『真に守るべきモノ』




第四章「暴虐の吸血鬼」




「・・・・ん」

朝の太陽の光に目を覚ます。
目線だけで周りを見る。
見慣れない部屋。
だが、知っている部屋。

「ここは・・・・イリヤの城か?」

何とか状態を起こそうとする。

「っつ!」

体のあちこちに包帯が巻かれていた。
一瞬何故包帯だらけか分からず、全力で思考する。
そして自分が持つ最後の記憶を思い出す。

「みんなは!?」

居ても立ってもいられず、部屋から出るためベッドから降りようとしたが・・・。

「何とか生きてるぞ?」

隣のベッドから声を掛けられ止まる。
見るとそこに横たわったままの大河が居た。
それを見て安堵する。

「大河。
 無事だったのか、良かった」

「良かったわけ無いだろ?
 お前もそうだけど、リリィ達もやられたんだ。
 ちっとも良くない。
 さっき桜ちゃんが居たんだけど、すっげぇ心配してたぞ?」

「桜が?」

するとドアが開いて、洗面器を持った桜が入ってきた。
ドアを閉め目が合うと嬉しさと不安が複合する顔をした。
そして士郎に駆け寄る。

「先輩!
 もう大丈夫なんですか?」

「ああ、ちょっと痛むけど問題無さそうだ」

「ほんとに?ほんとに大丈夫なんですか??」

一度の説明では納得してくれず、今にも押し倒されそうな勢いで迫ってくる。
それを見て改めて桜の顔を覗き込む。

「・・・・本当だ。
 心配かけたな桜・・・・」

覗き込まれて少し恥ずかしそうに顔を赤らめたが、すぐに安堵の顔になる。

「そうですか、良かった」

本当に嬉しそうな顔をする。
その顔を見て心配をかけたのだと士郎は深く反省した。
それと気になっていた事を桜に聞く。

「桜、他の皆は?」

聞かれ桜は少し伏せ目がちに表情を暗くする。
大河も少しバツの悪そうな顔をした。

「・・・・・姉さんやリリィさんは怪我はしていますが、体調はそれ程悪く無いみたいです。
 少なくとも数日で完治するみたいです。
 でも・・・・セイバーさんが・・・」

「っ・・・セイバーがどうした!?」

「全身ボロボロの状態だ。
 ここに運ばれて居る途中で気を失って未だに意識が回復していない。
 多分、今回の戦いで一番ダメージを受けたのはセイバーだ」

言い難そうにしている桜の代わりに大河が答えてくれた。
次いで桜が現状を教えてくれた。

「・・・・・・・・ライダーが言うには、ここまでのダメージを与えた敵は相当強いそうです。
 サーヴァントであり、白兵戦最強のセイバーさんをあそこまで追い詰められる実力ですから・・・・」

「・・・・・・・」

士郎は無言で聞いている。
自分の不甲斐無さ、情けなさに腹を立てながら。
それを察したのか大河が士郎に向く為体を起こす。

「・・・・今何考えてるのか顔を見れば大体想像付くけど、悔やんでも始まらない。
 それにどうやらあの女も相当並外れた存在みたいだしな・・・」

その言葉に顔を上げ大河を見る。

「並外れた存在?」

「その辺りは今晩にでも説明があるみたいだ」

「誰から?」

聞くと桜が答える。

「先輩達の危険を回避してくれた人からです」


<**********************************************************************>


夜。
部屋で桜から説明があると言われてから数時間。
あの後もう一度ベッドで眠った。
予想以上に消耗しているみたいだった。
ここまで強制的に眠りに落ちたのはいつ以来だろう?
目が覚めた時にはもう夜で、夕食の時間になっていた。

「イリヤ、もう大丈夫なのか?」

「うん!
 一日ゆっくりしたからもう平気だよ」

「そっか良かった」

部屋に運ばれてきた夕食を食べ、今は皆居間に集まっていた。
イリヤは魔力の消耗が激しかったが外傷はほとんど完治している。
普段生活をする分には問題ないようだ。
遠坂にリリィ、大河も所かしこ包帯を巻いては居るがほとんど動ける状態のようだ。
ただ、リリィの首にある痣が少し気になるが・・・・。

「リリィ。
 首、大丈夫?」

遠坂が心配してリリィに聞く。

「ええ。
 痕に成ってるみたいだけど、痛みとかは無いから大丈夫よ」

「そう」

ホッと胸を撫で下ろす。
ドアが開き、次に修道服を着た女性が入ってきた。
髪は青く、ショートカットの女性。
強い光を持つ瞳を持っている。

「皆さん集まりましたか?」

「いや、セイバーとライダーがまだ・・・・・・」

「あ、セイバーさんは大丈夫です。
 最初から数に入れていませんから・・・・」

少し笑顔を作り、何処か影のある表情をする。
が、それもすぐに無くなり真剣な顔を向ける。

「さて、ではまず自己紹介からですね。
 私はシエル。
 聖堂教会埋葬機関第七位の者です」

「!?埋葬機関ですって!?」

遠坂がいち早く反応する。

「凛、埋葬機関って・・・・?」

聞かない名前にリリィが疑問をぶつける。
遠坂はそれに答えてた。

「聖堂教会における、悪魔殺しのエクスキューター。
 異端を狩る事を専門とする集団の事。
 異端を排除する為なら何が相手であろうとも容赦無く殺す、教会の異端。
 まさかこんな所で会うなんてね。
 しかも第七位。
 『空の弓』に・・・・ね」

その反応にも特に驚かずシエルが続ける。

「ええ、そうです。
 教会は今回『次元の乱れ』を観測しました。
 その任務を遂行する為にこの町に来たのですが・・・。
 情報提供を要請し、情報を得ようと思っていると戦闘が行われていたのです。
 正直助けようとは思わなかったのですが、何か情報をお持ちのようでしたし何より・・・・」

「・・・・・あの女性が出て来た為ですか?」

声はドアの入り口から聞こえた。
そこにはライダーに支えられて立っているセイバーの姿があった。

「セイバー!?
 お前体・・・・」

「心配は無用です、シロウ。
 確かにダメージは追いましたが、今日一日休みました。
 大丈夫です」

心配を予想していたのだろう。
こっちが言い終わるまでに答えられた。
セイバーは視線をシエルへと向ける。

「貴方はあの女性の事を知っているようでしたが?」

セイバーの指摘にシエルは無言になる。
一度目を伏せ、改めて開き語りだす。

「・・・・・・・ええ。
 彼女の名はアルクェイド・ブリュンスタッド。
 吸血鬼の王族、真祖の姫です」

「「!?!?!?」」

遠坂と桜が驚愕の表情をして息を呑む。
一方セイバーは何か納得したように呟く。

「やはり・・・」

それを聞いたライダーが問う。

「セイバー?
 貴方もその女性を知っていたのですか?」

俺を始め、皆同じ事を思ったのだろう。
全員の視線がセイバーへと集中する。

「詳しくは知りません。
 ただ・・・・・・生前、城の中の書庫に古びた一冊の本があったのです。
 その中に一文と一つの絵がありました。
 『この者には何があっても関わるな』・・・と。
 絵は、男性でしたが昨日の女性と似通っていました。
 ただ、あそこまで禍々しい雰囲気ではありませんでしたが・・・・」

