『真に守るべきモノ』
第二章「遥か過去の英雄」
畳作りの一室。
リビングの机を囲んで女性が四人、男が自分一人。
いつもなら賑やかにテレビを見たりしているのだが、さすがにお客さんが来ているのに騒がしくするわけにはいかない。
だが、正直ここまでピリピリと緊張を張り詰めているのが俺には理解できなかった。
少なくとも、ティーカップを口につけている遠坂凛がさっきから凄い張り詰めた感じを出し、向かいに座っている女性を威嚇しているようにも思える。
それを感じているんだろう。
桜も私服姿のセイバーもじっと黙ったまま沈黙を守っている。
遠坂の向かいに座っている眼鏡をかけた知的な感じを思わせる女性。
眼光が鋭い感じを受けるが、俺には悪い人には思えないんだが・・・。
確か名前は・・・・・・。
「・・・・・・そうか、あいつは逝ったか・・・」
などと思考していると、女性が言葉を発する。
この女性は俺の義父、衛宮切嗣を訪ねて来たらしい。
だが、義父はすでに他界しておりその事実を述べるとお茶を飲みながら黙ってしまっていた。
それから遠坂がリビングに顔を出し驚いた顔をしながらも、俺に紅茶を頼んでそれからじっと黙ってしまった。
「まさか無駄足になるとはな。
まぁ、あいつも裏側の人間だから早死にする可能性は、当然高いわけだ」
裏側・・・・。
こんな言葉は普通は使わない。
使うのは『表』と『裏』を知る人間だけ。
つまり、この人も魔術師か何かだと言う事。
当然かもしれないが、一応確認する為に聞いてみる。
「あなたも魔術師なんですか?」
「そうよ」
女性よりも先に遠坂が俺の疑問に答えを返してきた。
遠坂には最初から分かっていたんだ。
じゃないと普通はあんなに緊張感を出さないだろう。
でも、何で最初から分かったんだ?
「この人はね士郎、私達とはケタが違うの。
魔術師の最高クラス、魔術協会からは封印指定を受けているわ。
さらに一族の当主は高確率で魔法使いを生み出すなんて、信じられないぐらいレベルの高い人間よ」
「封印指定?封印指定って確か・・・・・」
「そう、魔術師の最高の名誉にして最悪の称号よ
その魔術師の成果を永久に保存する目的なんだけど、これを受けた魔術師は大抵魔術協会から出て行くわ」
驚いた・・・・。
そりゃ封印指定については少し聞いていたから知ってはいたけど、まさかそれを持つ人に会う事になるなんて・・・・。
「確か、今当主は・・・・」
「・・・・・・それ以上くだらない事を言ってみろ。
この場で殺すぞ・・・」
ぞくっ!
一瞬にして空気が凍りつくような、もの凄い殺気。
俺には向けられていない・・・にも関わらず潰されるような圧力。
ハンパじゃない、この人マジでやばい・・・・。
だが、遠坂は怯んでは居ない。
こんな殺気をぶつけられているのに・・・・。
一方セイバーはいつでも臨戦態勢が取れる状態を取っている。
桜は・・・怯んではいるけど、それでもきっちり睨み返している。
・・・・・・・俺が一番不甲斐無いな・・・・。
「そうね、ごめんなさい。
確かに今はどうでもいい事ですものね」
と、遠坂は謝罪の意を表す。
勝てないのは分かっている、だからあっさり引き下がったのか。
それに、今争っても仕方ないって考えたんだろうな。
「・・・・・・・・かまわない。
今のは私も大人気なかった。
・・・・しかし、あいつが居ないとなると自動的に息子が聞く事になるんだが・・・・・・・・」
「俺にですか?」
まるで無かったかのように言葉を俺へと向ける。
「あいつに息子が居たとは知らなかったが・・・・・・・」
「ええ、俺は養子ですから」
「・・・・なるほど
と言う事は、魔術師としては半人前も良い所なんじゃないか?」
「そうです、恥ずかしながら・・・・」
ふぅ、と俺の言葉を聞いた後溜息を付く女性。
「まあいい。
幸い、ここに魔術師が三人、英霊が一人いるしな・・・・」
「・・・・・!?」
今度はセイバーが眼を見開いて驚く。
まだ一度も説明、紹介をしていないのにあっさり見破った・・・。
やはり封印指定を受けた魔術師って言うのは伊達ではないらしい。
それを見て女性・・・蒼崎橙子さんは口元を面白そうに歪める。
「別に驚くことじゃないだろう?
魔術師ならこの町での戦争を大抵は知っている。
まして、協会に位置した事があれば尚更な。
現に、教会の人間も派遣されているんだろう?」
淡々と言葉を繋ぐこの人は何処か、違う雰囲気を出している。
そして、少し間を空けて自分の用件を語りだした。
「・・・・・・・率直に言うぞ?
次元が乱れている」
「次元が乱れる?」
意味も分からず、俺は言葉を反復する。
続けて遠坂が言う。
「何で、次元が乱れるのよ?
