『リング』




           ラグナロクの光輝  第十五章


 赤い大地が彼等を出迎える。だがそれは一瞬のことで七人の戦士達は衝撃と共に大地に降り立った。
「よし!」
「皆出るぞ!」
 七人は降下するとすぐに指示を出した。七隻の戦艦から戦士達が飛び降りる。
 そこにはワルキューレ達もいた。彼女達ももう戦闘態勢に入っていた。
 敵が来る。それは予想通りベルセルク達であった。
「ここは私達が!」
 ワルキューレ達は一斉に前に出る。
「貴方達はそのまま宮殿へ!」
「早く!」
「わかった!」
 七人の戦士達はそれに頷く。そしてその場をワルキューレ達に任せ足早に宮殿へと向かう。
 赤黒く陰鬱な雰囲気の門であった。そこには帝国軍の将兵達が待ち受けていた。だが彼等はそれにも怯むことはなかった。
「無駄だ!」
 七人がまず突っ込む。そして銃撃を浴びせる。
「馬鹿な!」
「司令官達が真っ先に・・・・・・グフッ!」
 銃撃を受けた帝国軍の兵士の一人が倒れる。これは彼等にとって予想しない動きであった。
「馬鹿な、総帥達が」
「どうして」
 そしてこれは連合軍の将兵達にとっても同じであった。彼等もまさか七人が真っ先に突っ込むとは思いも寄らなかったのであった。だが彼等はあえて突っ込んだ。そこには強い闘志があった。
「無駄だ、我等を阻むことは出来ない!」
 七人は言う。
「ニブルヘイム、入らせてもらう!」
「そうはさせるか!」
 宣言した七人に対して総攻撃が浴びせられリようとする。だがそれより前に連合軍が仕掛けていた。
 七人の後ろから凄まじい質量の攻撃が浴びせられる。それで門にいた帝国軍の将兵は薙ぎ倒されていく。ビームとミサイルがが陸上でも放たれたのだ。
 それは門さえも破壊していた。だがそれで道が開いた。
「総帥、ここは我々が!」
「貴方達は」
「これで道が開きましたよね!」
 その横では兵士の一人がビームバズーカを放っていた。
「ですから今のうちに!」
「ニブルヘイムの中に!」
「わかりました、では」
 パルジファルは頷き次に六人の同志達を見る。
「そういうことです」
「わかっている」
「ではな」
「はい」
 七人は爆風と炎の中を駆けていく。その周りでは無数の爆発が起こり光と熱が七人を撃つ。だが彼等はそれを苦にすることなく突き進む。目の前に立ちはだかる僅かな兵士達も連合軍の攻撃によって薙ぎ払われていく。
「甘いんだよっ!」
 狙撃兵の一人がビームライフルで敵の一人を撃ち抜く。
「グハッ!」
 胸を撃たれたその敵兵が倒れる。そこにもグレネードが飛び敵を吹き飛ばす。七人はその中をまるで無人の荒野を行くように進む。まるで攻撃が自分達に当たる筈がないと知っているかのように。
 そのまま破壊された門を通り抜けた。遂にニブルヘイムの中に入ったのであった。
「総帥」
 紫がかった赤の彩色の不気味な宮殿の入り口で六人はパルジファルに問うた。そこにはもう敵はいなかった。ただがらんとしていた。だが中にはえも言われぬ妖気が立ち込めていた。七人はその中で進むべき道を探っていたのである。だから六人はパルジファルに問うたのだ。
「ここまで来たが」
「次は何処に行けばいいのだ」
「真っ直ぐです」
 パルジファルは六人にそう答えた。
「真っ直ぐか」
「はい、道はそこにあります」
 彼は言う。
「ニーベルングまでの道は」
「よし」
「ならば」
「だが待て」
 六人はまだ警戒を解いてはいなかった。ここはクリングゾルの宮殿である。これも当然と言えば当然であった。
「罠はないのか」
「罠か」
「そうだ、あのニーベルングのことだ。何かしらの罠をこの宮殿に配していると考えた方がいい」
 これはトリスタンの言葉であった。
「罠だけでなく伏兵もだな」
 次にローエングリンが述べた。
「あの男のことだ。やはりそうしたものを配していると考えた方がいいな」
 二人の言葉を受けてヴァルターが言った。
「ならばこの先は慎重に進むべきか」
 タンホイザーがそれに続く。
「そうだな。さもなければ死ぬのは我々だ」
 ジークフリートが頷いた。
「だったらよ、七人で纏まって行こうぜ。どのみちそのつもりだったんだしな」
「ああ」
 そして彼等はジークムントの言葉に応えた。そのまま周囲に警戒を払いつつ正面の廊下を進んでいった。
