『リング』




         ラグナロクの光輝  第十一幕


「やはり」
 パルジファルはそれを見上げて呟いた。
「行く先も決定です」
 そのうえで言った。
「右側面を叩きます」
「友軍の動きは」
「今ヴァルハラへの入口に入ろうとしています」
 パルジファルの部下から報告が来た。
「戦場への到着は我々が敵の右側面に達する直前です」
「そこでもいいタイミングですね」
 パルジファルにとってはよいことづくめであった。
「主力に目がいき、火力がそちらに向けられるその瞬間に」
「その時こそ」
「そうです。何もかもが整ってきました」
「後は戦場に向かい」
「時が来たならば撃つ」
 何時になくパルジファルの声が簡潔で強いものになった。
「まずは全艦艇による一斉射撃です」
「了解です」
「そして次は」
「次は」
「同志達と共にです」
「ラグナロクを切り開くと」
「間も無くギャラルホルンが鳴ります」
 パルジファルの艦隊は帝国軍の右側面に向かっていく。その動きは順調に行われていた。
「そこから全てが」
 そして今右に到着した。主力も今ヴァルハラに姿を現わそうとしていた。
「帝国軍の全艦艇が我が軍の主力に艦首を向けております」
「はい」
 パルジファルは部下からの報告に頷いた。
「そして七匹の竜も」
「そちらに向いていますね」
「ええ。それに対して我が主力は」
「六隻のケーニヒ級を前に出してきていますね」
「そうです。ですが」
「わかっています」
 ファゾルトのことも。彼には全てわかっていることであった。
「では我が軍も今のうちに」
「はい」
「攻撃準備に取り掛かりましょう」
「ですね。それでは」
 パルジファルの艦隊も密かに攻撃準備に入った。その前では帝国軍が攻撃態勢に入ろうとしていた。
「全艦攻撃準備完了」
 報告がまた入った。
「敵艦隊攻撃陣形を整えております」
「七匹の竜も前面に展開しております」
 遂にギャラルホルンが鳴ろうとしていた。そしてそれはパルジファルの手にあった。
「では」
 パルジファルはゆっくりと右手を掲げた。そこに全ての神経を集中させる。
 目の前の帝国軍は今まさに友軍へ攻撃を仕掛けようとしていた。彼の軍には気付いていない。
 誰かがゴクリと息を呑んだ。その音さえ聞こえてくるような。それ程までに緊張した空気が支配していた。
 その中において。今ギャラルホルンが鳴った。
「撃て!」
 パルジファルの右手が勢いよく振り下ろされた。こうしてラグナロクが幕を開けたのであった。
 何もない空間からいきなり光が起こった。そして帝国軍を側面から撃ち据える。その思いも寄らぬ攻撃を受けた帝国軍は瞬く間に前線の多くの艦艇を吹き飛ばされた。これにより前面の敵主力への攻撃が止まってしまった。
「何だ一体!?」
 前面の艦隊の司令官達が思わず叫ぶ。
「何があったのだ!」
「敵襲です!」
 オペレーターがそれに報告する。
「それはわかっている!何処からだ!」
「右です!」
「右!?そんな馬鹿な」
 だがそれは彼等にとって耳を疑うべき言葉であった。
「正面からではないのか。右なぞ」
「いえ、それが事実なのです」
 しかし返答は変わりはしなかった。
「右に敵艦隊がいます」
「馬鹿な、何時の間に」
「そして正面にも」
「何ということだ、今まで気付かなかったというのか」
「司令、大変です!」
 呆然とするその司令のもとにまた報告が入った。今度は殆ど悲鳴であった。
「どうしたのだ、今度は!」
「正面から攻撃です!」
「クッ、この時を狙っていたか!」
「ビーム及びミサイルの斉射です!かなりの数です!」
 不利な報告であった。
「防げ!」
「駄目です、間に合いません!」
「バリアーを張れ!さもないと死ぬぞ!」
「し、しかし・・・・・・」
