『リング』




       ファフナーの炎   第四章


「君の名は」
「パルジファル=モンサルヴァートです」
 彼は名乗った。
「一介の闇商人です」
「闇商人か」
 ヴァルターはその言葉を信じようとはしなかった。
「では聞くが何故その一介の闇商人がそこまでの艦隊を持っているのか?」
「気が付いていれば持っていました」
 彼は答えた。
「気が付けば」
「申し訳ありませんが記憶の一部を失っていまして」
「記憶を」
「はい。従って自分が何者かもよくわかってはいないのです。ただこれだけは言えます」
 その声は男のものであった。だが何処か中性的な響きのする声であった。
「私はクリングゾル=フォン=ニーベルングと敵対する者です。そして貴方達の味方です」
「私達の」
「そうです。帝国に反旗を翻す人々の。私もまた帝国と対立している者なのです」
「それでギャールプの艦隊を滅ぼしたのか」
「はい」
 彼は答えた。
「そしてファフナーを倒す方法も持っています」
「ファフナーを」
 その時ヴァルターの脳裏にニュルンベルグのことが思い出された。そのことを思い出すと急に胸が騒ぎはじめた。
「それは本当か」
「はい」
 彼はまた答えた。
「宜しければ。お渡ししますが」
「それは一体何なのだ」
「ミョッルニルです」
 パルジファルは答えた。
「ミョッルニル」
「詳しいお話もさせて頂きますが。そちらにお伺いして宜しいでしょうか」
「ああ、是非共来てくれ」
 自分から来るということは危険はないということだった。ヴァルターはそれを確認してそれを認めた。こうしてヴァルターとパルジファルはザックスの司令室に置いて会見の場を持つことになった。
「どうも」
 シャトルで艦にやって来たパルジファルはまずはヴァルターに挨拶をした。
「貴殿は記憶をなくしているそうだが」
「それは本当のことです」
 パルジファルはそれを認めた。
「自分が何者なのか。まだ完全にはわからないのです」
「そうなのか」
「ただ。少しずつですが記憶は甦っています。ですが」
「何かあるのか」
「思い出すのは。太古からの記憶です。それこそ第一帝国よりも前の時代から」
「よくわからないな。それが本当なのかも」
「本当のことです。そして今も気が付いたら艦隊の司令官になっていました」
「あの艦隊のか」
「はい。第四帝国も崩壊して。そして闇商人でもありました」
「帝国とは何故敵対しているのか?私の様な理由からではないようだが」
「それもわかりません。気付いた時には自分の艦で戦っていました」
「つまり何もわからないというわけか」
「手許には。その艦隊と数隻のザックス級戦艦がありました」
「ザックス級が」
 ヴァルターはその言葉に反応した。
「銀河で七隻しかない戦艦を数隻もか」
「はい」
 彼は頷いた。
「そのうちの二隻は既にとある方々にお譲りしています」
「よかったら誰か教えてくれないか」
 ヴァルターは問うた。
「誰と誰なのだ」
「トリスタン=フォン=カレオールとジークフリート=ヴァンフリートです」
「トリスタン=フォン=カレオール。帝国科学技術院のか」
 第四帝国においてその名を知られた天才科学者である。その知性は帝国の歴史史上においても名が残るとさえ謡われている程である。
「はい」
「彼が何故その艦を」
「ある事情で彼も戦わなければならない状況になりまして」
 パルジファル葉答えた。
「それで。私もお譲りしたのです」
「そうか。ではヴァンフリートには何故だ。彼がニーベルングの帝国と対立しているからか」
「その通りです」
 パルジファルはそれにも答えた。
「彼もまた。ニーベルングと敵対していますから」
「それならば妙なことをしたな」
 ヴァルターはそれを聞いたうえで言った。
「タンホイザー=フォン=オフターディンゲンの事を知っているか」
「チューリンゲンの」
「そうだ。彼はそのヴァンフリートの艦隊の攻撃で妻を失ったのだ。それで何故」
「あれは誤解です」
「誤解?」
「はい。オフターディンゲン卿の細君を奪ったのはクリングゾル=フォン=ニーベルングです」