 廊下も周りの壁も鏡の様に磨かれている。それ自体は非常に美しいものであった。だがその赤と紫の中間を思わせる色が不気味なものを漂わせていた。そこがまるで魔宮であるようにだ。
「まだ何もないな」
「そうだな」
 七人はその中を慎重に進みながら話をしていた。
「まさかこのままニーベルングのところまでいけるか?」
「いや、そうもいくまい」
 そう言いながら一歩一歩着実に進んでいく。これまではトラップにも伏兵にも出会ってはいなかった。それは幸運であろうか果たしてより狡猾な策略の為であろうか。彼等はまだそれを知りはしなかった。
「ニーベルングだからな」
「そうか」
「そういうことだ。油断は禁物だぞ」
「うむ」
 パルジファルが先導していく。時には曲がり、時には確かめ。そうして道を進んでいく。やがて。彼等は巨大な赤い扉の前にやって来た。
「ここです」
 パルジファルはその扉の前で言った。
「以前はここに彼がいました」
「主の間というわけか」
「はい」
「遂にだな」
「ここまで何のトラップも伏兵もなかったが」
「扉を開けたら、というのは考えられるな」
 六人はすぐに左右に散った。そして扉の端に張り付く。
「いいか、総帥」
 その後でパルジファルに声をかけて顔を向けた。気は扉に集中させている。
「扉を開けたらすぐにどちらかに飛べ」
「おそらく敵は我々が来ることを知っている」
 監視されていると予想しているのだ。だからこそ言ったのだ。
「いいな」
「ええ、わかっております」
 それはパルジファルも読んでいた。すぐにでも動きをとれるように構えていた。
 扉を開ける。今最後の門が開かれた。
 パルジファルはすぐに右に跳んだ。すぐに攻撃をかわす為だ。だが。攻撃は来なかった。
「!?」
「妙だな」
 七人はそれを見て眉を顰めさせた。必ず来ると思っていたからだ。
「どういうことだ」
「これも何かの罠か」
「わからないな」
 流石にこれは予想していなかった。扉の両端で攻撃態勢に入ったまま止まる。だがここで声がした。
「安心してよい、アースの戦士達よ」
「その声は・・・・・・ニーベルングか」
「そうだ、私だ」
 彼もそれに応えた。それは確かにクリングゾルの声であった。
「私がこうして卿等に声をかけてくる理由がわかるか」
「ここに来いというのか」
「そうだ」
 クリングゾルは答えた。
「その通りだ。ならば話は早い」
「どう思う?」
「さてな」
 七人の戦士達はそこに罠を感じていた。そこまでクリングゾルという男を信頼していなかったのだ。
「影武者ということもあるしな」
「声だけということもある」
「ふふふ、ここは私の宮殿だ」
 クリングゾルはそんな七人に対して笑いながら言った。
「何故小細工なぞ用意する必要があるか」
「ではそこで我々を待っているというのか」
「その通りだ。早く来るがいい、アースの末裔達よ」
 彼はまた七人を呼んだ。
「そして私と最後の戦いを行うのだ。アースとニーベルングの」
「その部屋でか」
「不服か?」
「いや」
 七人はそれには首を横に振らなかった。
「そこが卿の死に場所というのなら」
「我々は喜んでそこに行こう」
「死ぬのは果たしてどちらかまだわからぬがな」
 その声には絶対の余裕があった。死ぬのはどちらか、彼はそこも声に含んでいたのであった。
「覚悟を決めたのなら来るがいい」
 挑発さえしてきた。
「私は待っている」
「ならば」
 七人はそれを受けて遂に立ち上がった。
「行こう」
「クリングゾル=フォン=ニーベルング、そしてアルベリヒ=フォン=ニーベルングよ」
 彼の名も呼ぶ。
「そこで決着を着けようぞ」
「待っていろ」
 そして遂に部屋に入った。そこは。漆黒の間であった。
「灯りは」
「心配無用だ」
 すぐにニーベルングの声が返ってきた。すると部屋の左右に次々と灯りが灯ってきた。
 その中に赤紫の玄室が映し出される。その奥に。彼は立っていた。
「遂にここまで来たな」
 その男ニーベルングは七人に対して言った。
「アースの戦士達よ」
「これで会ったのは二度目だな」
 七人はクリングゾルを見据えて言葉を返した。
「スルト以来」
「そうだったな。だが一人違う者がいるな」
「はい、全てを思い出しました」
 パルジファルがすっと前に出て来た。