俺は視線をシエルに移す。
シエルは何かを考え込むようにしている。

「・・・・それは恐らく彼女の生み親でしょう。
 正確には違うかもしれませんが、彼女がその男性の後継者候補である事に変わりはありませんから・・・」

シエルが淡々と疑問を解消していく中、桜と遠坂を見ると真っ青な顔をしていた。

「お、おい?
 大丈夫か遠坂、桜も・・・・」

「だ、大丈夫なわけないじゃない・・・。
 あの女、真祖の姫なんでしょ?
 シャレにもならないわ・・・・」

「わ、私も・・・・名前ぐらいしか・・・聞いたことありませんけど、セイバーさんを圧倒した理由・・・・・わかりました」

二人の様子を見ながら大河がシエルに疑問を投げる。

「なぁ、『真祖』って何だ?
 吸血鬼ってのは何となく分かるんだが・・・・」

「吸血鬼には二つの種類があるのです。
 『真祖』と『死徒』。
 真祖は生まれながらにして吸血鬼の事を言います。
 死徒は真祖によってかもしくは死徒に血を吸われ、吸血鬼に成った者を言います。
 恐らく貴方達の持つイメージは死徒の事でしょう。
 人の血を吸い、太陽の光を嫌う。
 ですが、真祖はそう言ったものはありません。
 元々血を吸う必要は無いそうですので・・・」

「血を吸わない?
 じゃあ何で死徒何てものがあるの?」

次の疑問はリリィのものだ。
そちらの質問の答えも最初から持っていたのだろう。
シエルは目線を向けて答える。

「人にも色々居るように真祖にも色々居まして、人の血を娯楽で飲んだそうです」

「娯楽?」

「ええ。
 その結果死徒が生まれたんです」

「「・・・・・・・・」」

リリィと大河が言葉を呑む。
何かしらの理由があって死徒が生まれたのかと思ったが、まさか個人の娯楽とは思いも寄らなかったのだ。
次の言葉が見つからず、沈黙してしまう。

「でも、何で私の所に来たのかしら?
 真祖の姫って確か凄い誇り高いって聞いた事があるわ。
 個人でならまだしも、徒党を組むなんて考えられない。
 それに彼女に聖杯を壊す理由が無いもの」

イリヤが思った事を口にする。
命を狙われているのに殆ど怖いと言う表情を出さない。
ましてや、狙っているのがとてつもない大物にも関わらず・・・。

「・・・・・・・これは私の推測・・・と言うよりほぼ確信ですが、彼女はアルクェイドであってアルクェイドではありません」

「何だそれ?」

大河が訳が分からないと言葉と顔で表す。
確かにシエルが言った事の意味が分からない。
こちらの意図を読んだのかシエルが言葉を続ける。

「私が知る彼女は、あの様な存在では無いのです。
 恐らく、あれは虚像」

「虚像?
 偽者って事?」

青い顔をしながら凛が聞く。

「偽者・・・・と言うより影みたいなものです。
 あの姿はアルクェイドが吸血衝動を抑えなくなった姿。
 『if』なのです」

窓に向かって歩き、窓際に立つ。
目線は夜空へと向け片手を窓に添え、話を続ける。

「真祖は血を吸わないと言いましたが、正確には血を吸わないようにしているのです。
 真祖にとって吸血は禁忌に等しい。
 だから、彼女らはその衝動を抑えきれなくなると永遠の眠りにつく。
 あのアルクェイドはそう言った衝動を抑えなくなった場合に存在するであろう姿」

「でも、だからと言ってあれが本物じゃないって確証があるわけでは無いんでは?」

少し心配顔で桜が指摘する。

「確かにそうです。
 が、彼女が本物だったらイリヤさんが言った徒党を組む事の説明がつきません。
 吸血衝動を抑えなくなった真祖は、目に映るもの全てを殺し尽くす者へと変わります。
 ですから、私は『なんらかの力で生み出された虚像が抑制されて徒党を組んでいる』と考えています」

「確かに、それだとイリヤを狙っているのが命令ってのも説明がつく」

「ですが、彼女が虚像とは言え真祖の姫である事に変わりはありません。
 恐らく私では歯がたたないでしょう」

セイバーの言葉に全員が息を呑み、黙り込む。
だが、一人そうでない人間がいた。

「ホントにそうか?」

その声は大河だった。
大河は真っ直ぐな目で皆を見る。

「確かに、凄いやつだってのは分かった。
 でも、だから敵わないってわけでも無いと思うんだ」

「あんたね!
 言ってる事が分かってる!?
 真祖がどれほど恐ろしい敵か・・・・。
 セイバーでさえあっさり負かされたのよ!!」

遠坂が大きな声で大河に喰ってかかるが大河はそれをすぐに流す。

「一対一の場合だろ?」

その一言で遠坂を黙らせた。
反撃を許さないで大河が続ける。

「少なくとも今ここにそれなりの実力者が揃ってるじゃないか」

そう言いながら部屋の皆を見回す。

「一対一で無理なら他の方法を見つける。
 相手は強敵であっても無敵じゃないんだ。
 そうだろ?」

大河がいたずらっ子のような笑顔。
それを見た遠坂を初め、皆が呆れたように顔に笑顔が戻る。

「・・・・ったく。
 何でこんなやつに慰められてるんだろ、私」

「こんなやつって何だ!?こんなやつって!?」

「ふふ・・・・」

遠坂の目に光が宿り、桜の顔にも笑顔が咲いた。
皆ここに来てやっと肩の力が抜けたようだ。
強敵と言う話を聞かされ、萎縮していたがやっと開放された。
それを見たシエルが言う。

「やる気が出たところで、皆さん眠って下さい。
 少しでも回復に専念していつでも戦える状態でお願いします。
 今夜は私が見張っていますので・・・・」

そう締めて、全員が各々の部屋へと戻っていった。


<**********************************************************************>


自分に割り当てられた一室。
救世主クラスの寮と同じぐらいの広さがある部屋。
・・・・・・・・まぁ、自分は屋根裏部屋だったのだが・・・・。
部屋で窓から外を見ていると入り口がノックされた。

「はい?」

「失礼します」

返事を返すと、言葉と共にシエルが入って来た。
この人も強い。
それも救世主候補と同等、或いはそれ以上に・・・・。
自分がとことんこの世界の姿を知らなかった事を痛感した。

