『リング』




            ローゲの試練  第四幕


「テルラムントが直接率いる艦隊か」
「おそらくは」
 参謀の一人がそれに応える。
「その数、二個艦隊です」
「少ないな」
「ラートボートに兵を向けているせいでしょうか」
「そうかも知れないが。それでも少な過ぎる」
「今の帝国はこの方面には主力を展開していないようですが」
「カレオール博士の軍に兵を向けているのか」
「そういう話ですが。ただ」
「ただ。何だ?」
「ローゲは違うと分析しております」
「違う?」
「はい」
 今度はフルトヴェングラーが答えた。
「今ゼダンの入口に展開している艦隊は二つです」
「うむ」
「それとは別に三個艦隊がゼダンにいるそうです。それが今動いているということです」
「動いている」
「三方から。我が軍に向けて」
「三方から?」
「まずはこれを御覧下さい」
 モニターのスイッチが押される。そしてそこにローゲが出した映像が映される。そこにはゼダン周辺の三次元地図があった。
両軍の布陣もそこに映し出されていた。
「今我が軍はここにおります」
 フルトヴェングラーはレーザーで青い艦隊を指し示した。
「そしてこれが敵軍です」
「その二個艦隊だな」
「はい」
 次に赤い艦隊が指し示された。そこには確かに二個艦隊があった。
「これはどうやらテルラムント提督が直接率いる軍のようです」
「ふむ」
「そして残る三個艦隊ですが」
 レーザーが動かされた。
「この様に展開しております」
 その三個艦隊はローエングリンの艦隊の後方に回り込もうとしていた。そしてここでモニターの一部が切り替わった。
「そしてその動きの予想です」
「分かれたか」
「はい。これが三方への移動です」
 フルトヴェングラーは言った。見れば帝国軍は三方からローエングリンの軍の後方を狙っていたのである。
「我が軍を扇形に包囲し、殲滅するつもりのようです」
「つまりその三個艦隊は金槌というわけですか」
「そしてテルラムントの艦隊は鉄板ですな。我が軍を押し潰す為の」
「わかった。ではその対策は」
「この様に動くべきとのことです」
 またモニターが切り替えられた。そして緑の線でローエングリンの艦隊が動くべき航路が映し出された。見ればそれはまず後方の三個艦隊を各個撃破していくというものであった。
「まずはこのまま正面に向かわずに反転します」
「うむ」
「そして左翼の艦隊を叩き、その後でそのまま突っ切ります」
「それから反転して」
「そうです、残る二個艦隊の後方を突きます。これで後方から迫る三個艦隊を叩くとのことです」
「機動力を生かしてだな」
「それを行える機動力は我が艦隊に備わっているとのことです」
「そこまで出しているというのか。用意がいいな」
「それだけではなくここで策も出しております」
「策」
「はい、左翼の艦隊を攻撃する時ですが」
「うむ」
「通信妨害を仕掛けるべしとのことです。そうすれば作戦はさらにスムーズにいく、と」
「見事なものだな」
 唸らずにはいられなかった。
「そこまで出しているとはな。だがそれだけなのか」
「それだけとは」
「前方の二個艦隊だ。動く可能性は出してはいないのか」
「ローゲは動かないと出しております」
「どの様なケースでもか」
「はい。テルラムント提督の艦隊はあえて機動力を捨てて重装備に徹してるようです。これを御覧下さい」
 彼はまたモニターを切り替えた。
 そこにはテルラムントが率いる艦隊が映し出された。見ればあえて過剰にビーム砲やミサイルランチャーを装備し、移動よりも攻撃に重点を置いていた。
「成程な」
 ローエングリンはそれを見て呟いた。
「彼等が鉄か」
「そして後ろが金槌です」
「では金槌を叩くとしよう」
 彼は言った。
「予定通りな。その方がいい」
「はい」
 これはすぐにわかることであった。
「見たところテルラムントの艦隊は守りが固い。そこを無理に攻めて後ろから攻撃を受けては何にもならない」
 それこそが彼等の狙いである。だからそれだけはするつもりはなかった。
「ならば敵の考えの逆を衝く。それで行こう」
「了解です」
「ローゲの言葉に従う。全軍反転」
「了解」
 ローエングリンの言葉に従い全ての艦艇が反転する。その動きは絶妙なまでに速かった。
「そしてそのままこちらから見て右翼の艦隊に攻撃を仕掛けるぞ。よいな」
「はっ」
 部下達はそれに頷く。
「然る後に残る二個艦隊を撃破していく。それからテルラムント提督が率いる艦隊を叩く。よいな」
「わかりました。それでは」
「うむ」
 こうしてローエングリンはローゲの出した作戦に従い戦術を進めた。まずは五個艦隊全てを以って右翼の艦隊に襲い掛かった。
「敵は戸惑っております」
「そうだろうな」
 彼はベームの言葉を聞きそれに頷いた。
「まさかこちらから来るとは思っていまい」
「どうされますか」
「予定通りだ。このまま攻撃を仕掛ける」