普通、そんな事あるわけ無いじゃない」
「そうだ、普通ならな。
だが、実際次元が乱れているんだ。
つい先日、それを確証させられる事が起きた」
「確証・・・・ですか?」
おずおずと桜が聞く。
「ああ。
以前私がぶっ殺した人間が生き返っていた」
「んな!?ちょっと待ちなさいよ、そんな事・・・・」
遠坂の驚きの批判に、当然の様に言う橙子さん話を続ける。
ぶっ殺したとはこれまた物騒だが、それ以上に殺した人間が生き返ったと言う方が驚いた。
「驚くだろうが、事実だ。
以前に私にちょっかいを出してきていたやつが居てな。
そいつを殺したんだが、ついこの間生き返っていた。
すぐに倒したかったんだが、すぐに姿を消した」
信じられない事実。
俺だけじゃない、この場に居る全員が驚きを隠せないでいる。
当然と言えばそれまでだが、蘇生は魔術より魔法に近い奇跡である。
それを行う事自体信じられないが、出来る人間が居るわけでもない。
つまりは『不可能』な事なんだ。
にも関わらず、それが実際に起きた。
それも封印指定を受けるような魔術師が目撃しているんだ。
これが嘘とも言えないが、わざわざ人を訪ねに来て嘘でしたなんて事もあるわけが無い。
「それに私は人為的に起こしているんじゃないかと思ってな。
その『次元の乱れ』を調べてもらおうと思ってあいつを訪ねて来たんだ。
あいつは少し特殊な位置付けの人間だからな。
私みたいなワケありでも依頼と言う形なら受けてくれると思ったんだが・・・・」
協会から離脱して追われる身の人でも助けたって事か・・・・。
義父らしいと思った。
「でも次元の乱れと死者が生き返ったのは関係あるんですか?」
桜が疑問を口にする。
「今不可能に近い事が殆ど同時に起きたんだ。
何かあると感じないか?」
橙子さんは桜の問いに答えた。
不可能が立て続けに起こった。
偶然は重なれば必然。
そう考えているんだろう。
「・・・・・それを今こうやって私達に話すと言う事は何かあるのでしょう?」
などと思っているとセイバーが読み流すかのように橙子さんに疑問をぶつける。
「いや、別にどうと言う事はないさ。
あいつが居ないのなら仕方が無いって事で終わりだ。
だが、ここにあいつでは無い魔術師が居る。
なら情報ぐらい提供しておいても良いだろうと言うだけだ。
あとは、そっちがどう動こうと私は関与しないさ」
「・・・・つまりは私達を利用しようってわけ・・・・?」
橙子の淡々とした語りに遠坂が投げかける。
勿論、それは快く受け入れると言う訳ではなく勝手に頼られる迷惑さから来ているものだろう。
それを知ってか知らずか、橙子さんは続ける。
「さっきも言っただろう?
私は情報を提供に来ただけに過ぎないさ。
この情報を元に君らが何をしようとと知った事じゃない。
私は、正義の味方じゃないからね」
「仮にこのままだとどうなるんです?」
「自然であれ人工であれ、そんな事が起き続ければあっと言う間に世界は大混乱。
それは死んだはずの存在が生き返ってるんだ。
どうなるかなんて予想が付くと思うが・・・?」
(理由は教えてやるから後は勝手にしろって事か・・・・)
改めて目の前の女性を見て、蒼崎橙子と言う女性の自分が持つ考えを変えた。
十人十色と言うが、この人は別格だ。
少なくとも自分が今まで会った人間のどれよりも癖が強い。
難しい性格と言うより、基本的に結果を知るのは自分に関わる事だけと言う事。
ぶっちゃけ無責任なのである。
人に干渉しないが人に干渉をさせない。
シンプルにはっきりとしているが、協調性などは皆無だ。
などと考えていると、橙子さんはお茶を飲み干し席を立つ。
「さて、私は帰る」
言うな否や、持って来た鞄を手に持ちさっさ玄関へと向かう。
すると、遠坂が橙子さんの背中に語りかける。
「最後に一つ、聞いていいかしら?
どうして、自分で動こうとしないの?」
「何を分かりきった事を。
封印指定を受けた魔術師が、わざわざ魔術協会に自分をアピールしてなんになる」
実に簡潔に答え部屋を後にした・・・・。
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(自分の居場所を教えないって事か・・・)
世界屈指の人形師の背中を見送って小さく溜息をつく。
今更になって汗が出てきた。
恐ろしい殺気、極寒のような瞳。
ライダーの魔眼とはまた違う。
本気で殺す為に向けたような眼だった。
思い出しただけで押しつぶされそうになる。
「凛、どうするのですか?」
「どうするって?」
セイバーが私に向き直る。
「『次元の乱れ』と『死者の蘇生』です。
もし、彼女の情報が本当なら・・・」
「そうですね、死者が甦って来るなんて元々有ってはならない事ですし・・・」
桜もセイバーに続く。
もちろん言いたい事はわかる。
でも・・・・・・。
「確証が無いわ」
そう、確証が無い。
確かに屈指の魔術師が嘘を言いにわざわざ来たとは思えない。
でもだからと言って鵜呑みには出来ない。
人が色々居る様に、魔術師も色々居る。
行動を起こすのは確証を得てからでも遅くは無いと私は思った。
「そうだな。
嘘とは思えないけど、確証を得てからでも俺は良いと思う」
蒼崎橙子を見送ってきた士郎が、私の気持ちを代弁するかのようにドアを閉めながら話してきた。
「でも、姉さん。
確証ってどうやって得るんです?
まさか、今まで亡くなった人をチェックして行くとか・・・・」
「無理ね。
あまりにも非効率過ぎるわ」
「ではどうするのです?
『次元の乱れ』も知る方法が我々には無い」
「あの人がここに来たって事と私達に情報を渡したっては魔術師なら分かるって事だと思うの。
じゃないと、話をする意味無いでしょ?
幸い、こう言うのを探すのに適した人間が一人居るし・・・・」
「適した人?」
わたしの言ったのが誰か分からないと言うように桜が疑問符を浮かべている。
それを見て、適任者に顔を向ける。
「・・・・・・・・俺か??」
少し驚きを表しながら士郎が確認する。
「ええ。
結界なんかを探す時に衛宮くん、結構活躍したから多分今回も行けるんじゃないかしら?