「かつての貴方との戦いを。バルドルと呼ばれていた頃のことを」
「どうやら記憶は全て蘇ったようだな」
「ええ」
 パルジファルはこくりと頷いた。
「おかげで。全てを思い出しました」
「そうか、それは何よりだ」
「そして思い出したのは過去だけではありません」
「現在もか?」
「未来も。私は全てを知ったのです」
「ノルンめ、何を卿に見せたのか」
 クリングゾルはパルジファルのその言葉にシニカルな笑みを浮かべた。
「未来なぞ既に決まっているというのに」
「さて、それはどうでしょうか」
「何が言いたい」
「細かいところまでは見ることは出来ませんがおおよそのことは私も見えました」
 先程扉を開けたところで攻撃が来なかったことは見えてはいなかったのだ。彼が見る未来とはあくまで広大なものであり些細なものではなかったのである。
「未来は一つだけではありません」
 彼は言う。
「少なくとも貴方の思い描くものだけではないのですよ」
「面白い、では卿等の未来を見せてもらおう」
 クリングゾルは笑いながらそう述べた。
「今からな。では行くぞ」
「むっ」
 六人はそれを受けて散った。戦いがはじまったと思ったのだ。だがパルジファルは動かない。まだその場に立っていたのであった。
「総帥、どういうつもりだ」
「今は戦いの時だぞ」
「いえ、それはまだです」
 だが彼は六人の言葉にそう返した。
「まだ。彼には何かがあります」
「その何かとは」
「トリスタン=フォン=カレオール博士」
「私に何の用だ」
 クリングゾルはトリスタンに声をかけてきた。
「クンドリーのことだが」
「彼女がどうかしたのか」
「あれは。よい部下だった」
 彼はクンドリーについてこう述べた。
「イドゥンを私にもたらせてくれた」
「その技術で以ってファゾルトとファフナーを作り上げたのだな」
「そう、そしてそれでバイロイトを破壊した」
「皇帝と我が叔父、そして多くの命と共にか」
「そうだ、ローエングリン=フォン=ブラバント司令」
 またしても冷たい声で述べる。
「邪魔者は消し去るのが私の流儀だ」
 ローエングリンにそう応えた。
「そしてそれは上手くいった」
「ミーメもか」
「あれは粛清だ。ニーベルングでありながら私に歯向かおうとするとは。だから消したのだ」
「ではクンドリーが死んだのも」
「そうだ、私がホランダー達のところへ誘ったのだ。本人が知らないうちにな」
「クンドリーは自由を求めていた」
 トリスタンは言った。
「その自由を与えなかったのか」
「自由!?そんなものが何だというのだ」
 そんなものはクリングゾルにとっては何の価値もないものであった。
「全ては法により定められ治められる。そんなものは不要なのだ」
「卿が法だというのか」
「その通りだよ、ヴァルター=フォン=シュトルツィング執政官」
 今度はヴァルターに述べた。
「私が法であり私が絶対なる存在、それが新たなる帝国のあるべき姿なのだ」
「その為に多くの者が犠牲になってもか」
「秩序の為には犠牲はつきものだ」
 それがクリングゾルの言葉であった。
「その為の破壊ならば。当然のことだ」
「メーロトもそうだったのかよ」
「ジークムント=フォン=ヴェルズング提督か」
「そうだ、メーロトの連れだったジークムントだ」
 彼はそう名乗った。
「メーロトも御前にろっちゃ単なる犠牲だったのかよ」
「そうだと言ったならばどうする?」
「手前!」
「ふふふ、まあ聞くがいい」
 クリングゾルは激昂を見せたジークムントに語りはじめた。
「全ては駒なのだ。帝国の為のな」
「メーロトは駒だったのかよ」
「そうだ、全ては私の駒なのだよ」
「ニーベルング族そのものが」
「ある時は私自身でさえも」
 ローエングリンにまた応えた。
「駒なのだ。新たなる帝国にとってはな」
「人としての価値等は不要だというのだな」
 ジークフリートが問うた。
「ジークフリート=ヴァンフリート首領、アースとスーラの血を受け継ぎし者か」
「知っていたか。私のことを」
「無論。そして卿の夢のこともな」
「そうか。それは私の思い描く国家ではない」
 嫌悪感を見せながらクリングゾルに語る。
「私の国家は人の国家だ。法だけの国家ではない」
「人なぞ何になるというのだ」