「大河君は凄いんですね」

「ん?」

部屋に入ってくるなりいきなりそう言われた。
前置きも無く、本当に突然だった。

「何がだ?」

「彼女達をやる気にさせた事です。
 普通は中々出来る事じゃないですよ?」

そう言われ少し照れる感もあるが、先程までの雰囲気とまた違いギャップがあったのに驚いた。
さっきは敵を倒す為の顔、今は優しい笑顔を持つ女性。
一体どれが本当の彼女なのだろうと・・・・考えてしまう。

「貴方とリリィさんの事は少し聞きました。
 異世界、魔法、破滅、救世主。
 『次元の乱れ』が異世界との壁を薄くしてしまっているのですね」

「それも有るかもしれないが、俺達がここに来たのはそうじゃない。
 俺達の居た世界は元々異世界へと行く事が可能だからな、召喚士さえ居れば・・・」

そう言いながら今は居ない、離れ離れの仲間を想う。

「そうなんですか?」

驚きを少しと興味があるって言う顔が混じりあった顔。
それを大河に向けるシエル。

「ああ。
 それに向こうでは窮地を何度も経験したからな・・・・。
 こう言う時にどうするか何て嫌でも憶えた」

そう。
何度も経験した。
全てを薙ぎ払う魔道兵器。
人を狂わす破滅の種子。
軍を撤退させる為の防衛線。
幾つも幾つも・・・・。
アヴァターを・・・世界を救うために・・・。

「で・・・・」

「はい?」

今度はこっちから少し聞く。
ずっと感じていた確信を・・・・。

「あんたは、あと幾つ隠し事している?」

「・・・・・・・・・」

一瞬空気が張り詰める。
直球で質問をしたから警戒されてしまった。
だが、遠回しに聞くよりもこれが一番だと自分では思っている。
これだけストレートならはぐらかし難い。
さらにこの問いに対する今の沈黙は後でどう取り繕っても肯定を意味する。
つまりシエルはまだ何かを隠しているという事だ。
ふっとシエルが頬を綻ばせる。

「・・・・・・参りましたね。
 まさか見抜かれてる上に、そこまでストレートに聞かれるとは・・・・」

「あんたの虚像論には少し穴みたいなのがあったからな。
 あれじゃ本物だった場合の対策が無さ過ぎる。
 あんたの言い回しは、『虚像かもしれないが本物でも構わない』って感じだった。
 ・・・・・・・それはつまり本物だった場合でも助けるつもり、無いんだろ?」

大河の的確な指摘にシエルが少し息を吐く。
もうここまで言われたら隠していても仕方ない、そう言うかの様に・・・。
そして改めて大河へ向く。

「・・・・・・・・・・・・その通りです、大河君。
 私は彼女が本物であれ偽者であれ、遮断します」

「仲間なのにか?」

「それは違いますよ。
 彼女は私の仲間ではありません。
 ただ知っているだけです。
 何度か共同戦線を張った事もありますが、それだけです」

「・・・・・・・・・」

何も答えられない。
彼女は明確な敵を持ってはいる。
でも、それは明確過ぎるのだ。
例え仲間でも人ならざるものなら容赦しない。
一番手っ取り早い方法で処理するだろう。
俺何かとはとはまるで違う。
利害関係で作る友好。

(・・・・・背中を預けるのは少し難しいな)

それがシエルに対する素直な感想だった・・・。


<**********************************************************************>


長い廊下を歩く。
バーンフリート城よりは少し小さい気もするが、それでも必要以上の大きさはある。
そんな廊下を歩きながら昨日の戦闘を思い返す。

(ダウニーを大河と二人で抑えたまでは良かった。
でも、その後あいつの挑発に乗って・・・・・)

魔力を高めた魔術を行使しようとしてあの女・・・・・アルクェイドってやつに首を締め上げられた。
仮にも救世主を目指した私。
でも全く反応出来ずに成す術が無かった・・・・。
呪文と発動の少しのスキ。
アルクェイドはそのスキをついてきたのだ。
初見でいきなりそれを実践するのだから・・・・・。

(凛と桜が顔を青くするのがよく分かるわ)

元々魔術師は近接戦闘に向いては居ないのだが、自分はそれでもそれなりの体術は身に付けており、例え間合いを詰められてもすぐに自分の間合いにする方法を知っているしする事も出来る。
でも、昨日の戦いではそれが全く出来なかった。
首を締め上げられては居たが、すぐに解く為の行動は起していた。
だがこちらの振りほどく力が全く意味を成さなかったのだ。

(あれは体術とかじゃない。
ただ力任せに私の首を締め上げたんだ)

こっちに来てつくづく思う。
大河が割と平和な世界と言っていたが、それは大河がこの世界の事を知らなかったからだ。
確かに平凡な生活を送っていく分には平和なのだろう。
だが、魔術などの事を知る人間には全く違う世界が広がる。
ここには一つの世界に二つの顔が存在しているのだ。
そしてその世界のレベルは高い。
恐らくアヴァターのとは別方向のベクトルを持つ強さ。
さらに決定的な違いは・・・・。

(私達のように護る為の強さじゃない。
敵を殺す・・・・滅ぼす強さなんだ)

扉の前に来た。
ここは大河が居る部屋。
今アヴァター出の人間は自分と大河だけ。
いつ攻め来るか分からない敵を相手にどうするか話をしようと訪ねたのだ。
ノックをしようと手を上げ扉を叩こうとした。

(・・・・・?)

扉に当たる寸前で手を止める。
中から声が聞こえてきたからだ。
出来るだけ音を立てないように耳を扉に当て中の声を拾う。

(この声はシエル・・・?)

今、大河の部屋に居るであろう人物を判断する。
昨日会ったばかりの人が大河に何の用だろうかと思ったが、自分が入る事は出来そうに無い。
仕方ないので今来た通路を戻る。
少し下を見ていた為に気付かなかったが、顔を上げると真剣な目をした凛が行く手を阻むかのように立っていた。


<**********************************************************************>


日が一度昇りまた沈んだ。
全員で話をして一日が過ぎ、今は一箇所に集まっている。
昨晩は襲撃が無く、本音としてはホッとした。
全員の魔力、体力共に回復していないのに比べれば今の状態の方がずっと良いに決まっているからだ。
各サーヴァントも怪我を負った皆も殆ど戦いに支障が無い状態になっている。
でも・・・・。

(それでもどこまでやれるか・・・)

率直に思った。
あいつは間違い無く強い。
サーヴァントを・・・・セイバーを倒したんだ。
皆が万全でも倒せるのか・・・・・・いや、”一撃を入れれるか”それすら不安なのである。
勿論戦うからには勝つ意外方法は無いだろう。
だが、一撃を入れる事すら出来なければ勝つ事など到底無理だ。
あれは正にそう言う存在なのだから・・・・。