あの時に比べたら、相当レベルアップしているし・・・」
「なるほど、確かに凛の言う事は正しい。
死者を確認するよりも、魔術的要因を探るという事ですね」
「そういう事。
桜もそれでいいかしら?」
「私は全然構いません。
先輩、頑張って下さい」
「おう!
って言っても遠坂。
具体的に何をしたらいいんだ?」
「そうね。
具体的には・・・・・・・・」
カランカラン
突然、この屋敷に張られている結界が鳴り響く。
何者かが侵入してきたのだ。
「何!?」
「侵入者ですか!?」
「そ、そんな・・・」
「な、なんだこれ??」
皆が戦闘態勢を取ろうとしている中ただ一人、士郎だけが別の反応を示した。
その行為に対して士郎に言葉をかける。
「どうしたの、士郎??」
「遠坂、庭だ。
何か庭が波を上げている感じがする」
波??
海ならまだしも、陸で・・・しかも家の庭先でそんな事があるわけが無い。
でも士郎は波と言った。
そう言えば、あの時も甘ったるいと言っていた。
もしかしたら・・・・。
「士郎、セイバー!
すぐに庭へ行くわよ。
もしかしたら、これが『次元の乱れ』ってやつなのかもしれない。
桜はライダーを連れて後から来て!」
「わ、わかりました」
それぞれがそれぞれ、向かう場所へと走っていく。
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庭が見渡せる廊下。
そこから見ると、庭に人が二人倒れていた。
「おい!大丈夫か!?」
「ちょ!?待ちなさい士郎!!」
裸足で庭に出て駆け寄る。
遠坂が止まるように言ったが、この際無視だ。
人が倒れているのに、怪我をしているのならすぐ手当てをしないと・・・・。
セイバーは俺の行動を読んでいたのか、すぐ後ろについてきている。
倒れている人を抱え挙げて声をかける。
「おい!しっかりしろ!!」
「・・・・ぅ」
「ほ、どうやら気を失っているみたいだ。
見たところ外傷も無いみたいだし・・・・」
でも・・・・。
(なんだ?この娘の格好・・・・・
まるで魔術師みたいな格好だ・・・)
赤い髪の娘は服がローブでマントをしている。
左手にはグローブを・・・。
「セイバーそっちはどうだ?」
「こちらも問題ありません。
気を失っているだけのようです。
ですが・・・・」
「どうした?」
セイバーが言葉を続けようとしている横に遠坂は立ち、何かを拾い上げた。
「こいつ、剣を持っているわ」
「剣?」
日本刀では無い。
どちらかと言うと西洋の剣に近い。
セイバーの持つ剣とはまた違い、男が持つ刀身が大きい剣だ。
(こっちの娘は魔術師で、そっちは剣士?
なんだってそんなやつらが・・・・)
少々気になったが、今はこの二人をどうにかするのが先決。
「何があったんですか??」
声に振り返ると眼鏡をかけ、黒を基調とした服を着込んだライダーがこっちへかけて来ていた。
「わからない。
取り合えず、二人を運ぶ。
ライダー、すまないが手を貸してくれ。
セイバーはそっちを運んでくれ。
桜は二人分の布団を敷いてくれ」
「了解です、士郎」
「あ、はいわかりました」
ライダーと桜に指示を出し、腕に抱えた娘をライダーへと預ける。
これから、桜を手伝いに家に向かおうとしてセイバーが抱えている人を見て、俺は驚き声を上げた。
「当真・・・・・・・当真、大河!?」
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「・・・ぅん」
頭がくらくらする・・・・。
視界がぼやけてはっきりと見えない。
(・・・・あれ?昨日お酒なんか飲んだっけ??)
時々嗜む程度お酒を口にするが、大河が帰って来てからは勢いで飲む事が増えた。
何だかんだで救世主クラスは仲が良い。
命懸けで培った絆。
簡単に壊れる事は無いんだ・・・・・。
(え〜っと確か・・・・)
眠り気味の思考を展開しようとして、はたっと頭が冴えた。
「・・・・・!?」
ガバッ
頭がはっきりしないのは逆召喚の後遺症みたいなものだ。
イースとか言う男に皆、逆召喚されたんだ。
それに気付き、体を起こしざっと辺りを見回す。
(あいつがいきなり救世主クラス全員を逆召喚したんだった!)
思い出しながら最後に自分が見た光景を思い出す。
魔方陣が現れ、動きを封じられて、光に包まれた。
(・・・・・ここは?)
辺りを見回すと見た事の無い作りをした部屋の布団に自分は寝かされていた。
それも着替えさせられて・・・・。
腕の辺りが随分長いが、これはこう言う作りなのだろう。
目の前にあるのはドアとは違う・・・横にスライドさせて開けるのだろうか?
両側は模様がある壁・・・・だが、これも横に開けれるみたいだ。
模様が途切れ途切れにあるから恐らく・・・。
床は・・・・・植物か何かを編んだものなのだろう。
それを長方形にしたのが一枚ずつ敷き詰められてある。
木とは違う・・・草の匂いがした。
窓は後ろ側にある。
外が暗いから今は夜か・・・。
召集がかかった時は昼少し前だったから、単純に七時間以上寝てた事になる。
そうこう考えているうちに目の前のドアらしきものが開く。
スゥ
ドアの音と大分違う、静かな鋭い音。
読み通りスライドさせて、女性が入ってきた。
年は自分と同じか、少し下位か。
髪を両側で結んであり、鋭い眼光を放つ知的な女性の印象を受ける。
「目、覚めたみたいね」
入ってきて私を見たその女性の第一声はそれだった。
私の横に座りながら言葉を続ける。
「何処か体で痛むとかある?
