『リング』
ラグナロクの光輝 第五幕
「前方に敵艦隊です」
偵察隊から報告があがった。
「スルト近辺に展開しております」
「その数は」
「約五十個艦隊。今モニターに現わします」
モニターのスイッチが入れられる。そしてそこに帝国軍とそれに対する連合軍が三次元で現わされた。
「これです」
「ふむ」
パルジファルはまずはそのモニターに映る敵軍を見た。そしてあることに気付いた。
「ダメージを受けている艦艇が多いですね」
「先の戦闘の結果だと思われます」
部下の一人であるティートゥレルが答えた。
「やはりそうですか」
「どうやら工作艦やドッグをフル稼働させたようですがそれでも限度があったようです」
「成程」
「ダメージは回復しきっていません。それでも止むを得なく出撃させているようです」
「それだけスルトを明け渡すわけにはいかないと」
「どうやら。あの惑星はそれだけ重要な場所の様ですね」
「そうですね。こちらの読みはまたしても当たったということです」
パルジファルの兜の奥の目が強く光った。
「あのスルトに。軍を降下させます」
「はい」
「しかしその前に」
「わかっております」
やるべきことがあった。
「全軍攻撃態勢に」
「全軍攻撃態勢に」
命令が復唱された。
「攻撃目標前面の敵」
「攻撃目標前面の敵」
そしてまた復唱される。連合軍はそれに合せて動く。攻撃態勢に入っていた。
「攻撃用意」
「攻撃用意」
ダメージを受けたままの敵軍に対しても容赦するところがなかった。帝国軍は先の戦争のダメージのせいか満足に動ける艦艇は少なかった。ここが狙い目であった。
「撃て!」
「撃て!」
連合軍から攻撃が加えられた。そして傷が癒えぬ帝国軍を打ち据えた。スルトを巡る戦いが今ここにはじまったのであった。
ここでの戦いはあえなく終わった。連合軍の攻撃を受け戸惑う帝国軍の側面に新たな軍勢が到着したからであった。それは軍勢と言ってよいものかどうかはわからないが明らかに戦士達であった。
「あの戦闘機達は」
「約束通りですね」
パルジファルはその九機の戦闘機を見て言った。
「敵ですか、それとも」
「御安心下さい、彼女達は味方です」
いぶかしがる部下達にそう述べる。
「味方」
「そうです、味方です」
「ではあの時の」
「そう、ワルキューレです」
そして答えた。
「ワルキューレ」
「あのジュッセルドルフでの」
「そうです。覚えておられるでしょう」
「はい」
「彼女達が。ここに」
「これが運命なのでしょうね」
パルジファルがまた呟いた。
「彼女達は必ず来ると言いました。そしてここに」
「姿を現わしたと」
「帝国と戦う為に」
「では我等の味方なのでしょうか」
部下の一人がパルジファルに問うた。
「帝国と戦っているというからには」
「大筋においてはそうでしょう。ですが」
「ですが!?」
パルジファルはここで付け加えてきた。
「彼女達は。彼女達で動いています」
「といいますと」
「我々とは違うということです。言うならば同盟者です」
「同盟者」
「そうです。ですからその礼を以ってあたりましょう。よいですね」
「わかりました」
「それでは」
「はい」
これでワルキューレの存在も確認された。九機の戦闘機はそのまま帝国軍へ向かっていく。
攻撃を開始した。ビーム砲が帝国軍の艦艇を襲う。
「なっ」
それを見てパルジファルの周りの部下達は皆声をあげてしまった。
「何という威力」
「ジュッセルドルフの時と同じく」
「ですね」
それはパルジファルも確認していた。
「あの戦闘機の攻撃力は尋常なものではありません。それに」
帝国軍から攻撃が浴びせられる。だがそれを信じられない程の機動力と運動性でかわす。
「素早さも。普通の兵器ではありません」
「あれは何処の技術でしょうか」
「我々の技術ではないようですが」
「それもすぐにわかるでしょう」
「では」
「はい」
彼の意は決していた。他の六人も。
「彼女達に協力します。攻撃開始」
「攻撃開始」
「このまま敵の正面を叩きます。いいですね」
「了解」
ワルキューレだけでなく連合軍も攻撃に加わった。九人の戦乙女達だけでなく七人の攻撃も受けた帝国軍には為す術もなくスルトを守りきれずに壊滅した。殆どの艦艇はスルトを最後まで守ろうと戦い抜き沈められた。残った僅かな艦艇だけが何処かへと逃げ去ってしまった。戦いが終わった時には戦場にいるのは連合軍とワルキューレ達だけであった。
「お待ちしておりました」
ワルトラウテがパルジファルのモニターに姿を現わした。
「きっと来て下さると思っていましたわ」
「これはどうも」
「七人の戦士達よ」
