『リング』




             ヴァルハラの玉座  第四幕


「このまま来るものかと」
「わかった。では横から攻めるぞ」
「はい」
 シェンクだけでなく他の参謀達それに頷いた。
「敵に気付かれないようにな。密かにだ」
「わかりました」
 ジークフリートの艦隊は動きはじめた。そしてその艦隊を待つ。
 第七惑星に身を隠す。そこに今敵艦隊がやって来た。
「今来ました」
「敵はこちらに気付いているか?」
「いえ、まだ」
 部下達からの報告が入る。
「こちらのことには何一つ気付いておりません」
「よし、では仕掛けるぞ」
「了解」
 すぐに攻撃態勢に入る。だがそれは密かにだ。やはり帝国軍に気付かせはしなかった。
 攻撃態勢を整えると丁度目の前に帝国軍がやって来た。こちらに気付いている素振りはない。
「やりますか?」
「いや、まだ待て」
 血気にはやる部下達を制止する。
「よく引き付けろ、いいな」
「はい」
「半ばを過ぎてからだ」
 彼はその時を待った。
「もうすぐだ、もうすぐ」
 その時を待つ。今艦隊が通り過ぎる。
「半ばを過ぎました」
 そしてまた報告が入った。
「今です」
「よし、全軍攻撃!」
 突如として叫ぶ。
「まずはありったけのミサイルをビームを叩き込め!」
「ハッ!」
「その後で突撃を仕掛ける!それで一気に敵を粉砕する!いいな!」
「了解!」
「では行くぞ!撃て!」
 その右腕が振り下ろされる。それと同時に全艦のミサイルとビームが放たれる。
 光とミサイルが交互に複雑な動きを示し敵に襲い掛かる。光は敵を貫き、ミサイルは敵に喰らい付いた。それによりかなりの数の敵艦隊が炎と化し戦場に消えた。
「最初の攻撃はまずは成功ですな」
「ああ」
 ジークフリートは部下の言葉に頷く。
「敵の損害率五割!」
「敵は混乱しております!」
「よし、今だ!」
 ジークフリートは叫んだ。
「全艦突撃!」
 その右手がまた振り下ろされた。
「一気に勝負を決める!いいな!」
「はっ!」
 ジークフリートの艦隊は切り込んだ。混乱する帝国軍の艦隊をそのまま一蹴した。敵軍が取るに足らぬ戦力になると彼はすぐに次の行動に移った。
「残敵掃討の戦力だけ残す」
「はい」
「そして次の艦隊の殲滅に移る。よいな」
「わかりました」
「今残る一個艦隊はクプファー提督の軍に正面から当たろうとしております」
「ああ」
 ジークフリートは部下の報告に頷いた。
「では第五惑星の方へ急行する。よいな」
「わかりました」
「ここで一気に勝敗を決する。いいな」
「了解」
 ジークフリートの艦隊は彼の指揮の下第五惑星に向かった。そこに辿り着くともう帝国軍の残る一個艦隊がクプファーの艦隊に向かおうとしているところであった。
「丁度いい時に来たというべきか」
「また側面から攻撃を仕掛けますか?」
「いや」
 部下の言葉にはまず首を横に振った。
「今度はより効果的な方法がある」
「それは」
「敵の後方に回り込む」
 彼は言った。
「そしてクプファーの艦隊と連動して挟み撃ちにする。いいな」
「敵の後ろからですか」
「そうだ。最初からこれを考えていた」
「最初から、ですか」
 それがジークフリートの戦術であった。クプファーの艦隊に対して挟み撃ちを仕掛ける敵艦隊の一方を急襲で撃破し、返す刀でクプファーと連動して残る敵艦隊を叩く。海賊の機動力を活かした鮮やかな戦法であった。
「今のところそれは上手くいっているな」
「後は最後の段階ですか」
「ここで決めるぞ」
「はい」
 部下達は彼の言葉に頷いた。
「それでは」
「このまま第五惑星を迂回する」
 モニターには第五惑星に向かう自身の艦隊が映し出されていた。
「そして敵の後方に出てそこから急襲を仕掛ける。よいな」
「わかりました」
 艦隊はジークフリートの言葉通りに動く。そのまま第五惑星を迂回した。遂に敵の後方に出現した。
「面舵一杯!」
 ジークフリートは全艦に右旋回を命じた。
「そのまま敵の真後ろに回り込め!」
「ハッ!」
「後ろを叩く!一気に踏み潰せ!」
「わかりました。全軍攻撃開始!」
 すぐに前面に対して総攻撃が仕掛けられた。それは帝国軍の背を撃った。
「敵襲!」
「何っ、何処からだ!」
 それを受けた帝国軍は思いも寄らぬその攻撃に浮き足立っていた。すぐに敵を探す。
「後ろからです!かなりの火力です!」
「何だと!ここには一個艦隊しかいない筈だぞ!」
 帝国軍の司令はすぐにモニターを見る。そしてそれを目の当たりにして身体を凍りつかせた。
「な・・・・・・!」
「敵一個艦隊がこちらにやって来ます!攻撃をなおも続けています!」