 クリングゾルはその人というものをまず否定してみせた。
「人なぞ幾らでも作ることが出来るというのに」
「作るだと」
「そうだ、今それを見せよう」
「それはまさか」
 タンホイザーはクリングゾルが呼ぶ者が誰なのか、わかる気がした。
「その通りだよ、タンホイザー=フォン=オフターディンゲン公爵」
 するとクリングゾルの方からも声がした。
「彼女だ。さあ我が妻よ」
「公爵」
「大丈夫だ」
 彼は仲間達の声に応えた。その顔はいたって落ち着いたものであった。
「むしろ」
「むしろ?」
「いや、その先は言う必要はないか」
 彼にはわかっていたのだ。今のヴェーヌスが何であるのか。少なくとも今の彼女はヴェーヌスではない。彼はそれがわかっていた。だが。それを知らない者がここにいたのであった。
「さあここに来るのだ我が妻よ」
 クリングゾルが呼ぶとそこに彼女が姿を現わした。ヴェーヌスが。
「ヴェーヌス」
「そうだ、我が妻ヴェーヌスだ」
 クリングゾルの傍らにあの黒い髪と瞳を持つ女が現われた。それは確かにヴェーヌスであった。
「ヴェーヌスは我が妻となるべく生み出されたのだ」
「子を創れぬ卿がか」
「子もまた創ることができる」
 トリスタンの言葉にこうふそぶいた。
「こうして妻が作られるようにな」
「戯言を。卿はそうして己の臣民を創り上げていくつもりか」
「その通りだ」
 ヴァルターに答える。
「今や命さえも作られるようになった。この私の手によって」
「へっ、それが手前の帝国かよ。何から何までまやかしじゃねえか」
「提督にはわからぬようだな。世界を創るということが」
「へっ、わかりたくもねえぜそんなことはよ」
「卿は神にでもなったというのか」
「そうだ、私は神だ」
 ヴェーヌスを側に手繰り寄せながらローエングリンに返す。
「今これから神になるのだ。卿等を倒してな」
「どうやって我等を倒すつもりかは知らないが」
 ジークフリートはクリングゾルを見据えて言う。
「卿の妻は。ヴェーヌスなのだな」
「そうだ、それ以外の何者でもない」
「そうか」
 七人はその言葉を確かに聞いた。これで全てがわかった。
「私はこの全てを創り出す力により銀河を支配するのだ。全ては私の意のままに」
「すなわちヴェーヌスもまた貴方の人形なのですね」
 パルジファルがクリングゾルに問う。
「意のままになるという意味では」
「意のままになるということを人形と呼ぶのならそうだ」
 クリングゾルはそれを肯定さえした。
「絶対者の手によって。全ては治められるのだ」
「ならばニーベルングよ」
 タンホイザーが彼に言う。
「卿は。絶対者たりえない」
「何っ!?」
「何故なら。そこにいるのはヴェーヌスではないからだ」
「戯言を。今ここにいるのがヴェーヌスでなくて何だというのだ」
 タンホイザーのその言葉を一笑に伏した。
「ヴェーヌスの黒は。私と共に」
「黒か」
「そうだ、黒の髪と瞳は。私のものだ」
「ならば見るがいい」
 タンホイザーはまた言った。
「彼女の髪と瞳を」
「愚かな。黒は永遠に変わりはしないのだ」
 その筈だった。だがそこにあったのだ。
「なっ!?」
 それを見たクリングゾルの顔が見る見るうちに強張っていった。そこにあるのは彼が思いもしなかったことであったからである。
「馬鹿な、卿は一体」
「私はエリザベート」
 そこにいたのはヴェーヌスと同じ顔と姿を持ちながらも黄金色の髪と青い瞳を持つ女であった。それはかつてタンホイザーの夢に現われたあの乙女であった。
「ヴェーヌスでありヴェーヌスとは別の存在」
「馬鹿な、何故ヴェーヌスが」
「貴方の知らないうちにヴェーヌスの中に私が生まれた。そして私になった」
「そんなことが」
「有り得たのよ。それは何故か」
 エリザベートは語る。
「貴方は人だから。神とはなれないのだから」
「私は神だっ」
「なら貴方は完璧な筈。私もヴェーヌスであった筈」
「くっ」
「それが何よりの証拠。その神でない貴方にこの銀河を治めることはできはしない」
「だが私は」
「観念するのですね、クリングゾル=フォン=ニーベルング」
 パルジファルが愕然とするクリングゾルに対して言った。
「この銀河は貴方の手には入りません。そして勝利もまた」
「まだだっ」
 クリングゾルは叫ぶ。だがそれは最早敗者の叫びであった。