「・・・・・・・・来た!」

部屋にイリヤの声が響く。
敵がアインツベルンの結界内に侵入してきたのだ。
そして、長い夜が始まった。


<**********************************************************************>


アインツベルン城から離れた場所。
そこに光を放ち魔方陣が現れ、ゆっくりとアルクェイドが姿を現す。
目を開き、首を左右に振り現在地の確認をする。
それが終わると、誰かに言うわけでも無くしゃべりだす。

「・・・・ホント、召喚って便利よね。
 あっと言う間に目的地まで来れるんだもの」

けたけたと本当に喜びや嬉しさでは無い、不気味な笑い方をする。
一頻り笑うと顔に不満の色を浮かべ悪態をつく。

「・・・これで私だけだったらもっと良かったんだけどね」

「そう仰らず、姫。
 姫の出発には臣下が付き従うものでございましょう」

「・・・・・・・・・」

そう言いながらアルクェイドより身長の高い男が二人おり、片方の男が忠義を示すつもりがあるのか分からない笑顔でアルクェイドに言葉を投げかける。
金髪で整った顔立ち。
顔色は少々白いが、服装はマントを付けており高貴な伯爵のようなイメージを持たせる。
もう一人は言葉を紡ぐ事はしない。
こちらは短髪でゴツゴツしか印象を受ける。
服装も長袖の大きいジャケットを羽織っているだけ。
その下に服は見受けられない。
ただ、首から下が異様に黒い。
何か違うものでも表すかのように・・・・。

「さて、では行きましょう姫。
 聖杯の器とやらを壊しに・・・・・」

「つまらないゴマすりは余計腹が立つわ。
 今この場で殺すわよ?」

アルクェイドの目が本気の目に変わる。

「・・・・・・これはこれは失礼を・・・」

謝罪を述べながら、手を前にし頭を下げる。
男の行動の一つ一つが高貴なイメージを出す。
そんな中、もう一人の男は一人先へと進む。

「・・・・くだらん。
 私は私の好きにやらせてもらう」

その言葉を聞き、アルクェイドはその背中を見ながら吐き捨てる。

「ふん、好きにしなさい。
 別に貴方達の力なんて最初から勘定に入ってないんだから・・・」

先行く男は無言のまま、アインツベルンの城へと進んでいくのであった。


<**********************************************************************>


イリヤが侵入を感知してから既に30分以上が経過していた。
今は城の中ではなく、城から南に15分程離れた場所を移動している。
イリヤの感知した場所へとこちらから向かっているのだ。
城で待っていても仕方が無い、そう判断した結果でた行動である。
深い森。
奇襲にはもってこいの環境だが、これだけの手練れを相手には奇襲はあまり功を成さない。
人数が多い分、気配を張る範囲が絞られ死角は他がカバーしてくれるからである。
隊列として先頭の右にセイバー、左に俺、左方の前にライダー、後に桜、右方の前に遠坂、後にシエル、後方右にリリィ、左に大河が付き中央にバーサーカーとイリヤが組んでいる。
この隊列はシエルと遠坂が組んだもの。
どこからの攻撃にも対応する為に構成したらしい。
だが、恐らく組まなくても・・・・・。

「シロウ・・・・」

セイバーが片手を横に上げ進行を阻む。
目はずっと前を向いたまま。
全員がその合図でその場に止まる。

「グルルルル・・・・」

低く唸る声。
見ると真っ黒な大型犬が前に居た。

「犬?」

俺がそう感想を漏らす。
すると・・・・。

「ガルルルゥ・・・・」

また別の唸る声。
それが次第に増えていく・・・。
犬だけじゃない。
鹿に鳥、狼に虎に獅子みたいなのまで・・・・。
毎秒レベルで増殖していくそれを見て愕然とする。

「な、なんなんだよ、おい・・・」

もう本当にそれだけしか言えなかった。
ここに来た時には猫一匹遭う事が無かったのに、今は信じられない数の動物が目の前に居る。

「イリヤさん。
 最初に感知した時、これ程の数引っかかりましたか?」

「ううん・・・・。
 私が感知したのは3つだけ。
 いくらなんでもこれだけ見落とせって言う方が無理」

シエルの問いに、しっかりと・・・しかし信じられない顔をしながら答える。

「じゃあ、こいつらは・・・・」

「その3人の使い魔と言ったところでしょう・・・。
 それに、私の予想が当たっているならまた厄介なのが出てきた事に・・・」

シエルが後半、意味深な事を小声で呟く。
行く手を阻む獣が今にも食って掛かろうと、こちらにジリジリと寄ってくる。
こちらも全員が戦闘態勢をとる・・・・が遠坂だけとらずに叫んだ。

「セイバー!
 ここで体力を削られるわけにはいかないわ。
 こいつらは前哨戦、一気に全部薙ぎ払って!」

「凛!?」

「はやく!!」

遠坂の激しい言葉と真剣な顔にセイバーは反論を加える事無く、剣を握り直す。
正眼に構え魔力の風が剣へと集まる。
そして不可視の剣が姿を現す。
その光景に身の危険を感じたのだろう。
獣達が一斉に飛び掛ってくる。
だが遅い。
既にセイバーの準備はほぼ完了していた。
肩に担いだ剣が眩しい黄金の輝きを放つ。

「エクス・・・・カリバーーーーーーー!!!!!」

叫び剣を一気に振るう。
光は目の前の敵全てを飲み込み、空に上る柱を上げる。
凄まじい音を立てながら光が走る。
終わった頃には音が静まり煙が晴れる。
そこには先程までいた、黒い獣だったものが所狭しと広がっていた。
ただそこにはあるべき姿の肉塊では無かった。
そのどれもが血を流していなかったのである。