あるなら、診せて」
「・・・・ありがとう、大丈夫。
別に体で怪我してる所は無いわ」
「そう、それならいいわ。
でも、ビックリしたわ。
いきなり庭に人が倒れてるんだもの」
どうやら彼女が倒れていた私を介抱してくれたようだ。
目線の高さが自分と同じになる。
「・・・・ここは何処?」
今、自分が置かれている状況を把握しないといけない。
場所ぐらい知っておかないと、次への対処が出来ないのだから。
「ここは衛宮君の家。
私もここに居候・・・・って言うのかな?
まぁ、時々世話になっているわ」
簡潔な説明だったが、少なくとも自分には解らない場所だとリリィは悟った。
改めて、目の前の女性を見ると彼女の瞳に吸い込まれるような錯覚を覚える。
(・・・・綺麗な瞳)
何故かそんな感想を抱いた。
私はこの瞳をする人を知っている。
決意と信念が交じり合い、確固たる意志を持つ眼。
救世主を生み出さない為に戦い続けていた自分の義母、ミュリエルの瞳に似ていたからだ。
「あなたは誰?」
自然と出た言葉。
義母と同じ目をするこの女性に少し、親近感を抱いていた。
「私は遠坂凛って言うの。
あなたは?」
遠坂凛・・・・。
あまり聞き慣れない名。
多分、大河や未亜、カエデと同じような名なのでもしかしたら、別の世界に来たのか。
イースも言っていた。
別の世界で私達を滅ぼすと・・・・。
「リリィ・・・・リリィ・シアフィールド・・・・」
名前を答えると女性・・・遠坂凛は少々場違いな質問をしてきた。
「そ。
じゃあ、リリィ。
不躾だけど、お腹すいてない?」
「え?」
確かにいきなりだった。
てっきり、自分についての質問攻めを喰らうと思っていたのに・・・・。
目をパチクリさせながらも、質問に対しての自分の状態を考えた。
時間は経っている様だが、今まで寝ていたせいだろう。
さほど空腹感は無かった。
こちらの答えを待たずに凛は続ける。
「今から夕飯なの。
起きていたら誘うようにって言われてね。
どうかしら?」
「いいの?
いきなり現れた不審者なんだけど・・・・」
リリィのその言葉に凛は僅かに微笑む。
「そうね。
でも、理由の説明ぐらいは聞けるでしょ?」
「それはそうだけど・・・」
「さ、行きましょ」
どうやら自分に選択肢は無いらしい。
それでも、先に確認しておきたい事はあった。
「ねぇ・・・」
「ん?」
立ち上がり、部屋を出かけている凛をリリィは呼び止めた。
「・・・私以外に人は居なかった?」
少し顔に出ていたのであろう。
仲間を心配する色が・・・・。
「剣を持った男が居たわ。
大丈夫、こっちはすっごい元気で今リビングに居るわ」
凛の言葉に何かとてつもない不安を覚えた。
私が知る限り剣を持っていた男と言えばあいつだけ。
さらにあいつが女性に対してどう言う行動を取るかもある程度予想が付く。
「・・・・・・もしかしてあいつ、何かとてつもなく失礼な事した??」
「・・・・・・」
凛は答えなかったが顔を伺った時点で納得。
「ごめん」
「え!?いや、リリィが謝る事じゃないわよ」
「でも、私の仲間がバカした事に変わらないから・・・」
(あのバカ、あとで燃やす)
密かに心で固く決めるリリィ。
が・・・。
「ほんと、気にしなくて良いから。
もうブン殴ったし・・・」
「へ?」
「あ、何でも無い何でも無い」
凛は慌てた様子で手を振る。
リリィは驚いた。
今まで迷惑した女性は多々居たが、ブン殴ったと言う女性は知る限り私ぐらいだと思う。
・・・・正確には魔法をぶっ放したのだが・・・・。
どうやら自分の持つ凛の印象は少し違うようだ。
だが、少なくとも大河が一緒に居るなら、次の行動の相談ぐらいは出来る。
改めて一拍置いてから凛に言葉をかけた。
「着替えてから行ってもいいかしら?」
「わかった。
廊下で待ってるから・・・」
「ありがとう」
ドアが閉まったのを確認して布団の頭下にあった自分の服に着替え始めた。
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「すっげぇ料理だな」
「そうか?うちではこれ位が普通だ」
大河は目の前に広げられた料理に、ただただ驚くばかりだ。
普通の家で、これほどの量と種類の料理が並ぶのは何かのパーティーの時ぐらいと自分は思っていたからだ。
だが、衛宮士郎の家ではこれが普通だと言う。
「これ全部、衛宮が作ったのか?」
「いくらなんでもそれは無理だ。
俺だけじゃなくて、桜も手伝ってくれる」
「そうなの?」
さっき、簡単な紹介を受けた桜に目を向けて聞く。
「はい。
先輩とお料理するの楽しいですから」
それに桜は満面の笑みで答える。
「かぁーー!羨ましいな衛宮!!
こんな可愛い娘と一緒で!!」
「そ、そんな可愛いだなんて・・・」
大河の発言に桜は顔を真っ赤にする。
士郎がはっきりと言わないのに対し、大河は超直球で感想を述べる分耐性の無い桜にはきついのである。
その反応を見た大河は・・・。
「しかも初々しい!!