九人のワルキューレ全員が出た。パルジファルだけでなく他の六人のモニターにも姿を現わしていた。七人はそれに合せて互いの顔もモニターに現わした。七人の戦士と九人の乙女はこうしてモニターで向かい合うのであった。
「まずはよくここまで来られました」
「このムスッペルスヘイムでの戦い御疲れ様でした」
「ここまで来たのも。運命だというのですね」
「はい」
ワルトラウテが答える。
「そしてこれからのことも」
「これからのこと」
「私達はこれからスルトへ降り立ちます」
「貴方達もまた」
「ニーベルングと会う為に」
「そう、ニーベルングと会う為に」
今度はブリュンヒルテが言った。九人のワルキューレ達のリーダーであるようだ。
「参りましょう、スルトへ」
「宜しいですね」
「それが。運命であるというのなら」
パルジファルも六人の戦士達もそれに従うことにした。
「参りましょう」
「いざ」
「はい」
スルトでの戦いに勝利した連合軍とワルキューレはそのまま降下作戦に入った。惑星からの迎撃はピンポイント攻撃により沈黙させ、その上で降下した。七人が直接率いる部隊の他にワルキューレ達もいた。
「直接御会いするのははじめてですね」
「はい」
七人とワルキューレ達は降り立ったスルトの港において面会の場を持った。それぞれを代表してパルジファルとブリュンヒルテが前に出て握手をした。
「私達はワルキューレ。以前にもお話しましたが」
「貴女達は。一体何なのでしょうか」
「私達は。ノルンの者です」
「ノルンの」
「そうです。ヴァルハラ双惑星の一つ、ノルンの者達です」
「ではその戦闘機の技術も」
「全ては。ノルンの技術です」
「そうだったのですか。だからこそあの様な技術だったのですか」
それは七人が今まで見たことも聞いたこともないような技術であった。だからこそ不思議に思っていたのであった。だがそれがノルンの技術であったならば。彼等も納得がいったのであった。
「ノルンを支配するのはアース族」
「アース族とは」
「言うならばニーベルング族の敵です。私達は長い間彼等と戦ってきました」
「そしてニーベルング族がラインを支配しているのですね」
「はい」
ブリュンヒルテは答えた。
「その通りです。私達は二つの惑星に分かれ争ってきました」
「銀河の在り方を巡って」
「そうだったのですか。では我々はアース族によって選ばれたのですね」
パルジファルの言葉にすぐに返事が返ってきた。
「そういうことです」
「貴方達六人もまた。私達の血を受け継いでいるのですから」
「アースの血を」
「そうです、貴方達七人は」
「だからこそ選ばれたのです」
ブリュンヒルテだけでなくワルトラウテも言った。
「その血に導かれニーベルングと戦うアースの戦士達よ」
「今ここにニーベルングの首魁がいます」
「クリングゾル=フォン=ニーベルング」
タンホイザーがその名を呟いた。
「一つ聞きたいことがある」
「タンホイザー=フォン=オフターディンゲン公爵」
「ヴェーヌスという女がいた」
「はい」
ワルキューレ達は彼女のことも知っていた。
「彼女は私の妻だった。だがニーベルングはヴェーヌスは自分の妻だと言っていた。これはどういうことなのだ」
彼はさらに問う。
「そして私はエリザベートという女性に会った。ヴェーヌスと同じ姿をした女性に夢でな。彼女は何者だ?そしてこれは一体どういうことなのだ?」
「それについては私がお話しましょう」
ワルキューレの一人が前に出て来た。
「卿は」
「ゲルヒルデです」
そのワルキューレは名乗った。
「貴方の妻であられたヴェーヌス様は確かに貴方の妻であられました。しかし」
「しかし!?」
「彼女は人造生命体だったのです。ニーベルングにより作られた」
「ニーベルングに」
「そうです」
「ではヴェーヌスは」
タンホイザーは妻の謎を知った。
「そうです。ニーベルングが自分の妻とする為に造り上げた存在なのです。そしてヴェーヌス様とそのエリザベート様は同じ存在です」
「同じ存在!?ではエリザベートもまた」
「人造人間です。詳しいことはまたわかります」
「私も聞きたいことがある」
今度はヴァルターが進み出て来た。
「私の惑星ニュルンベルクはファフナーにより破壊された」
「はい」
「その際あの竜は惑星のコアを破壊し、何者をも寄せ付けなかった。あれはニーベルングの技術なのか?」
「おおむねにおいてはそうです」
別のワルキューレがそれに答えた。
「ヘルムヴィーデと申します」
彼女もまた名乗った。そのうえでヴァルターに対して述べた。
「ニーベルングは貴方がアースの末裔であることを知っていました」
「やはり」
「そしてそれを抹殺する為に切り札であるファフナーを向けたのです。その後それで他の方々も攻撃するつもりでしたがファフナーに異常があり」
ワルキューレはそう語る。
「それはなかったのか」