「・・・・なんなんだ一体・・・・?」

「・・・・・・・よもや、一瞬で意味無きものにされるとはな・・・。
 全く、何の為に向かったのかわかったものでもない・・・。」

低い声。
腹の底から響く、重い声。
肉塊の散らばる場所の更に奥。
2mは超えるであろう大男が立っていた。

「しかし、これだけの事を出来るのだ。
 少しは楽しめると言うものか・・・・」

ゆっくり地面を踏み締めて男が近づいてくる。
近づきながらゴプと音を立てている。
見ると転がっていたはずの肉塊を取り込んでいた。
その光景を見て言葉を失う。

「・・・・・・やはり貴方ですか、ネロ・カオス」

男・・・・ネロ・カオスは周りに散らばる肉塊を取り込みつくし、改めてこちらを見る。

「・・・・代行者か。
 なるほど、何度か見た顔だ。
 私が居るのを予想出来ても当然か」

シエルが刃の様な瞳をして睨みつけている。
どうやらこいつの事もシエルは知っているようだ。

「こいつも吸血鬼なのか?」

「・・・・そうよ士郎。
 ったく、いい加減にして欲しいわ。
 真祖の姫の次は二十七祖ですって?
 一体どれだけ驚かせるつもりなのよ・・・・」

遠坂も知っている?
それに今知らない単語が出たんだが・・・・。

「二十七祖?」

「吸血鬼の死徒の中で最も古い死徒の事です。
 いくつか教会に処刑されているのも居るんですけど、それでもほとんどは存在している。
 実力もかなりのもの・・・・」

「で、目の前に居るのはNo.10ネロ・カオス。
 魔術師から吸血種になったやつよ」

シエル、遠坂の順に説明してくれる。
はぁ、吸血鬼にも色々いるんだな。
とどのつまりは・・・・。

「こいつは敵って事でいいんだろ?」

と大河が俺の心を代弁するかのように言ってくれた。
見ると既に剣を出し、いつでも戦えると言わんばかりの状態である。
だが、シエルがそれを押し留める。

「間違ってはいません。
 ですが、ネロ・カオスの相手は私がします」

言いながらネロの前に一歩踏み出す。
それを見て少し歯を見せ笑いながらネロから殺気が生まれる。

「ふむ。
 サーヴァントと戦いたいと思っていたが、どうせ戦う相手だ。
 順序が変わろうと関係は無いか。」

そう言うと上着を少し広げる。

 ゴポ

水に泡を浮かべるような音が中から聞こえた。
同時に黒い角の生えた馬・・・・ユニコーンが出てくる。
そして一気に走り出し、シエルに突っ込んでくる。
シエルも黒鍵を三本出し構える。
これを皮切りに吸血鬼との戦いの宴が開幕した。


<**********************************************************************>


「「・・・・・・・・・」」

俺もリリィも文字通り言葉を失っていた。
こちらもそれなりに化け物が居るんだと知った。
知ったのは良かったんだがここまでとは・・・・。
吸血鬼であると言う男と、教会の代行者と言われる女の信じられない戦い。
男は体から次々と大型の鳥や肉食獣、蛇から最後は絶対に今この世界で存在しないであろう生物まで出てくる。
一方の女は、愕くほど身軽に動き回り間合いを測りながら自分に迫る敵を片っ端から潰している。
剣の様なものを出したりしているが、あの剣・・・・一体何処にしまっているんだ?
もう現在の時点で十本以上は軽く使っている。
だが、いくら目で追っても剣を持っている様子は伺えない。

「シエルってこんなに強いのか・・・」

ボソリと言葉を漏らしていた。
それは全く意識をしていなかったのだが・・・・。

「埋葬機関の人間だし・・・・ね。
 私も驚いてるけど・・・・。
 それより、さっきから後ろで見物?
 いい加減姿みせたらどうかしら?」

凛が後ろに振り返りながら言う。
そこにも2m程の高さの男が居た。
シエルと戦っている男とは違い、こちらは妙に身分の高いんだと言わんばかりの姿だ。

「盗み見とはいい趣味ね」

「いやいや、中々面白い舞台に思えてね。
 少し、裏方から拝見させて頂いていたのだよ」

「それはそれは。
 それで、貴方も吸血鬼って事で良いのかしら?」

「ああ、この様な姿で申し訳無い。
 元々一つの姿に留まらないんだが・・・・」

「一つの姿に留まらない?」

イリヤが言葉を呟く。
思考を展開して考えている。

「まあ、今となっては気にしても仕方ない事。
 さてこの身一夜のみの存在にならないのなら仕方ない。
 さあタタリの宴を始めよう」

「姿を留めない・・・・・タタリ・・・・」

思考を展開しながら目の前の男を見る。
そして、弾かれた様に目を見開き驚愕の顔をする。

「「ワラキアの夜!?」」

声が重なる。
イリヤと、ネロと戦っているシエルがもう一人を見て叫んでいた。
それを聞き凛が一瞬驚いた顔をしたが、すぐに消える。

「・・・・全く、ここ数日で一体何年分驚いたかしら。
 また二十七祖・・・・ね。
 もういい、もう驚かない」

半ば呆れている凛だが、もう完全に吹っ切れたのか初めて会った時と同じ光が瞳に宿っていた。

「凛、こいつもその二十七祖とか言うのなの?」

「ええ、No.13ワラキアの夜。
 実態を持たない死徒」

「・・・・・・・ちょっと待ってよ、実態を持たないって事は・・・・」

「あぁ、それは大丈夫。
 実態を持たないって言うのは、現れる度に姿が違うらしいわ。
 もっとも、誰も見た事が無いらしいけどね」

リリィの危惧は実態を持たないと言う事は攻撃が通じないのではと言う事。
もちろん、そんなのが居たら逃げるしか方法が無いわけだがさすがにどこぞのRPGのように絶対無敗超無敵な存在ではないようだ。

「リン、私が彼の相手をします」

スッとライダーが眼帯をして一歩前に出る。
・・・・・眼帯をして前が見えるのかと言いたいがそれ以上に・・・・。

(スタイル良いからあの格好は一発で男を悩殺出来るな)

などと考えてしまう。
普段着の時のライダーを見ていた分、今の姿が凄まじく魅惑的である。
スラッとしたラインを服の上からでもわかるからだ。
・・・・ん〜いいな・・・・。
と、今この時にあるまじき事を考えている。

「シエル、後ろ!」

「ええ!!」

後ろの戦闘での叫び声。
先程まではシエルが一対一で戦っていたが、いつの間にかセイバーも加勢していた。
セイバーが基本は近距離で、シエルが近・中距離と変えながら戦っている。
ネロ・カオスもその都度、使い魔を使い分け更に体から長い爪を持つ生物(?)で攻撃する。
最短でセイバーが距離を詰める。
目の前の使い魔だけを斬り伏せて行きながら・・・・。
漏らしたのは今中距離で居るシエルが黒鍵を投げつけ始末する。
自分の間合いに入ったセイバーがネロ・カオスに斬りかかる。
それを体を半身にずらす事により避ける。
同時に体から螳螂(かまきり)の腕のようなものを出し、下から掬(すく)い上げる。

「ぐっ」

螳螂(かまきり)の腕を剣で受け止めるが、力で空へと投げ飛ばされる。
例えどんな強者でも空での体勢を立て直すのは難しい。
セイバーとて例外ではない。
その為、追撃に対して防御に徹する事となってしまう。
勿論、それは一対一の場合だが・・・・。
ネロが黒い大型の鳥類を出した。
が、シエルの飛んできた黒鍵によって一撃で倒される。
使い魔を倒された事により生まれたタイムラグ。