衛宮と付き合ってないなら俺と付き合わない!?」
と、桜に迫り手を握ろうとする。
するとさっきまで黙っていたライダーが凄い殺気を飛ばす。
「・・・・・・・サクラにそれ以上近づかないでもらえますか?」
文字通り凍るような目線。
大河は蛇に睨まれた蛙のように固まってしまった。
「いや、えっと・・・・」
(はぁ、さっき遠坂に殴られたとこだって言うのに・・・)
大河は凛に同じように迫り、脱兎の如くの勢いで右フックを喰らっていたのを思い出す。
初対面で迫れる大河も凄いがいきなり殴りつける凛にも士郎は驚いていた。
自分でもいきなり殴りつけられた事は・・・・・あるにはあるが、初対面ではさすがに無かった・・・。
などと思いつつ、士郎はその構図を解く意味も込めて大河に話しかける。
「しかし、大河。
お前ってそんな人間だったんだな?」
「何が?」
「いや、だから・・・」
「節操無しの色情魔と言う事ですか?シロウ」
「誰が色情魔やねん!?」
「節操無しは否定しないんですね・・・」
「あ、あははは・・・」
士郎が言うより先に横に居たセイバーとライダーが容赦無く感想を突き入れた。
それに大河がツッコミを入れ、桜は乾いた笑いをしている。
セイバーはさらに続ける。
「先程も目を覚ましてすぐに凛に『生まれた時から愛してました』と迫っていたではありませんか。
さらに私、ライダー、さらには桜にも・・・。
それを見て節操無しの色情魔と言われても文句は言えないのでは?」
「ぐっ・・・」
大河は完全に反撃を逸している。
セイバーの攻撃は続く。
「恐らく彼は自分の願いで『全ての女性は俺のもの』などと言いそうです。
そして、それを実行しようとして失敗していく。
さらに、自分が女性に好かれないのを友人に押し付けたり・・・」
「な!?何でそんな事がわかるんだ!?」
(当たってるのか?)
大河が見てきた事のように言われ、めちゃくちゃ焦っている。
まぁ、血を見る事は無いみたいだと結論付けて最後の品を持って来る為に台所に向かった。
戻ってくると、ライダーとセイバーはテレビを見ており、桜はテーブルを整え、大河は部屋の隅で蹲っていじけていた。
「なんだよなんだよ。
俺が何か悪い事したのか?
俺はただ桜ちゃんと仲良くなりたいだけなのに・・・」
などと小声でブツブツ言っている。
大河とはバイトを一緒にした事があった。
仕事は一生懸命こなすヤツで融通もよくサボっていたとかそういう事が無かった。
だから、真面目なヤツだと士郎は認識していたんだが・・・・。
(ここまで女好きだったとは・・・・)
と大河の知らない一面を見て思った。
取り合えず、大河は放って置いて桜に話しかける。
「桜、準備はもういいか?」
「はい、先輩。
あとは、姉さんが来るのを待つだけです」
「姉さん?」
ピクっと大河の耳が動いた(ように見えた)。
(まるで藤ねぇみたいな動きをするな。
そう言えば、名前が同じだ。
何処か通じる所があるのかもな)
などと、自分の姉的存在を思い出しながら少し笑みをこぼす。
そうこうしているうちに大河は桜に詰め寄る。
「桜ちゃん!
もしかしてお姉さんがいるの!?
何処何処??
やっぱり桜ちゃんみたいに物静かで初々しい?」
「え、えっと・・・」
困った顔をする桜に大河は更に詰め寄る。
「ん〜、これは是非ともご挨拶をしてすぐに俺と付き合ってもらうように交渉を・・・・」
「丁重にお断りするわ!」
入り口の向こうから声が聞こえ、同時にバン!と音を立てて開く。
そこに超不機嫌顔の遠坂と、額に手を当てて小さく唸っている大河と一緒に倒れていた赤い髪の女性が立っていた。
「・・・・・・」
遠坂の方を向いたまま、また大河が沈黙したまま固まっている。
まぁ、遠坂に睨まれたら何も言えなくなるな。
睨み合いが続くなか、赤い髪の女性が喋りだす。
「・・・・・ねぇ大河。
もしかしなくとも、この状況下でナンパなんてしてなかったわよね?」
こっちの女性も相当キツイ目線を大河へと送る。
(な、何か遠坂が二人になった気分だ・・・)
声に出すと間違い無く遠坂に睨まれるので黙っている。
単純に相手の睨みが二倍になり、大河はだんだん小さくなる。
「え〜っと、リリィさん?」
「何かしら?
遺言なら聞いてあげるけど?」
赤い髪・・・リリィと言う名前のようだが外国人なのだろうか?・・・・が優しく笑いながら殺気を大河へと向け、さらに物騒な事を言う。
どうやら、このままではこの部屋で戦争が起きそうなので大河への助け舟を出してやる。
「積もる話もあるけど、取り合えず飯にしないか?」
そう言うと、少しずつ緊張が溶けていく。
こうして、突然の来客を交えた夕食が始まった。
<**********************************************************************>
カチャカチャ
士郎と桜が食器を洗っている。
夕飯を終え、すっかりごちそうになってしまった大河とリリィ。
味も相当美味であり、知らず知らず箸が進んでいた。
(さて、どうしたものか)
大河は心でそう呟いた。
正直、どこまで話していいものか。
1〜10まで話してそれを信じてもらえる保障は無い上に見知った顔があると尚更説明に困る。
(誇大妄想家と思われたくもないしな・・・)
一応リリィとは夕飯の合間合間に小声で相談はしたが、結局結論には至っていない。
大河とリリィの向かいで凛は紅茶を飲んでいる。
士郎が用意してくれた食後のお茶である。
大河とリリィの分もあるのだが、今はまだ手をつけていない。
「・・・・さて、それじゃそろそろ本題に入りましょうか」
カップを机の上に置き、凛が大河達へと目をやる。
テレビを見ていたライダーもその横にいたセイバー、士郎と桜も丁度洗い物が終わってリビングへと来た。
まるで図ったようなタイミングだった。
「あなた達は一体何者なの?
そしてどうやって現れたの?
