『リング』




            ラグナロクの光輝  第十三章


「!?おかしいな」
 帝国軍の先頭の艦艇のある航海長がそれに気付いたのだ。
「どうした?」
「いえ」
 艦長に対して答える。
「連合軍の動きが。何か」
「単に退いているのではないと?」
「今までのことを考えれば」
「ううむ」
 艦長もそれを言われて考え込んだ。まさかと思った。4 
 だが命令は絶対である。そのまま進む。距離が縮まってきた。
「よし!」
 帝国軍はクリングゾルの号令一下攻撃態勢に入った。
「全艦砲門開け!」
「全艦砲門開け!」
 クリングゾルの命令が復唱される。攻撃態勢に入ったことで速度が緩んだ。
「よし、今です」
 パルジファルはそれを見てすぐに動きに入った。
「敵に悟られないうちに」
「わかりました」
 部下達も軍勢もそれに従う。そして密かに攻撃態勢に入る。
「照準合わせました!」
「よし、撃て!」
「いえ、待って下さい!」
「どうした!?」
 ここで異変が起こった。何と連合軍が突進して来たのだ。
「馬鹿な、連合軍が突進して来ただと!」
 帝国軍の将兵達はまず我が目を疑った。
「こんなことが有り得るか!」
「しかしこれは!」
「艦載機の発進です」
「はっ」
 これがパルジファルの狙いだった。連合軍は突然の突撃で戸惑う帝国軍に対して突進し艦載機を放ってきたのだ。その中には当然ながら九人の戦乙女達がいた。
「宜しいですね」
「はい、今こそ」
 モニターに姿を現わすブリュンヒルテがそれに応える。
「雌雄を決する時」
 彼女達は一度グラールに収容されていたのである。そして今再び出撃しようとしていたのだ。
「それでは」
「勝利の後でまた」
 九機の戦闘機が出撃する。そして帝国軍の艦艇に襲い掛かっていった。
「いいか、一個中隊単位で編隊を組め!」
 ジークムントが部下達に号令を出していた。彼は得意の艦載機を使った攻撃の為何時にも増して意気上がっていたのである。
「そして空母を優先して沈めていけ!いいな!」
「空母をですか」
「そうだ」
 彼は部下の言葉に答えた。
「敵の艦載機を多く積んでるやつをな、まず叩く」
「そして敵の迎撃を減らしていくと」
「その通りだ、わかったな」
「了解しました」
 部下達は頷く。そこでモニターにローエングリンが現われた。
「おっ、司令じゃねえか」
「随分気合が入っているようだな」
「そりゃな、得意の艦載機の戦いだからな」
「そうか、相変わらずだな」 
 いつもと変わらない親友の様子に彼は笑みを見せた。
「それを見て安心したぞ」
「あんたも乗り気なんだろ?」
「否定はしない」
 今度は不敵な笑みになった。
「どうやら私も。自分では冷静なつもりだったが」
「へっ、同じ状況で戦っていてそれはねえだろ」
「そうだな。では私も暴れさせてもらおう」
「おう、一緒にな」
「では行くぞ」
「ああ!」
 二人は頷き合った。そして果敢に戦場で舞うのであった。その直前にジークムントは述べた。
「なあ」
「何だ?」
「メーロトのことだけどよ」
「ああ」
「あいつ、本当は死にたくなかったんだろうな」
「おそらくな」
 ローエングリンは一瞬寂しげな顔になったジークムントに対して言った。
「生きたかったのだろう、他の者と同じように」
「ニーベルングに生まれなかったらな」
 ジークムントは忌々しげに言った。
「ずっと一緒にやれたってのによ」
「だがそれは適わなかった」
「俺に撃たれて、満足そうに死んだぜ」
「そうか、それがあの男の最後の願いだったのだろう」
 ローエングリンはそれを聞いて感慨を込めて述べた。
「ニーベルングとして死ぬよりも。卿の友として死ぬことを選んだのだ」
「そういうことか」
「そうだ、いい友を持ったな、私達は」
「そうだな」
 ジークムントはその言葉に吹っ切れた。その清々しい顔で今戦場で剣を抜くのであった。
 ヴァルターもまた艦載機を発進させている。そこでザックスのモニターにトリスタンが現われた。
「卿か、どうした」
「少し聞きたいことがあってな」
 トリスタンはモニターの向こうでこう述べた。
「クンドリーのことだが」
「彼女が。どうした?」
「彼女とは合っているな」
「少しだがな」
 ニュルンベルグにおいて。エヴァの侍女として仕えていたのである。それはクリングゾルの謀略であるのだが。
「それがどうかしたか」
「クンドリーは自由を求めていたそうだ」
「そのようだな」
「そしてそれを果たせないまま死んだ」
