『リング』
ラグナロクの光輝 第十二章
彼等の祈りは通じた。ロンギヌスからの一撃は見事ファゾルトを貫いた。黒竜は断末魔の咆哮の後爆発しその姿を消した。これで竜は倒したのであった。
「やったぞ!」
「竜が倒れた!」
「総帥、六隻の僚艦から報告です!」
続いてヴァルター達からも通信が入った。
「それぞれファフナーをミョッルニルで倒したとのことです。七匹の竜はこれで完全に姿を消しました!」
「やりましたね」
「はい!」
皆パルジファルの言葉に応える。
「これで残る敵はニーベルングとその艦隊のみです」
「ですが」
だがここでまた報告があがった。
「彼等は我々が竜の相手をしている間に陣形を整え終えました」
「既に迎撃態勢を整えております」
「その数百個艦隊」
「まさに互角と言えましょう」
「戦いは次の段階に進みました」
戦いはまだ終わったわけではない。パルジファルもそれをはっきりと認識していた。
「次は敵の主力艦隊です」
「はい」
「まずは友軍と合流します」
「このままですね」
「そうです。そして合流した後」
彼の指示は続く。
「そのまま正面から決戦を挑みます」
「正面からですか」
「そうです」
その言葉には迷いというものがなかった。
「最後の決戦に相応しく」
「堂々とですか」
「そういうことです。それでどうでしょうか」
「我々としてはそれで異存はない」
六人の同志達がモニターに姿を現わした。竜を倒した彼等はその英気を宿したままパルジファルに答えた。
「これが最後だ。ならば正面から決める」
ローエングリンが最初に言う。
「そうだな。相手もそのつもりだ」
ヴァルターがそれに頷く。
「それならば。こちらも受けて立つ必要がある」
トリスタンも同じ考えであった。
「安心してくれ。我々はそれでも敗れはしない」
ジークフリートもそこにいた。
「勝利を収める。その為にここいいるのだから」
タンホイザーが言った。
「だからよ、一気に正面から叩き潰そうぜ」
最後にジークムントが彼等の意はパルジファルのそれと同じであった。
「それでは行きますか」
「うむ」
今七人の心は一つになっていた。
「そして私達も」
モニターが切り替わった。九人のワルキューレ達が白銀のパイロットスーツに身を包みそこに現われたのだ。
「最後の戦いの時ですね」
「お願いできますか?」
「当然です」
「私達もまた。ラグナロクの為に生きてきた者達ですから」
「そうですか。では共に」
「はい」
彼女達も戦士であった。覚悟はある。その覚悟を今見せようとしていた。
連合軍は果敢な攻撃に取り掛かった。激しい砲撃の後で突進する。
「艦載機発進用意!」
「艦載機発進用意!」
またしても号令が復唱される。そして九機のワルキューレが姿を現わした。
「わかっているわね」
ブリュンヒルテが他の八人に対して通信を入れる。仲間達はその後ろにいた。
「最後の一撃まで」
「敵を倒す」
「わかっているのならいいわ。それじゃあ」
九機の戦闘機が大きく旋回した。そして目の前の帝国軍の大艦隊に向かう。
「撃て!」
ブリュンヒルテの戦闘機がビームを放った。ミョッルニルに匹敵する一撃が帝国軍の戦艦を襲った。
光が艦を貫く。暫し動きが止まったかの様に見えたがそれはほんの一瞬のことであった。瞬く間に炎があがりその艦は光の中に消えていった。だがブリュンヒルテはそれを見届けるまでもなく次の目標に向かうのであった。
この九機の参戦は連合にとって実に大きかった。絶大な攻撃力と機動力で敵を次々と倒していく。これにより帝国軍はその数を大きく減らしていく。そこに連合軍の攻撃が加えられる。勢いは完全に連合軍のものとなっていたのであった。
「このまま押し切れ!」
ジークムントがジークリンデの艦橋で言う。
「敵が怯んだらそのまま潰してしまえ!いいな!」
「はい!」
「了解です!」
部下達もそれに頷く。ジークムントの軍はそのまま敵に飛び込み次々と攻撃を仕掛けるのであった。
「総帥、宜しいのですか?」
そのあまりにも激しい、無鉄砲とも言える攻撃を見てパルジファルの部下達が主に問うた。
「提督は突出し過ぎでは」
「いえ、あれでいいのです」
だがパルジファルはそれにはこだわらなかった。
「提督はああではなくては」
「そうなのですか」
「はい、それで」
パルジファルはここでモニターを指差した。
「それに続いてヴァルター執政官とローエングリン司令の軍が左右に展開しています」
「はい」
見ればその通りであった。二人の軍勢が帝国軍の左右に移動してきていたのだ。
「このまま側面を押さえよ!」
「一隻たりとも逃がすな!」
ヴァルターとローエングリンはそれぞれの部下達に指示を出していた。そして動いているのは彼等だけではなかったのであった。
タンホイザーは上に、トリスタンは下に。帝国軍を取り囲もうという動きを見せてきていたのだ。
「ニーベルング、これで終わりだ」
「ラグナロク、我等の勝利だ」