 その命令は間に合わなかった。帝国軍の前面の艦艇は連合軍の攻撃を受け瞬く間に破壊されていく。これでかなりの数が減った。だが帝国軍上層部はそれに臆してはいなかった。
「連合軍の別働隊が回り込んでいたか」
 新たな赤黒い色と金で塗られた巨大な艦がそこにあった。この艦の名をナグルファルという。クリングゾルの新たな旗艦であった。彼はそこの艦橋にいたのだ。
「はい、おそらくは」
 部下達がそれに報告する。艦橋の中では管制のスタッフ達が青い顔で走り回っている。しかしクリングゾル自身は冷静なままであった。
「その別働隊の攻撃により我が軍の攻撃は挫かれました」
「そして今敵主力の攻撃により。大きなダメージを受けております」
「前面の損害はどの程度か」
「三割程です」
「そうか、わかった」
 クリングゾルはそれを聞いて頷いた。そしてすぐに指示を下した。
「前面の艦隊を後方に下がらせよ」
「宜しいのですか?」
「構わん。その間戦線はファゾルトとファフナーで支える」
「竜で」
「一瞬でいい。一撃を浴びせたら竜も下がらせよ」
「はい」
「まだ緒戦を制されただけだ」
 彼は落ち着いた様子で好述べた。
「どうということはない」
「それでは」
「戦線を再構築し、すぐに再度敵にあたる」
 彼の考えはこうであった。
「よいな」
「わかりました」
「七匹の竜と共にだ」
 この存在がやはり大きかった。
「竜を使って連合軍を撃つ」
「はい」
「それを忘れるな」
 帝国軍はファゾルトとファフナーを前面に出してきた。その間に下がる。だが既に連合軍は七隻のケーニヒ級戦艦を出してきていたのであった。
「照準既に合わせています」
「わかりました」
 パルジファルは部下の報告に応えた。そしてそれから述べた。
「今度もまた肝心ですよ」
「ロンギヌスですか」
「はい、これを外せば戦いは危うくなります」
「あの巨大な黒竜ですね」
「そうです」
 七匹の黒竜がそこにいた。その中心にいる竜にロンギヌスの照準を定めていたのである。それを外せば。どういうことになるかは言うまでもないことであった。
「他の六体の竜への照準は」
「前方にいる六隻のケーニヒ級戦艦が既にロックオンしております」
「ですか。では勝負は一瞬です」
 パルジファルは正面を見据えた。そこにファゾルトがいた。
「これを外せば竜の攻撃が我々を襲い」
「そして帝国軍は戦線を立て直す」
「そうなれば勝利は容易ではありません」
 今ここに勝利がかかっているのだ。
「それは今」
「はい」
「掴めるかどうかです。ですから」
「撃つのですね」
「この一撃で決めます」
 パルジファルはファゾルトを見据えていた。
「勝利も」
「わかりました。では」
 部下達にもそこの意気は伝わった。最早躊躇なぞ何処にもなかった。
「砲撃用意!」
「砲撃用意!」
 命令が復唱される。
「攻撃目標前面の巨大竜」
「外すなよ!」
 声が艦橋を飛び交う。パルジファルはその中に身を置き機を見計らっていた。
「総帥!」
「わかりました」
 全てが整った。それを受け今槍が放たれようとしていた。
 槍が放たれた。一直線に竜に向かう。
「当たれよ」
 それを見る全ての者がそれを願っていた。外れれば終わりだ、だからこそ当たることを願っていた。
 かわすか、それとも弾き返すか。それだけでこの戦いは終わってしまう。惑星すら破壊し尽くす竜の攻撃を受け彼等は大きな損害を被るだろう。それこそ戦局がひっくり返る程の。だからこそ彼等は祈ったのだ。槍が竜を射抜くことに。槍は一直線に竜に突き進んだ。





ファフナーとロンギヌスがいよいよ。
美姫 「どっちが打ち勝つのかしら」
うわー、緊迫した所で次回に。
美姫 「さあさあ、どうなるの!?」
また次回を。
美姫 「待ってますね〜」



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る