「はあぁぁぁぁ!」

その間にセイバーが上空で体勢を立て直し、そのまま落下に合わせ剣を振り下ろす。
迎撃が間に合わないと悟り、ネロが体を互い違いの歯型の骨格で覆う。
守りに徹した隙をセイバー達は逃さない。
振り下ろした剣で更に連続攻撃を仕掛ける。
ネロは事前に幾体かの使い魔を出してはおり、それにセイバーを止めるようにさせるがシエルがそれを許さない。
小さく舌打をし、どうにかこの状況を変えようと思案する。
セイバーの攻撃が終わった瞬間にネロは、後ろへと距離を取り下がる。
そして攻撃に転じようとした。
が、反射的に防御した。
セイバーをブラインドに三本もの黒鍵を指に挟み右手を突き出し、貫こうとしていたシエルの攻撃を・・・・。

「ぬぅっ」

衝撃が襲う。
ネロは自分の思い通りに行かない事に少し苛立たしげにする。
だが、シエルの攻撃が次へと派生するものでは無い事に気付く。
恐らく、この攻撃を当てるつもりで来たのだろう。
すぐに動く事の出来る状態では無い。
ここで攻撃を行わなければ再度、セイバーが攻め来る。
咄嗟に立った答えにネロが攻撃に転じる。
上着を広げ、黒い闇が広がる。
中からワニであろうモノが頭だけだしてシエルに喰いかかる。

 ガポォ

そんな音を立てて・・・・。
が、それも外れる。
セイバーがシエルを掴み戻し、後退したからだ。
つまり完全な空振り。
そして・・・・・。

「――――投影、重装(トレース フラクタル)」
 ――――I am the bone of my sword.(我が骨子は捻じれ狂う)
 ――――“偽・螺旋剣”(カラドボルグ)」

ネロがシエルに対して取った行動。
その行動がそのまま自分に返ってくる。
攻撃に転じる時よりも攻撃を行った時の隙を狙う事。
それが今ネロに迫ろうとしていた。
シエル達の影に見えていなかった存在。
士郎が詠唱を終え、弓を構えていたのだ。

「!!」

シエル、セイバーが垂直に飛び上がり斜線上に障害が無くなる。
気付いた。
気付いたが動けない。
完全に硬直してしまっていた。
士郎は躊躇いもせず、弓を放つ。
それがネロに完璧にヒットした。


<**********************************************************************>


目の前で戦いが繰り広げられている。
私はまだ何も出来ない。
チャンスが無いんだ。
それだけ隙の無い、ハイレベルな戦いが行われている。
当然と言えば当然。
ライダーはサーヴァントでワラキアの夜は二十七祖なのだから。

「美しくないな…」

ワラキアが手を掲げる。
地面から黒い渦が巻き上がり襲い掛かる。
ライダーはバックステップで避ける。
その渦の影から短剣を投げる。
完全に死角・・・のはずだが、ワラキアは半身で逸らし距離を詰める。
左手を出したかと思うと爪が伸びてくる。
それを避けるが、次に右手を回しながらマント横に広げて攻撃してくる。
しゃがんでこれを回避。
足払いで相手の体勢を崩し、ライダーがそのまま蹴り上げる。

「キッ!」

奇怪な声を上げ、ワラキアが空へと舞い上がった。

(今!!)

私は瞬時に反応して魔術を唱える。

「Sie informieren sich――Ich schiese das Blatt, das den Bundnisfreund rettet」

同時に風の刃がワラキアへと向かう。
命中・・・・・・はしたが、大したダメージになってないみたいだ。
僅かに切った位・・・・。
空中で魔術を受けそのまま地面に着地する。
そして私に目を向ける。

「ふむ、中々の魔術師のようだ・・・・。
 少々目障りだから、君から消そうか・・・」

殺気がライダーから私に向く。
だが、その後の行動が無い。
私への道を塞ぐ様にライダーが割って入ってきたからだ。

「サクラには指一本触れさせません」

目は隠しているが、はっきりとした意思。
恐らく目には決意の灯が宿っているだろう。
溜めも無く、地面を蹴って再度ワラキアに攻撃する。
しかし・・・・。

「幕と行こう!」

ワラキアが手を広げ、衝撃を放つ。
それを見て、ライダーが足を止めた。
それがいけなかった。
マントを広げ、巻いたかと思うとワラキアの姿が消えたのである。

「フッフッフッ……」

何処からか声。
ライダーが構えたが、ワラキアはライダーの背後に現れたのだ。
気付いた時には遅い。

「舞いたまえ・・・」

右手を下から上げるとマントも同じ動きをし、ライダーを浮かせる。

「くっ!」

ガードが間に合ったのか、空に上げられる時は手に短剣を持った状態で防御している。
だが、体は空へと浮いていた。
それを追うワラキア。
空での間合いを縮め、マントを利用してライダーを攻撃する。
横からの薙ぎ、少し上からの振り下ろし・・・・。
ここぞとばかりに攻撃がやむ事が無い。

「フハハハハハ!」

さらに詰めたと思うと、ライダーを掴み手で裂く様に地面に叩きつける。
砂煙を上げて、地面に落下する。
すぐに体を起こし立ち上がっているが、やはりダメージがある。
体中が擦り切れ、膝に手を乗せ体を前に倒している。

「く・・・・」

「ふむ、中々頑丈だな。
 だが・・・・」

まだ上体を上げていないライダーの前にワラキアが舞い降りる。
そして右手を掲げ、叫び出す。

「カット……カットカットカットカットカットカットカットカットカットカットォー!」

先程の黒い渦・・・・いや、大きさが比じゃない。
まるでその場だけ大きな台風が襲って来たような感じ。
その中心に居るライダー。
体が空へと上げられて行く。
上がる度にライダーにダメージを与えながら・・・・。

「ナイト オン ザ ブラッドライアー アンザニティ・・・」

「くあああぁぁ!!」

一瞬渦が収まり終わりかと思ったが違った。
落下してくるライダーに止めとばかりに、大きな衝撃を放つ。

「ライダー!!!?」

ダメージが大きいのか、その場に平伏し動かない。
少し呻く声が聞こえる。
どうやら生きているみたいだ。
それを見てワラキアがゆっくりとライダーに近づいていく。
ダメだと反射的に感じた。
考えるより先に魔術を放つ。
だけど、それがワラキアに当たりはしなかった。
唱え、放った先にワラキアは居なかったからだ。

「!?」

慌て首を左右に振る。
だが、右も左もワラキアの姿を確認できない。
ライダーは元の場所に居る。
私はライダーの居る場所に走り寄ろうとした。
が・・・。

「無粋な真似をする。
 今は私と彼女の二人での舞台だったのだが・・・・」

背後からの声。
完全に取られてしまった。
感じた時には遅い。
まるでスロー再生の様なスピードで私は背後へと振り返る。
そこに光悦と狂喜の顔があった。
そして僅かに右手を左から右に振る。

「では、ここで死ね」

(やられる!!)