二人もまた帝国軍を覆おうとしていた。そして正面にはジークフリートがいた。
「ジークムント提督に伝えろ!後ろは任せろとな!」
「了解!」
海賊時代からの部下達がそれに応える。彼等は息のあった見事な攻撃で帝国軍を覆おうとしていた。それはまるで手で握り潰すかの様であった。
「ニーベルング様」
それは当然ながらクリングゾルもわかっていた。だがそれでも彼は動じた様子はなかった。
「ならば退け」
それが彼の言葉であった。
「手の中から逃れよ」
「は、はい」
「よいか、この程度で驚くことはない」
そのうえでこう述べた。
「まだ戦える」
「それでは」
「戦いとは最後に立っていればいい」
それがクリングゾルの考えであった。
「どれだけ負けようとな」
「しかし既に竜も」
「それがどうしたというのだ」
部下の言葉を一蹴してしまった。
「確かに竜達は残念だった。だがまだ私がいる」
「閣下が」
「私がいる限り帝国が敗れることはないのだ」
恐ろしいまでの轟然とした自信を以って言っていた。
「このクリングゾル=フォン=ニーベルングがいる限りな。ではわかったな」
「は、はい」
その威圧感に部下達は完全に押されていた。だが気を取り直して応えた。
「まずは後方に退く。そして」
「それから反撃と」
「よいか、まずは逃げる」
彼はまた言った。
「それからだ。拳を潰すのは」
連合軍が覆い被さろうとしている。だが帝国軍はそこから逃れていく。そして全ての艦艇を後ろに逃がしたところで陣をすぐに整えていた。その前では連合軍が円どころか球体になっていた。
「いけませんね」
パルジファルは自軍の状態を見て言った。
「すぐに退きます」
「ここでですか?」
「そうですが」
驚く部下に対しても落ち着いて返す。
「今はその時ですが」
「しかし」
「仰りたいことはわかっているつもりです」
さらに言う部下にまた返した。
「今すぐに総攻撃を仕掛けるべきだと。そう仰りたいのでしょう」
「その通りです」
部下は強く頷いた。
「今すぐに攻撃を仕掛ければ」
「いえ、駄目です」
しかしパルジファルはそれを許さなかった。
「今は退く時です」
「何故」
「今敵はこちらに向かおうとしています」
「はい」
それはよくわかる。その為にこちらの包囲を避けたのであるから。
「だからこそそれを迎え撃ち」
「それが駄目なのです」
パルジファルはそれこそ駄目なのだと述べたのだ。
「では戦わないのですか!?」
「そうでもありません」
それも否定した。
「今が決戦の時、どうして戦わないでいられましょう」
「ではどうして」
「槍をかわすのです」
「槍を!?」
「はい、今帝国軍は槍を構え突撃してくる騎兵です」
モニターを見据えながら言う。そこには今にも攻撃を仕掛けんと身構えている帝国軍の大軍が確かにいた。パルジファルはそれを評して騎兵と言ったのである。
「今それとまともに激突すればこちらの損害も大きなものとなるでしょう」
「だからここは」
「はい、それをかわします」
その為に退くとはっきり言った。
「そしてかわしたならば」
「こちらの番です。それで宜しいでしょうか」
「はい」
彼はそこまで聞いて満足そうに頷いた。そしてパルジファルに対して頭を下げた。
「申し訳ありません、そこまでは考えが至りませんでした」
「いえ、それはいいです」
彼はそれはよしとした。だが。
「ですが敵の攻撃をかわしたならば」
「わかっております」
彼だけでなくグラールの艦橋の者全てが応えた。
「その時こそ」
「勝負を決める時です。よいですね」
「ハッ」
「クリングゾル=フォン=ニーベルング」
モニターに映る両軍を見据えたまま言う。赤く映し出された帝国軍にはっきりとクリングゾルを見ていた。
「貴方が勝つか私達が勝つか。これで決まります」
連合軍は退きはじめる。それに対して帝国軍は果敢に突き進む。
「押し切れ!」
クリングゾルはハーゲンの艦橋から自ら指揮を執っていた。
「敵が退くならば追いつく。そしてそのまま突き破るぞ!」
「ここでですか」
「そうだ!」
声は何時になく強いものになっていた。
「ここで雌雄を決する、銀河においては」
「わかりました。では」
「もっともそれが適わなくとも」
彼は心の中でも言った。
「ラインに引き擦り込めばそれでいいがな。どちらにしろあの者達には勝利はない」
「!?」
部下の一人がそれに気付いた。
「閣下、今何と」
「何でもない」
だが彼はそれを打ち消した。
「気にするな。いいな」
「はあ」
「それよりも目の前の敵だ」
彼はあらためて言う。
「いいな、何としても倒せ」
「わかりました、では」
「うむ」
帝国軍は突き進む。しかし連合軍はそれ以上の速さで下がる。よって距離は縮まらない。だが一つ妙なことになった。
いよいよ大詰めか。
美姫 「竜も倒れ、けれども帝国軍は引かないわね」
さてさて、どうなる。
美姫 「次回も待っていますね」
ではでは。