結界が貴方達の侵入を知らせてくれたけど、貴方達はいきなり庭に現れた。
普通じゃ説明はつかないわ・・・・ね」
「結界?」
この世界では聞きなれない言葉に大河は反復する。
アヴァターでなら魔法があるんだから信じられるが、ここは自分達が居た世界。
魔法なんて無いはずなんだが・・・・・。
「侵入者が居ると発動するものよ。
まぁ、撃退とかは出来なくて知らせる為のものだけどね。
ちなみに、貴方達が来たのは一応知らせてくれたわ」
いわゆる警報装置みたいなもの。
だけど、それは結界とは言わない。
結界と言うと言う事は・・・・。
「・・・・・・この世界に魔術があるの?」
リリィが先に食いついた。
「この世界には魔法や魔術って言ったものは無いって大河が言ってたわ。
でも凛、あなたはまるで普通のように言う。
なんで?」
リリィの問いに凛は少し目線をやり、一息ついてから説明する。
「簡単よ。
私も士郎も桜も魔術師だもの」
「待って下さい凛!?良いのですか?
相手の正体を掴めていないのにこちらの情報を渡してしまって・・・」
凛の行動にセイバーが危惧して言葉を紡ぐ。
ライダーも同じ考えなのか、少し心配そうな顔をしている。
「セイバーの言いたい事は分かるけど、この二人は敵じゃないと思うわ。
それに私達も多くの情報が欲しいもの。
四の五の言ってられないわ」
とんとんと話が進んでいくが、大河が口を挟む。
「ちょっと待て。
何でこの世界に魔術なんてものがある!?
俺は今の今まで知らなかったぞ??」
「普通はそうさ。
魔術は隠すものって事になってるからな」
凛の左側に座りながら士郎が答える。
「魔術師は自分の存在を他に知られちゃ行けないんだ。
だからその正体は隠されてるんだ。
現にロンドンには魔術師による協会なんてものまで存在している」
「何?」
驚きを隠せないでいる大河に凛がさらに追い討ちをかける。
「貴方が知らないのは今まで貴方が世界の表しか見た事無かったからよ。
コインに表と裏があるみたいに世界にもあるってわけ」
驚きが消えない。
自分が過ごした世界の裏にはアヴァターにある魔術が存在していたんだから。
リリィも大河の言葉を信じていた為に魔術が存在している事に驚いている。
自分の世界では普通な存在も世界が変われば、秘匿の存在へと変わる事に・・・・。
二人の驚きを余所に凛が続ける。
「・・・・で、さっきから『この世界』って言ってるって事は、貴方達は別の世界から来たって事?」
いつの間にか口走っていた単語を指摘され少し息を呑む。
大河はリリィへと目を向ける。
リリィも大河へと視線を渡しており、既にどうするかは決まっているような目をしていた。
それを見た大河は全てを話そうと決め、凛達へと目を向け話し始めた。
「・・・・そうだ、俺たちは・・・・」
<**********************************************************************>
それから暫くして大河の話が終わった。
大河の話を無言で聞いていた凛や士郎達は話が終わってからも黙りこくっていた。
それを見て大河もリリィも言葉を発せられずに居る。
カチ、カチ、カチ
沈黙。
時計の針の音だけが響く。
凛は顔の前で手を組んで目を閉じ、じっとしている。
桜も士郎も凛に視線を向けている。
セイバーは目を閉じており、ライダーも思案しているようだった。
そして、沈黙は凛によって破られた。
「・・・・・・根の国『アヴァター』、救世主、破滅、神、召喚器、救世主戦争に救世主クラス・・・・か。
さらにはアヴァターの破滅=根幹世界の破滅・・・」
単語単語を口に出す凛。
「そして、貴方達がこの世界に来る原因になったイース・・・か。
はぁ・・・・スケールの大きさが違うわね。
正直、全部は信じられないわ」
凛が大河とリリィに目を向ける。
「ちょっと待って!
大河は何一つ嘘は言ってないわよ!?」
凛にリリィが喰ってかかる。
が、凛の反論を予想していたリリィは思わぬ肩透かしを喰らう。
「そうでしょうね。
あまりにも話が出来てるわ」
「え?」
リリィの驚きに凛は気にも止めず、大河に言う。
「ねぇ、召喚器。
今出せる?」
「ん?ああ。
トレイター」
大河が名を呼ぶと掲げた右手に剣が現れる。
それを見て驚きを見せる士郎と桜。
だが、凛、セイバー、ライダーはそれを見て・・・。
「やっぱり。
これで大河の話が嘘じゃないって証明になる。
あの後すぐに消えた剣が目の前に現れたものね。
これで信じるなって方が無理ね」
凛の言葉が全てを抑えた。
「それに・・・」
「神・・・・・ですね、凛」
凛の言葉に横からセイバーが言葉を繋げる。
「今朝、蒼崎橙子が持って来た情報。
神が原因だとするならば可能と言うことですね」
「次元の乱れと死者が甦ったってやつか・・・」
今朝、橙子が齎した情報を思い出し士郎も言葉を続ける。
そして、後者の言葉に驚きを表したのは大河とリリィだった。
「死者が・・・甦ったですって!!!!?」
「・・・ええ。
と言っても私達が確認したわけじゃないの。
今朝情報を持って来た人が居て、それの調査をしようとした矢先に貴方達が来たの。
あまりにもタイミングが良過ぎたから少し警戒したわ。
で、もしかしたら貴方達も何か知ってるんじゃないかと思ってね」
目線をリリィへと向け凛が淡々と言葉を繋ぐ。
封印指定を受けた魔術師からの情報。
そのすぐあとに異世界からの客人。
何も無いと言う方が無理な話だ。
それに大河を士郎は知っていた。
知人を無下には出来ないと言うのもあったのかもしれない。
「・・・・・・成る程な。
確かに神なら死者を甦らせるのも簡単かもな」
大河が納得をする。
「でも、神様ですよ?
