『リング』




             ラグナロクの光輝  第三幕


「あれは」
 そこでは戦闘が行われていた。戦っている一方は帝国軍であるとわかる。
「ジュッセルドルフの帝国軍か」
「おそらくはな」
 ローエングリンにジークフリートが答える。
「成程、すぐに反転したのは正解だったようだな」
「そうだな、総帥の読みは正しかったってわけだ」
 タンホイザーとジークムントも言う。
「だがもう一方の者達は」
「あれは。艦艇ではないぞ」
「戦闘機に近いですね」
 ヴァルターとトリスタンにパルジファルが述べた。
「戦闘機」
「はい。それもどうやらかなりの高性能のようです」
「戦闘機かよ、あれは」
 ジークムントはそれを見てその赤い眉を動かした。
「だとすればかなりの高性能だな」
「ああ。見たところ攻撃の威力は我々のミョッルニルのそれに匹敵する」
「そして運動性能も通常の戦闘機とは比較にならない」
「そして九機か」
「だとすれば」
 五人はそこにある結論を出していた。
「ワルキューレですね」
「やはり」
 そして六人はパルジファルの言葉に応えた。
「彼女達が。帝国を攻撃しています」
「あれがか」
「だが。何という攻撃力だ」
「我々の主砲を遥かに凌駕する威力だ」
 見れば帝国軍の艦艇を一撃のもとに屠っていた。そのあまりもの威力に七人は目を瞠っていたのである。
「僅か九機で」
「あれだけの艦艇を相手にするとはな」
「若し敵に回ったならば」
「総帥よ、どうする!?」
 六人は必然的にパルジファルに問うた。
「戦いに参加するか」
「どちらにつくか」
「それは決まっています」
 パルジファルは六人の問いに応えた。
「我等の敵は帝国です」
「ならば」
「はい、ワルキューレの応援に回ります」
「よし」
「全軍攻撃開始」
 パルジファルの指示が下る。
「そしてこの星系の帝国軍を倒します」
「わかった」
「それでは」
 連合軍は帝国軍に襲い掛かる。ワルキューレに甚大なダメージを受けていた帝国軍は最早為す術がなかった。彼等は忽ちのうちに壊走し戦いは終わった。
「まずはこれでよしだな」
「ああ」
 六人は帝国軍が消え去った宙域を見て頷き合った。
「だが」
「まだ残っている」
「総帥」
 ここでパルジファルに報告があがった。
「何でしょうか」
「ワルキューレから通信が入っています」
「ワルキューレから」
「はい。どう為されますか?」
「出ましょう」
 彼は迷わなかった。
「すぐに。モニターを開いて下さい」
「了解」
「貴方達も」
 パルジファルは六人にも声をかけた。
「モニターを開いて下さい」
「わかった」
 六人はそれに頷いた。そしてそれぞれの艦橋のモニターを開いた。そこに中央と八方に分かれた映像が姿を現わした。九人の美女がそこにいた。彼女等は皆金色の髪に青い瞳を持っていた。神々しいまでの美貌と猛々しさをそこに現わしていたのであった。
「貴女達がワルキューレですね」
「はい」
 中央にいる美女がそれに答えた。
「私の名はブリュンヒルテ」
「ブリュンヒルテ」
「はい、ワルキューレの一人です。そしてここにいる八人が私の同志達です」
「同志ですか」
「そうですまずは」
「ワルトラウテ」
 一番上の一人が語った。それから時計回りに一人ずつ名乗っていく。
「ヘルムヴィーデ」
「ゲルヒルデ」
「シュヴェルトライテ」
「オルトリンデ」
「ジークルーネ」
「グリムヒルデ」
「ロスヴァイセ」
 彼女達はそれぞれ名乗った。ここに九人のワルキューレの名がわかったのであった。
「私達もまた貴方達と同じです」
「私達と同じ」
「そう、ヴァルハラの戦士」
「この銀河の運命を司る者達です」
「この銀河の運命を」
 ローエングリンがその言葉に反応した。
「それはどういうことだ」
「それは貴方が一度御覧になられた通りです」
「知っていたのか」
「今まで何度か言われてきているが」
「オフターディンゲン公爵」
 ブリュンヒルテが彼に声をかける。
「貴方はそれをエリザベートにより導かれている筈です」
「何故それを」