この距離でしかも完全に無防備の状態。
常人とそれ程運動能力の変わらない魔術師は、ワラキアの攻撃を避ける術を持ち合わせていない。
体を固めてしまい、目を力一杯閉じた。

「ギッ!!」

奇妙な声がした。
でも今はそんな事を気にしていられる余裕は無い。
だが、いつまで待っても衝撃が襲ってこなかった。
恐る恐る目を開けていく。
すると目の前にはワラキアの姿が無かった。
視界を完全に覆う、黒い大男の姿があった。


<**********************************************************************>


 ガン

鈍い音。
金属同士のぶつかる音じゃない。
当然か。
なんせ今俺がトレイターで競り合いしている相手の武器は手だからな。
正確には手の形をした爪って所か・・・・。
ライダー達が戦いを始め、すぐにアルクェイドが姿を現した。
あの力を見せられて正直ビビっていたけど、皆が必死に戦っているのをみて何かが変わったのだろう。
対峙しても恐怖感は無かった。
むしろ、倒してやる位の気持ちが湧き立っていたんだ。
トレイターを構えた。
最初はケタケタ笑ってやがった。
でもこっちから攻撃しだして戦っていくうちに、貶す笑いが喜びの笑いへと変わっていったのが分かった。
この戦いに楽しみを覚えたんだろう。
でも、俺は楽しく戦おうとは思わなかった。
仲間を傷つけられ平気な顔をしているようなやつじゃない。
こいつを倒す事、それが俺の今為すべき事。
競り合いの中そうはっきりと今の目標を噛み締めた。
敵に力をかけて自分は後方に飛ぶ。
敵も同じ事をして後方へと飛んだ。
既に十数合、あの爪とかち合ったが感想は一つだけ。

「・・・・ったく本当にデタラメだな。
 あんた一体何食ったらそんな手になるんだよ?」

剣を構えたまま、目の前の敵・・・・・アルクェイドに言う。
それに実に嬉しそうに答える。

「さぁ。
 血を吸い続ければなるんじゃない?」

「へっ。
 そんな方法なら死んでもごめんだね」

「じゃあ死になさい」

一瞬姿が消える。
瞬時にトレイターを掲げて目の前に振り下ろす。

「!!」

 ガィン

さっきと同じようなさっきより甲高い音。
目の前にアルクェイドが現れ、振り下ろされて来たトレイターを両手で防いでいる。
驚きと怒りが混ざった顔をして睨みつけてくる。

「貴様!
 私が何処に姿を現すか分かってたの!?」

それを聞き口に笑みを浮かべ返す。

「いや、勘だ」

「勘・・・・ですって!?」

思わぬ答えに驚くアルクェイド。

「ああ。
 俺の勘はこう言う時、大概当たるんで・・・・な!」

言いながら大河の体が前へと倒れてくる。
剣と爪で競り合いをしているにも関わらず前に倒れてくる。
見るとトレイターの姿が無い。
今の今まで競り合いをしていた剣が・・・。
すると大河の腕に手甲の様な物があった。
大河はトレイターを剣からナックルに変化させ、消えた反動を利用しアルクェイドの懐に入ったのだ。

「ちっ!」

懐に入られたが、自分の腕は上にある。
すぐさまその腕を大河の頭目掛けて振り下ろす。
が、信じられない速さで大河が移動し右の拳がアルクェイドの顔にヒットした。

「吹き飛べぇ!!!!!!」

「がふ!?」

一瞬の事。
前に倒れながら懐に入り、そのまま更に加速しナックルを叩き込んだ。
体勢は悪いが、ほぼ全体重を乗せての攻撃。
アルクェイドが十数m、地面に何度も叩き付けられ砂埃を上げながら飛ばされ、一際大きな音を立てて木に衝突した。
一方の大河は、全体重の乗せいた為に前に踏み出せたが上体に重心が移動しており、支える足を出せずそのままの勢いで前に倒れる。

「・・・ってぇ〜」

前半身が汚れ、顔にも多少土がついている。
トレイターを剣に戻しながら土を払い、目線をアルクェイドが吹っ飛んで行った方を見る。
まだ砂埃は晴れていない。
どう言う状態なのか分からない。
だが、確かな手応えがあった。
全体重を乗せてのナックル。
多分、今まで自分が戦ってきた中で一番威力のあるナックルを打てたと思っている。
自分の体勢を立て直す事を考えずの、攻撃一転張りの一撃。
当たらなければ意味が無いが当たったのだから意味があって欲しい。
そう考えながら砂埃を見ていたが・・・・・。

「・・・・・・・やってくれたわね」

少しずつ砂埃が晴れ、人影が見えてくる。
人間に一撃を入れられ許せないのだろう。
怒りの感情が剥き出しに大河を睨みつける。
ただ違ったのは血を流している事。
口からと頭から少し血を流していた。
口の血を服の袖で拭い、それを見て改めて怒りをぶつけてくる。

「マジか・・・・」

呆れと驚き。
本当にそれしか持ち得なかった。
それ程効果的なダメージにならなかった為だ。
勿論、そのまま呆けても仕方ない事は分かっている。
すぐに剣を構える。
アルクェイドも両の爪を広げ構えなおす。
いつでも再開できる状態で構えて対峙していたが、突然アルクェイドが構えを解いた。

「?」

何かの罠かと思い、こちらは突っ込む事も構えを解く事もせずにアルクェイドを注視する。
アルクェイドは右でバーサーカーと対峙するワラキア、左で煙の中に居るネロと順に見る。
そして何を思ったのか二人を自分の下に集めた。

「・・・・・・・・・・戻りなさい」

それを聞き、ネロはゆっくりと歩いて、ワラキアはマントを翻し消えるのを利用してアルクェイドの傍に現れる。
こちらも皆一箇所に集まった。
セイバーとシエルは殆ど傷らしい傷は無い。
一方のライダーは体中傷だらけで桜に支えられて立っているのがやっとのようだ。

「・・・・・・・・・何のつもりだ?」

アルクェイドの行為に疑問を抱く。
答えが返ってくるとは思わなかったが、聞かずには居られなかった・・・・。
案の定、大河の発言には全く返事は返ってこない。

「で、お前達はどうなの?」

アルクェイドがネロ、ワラキアに聞く。

「・・・・・悪くないキャスティングだ。
 それなりの話は出来ている。
 正直中々に驚いている」

「・・・・・・・こちらの予想を上回っていた。
 個々では大した事は無いが・・・・何、もうやられる事は無いだろう。
 そろそろ養分が足りなくなってきたのでな。
 補給するにはいい餌だ」