 彼は迷うことなくこう言い切った。
「よいな」
「了解。全艦砲門開け!」
 それに従い攻撃指示が出される。
「攻撃目標正面。一気に押し潰すぞ!」
「了解!」
「全艦撃てーーーーーーーーーーーーーっ!」
 号令と共にビームが放たれる。そしてそれはまだ戸惑っていた敵艦隊を一撃で粉砕した。五倍以上の戦力による一斉攻撃に耐えることはできなかった。
 その一撃で右翼の敵艦隊を粉砕するとローエングリンは艦隊をそのまま突っ切らせた。
「そのまま前に進め」
 彼は言った。
「残存艦隊は次のミサイル射撃でかたをつける」
「はっ」
「それで敵陣を突破する。そして次の攻撃に移るぞ」
 彼はさらなる攻撃を下した。そしてその言葉通りミサイル攻撃が行われ右翼の艦隊は完全に戦力を喪失した。そのうえでローエングリンは艦隊を突破させた。そして反転を命じる。
「通信妨害は仕掛けているな」
「はっ」
 その言葉にクライバーが応える。
「それにより敵は動きがかなり混乱しております」
「よし」
 ローエングリンはそれを聞いて満足そうに頷いた。
「ならばよい。ではこのまま今度は左翼の艦隊を撃つ」
「反転する前に左翼にいた艦隊ですね」
「そうだ、今は右翼にいる敵だ」
 そう言って訂正する。
「今の時点で右翼にいる敵艦隊を叩く」
「はっ」
「よいな。ではすぐに攻撃に移るぞ」
「了解」
 ローエングリンの艦隊はさらに動いた。そして右翼の敵艦隊が背を見せて通信妨害の前に戸惑っているのを見てまたもや一斉射撃を加えた。
「撃て!」
「撃て!」
 ローエングリンの攻撃命令が復唱される。そして敵軍は瞬く間に先程の友軍と同じ様にその戦力を壊滅させたのであった。
「そして最後の艦隊を叩く」
 彼は三つ目の艦隊を叩くことを宣言した。
「よいな。また一気に叩くぞ」
「了解です」
 それに従い攻撃命令が出される。そして今度は右側面から攻撃を仕掛けた。今度もまた戸惑ったままであった。攻撃は呆気ないまでに成功し三つの艦隊は撃破された。こうしてローエングリンは金槌を全て叩き潰したのであった。
「さて、と」
 彼はそのうえで戦場を見据えた。
「残るはあの艦隊だけだな」
 その目の前にはテルラムントが直率する二個艦隊があった。
「さて、どうするかだ」
「ローゲは二手に分かれて攻めるのがいいと出していますが」
「挟み撃ちか」
「はい。それも斜めから攻める戦術です」
 フルトヴェングラーがこう述べた。
「斜めから」
「そうだ、斜めからだ」
 ローエングリンは答えた。
「いいな、二手に別れ、それぞれ斜めから攻める」
「わかりました」
「右の舞台は私が率いる」
 彼はさらに言った。
「そして左翼はクナッパーツブッシュ提督が率いてくれ」
「わかりました」
 モニターに姿を現わしたクナッパーツブッシュがそれに頷いた。
「それでは頼むぞ」
「はい」
「同時に攻撃を仕掛ける」
 彼はさらに言った。
「ローゲはそう出している。これに勝つことができれば」
「勝つことができれば」
「このローゲというコンピューターはまさに天才だ」
 彼は考えながら述べた。
「それを見極める為にもここはやってみる。失敗した時は私が作戦を執る」
「それでは」
「うむ、全軍行動開始」
 ローエングリンは指示を下した。
「そして最後の戦いに挑む。よいな」
「了解」
 こうして最後の攻撃が開始された。ローエングリンはローゲの策に従い軍を二手に分けた。そしてそのうえでテルラムントが率いる軍に向かって攻撃を開始した。
「敵の陣の端を狙え!」
 彼は軍を進ませながら言う。
「敵は方陣を敷いている!その角をだ!」
「了解!」
 それに従い攻撃が行われる。テルラムントの軍も攻撃に出ようとする。だが角を狙われ思うようにできない。そしてそのうえ重装備、重装甲であった為動きも鈍かった。反応が遅れてしまったのだ。
 それこそがローゲの狙いだったのだろうか。動きの鈍いテルラムントの軍勢は集中砲火を受けて撃沈されていった。それを二方向から同時に受けたのだ。これにはさしもの重装備、重装甲の艦隊も太刀打ち出来なかった。
 ローエングリンは軍を一気に叩き付ける。そして敵軍が混乱したのを見計らって次の行動に出た。
「艦載機を出せ!敵の空母は少ない!」
「はっ!」
 艦載機が繰り出される。中には接舷して斬り込む艦艇もあった。その中にはローエングリンが乗艦するケーニヒもあった。彼はテルラムントの旗艦であるオストマルクに乗り込んでいた。
「行くぞ!」
「はい!」
 彼は自ら先頭に立ちオストマルクに入っていく。そして一路艦橋を目指すのであった。






ローゲって凄いな〜。
美姫 「本当ね」
さてさて、ここまでは順当だけど。
美姫 「この後はどうなるのかしらね」
うーん、次回待ちだ〜。
美姫 「それじゃあ、また次回で」
ではでは。



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