「左様です。そしてファフナーは貴方により破壊され」
「なくなった。だが今ファフナーはラインで再び造られ、またファフナー以上の兵器も造られているのだな」
ヴァルターはまた問うた。
「そうなのです。ですから戦いはここで終わりではないのです」
「まだ。ヴァルハラに行かなければなりません」
「そのヴァルハラだが」
「はい」
「いや、私は後でいい」
ジークフリートはまずは引っ込んだ。何か考えがあるようだ。それと入れ替わりに今度はジークムントが進み出て来た。
「俺はニーベルング族に聞きたい」
「ニーベルング族に」
「俺はかっての戦友のミーメと戦った。あいつはニーベルング族だった」
「でしたね」
ワルキューレ達はそれに頷く。
「あいつは。ニーベルングの奴に操られているようなことを言っていた。あれは一体何なんだ?」
「それがニーベルングの血脈の持つ力なのです」
「あんたは?」
ジークムントは進み出たワルキューレの名を問うた。
「ロスヴァイセです」
「じゃあロスヴァイセさんよ、話してもらおうか」
「はい、ニーベルング族はその血脈にあるものは長に絶対的な忠誠を誓う義務があります。また長はその心にも介入出来るのです。その忠誠の証として」
「じゃああいつも」
ジークムントはようやく親友のことを完全にわかった。
「そうです。アルベリヒ教の儀式によりそれを受けました。そして」
「あいつに心を操られるようになっちまったてんだな」
「左様です。全てはアルベリヒ教の儀式により契約し、それで」
「心を乗っ取られるようになっちまったってわけか」
俯いて呟く。
「そうなのです」
「チッ、胸糞悪い話だぜ」
「クンドリーと同じか」
それを聞いてトリスタンが呟いた。
「全ては。彼女と同じなのだな」
「クンドリーはニーベルングの僕でした」
また一人ワルキューレが出て来た。
「ジークルーネです、藩王」
「ジークルーネ殿、では語ってくれ、クンドリーのことを」
「はい、彼女は自由を求めていました」
「自由を」
「そうです、ですがニーベルングに束縛を受け」
「それが出来なかったのか」
「はい。言うならば彼女は人形でした」
「人形」
その言葉を聞いてトリスタンの目の色が変わった。
「ニーベルングに操られるままの。そして」
「命を落としたか」
「最後まで。人形として」
「惨いものだな」
トリスタンはその言葉を聞いて大きく嘆息した。
「自由を望みながら最後まで人形として生きなければならなかったのか」
「それが。彼女の運命だったのでしょう」
「ニーベルング族は。全てアルベリヒ教の束縛により」
「ニーベルングに操られるのです」
「それを解放する為には」
七人は尋ねる。
「ニーベルングを倒すしか」
「わかった。やはりあの男は倒さなければならないのだな」
「それしかありません」
「ニーベルング。やはり」
「私も聞きたいことがある」
ローエングリンもワルキューレ達に問うてきた。
「ホランダー族のことだが。それは誰が答えてくれるのか」
「私が」
「卿か」
「はい、グリムリンデと申します」
そのクリムヒルデに七人が問う。
「ではグリムヒルデよ、答えてくれ」
「ホランダーのことを」
「彼等が第三帝国の者達だということはもう知っている」
彼は一度死に、そして多くのことを知ることとなったのだ。その中にホランダーのこともあったのだ。
「第四帝国が彼等を実験に使っていることは聞いた」
「それを御存知なのですね」
「今まで知らなかった。それを行っていたのはミーメではないのか。そしてニーベルング族では」
「その通りです」
グリムヒルデはその言葉に頷いた。
「そしてその技術を応用したのが」
「ローゲというわけか」
「ローゲはミーメが開発したものです。ですが彼は野心を持っていました。それでニーベルングに反旗を翻し、彼自身がこの銀河の王座に座るつもりだったのです」
「そうだったのか」
ローエングリンはそれを聞いて納得したように頷いた。
「やはりな」
「予想しておられましたか」
「うむ、ミーメという男の品性は聞いていた」
彼はバイロイトにいることも多かった。そこで色々と聞いていたのだ。
「あの男、死んで正解だった」
「彼の手によりホランダー族の多くの者が命を落としました」
「酷い話だ、全てニーベルングの為に」
「はい」
「多くの者が命を落としている」
「それで私も聞きたいが」
先程下がったジークフリートが前に出た。
「私の質問には誰が答えてくれるのか」
「それは私が」
また一人のワルキューレが進み出て来た。
「このオルトリンデが」
「ではオルトリンデよ」
ジークフリートは彼女に問う。
「卿に聞きたい。私は幼い頃より夢を見てきた」
「はい」