「戦艦一隻撃沈!空母三隻が中破です!」
「損害率三割突破!戦闘能力がこのままでは!」
「ヌウウ・・・・・・」
 司令はその報告を聞いて呻いた。だが呻いたからといってどうにもなるものではなかった。
「前方の艦隊も来ました!攻撃態勢に入っております!」
「後方の艦隊尚も接近!このままでは!」
「止むを得ん」
 ここに来て彼は決断を下した。
「全軍降伏だ。よいな」
「はい・・・・・・」
 艦橋の者はそれを聞いて胸を撫で下ろす者もいれば無念そうに俯く者もいた。
「敵艦隊に通信を送れ。すぐに降伏したいと」
「わかりました」
「そして私も・・・・・・うっ」
 ここで異変が起こった。彼はその異変の中で死んだのであった。
 帝国軍の艦隊はジークフリートの前に降伏した。彼はそれを許しすぐに帝国軍の武装解除に移った。だがここで一つ気になる話を聞いた。
「敵の司令官は自決したのか」
「はい」
 報告した部下がそれに応える。
「自身の拳銃でこめかみを撃ち抜いて」
「降伏勧告を受諾した直後にか」
「はい」
「そうか」
 ジークフリートはそれを聞いて一つの予想を立てた。
「降伏したことを恥じてか、敗戦の責任を取ってのことか?」
「いえ、それがどうも違うようなのです」
「違う!?」
「はい。何でも突発的に自決したようでして」
「突発的にか」
「誰にも告げることなく。その場で急に」
「衝動的なものなのか」
「そう思われます。ヒステリーか何かでしょうか」
「それも考えられるがその様な者が艦隊の司令官に任命されるだろうか」
 ジークフリートはそこに疑問を持った。
「普通はないと思うが」
「確かに」
「おそらくそれはないな」
 彼はそのうえで述べた。
「では一体何故」
「私にもそこまではわからないが。若しかするとだ」
「はい」
「帝国軍にはそれをさせる何かがあるのかもな」
「軍律でしょうか」
 帝国軍の軍律は非常に厳格なことで知られている。これは徹底した法治主義を掲げるクリングゾルの政策を反映してのことだが軍におけるそれはさらに徹底し、厳格なものであった。命令違反や脱走に対しては死を以って償わさせられる。実は帝国軍は略奪や暴行が極端に少ないのだがそれはここにも現われている。ただし帝国に逆らう者に対しては容赦ない攻撃が加えられる。
「投降は死、か」
「若しかすると」
「だとすると帝国軍は徹底しているな。まるで人の軍ではない」
「人にあらざる者達、ですか」
「少なくとも今まであった第四帝国のそれとは全く違うものだ」
 ジークフリートは言った。
「そうした意味で。彼等は通常の者達ではない」
「とりわけその中枢にいるニーベルングは」
「彼に関してはあまりにも謎が多いしな」
 このことはジークフリートも知っていた。クリングゾル=フォン=ニーベルングはその正確な経歴も出自も何もかもが謎に包まれているのだ。第四帝国で宇宙軍総司令官、元帥にまであった男ではあるがその全てが謎なのだ。公式の記録は全て改竄されたものであるとされている。
「何者かさえわかってはいない」
 彼もまたそれに言及した。
「そこに今の帝国を解く鍵があるのだろうが」
「全ては今だ闇の中ですね」
「そうだな。そう言う他ない」
「それがわからにと対策が立てられないところがありますね」
「そもそも本拠地すらはっきりしていない」
 そこが最大の悩みであった。帝国はその本拠地が何処にあるのかはっきりしていないのだ。
「何処にあるのかさえ」
「思えば不思議な話ですが」
「クリングゾル=フォン=ニーベルング」
 ジークフリートはその名を呟いた。
「思えば不吉な響きのする名だ」
「そうでしょうか」
「またこちらに兵を向けてくるだろう。だがその前に」
「はい」
 これに関しては何を為すべきかここにいる者は全てわかっていた。
「まずは勢力を蓄える。そして」
「ラインゴールドを」
「ああ」
 彼は頷いた。捕虜を後方に送った後でまた星系の占領と勢力伸張に取り掛かった。こうして程なくして目標であった五個の艦隊を揃えることになったのであった。
「首領」
 それを受けて部下の一人が彼の報告にやって来た。彼は今本拠地であるシュヴァルツバルトに戻ってこれからの戦略について練っていたのだ。





うーん、敵艦の指揮官の行動がちょっと不思議だな。
美姫 「まだ何かあるのかもね」
さてさて、いよいよラインゴールドなのか、それとも。
美姫 「ゆっくりと、だけど終局へと確実に事態は動いていく」
次回もお待ちしてます。
美姫 「待ってますね〜」
ではでは。



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