それぞれが思い思いに言葉を繋ぐ。
それを聞いたアルクェイドはニヤリと口元を歪める。

「そう・・・。
 ならもういいか・・・」

「そうね、ここで退場してもらうわ!!」

アルクェイドの言葉に続き凛の声が響いた。
一箇所に全員集まっていると思っていたが違った。
凛とリリィの姿が無かったのである。
首を動かし二人を探す。
するとリリィはレビテーションで上空・・・・向かって左側に、凛は大河達から向かって右側の立って居た。
丁度、敵を挟む形で・・・・。

「Zweihaunder・・・・・・・・」

目を閉じ、右手を胸の前で握り祈るかのように詠唱する。
左手には魔力蓄積に使う宝石が赤く煌びやかな光を放つ。
上空でもリリィが魔法陣を展開し体の周りに張り巡らされる。

「Offnung・・・・・・・Alle bewitchment・・・・・・」

状態を半身にし凛の右手が前に突き出され人差し指を立て、敵を指す。

「Entladung・・・・・Torpedoangriff・・・・・・!」

二人の胸の前に白い光の光球が出来る。
そして、同時に目を見開き敵を見据え叫ぶ。

「「ヴォルテカノン!!!!」」

それはリリィの雷撃。
だがそれを凛も放つ。
自分が足を引っ張るであろうと考えた凛の策。
自分が持ち得ない魔術を使用する事。
勿論、簡単に出来るものでは無い。
だがそこはリリィが驚く所。
凛は『天才』なのだ。
そして自分の為になることなら決して怠りはしない。
昨晩リリィを捕まえて講義を依頼し、一朝一夕で魔術を学んだのである。
それにより、二本の雷撃で単純に通常の雷撃の倍の威力を相手にぶつける事になる。
吸血鬼の三人は動かなかった。
間違いなく二人の攻撃が直撃したであろう。
雷撃の光と音、そして威力で衝撃の中心から砂煙が舞う。
光が収まり、煙だけが上がる。

「はぁはぁ・・・」

凛が肩で息をしている。
相当の魔力を使ったためか…額には汗が滲み光っている。
がくっと膝から落ちる。

「遠坂!?」

凛の名を呼び衛宮が駆け寄る。
が、煙の中で殺気が膨れ上がった。

「シロウ!!」

「えっ?」

セイバーの叫びで衛宮が振り返ったと同時にアルクェイドが一気に間合いを詰め、裏拳で衛宮を殴り飛ばす。

「がっ!?」

その流れで凛に蹴りを入れる。

「がふっ!」

腹に入り、凛が口から大量の血を吐く。
そして顔面を爪を立てた手で薙ぎ払い、凛が飛ばされる。
セイバーも駆け出そうとしたが、別の影がセイバーに向かってきた。

 ガキン

反射的に剣で防御する。
目の前にワラキアがマントを伸ばし攻撃してきた。

「くぅ!この!!」

上空には見た事も無い大型の鳥がリリィと交戦している。
シエルはネロと交戦して、こっちは目の前にデカイ蜘蛛のような化け物が立ちはだかる。
イリヤ達には狼系・・・スピードが速い使い魔が相手になっている。
さっき吹っ飛ばされた衛宮にはユニコーンが対峙している。
アルクェイドの一撃で衛宮は口からと頭から血を流している。

(まずい、完全に分散された)

イリヤ達の方はバーサーカー含めて四人。
だが、ほとんど体の動かないライダーに魔術師のイリヤと桜。
バーサーカーだけならまだしも、守りながら狼系を相手に・・・・・しかも数が半端じゃない。
完全にタイプを分けた上での配置だった。

「ぐわ!」

周りに気を取られ目の前の敵からの攻撃に反応が出来なかった。
数m飛ばされ、何とか体を起こす。
頭を打ったせいか、軽い脳震盪を起こし目の前がはっきりとしない。
顔に何か伝っている。
頭から血をながしているのか?
何とかトレイターを構えながら敵に対峙する。

「考えたわね。
 まさかここまでのダメージを負うなんてね。
 それは正解だったわ」

アルクェイドの声が聞こえた。
目線を指すと横たわって荒い呼吸をしている凛を見下ろす姿が目に入る。
もはや、体を動かす事も出来ないのだ。

「でも残念。
 あんたはここで死ぬの」

屈み、服の襟元を左手で掴み、右の爪が激しく尖る。
ゆっくりと腕を上げていき、止まる。
そのまま一気に心臓を貫くつもりだ。
すぐに凛の元に駆け寄ろうとするが、目の前の化け物に塞がれる。

「やめろーーーーーーーーー!!!!」

その光景が目に入ったのだろう。
衛宮が必死の静止を叫ぶ。
それを合図にアルクェイドの爪が凛に迫る。
速度が急に遅くなる。
まるで死の瞬間を見せ付けんとするかのように遅くなった。
あと数cm。
それで凛が絶命する。
そう覚悟した時、凄まじい光と激しい音を立て雷光が走った・・・・。




第五章に続く






〜*あとがき 四章編*〜
AYU:・・・・・・・何か言う事は?

ごめんなさい。
初っ端からな謝罪をしているルシファーでございます。

AYU:謝るのは当然よね?
    メチャメチャ長い上に凛がリリィの魔法を使ってるし?
    何これ?

いや、やっぱ『クロスでしかできないこと』ってやってみたいじゃん?

AYU:で、キッチリとまとめ切れずに次章に持ち越し?
    更に言えば、凛の詠唱・・・これドイツ語?

うん。

AYU:で、何て意味?

・・・・・・・・・・・。

AYU:・・・・・・・・・・・あんた、まさか・・・。

いやっ!?適当とかそんな事は無いんだぞ!?
ちゃんと意味もあった上でドイツ語に(強引に)翻訳したんだから・・・!!
ただ・・・

AYU:ただ?

先日HDのデータがぶっ飛んでもて、翻訳の内容が分からなくなったんだわ(てへ☆

AYU:一緒に飛んでけぇぇぇぇぇぇ!!!!!

みぎゃーーーーーーーー!ごめんなさあいぃぃぃぃぃ・・・・・・(エコー

AYU:ったく、ホントバカなんだから。
    と言うわけで、何かと不都合の多いSSとなっておりますが頑張って書かせますんで、今後もヨロシクお願いします。
    それでは〜。

ズドン!
・・・がっ・・・がんばりまふ・・・。ノシ



熱い戦いが繰り広げられる!
美姫 「初めのうちは善戦してたんだけどね」
やはり、相手のほ方が強かったか。後半はまたしてもピンチに。
美姫 「それにしても、最後の雷は」
うーん、リコたちが来たのか、それとも別の人物なのか。
美姫 「とっても気になるわね」
ああ。次回も楽しみに待っています。
美姫 「待っていますね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る