神様がそんな事をするでしょうか?」
桜がそんな疑問を出す。
「サクラ。
私達が言う神と彼らの言う神は既に違っています。
もしかしたら、私達の持つ神の認識が全く違い彼らの言うのが本当の神の姿か、あるいは他にも神が存在すると言う可能性もあります」
桜の疑問にライダーが少し目を向けて答える。
普通、神とは全知全能で人を守る存在と考えている。
だが現実はそうではない。
確かに、人にとってメリットとなる事をしてきたのも事実であるかもしれない。
が、時には人にとってデメリットになる事をしてきたのも、神なのだ。
もし、神が全て人の為に存在するのであれば不慮の事故、犯罪、戦争、病気。
それらを全て止める事も可能であろう。
しかし、実際はそれは無い。
人一人の為に神は動かない。
自分にとっての幸福を神のお陰としてきたのは人が人によって生み出した幻想でしかないのだから・・・。
「神の仕業・・・もっと正確に言えば神の力を持った者の仕業か・・・・。
ほんとスケールが大きいわね。」
髪をかき上げながら凛は呆れ気味に言う。
もう冷えかけている紅茶を口に運んで一気に飲み干す。
「・・・士郎。
今日は先に進んでる?」
「・・・・?」
凛の言葉に大河が首を傾げる。
今日が進む。
当たり前だ、時が止まる事は無い。
そんな事は子供でも分かる
にも関わらず、凛は士郎にそう言ったのだ。
「ああ。
確かに全部終わらせたから時間が進んではいるんだけど・・・・」
「・・・・・セイバー達は残っている。」
士郎と凛のやり取りにますます意味が分からなくなってきた。
リリィも同様らしく、少し顔を顰めている。
大河が凛に疑問をぶつける。
「どう言う事だ?
今日が進むだのセイバー達が残ってるだの」
「そっか、こっちの説明がまだだったわね。
貴方達が全部教えてくれたのにこっちが教えないのも不公平ね」
凛は自分達の状況を説明しだした・・・。
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「英雄・・・だと?
あの神話とかに出てくる・・・?」
「そうです」
大河の疑問にセイバーが頷く。
凛からの説明を受けて、また驚いた。
過去に存在していたであろう英雄達を使っての戦争、聖杯戦争を行っていた事に・・・。
裏を知らない大河にとってこれまた驚愕の事実だった。
「・・・そっちもかなりスケールがでかい気がするな」
「そうね。
私達も奇跡の杯を得る為の戦争をしてきたんだもの。
異世界の人間で驚いてられないか・・・」
少し苦笑を交えた上で凛が同意する。
「しかし、アーサー王にメデューサか。
どっちも聞いた事ある名前。
めちゃめちゃ有名どころときた。
・・・・衛宮。
お前の趣味ってわけじゃないんだよな?」
「なんでそうなるんだ?
大体、魔術師にもどんな英雄と契約できるかなんて分からないんだからな」
茶目っ気の含んだ疑問に士郎は呆れ顔で答える。
そこで大河が一つの疑問をぶつける。
「あれ?
でも魔術師一人に英雄が一人なんだろ?
人数が足りなくないか?」
その指摘に、少し空気が重くなった。
リリィも疑問符を浮かべている。
ほんの少しの沈黙の後、士郎がはぐらかすかのようの言葉を紡いだ。
「まぁ、その辺りは追々説明していくよ。
とにかく今は次の行動をどうするかだ。
神を倒すって言っても今のままじゃどうしようもない。
かと言って『終わらない聖杯戦争』を放って置くわけにもいかないだろう?
あの時、確かに終わらせたはずなのに続いているんだ。
何とかしないと・・・・」
士郎の言葉に皆が黙っている。
一度終わらせたはずの聖杯戦争が再び始まり、それを終わらせる手段も方法も見つけ実行した。
にも関わらず、聖杯戦争は戻る事無く進む形をとったのだ。
復讐者(アヴェンジャー)の望む聖杯戦争は終わったが、別の者が望む聖杯戦争が始まってしまったのだ。
ならば、それを止める為の行動を起こさなければならない。
「・・・・・その聖杯戦争。
もしかして神が望んでるの?」
リリィがふと思った事を言い出した。
「さっき、終わらせたって言っていたけど、次が始まったんでしょう?
それも私達が来たのタイミングで・・・。
関連は無くは無いと思うの。
それにあのイースが絡んでくるなら、私達は戦わないといけない」
リリィは何としても速く戻らないと行けないと考えている。
アヴァターの状況が分からないのであるから当然と言えば当然だが、何よりあの存在を許しておくわけには行かないと感じていた。
ずっと黙っていた凛が口を開いた。
「・・・・聖杯戦争の事はあの子に聞けば分かるかしら・・・?」
「あの子?」
凛の口から出た言葉にリリィが疑問符を浮かべる。
「ええ。
聖杯の器として存在している子が居るの。
そこに行けば何か分かるかもしれないわ」
「聖杯って・・・・・・人なのか!?」
大河が一際大きな声を出す。
「正確には少し違うわ。
でも力は無理でも器は作る事が出来るのよ。
全く、あんまりいい話じゃないけどね・・・・」
言うと凛はスッと立ち上がり、大河とリリィにの方を向く。
「とにかく、イリヤの所に行きましょう。
考えたって分からないなら、解く為の情報を仕入れに行きましょう。
桜とライダーはここに残っていて。
私と士郎、セイバーとでこの二人を連れて行くから」
「え、でも・・・」
凛の提案に桜は少し戸惑いを見せる。
それを見て凛は笑顔を浮かべ、桜を見る。
「大丈夫よ、桜。
情報を聞きに行くだけなんだし、特に危険は無いと思うし・・・」
「・・・・わかりました、気を付けて下さいね」
「うん、ありがとう。
ライダー、桜を宜しくね」
「ええ。
任せて下さい」
凛は僅かに笑みを浮かべる。
それは間違い無く信頼している者への笑みである。
「さぁ、行きましょう。
アインツベルン城へ・・・・」
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「ん・・・・」
ここはどこだろう?
