『リング』




           ヴァルハラの玉座  第三幕


 行動開始から一週間。既に彼の下にはかなりの星系があった。それはさらに増えようとしていた。
「今しがたノルトハウゼンが説得に応じ我々の同志となりました」
「うむ」
「アーレン陥落です。これで陥落させた星系は五つになります」
「帝国はこれで五つの星系を失ったか」
「はい。ですが彼等にはさしたる抵抗もありませんでした」
「どうやら。彼等は単に帝国の下にいただけで特に軍や官吏は派遣されていなかた模様です」
「同盟市の様なものか」
「おそらくは
 部下達はそれに応えた。
「本軍は。この地域ですろラインゴールドにいるものと思われます」
「やはりな」
「あの星系からの動きは警戒する必要があると思われますが」
「そうだな。今艦隊は何個置けるか」
「艦隊ですか」
「そうだ。かなりの星系を掌握した。これでかなりの戦力を置けるようになったと思うが」
「艦隊にして三個です」
「三個か」
「はい、今我等がいる艦隊を入れまして。合計で三個であります」
「よし、わかった」
 ジークフリートはその報告を聞いて頷いた。
「まずは新たに二個艦隊を編成する」
「はい」
「一個艦隊は私と共に星系の制圧に向かう。そのうえでもう一個を帝国への監視とする」
「監視ですか」
「そうだ。それでどうだ」
「それで宜しいかと」
 部下達はそれに頷いた。
「その間に勢力を蓄え」
「帝国を叩くと」
「そうだ。少なくとも三個艦隊ではまだ戦える状況ではないだろう」
「では何個艦隊程必要でしょうか」
「五個だな」
 ジークフリートは少し考えたうえで答えた。
「五個ですか」
「これだけあればこの周辺では大丈夫だろう」
「わかりました。それではまずは五個艦隊を」
「揃えるぞ。よいな」
「はっ」
「監視役の一個艦隊はロストクに向かわせる」
 この辺りの要衝であった。中立星系であったのを説得によりこちらに引き込んだのである。これはジークフリートにとって非常に大きな意味を持つものであった。
「そしてそこで監視に当たらせる」
「わかりました。それでは」
「残る二個艦隊は占領を急がせる。そして勢力が蓄えられ次第」
「また艦隊を建造していくと」
「そうだ。わかったな」
「はっ」
 こうしてジークフリートは引き続き星系の占領を急がせた。その中そのロストクに向かわせた艦隊から報告があった。この艦隊の司令官はクプファーであった。ジークフリートの信頼する腹心の一人である。
「ラインゴールドにいる帝国軍の規模がわかりました」
 クプファーはノートゥングのモニターに姿を現わしていた。そこからジークフリートに直接報告を行っていたのである。
「どれだけの規模だ?」
 ジークフリートもまたノートゥングの艦橋にいた。そこでその報告を聞いていた。
「十二個艦隊です。それで以って我々とオフターディンゲン公爵にあたるつもりの様です」
「十二個艦隊か」
 ジークフリートはその艦隊の規模を聞いて少し考える顔になった。
「方面軍にしては多めだな」
「そう思われますか」
「またどうしてなのだ、それは」
「そこまではまだわかっておりません。申し訳ありませんが」
「そうか」
「そして今は十個艦隊となっております」
「先のチューリンゲンの戦いで一個艦隊が壊滅しているな」
「はい」
「そしてもう一個は。どうしたのだ」
「オフターディンゲン公爵が兵を挙げられまして」
「そうか、やはりな」
 これは予想していた。だから驚くには値しなかった。
「公爵の軍との戦いでまた一個壊滅しております。結果として十個艦隊となっております」
「ふむ」
「そしてそのうちの半数をこちらに向けて来るものと思われます」
「五個艦隊をか」
「そのうち先遣であると思われる二個艦隊がこちらに向かって来ております」
「二個艦隊がか」
「はい」
 クプファーは報告を終えて頷いた。