「ニーベルングが。何故」
「前世からの因縁です」
 彼は答えた。
「どういうことだ、それは」
「話せば長くなりますが。本来彼女はニーベルングの妻であったのです」
「それがどうしてオフターディンゲンに」
「彼のもとを脱走しまして。そしてオフターディンゲン卿の元に辿り着いたのです」
「そして妻となったのか」
「そういうことです」
「そして彼はその妻を追って今銀河を旅しているのか」
「それももうすぐ終わるでしょうが」
「色々と知っているようだな」
「こういった職業ですから」
 彼は述べた。
「自然と。話も聞いていきます」
「そしてそれを自分の戦いに生かしているというわけか」
「それも否定しません。それが戦いですから」
「ふむ」
「そして帝国との戦いを有利にする為にミョッルニルを貴方にお譲りするのです。如何でしょうか」
「事情はわかった」
 そこまで聞いて言った。
「ではそのミョッルニル、有り難く譲り受けよう」
「はい」
「これでファフナーを倒せるのだな。そして費用は」
「それは不要です」
「いいのか」
「はい。何時の時か帝国を倒した時に。お受けします」
「出世払いというわけだな。わかった」
 ヴァルターはそれをよしとした。
「では喜んで受け取らせてもらおう。そしてどう使えばいい」
「ザックスの主砲に装填すればよいのです」
 パルジファルはそう説明した。
「その一撃で。ファフナーは消滅します」
「一撃でか」
「はい。勿論他の艦艇への攻撃も可能です。これまでの主砲とは比較にならない程の威力です」
「ファフナーを倒せるだけはあるというのか」
「その通りです」
「ではすぐに装填にかかろう。技術者はいるか」
「勿論」
「よし。では作業開始だ」
 彼は指示を下した。
「ミョッルニルを旗艦ザックスに装填させる。すぐに協力を頼む」
「はい」
「それが終わり次第我が艦隊はグレイプ、そしてファフナーに向けて進撃をはじめる。それでいいのだな」
「貴方が思われるがままに。全ては運命が導いて下されます」
「運命」
「ええ。私の記憶によれば貴方はニーベルングと敵対する運命だったのです」
「私の意志に関わらずか」
「そうです。私も含めて」
「貴殿も含めてか。ニーベルングという男、つくづく敵の多い男のようだな」
「それもまた彼の運命です。私と貴方の他にも五人の者が彼の敵となります」
「五人の」
「そして貴方はそのうちの一人と出会うことになるでしょう」
「誰だ」
「ジークムント=フォン=ヴェルズングです」 
 彼は言った。
「ローエングリン=フォン=ブラバントの部下だった彼がか」
「はい。彼はもうすぐ自身の因果を断ち切ります。そして貴方の前に姿を現わすでしょう。その時貴方は自分が何をするべきか完全にわかります」
「ニーベルングを倒す」
「それだけではありません。貴方、いえ貴方達にはより大きな責務があるのです」
「今まで帝国で将来を嘱望されたことはあったがそれ以上のものか」
「はい。だからこそ貴方は今ここにいる」
「ここに」
「そして私と会っている。それが何よりの証拠なのです」
「そして帝国と戦う、か」
「また御会いすることになるでしょうし」
「だろうな。そんな気がする」
 それには頷けるものがあった。勘がそれを教えていた。
「では装填が終わったならば別れるが」
「暫しのお別れです」
「うん」
 こうしてミョッルニルの装填が終わるとヴァルターの艦隊とパルジファルの艦隊は別れた。彼等は互いに敬礼をし合って別れた。パルジファルと彼の艦隊はそのまま何処かへと姿を消していった。ヴァルターはそれを見送っていた。





ファフナーに対抗する兵器を手に!
美姫 「そして、予言めいた言葉」
それらが意味を成す事とは。
美姫 「一体、どうなるのかしらね」
うーん、非常に気になる。
美姫 「次回も楽しみに待っています」
待っています。
美姫 「それじゃ〜ね〜」



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