「私はこの宇宙の支配者となるべき者。それは誰にも」
「否定出来ないというのですね」
「そうだ」
 彼は言い切った。
「卿等ではそれは」
「確かに私達はそれを阻もうとしました」
 パルジファルはそれに返す。
「ですがそれを否定したのは彼女です」
「ヴェーヌスが」
「ヴェーヌスはもうそこにはいない」
 タンホイザーが言った。
「そこにいるのは手前の操り人形じゃねえってことだ」
「確かに卿が創り出したかもしれない。だが」
 ジークムントとトリスタンも述べる。
「そこにいるのは」
「全く別の存在なのだ」
「卿の妻となる存在ではない」
 ローエングリンとヴァルターも述べる。
「そこにいるのは全く別の存在なのだ。卿とは、ニーベルングとも関係のない」
 最後にジークフリートが言った。
「それこそが私。エリザベート」
「私が創りあげたのはヴェーヌスだった筈。それがどうして」
「これが運命なのですよ。クリングゾル=フォン=ニーベルング」
「これが運命だと!?」
「そうです。ニーベルングのくびきがなくなる時なのです。そしてアースもまた」
「この銀河をかけて争ってきた我等が」
「貴方も私も。戦いを終える時なのです」
 そう語る。
「何を言う。卿等アースはこのノルンをかけて我等と戦い続ける運命だった筈。それが」
「それもまた終わりなのです。ラグナロクですから」
「ラグナロク・・・・・・」
「貴方はこれからも私達と戦い続けるつもりだったのですね」
「それが歴史だったからだ」
 クリングゾルは虚ろな声で述べた。
「かつて何度もラグナロクがあった」
「はい」
「ラグナロクもまた」
「幾度もあったというのか」
「全ては輪廻です」
 パルジファルは驚く六人に対して述べた。
「輪廻の中で。ラグナロクもまた無数にありました」
「そうだったのか」
「そしてその中で我々は」
「はい、戦い続けてきたのです。ですが」
「それが終わる筈がない」
 クリングゾルは躍起になってそれを否定しようとする。
「私は、私はまだ」
「もういいのですよ」
 パルジファルは必死にそれを否定しようとするクリングゾルに教え諭すようにして言葉を送った。
「これからは。アースもニーベルングもないのです」
「我々が存在しない世界」
「そうです。そうした古い抗争のない。全く新しい輪廻がはじまるのですよ」
「それが今からはじまるのだな」
「そうです、今から」
「・・・・・・そこにはもうニーベルングはいないというのか」
 クリングゾルの声は虚ろさを増していく。
「アースもまた。神々も巨人も小人も」
「人間による新たな世界です」
「私もまた。ニーベルングではないのだから」
 エリザベートもここで言った。
「ニーベルングの束縛から解き放たれたのよ」
「そういうことだったのか」
「これでおわかりになられましたね、アルベリヒよ」
「ああ、バルドルよ」
 彼等は互いのもう一つの心の名を呼び合った。
「全ては終わった。最後のラグナロクもまた」
「第四の時代が終わりました」
「古い輪廻もまた。終わったのだ」
 クリングゾルはそう呟くと懐から何かを取り出した。それは拳銃であった。
「最後の一騎打ちですか?」
「いや」
 彼は力なく首を横に振ってそれを否定した。
「ここで卿等を倒す為の銃だったが。今は違う」
「というと」
「全てを決する為だ。私自身を」
 そう言ってこめかみにその拳銃を当てた。
「さらばだ、アースから人となった者達よ」
 七人とエリザベートを見てこう言った。
「ニーベルングは去る。輪廻の終焉と共に」
「そうされるのですか」
「そうだ、後の世界に我等が不要ならば」
 もう彼に躊躇う理由はなかった。
「これ以上争っても無駄なこと」
「では」
「バルドルよ、先に待っている」
 引き金にかけられた指に力が入る。
「輪廻の果てでな」
「はい」
 クリングゾル=フォン=ニーベルングは倒れた。これが全ての終わりであった。





遂に、遂に。
美姫 「長い、長い戦いがここに幕を閉じるのね」
感慨深いものがあるな。
美姫 「次回はいよいよラストなのかしら」
次回を待っています。
美姫 「待ってますね〜」



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