「これに関してはどうされますか」
「今から私もそちらに向かおう」
「首領も」
「そうだ。そちらの艦隊だけでは荷が重いだろう」
「否定はしません」
 クプファーの艦隊は情報収集に重点を置いたものである。だから二個艦隊を相手にして戦えるものではないのだ。そして今ロストクを失うわけにはいかなかった。ジークフリートはそうしたことを踏まえてすぐに判断を下したのである。
「今から我々はすぐにロストクへ向かう」
「はっ」
「そして帝国軍の先遣隊を叩く。よいな」
「わかりました。では」
 すぐにジークフリートが直率する艦隊は動きを開始した。ロストクへ向かう。
 残る一個艦隊にはこれまで通り星系の占領を命じる。そして同時に頃合を見て新たな艦隊をもうけることも忘れてはいなかった。彼はこれからの戦略もその頭の中に描いていたのであった。
 ロストクに辿り着く。まだ帝国軍は来ていなかった。
「お待ちしておりました」
「いや、堅苦しい挨拶はいい」
 出迎えるクプファーにこう返す。
「私達は海賊だ。その様なことは似合わない」
 彼は常々こう言っていた。だがクプファーは形式ばった男でありこうしたことにやけに五月蝿いのであった。
「それよりもだ」
「はい」
「帝国軍は今何処にいるのだ」
「ロストクまであと二日の場所です」
「二日か」
「どうされますか?」
「我々がここに来ているのは知っていると思うか」
「おそらく知らないかと」
 クプファーは答えた。
「首領の艦隊はまだ惑星占領に専念していると見ているでしょう。その証拠にこちらに急行しております」
「ここにいる艦隊がまだ一個のうちに占領する為にか」
「おそらくは」
「よし、では先手を取れる」
 ジークフリートはそれを聞いて笑みを浮かべた。勝利を確信した笑みだった。
 そのうえで指示を出す。その動きは素早かった。
「クプファー」
「はい」
 クプファーがそれに応える。
「そのまま艦隊を率いてくれ。よいな」
「私は何をすれば宜しいでしょうか、その艦隊で」
「星系防衛にあたってくれ」
「はい」
「場所はカッセルとゲッチンゲンの間だ」
 この星系の第四惑星と第五惑星である。丁度今二つ並んでいるのだ。
「その間に布陣してくれ」
「わかりました」
「私はその時に動く」
「どうされるのですか?」
「いつもの様にだ」
 それには応えない。ただ不敵に笑うだけである。
「いいな。いつもの様にだ」
「わかりました。それでは」
「くれぐれも頼むぞ。ただこちらのことは勘付かれないようにな」
「はい」
「それだけ気を着けてくれ。では」
 ジークフリートはクプファーと別れた。彼等は個別に行動を取ることにした。
 二日後帝国軍の二個艦隊がロストクにやって来た。クプファーはそれに対してジークフリートの言葉通りカッセルとゲッチンゲンの間に布陣した。
 それを聞いた帝国軍は二手に分かれた。前後からクプファーの艦隊を討とうと動きはじめた。
 その動きはジークフリートにもわかった。彼はそれを見てすぐに動いた。
「まずは後方の艦隊からだ」
「はい」 
 参謀の一人であるシェンクがそれに頷く。
「今どうしているか」
「大きく迂回してクプファー提督の艦隊の後方に回っております」
「うむ」
 モニターにロストク星系の星図が映し出される。そこに惑星とそれぞれの艦隊も映し出されていた。
 見れば帝国軍は赤、ワルキューレは青で現わされていた。赤い艦隊の一つがクプファーの艦隊の後ろに回り込もうとしているのがはっきりと描かれていた。





開戦。
美姫 「さてさて、どうなるのかしらね」
帝国軍は少し急ぎすぎたかもな。
美姫 「まだ分からないわよ。数で押し切れれば」
さてさて、どうなる〜。
美姫 「次回も待ってますね」
ではでは。



▲頂きものの部屋へ

▲SSのトップへ



▲Home          ▲戻る