「ニーベルング族として」
「それでよかったと思うか」
「難しい質問だな」
 ヴァルターは顔を上げて答えた。
「彼女は束縛から解放されることを願っていたのだろう」
「うむ」
「だがそれを適えることなく死んでしまった。そうだな」
「その通りだ」
「ニーベルング族から逃れたかったのだ。それでどうして」
「やはりそう思うか」
「私はな」
 そう答える。
「この戦いで二ーべルング族の束縛は終わると思うか」
「ニーベルングの長はクリングゾル=フォン=ニーベルング、そしてその中心となっているのはアルベリヒ教団」
「ニーベルングはその司祭長でもある」
 そこもまた重要なのであった。
「つまり彼を倒せば」
「ニーベルングの束縛も終わるか」
「クンドリ−の様な者もいなくなるな」
「彼女は。犠牲だったのだ」
 トリスタンは彼女を巡る長い旅でそれを理解した。それまで多くの戦いを経て彷徨った。だがそれを遂にわかったのである。彼女の死と共に。
「ニーベルング族の」
「全てはニーベルング族の為に」
「その忌まわしい束縛の鎖を断ち切る為にも」
「この戦い、負けるわけにはいかないな」
「そうだ、新しい時代の為に」
 彼等も戦いの中に身を置く。次の時代の為にだ。
 タンホイザーもまた軍を進める。そこへモニターで通信が入った。
「誰だ?」
「私だ」
 出て来たのはジークフリートであった。
「卿か」
「ああ、話したいことがあってな」
「卿とは。色々とあったな」
「そうだな、誤解も多かったが」
 二人の邂逅は深いものであった。それまでの戦いにおいてタンホイザーは彼を狙ったこともあった。ニーベルングと対峙し、ヴェーヌスを失った時には共に戦っていた。そしてここを目指す時にも共に進んだ。深い付き合いと言えるものになっていたのである。
「だが今は違う」
「そうだな」
 それを確かめ合い頷き合った。
「そしてだ」
 ジークフリートはそのうえで述べた。
「卿の奥方のことだが」
「ヴェーヌスか」
「いや、夢に出て来たというもう一人の存在」
「エリザベートか」
「ここにいると思うか」
「おそらくはな」
 タンホイザーは答えた。
「このヴァルハラ、ラインにいると思う」
「そうか」
「おそらくここでニーベルングは倒れはしない」
「ラインで」
「そうだ、その時にな」
「全てが終わるか」
 こう呟いた。
「それからだろう、卿の夢のことがわかるのも」
「ヴァルハラの玉座」
「夢のことは、ラインでわかる」
「私も卿もか」
「そしてそこで」
「クリングゾル=フォン=ニーベルングもまた」
「滅びることになるだろうな」
 タンホイザーの声は強いものになっていた。
「その最後を掴む為にも」
「この戦いには勝たなければならない」
「しかしだ」
「何だ?」
 ジークフリートはタンホイザーの声の色が変わったのに目を動かしてきた。
「クリングゾル=フォン=ニーベルング、謎の多い男だ」
「まだ謎があるというのか」
「エリザベートのことがな」
「彼女のことが」
「まだ何かあるかも知れない」
 そのうえで述べた。
「あの男の謎は」
「それが最後の最後でわかるか」
「そうであって欲しいが」
 だがまだ全てはわからない。それはこの戦いの果てにあるのであろうか。それすらも彼等にはわかりかねていたのであった。戦いはまだ続いていた。
「九機のワルキューレは上手く動いてくれていますね」
「はい」
 パルジファルの言葉に部下達が応える。
「そして我等も」
「このままいけばここでの勝利は確実です」
「ラグナロクに」
「いえ、それでもラグナロクはまだ続きます」
 パルジファルの言葉にすぐに問いが返る。
「といいますと」
「艦隊を退けてもまだラインがあります」
「そこへ乗り込んで、ですか」
「はい」
 パルジファルは頷いた。
「まずはノルンへ集結して」
「然る後に」
「ラインへ、そして最後の戦いに」
「わかりました、では」
 この戦いに勝ち。彼等は意を決した。そして今目の前にいる敵に向かうのであった。





ノルンへ。
美姫 「ラインへはまだかしらね」
うーん、どうなるんだろう。ノルンからすんなりと行けるのかどうか。
美姫 「さてさて、どうなるかしらね」
それでは次回で。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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