「ジークムント提督」
 ジークムントは彼女に顔を向けた。
「何だ?」
「メーロト殿との戦いもまた。運命だったのです」
「そうだったのか」
「カレオール藩王」
 今度はトリスタンに対して。
「クンドリー殿の望まれたことは。もうすぐおわかりになられます」
「そうか」
「シュトルツィング執政官」
「今度は私か」
 ヴァルターはその言葉に応えて彼女達を見た。
「竜はまた姿を現わします。御注意を」
「やはりな」
「そしてヴァンフリート首領」
 ジークフリートにも。
「全ては。ヴァルハラでおわかりになられます」
「全てが、か」
「はい」
「何もかも知っておられるようですね」
 パルジファルは一連のやり取りを見てワルキューレたちに対して言った。
「貴女達はどうやら。ただ戦っておられるだけではないですね」
「その通りです」
 彼女等はその言葉に頷いた。
「私達もまた。運命の中にあります」
「運命の」
「はい。七人の選ばれた戦士達よ」
 それがパルジファル達のことであるのは言うまでもない。九人の乙女達は今彼等を見据えていた。
「ムスッペルスヘイムにおいで下さい」
「そこに全ての謎への鍵があります」
「鍵が」
「そうです。今その道は開かれました」
 ケルンとジュッセルドルフでの勝利によって。彼等の道は開かれたのだ。ワルキューレ達はそれを言っているのだ。全てが開かれたのだと。
「さあおいで下さい」
「その時にまた」
「御会いしましょう」
 九人の乙女達の乗る戦闘機は姿を消した。後には七人の戦士達の艦隊だけが残った。だが彼等も今その道が見えていたのであった。
「行くか」
 ヴァルターが他の六人に対して声をかけてきた。
「ムスペッルスヘイムにか」
 ジークフリートがそれに応える。
「全ての運命の鍵があるあの星系に」
「いよいよ俺達が」
 タンホイザーとトリスタンも言った。
「そこにニーベルングもいる」
「ヘッ、役者が勢揃いってやつだな」
 ローエングリンとジークムントも。六人の意見は一致していた。
「十二月です」
 パルジファルはそれに答えた。
「十二月にあの星系に。宜しいですね」
「ああ」
「全ては十二月か」
「それまではムスッペルスヘイムへの道を確保したうえで勢力圏を拡大しましょう」
「少しずつでも帝国の力を削いでおく、か」
「そうです。そうすればムスペッルスヘイムでの戦いが少しでも楽になります。今後も含めて」
 パルジファルはそう一同に述べた。
「わかった。では十二月だな」
「はい」
「その時にムスッペルスヘイムに」
「皆、遅れるんじゃねえぜ」
 七人は今はムスペッルスヘイムには向かわなかった。ケルンを、そしてムスッペルスヘイムへの道を確保したうえで帝国の力を削ぎ自分達の勢力拡大に取り掛かった。そうして力を蓄えているうちに十二月になった。連合軍はケルンにその主力を集結させていた。その数は五十を越えていた。パルジファルの下に多くの艦艇が集められていた。彼等は主力を彼の統率下に置いてきたのだ。六人の艦隊は七つのままでパルジファルのものが増えていた。
「宜しいですか」
 七人はグラールの会議室に集まっていた。七隻のケーニヒ級戦艦が銀河に並んでいる。
「遂にこの時が来ました」
「運命の鍵を手に入れる時が」
「来たのだな」
「それでは」
「そうです、ムスッペルスヘイムに向けて進撃を開始します」
 パルジファルはヴァルター、タンホイザー、ジークフリートの言葉に応える形で言った。
「それで宜しいですね」
「うむ」
「異存はねえぜ」
「この時を待っていた」
 それにローエングリン、ジークムント、ジークフリートの三人が頷く。先の三人もそれは同じであった。
「それでは」
「ああ」
 今度は六人の言葉が揃った。
「あの星系を攻め落とそう」
「それでは早速作戦会議に入りましょう」
 パルジファルの動きは迅速であった。彼はすぐに作戦会議に入ってきた。
「まずはムスペッルスヘイムの星図ですが」
 七人の上に星図が浮かび上がった。それは三次元に映し出され半透明の姿を現わしている。
「こちらです」
「ううむ」
