性の事だ。
私は肯定すべく首を縦に振る。

「なら行くしかないですしね」

そこまで決まると後は早かった。
皆目線を交差させては首を縦に振るのだから・・・。
でも・・・・。

「では、私はお断りします」

青い修道服の女性が拒絶した。

「シエル?何故です?」

すぐさま、金髪の鎧を着た女性が訊ねる。

「私には他にしなければならない事があるんですよ」

答えるが早いか近くにあった木の一番高い枝まで飛び上がる。
凄い・・・・一回の跳躍であそこまで飛べるものだろうか?

「元々貴方達に関わったのは事故・・・・のようなものでしたからね・・・。
 これを期に別件に向かいます」

「別件?」

私が疑問を口にする。
もしかしてあの人はここに居る人達とまた違った目的を持っていると・・・・?
こちらが疑問を投げ掛けるより先にシエルと呼ばれた人は姿を消した。

「待て!?」

シグナムが静止を呼び掛けるが既に姿形は無く、見送る事しか出来なかった。
姿が見えなくなった相手にアルフも悪態をつく。

「なんなのあいつ。
 ちょっとは協力しろっつうの!」

「・・・・・・しょうがないよ。
 あの人も何か理由があるんじゃないかな?
 それに、無理に連れて行っても話してくれなきゃ同じだよ」

このまま去った人に構っても仕方ない。
すぐに頭を切り替える。

「それじゃ、皆さんをアースラに連れて行きます」

そう言うと皆をアースラへと転送する魔方陣が足元に展開された・・・・。




第六章に続く






〜*あとがき 五章編*〜
やって参りました、第五章☆

AYU:で、なんでいきなりテンションが高めなのかしら?

や、個人的に好きな章だから?

AYU:その心は?

シグナムが出てきてるから☆

AYU:・・・・・・・・・・・・。

・・・・・・・・・・。

ペキパキ

AYU:さて・・・覚悟はいいかしら?

いやいやいやいや!マテ!
なんでそんな『こいつ、いっぺんショック療法をかました方が・・・』みたいな仕草を・・・

AYU:問答無用おおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉお!!!!!!

完璧に誤解だああああぁぁぁぁあああ!!!

AYU:ふぅ。
    さて、今回の話ですがリリカルのキャラクター面々が怒涛のラッシュで出てきています。
    元々はリリカルの参戦(スパロボ風)は無かったんですが、知人の後押しもあり参戦決定。
    どこで登場させるか迷った挙句、今回の章になりました。

ゲゴッ!
・・・・・・っつう。
やっぱ上空からの落下は慣れん。
ってか死ぬ、マジで死ぬ。

AYU:あ、帰ってきた。
    んじゃもう一撃。

ゴメンナサイ、私が悪うございましたんで勘弁して下さい。

AYU:む、謝られたら手を出すわけにはいかないか・・・。
    じゃ、続きはまかせるわ。

あい。
リリカルの参戦で、範囲が広がる事になりましたけど何とかこのまま書いて行こうと思います。
あ、前章でもありましたが、『クロスでしかできないこと』ってのは多分これからも多々出てくると思いますんで、今更ですがヨロシクです。

AYU:今回はフロックスのお姉さんも出てきたし、今後のオリジナルの出方に私的に注目するわね。

お前も何でフロックス『お姉さん』なんだ?
まぁ深くは突っ込まないけど・・・。

AYU:そうそう、流す所を間違えると後が怖いわよ。

・・・・・・・・・キヲツケマス。

AYU:気をつけると言ったら、あんた。
    オリキャラのポテンシャル、メチャメチャ高くない?

・・・・・・・・・・そう?
これからもっと強くなる予定だけど・・・。

AYU:暴走しちゃいそうだから、これ以上強くしない方が良いと思うわよ?

・・・・・・・・・・む、気をつける。

AYU:うん。
    さて、それではまた・・・。

次章で!



なのはたち管理局たちも参入。
美姫 「事態は益々大きく膨らんでいく」
いやー、本当に面白い。
美姫 「書いている方は大変でしょうけれどね」
読んでいる分にはただただ楽しませてもらってます。
美姫 「今後の展開を期待しつつ」
次回を待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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