「ヴァルハラに行け、と。そしてそこで玉座が待っている、と。これはどういうことなのだ」
「かって第四帝国のリェンツィ帝には一人の皇子がおられました」
「それは聞いたことがある」
彼はそれを聞いたことがあった。だからこそ応えることが出来た。
「二十二年前の話だったな」
「そうです」
「それと。関係があるのか」
「貴方の出自とです」
「成程」
勘のいい彼にはそれが容易にわかった。
「そういうことか」
「はい」
「だからこそヴァルハラに行けと。そういうことなのだな」
「左様です」
そう答えが返ってきた。
「私もまた。運命に導かれていたか」
「アースの血に」
「わかった。ではそれに従おう」
彼は強い言葉で応えた。その目にはもう迷いはなかった。
「それでいいのだな」
「是非。御自身の運命に導かれて下さい」
「わかった。後はヴァルハラでだな」
「その通りです」
ジークフリートの謎も解けた。しかしまだ一人残っていた。
「総帥」
ワルキューレの最後の一人が彼に声をかけてきた。
「シュヴェルトライテです」
そのワルキューレは名乗った。最後の一人であった。九人のワルキューレが今名乗り終えたのであった。
「貴方の御聞きになりたいことはわかっています」
「左様ですか」
「御自身のことですね」
「はい」
パルジファルはその言葉にこくりと頷いた。彼にとって一番の謎はそれであったのだ。
「貴方の謎は。最も大きなものです」
シュヴェルトライテはそう語った。
「貴方はある意味。ニーベルングと同じなのです」
「ニーベルングと」
「はい。言うならば貴方はアースの体現者でもあります」
「我々の中でも絶対的な存在」
ブリュンヒルテも言った。
「そうされています」
「おかしなことを仰いますね」
パルジファルはブリュンヒルテとシュヴェルトライテの話を聞いてこう述べた。
「私が。アースの体現者であり、しかも何者かによってそうされているとは」
「私達も何によってそうされているのかはわからないのです」
それに対するシュヴェルトライテの返答は実に奇妙なものであった。これにはパルジファルも他の六人も首を傾げざるを得なかった。彼等にもそれはわからなかったのだ。
「ですが。貴方はとりわけ重要な方なのです」
「言うならば。この戦いの中心にあられる方」
「中心」
パルジファルは己が中心と言われ声をあげた。
「そうです。パルジファルという名前は」
「聖なる愚か者という意味なのですから」
「聖なる愚か者」
「それは一体」
「どういうことなのだ」
他の六人にもそれはわからなかった。だがパルジファルにはそれはわかった。
「お待ち下さい」
六人の仲間達とワルキューレに対して言う。
「それは。私の記憶のことなのですか?」
「おそらくは」
シュヴェルトライテはそれに答えた。
「私達も。そう思っています」
「貴方の記憶は。徐々に戻ってきていますね」
「はい」
ワルトラウテの質問にも答えた。
「その通りです。ですがその記憶は」
「太古からの。宇宙が出来た時からの記憶ですね」
今度はパルジファルが問うた。
「それからの膨大な記憶が私の頭の中に蘇ってきます。これは一体どういうことなのでしょうか」
「おそらくは。それこそが貴方がアースの体現者である由縁なのでしょう」
「パルジファル=モンサルヴァート。聖なる愚者にして聖杯の守護者よ」
「聖杯の守護者」
「何時か貴方はその記憶を全て取り戻されるでしょう。その時は間も無くです」
そう告げられる。
「間も無く」
「はい、その時こそ」
「クリングゾル=フォン=ニーベルングが倒れ、全ての戦いが終わる時」
「それは間も無くなのです」
「では行きましょう」
ワルキューレ達はその名に相応しく戦士達を戦いへ誘う。七人の戦士達はその言葉に逆らうことは出来なかった。それが戦士としての血であり、運命であるのだから。
「ニーベルングとの戦いへ」
「はい」
七人を代表してパルジファルが頷いた。
「では」
「参りましょう」
彼等は武器を手に戦場へ向かう。七人とその選りすぐりの部下達の他には九人のワルキューレがいるだけである。だがそれで充分であった。今の彼等は誰にも止めることは出来なかったのだから。
彼等はスルトの要所を次々と押さえていく。そしてクリングゾルがいるというアルベリヒ教の祭壇を目指していた。そこに至るまでの敵は実に多かった。だが彼等はそれを退け遂には祭壇の門まで辿り着いたのであった。
次々と色んな事が判明していく。
美姫 「うーん。それにしても、遂に辿り着いたのね」
本当に長い道のりだったよな。
しかし、まだ決着はついていない!
美姫 「一体どうなるのかしら」
次回も待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」