 六人はその星図を見てまずは唸った。
「これはまた」
「話には聞いていたが」
「まず最大の特徴として九つの恒星です」
 パルジファルはレーザーでその恒星達を指し示した。
「この星達が複雑な重力と磁気を発しています」
「進行が困難だということだな」
「はい。また恒星により敵が隠れ易くなっております」
「ふむ」
「そのうえ惑星、衛星も多く存在しております。帝国軍がそこに防衛用兵器を多数配備していることも予想されます」
そう報告される。
「実に戦いにくい星系だな」
「こんな星系ははじめてだ」
「そしてその中の惑星の一つスルトですが」
 今度は惑星の一つにレーダーが当てられた。
「問題はここです」
「そこか」
「はい。このスルトにニーベルングがいるのです」
「ふむ」
 それは最も奥にある恒星の軌道上にある衛星の一つであった。見れば真っ赤な星である。
「そしてこここそが我々の目指すべき先」
「そこが」
「そうです。ですが今ムスペッルスヘイムには帝国軍の主力が展開しています」
「ケルンやジュッセルドルフのよりもだな」
「その数百個艦隊」
「百個」
 一同その言葉に思わず息を呑んだ。
「百個艦隊が展開しているだと」
「数にして我が軍の二倍。それが帝国軍の主力です」
「ううむ」
「予想はしていたが」
 六人もその数を聞いて深刻な顔になった。
「しかも地の利は彼等にあるな」
 ジークフリートが手を組んで言った。
「その大軍を運用出来るだけの地の利が」
「ムスペッルスヘイムは帝国の要地の一つですから」
 パルジファルもそれに頷く。
「少なくとも我々よりは知っているのは間違いないです」
「この一目見ただけでわかる複雑な星系をか」
 ヴァルターは九つの恒星を見上げていた。
「知っているというのだな」
「彼等にとっては遊び場でしょう」
「その遊び場で大軍を相手にする」
 トリスタンがポツリと述べた。何時になく深刻な声の色であった。
「尋常ならざるものだ」
「まさに死地だな」
 そしてタンホイザーも。
「迷路の中で待ち構える怪物達を相手にする」
「その怪物は何処から来るかさえわからない」
 ローエングリンがそれに応えた。
「しかもその数は我等より上ときては。お手上げといったところだな」
「しかし行かなくちゃならねえだろ」
 五人の言葉はジークムントの言葉によって打ち消された。
「帝国に勝つ為にはよ。その死地にも」
「提督の仰る通りです」
 その言葉こそパルジファルが待っていたものであった。
「我々は行かなければなりません。そして勝たなければならないのです」
「ならない、か」
 ヴァルターがそれを聞いて呟いた。
「そうです。今勝たなければ」
「では総帥」
 ローエングリンの言葉に続いて六人がパルジファルに顔を向けた。
「その為の策は」
 タンホイザーが問う。
「ないとは思えないが」
 そしてジークフリートも。
「それは。どうなのだ」
「あります」
 トリスタンの言葉が出たところでパルジファルは述べた。
「そう言ってくれると思ったぜ」
 ジークムントはその言葉を聞いてニヤリと笑った。
「では早速話してもらうか」
「その策を」
「はい」
 パルジファルはそれを受けて話しはじめる。六人はその話から目を逸らすことはなく、全てが終わった時には目の色は大きく変わっていた。
「成程な」
「それなら或いは」
 彼等の心の中に勝利が見えてきていた。それはかなり大きかった。
「勝てます」
 パルジファルの声は強いものであった。
「何があろうとも」
「よし」
「では迷うことはないな」
 六人は席を立った。パルジファルもそれに続く。
 パルジファルが自分の席の側のボタンを押す。するとすぐにワインとグラスを持った侍従がやって来た。





着々と進む進行。
美姫 「これから先、どんな戦いが?」
間違いなく激化していくであろう中、どうなるんだろうか。
美姫 「次回もお待ちしてますね」
待っています。



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