確か、アヴェンジャーと協力し聖杯戦争を終わらせた。
それから・・・・・・。
(・・・・・)
体を起こして周りを見渡す。
そこは教会。
今自分が任されている街の教会だ。
前回の聖杯戦争の時に死んだ主の教会。
名は言峰教会。
乱雑になった内装。
主が居ないのだから当然かもしれない。
しかし・・・・。
(何故私がここに居る?)
もう私はここには居ないはず。
なのに私は居る。
理由はただ一つ・・・・。
(聖杯戦争が終わっていない?)
有り得ない結論に達すると同時に声を掛けられた。
「お久しぶりですね、カレン・オルテンシア」
「・・・・!!」
居た場所を飛び退き赤い布を構える。
普通は武器として扱うことは出来ないが、私はそれを武器として扱う。
魔術師ではないが、代行者であることに変わりは無い。
「そう構えないで下さい、私を忘れましたか?」
暗闇から少しずつ姿が現れる。
そこには修道服を着た短髪の女性が立っていた。
ただ、シスターとは思えないが・・・・。
闇世の中のその姿を見てカレンは少し驚きの顔をする。
カレンはその人物を知っていた。
「・・・・・お久しぶりです。
まさか、貴方がここに来られるとは思いませんでした」
僅かに構えを解き、声を掛けてきた女性に挨拶をする。
いや、構えは解いていない。
解くわけにはいかなかった。
いくら構えていても、自分は間違い無くこの女性には勝てないだろう。
だが、敵かどうかも分からない人物に背を向けるほど愚かでもない。
「・・・・それで何か御用ですか?」
鋭い目を向けて目の前の女性へと言葉を発する。
それを見て女性は僅かに肩を竦ませ、苦笑する。
「そんなに睨まないで下さい。
別に私は貴方の敵ではありませんし、今は挨拶と協力を要請しに来たのですよ」
「協力?」
カレンは目を細める。
協力を要請されるほど自分に実力があるとは思っていない。
だが、目の前の女性は確かに協力を要請してきたと言った。
あまりにも考えられない事に、カレンはさらに構える。
「何故、私なんかに協力を要請するのです?
私は貴方達ほど力があるわけでも無いのに・・・・」
己の感じた疑問をそのままぶつける。
それを見て女性は僅かに笑う。
「確かに、実力は私達より劣っているかもしれませんがここでの情報は私より持っているでしょう?
そう言う意味での協力ですよ」
屈託の無い笑顔。
時には残忍で冷酷な存在が持つ、あまりにも矛盾した笑顔である。
「・・・・もう一つ。
貴方は確か別の町で任務に就いていたのではありませんか?
なぜわざわざここに?」
こちらの疑問には笑顔では無く、とてつもなく真剣な顔を向け答えた。
「・・・・・教会からの緊急要請です。
『次元の乱れ』に付いて早急に対処せよとの事。
さらに、魔術協会、香港警防も同じ指令が下されたようです。
この件に関しての拒否は何者も一切持ち合わせないとの事」
(つまり、それについての調査協力は絶対と言う事。
さらには前代未聞の協力体制を組織が取った・・・)
女性の言葉に目を閉じ僅かに思案し、終えると完全に構えを解いた。
そして、目の前の女性に改めて言葉を向けた。
「・・・・・・了解しました。
私に出来る事は全て協力します、『空の弓』」
女性、『空の弓』と呼ばれた彼女は笑顔をカレンへと向けた。
第三章に続く
〜*あとがき 二章編*〜
ども、相変わらず行き当たりばったりな物書きルシファーでございます。
AYU:ホント相変わらずと言うかなんと言うか・・・。
実は今回の怒涛のキャララッシュに大根走り回ってない?
大混乱(大根RUN)と言いたいのか?AYUよ?
AYU:そ、ベタベタのネタだけど、あんたなら大丈夫でしょ?
何がどう大丈夫なのか果てしなく気になるがあえてスルーしよう。
で、今回の章は主に『Fate』だな。
AYU:いや私に同意を求めるのはどうなのよ?
アンタが書いたんでしょ?
そうなんだが・・・時間軸は主にhollowの後ですな。
サーヴァントは存在している状態でループの輪が崩れて居ると言うご都合主義全快。
AYU:偉くうれしそうね〜?
うん、だって何か思い通りに出来るのってよくね?
AYU:つまりここでは貴方が神と・・・
そう!我は神・・・・
AYU:約束されし勝利の拳ーーーーーーーーーーーー!!!!
なぜにいいいいいいぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃ!?
AYU:いや、だってこのSSで神は敵サイドだし。
それにこれってオチだし。
更に言えばこの技は(若干)私のオリジナルだし?
・・・・・プスプス・・・・・。
AYU:焦げてるわね。
ともかく、今回はこれにて。
あ、それと、誤字脱字なんかあったら遠慮なく言って下さいね?
全力でコレに修正させるんでw
それでは〜〜〜。
大河とリリィは衛宮家へ。
美姫 「他の人たちの安否も気になるけれど」
冬木市でもまた何やら起こり始めているみたいだな。
美姫 「三度聖杯戦争が」
いやいや、一体どうなるんだろうか。
非常に楽しみです。
美姫 「次回も待っていますね」
待ってます。